札幌高等裁判所 昭和60年(う)14号 判決
所論は,要するに,原判決が認定した被告人の覚せい剤自己使用の事実は,その日時の特定の点からすると,起訴状記載の覚せい剤自己使用の事実と異なるものであって両者の間に公訴事実の同一性はないから,原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法がある,というのである。
そこで,記録を調査して検討すると,本件起訴状には公訴事実として,「被告人は,法定の除外事由がないのに,昭和59年6月中旬ころ,北海道内において,覚せい剤であるフエニルメチルアミノプロパンを含有する水溶液若干量を自己の腕部に注射し,もって覚せい剤を使用したものである。」との記載がなされていたところ,原判決は罪となるべき事実において,日時の点を「昭和59年6月上旬ころから同月14日までの間」とし,そのほかは公訴事実と同様の覚せい剤使用の事実を認定摘示していることが明らかである。
しかしながら,本件起訴状記載の公訴事実は,原審における検察官の訴訟活動をも考慮すると,被告人が自己の尿を任意提出した昭和59年6月14日に最も近接した,同月中旬ころの北海道内における注射の方法による1回の覚せい剤使用の事実を指すものと解され,原判決の罪となるべき事実も,上記と同一の覚せい剤使用の事実を日時の点において若干の余裕をもたせて認定したにすぎないとみられるから,両者は基本的事実関係を同じくし,公訴事実の同一性に欠けるところはないというべきである。
したがって,原判決には審判の請求を受けない事件について判決をした違法はない。
判示事項2
所論は,要するに,原判決は証拠説明中で,「尿中から覚せい剤が検出された場合,その使用日時は排尿時から概ね2週間程度以内であることが当裁判所において顕著な事実である」としているが,大部分の覚せい剤は48時間以内に体外に排せつされ,遅いものでも最大限10日間位のうちに排せつされるというのが常識であり,同判示は客観的事実に反する何ら証拠に基づかない判断であるから,この判断を罪となるべき事実認定の有力な証拠としている原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな訴訟手続の法令違反がある,というのである。
そこで,記録を精査して検討すると,原判決が所論指摘のような説示をしていることは明らかであるところ,覚せい剤常用者の場合を除き,覚せい剤が人体に摂取されると,その大部分は使用後48時間以内に尿中に排せつされるが,1週間ないし10日間程度まで尿中から覚せい剤が検出されることがあり,更に稀には2週間程度まで同様検出されることがあり得ないではないと広くいわれているので(宮野豊,安藤皓章「尿に含まれる覚せい剤の鑑定について」法律のひろば33巻5号20頁,東京高等裁判所昭和58年7月25日判決,判例時報1095号158頁参照),原判決は,正確な事実認定を指向し,確実さを追求した結果,使用の日時を具体的に特定できない(本件の)証拠関係を前提として,例外的な場合のあることを最大限考慮したうえで判示のような経験法則を採用したものと解され,もとよりこれに違法と目すべきところはない。
したがって,所論は前提を欠くというほかはない。