札幌高等裁判所 昭和56年(ネ)280号 判決
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【判旨】
「2 右1の争いのない事実及び<証拠>を総合すると、以下の事実が認められる。証人大塚重親の証言中には右認定に反するかのような部分の供述があるところ、同証人の証言について慎重に検討しても十分的確なものとは認めがたく、そのまま信用しがたく、また、右認定に反する<証拠>の各一部は、前掲各証拠に照らし採用することができない。
(一) 昭和五〇年七月八日本件火災の発生の知らせを受けた東京海上札幌支店の損害課課長代理石原敏雄は損害査定を専門とする日本損害保険協会の鑑定人坂本昭を同道し、本件火災現場において予備調査を、翌七月九日、本件建物の所有者である控訴人、その賃借人である被控訴会社の代表者(当時)野越實ら関係者立会のもとに本調査を行つたが、その際、右野越實から交付された本件建物の平面図に基づき図面取りをし、本件建物の坪数、構造、使用材料等の調査を実施するほか、右野越實らから、本件建物の建築後の年数、建築後の変遷、使用状況等についても事情聴取を行つた。以上の調査の結果、本件建物は建築後一五年であること、当初本件建物は映画館として使用されていたが、昭和四〇年に控訴人が一階をスーパーマーケットに、また、二階を事務所兼倉庫にしたこと、その後被控訴会社が控訴人から昭和四七、八年に本件建物の一階部分を賃借して家族風呂に、また、その翌年には二階部分を賃借して宴会場にそれぞれ改造し、その際別棟においてサウナ風呂の営業も始めたこと、被控訴会社は本件建物をがらんどうの状態で賃借し、自社の費用で右の営業に必要な造作、諸設備を設置したことなどの事実が判明した。
(二) ところで、本件建物には東京海上と興亜火災の二社の火災保険契約(なお、米倉呉服店が東京海上との間に締結した保険契約は、控訴人が右米倉呉服店から金員の借入をしていたため、これを担保する目的で控訴人の負担のもとに締結したものである。)が有効に存続していたので、東京海上は同年七月一一日ころ興亜火災との間で、東京海上が本件火災の状況を調査し、かつ損害額の査定をして、保険契約者及び被保険者と協定をすることに合意し、坂本鑑定人をして前記現地調査等の実施結果に基づき、本件建物の再調達価額を各工事費毎に積算して金三七一一万四二四二円と算定し、本件建物の火災時の償却率を三〇パーセントと評価して、全損認定のもとに、本件建物の保険価額及び時価損害額を金二五九八万円と評価算定した。
(三) そこで、石原課長代理は右の評価、損害査定に基づき、同年七月一八日、坂本鑑定人、東京海上の石井旭川支社長らを同行し被控訴会社を訪れ、本件建物の保険価額(時価損害額)が金二五九八万円であることについて代表者(当時)の野越實から了解を得、引き続き同日、保険契約者である米倉呉服店宅で、その代表者である米倉由松及び控訴人と面談し、右両名に対し、資料によつて具体的な数字をあげながら、本件建物には合計金六五〇〇万円の火災保険がつけられていること、賃借人である被控訴会社が本件建物に設置した造作、諸設備等は本件建物から除かれること、本件建物の再調達価格は金三七一一万四二四二円で、償却率が三〇パーセントであるから、本件建物の火災時の時価は金二五九八万円であること、従つて、支払保険金の総額も同額であり、控訴人と米倉呉服店がそれぞれ締結している火災保険(各金五〇〇万円)に按分される保険金はそれぞれ金二〇〇万円弱になること、被控訴会社が保険契約者である火災保険(金五〇〇〇万円)には控訴人を質権設定者、被控訴会社を質権者とする質権が設定されていること等を説明し、控訴人らの了解を求めた。これに対し、米倉由松は特に異論を差しはさまず、また、控訴人も本件建物には被控訴会社が設置した造作、諸設備等を含まないこと、本件建物の時価及び支払われる保険金の総額が金二五九八万円であることの説明については異論を差しはさまなかつたものの、保険金の按分額の点について、控訴人及び米倉呉服店は、本件では全焼だから控訴人らが契約していた各金五〇〇万円の保険金を全額支払うべきであるので納得できない旨主張し、さらに、控訴人は被控訴会社との質権設定の点についても控訴人が知らないことであり、質権設定承認請求書に押印したこともない旨主張し、その場で控訴人が激昂、憤慨したので、それ以上話合う雰囲気でなくなつた。
