札幌高等裁判所 昭和61年(ラ)7号 決定 1986年5月07日
抗告人
平安商事株式会社
右代表者代表取締役
菱沼政雄
主文
一 本件抗告を棄却する。
二 抗告費用は抗告人の負担とする。
理由
一抗告人の即時抗告の趣旨及び理由は別紙のとおりである。
二よつて、審按するに、一件記録によれば、次の事実を認めることができる。
抗告人は、別紙不動産目録記載の土地、建物(以下「本件土地、建物」という。)の根抵当権者であつたところ、昭和五五年一月三〇日札幌地方裁判所岩内支部に対し任意競売の申立てをし(同支部昭和五五年(ケ)第四号、以下「本件競売事件」という。)同年二月五日競売開始決定がされ、同年七月二五日鑑定人松倉金作によつて、本件土地は八五万円、本件建物は一九六〇万円がそれぞれ相当であるとの評価がされた。右評価額算定の理由は、本件土地及び同地上の本件建物は、当時国道二二九号線に面しており、本件建物は、昭和五四年五月に新築されたもので、望海荘の名称で民宿兼食堂として利用されていたためであつた。
同支部は、昭和五五年八月一五日本件土地、建物を一括競売に付し、最低競売価額を二〇四五万円と決定して、競売及び競落期日の公告(第一回)をした。ところが、沢田多作(以下「沢田」という。)は、同年九月六日札幌地方裁判所小樽支部から本件建物の競売手続停止の仮処分決定を得て競売手続の停止を求めたため、同月八日前記競売及び競落期日は取り消された。
沢田は昭和五八年八月一八日右仮処分事件の申請を取り下げた。本件競売事件は、予約金の不足を生じたため手続が進行しなかつたが、昭和五九年一〇月一日競売申立人である抗告人において不足予納金を納付したので、岩内支部は、同年一二月一九日前記鑑定人松倉に本件土地、建物の再評価を命じ、昭和六〇年七月一二日本件土地は七三万円、本件建物は九九〇万円がそれぞれ相当であるとの評価がされた。右評価額算定の理由は、前回の評価の後、本件土地、建物の東方約六〇〇メートルの地点で泊村市街地方面に通ずる隧道が完成し、そちらが幹線道路となり、本件建物の使用状況も民宿兼食堂から一般住宅へと変更されたためであつた。
そこで、同支部は、同年八月九日本件土地、建物の最低競売価額を一〇六三万円(一括競売であることは従前どおり)と決定して入札及び競落期日の公告(第二回)をしたが、入札の申し出をするものがなく、同年一〇月二一日最低競売価額を九五六万円に低減して新競売期日の公告(第三回)をしたが、前回同様の結果となり、昭和六一年二月一七日最低競売価額を八六〇万円に低減して新競売期日の公告(第四回)をしたところ、同年三月一四日の入札期日において山村忠の右金額による入札があり、同年一九日の競落期日に競落許可決定がされたものである。
三以上の事実によれば、本件土地、建物につき最低競売価額が決定されて第一回競売期日の公告がされた後、競売手続停止の仮処分決定により競売手続が停止され、右仮処分事件の申請が取り下げられた後、再び競売手続が進行を開始するまでに約四年が経過し、その間に新道の完成により本件土地、建物は幹線道路から外れ、本件建物の使用状況も民宿兼食堂から一般住宅へと変更されたのであり、このように、最低競売価額が決定された後、長期間にわたつて競売手続が停止され、その間に、評価の基礎とされた重要な事実関係が変更し、不動産の価格に変動を生じた場合には、再評価を命じた上、最低競売価額を変更する必要があるというべきであるから、原裁判所が、本件土地、建物につき、鑑定人に再評価をさせた上最低競売価額を変更し、競売期日の公告(第二回)をしたことは正当である。また、第二、三回の各競売期日に買受申出をする者がなかつたので、原裁判所が順次最低競売価額を低減して競落を許可したことも正当である。
したがつて、本件において、原裁判所が本件土地、建物の最低競売価額を変更したことが違法であり、本件競落許可決定が取り消されるべきであるとの抗告人の主張は採用できない。
四その他一件記録を精査するも、原決定にはこれを取り消し又は変更すべき違法の事由は存しない。
五よつて、原決定は相当であつて、抗告人の本件即時抗告は理由がないので、これを棄却することとし、抗告費用の負担につき民事訴訟法八九条、九五条を適用して、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官丹野益男 裁判官松原直幹 裁判官岩井 俊)
抗告の趣旨
原決定を取り消し、更に相当の裁判を求める。
抗告の理由
原審が本件土地、建物の最低競売価額を変更したことは違法であり、原審は、競落不許可決定をしなければならないのに、競落許可決定をした。よつて、原決定は違法である。
本件不動産競売事件は、抗告人の申立てにより昭和五五年二月五日開始された。本件競売申立て前に、本件建物について昭和五四年一二月一三日札幌地方裁判所より、債権者沢田により処分禁止の仮処分がなされた。そして、沢田により所有権移転の訴えが札幌地方裁判所岩内支部に提起された。その間本件競売手続は進行され、最低競売価額が土地八五万円、建物一九六〇万円と公告されたが、沢田による訴え提起により停止されたままとなつた。その後沢田による仮処分は昭和五八年八月一九日取り下げられ、更に、同年一二月一七日訴えも取下げにより終了したので、本件競売手続も再び進行された。
しかしながら、停止前に公告された最低競売価額合計二〇四五万円が、再び進行された後の最低競売価額合計八六〇万円に変更されたことは不合理であり、八六〇万円で競落を許可したことは明らかに違法である。よつて、抗告人は、抗告の趣旨記載のとおりの裁判を求める。
物件目録<省略>