大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和54年(ネ)418号 判決 1980年9月29日

昭和五四年(ネ)第四一八号事件控訴人、同年(ホ)第四二七号事件被控訴人(原審被告) 張英基

右訴訟代理人弁護士 平田政蔵

昭和五四年(ネ)第四一八号事件被控訴人、同年(ホ)第四二七号事件控訴人(原審原告) 久木田和子

右訴訟代理人弁護士 山根喬

同 太田三夫

同 冨田茂博

主文

原審被告の控訴により、原判決主文第一項中、原審被告に原審原告に対する金一八三万五〇〇〇円及びこの内金一六六万五〇〇〇円に対する昭和五三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を命ずる限度を超える部分を取消す。

右の取消した部分の原審原告の請求を棄却する。

原審被告のその余の控訴及び原審原告の控訴をいずれも棄却する。

訴訟費用は、第一、二審を通じてこれを四分し、その三を原審原告の、その余を原審被告の、各負担とする。

事実

第一当事者が求める裁判

一  原審被告

「原判決中、原審被告敗訴部分を取消す。右取消した部分の原審原告の請求を棄却する。原審原告の控訴を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも原審原告の負担とする。」との判決。

二  原審原告

「原審被告の控訴を棄却する。原判決を次のとおり変更する。原審被告は原審原告に対して金七五一万七九八四円及びこの内金七二一万七九八四円に対する昭和五三年八月二七日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は第一、二審とも原審被告の負担とする。」との判決及び仮執行の宣言。

第二当事者の主張及び証拠関係《省略》

理由

一  昭和五三年八月二七日、札幌市白石区菊水二条二丁目三番一二号先路上において、原審被告運転の普通乗用自動車(被告車両)が、停車中の久木田俊輔運転の普通乗用自働車(久木田車両)に追突したこと(以下「本件事故」という。)、本件事故に因り、久木田車両に同乗していた原審原告が頸部捻挫、顔面挫創の傷害を受けたこと、本件事故当時、被告車両は、原審被告が保有して、運行の用に供していたものであることは、いずれも当事者間に争いがない。

右の当事者間に争いのない事実によると、原審被告は、被告車両の運行供用者として、原審原告が本件事故による受傷によって被った損害を、賠償すべき義務を負ったということができる。

二1(一) 原審原告が、本件事故によって受けた前記傷害の治療のために、昭和五三年八月二七日から同年一〇月四日まで通院したこと、(二) 右の治療のために治療費八万六九二〇円を要したこと、(三) 原審原告の額及び左眼下部に、それぞれ自動車損害賠償保障法施行令の別表の後遺障害等級第一二級一四号に該当する醜状痕が残ったこと、(四) 原審原告が大学卒業の女子で、家庭の主婦であり、本件事故当時満二九歳であったことは、いずれも当事者間に争いがない。

2(一) 《証拠省略》によると、原審原告の額及び左眼下部に残った醜状痕(以下一括して「本件醜状痕」という。)は、いずれも長さが約三ないし四センチメートル位、幅が約五ミリメートル位で、僅かに盛上っているものであることが認められ、右認定を妨げる証拠はない。

(二) 右のとおりの部位、程度の醜状痕が残っていることが、人の精神的、肉体的活動機能を客観的に阻害し、低下させるものとは考え難いから、本件醜状痕が残ったことに因って、原審原告がその労働能力の一部を喪失したとは認められない。したがって、後遺障害による労働能力の喪失自体を損害と考え、これを金銭的に評価した額が後遺障害による逸失利益額である、という見地に立っても、本件醜状痕が残ったことに因って原審原告に逸失利益が生じたということができない。当審における証人久木田俊輔の証言のうちには、本件醜状痕が残るようになってから、原審原告は人目に触れることを嫌い、外出することが極端に少くなり、そのために、日常生活に必要な物品の購入も円滑に行われなくなり、夫である久木田俊輔の職務上の交際にも支障を生ずるようになった旨の証言があるが、右の事実は、原審原告の労働能力の低下(一部の喪失)に因るものではなく、本件醜状痕が残ったことによって原審原告が受けている心理的、主観的影響に因るものと認めるのが相当であるから、前記の判断を動かすに足りない。また、自動車損害賠償保障法施行令の別表(後遺障害等級表)上、本件醜状痕が該当する「女子の外貌に醜状を残すもの」が第一二級とされているということも、右の等級付けは、主として、「女子の外貌に醜状を残す」後遺障害についての慰藉料は、第一二級とされている他の後遺障害についての慰藉料と同等とするのが妥当であるということに基づくものであって、「女子の外貌に醜状を残す」後遺障害が、第一二級とされている他の後遺障害(但し、「男子の外貌に著しい醜状を残すもの」を除く。)と同等の労働能力の喪失を生ずるのを通常とすると認めるのが妥当であるということに基づくものではないと解されるから、前記の判断を動かすに足りない。

3 前記のとおりの、本件事故によって原審原告が受けた傷害の部位、種類、その治療に要した期間、後遺障害の程度及び原審原告が家庭の主婦で本件事故当時満二九歳であったこと、その他本件弁論に顕われた諸般の事情を総合して考えると、本件事故によって原審原告が傷害を受けたことに対する慰藉料としては、一八〇万円をもって相当と認める。

4 してみると、原審被告は原審原告に対して、前記の治療費八万六九二〇円と慰藉料一八〇万円との合計一八八万六九二〇円の損害賠償債務を負ったことになるが、原審原告が原審被告から損害賠償として二二万一九二〇円の支払を受けたことは、当事者間に争いがないから、原審被告の損害賠償債務の残額は一六六万五〇〇〇円であることになる。

三  右の原審被告の損害賠償債務の残額と本件訴訟の内容、経過等からすると、原審原告の本件訴訟の委任に因る弁護士費用は、一七万円の限度で原審被告に負担させるのが相当である。

四  結論

以上のとおりであるから、原審被告は原審原告に対して、本件事故による損害賠償として一八三万五〇〇〇円及びこの内弁護士費用負担分を除いた一六六万五〇〇〇円に対する昭和五三年八月二七日から完済に至るまでの、民事法定利率である年五分の割合による遅延損害金を支払う義務があり、原審原告の本件請求は、右の支払を求める限度においては理由があるが、右の限度を超える部分は理由がないものといわなければならない。

よって、原判決のうち原審原告の請求を認容した部分は、原審原告の請求のうちの右の理由のある部分を認容した限度においては相当であるが、右の限度を超える部分は失当であるから、原審被告の控訴に基づいて、民事訴訟法第三八六条により右の失当な部分を取消し、取消した部分の原審原告の請求を棄却し、同法第三八四条により原審被告のその余の控訴を棄却し、原判決のうち原審原告の請求を棄却した部分は相当であるから、同法第三八四条により原審原告の控訴を棄却することとし、訴訟費用の負担について同法第九六条、第九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 輪湖公寛 裁判官 寺井忠 矢崎秀一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例