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東京地方裁判所 平成元年(ワ)2886号 判決 1992年3月26日

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

理由

第一  請求

一  被告株式会社電通(以下「被告電通」という。)は、原告に対し、金一〇億円及びこれに対する昭和六三年一〇月二〇日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

二  被告野村ファイナンス株式会社(以下「被告野村ファイナンス」という。)は、原告に対し、金五〇〇万円及びこれに対する平成元年三月一五日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二  事案の概要

一  本件は、原告が販売を企画した商品が被告らの債務不履行によつて販売できなかつたことを理由に、原告が債務不履行に基づく損害賠償請求として、その損害(後記四の3の〔一〕の(2)ないし(6)を参照)のうち、被告電通に対しては金一〇億円の支払を、被告野村ファイナンスに対しては金五〇〇万円の支払をそれぞれ求めた事案である。

二  当事者

1  原告は、装飾用ダイヤモンド、工業用ダイヤモンド及び貴石の輸入販売を主たる目的とする株式会社である。

2  被告電通は、内外の新聞、雑誌、放送、セールスプロモーション、映画、野外、交通、ダイレクトメールその他すべての広告及びパブリックリレーションズ業務の取扱いを主たる目的とする株式会社である。

3  被告野村ファイナンスは、クレジットカード業務、金銭の貸付け、信用保証業務を主たる目的とする株式会社であるが、旧商号は日本合同抵当信用株式会社で、平成元年四月一日、野村カードサービス株式会社(以下「野村カードサービス」という。)と合併し、右同日野村カードサービスは解散し、日本合同抵当信用株式会社は現在の商号に変更した。本件において問題とされているのは野村カードサービスの行為である。

右1及び2の事実は当事者間に争いがなく、右3の事実は、《証拠略》によつて認められる。

三  本件の発端

1  被告電通は、昭和六三年九月一七日から同年一〇月二日までの間大韓民国(以下「韓国」ともいう。)ソウル市において開催された第二四回オリンピック競技大会(いわゆるソウルオリンピック)の組織委員会との間で、同大会における公式エンブレム、公式マスコットなどを使用した日本国内におけるマーチャンダイジング(商品化権)とエンドースメント(広告、販促利用権)の許諾権(以下「商品化許諾権」という。)に関して、日本国内における唯一のサブライセンサーとなる旨の契約を締結した。この契約によつて、商品化許諾権の取得を希望する日本国内の法人または自然人は、被告電通と契約を締結してその権利を取得しなければならないことになつた。

2  原告は、昭和六三年六月、韓国法人でソウルオリンピックの韓国国内での宝飾品ライセンシーであるコン・ヴュ・コーポレーション・コリア(Com Vu CORPORATION KOREA’以下「コン・ヴュ社」という。)との間で、ソウルオリンピックの公式エンブレムと公式マスコットを付したダイヤモンドとアメジスト(紫水晶)の指輪、タイピン、タイバー、カフス、ペンダントヘッド、ピアスを日本国内に輸入し、これをソウルオリンピック記念限定商品として販売する計画を立てた。

3  そこで、原告代表者及びコン・ヴュ社の代表者ポール・エス・ハン(以下「ハン」という。)は、右同月、被告電通に接触し、原告に対し、右の商品に関して商品化許諾権の使用を許諾してくれるよう交渉を開始した。

右1の事実は当事者間に争いがなく、右2及び3の事実は、《証拠略》により認められる。

四  本件の争点

1  原告代表者とハンが被告電通と交渉した結果、原告が販売を企画した商品に対して商品化許諾権の使用を許諾する旨の契約及びこれに関連する契約が原告、被告電通及び野村カードサービス間に成立したか(成立したとして、いつ成立したのか、如何なる内容の契約が成立したかの点を含む。)。

〔一〕 原告の主張

(1) 原告と被告電通、野村カードサービスとの交渉の経緯について

〔ア〕 原告は、昭和六三年六月ころ、被告電通に対し、商品化許諾権を取得するための申請手続を行うため、被告電通のスポーツ・文化事業局オリンピック室副理事加藤克雄(以下「加藤」という。)に接触を図り、その内諾を得た。

ところが、被告電通は、同月下旬に至り、原告が設立後日が浅く、信用力、販売能力に不安があるとして原告に対して商品化許諾権の使用を許諾する旨の契約を締結することを渋つたので、原告は急きよ野村カードサービスに対して共同して右商品の販売事業を行つてくれるよう申し入れ、同者の承諾を得た。

〔イ〕 そして、原告は、同月二七日、被告電通及び野村カードサービスとの間で、次の内容のとおり被告電通が原告に商品化許諾権の使用を許諾することなどについて合意した。

<1> 原告と被告電通との間における合意

被告電通は、原告に対し、次の商品について次のとおりの内容で商品化許諾権の使用を許諾する。

{1} 対象商品とその価額

・ 八八ソウルオリンピックダイヤモンドセット(男性用指輪、カフス、タイピン、タイバーのセットと女性用指輪、ペンダント、イヤリングのセット)、小売価額は一セット当たり金二八五万円、生産者出荷価額は一セット当たり金一二七万八一七八円

・ 八八ソウルオリンピック貴金属記念セット(男性用指輪、カフス、タイピンのセットと女性用指輪、ペンダント、イヤリングのセット)、小売価額は一セット当たり金六九万円、生産者出荷価額一セット当たり金二四万九〇七七円

