東京地方裁判所 平成元年(ワ)11265号 判決 1991年2月27日
原告
平田勝年
外五名
右原告ら訴訟代理人弁護士
山本政明
同
釜井英法
同
宇都宮健児
同
木村晋介
被告
松田義武
同
松田久美子
同
山口進
同
山本幸典
主文
一 被告松田義武及び被告山口進は、各自、原告平田勝年に対し金三二万八〇〇〇円、原告川島貞樹に対し金四四万九〇四六円、原告森弘に対し金六六万円、原告増水宏に対し金一四二万一五三三円、原告三瓶武寿に対し金五九万六〇〇〇円、原告相塲仙吉に対し金五四万九〇〇〇円及び右各金員に対する被告松田義武については平成元年九月一三日から、被告山口進については同月一〇日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告らの被告松田久美子及び被告山本幸典に対する請求をいずれも棄却する。
三 訴訟費用は、原告らと被告松田義武及び被告山口進との間においては、原告らに生じた費用の二分の一を右被告両名の負担とし、その余は各自の負担とし、原告らと被告松田久美子及び被告山本幸典との間においては、全部原告らの負担とする。
四 この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告らは、連帯して、原告平田勝年に対し金三二万八〇〇〇円、原告川島貞樹に対し金四四万九〇四六円、原告森宏に対し金六六万円、原告増水宏に対し金一四二万一五三三円、原告三瓶武寿に対し金五九万六〇〇〇円、原告相塲仙吉に対し金五四万九〇〇〇円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日から各支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告らの連帯負担とする。
3 仮執行宣言
二 請求の趣旨に対する答弁(被告松田義武及び被告松田久美子については、陳述したものとみなされた答弁書の記載による。)
原告らの請求をいずれも棄却する。
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 被告松田義武(以下「被告義武」という。)は、小学校・中学校・高等学校及び大学校受験の訪問指導(いわゆる家庭教師の派遣)を主たる目的とする訴外株式会社早稲田教育センター(以下「早稲田教育センター」という。)の代表取締役であり、被告松田久美子(以下「被告久美子」という。)、被告山口進(以下「被告山口」という。)及び被告山本幸典(以下「被告山本」という。)は、いずれも同社の取締役である。
2(1) 中学校或いは高等学校の生徒を子に持つ原告らは、別紙一覧表「契約日」欄記載の日に、早稲田教育センターとの間で、入会金二万円及び契約金を支払って複数のチケットの交付を受け、家庭教師(学生アルバイト)の派遣を受けて子が二時間の指導を受けるとチケット一枚をその家庭教師に渡すことなどを内容とする「個人指導等に関する契約」を締結した。
原告らが早稲田教育センターとの間で締結した契約の個別的内容は、同表「コース」欄記載のとおりであり、コースの五ないし九は中学生、一三は高校生を意味し、またAは四五回、Bは六五回、Cは九〇回(一回二時間)の指導回数を表示しているもので、原告らは右回数に相当する枚数のチケットを早稲田教育センターから受領している。そして、原告らは、右各契約日に入会金二万円を支払ったほか(ただし、原告増水は二回契約しているが、二回目の平成元年三月八日には入会金を支払っていない。)、同表「契約金額」欄記載の金員を支払う約束をして、同表「送金日」欄記載の日に同表「送金額」欄記載の金員を早稲田教育センターの銀行口座に送金して支払った。
(2) 原告らの子は、平成元年五月一八日ころまでの間に、別紙一覧表「チケット使用枚数」欄記載のとおりの回数だけ早稲田教育センターから派遣された家庭教師(学生アルバイト)により各二時間の指導を受けたが、同社が、同日ころ、事実上倒産し、事務所を閉鎖して業務を行わなくなったため、それ以後、同社から前記契約における債務の履行を受けることは不可能となった。
