札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)304号 判決 1980年11月26日
控訴人 加藤直
被控訴人 国
代理人 梅津和宏 丹栄治 ほか二名
主文
本件控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人の負担とする。
事 実<省略>
理由
当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当であると判断する。その理由は、次のとおり付加、訂正するほかは、原判決の理由説示中、被控訴人に対する請求に関する部分のとおりであるから、これを引用する。
一 原判決一五枚目裏一三行目に「第二章」とあるのを、「第一章及び第二章の各第二節」と訂正する。
二 同一六枚目表一行目に「第二章」とあるのを、「第一章第二節(審査請求等の手続)」と訂正する。
三 同三行目に「審査請求人には」とあるのを、「審査請求人は」と訂正する。
四 同一六枚目裏末行の( )の次に、「、」を加える。
五 同一七枚目裏八行目に「偽造にかかる原告名義の作業日報等が存した」とあるのを、「原告(控訴人)作成の作業日報の原本ではなく、使用者作成のその写が提出されていた」と訂正する。
六 同一八枚目裏二行目に「本件本省補償課長のなした前示指示は、」とあるのを削除し、同六行目に「右指示」とあるのを「本件本省補償課長のなした前示指示」と改める。
七 控訴人の当審における主張も、採用することができない。
控訴人は、労災保険法に基づく保険給付の決定に対する審査請求手続に行審法三三条の規定が類推適用されないとする決定的理由はないと主張するので、順次検討する。
1 まず、審査官の処理件数と地方裁判所の事件数とを比較する議論は、全く性質の異なる手続における事件数を単純に比較するものであつて、論外というべきである。
2 労働基準法八六条に定める審査官に対する審査又は仲裁の申立ての対象となる同法八五条の規定による審査及び仲裁の結果は、勧告的性質のものであつて、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為ではないから、右八六条の審査官に対する審査又は仲裁の申立てについては行審法の適用はない(行審法一条二項)。
また、労審法二四条一項は、同法一三条の規定(関係者に対する通知等)は、審査官が労働基準法八六条一項の規定による審査又は仲裁の申立てを受理した場合について準用すると定め、同条二項は、前項に定めるほか、右審査及び仲裁の手続に関し必要な事項は、政令で定めると規定している。これを受けて、労審法施行令二〇条一項ないし六項は、右審査及び仲裁の手続を定めている。ところが右審査及び仲裁の手続について行審法の規定を準用する旨の規定はない。
以上のとおり、労働基準法八六条一項の規定による審査及び仲裁の手続については、行審法の適用ないし準用はないのであつて、申立人に閲覧請求権を認めた実定法上の定めはないことになる。この場合に申立人には閲覧請求権がある旨の控訴人の主張は、是認することができない。
次に船員法九六条一項の規定による行政官庁に対する審査又は事件の仲裁の申立ても、その性質は、災害補償の実施に関する船員と船舶所有者との間の紛争につき、一方当事者からの申請に基づき行政庁が裁断するものであつて、行政庁の処分を争うものではないから、行審法の適用はない(行審法一条二項)。また、右審査及び仲裁の手続については、船員法九六条二項ないし四項及び同法施行規則六七条、六八条の定めがあるだけであつて、右手続について行審法を準用する旨の規定はない。したがつて、船員法九六条一項の規定による審査及び仲裁についても、申立人に閲覧請求権を認めた実定法の規定はないことになる。この点に関する控訴人の主張も肯認することができない。
また、地方公務員災害補償法五一条四項は、同法の定める補償に関する決定に対する審査請求については行審法が適用されるものとすると規定しているから、審査請求人には行審法三三条の閲覧請求権も認められていることになる。しかし、地方公務員の災害補償制度と労働者災害補償保険の制度とは、その制度の仕組み、内容が異なるうえに、不服審査制度の仕組みも必ずしも同一ではないから、地方公務員災害補償法の定める補償に関する決定に対する審査請求人に右閲覧請求権が認められているからといつて、労災保険法に基づく保険給付の決定に対する審査請求人に同様の閲覧請求権が認められると解しなければならないものではない。
3 労災保険法の審査請求手続における審査官のように、処分庁とは別個の系統の行政機関が不服申立てに対する審査機関とされている場合には、審査機関が上級行政庁や原処分庁である場合に比較して、より審査の公正を期することができることは否定できない。
また、審査請求人に口頭で意見を述べる機会が与えられている(労審法一三条の二)ことが、審査の公正を確保するための一方策であることも明らかである。
更に、不服審査制度を一審限りのものとするよりも、労災保険法における審査官に対する審査請求及び審査会に対する再審査請求のように、二審制とする方が、一層適正手続の要請にかなうものであることはいうまでもない。
八 <証拠略>記載の見解は採用することができない。
よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であり、本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、控訴費用の負担について民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 輪湖公寛 矢崎秀一 八田秀夫)