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東京地方裁判所 平成元年(ワ)12590号 判決 1990年9月12日

東京都品川区荏原四丁目二番六号

原告

松尾ハンダ株式会社

右代表者代表取締役

松尾仁介

右訴訟代理人弁護士

國生肇

東京都墨田区横川二丁目二〇番一一号

被告

タルチン株式会社

右代表者代表取締役

大貫智司

右訴訟代理人弁護士

久保田穣

増井和夫

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  被告は、目録の物件(被告製品)を製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡もしくは貸渡しのために展示してはならない。

二  被告は、その占有する被告製品を廃棄し、同製品の製造に用いる設備を除却せよ。

三  被告は、原告に対し、七六八〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

本件は、原告において、考案の名称を「長尺半田材供給装置」とする登録番号第一七七八〇四八号の実用新案権(本件実用新案権。明細書及び願書添付の図面の記載は、本判決添付の甲第二号証の実用新案公報(本件公報)のとおり。)に基づき、被告に対し、被告製品の製造販売等の行為の差止めと損害賠償を求めている事案である。

一  争いのない事実

原告が本件実用新案権を有すること

被告が目録記載の被告製品を製造販売していること(ただし、被告は、目録の図面の説明及び構造と作用の説明中、「制御対象のハンダ槽」との表現は不適当であり、また、構造と作用の説明中、「台2はハンダ槽1に隣接又は近接して配置され」にいう「隣接又は」は削除されるべきであり、更に、構造と作用の説明中、「ハンダ誘導管13」、「熱遮蔽板14」及び「ノズル15」については、その存在と作用をはっきりと記載すべきである、と主張している。)

二  争点

争点は、被告製品が本件考案の技術的範囲に属するか否かであり、具体的には、次の各点に関する当事者双方の主張の当否である。

1  トップローラ及びボトムローラの位置

本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲には、「半田槽に取付けられて前記長尺半田材の先端が挿入される一組のトップローラ及びボトムローラ」と記載されているところ、被告製品においては、トップローラ6及びボトムローラ7はハンダ槽1に取り付けられておらず、台2に取り付けられている。この点に関して、原告は、トップローラ及びボトムローラが「半田槽」に取り付けられることは、本件考案の必須の構成要件ではなく、単なる「付けたり」の要件にすぎないから、これを欠く被告製品も、本件考案の技術的範囲に属するものであり、仮にそうでないとしても、本件考案にいう「半田槽」は槽が設置された床面をも含むものであるから、トップローラ6及びボトムローラ7がハンダ槽1の床面に取り付けられている被告製品は、本件考案の技術的範囲に属する旨主張し、これに対して、被告は、被告製品のトップローラ6及びボトムローラ7は、ハンダ槽1に取り付けられておらず、ハンダ槽1から離れた台2に取り付けられているから、被告製品は本件考案の技術的範囲に属しない旨主張している。

2  ハンダ誘導管の存在

被告製品にはハンダ誘導管13が存在するところ、原告は、被告製品が具備しているようなハンダ誘導管は、本件考案の構成要件ではなく、また、本件考案はこれを意図的に排除したものではないから、これを具備する被告製品は本件考案の利用考案に該当し、本件考案の技術的範囲に含まれる旨主張し、これに対して、被告は、本件考案は被告製品が具備しているようなハンダ誘導管を意図的に排除しているから、これを具備している被告製品は、本件考案の技術的範囲に属しない旨主張している。

3  効果の比較

被告は、被告製品は、本件考案には存在しないハンダ誘導管を具備することにより、本件考案の種々の欠点を解消し、本件考案にない特段の効果を奏するものである、と主張している。

第三  争点に対する判断

一  本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲には、「半田槽に取付けられて前記長尺半田材の先端が挿入される一組のトップローラ及びボトムローラ」と記載されているから、本件考案は、トップローラ及びボトムローラが「半田槽」に取り付けられることを構成要件とするものと認められるところ、被告製品においては、本件考案のトップローラに該当するトップローラ7及び本件考案のボトムローラに該当するボトムローラ7が本件考案の「半田槽」に該当するハンダ槽1に取り付けられていないことは、争いがない。そうすると、被告製品は、本件考案の右構成要件を充足せず、ひいては、本件考案の技術的範囲に属しないものというべきである。

