札幌高等裁判所 昭和44(ネ)36 高裁判例
主 文
本件各控訴を棄却する。
控訴費用は控訴人らの負担とする。
事 実
控訴人ら代理人は「原判決を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第
一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却
の判決を求めた。
当事者双方の事実上および法律上の主張ならびに証拠関係は、当審で、控訴人ら
代理人において、「仮に原判決末尾目録(一)記載の表示登記を基とする訴外Aの
ための所有権保存登記と同目録(二)記載の表示登記を基とする控訴人Bのための
所有権保存登記とが同一の建物についてなされた二重登記であるとしても、右
(二)の表示登記は(一)の表示登記の三日前に既に正当になされているから、右
(一)の表示登記は二重になされた無効のものというべく、所有権保存登記は表示
登記を前提としてこれと一体をなすものであるから、無効の表示登記を基になされ
た前記Aのための所有権保存登記こそ無効である」と述べ、被控訴代理人において
右の主張を争うと述べ、被控訴代理人が当審証人C、同Aの、控訴代理人が当審証
人D、当審控訴本人Bの、各供述を採用したほかは、原判決事実摘示と同一である
から、これを引用する。
理 由
函館地方法務局昭和三九年一二月二四日受付をもつて原判決末尾目録(一)記載
の表示登記(以下(一)の表示登記という)が存し、これには同法務局同年同月二
六日受付第二七八七九号による所有権者を訴外Aとする所有権保存登記があるこ
と、また同法務局昭和三九年一二月二一日受付をもつて原判決末尾目録(二)記載
の表示登記(以下(二)の表示登記という)が存し、これには同法務局昭和四〇年
一月六日受付第一一一号による所有権者を控訴人Bとする所有権保存登記がなさ
れ、その後同法務局同年六月七日受付第一一九八二号による控訴人Eへの所有権移
転登記、同法務局同四一年五月二日受付第一〇〇〇一号による控訴人Gへの所有権
移転登記が各経由されであることはいずれも当事者間に争いがない。
そこでまず右(一)の表示登記のなされた居宅と同(二)の表示登記のなされた
居宅とが同一なりや否やにつき検討するに、いずれも成立に争いない甲第一、二号
証、第一〇、一一号証、乙第五、六号証、第八号証の一ないし三、第九、一一号
証、当審証人Dの証言により各成立を認めうる乙第二号証の一、二、第三、四号
証、原審における控訴本人B尋問の結果により成立を認めうる乙第七号証、甲第三
号証、乙第一号証の各存在ならびにその体裁、文言、原審証人C、同A、同Fの各
第一、二回証言、当審証人C、同A、同Dの各証言、原審および当審における控訴
本人B尋問の結果に原審における検証の結果を総合すれば、訴外Aは昭和三九年三
月四日付建築確認通知書に基き、函館市a町b丁目c番地のd地上に木造亜鉛メツ
キ鋼板葺平家建居宅一棟床面積五〇・一一九二平方米を建築したこと、右居宅は昭
和三九年五月当時排水管、タイル張り等の工事は施されていなかつたが建物本体の
築造を了して不動産としての形態を備えていたこと、同月八日控訴人Bの岳父亡G
と前記Aの代理人と自称する株式会社大倉開発社長Hとの間で代金を八〇万円と定
めて前記居宅売買の約定が成立したが、Gは株式会社大倉開発に対して内金三〇万
円を右成約日の前である同月四日に既に支払つていたこと、しかし売買契約書(乙
第一号証)の文言上にはA本人が売主として締結しかつ前記三〇万円を手附金名義
で即日受領しH個人は立会人にすぎない形式が整えられたこと、同月二五日Gは株
式会社大倉開発に対し残額五〇万円の支払を了したこと、ところで前記居宅の施工
者である株式会社大倉組は建築確認申請等の事務処理をすべて建築設計業者である
Fに代行させて函館市建築課より交付される建築確認通知書も同人に保管を託して
いたものであるところ、右Fないしその被用者は前記H等株式会社大倉開発の者と
意思を通じないしは情を知らないで利用されてAの実印の押捺しである書面を用い
て同年五月二六日付をもつて前記居宅の建築主がAにより控訴人Bに変更した旨の
建築確認通知書の記載事項変更届(甲第三号証)を作成し、これが函館市建築課に
提出されて同月二八日付で受理されたこと、なお前記居宅は形式的には買主名義を
Gとしたものの実体的には前掲買受代金全額は控訴人Bが出捐したものであり控訴
人B夫妻が取得、居住するものであつたので右実体にそうべく新建築主を控訴人B
と変更する書面が作成されるに至つたこと、同年一一月二四日右居宅につき建築基
準法所定の検査済となつたこと、その後控訴人Bは建築主名義が自己に変更済の建