・ 八八ソウルオリンピック銀製記念セット(男性用指輪、カフス、タイピンのセットと女性用指輪、ペンダント、イヤリングのセット)、小売価額は一セット当たり金九万九五〇〇円、生産者出荷価額は一セット当たり金四万八三四八円

{2} 使用料(ロイヤリティ)単価は各生産者出荷価額の一〇パーセント、最低保証使用料(ミニマムロイヤリティ)は金三四八四万五一〇〇円

{3} 使用予定期間は昭和六三年六月二七日から同年一二月三〇日まで

<2> 原告と野村カードサービスとの間における合意

{1} 原告と野村カードサービスは、コン・ヴュ社から共同で右<1>の<1>の商品を輸入する。

{2} 野村カードサービスは、原告の依頼に基づき、商品の輸入のための信用状を開設する。

{3} 商品化許諾権は原告の名義で取得し、商品の輸入、販売は原告の計算と名義で行う。

{4} 商品輸入にかかる費用、信用状開設保証料、宣伝、広告費用はすべて原告が負担する。

{5} 原告は、被告電通に対するミニマムロイヤリティ及びロイヤリティの支払を野村カードサービスに委託する。

{6} 野村カードサービスと原告は右<1>の<1>の商品の販売活動を協力して行い、広告、宣伝活動はその共同名義(但し、野村カードサービスは販売提携という形態)で行い、右<1>の<1>の商品の販売に一致協力する。

{7} 原告は野村カードサービスに対し、同社の斡旋にかかる右<1>の<1>の商品の販売額の一五パーセントを毎月支払う。

<3> 被告電通と野村カードサービスとの間における合意

野村カードサービスは、被告電通に対し、原告が被告電通に支払うべき商品化許諾権のミニマムロイヤリティ及びロイヤリティを第一回目を昭和六三年八月二〇日締めの同年九月末日払いとし、その後は毎月二〇日締めの翌月末日払いとして支払う。

〔ウ〕 原告は、昭和六三年七月一日ころ、被告電通に対し、ミニマムロイヤリティを金三四八四万五一〇〇円とする商品化許諾権の使用許諾申込書を提出した。被告電通はこれを受けて直ちに加藤を渡韓させ、原告は、同月八日ころ、加藤から韓国オリンピック組織委員会が原告による商品化許諾権の使用を許諾した旨の通知を受けたので、同月一一日、コン・ヴュ社との間で次のとおりダイヤモンドセット及びアメジストセット(以下「本件商品」という。)の売買契約を締結した。

<1> 本件商品

{1} ダイヤモンドセット

・ 男女ペアセット(男性用の指輪、タイピン、タイバー、カフスボタン各一組、女性用の指輪、ペンダントヘッド大、ペンダントヘッド小、ピアス各一組)

・ 総数カラットは平均五カラット以上

・ クラリティーはS1クラス以上

・ カラーは{1}カラー以上

・ 材料は本体が一八K、ダイヤモンド部分台座(頭部台座)がPt(プラチナ)九〇〇

・ 価格は日本円で一セット金一二五万七二五六円

{2} アメジストセット

・ 男女ペアセット(男性用の指輪、タイピン、カフスボタン各一組、女性用の指輪、ペンダントヘッド、ピアス各一組)

・ 材料は本体が一八K、天然紫水晶(Aグレード)

・ 価格は日本円で一セット金二四万五〇〇〇円

<2> 納期は受注日から四週間以内

<3> 最低購入保証はダイヤモンドセット、紫水晶セット各二〇〇セット

〔エ〕 そして、加藤は、昭和六三年七月一二日、原告に対し、本件商品に対する商品化許諾権の使用許諾の承認番号はJSL一二二であり、承認番号交付書を同月一三日に原告に交付する、今後原告の販促活動が可能であることなどを伝えた。

そこで、原告及び野村カードサービスは、今後の販促活動の具体的方法を話し合い、原告は新聞広告を通じての宣伝、在日韓国人が組織する各種団体を通じての宣伝を、野村カードサービスは野村証券株式会社をはじめとする野村グループの企業の社員及びその顧客への働きかけ、野村カードサービスと提携関係にあるJCBの会員への宣伝活動をそれぞれ行うことを確認した。

そして、原告と野村カードサービスは、同月一一日にはすでにダイレクトメール用のチラシ及び新聞広告を加藤に提示して承認を受け、同月一二日には被告電通から口頭で承認番号が伝えられたので、同月一三日ころ従前から本件商品のための広告の制作を依頼していた株式会社ネットワーク(以下「ネットワーク」という。)を通じて財団法人新聞広告審査協会(以下「審査協会」という。)への審査を依頼し、同社は日本経済新聞株式会社(以下「日経新聞」という。)と取引関係にある株式会社毎日広告社(以下「毎日広告」という。)に審査対象である原稿を送付して審査の依頼を行つた。

しかし、被告電通は同月一三日に原告に承認番号交付書を交付しなかつた。

〔オ〕 被告電通の第七営業局(被告電通における野村証券株式会社をはじめとする野村グループの担当部署で、以下「第七営業局」という。)の小林営業部長とオリンピック室の加藤は、同月一五日ミニマムロイヤリティ及びロイヤリティの支払を各月二〇日締めの翌月払いであることを確認し、加藤は同月一八日原告に対して本件契約内容を確認した書面をファックスで送付した。原告及び野村カードサービスはこれにより前記のとおり販促活動を積極的に展開した。