そのため、原告らは次のような損害を被った。すなわち、原告らは、早稲田教育センターから各コース所定の指導回数について完全な履行を受けられるものと思い、前記契約を締結したものであり、そうでなければ入会金を支払って同社と契約を締結しなかったのであるから、まず入会金が損害となる。次に、チケットの残枚数に対応する部分は、今後も同社から履行を受けられないことになるので、それに相当する金額、具体的には、契約金額を総指導回数で除し、それにチケット残枚数を乗じた金額(残チケット額)も原告らの損害となるところ、原告らのチケット残枚数及び残チケット額は、同表「チケット残枚数」欄及び「残チケット額」欄記載のとおりである。従って、原告らは、同表「損害額」欄記載の金員の損害を被ったものである。
3(1) 早稲田教育センターの営業内容の概要は次のようなものである。すなわち、同社は、小学校・中学校・高等学校の生徒を持つ家庭に電話をして前記「個人指導等に関する契約」の勧誘をする。その後、家庭を訪問して父母との間で契約を成立させると、入会金二万円を取り、契約金を同社の銀行口座に振り込ませる。早稲田教育センターは、父母に複数(コースによって、四五枚、六五枚、九〇枚と異なる。)のチケットを交付する。そして、父母は、家庭教師(学生アルバイト)が来て、子が指導を受けると、チケット一枚をその家庭教師に渡し、家庭教師は一か月に一度、たまったチケットを同社に提出して、同社から指導料を受け取る。早稲田教育センターは、父母からは前金で契約金を取り、家庭教師には指導料を後払するのである。
(2) 早稲田教育センターは赤字経営であり、遅くとも昭和六三年一〇月ころには、そのまま経営を続けていけば倒産することが必至であることが各取締役には判明していた。しかし、被告らは、その後も経営改善の見通しのないまま漫然と経営を続け、平成元年になってからも、原告ら会員を集め、会社倒産による被害額を大きくさせたものであり、これらの行為を漫然と続けた取締役にはその職務を行うにつき少なくとも重過失があることは明らかである。
また、早稲田教育センターが倒産した原因は、昭和六三年五月ころ、青森市に訴外株式会社ベストップ(以下「ベストップ」という。)を設立したことにある。すなわち、早稲田教育センターは資金面の余裕がないにもかかわらず、ベストップの設立を企画し、更にその設立に当たって、資金援助をし、その後も毎月の経費援助を行っていた。早稲田教育センターの経営が悪化し、倒産に至った原因は、少なくとも、ベストップの設立、並びに設立時及びその後のベストップへの経費援助にあることは疑いがない。被告義武は早稲田教育センターの代表取締役でありながら、ベストップを設立することを積極的に推進し、同社の代表取締役となり、早稲田教育センターのベストップに対する経費援助を認めている。被告久美子は早稲田教育センターの取締役でありながら、他の取締役の行為を監視せず、同社がベストップを青森市に設立することを黙認している。被告山口は、早稲田教育センターの取締役でありながら、ベストップの設立に加担して取締役となり、早稲田教育センターのベストップへの経費援助を認めている。被告山本は、早稲田教育センターの取締役であり、かつ経理を担当していながら、ベストップの設立に加担して取締役となり、早稲田教育センターのベストップへの経費援助を認めている。早稲田教育センターの経営が悪化し、倒産に至るについて、被告らは、以上の点において、取締役としての職務を行うについて重過失があるというべきである。
更に、倒産に当たり、倒産申立てなどの法的手続をとらず、徒に資産を散逸させたことも、取締役としてその職務を行うにつき重過失があったといえる。
(3) 原告らは、被告らの右(2)の任務懈怠行為により、2(2)の損害を被ったものであるから、被告らは、商法二六六条の三第一項により、連帯して右損害を賠償すべき義務がある。
4 よって、被告らに対し、原告平田は三二万八〇〇〇円、原告川島は四四万九〇四六円、原告森は六六万円、原告増水は一四二万一五三三円、原告三瓶は五九万六〇〇〇円、原告相塲は五四万九〇〇〇円及び右各金員に対する訴状送達の日の翌日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の連帯支払いを求める。
二 請求原因に対する認否
