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札幌高等裁判所函館支部 昭和25年(ラ)10号 決定 1952年6月26日

抗告人 株式会社 船矢造船鉄工所

訴訟代理人 長谷川毅

相手方 戸栗実虎 外一名

主文

本件抗告を棄却する。

抗告費用は抗告人の負担とする。

理由

本件抗告の趣旨は、原決定を取消す、函館地方裁判所所属執行吏荒竹進は同裁判所昭和二十三年(ヨ)第九五号仮処分事件につき函館市追分町百十三番地原野二千七十五坪の地上に在る抗告人所有の木材を右地上から他に搬出してはならない、また抗告人が右地上に在る木材を使用することを禁止してはならないとの裁判を求めるというにあり、その抗告理由の要旨は末尾添付別紙記載のとおりであり、本件異議申立の理由の要旨は原決定記載のとおりである。

証拠として抗告代理人は甲第一号証の一、二、三、第二、三、四号証を提出し、当裁判所は相手方戸栗実虎を審尋した。

よつてまず原審の訴訟手続に抗告人主張のような手続違背があるかどうかの点(抗告理由第二点)につき判断する。

抗告人が原決定記載のような理由で原裁判所に対し執行方法に対する異議の申立をなしたところ、原裁判所は口頭弁論を開かずして審理をなし、職権をもつて執行吏荒竹進を審尋の上その供述を証拠として異議申立却下の裁判をなしたことは、執行方法に対する異議申立書、荒竹進に対する審尋調書、原決定の各記載に徴し明かである。およそ裁判所の職権による証拠調は現行民事訴訟法の下においては同法第二百六十一条が廃止された結果原則として許されないところであるから、口頭弁論をなさない場合においては第一審裁判所は民事訴訟法第百二十五条第二項によりただ当事者を審尋することができるだけであつて、当事者以外の者を職権をもつて審尋することは弁論主義の原則に反し違法であると解すべきである。また、執行吏は強制執行の方法に関する異議事件の当事者に該当しないから、民事訴訟法第百二十五条第二項により当事者として執行吏を審尋することも違法といわなければならない。したがつて原裁判所が執行吏荒竹進を職権をもつて審尋しその供述を証拠としたのは明かに訴訟手続違背といわざるをえない。しかしなから、訴訟手続の違背は民事訴訟法第四百十四条によつて準用される同法第三百八十七条の場合すなわち決定の成立手続そのものが法律に違背した場合を除いては、常に原決定を取消さなければならないものではなく、ただ訴訟手続の違背が重大且つ広範囲な部分に亘つて存するため、第一審の審理を抗告審における審判の基礎として採用できず、殆んど第一審がなかつたに等しい結果となるので、第一審から審理をやり直した方が審級制度の趣旨に適合すると認められる場合に限り、第一審に事件を差戻す前提としてのみ原決定を取消すべきものと解すべきである。したがつて、その他の場合にあつては、たとい第一審の訴訟手続の或る部分に違背があり、これが原決定の内容に影響を及ぼす可能性があつても、抗告審(控訴審)においては、違背した手続をやり直しまたは除去して自判すればよく、その結果原決定の結論を相当とすれば、なお抗告を棄却すべきことは同法第四百十四条、第三百八十四条第二項の規定に徴し明かである。これを本件についてみるに、原審における前記のような訴訟手続の違背は決定の成立手続そのものが法律に違背した場合ではなく、また第一審の審理を抗告審における審判の基礎として採用できたい程重大且つ広範囲に亘るものとも認められないから、訴訟手続の違背を理由として原決定の取消を求める抗告人の主張は採用するわけにはゆかない。