日経新聞は同月一九日審査協会に対して本件商品に対する広告の審査依頼をし、審査協会の篠原延邦(以下「篠原」という。)は加藤に対し、被告電通が原告に承認番号を付与したかを問い合わせたところ、加藤は篠原に対し、原告に対して商品化許諾権の使用を許諾し、承認番号も口頭て伝えたが、原告に対する権利関係は未だ明確でない(または今後詰めなければならない問題が残つている。)ので、承認番号交付書は未だ原告に交付していないなどと回答し、あたかも原告が商品許諾権の使用許諾を正式かつ最終的には得ていないかのような態度をとつた。このため、審査協会は、同月二五日日経新聞に対して掲載申込みのあつた広告については二、三の文字を削除すべきであり、商品化許諾権の使用許諾につき被告電通の正式かつ最終的な許諾を得るべきであるとの回答を行い、その旨は日経新聞、毎日広告社、ネットワークへと順次伝えられ、原告には承認番号交付書の交付を受ければ広告ができると伝えられた。

しかし、原告は被告電通から商品化許諾権の使用許諾を得ていたので、右回答に納得できず、直ちに篠原に問い質したところ、篠原は原告代表者に対し、加藤から商品化許諾権の使用許諾はしたものの、承認番号交付書は交付していないとの回答を受けたから、審査協会としては承認番号交付書の交付を受ければいつでも広告することができると判断しているゆえ、被告電通から御墨付をもらつてほしいと答えた。

そこで、原告は、野村カードサービスに右の趣旨を伝え、野村カードサービスは第七営業局を通じて再三加藤に対して承認番号交付書の交付を求め、原告及び野村カードサービスが円滑かつ十分な販促活動が行えるような措置をとるように申し入れ、ハン社長も再三来日して加藤に承認番号交付書の交付を申し入れた。しかし、被告電通は明確な回答をしないまま承認番号交付書の交付を拒絶し続けた。なお、ハン社長によれば、野村カードサービスのミニマムロイヤリティの支払について、オリンピック室は契約締結時に支払つてもらえるものと考えていたところ、第七営業局が野村カードサービスとの間で昭和六三年八月二〇日締めの同年九月三〇日払いとしたので、オリンピック室が商品化許諾権の使用許諾に難色を示しているとのことであつた。

〔カ〕 被告電通は、昭和六三年八月一七日野村カードサービスに対してミニマムロイヤリティの支払請求書を発送しようとしたところ、野村カードサービスはその受領を拒否したうえ、同月一八日第七営業局に対し、正式な承認番号交付書の交付を受けていないと抗議した。これに対し、第七営業局は承認番号交付書の交付はミニマムロイヤリティの支払と引換えになつているようだと答えた。このため野村カードサービスにおいては権利関係の不明確な商品について積極的かつ大々的な販促活動を行うわけにはいかないとの考えが大勢を占めるに至り、その販促活動をにぶらせることとなつた。

原告及び野村カードサービスは、同月二二日、被告電通に対し、同被告が承認番号交付書を交付しないので実質的な宣伝、広告可能期間及び販売可能期間が短縮されたとして、ミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円に引き下げ、当初の約定どおり直ちに承認番号交付書を交付するよう求めた。これに対し、被告電通は右同日承認番号交付書をファックスで原告に送付したうえ、翌日には原本を交付すると伝えた。

しかし、被告電通は同月二三日に承認番号交付書の原本を交付しなかつた。

(2) 本件契約の成立及びその成立時期

右(1)の被告電通及び野村カードサービスとの交渉の経緯から明らかなとおり、昭和六三年六月二七日ころまたは遅くとも同年七月一一日までには原告、被告電通及び野村カードサービスは右(1)の〔イ〕の<1>ないし<3>のとおりの内容の契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(3) 本件契約によつて被告電通及び野村カードサービスがそれぞれ負担した債務について

〔ア〕 被告電通の債務について

本件契約は、被告電通が原告に対して商品化許諾権の使用を許諾し、野村カードサービスが右の使用許諾の対価としてミニマムロイヤリティ及びロイヤリティを支払うというものであり、被告電通は、本件契約によつて、原告に対し、商品化許諾権の使用を許諾する義務を負うことになるが、右の義務には、単に原告にソウルオリンピックの公式エンブレム、公式マスコットの使用を許諾するだけでなく、契約の全期間を通じて原告がソウルオリンピックの公式エンブレム、公式マスコットを使用することを妨げてはならないとの義務が本来の債務または付随的義務として含まれる。

そして、前記のとおり、本件契約は昭和六三年六月二七日または遅くとも同年七月一一日までに成立しており、本件契約では野村カードサービスのミニマムロイヤリティの支払時期は昭和六三年九月末日となつていたから、被告電通の右使用許諾の義務は右の野村カードサービスの支払義務に対して先履行の関係にあつたということができ、したがつて、被告電通はミニマムロイヤリティの支払前でも原告が商品化許諾権で認められた公式エンブレム、公式マスコットなどを使用することを妨げてはならない。