築確認通知書および検査済証を添付して登記申請をなし前示争いのない(二)の表
示登記および同控訴人のための所有権保存登記がなされたこと、他方Aは自己の建
築業資金捻出のため前記居宅につき抵当権を設定する必要に迫られたが建築確認通
知書が手裡に存しないことから、これに代えて施工者の建築証明書を添付して登記
申請に及び前示争いない(一)の表示登記およびAのための所有権保存登記がなさ
れたこと、以上の事実が認められ、この認定を動かすに足りる証拠はない。
右認定事実によると、(一)の表示登記および右の登記用紙上にあるAのための
所有権保存登記と(二)の表示登記および右登記用紙上にある控訴人Bのための所
有権保存登記とは、いずれも同一の建物であること、すなわちこの建物はAが建築
し、かつGがAの代理人という株式会社大倉開発より買受けてその後控訴人Bにお
いて取得した前示居宅を対象とするものなることが明かである。なお右(一)、
(二)いずれの表示登記並に保存登記ともその床面積において本件居宅の床面積で
ある前示五〇・一一九二平方米とは多少の相違を生じているが、その差は数平方米
以内であつて該各登記は事実状態の同一性を表わすに足りかつ建物の所在、種類、
構造は実際と全く一致しているのであつて、(一)の表示登記並に保存登記と
(二)の表示登記並に保存登記とがともに本件居宅を指すものであることに変りが
ない。
してみると、本件居宅についでは、A名義と控訴人B名義との二重の保存登記が
存するものといわざるをえない。
そこで、名義人を異にする右二個の保存登記の効力について審究するのに、単一
の不動産についでは単一の登記用紙をもつて表示すべきものとなす不動産登記の原
則よりして、先になされた保存登記の表示が実際と大要合致して事実を表現するに
足りかつ先になされた保存登記が事実上の無権利者を顕現するものでない限りは、
後になされた保存登記がたとい実体上の権利者によるものであつてもこれを無効と
なすべきである。この理を本件に即すれば(一)の表示登記並に保存登記が実際と
大要合致していること前示のとおりであり、更に仮に控訴人ら主張のごとくAより
Gが買受けその後控訴人Bにおいて取得したとしても、A自身も亦本件居宅の所有
権を新築により原始的に取得していること既にみたとおりであるから、同人が実体
上の無権利者でないこと明かであり、同人が自己名義の保存登記を先に経由してい
る以上これに後行する控訴人Bの保存登記は無効といわざるをえない。
次に控訴人らは、二重登記の優劣は保存登記の先後ではなく表示登記の先後をも
つて基準とすべきであり、<要旨>先になされた表示登記に淵源する控訴人Bの保存
登記こそ有効である旨主張するが、表示登記は昭和三五年</要旨>法律第一四号「不
動産登記法の一部を改正する等の法律」により設けられた新制度であつて、旧台帳
制度に代り権利の客体である不動産の現状を明らかにすることを目的とするものに
すぎず、権利関係の公示を目的とする保存登記等の権利に関する登記とは異るか
ら、権利の効力ないし優劣を定める基準は権利に関する登記(保存登記等)によう
なければならず、表示登記によることはできない。表示登記にも不動産所有者の表
示がなされるけれども、これは不動産に異動を生じた場合の登記申請義務者、所有
権保存登記の申請適格等を判断するためのものであつて、これがため保存登記と同
一の効力を有するものではない。従つて控訴人らの主張するように(二)の表示登
記が(一)の表示登記より先になされていても、控訴人Bの保存登記がAの保存登
記よりも後れる以上、控訴人Bの保存登記は無効といわざるを得ない。控訴人らの
右主張は理由がない。
そうすると控訴人B名義の保存登記を基礎としてなされた控訴人E、同Gの前掲
各所有権取得登記も亦無効というほかない。
しかして、昭和四一年六月一三日被控訴人および訴外Iが(一)の表示登記並に
Aのための保存登記がある建物を共同競落により取得しその旨の登記を経由したこ
とは当事者間に争いがなく、これが本件居宅そのものであること前認定、説示のと
おりであり、したがつて被控訴人は右居宅に対する所有権の妨害排除として、控訴
人三名の前示各所有権保存あるいは取得登記の各消抹登記手続を求めうること明か
というべく、被控訴人の本訴請求は理由がある。
してみれば、被控訴人の本訴請求を認容した原判決は相当であり、本件各控訴は
失当として棄却を免れず、よつて民事訴訟法三八四条一項、九五条、九三条、八九
条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 辻三雄 裁判官 近藤暁 裁判官 今枝孟)