札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)382号 判決 1982年12月23日
控訴人(原審被告)
共栄火災海上保険相互会社
右代表者
高木英行
右訴訟代理人
江本秀春
同
江口保夫
被控訴人(原審原告)
有限会社 スーパーイサワ
右代表者
岩佐弘文
右訴訟代理人
前原仁幸
髙尾幸子
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は被控訴人に対し、九五万一二五〇円及びこれに対する昭和五三年四月二八日から完済まで年五分の割合による金員を支払え。
被控訴人のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、第二審を通じこれを二分し、その一を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。
事実《省略》
理由
一請求原因2(一)の本件事故が引き起されたことは、当事者間に争いがない。
二そこで、請求原因1の控訴人と訴外松原洋(以下松原という)間の自動車保険契約(以下本件保険契約という)の締結及び本件保険契約の保険料の支払が、それぞれ本件事故前にされたか否かにつき検討するに(自動車保険契約において、いわゆる損害不填補条項の存することは当裁判所に顕著な事実である)、これについては、次の通り付加・訂正するほかは原判決五枚目表九行目から七枚目表四行目までを引用する。
1 原判決五枚目表九行目「一号証、」の次に「乙第三、第四号証、原審」を加え、「同」を「原審及び当審証人」と、一〇行目の「同」を「原審証人」と各改め、同五枚目裏一四行目の「保険料が」の次に「計算上」を加え、同六枚目表八行目の「証券に」を「証券上」と改め、一〇行目の「た。」を「たうえ、控訴人宛に右金額を銀行送金した。」と改め、同六枚目裏一行目から三行目までを削り、六行目の「成立し」の次に「、かつその保険料四万八九〇〇円が松原から被控訴人に支払われ」を、八行目の「成立し」の次に「、保険料も本件事故発生後支払われ」を各加える。
2 原判決七枚目表四行目の「である。」の次に左の判断を加える。
「また、(1) 本件保険契約の保険料領収書発行の有無及び発行日等につき、成立につき争いのない乙第一、第二号証中には松原と伊藤の言い分に食い違いがある旨の記載があり、前記証人松原洋と同伊藤紀康の各証言間に食い違いの存することが明らかであり、(2) 本件保険契約締結の際の状況につき、伊藤の妻が近くに居たか否かの点について右同号証上右両名の言い分に齟齬があるかの如き記載があり、(3) 前記証人鶴喰正三の証言中には、以前にも伊藤が保険事故発生後に契約日付を事故前に遡らせた保険契約を締結したと疑われるような行為をした旨の記述部分がある。しかし、右(1)の点の食い違いは無視することはできないけれども、決定的な事項についての食い違いとは言い難いし、(2)の点は右同号証の記載自体必らずしも明確ではなく、(3)の点については右同証人の供述から直ちに伊藤が本件事故発生後に契約日付を事故前に遡らせて保険契約を締結し又は保険金を事故前に領収したように仮装したものとは認めることはできない(むしろ、そのような疑いのある保険契約を締結したという保険代理店に対し控訴人が格別に対応した措置を講じた形跡のないことこそ問題であろう)。のみならず、右乙第一号証、右証人松原洋の証言及び当審における被控訴人代表者尋問の結果によれば、本件事故を起した直後に事故現場で、松原が被控訴人代表者に対し、保険金額についてはやゝ明確ではないけれども、物損事故保険に加入している旨を答えている事実が認められるのであつて、この事実に照らすと、前記(1)ないし(3)の事実も、前説示の松原と控訴人間に昭和五二年一〇月二一日本件保険契約が成立し、同日その保険料全額が支払われたとの認定を左右するに足りないというべきである。」<以下、省略>
(奈良次郎 澁川滿 喜如嘉貢)
《参考・一審判決理由抄》
<証拠>によると、次の事実を認めることができる。
松原は所有車両を買替えたことから本件加害車に関し自動車保険に加入すべく昭和五二年一〇月二一日午後五時三〇分ころかねてから勧誘を受けていた被告会社の損害保険代理店伊藤紀康(以下伊藤という)を訪れた。松原は伊藤から保険の内容等の説明を受けたのち対人賠償保険金額三〇〇〇万円、対物賠償保険金額二〇〇万円等請求原因1項記載のとおりの自家用自動車保険(以下本件保険という)に入ることを決め、被告所定の申込用紙に押印する等して右契約の申込をなし、保険料として金五万円を伊藤に交付した。伊藤は右申込を受け被告所定の保険証券に必要事項を記載した。
ところで伊藤は右契約が松原が既に締結していた買換前の車両にかかる自動車保険(以下旧保険という)の継続として処理できれば保険料がより低額になると考えたが、右のごとき処理が可能であるか否かにつき判断し兼ねたため、右の処理ができればそのように処理する旨松原に述べたうえで前記のとおり新規<編注・本件>契約の申込を受けた。
しかして伊藤は新規契約の場合の保険料が四万八九〇〇円であつたことから前記のとおり松原から五万円(一万円札五枚)を受領したが、旧保険の継続となれば保険料が変動すると予想されたことから、松原にはつり銭を交付せず、また前記保険証券の記載事項のうち保険料欄は空白にしておいた。
その後伊藤は同月二四日(月曜日)早朝に至りようやく被告会社の担当員に連絡をとり手続を聞いたが継続として処理できないことが判つたので、本件契約はそのまま新規契約として事務処理を進め、保険証券に未記載にしておいた保険料欄に四万八九〇〇円を記入し、被告会社に必要書類を送付した。これを受けた被告は所定の社内処理を経たうえ同月二七日契約締結年月日昭和五二年一〇月二一日、保険料四万八九〇〇円、対物賠償保険額二〇〇万円等を内容とする自動車保険証券(番号五七二―二〇二―二四〇―四三)を作成し、松原に交付した。
以上の事実を認めることができ<る。>
右によると松原と被告との間では昭和五二年一〇月二一日対物賠償保険金額二〇〇万円その他を内容とする本件保険契約が成立したものと認めることができる。なお、被告は本件保険契約は本件事故発生(昭和五二年一〇月二三日)以降に成立したものであると主張するので付言するに、前記認定事実によれば、松原洋は昭和五二年一〇月一二日被告に対し、本件保険契約の申込をなし、同日被告の損害保険代理店伊藤において承認をなし、保険料を収受したものであり(領収証が具体的に何時発行されたかは契約の成否、保険料の授受とは直接関係はない)、ただ同一内容の保険が旧契約の継続という方法でより低額の保険料で成立する場合は松原に有利な右方法による申込があつたものとして処理するとの合意がされていたにすぎないと認められるところ、右の継続処理は不能と判明したのであるから結局昭和五二年一〇月二一日に本件保険契約が成立したものというべきである。