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札幌高等裁判所函館支部 昭和41年(ネ)38号 判決 1968年1月30日

控訴人 西山治

右訴訟代理人弁護士 土家健太郎

被控訴人 西山福子

右訴訟代理人弁護士 長谷川毅

主文

原判決を取消す。

控訴人と被控訴人とを離婚する。

控訴人と被控訴人間に出生した長男良夫の親権者を被控訴人と定める。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は主文第一、二項および第四項同旨および控訴人と被控訴人間に出生した長男良夫の親権者を控訴人と定める旨の判決を求め、被控訴代理人は控訴棄却の判決を求めた。

≪以下事実省略≫

理由

≪証拠省略≫によれば、控訴人は昭和三四年一月一七日被控訴人と婚姻し、その間に昭和三五年九月二三日長男良夫が出生したことが認められる。

そこで離婚原因の存否について判断するに、≪証拠省略≫を綜合すると、

(一)  両人の夫婦関係の推移、性格等として、

(1)  控訴人は昭和七年五月一日農業を営む父太郎母(亡)きよの三男として出生し、被控訴人は漁業を営む父(亡)一郎母フクの三女として出生し、訴外安藤正夫などの勧めにより昭和三三年一月二八日頃から同棲して事実上の夫婦生活に入ったが、当時控訴人は函館○○販売株式会社に修理工として勤務しており、その給与月額約一万二〇〇〇円のほか時折被控訴人の実家から畳、建具、米などの仕送りを受けて共同生活を始めたこと。

(2)  同棲後約半年を経過した頃被控訴人の兄長一の身上に関する同人宅での協議に出席を求められた控訴人がこれを拒絶したことが発端となっていさかいとなるなど、その頃より両者間に兎角意思の疎通を欠き、些細なことで口論が繰返されるようになったこと。

(3)  昭和三五年四月頃控訴人が勤務先社長の求めもあり、家計の逼迫を緩和するため修理工のほか販売員を兼ねるようになるや、販売員は身持が悪いとの風評からこれに反対であった被控訴人との間に右に基因する口論が繰返され、また結婚の際持参した被控訴人貯金通帳名義が依然旧姓のままであったのを控訴人が詰ったことに端を発して口争いを生ずるなどのことから控訴人は家庭内の空気を嫌って夜遊びを重ねるにいたり、益々両者間の溝は深まる一方となり、さらに被控訴人は事毎に実家の援助を笠にきて控訴人を軽視する風を示し始め、控訴人もこれにこだわりを持つようになったこと。

(4)  翌三六年三月頃テレビチャンネルの選択が原因となって激しい口論となり、遂に被訴外人は激昂して長男良夫を伴って実家に立去り一〇日余も戻らなかったこと。

(5)  其の後食事の仕度をしないことも重なり益々悪化の一途を辿り、同年一一月頃には控訴人が不在勝ちの被控訴人に対し少し位の金を分り易いところにおいておくよう注意したところ、同人は「私から金を取上げるのか」と憤激して貯金通帳と現金三〇〇〇円を控訴人に対して投げつけるような所為もあったこと。

(6)  同年一〇月頃には両人の間で離婚を云々する事態に立至り、控訴人から被控訴人の実家に対しその引取方を申出たこともあり、翌三七年三月頃には控訴人が被控訴人に対し離婚届に捺印するよう求め、これに応じない同人に対し外見は夫婦でも中は赤の他人だなどと申し渡すこともあり、以来性的交渉も殆んど断たれるに至り、その間柄は愈々険悪の度を深めたこと。

(7)  その間被控訴人は些細な事に激して実家に帰還したまま家を留守にすることも多く、その期間が一週間ないし四〇日に及ぶこともあったこと。

(8)  同年八月頃被控訴人が自動車の運転練習にでかけるため市内○○町○○番地の当時の控訴人らの居宅に父太郎が留守番として同居して以来、被控訴人がこれを快しとしないためか、二人の間はさらに悪化の度を加え、翌九月一八日早朝太郎が小用に外出した際、被控訴人は同人が按摩に行き長時間不在となるものと思い猫の出入りを防ぐため開き戸に錠をかけたところ、立ち戻った太郎は締め出されたと誤解して控訴人の姉の嫁ぎ先である小川甲一方に赴き不満を洩したことから両者激しい喧嘩口論となり、連絡によって駈けつけた前記安藤や家主大木のとりなしで双方の感情を冷却させるため兄長一が被控訴人を実家に連れ戻したこと。

(9)  被控訴人は同人が函館家庭裁判所に申立てた夫婦関係調整の調停が同年一一月二二日不成立となるや即日控訴人方に存した自己の嫁入道具その他家財の大半を実家に運び去ったこと。

(10)  被控訴人の母、兄、妹なども平素から被控訴人を軽んじ前記(6)に認定した控訴人が被控訴人の実家に赴いてその引取方を求めた際、被控訴人の母フクは「頭がどうかしたのではないか、精神病院でみて貰え」などとあしらい、同(8)認定のいさかいの際駈けつけた兄長一は「てめえ誰のお蔭で暮していられるんだ、どてっ腹に穴をあけてやる」などと控訴人を口汚く罵り、またその妹らは被控訴人の実家を訪れた控訴人に対し「酒も煙草ものまない女の腐ったような奴だ」などと悪口を浴せることもあり、控訴人はこれらにより著しく感情を傷つけられたこと。

