札幌高等裁判所函館支部 昭和31年(う)6号 判決
原判決は、主たる訴因について、被告人が主たる訴因のとおりの仕込をしたことは、その自認するところであり、本件被告人方から押収した一升かめ(差押目録の記載および昭和三十一年領第十二号の証拠物に照し一斗かめの誤記と認める)、五升かめ中にそれぞれ酒精分一六、五パーセント、六パーセントを含有する水溶液の存在したことは大蔵事務官堀部昌蔵外一名の臨検、捜索、差押てん末書、大蔵事務官石川澄夫の検定調書の記載によつて認められるが、被告人に酒類を製造する意思があつたことを認めるに足る証拠が乏しいから、本件は犯罪の証明不十分といわざるを得ないと判示している。これに対し本件控訴趣意は訴訟記録並びに原裁判所において取り調べた証拠によつて、犯意を認めることができる旨を述べているのである。しかし本件主たる訴因として掲げられた、雑酒製造の仕込の時、および仕込の方法につき、被告人の検察官に対する供述調書に、訴因と同趣旨の記載があり、その他には本件起訴の時までの証拠で、これを認むるに足るものがないから、検察官は、右被告人の検察官に対する供述を採つて訴因を構成したものであることが認められ、被告人も原審および当審公判廷において、同様の弁解をしているが、果して右訴因乃至被告人の供述弁解が正しいかどうかを検討するに、先ず仕込の時について、訴因や被告人の供述では、昭和三十年二月頃仕込んだことになつているが、原審および当審における証人石川澄夫の本件雑酒は、昭和三十年二月頃仕込んだものとすれば、検定時の同年七月二十九日頃には、腐敗して蛆がわいている筈なのに、検定の時には、あまり腐敗しておらず、被検液体を味つてみたが、濁酒として飲料に供することができる程度のものであつて、その腐敗酸味の程度から考えて、検定の時より二十日乃至一カ月位前に仕込んだものと思われる旨の証言、および原審鑑定人吉村花子の、夏であれば、本件の原料(訴因および被告人の供述どおりの原料)で仕込んでから一週間位で酒ができる旨の供述により、本件雑酒は昭和三十年六月下旬頃か同年七月上旬頃仕込んだものと認めるのが相当である。従つて被告人のこの点に関する供述乃至弁解は措信できないし、訴因はその証明がないことになる。次にその仕込の方法について、訴因や被告人の供述では、ホツプの滲出液約一升、小麦粉約百匁、馬鈴薯若干を原料として仕込み、その数日後これに米こうじ約五合、外米粥約三合、砂糖若干を加えたことになつているが、その原料を合計すれば約二升五合前後となる。濁酒(証人石川澄夫の当審における証言により、本件雑酒は、ホツプが入つていなければ、濁酒と認むべきものである。)の製造量は、その仕込原料よりも減少することが経験則に合致するものである(昭和二十六年(れ)第二四二号同年九月二十七日最高裁判所第一小法廷判決、最高裁判所判例集第五巻第十号一九七五頁参照)にかかわらず、訴因では合計四升七合を製造したとなつており、大蔵事務官堀部昌蔵、同前田喜代治作成の臨検、捜索差押てん末書によれば、被告人方で差し押えた本件雑酒は合計四升七合であることが認められ、製造量が仕込原料の約二倍に増加したことになり、前記経験則に反する。検察官は当審において、前記仕込原料に更に水を加えたものであると主張するが、これを認めるに足る証拠はない。従つて仕込方法に関する被告人の供述は措信できず、訴因はその証明がないものといわなければならない。更に前記大蔵事務官堀部昌蔵外一名作成の臨検、捜索、差押てん末書および大蔵事務官石川澄夫作成の検定書、ならびに原審証人石川澄夫の供述によれば、被告人方から押収した本件雑酒は、五升かめに入つた酒精分一六、五パーセントのもの一升六合、一斗かめに入つた酒精分六パーセントのもの三升一合であつたことが認められる。このように酒精分の非常に異る二種類のものは、その仕込の時または仕込方法が異るものであると認めるのが相当であり、被告人の一度に仕込んだものを後日二つに分けたものである旨の供述は、措信することができない。また、原審証人高橋ミキ、同福田実の供述によれば、被告人は酒が好きで昭和三十年七月頃には朝から酒を飲み、一日一升前後飲んでおり、時に濁酒ようのものを飲んでいたことが認められるから、仮りに訴因のように、被告人が酒を製造する目的で昭和三十年二月頃前記のような方法で仕込んだものとすれば、同年七月二十八日の本件捜索、差押当時においては、既に皆無となつているか、非常に減少していることが経験則上明かであるにかかわらず、却つて仕込量よりも差押量が増加していることは到底首肯できないことで、これ等の点からみても、訴因は仕込の日時方法につきその証明がないといわねばならぬ。