よつて違背した訴訟手続を除去し、改めて異議申立の当否(抗告理由第一点)につき判断する。

抗告人が相手方両名を被申請人とする函館地方裁判所昭和二十三年(ヨ)第九五号仮処分申請事件において、昭和二十三年七月二十八日、抗告の趣旨記載の土地に対する相手方等の占有を解き、これを抗告人の委任する函館地方裁判所所属執行吏に保管させる、相手方等は右土地に立入つてはならぬ、執行吏は右各項を適当な方法で公示することができる旨の仮処分決定をえたこと、抗告人の委任をうけた函館地方裁判所所属執行吏荒竹進が昭和二十三年七月二十九日右仮処分決定の執行をなしたことは抗告人の主張するところであり、右執行吏荒竹進が昭和二十四年九月十七日右土地に臨み、該土地に木材を置くのは執行吏の保管を侵するものであるから木材を他に搬出すべく、もしこれに応じないときは適当な処置をとる旨抗告人に告知するとともに、その趣旨を記載した公示板を掲げ、同月二十九日には窪出金治に委嘱して右地上に在る抗告人所有の木材を一箇所に集積させて同人の監守に付し、さらに同月三十日には該土地に立入できぬように縄を張りめぐらしたことは甲第一号証の一、二、三、第二、三、四号証にとつてこれを認めることができる。そもそも、執行吏に係争土地の保管を命じた仮処分決定中に仮処分債権者が右土地に立入り該土地を使用することにつき執行吏にこれを許す権限を与えていないときは、仮処分債権者は右仮処分決定の執行により係争土地に立入り該土地を使用することは許されないものといわなければならない(最高裁判所昭和二十四年(オ)第五二号昭和二十六年二月二十日第三小法廷判決参照)。本件においても執行吏は本件土地の保管を命ぜられただけで、抗告人が本件土地に立入り該土地を使用することを許す権限を与えられていないことは前段認定のとおりであるが、抗告人が前記仮処分の執行された後も自由に本件土地に立入り該土地を使用していることは抗告人の自ら主張するところであり、執行吏荒竹進が搬出を命じた木材がすべて右仮処分執行後抗告人によつて搬入されたものであることは相手方戸栗実虎の審尋の結果によつて認められるところで、右認定を左右するに足る証拠はない。そうとすれば同執行吏が本件地上に搬入された木材を搬出し抗告人に対し右地上に立入り木材を使用することを禁止した処置は相当であつて、これが差止を求める抗告人の異議申立を却下した原決定は結論において正当である。

よつて民事訴訟法第四百十四条、第三百八十四条、第九十五条、第八十九条を適用して主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 原和雄 裁判官 小坂長四郎 裁判官 臼居直道)

