大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

札幌高等裁判所 昭和61年(ラ)12号 決定 1986年5月27日

抗告人

佐々木チヨ

主文

本件執行抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする

理由

一本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。

二ところで、本件記録によれば、抗告人は、札幌地方裁判所昭和五七年(ケ)第一四一号不動産競売事件について、昭和六一年四月二一日執行裁判所に対し、同裁判所が同年四月一五日にした不動産売却許可決定の取消しとその売却不許を求めた執行抗告状を提出したが、これには執行抗告の理由を記載せず、その後一週間以内に執行抗告の理由書を提出しなかつたこと、このため執行裁判所は、同年四月三〇日、民事執行法一〇条五項に基づき上記執行抗告を却下する旨の決定をし、この決定は同年五月一日に抗告人に告知されたこと、本件執行抗告は、この執行抗告却下決定に対する同法一〇条八項に基づいてなされた再度の執行抗告であること、以上の事実を認めることができる。

三そこで、判断するに、上記認定のような経緯のもとになされた本件執行抗告において、その執行抗告の理由とすることのできる事由は、前記執行抗告却下決定の取消しを求め得る事由、すなわち執行裁判所が同法一〇条五項を適用する前提事実の認定を誤り、同条項を適用すべきでないのにこれを適用したということに限定されるものであつて、それ以外の当初の執行抗告において主張すべき事由を本件執行抗告の理由として主張することはできないものと解すべきである。

そうすると、抗告人が主張する本件執行抗告の理由は、その主張自体に照らして、当初の執行抗告において主張すべき事由であつて、執行裁判所が同法一〇条五項の適用を誤つたことを理由とするものではないことが明らかであるから、その主張事実の存否いかんにかかわらずそれ自体失当であつて、本件記録上他に原決定を取り消すべき事由は見当たらない。

四よつて、本件執行抗告は理由がないからこれを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事執行法二〇条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官舟本信光 裁判官安達 敬 裁判官長濱忠次)

別 紙

抗告の趣旨

原決定を取消す。

札幌地方裁判所昭和五七年(ケ)第一四一号事件の不動産売却を不許可とする。

との裁判を求める。

抗告の理由

一 債権者小樽信用金庫と債務者(抗告人)は、本件被担保債権の弁済につき、昭和五四年八月はじめ頃従前の分割弁済条件(元金二五万円と経過利息)を変更して、九月以降元利金を含めて抗告人が毎月金一五万円ずつ弁済することに改める合意をした。

抗告人は上記合意に従つて以降毎月金一五万円ずつ債権者に支払をしてきた。

よつて、本件競売は許されない。

二 また、抗告人は上記のとおり債務の弁済を継続した結果現在の債務額は金五二〇万円余であり、これは当初の元本額の四分の一足らずであつて、この債権額をもつて本件のごとき価値ある物件を競売することは許されない。

三 さらに、債権者の従業員(美園支店長中谷弘司)は、昭和五四年末頃から抗告人が継続して弁済していた弁済金を勝手に別段預金にしたり、または着服してこれらの金を債務弁済金に充てなかつた。このため債権者の貸付台帳上は抗告人が長期の延滞をしているかのごとき記載となり、本件競売を申立る結果となつたのである。

従つて、本件競売開始決定は、権利のらんよう、または信義則上からも許されない。

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例