札幌高等裁判所函館支部 昭和41年(う)24号 判決 1966年8月22日
控訴人
被告人 工藤慶蔵 外三名
主文
本件各控訴を棄却する。
当審における訴訟費用は全部被告人らの平等負担とする。
理由
本件各控訴の趣意は弁護人高岡次郎の提出した控訴趣意書、同補正中立書に記載のとおりであるからこれを引用し、これに対して当裁判所は次のとおりに判断する。
控訴趣意第一について
所論は、被告人工藤、同山崎の行為についてたかだか器物損壊の事実しか認め得ないにもかかわらず、原判決が理由第一(ニ)(ロ)において威力業務妨害の事実を認定したのは判決に影響を及ぼすことの明かな事実の誤認であり、従つて又右被告人両名に対して刑法第二六一条、暴力行為等処罰に関する法律第一条を適用すべきであるのに、刑法第二三四条を適用したのは判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。
しかし、原判決挙示の証拠によれば原判決理由第一(ニ)(ロ)に摘示の事実は十分に認めることができ、右の事実に対して刑法第二三四条を適用するのもまた当然のことといわなければならない。所論は理由がない。
控訴趣意第二について
所論は被告人貴志、同中野に対し原裁判所が認定した事実(原判決理由第二(ニ)一(イ)から(ト)に摘示のビラ貼り行為)につき、
1、ビラ貼りの対象となつた塀は器物ではない。
2、被告人らのビラ貼り行為によつて器物本来の用法に従う効用が害されてはいない。
3、被告人らの行為は争議行為としてなされたものである。
から、被告人らに器物損壊の事実は認められないのに、これを認めたのは判決に影響を及ぼすことの明らかな事実誤認があり且又被告人らの行為が器物損壊罪に該当しないのに刑法第二六一条、暴力行為等処罰に関する法律第一条を適用したのは判決に影響を及ぼすことの明らかな法令の適用の誤りがあるというのである。(なお右趣意書第二1(ろ)に基き原判決摘示の事実を指摘するに当り「被告人中野は第二、(一)(ロ)(ハ)(ホ)(ヘ)(ト)の事実には共同しない」旨述べているのは、「被告人中野は第二、(二)一(ハ)(ホ)(ヘ)(ト)の事実には共同しない」ということの明白な誤謬であると認める。)
しかし
1、刑法第二六一条にいう器物とは、同法第二五八条から二六〇条に掲記の建造物、艦船、文書以外の物を指しているのであつて、原判決摘示の塀が右の建造物、艦船、文書のいずれにも該当しないことは明白であるから、これを同法第二六一条にいう器物であると認めるのは当然である。
2、原判決挙示の証拠によれば、原判決第二(二)一(イ)から(ト)に摘示の事実は十分に認めることができる。そして右の事実によれば、被告人らのビラ貼り行為は、右(イ)の事実においては自動車三台を、(ホ)の事実においては机、ソフア等をそのままでは使用することができない程度に汚損したもの、右(ロ)(ハ)(ニ)(ホ)(ヘ)(ト)の事実においては会社社長鍵谷達夫私宅の板塀又は茶の間の窓ガラス若しくはその双方を、そのままでは社会生活上使用に堪えない程度まで著しく外観を汚損し、窓ガラスについては採光上窓ガラスとしての効用を損つたものであつて、いずれも器物損壊に相当する行為であると認められる。
3、また原判決がその理由第二の(一)および(二)に摘示した事実は、原判決挙示の証拠で十分認めうるところである((二)一については前述)。右の事実によれば、被告人らの行為は争議行為としてなされたものであることは所論のとおりであるけれども、同時に被告人らの行為がその正当な限界を超えたもので、労働組合法第一条第二項により刑法第三五条を適用すべき場合に当らないことも又明白であるといわなくてはならない。
従つて原判決には所論の誤りは認められない。
よつて刑事訴訟法第三九六条により本件各控訴は棄却することとし、同法第一八一条第一項本文に従い、当審における訴訟費用は被告人らの負担とし、主文のとおりに判決する。
(裁判官 雨村是夫 岡垣勲 山口繁)