〔イ〕 被告野村ファイナンス(野村カードサービス)の債務について

被告野村ファイナンス(野村カードサービス)は、本件契約によつて被告電通に対してミニマムロイヤリティ及びロイヤリティ支払義務を負うことになるが、右の支払方法及び支払時期は被告電通と野村カードサービスとの間で決められたのであるから、右の支払義務のほかに右の支払方法及び支払時期について紛争が生じた場合にはその紛争を早期に解決し、右の支払の対価として原告に使用が許諾された公式エンブレム、公式マスコットなどを使用することができる状態を作出する義務を負うとともに、前記のとおり、本件商品の販売、販促活動を原告と協力して行い、もつて本件商品の販売に一致協力する義務も負つている。

〔二〕 被告電通の主張

(1) 原告と被告電通及び野村カードサービスとの交渉の経緯について

〔ア〕 ハン社長が、昭和六三年六月二四日、コン・ヴュ・コーポレーション・ジャパン(Com Vu CORPORATION JAPAN)の代表者である中村社長とともに被告電通を訪れ、原告を日本国内におけるライセンシーとして推したいとの打診があつたので、被告電通は直ちに原告の信用調査をしたところ、取引の相手方としてふさわしくないことが判明したので、原告との間でライセンシー契約を締結することは難しい旨答えた。その後、原告代表者から野村カードサービスとの提携販売であればどうかとの提案がされ、さらに、野村カードサービスの取締役である畑秀夫(以下「畑」という。)が、同月二七日被告電通の第七営業局に対して原告をライセンシーとすることにつき協力方を要請した。

そこで、被告電通は、原告の販売計画等の概要を把握する必要上、原告に対して商品化許諾権の使用許諾申込書の提出を促したところ、原告から同月二八日ころ加藤に対して、ミニマムロイヤリティを金三四八四万円とする申込書の提出がされた。

そして、被告電通は、野村カードサービスとの話合いの結果、同年七月一五日ころ、原告のミニマムロイヤリティを野村カードサービスが原告に代わつて直接被告電通に支払うことを承諾する旨の通知を受けたことから、原告に対してミニマムロイヤリティを野村カードサービスが支払うことを応諾したので、原告との契約の締結が可能となつた旨を伝えるとともに、口頭で日本オリンピック委員会(JOC)の承認番号はJSL一二二となることを連絡し、さらに同月一八日ファクシミリでその旨を原告に伝えた。

被告電通は、同月二二日野村カードサービスと打合せを行い、原告が被告電通宛に提出した商品化許諾権の使用許諾申込書の写しを示して金額の確認を行うとともに、ミニマムロイヤリティ、ロイヤリティの請求業務はすべて野村カードサービスとの間で行うこと、野村カードサービスは被告電通に対してミニマムロイヤリティを支払うことを確認した。そして、被告電通は、同月二七日、野村カードサービスとの話合いの結果、ミニマムロイヤリティの支払時期を昭和六三年八月二〇日請求、同年九月三〇日支払とすることにした。

〔イ〕 原告は、被告電通が口頭で承認番号を伝えたことから本件商品の販促活動を開始した。原告は同年七月一一日にはすでにダイレクトメール用のチラシ及び新聞広告の原稿を準備し、同月二二日には折り込みチラシと在日韓国人向けの新聞広告を被告電通に提示し、右同日東洋経済日報に全一五段(全頁)の広告を野村カードサービスとの連名で掲載し、そのころ同様に同社との連名によるダイレクトメールを発送した。さらに同月二三日には統一日報に全一五段の広告を、韓国新聞に全五段の広告をそれぞれ同様の連名で行い、同年八月六日には韓国新聞に全五段の広告を原告の名で行つた。そのほか原告と野村カードサービスは、ダイレクトメール、チラシ及び在日韓国人向けの新聞広告を使つた宣伝活動を行つた。

〔ウ〕 しかし、このように原告と野村カードサービスが販促活動を行つたにもかかわらず、本件商品の販売見通しがたたなかつたことから、野村カードサービスは、同年八月一六日、被告電通に対し、ミニマムロイヤリティの請求書の受領を拒絶する旨の通知を行つた。

そこで、被告電通は直ちに原告代表者にその旨及びもし野村カードサービスがミニマムロイヤリティを支払わないのであれば、原則どおり原告が即金でミニマムロイヤリティを支払わない限り、原告との商品化許諾権の使用許諾契約を締結することはできないと申し入れた。被告電通は右の申入れによつて原告がミニマムロイヤリティを全額即金で支払つてくるものと考え、同月一九日、スポーツ文化事業局長印を押捺した被告電通と原告との間の商品化許諾権の使用許諾契約書四通を原告宛に送付した。

〔エ〕 ところが、原告は、同月二三日ころ、被告電通宛にミニマムロイヤリティを金二〇〇万円に減額した商品化許諾権の使用許諾申込書を送付してきたので、被告電通は直ちに原告に対して右の申込みには応諾できない旨伝えた。

(2) 本件契約の成否について

右(1)の経緯から明らかなとおり、本件契約は未だ成立しておらず、仮に成立しているとしても、原告は本件商品の販売見通しを誤り、野村カードサービスは販売見通しがたたないことからミニマムロイヤリティの支払を拒絶したに過ぎず、野村カードサービスによるミニマムロイヤリティの支払拒絶によつて本件契約は消滅した。そして、ミニマムロイヤリティを金二〇〇万円とする商品化許諾権の使用許諾契約については、原告からの申込みはあつたものの、被告電通はこれに応諾しなかつたのであるから、成立しておらず、結局、原告と被告電通との間には何らの債権債務も存しない。