二  原告は、トップローラ及びボトムローラが「半田槽」に取り付けられることは、本件考案の必須の構成要件ではなく、単なる「付けたり」の要件にすぎないから、これを欠く被告製品も、本件考案の技術的範囲に属する旨主張するが、前示本件考案の明細書の実用新案登録請求の範囲の記載によれば、本件考案は、トップローラ及びボトムローラが「半田槽」に取り付けられる構成を必須の構成要件とするものであることが明らかであり、また、このことは、本件考案の詳細な説明の項に、「本考案の装置の特徴とする手段は、・・・半田槽に一組のトップローラとボトムローラを設け・・・るようにしたことにある。」(本件公報一頁二欄一九行ないし二頁三欄二行)と記載されていることからも明らかであるといわなければならない。原告の主張は、明細書の記載に基づかないか、又は明細書の記載を無視するものであって、採用することができない。

三  また、原告は、本件考案にいう「半田槽」は槽が設置された床面をも含むものであるから、トップローラ6及びボトムローラ7がハンダ槽1の床面に取り付けられている被告製品は、本件考案の技術的範囲に属する旨主張するが、本件考案の明細書には、原告の右主張を肯認するに足りる記載は見当たらず、かえって、前示記載を含む本件考案の明細書の記載及び願書添付の図面によれば、本件考案にいう「半田槽」は、半田材をその中に供給する槽自体を意味し、槽が設置された床面をも含むものではないことが認められる。したがって、原告の右主張は、採用の限りでない。

四  以上のとおりであるから、被告製品の製造販売行為は、本件実用新案権を侵害するものではない。

(裁判長裁判官 清永利亮 裁判官 一宮和夫 裁判官 若林辰繁)

1. イ号の名称 ハンダ自動供給装置

(商品名 タルチンリード)

イ号図面及びイ号説明は次のとおり

2. 図面の説明

第一図は制御対象である長尺ハンダと同じく制御対象の半田槽を含めて、それらを制御するハンダ自動供給装置(制御装置)の斜視図。

第二図は制御台2上の自動供給装置の部分斜視図である。

3. 構造と作用の説明

図において1は制御対象のハンダ槽、2は台、3は制御対象の長尺ハンダ材、4は巻枠、5は軸棒、6はトップローラ、7はボトムローラ、8は加圧スプリング、9は溶融ハンダ、10はハンダレベルセンサ、11は起電力検出器、12は駆動装置(モータ)、13はハンダ誘導管、14は熱遮蔽板、15はノズルである。

台2はハンダ槽1に隣接又は近接して配置され、長尺ハンダ材(直径三ミリメートル)は巻枠4にまかれている。

巻枠を貫通し、下端が制御台2に軸受されている軸棒5がある(これは見えない)。

トップローラ6とボトムローラ7と加圧スプリング8はピンチローラを構成している。

ハンダ槽1の溶融ハンダ9の液面の高さの検出はハンダレベルセンサ10によって行う。検出されたレベルに応じて前記ボトムローラ7を起電力検出器11・駆動装置(モータ)12によって駆動させ、前記ピンチローラに先端が挿入された長尺ハンダ材をハンダ槽に自動的に供給する。

尚、屈曲自在のハンダ誘導管13並びに同誘導管の端部にある熱遮蔽板14によって、ハンダ槽の側壁上端に固定されたノズル15は、溶融ハンダ面とピンチローラとの水平又は垂直距離が若干存する位置に台2を配置する場合に長尺ハンダ材を溶融ハンダ面まで誘導する為に必要なものであり、ハンダ槽上端に隣接して台2を配置する場合には必ずしも必要不可欠の装置では無い。しかしながら、誘導管を用いて使用することが多いと思料されるので、右誘導管13、熱遮蔽板14、ノズル15もイ号物件に含めることとする。