(11)  控訴人は小心、内気かつ気短かであり、しかも兎角内心に思いをこもらせ勝ちで決断力に乏しいのに対し、被控訴人は気が強く極めて無口でその上細やかな愛情や行届いた配慮に欠けるところがあり、また嫉妬心、猜疑心に富む性格であること。

(12)  被控訴人は(9)認定のいさかいの後は相当盛大に漁業を営む実家に同居し、その援助のもとに長男良夫の養育にあたるかたわら、魚網修理工場に勤めて月給六〇〇〇円位を得ていること。

(13)  控訴人は昭和三七年四月頃より自動車修理工場を独立経営し、被控訴人が去った後約一年七月を経た同三九年五月、周囲の勧めや事業運営上の必要もあって依頼弁護士の意見も徴した上、控訴山本陽子(当二七年)を迎えて同棲生活を始め、同人との間に同四〇年一月三一日女児清子を、同四二年四月二〇日女児澄子を儲けたこと。

等の事実が認められ、また、

(二)  両者から函館家庭裁判所、同地方裁判所に申立てられた調停、訴訟の大要として、

(1)  昭和三七年一〇月二五日被控訴人より夫婦関係調整の調停が申立てられたが、合意の成立する見込がないとして、同年一一月二二日不成立により終了(昭和三七年(家イ)一七六号)。

(2)  同年一一月二九日被控訴人より両者間の不和確執、控訴人の性病罹患等を理由として、離婚および慰藉料並びに財産分与請求の訴が提起され、数次にわたる口頭弁論および和解期日を重ねた末、昭和三九年五月一六日家事調停に付されたが合意の成立する見込がないとして同年七月一三日不成立により終了、また右訴は同年八月六日取下により終了(昭和三七年(タ)第二〇号、同三九年(家イ)第九九号)

なお右訴の理由の一つとされた控訴人の性病罹患の点については、原審および当審における被控訴人の供述のほかはこれを認めるに足りる的確な証拠は全く存せず、しかも右供述は措信するに値しない。

(3)  右訴の提起についで被控訴人の申請により同年一二月四日控訴人の預金債権一五万円余に対する仮差押がなされたが、昭和三九年二月二一日被控訴人の申請により執行取消(昭和三七年(ヨ)第一一一号)。

(4)  昭和三八年一月二二日被控訴人の申請により控訴人所有の動産(万力、コンプレッサー、洗濯機、箪笥などの機械工具および家財等)に対する仮差押がなされたが、翌三九年二月二一日解放(昭和三八年(ヨ)第八号)。

(5)  同三九年九月一七日被控訴人からなされた夫婦同居および婚姻費用分担の審判申立に対し、同四二年三月二二日控訴人に対し、同居並に同年四月以降同居するまで毎月一万五〇〇〇円ほかに三三万九〇〇〇円の支払を命ずる審判が発せられたが、双方から抗告の申立があり、抗告審に係属中(昭和三九年(家)五一七、五一八号)。

(6)  控訴人より昭和三九年一一月二七日離婚等の調停を申立てたが、成立するにいたらず、同四一年一一月五日取下により終了(昭和三九年(家イ)二三〇号)。

(7)  昭和四〇年六月一〇日控訴人より本訴提起

等の事実が認められる。尤も被控訴人は右(2)ないし(4)の申立はいずれも同人の真意に出たものでなく、母フクの強硬意見にやむなく従ったものである旨主張するが、≪証拠省略≫中これに添う部分は≪証拠省略≫および前認定の諸事実に照らしたやすく措信できず他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。また(5)認定の審判申立の一事から被控訴人が円満な夫婦生活の回復に誠意を示しているとは即断できず、むしろ右(2)認定の訴の取下時期と前認定の諸事情を綜合考察するときは、被控訴人が控訴人との同居を求め頑強に離婚拒否の態度を表明しているのは、真に控訴人の許に復帰し、平和な家庭生活を再建しようとの意図にでたものというよりは、前記山本陽子に対する嫉妬や控訴人に対する意地に根ざすものと推察されないでもない。

そして以上認定の(一)の(1)ないし(11)および(二)の事実とりわけ親族も含めた両者間の不和、係争の態様、推移の深刻さ、性格の相異等に徴するときは控訴人、被控訴人間の婚姻関係は遅くも前認定の(二)(4)の仮差押のなされた昭和三八年一月下旬頃には破綻に瀕し、その回復の可能性は全く失われたものと断ぜざるを得ず、畢竟本件においては民法七七〇条一項五号にいわゆる「婚姻を継続し難い重大な事由」が存するというべきであるから、控訴人の本件離婚の請求は正当として認容すべきである。この点に関し、控訴人が昭和三九年五月以降前記山本陽子を迎えて同棲生活を続けていることは(一)(13)に認定のとおりで、離婚の未確定の段階になされたものであることからいえば事情はともあれ軽卒の譏を免かれ得ないが、如上認定のとおり控訴人、被控訴人間の婚姻が実質的に破綻を来した後相当の期間経過後のことに属する以上、これを取上げて控訴人の離婚請求を排斥することは許されないというほかない。

そこで親権者の指定について考察するに、先に認定した(一)の(12)(13)の事実に鑑みると、両人の間に出生した長男良夫の親権者は被控訴人とするのが相当と認められるから、同人を右良夫の親権者と定める。

よって民事訴訟法三八六条九六条八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 雨村是夫 裁判官 鈴木潔 山口繁)

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