〔三〕 被告野村ファイナンスの主張

本件契約において原告と野村カードサービスが合意したのは、原告が被告電通に支払うべきミニマムロイヤリティ及びロイヤリティを野村カードサービスが原告に代わつて支払うというに過ぎず、しかも右は原告が支払に必要な金員を野村カードサービスに提供しない場合には、野村カードサービスは被告電通に支払わないこととされ、野村カードサービスは単なる支払窓口に過ぎなかつた。このことは顧客の代金支払が前払いとされ、またコン・ヴュ社に対する代金支払が前払いとされていたため、野村カードサービスがコン・ヴュ社に本件商品を注文するにあたつて実質的に代金支払義務を負担しない仕組みになつていたことからも明らかである。

原告は、原告と野村カードサービスが本件商品の販促活動を協力して行い、広告宣伝活動はその共同名義(但し、野村カードサービスは販売提携という形態)で行い、本件商品の販売に一致協力する旨の合意があり、本件商品の販売は原告と野村カードサービスとの共同事業であると主張するが、そのような合意がされたことはない。従来原告と野村カードサービスの間には、原告が販売するダイヤモンド等の商品の販売を野村カードサービスが斡旋して手数料を取得するという関係があつたに過ぎず、本件の場合も、原告が被告電通から商品化許諾権を取得したうえ本件商品を販売する事業を行い、その販売にあたり従来同様に野村カードサービスが本件商品の販売を斡旋して原告から手数料を取得するというものに過ぎなかつた。

また、原告が野村カードサービスを本件契約に引き入れたのは、本来、被告電通が商品化許諾権を付与する場合、ミニマムロイヤリティは契約時に現金で支払うことになつていたが、原告はそれが不可能であつたので、契約時にミニマムロイヤリティの支払をせずに、被告電通との間で商品化許諾権の使用許諾契約を締結するため野村カードサービスに協力を要請したものである。その後の交渉の経緯は前記〔一〕の(1)の〔ウ〕ないし〔カ〕のとおりであり、これらの経緯に鑑みれば、本件契約が成立したのは昭和六三年六月二七日ころではなく、同年七月一一日ころである。

2  被告電通に本件契約の債務不履行はあつたか。

〔一〕 原告の主張

(1) 被告電通は、原告に対し、前記のとおり、許諾にかかる公式エンブレムや公式マスコットなどを販促活動、広告活動に使用させる義務を負つているところ、次のとおり、その使用を妨げた。

〔ア〕 被告電通は、昭和六三年七月一二日、前記のとおり、原告に承認番号を伝えた際、翌一三日に承認番号交付書を交付すると述べたけれども、結局同月一三日以降承認番号交付書を交付しなかつた。そのため販促活動と広告活動について原告に協力する義務を負つていた野村カードサービスにおいては、その会社的信用の保持という観点から、権利関係の明確でない商品化許諾権を使用することはできないとの判断が働き、販促活動が停滞した。

すなわち、野村カードサービスは、本件商品の見本の展示のため、一旦は昭和六三年七月三〇日を船積期間とする信用状を開設したが、被告電通が承認番号交付書を交付しない状況にあつたため、サンプルの輸入を断念して同年八月一二日右信用状の取消しを申請し、また、原告に約束していたロッテ、全日空などに対する販促活動も全く行わなかつたうえ、担当責任者である畑は同年九月九日から同月一八日まで販促活動の放棄というべき夏期休暇をとつてしまつた。

そのうえ、被告電通は、同月一三日には野村カードサービスに対し本件契約を解除する旨通知して原告と野村カードサービスの販促活動を決定的に阻害するに至つた。

(イ) 被告電通は、審査協会からの問合わせに対し、原告には商品化許諾権の使用を許諾したものの、承認番号交付書を未だ交付していないなどと答えたため、同協会は原告に使用が許諾された商品化許諾権にかかる権利関係が未だ不明確であるかのような疑念を抱き、原告に対し、承認番号交付書の交付を受けるなどして権利関係を明確にすれば、いつでも本件商品の広告を全国紙に掲載することは可能であると回答した(なお、被告電通は、審査協会の原告に対する回答内容について、一旦、自白しながら、後にこれを撤回したが、右自白の撤回には異議がある。)。これにより原告と野村カードサービスは、承認番号交付書が交付されない以上、読売新聞、日経新聞などの全国紙には本件商品の広告が掲載できないと考え、全国紙に本件商品の広告を掲載することを中止せざるを得なくなつた。

〔ウ〕 被告電通のオリンピック室は、当時、日本オリンピック委員会に対し、原告に関しては支払条件の折合いがつかないので、承認は正式には与えていないとの報告を行つた。日本オリンピック委員会は、日本国内において公式エンブレム等の無許可の使用があつた場合に差止め等の法的手段をとることができるから、被告電通による右のような報告がされている状況のもとで全国紙による広告を行えば、同委員会から法的手段を含めたクレームがつけられる状況にあつたため、原告は本件商品の広告を全国紙に掲載することができなかつた。また、原告は、その後、野村カードサービスから被告電通を用いて広告を掲載した方が費用が安くなると言われ、全国紙への広告の掲載は専ら被告電通を通じてすることにしていたので、他の媒体を通じての全国紙への掲載は考えなかつた。

〔エ〕 原告は、日本に在住する韓国人の団体である民団を訪ねて名簿を手に入れ、この名簿に基づいてダイレクトメールを発送しようとしたが、民団の中には承認番号交付書の提示を要求するところがあり、そのため、名古屋、九州、北海道及び東北など一三五支部において名簿を手に入れることができず、右の支部の団員にはダイレクトメールを送ることができなかつた。

