札幌高等裁判所 昭和61年(ラ)27号 決定 1986年10月06日
抗告人
豊浦志郎
主文
本件執行抗告を棄却する。
抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一本件執行抗告の趣旨及び理由は、別紙記載のとおりである。
二よつて、審按するに、一件記録によれば、別紙物件目録記載の不動産(以下「本件不動産」という。)について、最低売却価額が定められ、これが三度にわたり低減された経過及びその理由は、以下のとおりであると認められる。
(一) 執行裁判所は、評価人である不動産鑑定士長瀬公昭の昭和五七年七月二〇日付け評価書に基づき、本件不動産の一括最低売却価額を金六、二三二、〇〇〇円と定め、同年一〇月二〇日、入札期日を同年一一月一二日午前一〇時とする期日入札の公告をしたが、右入札期日に適法な入札がなかつた。次に、同裁判所は、昭和五八年二月一五日、入札期日を同年三月一一日午前一〇時とする期日入札の公告をしたが、右入札期日に適法な入札がなかつた。そこで、同裁判所は、北海道新聞紙上にも公告して、入札期間を同年五月二七日から同年六月三日までとする期間入札を実施したが、適法な入札がなかつた。また、同裁判所は、同年七月一四日、売却期限を同年一〇月三一日と定め、特別売却実施命令を発し、住宅情報誌上にも掲載して、特別売却を実施したが、買受けの申出がなかつた。
(二) そこで、執行裁判所は、昭和五八年一二月二一日上記評価人に対し、本件不動産の再評価を命じ、同評価人は、同月二六日、最近の不動産市場を取り巻く状況は厳しく、特に本件不動産のようにマンション内の一戸の場合の市場性は、相当の減価を要する状況にあるところから、市場性減価として二五%を低減し、本件不動産の再評価額を合計金四、六七四、〇〇〇円とする再評価書を提出したので、同裁判所は、これに基づき、昭和五九年一月二七日本件不動産の一括最低売却価額を金四、六七四、〇〇〇円と定め、入札期間を同年三月二日から同月九日までとする期間入札を実施したが、適法な入札がなかつた。次いで、同裁判所は、入札期間を昭和六〇年三月二九日から同年四月五日まで及び同年五月三一日から同年六月七日までとする期間入札を実施したが、いずれも適法な入札がなかつた。これらの期間入札の実施にあたつては北海道新聞紙上にも公告している。
(三) この間、執行裁判所は、昭和六〇年一月二四日上記評価人に対し、建物の区分所有等に関する法律七条所定の滞納債務を考慮した再評価を命じ、同評価人から同年二月二一日付けで、上記滞納債務を考慮した評価額としては変更はないが、先の評価時点以降、札幌市内の中古マンションの売買状況等市場性や本件不動産のその後の使用状況等を考慮して検討した結果、先に提出した評価額から二〇%程度の減価を適当と判断し、本件不動産の評価額を合計金三、七三九、二〇〇円とする再評価書が提出されたので、同裁判所は、一括最低売却価額を金三、七三九、二〇〇円に低減し、入札期間を同年九月二七日から同年一〇月四日までとする期間入札を実施したが、適法な入札がなかつた。同裁判所は、その後、入札期間を同年一二月一三日から同月二〇日まで及び昭和六一年三月一四日から同月二〇日までとする期間入札を実施したが、いずれも適法な入札がなかつた。以上の期間入札の実施にあたつては、前同様、北海道新聞紙上にも公告している。
(四) そこで、執行裁判所は、昭和六一年五月二〇日、上記評価人に対し、本件不動産の再評価を命じ、同評価人は、同年五月二九日付けで、最近の不動産市場を取り巻く状況から、特に本件不動産のような中古マンションの市場性は極めて厳しく、相当の減価を要する状況であり、本件不動産の売却実施経過を考慮して検討した結果、先の再評価書の金額から更に市場性を考慮して三〇%を減価し、再評価額を合計金二、六一七、〇〇〇円とする再評価書を提出したので、同裁判所は、これに基づき、一括最低売却価額を金二、六一七、〇〇〇円と定め、入札期間を同年七月一八日から同月二五日までとする期間入札を実施し、有限会社マル大大蔵物産が入札価額を金二、八五六、一〇〇円とする買受けの申出をし、同年八月五日売却許可決定がされた。