(被告義武―陳述したものとみなされた答弁書の記載による。)
請求原因1の事実のうち、被告久美子が早稲田教育センターの取締役であることは認める。同3(2)(3)の事実は争う。なお、早稲田教育センターは、取締役会が開催されたことがない、被告義武のワンマン会社である。
(被告久美子―陳述したものとみなされた答弁書の記載による。)
請求原因1の事実のうち、被告久美子が早稲田教育センターの取締役であることは認め、その余は不知。同2の事実は不知。同3の事実のうち、(1)は不知、(2)(3)は争う。被告久美子は、早稲田教育センターの設立時に取締役になる人が足りないことから名前を使用することを承諾しただけであり、同社の経営等に一切参加せず、同社から報酬等も全く受け取っていない、名目だけの取締役である。
(被告山口)
請求原因1、2の事実は認める。同3の事実のうち、(1)は認め、(2)(3)は争う。
(被告山本)
請求原因1の事実は認める。同2の事実は不知。同3の事実のうち、(1)は認め、(2)(3)は争う。
第三 証拠<略>
理由
一請求原因1の事実は、原告らと、被告義武との間では同被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなし(但し、被告久美子が早稲田教育センターの取締役であることは争いがない。)、被告久美子との間では<証拠>及び弁論の全趣旨によりこれを認めることができ(但し、被告久美子が早稲田教育センターの取締役であることは争いがない。)、被告山口及び被告山本との間では争いがない。
二請求原因2の事実は、原告らと、被告義武との間では同被告が明らかに争わないからこれを自白したものとみなし、被告久美子及び被告山本との間では、<証拠略>並びに弁論の全趣旨によれば、これを認めることができ、被告山口との間では争いがない。
三1 <証拠略>並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(1) 早稲田教育センターは、昭和六一年一〇月設立された、小学校・中学校・高等学校及び大学校受験の訪問指導(家庭教師派遣)を主たる目的とし、東京都武蔵野市と札幌市の二か所に賃借した事務所を有し、アルバイトを除く従業員が約一〇名、資本金四〇〇万円の株式会社である。
早稲田教育センターの営業内容の概要は次のとおりである。即ち、同社は、小学校・中学校・高等学校の生徒を持つ家庭に電話をして前記の「個人指導等に関する契約」の勧誘をする。その後、家庭を訪問して、生徒の父母との間で契約が成立すると、同社は、父母(契約者)から入会金二万円を取り、契約金(金額は、指導回数が四五回、六五回、九〇回のいずれであるか、一括払か分割払かによって異なる。分割払の方が一括払より約一五パーセント高い。)を同社の銀行口座に振り込ませ、他方、父母に複数(四五枚、六五枚、九〇枚のいずれか)のチケットを交付する。父母は、家庭教師(学生アルバイト)から子が二時間の指導を受けると、チケット一枚をその家庭教師に渡し、家庭教師は一か月に一度、たまったチケットを早稲田教育センターに提出して指導料を受け取る。
早稲田教育センターの収入は、契約者(父母)からの入会金・契約金であり、支出は、事務所二か所の賃料・家庭教師の指導料・電話アルバイトのアルバイト料・契約勧誘のための電話代・役員報酬・従業員の給与・契約解約の返金などである。
(2) 早稲田教育センターは、昭和六一年一〇月の設立時には、札幌市にだけ事務所を設けて営業していたが、その後東京進出を企て、昭和六二年五月には、東京都武蔵野市にも事務所を設けて営業するようになった。更に、被告義武は、昭和六三年五月、関連会社であるベストップ(資本金一〇〇万円、本店青森市)を設立し、同社の代表取締役に被告義武が、取締役に被告山口及び被告山本らが就任して、経営を拡大した。早稲田教育センターは、もともとめぼしい資産がなく、収入の多い時と少ない時があって、経営が安定していなかったところ、被告義武は、同社から、ベストップに対し、その設立にあたって約二五〇〇万円、その後も毎月一〇〇万円宛の資金援助をした(昭和六三年当時の早稲田教育センターの支出は東京事務所関係だけで一か月約一〇〇〇万円であった。)。右のような経営状況が続くうち、同社は、同年六月末の決算時に多額の赤字を出すに至った。