〔オ〕 原告は、昭和六三年八月一〇日高島易断総本部神聖会から本件商品のうちダイヤモンドセット一五〇個及び紫水晶セット一〇〇個を最低保証として本件商品の販売を斡旋する旨の販売保証を得たが、原告が同会に約束した全国紙による宣伝、広告が実施できなかつたことから、原告の権利関係に問題があると疑われ、結局同会の信者に対する本件商品の販売の斡旋は行われなかつた。

〔カ〕 原告は、右同日ころ株式会社学研映像社からその取引先である株式会社本田技研及びその関連会社への販売の斡旋をとりつけたが、原告が同社に約束した全国紙による宣伝、広告が実施できなかつたことから、原告の権利関係に問題があると疑われ、結局同社の取引先に対する本件商品の販売の斡旋は行われなかつた。

〔キ〕 被告電通は、同年九月一一日販促活動のため野村カードサービスが輸入した本件商品のサンプルにつき権利関係が確定していないとの理由で通関手続を阻害し、同月一三日には野村カードサービスに何らの解除原因がないにもかかわらず本件契約の解除通知を行い、これらによつて同社の販促活動を決定的に阻害した。

以上、被告電通の債務不履行に当たるというべきである。

(2) 仮に本件において、承認番号交付書の交付がなくとも新聞広告が可能であつたとしても、当時、原告及び野村カードサービスは、承認番号交付書がなければ新聞広告ができないと思い込んでいたのであり、そもそも商品化許諾権の使用を許諾する旨の契約では、許諾者は契約期間を通じて継続的に被許諾者に許諾にかかる対象物を使用させる義務を負うから、被許諾者が許諾にかかる対象物の使用をその知識不足または誤解によつて使用できない状況にあり、これについての問合わせを許諾者に行つているため被許諾者が許諾にかかる対象物を使用できない状況に陥つていることを知つている場合には、許諾者は被許諾者に一定の助言を与え、許諾にかかる対象物の利用を可能にさせる義務を負つているというべきである。したがつて、被告電通は、本件契約に基づいて、原告及び野村カードサービスに対し、新聞広告を掲載するに当たつて承認番号交付書は不要である旨の助言をすべきであつたが、これを怠り、そのような助言をしなかつたのであるから、被告電通には債務不履行がある。

〔二〕 被告電通の主張

(1) 原告は、被告電通が承認番号交付書を交付しないことによつて原告の販促活動を阻害し続けたと主張するもののようであるが、担当者の加藤は日本におけるオリンピックエンブレム等のエージェントである被告電通の業務に従事していたもので、公式スポンサー、ライセンシーを獲得し、エンブレム等の商品化許諾権の使用料等を確保してオリンピック競技大会の運営に支障をきたすことのないようにするなどの債務を負つていたのであるから、原告や野村カードサービスの販促活動を阻害するはずがない。

(2) 加藤は、昭和六三年七月一九日ころ、審査協会の担当者から被告電通が原告に承認番号を付与したか否かの問合わせを受けた際、同人に対し、間違いなく承認番号を付与した旨回答した。したがつて、原告が審査協会の審査を必要とする全国紙などの新聞に広告を掲載するについては、何らの支障もなかつたはずである(なお、原告主張の審査協会の回答内容については、これを認めたが、それは真実に反する陳述で錯誤に基づくものであるから、その自白を撤回し、否認する。)。

3  被告電通の債務不履行により、原告はその主張する損害を受けたか。

〔一〕 原告の主張

(1) コン・ヴュ社が韓国で本件商品のうちアメジストセットと同種の商品を販売したところ、わずか三日間で爆発的に売れ、オリンピック競技大会の期間の経過後も売れ続けたが、その際にとられた販促活動は全国紙における大々的な宣伝、広告と銀行の店舗の一角におけるサンプルの展示であり、この販促活動がコン・ヴュ社が共同事業者として選んだ銀行の信用と相まつて爆発的な売行きをもたらしたのである。

本件では、原告は野村カードサービスを共同事業者としており、その信用性は十分といえるが、前記のとおり、被告電通が承認番号交付書を交付しない状況にあつたため、商品化許諾権にかかる権利関係が未だ不明確であるかのような疑念を野村カードサービスに抱かせ、これにより野村カードサービスに本件商品の販売につき積極的な協力をすることを躊躇させた。そのうえ、原告は承認番号交付書の交付がないため全国紙に本件商品の広告を掲載することはできないと考えたが、審査協会に加盟していない新聞社の発行する新聞への広告掲載、ダイレクトメールなどによつて原告に対する申込みは三〇件もあり、その後のアンケートによつても本件商品についての関心の高さが窺われ、民団の本件商品に対する関心も非常に高かつた。そして、全国紙の発行部数は原告が新聞広告を掲載した新聞の発行部数の約三四倍あるから、当初の予定どおり全国紙に本件商品の広告が掲載され、ダイレクトメールの発送、チラシなどの配付、サンプルの展示などがスムーズに行われ、野村カードサービスが販促活動に積極的に協力していれば、本件商品が完売した蓋然性は極めて高かつたというべきである。