そのため、石原課長代理らは控訴人との話合の継続を断念し、控訴人に対し、質権設定の問題は控訴人と被控訴会社の問題なので、被控訴会社と話合つて解決してくれるよう要請し、そのあしで、再び被控訴会社の事務所に赴き、野越實に対し、控訴人と質権設定の件について話合つて解決されたい旨申し入れ、この問題が解決するまで保険金の支払を保留することにした。
(四) そこで、控訴人は被控訴会社と交渉すべく本件建物の保険金の配分に関し弁護士大塚重親に委任した。同年八月一日、同弁護士、控訴人、野越實、米倉由松らが一堂に会して話合つたが、その際、控訴人は自己が米倉呉服店の名において契約した分を含めて金一〇〇〇万円の保険金をかけているとして被控訴会社に対し、本件建物の火災による損害賠償金として、これに見合う金一〇〇〇万円のほか、さらに、金五〇〇万円の支払を強く求めたので、被控訴会社は控訴人との間の紛争を一切解決する意図の下に止むなくこれを承諾した。その結果、同日右当事者間において、保険会社が支払うといつている本件建物の火災保険金二五九八万円のうち金一五〇〇万円を被控訴会社の控訴人に対する損害賠償金として控訴人が取得することとし、仮に保険金が金二五九八万円をこえて支払われた場合には、その超過分について控訴人がその四割に相当する部分を取得して、これを控訴人の損害の補填に当てる旨の合意が成立した。その際、被控訴会社が本件建物に設置した造作、諸設備等に付けられた保険金については右合意の対象とされなかつた。
(五) 同年八月二九日石原課長代理は、東京海上旭川支社において控訴人、野越實、米倉由松らに対し、本件建物の時価が金二五九八万円になることを説明し、本件建物の支払保険金の総額も右と同額であること、被控訴会社が本件建物に設置した造作、諸設備等は本件建物に含まれないことなど前記の七月一八日の話合の際の説明を重ねて繰り返したところ、控訴人や米倉由松らがこれに異議なく承諾したので、続いて右保険金の配分について、控訴人が金一五〇〇万円を、被控訴会社が金一〇九八万円をそれぞれ取得することで合意していることの確認を求めたところ、控訴人らからその確認をえたので、石原課長代理は同日、小切手により金一五〇〇万円を控訴人に、残金一〇九八万円を被控訴会社に支払つた(なお、その後、右小切手はいずれも決済された。)。
(六) その後、本件建物(ただし、本件建物に設置された造作、諸設備を除く。)につき保険金の増加支払はなかつた。
(七) 控訴人は、前記合意成立後、本件訴の提起に至るまでの間、被控訴会社に対し保険会社からの保険金の増加支払を求めるよう申し入れをしたことはあつたが、被控訴会社に対して損害賠償を請求したことはなかつた。
(八) なお、本件火災発生前、控訴人と被控訴会社との間において、本件建物を金一二〇〇万円位で売買する話が持ち上がつていたことがあつた。
以上認定の事実を総合すると、控訴人は被控訴会社との右合意により本件建物(ただし、前記のとおり本件建物に設置された造作、諸設備等を除く。)につき支払われる予定の保険金二五九八万円のうち金一五〇〇万円を控訴人が受領し、さらに、保険会社との接マ渉マにより、本件建物につき保険金が金二五九八万円をこえて支払われたときは、その超過分の四割に相当する部分を控訴人が取得することにより控訴人の損害を補填することとして、専ら保険金の配分により控訴人と被控訴会社との間の本件火災に伴う損害賠償をめぐる紛争を解決することとしたものと認めることができる。従つて、控訴人は既に受領済みの金一五〇〇万円のほかにさらに、損害があるとして、被控訴会社に対し損害賠償の請求をすることはできないというべきである。
3 以上の結果、被控訴会社の抗弁事実を認めることができ、従つて、控訴人の被控訴会社に対する請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。」
(奈良次郎 松原直幹 中路義彦)