第一図

<省略>

<1> ハンダ槽

<2> 台

<3> ハンダ材

<4> 巻枠

<5> 軸棒

<6> トップローラ

<7> ボトムローラ

<8> 加圧スプリング

<9> 溶融ハンダ

<10> ハンダレベルセンサ

<11> 起電力検出器

<12> 駆動装置

<13> ハンダ誘導管

<14> 熱遮蔽板

<15> ノズル

第二図

<省略>

<19>日本国特許庁(JP) <11>実用新案出願公告

<12>実用新案公報(Y2) 昭62-43666

<31>Int.Cl.4B 23 K 3/06 識別記号 庁内整理番号 B-6919-4E <24><44>公告 昭和62年(1987)11月13日

<34>考案の名称 長尺半田材供給装置

<21>実願 昭60-82598 <65>公開 昭61-4871

<22>出願 昭57(1982)7月28日前特許出願日援用 <43>昭61(1986)1月13日

<72>考案者 松尾仁介 東京都品川区荏原4丁目2番6号 松尾ハンダ株式会社内

<71>出願人 松尾ハンダ株式会社 東京都品川区荏原4丁目2番6号

<74>代理人 弁理士 川上肇 外1名

審査官 小野秀幸

<36>参考文献 特開 昭52-57967(JP、A) 特開 昭49-103862(JP、A)

発明協会技報 公技番号79-2020号

<57>実用新案登録請求の範囲

屈曲自在な線状ないし帯状の長尺半田材を巻上げる巻枠と、前記巻枠を貫通する軸棒と、前記軸棒の両端部を着脱自在に軸受けする架台と、半田槽に取付けられて前記長尺半田材の先端が挿入される一組のトツプローラ及びボトムローラと、前記ボトムローラを半田槽のレベルに応じて回転させるレベル検出器及びモータを含む制御装置とからなる長尺半田材供給装置。

長尺半田材の断面積は80mm2以下であることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の長尺半田材供給装置。

架台は軸棒を垂直に軸受けすることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の長尺半田材供給装置。

架台は巻枠を水平に軸受けすることを特徴とする実用新案登録請求の範囲第1項記載の長尺半田材供給装置。

考案の詳細な説明

[産業上の利用分野]

本考案は半田槽の半田消費量に応じて長尺の半田を自動的に供給する供給装置に関するものである。

[従来技術]

自動半田付け装置においてプリント基板等に高精度の半田付けを行うためには、半田槽に消費量に応じた半田を補給して溶融半田のレベルを常に一定に保持しなければならない。従来の長尺半田を半田槽に供給する装置としては、糸半田をパイプを通じて供給する装置(発明協会公技番号79-2020号)が知られているが、供給する糸半田を巻枠に巻上げていないため、供給を自動化することは不可能であつた。又、断面積が比較的大きな糸半田をパイプに通すと、抵抗が大きく円滑な供給ができなかつた。糸等の繊維材に比べると長尺半田は重くて太い上に柔軟性に欠けるため、ミシンのように、糸巻きに巻いて半田槽よりも高い位置の固定垂直芯棒にはめるのは必ずしも容易ではないという問題があつた。

[考案が解決しようとする問題点]

本考案の目的は長尺半田材を容易に装架して連続的に半田槽へ自動的に供給する装置を提供して上記問題を解決することにある。

[問題点を解決するための手段]

前記課題を達成するため本考案の装置の特徴とする手段は、屈曲自在な線状ないし帯状の長尺半田材を巻枠に巻上げ、その巻枠に軸棒を通し、その軸棒の両端部を架台に軸受けし、半田槽に一組のトツプローラとボトムローラを設け、そのボトムローラを半田槽のレベルに応じて回転させる制御装置を設け、巻枠に巻上げた長尺半田材の自由端を一組のトツプローラとボトムローラの間に挿入して半田槽に長尺半田材を供給するようにしたことにある。

[作用]

通常、半田槽の一日(8時間)分の消費量に相当する量の半田材をコイル状にする。大型半田槽の場合、一日の半田消費量約30kgの長尺半田材を比校的コンパクトなコイル状にするためには、半田材の断面積は80mm2以下であることが望ましい。屈曲自在な半田材の連続供給は至極簡単であり、巻枠に巻いた場合は、巻枠が供給架台上で回転しやすいようにするだけでよく、綾振り状の半田材は相互にもつれないように架台に並べれるだけでよい。

断面積の小さい線状ないし帯状の半田材は較的自由に屈曲するから、半田槽よりも高い位置にある架台から供給ローラに挿入する必要はなく、架台を床上に設置し、その架台から半田材の一端を引上げてローラに挿入することもできる。したがつて、小型の半田槽で一日当たり供給量の少ないものは半田材の供給架台を半田槽上に装架するが、中型以上の半田槽で一日当たり供給量の多いものは半田材の供給架台を床上に設置して半田材の供給準備に要する労力を省くことが望ましい。