したがつて、本件では、原告が販売を予定していた一九八八セットをすべて販売することができたということができる。

(2) ところで、本件商品一九八八セットが完売された場合の売上高、仕入原価は次のとおりである。

(ア) 売上高

<1> ダイヤモンドセット(一九八八セット)

{1} 小売価額一セット 金二八五万円

{2} {1}×一九八八セット 金五六億六五八〇万円

<2> アメジストセット(一九八八セット)

{1} 小売価額一セット 金六九万円

{2} {1}×一九八八セット 金一三億七一七二万円

〔イ〕 仕入原価などの費用

<1>ダイヤモンドセット(一セット)

{1} 原価 金一二七万八一七八円

{2} 物品税 金三七万一七三九円

{3} ロイヤリティ 金一二万七八一七円

{4} 関税 金七万九二三六円

{5} {1}+{2}+{3}+{4} 金一八五万六九七〇円

{6} {5}×一九八八セット 金三六億九一六五万六三六〇円

<2>アメジストセット(一セット)

{1} 原価 金二四万九〇七七円

{2} 物品税 金九万円

{3} ロイヤリティ 金二万四九〇七円

{4} 関税 金一万六四三四円

{5} {1}+{2}+{3}+{4} 金三八万〇四一八円

<6> {5}×一九八八セット 金七億五六二七万〇九八四円

したがつて、本件商品一九八八セットの逸失利益は、次のとおりである。

〔ウ〕 ダイヤモンドセット(一九八八セット)

〔ア〕-〔イ〕 金一九億七四一四万三六四〇円

〔エ〕 アメジストセット(一九八八セット)

〔ア〕-〔イ〕 金六億一五四四万九〇一六円

(3) 原告とコン・ヴュ社の契約では、最低購入保証として原告は同社から本件商品のうち二〇〇セットを購入する義務を負つているから、右二〇〇セット分の仕入原価も原告の損害に含まれるということができる。そして、二〇〇セット分の仕入原価は次のとおりである。

〔ア〕 ダイヤモンドセット(二〇〇セット)

<1> 原価(一セット) 金一二七万八一七八円

<2> <1>×二〇〇セット 金二億五五六三万五六〇〇円

〔イ〕 アメジストセット(二〇〇セット)

<1> 原価(一セット) 金二四万九〇七七円

<2> <1>×二〇〇セット 金四九八一万五四〇〇円

(ウ) 合計 金三億〇五四五万一〇〇〇円

(4) 原告が本件商品を販売しようとして要した費用は次のとおりであり、その合計は金六〇一七万四四三〇円であるが、これらの費用はすべて支出済みであるから、そのすべてが原告の損害に当たるというべきである。

・宣伝用資料製作費及び広告宣伝費 金四八五三万六四二〇円

・紙筒(ポスター用) 金一〇万二二〇〇円

・ネガポジテュープ代 金九万〇三〇〇円

・JCB会員への配布のカード広告 金八五万五〇〇〇円

・オリンピック名刺製作費 金四万七五〇〇円

・アルバイト人件費 金七〇万七四五〇円

・切手代 金五二万円

・民団への宣伝資料配送代 金一一万四二六〇円

・オリンピック垂れ幕 金六〇万円

・企業調整費 金六万円

・通関料及び関税(サンプル用) 金一三万四八〇〇円

・角二封筒 金四万五〇〇〇円

・民団兵庫切手代 金六万八〇〇〇円

・張得成民韓国での受注窓口旅費代 金八一万三〇〇〇円

・東洋経済日報広告料 金一六〇万円

・韓国新聞広告料 金一〇〇万円

・統一日報広告料 金二〇〇万円

・広告製作費 金一五四万八五〇〇円

・事務所賃料 金一八〇万円

(5) 原告は全国紙による新聞広告を予定していたが、発行部数の最も多い読売新聞全国版五段料金一四五三万九七五〇円を基準にして四大紙に三回広告を行うとすると、その費用は金一億七四四七万七〇〇〇円であるから、少なくとも金一億七四四七万七〇〇〇円の広告費がかかるはずであつたということができる。

(6) 以上によれば、原告が被つた損害は、右(2)ないし(4)の損害額の合計から(5)の広告費を差し引いた金三〇億二九八一万八〇八六円である。

(二) 被告電通の主張

被告電通の原告に承認番号交付書を交付しなかつたからといつて、原告が一切の販促活動ができなかつたわけではない。そもそも第二四回オリンピック競技大会は、昭和六三年九月一七日から同年一〇月二日までの間、韓国ソウル市で開催されたが、被告電通が日本国内におけるエージェントとして公式エンブレム及び公式マスコットなどを使用したマーチャンダジィング及びエンド-スメントの許諾のためのスポンサー等の募集活動を開始したのは、これに先立つ約二年前であつた。同六一年一月二〇日ころ、企業を集めた説明会を開催し、同月二一日から同年二月二〇日までの第一次の申込受付を実施し、同年中にはスポンサーのほとんどが決定し、営業活動を開始していた。スポンサーとなつた各企業は口頭による承認によつて営業活動を開始しているが、この点、原告の当初の販促活動と何ら異なるところはなく、現に前記のとおり原告は販促活動を行つている。しかも原告及び野村カードサービスはダイレクトメール、チラシ及び在日韓国人向けの新聞広告による宣伝活動を行うことのみを考え、日本国内における一般紙での広告は考えていなかつたのであり、このことは原告が予め被告電通に明言していたところである。したがつて、被告電通から承認番号交付書の交付を受けられなかつたからいつて、それが直ちに本件商品の販売不振に直結したということはできない。