他方、被告義武は、資金難を切り抜けるため、契約の勧誘に努め、契約者からは一括払で契約金を取得する(分割払より、早期入金となるが、金額は少なくなる。)とともに、経費の削減をしたが、経営は改善されず、また、同年一〇月ころからは、契約の解約が増えて(解約した者には、残チケット数に応じて返金する扱いであった。)、資金繰りが一層苦しくなり、平成元年に入ってからは、成約件数が減少する一方、解約件数が益々増加し、経営は悪化の一途を辿って危機に瀕し、同年二月ころからは解約により返金すべき金額が東京事務所関係だけで一か月約五〇〇万円ないし約七〇〇万円に達し、その経営は著しく悪化し資金繰りに非常に窮した。
被告義武は、同年五月初め、被告山口から資金繰りがつかないとの報告を受けて、早稲田教育センターの経営状況及び資産状況を点検したうえ、市の法律相談での弁護士の意見も参考にして、事業の継続は不可能と判断し、同月一八日ころ、契約者(父母)及び家庭教師(学生アルバイト)に対し、突然、一方的に「倒産した。返すものは何もない。〜」などと記載した書面を送り付け、事務所を閉鎖して業務を行わず、早稲田教育センターは事実上倒産した。その結果、東京事務所関係だけで、契約不履行により契約者(父母)の被った損害額は約一億五〇〇〇万円に達し、また、家庭教師(学生アルバイト)に対する未払債務約七〇〇万円が残った。
そして、右の者らのうち約三〇〇人によって被害者の会が結成され、同会において、早稲田教育センターの資産を調査したが、何ら発見できなかった。
(3) 被告義武は、早稲田教育センターと同業の会社に勤務した経験をもとに、自ら出資して早稲田教育センターを設立したものであり、設立時から代表取締役として、経営の実権を握って会社業務の全般について執行し、月額一〇〇万円の報酬を得ていた。被告山口は、運送業をしていたところ、妻が被告義武の姉であるという関係から、同被告より依頼されて設立時から取締役となり、当初は名目だけであったが、取締役兼従業員として、被告義武の指示のもとに、昭和六二年七月からは営業を担当し、昭和六三年一一月からは被告山本に代わって経理をも担当するようになり、月額三〇万円の報酬を得ていた。被告久美子は、被告義武の妻であって、被告義武との身分関係上、同被告の求めにより、早稲田教育センター設立のためにのみ取締役として名義を使用することを承諾して取締役となったものであり、青森市に居住していて、経営に関与したり業務に従事したことは一切なく、取締役としての報酬や従業員としての給与も全く受け取っていない。被告山本は、設立時からの従業員であり、経理部長となったが、昭和六三年四月取締役に就任し、被告義武の指示のもとに経理を担当していたところ、被告義武から不正を疑われて、同年一一月一日、解雇された形で従業員を辞め、それ以来、取締役の地位は残っているものの、一度も出社したことがなく、経営に関与したり業務に従事したことは一切なく、取締役としての報酬も全く受け取っていない。
早稲田教育センターは、会社設立以来一度も取締役会が開催されたことがなく、被告義武が業務執行の一切を決定する同人のワンマン会社であった。被告久美子、被告山口及び被告山本が、被告義武に取締役会を招集することを求めたり、自ら招集することはなかった。
2(1) 前記1に認定した事実によれば、平成元年一月上旬ころには、当時の早稲田教育センターの経営規模・経営状態・資産状態並びに同社の倒産時期等に照らせば、同社は近い将来倒産に至り、ひいては前記「個人指導等に関する契約」を履行できないことが十分予想しえたところ、それにも拘らず、被告義武は、同社の代表取締役として、前記二のとおり、原告らと同社との間の前記「個人指導等に関する契約」(請求原因2(1)の契約)を締結させたというべきである。従って、被告義武は、重過失により代表取締役としての任務を懈怠したものであり、原告らが被った前記二の損害(請求原因2(2)の損害)と右任務懈怠行為との間には相当因果関係があるものといわなければならない。被告義武は、商法二六六条の三第一項により、右損害を賠償すべき義務がある。
