札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)269号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
【判旨】
一<証拠>によると、次の事実が認められる。
1 本件土地は、国鉄釧網本線遠矢駅の北側で、釧網本線線路の西側に所在しており、釧路市と弟子屈町の間を通じている道道一六号線は遠矢駅の東側を通つて、東北方向に通じているが、本件土地及びその周辺一帯は、概ね平担な原野であるので、遠矢駅付近の道道一六号線道路上から、本件土地上を見渡すことができる。
2 控訴人は、食料品、雑貨等の卸売りを業とする会社で、会社設立の昭和三一年頃から釧路市内に釧路支店を設けていて、昭和四〇年頃から標茶町、弟子屈町、中標津町方面所在の得意先に、自動車による出張販売を行なうようになっていた。昭和四一年一一月頃、釧路支店長吉田豊次が同支店の右の出張販売業務の担当従業員秋間淳を、本件土地付近(遠矢駅の北東側で道道一六号線から分岐して、本件土地の東側に接して北方に通じている村道上)に同行して、同人に対し、本件土地のおおよその範囲を示すとともに、出張販売のために本件土地の付近を自動車で通行する際には、本件土地の状態を観察し、異常を認めたときは、釧路支店長に報告するよう指示した。秋間は右指示に従つて、出張販売のために一週間に一ないし三回位道道一六号線を自動車で往復し、本件土地付近を通過する際には、自動車上から本件土地上を見渡し、その状態を観察するようにしてきたが、昭和四八年頃に秋間が、本件土地の一部に土盛りが行なわれていると思われる状態を認めて、吉田釧路支店長に報告し、同支店長が現地へ行き調査したところ、土盛りが行なわれていたのは、本件土地の西側の隣地であることが判つたということがあつたほかには、昭和五三年に至るまで、本件土地の状態について、他人による事実上の支配の開始を窺わせる等の変化、異常が認められたことはなかつた。
3 控訴人は、昭和四一年一〇月四日頃に大永修平との間で本件土地を買受ける契約を結んだ後、本件土地上に、本件土地が控訴人の所有地であることを表示する標識もしくは本件土地の範囲を画し、他人の本件土地への出入に対し抑制的作用を及ぼすような杭、柵等を設置したことは全くない。
二右一認定のように、本件土地付近を通じている道路上を控訴人の従業員が自動車で通行する際に、車上から本件土地の状態を観察し、監視していたというのみでは、間歇的に行なわれる本件土地の状態の観察、監視の回数が相当頻繁であつたとしても、客観的に見れば、特定の者が本件土地を継続的、排他的に事実上支配していると考えられるような徴憑事実であるということができない。そして、他に、控訴人が、本件土地について継続的、排他的といえるような事実上の支配を取得したこと、すなわち本件土地について時効取得の基礎となる占有を取得したことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、控訴人が本件土地について所有の意思をもつたことについての過失の有無について判断するまでもなく、控訴人の、本件土地の所有権を時効に因つて取得したという抗弁は採用できない。
(石崎政男 寺井忠 吉本俊雄)