[実施例]

次に本考案の装置を図面に示す実施例に基づいて説明する。一日当たりの半田消費量が少ない場合は、第1図及び第2図に示すように、半田槽1に機枠2を固定し、その機枠にボトムローラ3を回転自在に軸支する。ボトムローラ3の上にトツプローラ4をのせ、そのトツプローラの両端の細軸5を機枠2に設けた軸受溝6に上下並びに回転自在にはめる。あらかじめ一日分の所要量の半田線10を巻いたフランジ付き巻枠11に軸棒12を通す。機枠2に架台7を固定し、その架台に軸受座8と軸受穴9を設ける。転棒12の下端部を軸受座8に上端部を軸受穴9にはめて巻枠11を架台7に立てる。巻枠11上の半田線10の先端を引出してトップローラ4とボトムローラ3の間に通す。ボトムローラ3の突出軸端にスプロケツトを取付け、機枠又は架台にアイドル軸14を植設する。アイドル軸14に二個のスプロケツト15、16を一体にはめ、チエーン17を介してスプロケツト13と15を連結する。床上にモータ18を設置し、チエーン19を介してスプロケツト16とモータ出力軸に固定したスプロケツト20を連結する。半田槽1にレベル検出器21を設け、図示していないが、半田槽のレベルが下限に達するとモータ18を起動させ上限に達すると停止させる制御回路を設ける。

半田付け作業中、半田槽1内の溶融半田が消費されてレベルが下限に達すると、レベル検出器21がモータ18を起動させ、モータの回転はチエーン伝達機構によりボトムローラ3に伝達される。トツプローラ4によりボトムローラ3に加圧されている半田線10は、ボトムローラ3の回転に伴い半田槽1へくり出される。半田線10がくり出されると、巻枠11が回転して半田線10が巻き戻される。半田槽1へくり出されて溶融半田の中に入つた半田線10の部分は断面積が小さいので、すなわち重量当たりの表面積が大きいので、直ちに溶融する。半田線10が半田槽1へ供給されて溶融し、レベルが上限に達すると、レベル検出器21がモータ18を停止させるので、半田線10のくり出しは停止する。この時、半田線10は溶融半田のレベルより少し上まで溶融するから、半田線10の先端はレベルより少し上の位置になる。このように、半田線10の巻枠11を作業開始時に架台7に取付て半田線の先端を一対のロール3、4に挿入しておけば、連続的に半田線10が半田槽1に供給され、溶融半田のレベルは常に一定に保持される。

半田材を帯状に巻いた場合、又は一日の半田消費量の多い半田槽の場合は、第3図及び第4図に示すように、機枠2の後方にガイドローラ30を回転自在に軸受し、床上に架台31を設置する.半田帯10をあらかじめ巻いた巻枠11に軸棒12を相互回転自在に通し、その軸棒12を架台31の軸受溝32にはめる。架台31は床上の低い位置にあるから、半田帯10を巻いた巻枠11が多少重くとも、巻枠11を架台31に設置する労力はわずかである。レベル検出器21の信号によりモータ18がボトムローラ3を回転させると、トツプローラ4とボトムローラ3の間に先端を挿入された半田帯10はガイドローラ30を介して巻枠11から引出され半田槽1に供給される。半田帯10が床上の巻枠11からガイドローラ30に案内されることは以外は第1図及び第2図の実施例と全く同じである。

[考案の効果]

上記の通り、本考案の装置は長尺半田材を簡単に労力を要することなく装架することができるから、半田層のレベルに応じて自動的に半田槽に供給して半田槽のレベルを精度よく一定に保持することができるという従来のものにはなかつた優れた効果を有する。

図面の簡単な説明

第1図及び第2図は本考案の一実施例の装置の側断面及び上面図、第3図及び第4図は同じく他の装置の第1図及び第2図に相当する図である。

1:半田槽、3:ボトムローラ、4:トツブローラ、7:架台、10:半田線、半田帯、11:巻枠、12:軸棒、18:モータ、21:レベル検出器。

第1図

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第2図

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第3図

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第4図

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実用新案公報

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