三以上の事実によれば、執行裁判所は、不動産市場の状況が変化し、特に本件不動産のような中古のマンションの市場性が極めて厳しくなり、相当の減価を要する状況に至つたとして、評価人に本件不動産の再評価を命じた上、最低売却価額をそれぞれ低減したものであるから、執行裁判所が、必要があると認めて、三回にわたり最低売却価額を変更した(民事執行法六〇条二項)ことに誤りはないというべきである。
四よつて、本件執行抗告は理由がないから、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事執行法二〇条、民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官丹野益男 裁判官松原直幹 裁判官岩井 俊)
別紙 抗告の趣旨
原決定を取り消し、有限会社マル大大蔵物産に対する売却を不許可とする裁判を求める。
抗告の理由
一 抗告人は、不件不動産を、昭和四八年一〇月一〇日代金六三〇万円で買い受けたものであるところ、本件競売事件につき、昭和五七年七月二〇日評価人長瀬公昭は次のとおり評価した。
土地を 金1,827.000円
建物を 金4,405.000円
合 計 金6,232.000円
これは、評価額決定の理由第八項評価の過程に示されたとおりで、適正になされたものである。
二 しかるところ、買受けの申出がないことを理由に、原審は、昭和五八年七月一四日特別売却決定をし、再評価の命を受けた上記評価人は、不動産を取り巻く状況から、市内中古マンションの市場性は極めて厳しく、よつて相当程度の減価が適当と判断し、以下のとおり再評価をした。
(1) 昭和五八年一二月二六日 減価二五%
土地 1,827,000円×(1−0.25)=1,370,000円
建物 4,405,000円×(1−0.25)=3,304,000円
合計 金4,674,000円
(2) 昭和六〇年二月二一日 減価二〇%
土地 1,370,000円×(1−0.20)=1,096,000円
建物 3,304,000円×(1−0.20)=2,643,200円
合計 金3,739,200円
(3) 昭和六一年五月二九日 減価三〇%
土地 1,096,000円×(1−0.30)=767,000円
建物 2,643,200円×(1−0.30)=1,850,000円
合計 金2,617,000円
三 上記の経過をまとめてみると、当初の評価額に対する減価を三度にわたり七五%としたのであつて、本件不動産の実質的な経済価値を二五%どまりの金二、六一七、〇〇〇円と再評価したことになる。
四 本件不動産の昭和六一年度の札幌市中央区決定の価格は、次のとおりとされている。
土地は 金773,923円
建物は 金2,905,700円
合 計 金3,679,623円
上記価格は、少なくとも時価を下廻ることは絶対にないと信ずるものである。
五 本件不動産には、競売開始決定の前後を通じ、買受申出人を害するなにものも存在しないし、特別売却の方法によるとしても、底なしに価格を再評価することは不適法である。
そうすると、原審は、本件不動産の実質的経済価格を無視してなした評価額を採用し、金二、六一七、〇〇〇円を最低売却価額に変更したことは、抗告人の利益を著しく害したといわなければならないから、違法である。
よつて、昭和六一年八月五日にされた買受申出人有限会社マル大大蔵物産に対する売却許可決定は、不許を免れない。
物件目録
(1) 所 在 札幌市中央区南一三条西八丁目
地 番 五五八番六
地 目 宅地
地 積 四二一・四八m2(持分一〇、〇〇〇分の二九一)
(2) 一棟の建物の表示
所 在 札幌市中央区南一三条西八丁目五五八番地六
構 造 鉄骨造陸屋根地下一階付六階建
床面積 一階 三四六・六七m2
二階 三五二・六五m2
三階 三四二・九七m2
四階 三四二・九七m2
五階 三四二・九七m2
六階 三三七・七三m2
地下一階 五八・三九m2
専有部分の建物の表示
家屋番号 南一三条西八丁目五五八番六の二四
種 類 居宅
構 造 鉄骨造一階建
床面積 四階部分 四八・九二m2
現況 床面積 四階部分 約五三・〇七m2