(2) 原告らは、被告義武を除く被告らについても業務執行に関する注意義務違反を主張するが、右被告らは、前記1に認定したとおり、業務執行権を有していないのであるから、右主張は採用できない。
しかしながら、株式会社の取締役は、会社に対し、代表取締役が行う業務執行の全般につき、これを監視し、必要があれば、取締役会を通じて業務の執行が適正に行われるようにする職責があるというべきである。
そして、被告山口は、右職責を有したにも拘らず、また、前記1に認定したとおり、常勤取締役兼従業員として、早稲田教育センターの営業及び経理の業務を担当していたのであるから、右職責を果たすことができ、そうすればその影響力は大きいと認められるのに、前記1に認定したとおり、何らそのような行動をとらなかった。したがって、被告山口は、重過失により取締役としての任務を懈怠したものであり、原告らの被った前記二の損害と右任務懈怠行為との間には相当因果関係があるといわなければならない。被告山口も、商法二六六条の三第一項により、右損害を賠償すべき義務がある。
(3) 前記1に認定した事実によれば、被告久美子は、早稲田教育センターの名目的な取締役であるところ、確かに名目的取締役であっても取締役としての前記(2)の職責は免れないというべきである。しかし、前記1に認定した事実によれば、被告久美子は、取締役として被告義武の業務執行を監視するにつき何らなしていないのであるが、被告久美子は、被告義武との身分関係上、早稲田教育センター設立の際、員数合わせのため取締役になったもので、その経営に関与したことも業務に従事したことも全くなく、報酬も一切受けていない、全くの名目的取締役であること、早稲田教育センターは設立以来一度も取締役会が開催されたことがない、被告義武のワンマン会社であること、被告久美子は、早稲田教育センターの事務所から遠隔の地に居住していて、同社の経営内容及び代表取締役の業務執行を容易に知ることができる状況にはなかったこと、同社の経営或いは業務に関しては、被告久美子の被告義武に対する影響力は無いか非常に小さいことからすると、同被告の前記(1)の任務懈怠行為につき、被告久美子に右職責を尽くすことを求めることは甚だ困難であると認められる。従って、同被告については、取締役としての任務懈怠につき悪意又は重過失があったと認めることはできない。
(4) 被告山本も、取締役として前記(2)の職責を有しているところ、前記1に認定した事実によれば、被告山本も、取締役として被告義武の業務執行を監視するにつき何らなすところがなかったが、被告山本は、被告義武に不正を疑われて解雇という形で従業員を辞めさせられた昭和六三年一一月一日からは、早稲田教育センターの経営に全く関与せず、報酬を一切受けない、全くの名目的な取締役となったこと、同社は設立以来一度も取締役会が開催されたことがない、被告義武のワンマン会社であること、右解雇により事実上取締役たる地位をも失っており、被告義武に対する影響力はないことなどからすると、同被告の前記(1)の任務懈怠行為につき、被告山本に右職責を尽くすことを求めることは甚だ困難であると認められる。従って、同被告についても、取締役としての任務懈怠につき未だ悪意又は重過失があったと認めることはできない。
3 被告義武に対する訴状送達の日の翌日が平成元年九月一三日であり、被告山口に対するそれが同月一〇日であることは、記録上明らかである。
四以上の次第で、被告義武及び被告山口は、連帯して、原告平田に対し三二万八〇〇〇円、原告川島に対し四四万九〇四六円、原告森に対し六六万円、原告増水に対し一四二万一五三三円、原告三瓶に対し五九万六〇〇〇円、原告相塲に対し五四万九〇〇〇円及び右各金員に対する被告義武については平成元年九月一三日から、被告山口については同月一〇日から各支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払う義務がある。
よって、原告らの本訴請求のうち、被告義武及び被告山口に対する請求は理由があるからこれを認容し、被告久美子及び被告山本に対する請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官山口博)
別紙<省略>