仮りに仕込の時を前示認定のように昭和三十年六月下旬か同年七月上旬であつたとしても、その使用した原料の種類数量につき前記被告人の供述乃至弁解の外には原審および当審証人石川澄夫の証言により僅かに本件雑酒に米粒、ホツプが混入していたことを認め得るに過ぎず、他にこれを認めるに足る証拠がなく、酒類の製造罪における原料の種類数量は、犯罪構成に重要な関係があるから、結局主たる訴因は犯意の点につき判断するまでもなく犯罪の証明がないものというべく、原判決が犯罪の証明不十分として、これを排斥したのは結局正当であつて、論旨は理由がない。
控訴趣意第二点(予備的訴因に関する法令違反)について
酒税法第四十五条は免許を受けない者の製造した酒類等の所持を禁止しているものであつて、その製造した者が所持者以外の者に限る旨の規定はない。
酒類密造者が、その製造の必然の結果として所持する場合は、製造罪のほかに所持罪を構成しないが、所持が製造と必然的な関係を離れて全く別個の行為と認められるときには、製造罪のほかに所持罪を構成するものと解すべきであつて、原判決が所持罪は他人の製造した密造酒を所持する場合に限つて構成し、自己が製造した酒類を所持する場合には常に所持は製造に包含せられるものと判示したのは、法令の解釈適用を誤つたものというのほかはない。殊に本件のように主たる訴因と予備的訴因とある場合において、主たる訴因が認められないときは予備的訴因について更に判断をしなければならないが、予備的訴因は主たる訴因との関係を離れて、予備的訴因のみについてその成否を判断すべきものであるにかかわらず、原判決が主たる訴因である製造罪の成立を否定し、予備的訴因である所持罪について、自ら否定した製造罪との関係において所持罪を考え、所持は製造の必然的結果であつて製造罪が成立しない以上所持罪も成立しないと断じ、予備的訴因を排斥したのは法令の解釈適用を誤つた違法がある。又原判決の趣旨が密造酒所持の予備的訴因として掲げられている事実は無免許酒類製造の主たる訴因に当然包含せられるからかかる予備的訴因の主張自体許されないものであるというに在るならば予備的訴因の性格につき法令の解釈を誤つた違法がある。即ち予備的訴因は主たる訴因が認められない場合に予備的訴因につき判断を求むるものである。換言すれば主たる訴因の認容されないことを条件とするものであるから、主たる訴因が認容されるときは予備的訴因について判断をすることを要しないが主たる訴因が認容されない場合には独立した訴因となるものであつて主たる訴因に拘束されるものではないからである。原判決は、本件の税務署長の告発は被告人の本件酒類の所持については告発がなく、法条の趣旨前記の如くなる以上(前記酒税法第四十五条の解釈か)製造の告発を以て法第四十五条の告発を包含するものとは做し難いと判示している。函館税務署長作成の告発書には犯則事実の概要欄に被告人の本件酒類製造の事実を記載してあるだけで所持の事実の記載はない。然し右告発書と前記大蔵事務官堀部昌蔵外一名作成の臨検、捜索、差押てん末書、同石川澄夫作成の検定調書の記載とを照し合せて見ると、税務署長は、被告人方で差し押えた五升かめ入り酒類一升六合と、一斗かめ入り酒類三升一合について、被告人が製造したものと認定して告発をしたものであるが、その告発の基本的事実は被告人方から押収した本件酒類に関する酒税法違反の事実についてなされたものであることが認められる。従つて検察官が右告発により、本件酒類を被告人が所持するものと認定して起訴することを妨げるものではなく、所持についての起訴に税務署長の告発がないとはいえない。而して右予備的訴因についての違法は判決に影響を及ぼすことが明かで論旨は理由があるから刑事訴訟法第三百九十七条第三百八十条により原判決を破棄し、更に同法第四百条但書により左のとおり判決する。
主たる訴因の事実がその証明不十分であることは前に認定したとおりであるから省略し、予備的訴因について判断する。
罪となるべき事実
被告人は法定の除外事由がないのに昭和三十年七月二十八日函館市千代ケ岱町八十九番地の自宅において免許を受けない自己が製造したアルコール分一六、五パーセントの雑酒一升六合、およびアルコール分六パーセントの雑酒三升一合を所持したものである。
(裁判長裁判官 居森義知 裁判官 磯江秋仲 裁判官 水野正男)