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札幌高等裁判所 昭和53年(ラ)40号 決定 1978年8月15日

抗告人(原審債権者)

加藤勝

右代理人

入江五郎

外二名

被抗告人(原審債務者)

北海道電力株式会社

右代表者

四ツ柳高茂

右代理人

田村誠一

外三名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

一抗告人は、「一 原決定を取消す。二 被抗告人は伊達発電所パイプライン埋設工事のうち、伊達市清住七六番、同町七七番一、、同町七八番の地先にパイプライン埋設工事をしてはならない。」との裁判を求め、抗告の理由として、別紙一記載のとおり述べ、被抗告人の後記二後段の主張に対し、別紙二記載のとおり反論したが、当審における抗告人審尋において、抗告人の本件仮処分申請の趣旨にいう「伊達市清住町七六番、同所七七番一、同所七八番の地先」とは、被抗告人主張の札幌地方裁判所仮処分決定主文(本決定別紙三)一項にいう別紙図面(別図一)に赤斜線で表示した区間の伊達市道西一号線の道路敷(以下、これを「本件土地」という)内をいうものであると述べた。

二被抗告人は、主文同旨の裁判を求め、次のとおり述べた。

被抗告人を債権者とし、抗告人加藤勝及び他三名を債務者とする札幌地方裁判所昭和五三年(ヨ)第四〇二号工事妨害禁止申請事件につき、同裁判所は、昭和五三年七月一三日に別紙三記載のとおりの仮処分決定(以下、これを「別件仮処分決定」という)をし、右決定はその頃抗告人及び他三名に送達された。抗告人の本件仮処分申請は、別件仮処分決定主文一項と内容において牴触する仮処分を求めるものであるから、許容できないものというべきである。

三よつて案ずるに、

<証拠>によれば、被抗告人を債権者とし、抗告人他三名を債務者とする札幌地方裁判所昭和五三年(ヨ)第四〇二号工事妨害禁止等仮処分申請事件につき、同裁判所は、昭和五三年七月一三日に別件仮処分決定、即ち別紙三記載のとおりの主文の仮処分決定をなし、右仮処分決定はその頃抗告人他三名に送達されたこと、右仮処分決定に対して抗告人他三名は札幌地方裁判所に異議を申立て、これによる同裁判所昭和五三年(モ)第一六五四号仮処分異議事件が目下同裁判所に係属中であることが認められる。

ところで一般に、債務者に対して、債権者のなす一定の行為を妨害してはならない旨を命ずる仮処分命令は、債務者に対して、債権者のなす当該一定の行為を受忍すべきことを命ずる一種の不作為給付命令であつて、これには、債務者との関係で債権者が当該一定の行為をなすことができるものと仮りに(暫定的に)定める旨の確認命令を含むものと解するのが相当である。

そうだとすると、別件仮処分決定の主文一項は、「抗告人との関係で、被抗告人が本件土地内において伊達発電所パイプライン埋設工事及びこれに付帯する一切の工事をなすことができるものと仮りに定める。」旨の仮処分命令を含むことになる。

ところで抗告人の本件仮処分申請は、「被抗告人は、伊達発電所パイプライン埋設工事のうち、伊達市清住町七六番、同所七七番一、同所七八番の地先にパイプライン埋設工事をしてはならない。」旨の仮処分を求めるものであり、右「伊達市清住町七六番、同所七七番一、同所七八番の地先」が本件土地をいうものであることは、抗告人の自認するところであるから、抗告人の本件仮処分申請は、別件仮処分決定主文一項と牴触する仮処分の発令を求めるものといわなければならない。

ところで、仮処分命令に対する現行の不服申立制度(民訴法第七五六条、第七四四条による異議、同法第七五六条、第七四六条による本案の起訴命令所定期間徒過による取消、同法第七五六条、第七四七条による事情変更による取消、同法第七五九条による特別事情による取消、同法第三六〇条による控訴等。なお、当該仮処分の執行により債務者が回復することのできない損害を被る虞れのあるような例外的な場合には、債務者は、同法第五一二条一項の準用により当該仮処分の執行停止命令を求めることもできる。)に鑑み、また、反対仮処分をもつて先行の仮処分を制することを肯認することのもたらす弊害を考慮するならば、先行の仮処分命令に牴触する仮処分の申請をすることは許容されないものと解するのが相当であり、而して、このことは、牴触する先行仮処分の存在しないことが仮処分発令の訴訟要件の一つをなすとの趣旨において理解するのが相当である。

以上のとおりとすると、別件仮処分決定が存する以上、抗告人の本件仮処分申請は、爾余の判断をなすまでもなく、不適法なものであつて、却下を免れないものである。

三以上の次第で、抗告人の本件仮処分申請を却下した原決定は結論において相当であり、本件抗告は理由がないから、民訴法第四一四条、第三八四条二項に則つてこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき同法第九五条、第八九条を適用して主文のとおり決定する。

(宮崎富哉 塩崎勤 村田達生)

別紙一、二<省略>

別紙三

主文

債務者らは、債権者が、別紙物件目録(一)記載の各土地の地先の別紙図面(別図一)に赤斜線で表示した区間の伊達市道西一号線の道路敷内において行う伊達発電所パイプライン埋設工事およびこれに付帯する一切の工事ならびに同目録(二)記載の各土地内の添付図面一に青斜線で表示した区域において行う右市道の付替道路工事およびこれに付帯する一切の工事を妨害してはならない。

債務者加藤勝は債権者に対し、別紙物件目録(二)記載の(2)、(3)の各土地のうち、別紙図面(別図二)に赤斜線で表示した範囲の土地八六八平方メートルを仮に明け渡せ。

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