抗告の理由

(一)本件異議の申立は、前記抗告の趣旨の如く、本件仮処分債権者である抗告人所有の木材を本件仮処分目的物件たる本件地上より執行吏が他の地上に運搬したり、右木材を抗告人に於て使用することを右執行吏が禁止してはならない、と云ふ趣旨であつて、此れは本件仮処分命令の趣旨から当然の事理と云わなければならない。蓋し、本件仮処分は債務者等の占有を解いて執行吏の保管に付すると云うのである故に、此の趣旨の目的を達成したる以上、夫れ以上に債権者に不利益有害な行為は執行吏に於て職権行為と雖も許されるべきでないと解せられるからである。即ち、本件仮処分の執行行為は原決定記載の如く、昭和二十三年七月二十九日恙なく完了されたのであつて、当時に於て既に本件地上に抗告人所有の木材が本件地上に散在していた事実並びに此の事実に付て執行吏が何等異議又は特別の措置を採らなかつたことは、之れ又原決定判示の通りである。然かるに、仮処分債権者に於て右仮処分執行後右土地に付ての何等の点検申請又は執行の続行等の申請なきに拘わらず木材運搬と云う多額の費用を要する行為を同年九月中仮処分債権者に命じて来た事は全く常織を以て解することが出来ず、(抗告人側に於て執行吏が債務者等の委嘱に依り右行為を採つたと解している。但し執行吏は此の事実を否認した供述をしている様であるが、其の後右多額の木材運搬費用は債務者戸栗に於て支払つた事実から見て上記の如く解して略間違いないと考へられる)為めに抗告人の製材業務を著しく阻害した結果となつた。原決定は「別にこれが使用を異議申立人に認めた趣旨でないこと本件仮処分の趣旨に徴し明白であるから、当初該仮処分の執行に際し荒竹執行吏がその権限に基き本件地上に存する異議申立人所有の木材につき何等指示しなかつたこと前記のとおりであるけれども、その後昭和二十四年九月荒竹執行吏が本件土地に臨んだところ、先に仮処分執行に際し掲げた公示板がなくなり、当初置かれていた木材の外更に異議申立人所有の粗材及び仮処分当事者でない船矢製材株式会社所有にかかる粗材を合わせて約数千石に及ぶ木材が本件地上の全地域に亘つて散在していた外、更に野村水産株式会社が右船矢製材株式会社より本件土地の一部を賃借し該地上にいかの乾燥場及び水道を設け多数従業員が本件土地に出入し、同執行吏の占有を侵害していたので、これが回復を図り且つ本件土地に対する占有の侵害を防止するため、前記の如き処置をとるに至つたこと荒竹進の供述により容易に窺うことができるのであつて、かくの如きは仮処分のための執行を確保すべき職責ある執行吏としては当然なし得ること前に説明した通りであるから荒竹執行吏のとつた右処置については少しも異議申立人が主張するような違法越権のかどはないものと言わざるを得ない。」と結論を下したが之れは全く誤見である。第一に、前記の如く抗告人所有の木材は前記仮処分執行前より存置したものであり、之れを除去しなくなつても仮処分の執行は支障なく完了したのみならず、又其の後の情況に於ても之れを除去しなければ執行が妨害された事実がない点を(例えば、本件土地と他の土地の境界を不明にするとか、本件地上の原形を損壊する様な事実行為は阻害行為と思われる。)原決定は誤認している。第二に本件仮処分命令に抗告人である仮処分債権者に本件地上の使用を許容した趣旨がないから執行吏が本件地上の木材を他に運搬する行為を採つても越権行為でないと判示した事は、仮処分債務者等に対して要求さるべき事であつても、債権者たる抗告人に対して要求すべき事でない事は、既に大審院判示添付の判例抜萃御参照乞う)の通りである。第三に当事者以外の船矢製材株式会社所有の木材が本件地上にあつたとか同じく野村水産株式会社のいか乾燥場が右地上に設けられ多数従業員が之れに出入していた事実があつたとか云う事項に至つては、抗告人以外に係る事実であるから之れに付ては抗告人としては何等関知しない所であるのみならず、仮りにかかる事実があつたとしても、要は其の事実自体が右土地に付ての事実上の支配をしていたかどうか(之れを例えば借家人が其の家屋の一部分を転貸するとしても夫れのみに依つては右家屋に付ての支配を転借人に移転したと見るべきではなく従つて此の場合賃借人は民法第六百十二条第二項に依り賃貸借の解除をすることが出来ない。判例―最高裁判所昭和二三年(オ)二四号、同二四年一月一一日判決、東京地方裁判所昭和二三年(レ)一〇〇号昭和二四年七月二九日判決、同上裁判所昭和二四年(ワ)二七九二号同一六年一月一三日判決、御参照乞う)又は夫れ丈けの事実で執行吏の保管行為が阻害されたかどうか(原決定の如くは、占有移転禁止の仮処分を受けた家屋占有者である債務者が債務者自身丈けの使用を仮処分命令に依り許、容された場合、右家屋に他人を出入させたり、物件を預る事が出来なくなると思う)之等の点に付き更に審理を遂げなくてたやすく抗告人の申立を却下したのは、全くの誤解に依るものと云わなければならない。

(二)凡そ、執行方法の異議に関する審理手続は、之れを口頭弁論に依ると然らざるとは、裁判所の職権に依り任意に為し得べき事、判例学説の一致する所であり、従て之が証拠は当然疎明方法に依るべきものだと解する。(同説―前野順一氏新民事訴訟法強制執行手続一三五頁)しかしながら、此の疎明方法は改訂後の現行民事訴訟法に於ては民訴第二百六十一条が廃止となつたので、裁判所の職権に依る証拠調は極めて例外の場合を除いて許さるべきでない事は云う迄もない。而して、本件抗告人の相手当事者は原決定記載の如く当該執行吏荒竹進ではなくて債務者戸栗実虎並びに同中川駒雄である事寔に明かであり、然るに其の相手人である右債務者等からも、又債権者である抗告人から申出でざる右執行吏を裁判所が職権で審尋し之が供述を証拠としたのは明かに違法行為であり、又かかる場合之れに対応する債権者の疎明方法を提出せしめる機会を与えなかつたのは衡平妥当の処置とは云えない。

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