なお、原告が主張する損害は、およそ本件商品が売れなかつたことによる損害とはいえない。

4  被告野村ファイナンス(野村カードサービス)に本件契約の債務不履行はあつたか。

〔一〕 原告の主張

被告野村ファイナンス(野村カードサービス)は、原告に対し、前記のとおりの債務を負つていたところ、審査協会から全国紙に広告を掲載するには承認番号交付書が必要であると聞いた後である昭和六三年七月下旬ころ以降は、一旦開設した信用状を取り消し、約束していたロッテ、全日空に対する販促活動を行わず、高額所得者の選別及びダイレクトメールの発送作業も中止したうえ、同年八月には被告電通が原告に対しミニマムロイヤリティの支払と引換えでなければ承認番号交付書を交付できない、すでに本件契約による契約関係は消滅したなどと申し入れたことを知つたのであるから、本件契約によつ負つた前記債務に基づいて右被告電通の不合理な要求を直ちに撤回させ、または支払方法及び支払期日を確定させ、未だ交付されていない承認番号交付書の交付を受けるよう適宜な措置をとるべきであつた。ところが、これを漫然と放置し、かえつて被告電通の権利関係が未確定であるとの主張をそのまま受け入れ、販促活動を停止し、被告電通が承認番号交付書の交付はミニマムロイヤリティの支払と引換えであり、もはや当初の契約関係は消滅したと主張するに至つたにもかかわらず、被告電通との間でミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期などについて確認することなどを全く行わなかつた。そのうえ、野村カードサービスは、同年九月初旬には漫然と被告電通に全国紙への広告の掲載を依頼し、拒否されたが、前記義務があるにもかかわらず、これに対し何らの措置もとらないで放置した。そして、被告電通から同年九月一三日、本件契約を解除する旨の通知を受けたが、前記義務に基づいて右解除通知を原告に伝えるなどして何らかの対応をすべきであつたにもかかわらず、これをとらず、同月二二日まで原告に右解除通知が来たことを告げなかつたうえ、同月三〇日には本件契約で定められたミニマムロイヤリティ及びロイヤリティの支払をしなかつた。

右は、被告野村ファイナンス(野村カードサービス)の債務不履行に当たるというべきである。

〔二〕 被告野村ファイナンスの主張

(1) 原告は、審査協会から全国紙に広告を掲載するには承認番号交付書が必要であるといわれたと主張するが、そもそも審査協会が昭和六三年七月二五日に日経新聞社にした原告の審査請求に対する回答は、原告が掲載を予定している広告のうち「他紙に先がけて」「本日より」の二点を削除すれば、その他は何らの問題もないというもので、指摘どおりの訂正をすれば、掲載が可能であるというものであつて、承認番号交付書の有無には何も触れていない。

審査協会は、加入している新聞社からの要請により広告の相当性を審査する任意の機関で、広告の掲載を依頼された新聞社の判断により審査を要請された案件についてのみ審査するものである。本件では、原告が被告電通によつて本件商品化権を付与され、承認番号を取得したか否かが審査の対象となり、審査の方法は審査協会が被告電通に電話で問合わせをすることによつて行われ、承認番号交付書が交付されたか否かが審査の対象となることはなく、したがつて、原告がその交付を受けていなかつたからといつて新聞広告ができなくなるわけではない。

そして、原告は被告電通との間で前記のとおりの経緯で商品化許諾権の使用許諾の交渉をし、既に本件商品の宣伝、広告を始めていたのであるから、被告電通が原告に商品化許諾権の使用を認める旨の合意の内容は、昭和六三年七月初めには確定し、遅くとも同月一五日には完全に確定していたといえ、不明確な点またはその後つめなければならない問題はなにも残つていなかつた。したがつて、被告電通が審査協会からの問合わせに対し、「原告に対する権利関係は未だ明確でないところがある(または今後つめなければならない問題が残つている。)ので、承認番号交付書は未だ交付していない。」旨の回答をするはずがない。

(2) また、原告が野村カードサービスが負つていたとする義務の内容は極めて不明確であるばかりか、次のとおり原告が主張する義務違反と称する行為はいずれも存在しない。

〔ア〕 野村カードサービスは、昭和六三年七月下旬ころまでに三七四一通のダイレクトメールを発送し、また、野村証券株式会社をはじめとする野村グループ会社の社員を中心として社内便による販売活動を行い、その後もその販売活動を続けた。したがつて、原告が主張するように昭和六三年七月下旬ころから販売活動を停止したという事実はない。

〔イ〕 原告はミニマムロイヤリティ及びロイヤリティの支払方法及び支払時期について紛争が生じたかのような主張をしているが、ミニマムロイヤリティの支払方法及び支払時期は昭和六三年八月二〇日締めの九月末日払いで確定しており、この点に関して紛争が生じた事実はない。

〔ウ〕 被告電通が野村カードサービスに対し、本件契約関係が消滅した旨主張したこと、野村カードサービスが被告電通に広告の掲載を依頼したところ、同被告に拒否されたこと、野村カードサービスが被告電通からの解除通知に接したものの、これを放置し、何らの手段も講じなかつたことなどの事実はない。

5  被告野村ファイナンス(野村カードサービス)の債務不履行により、原告はその主張する損害を受けたか。

〔一〕 原告の主張

前記第二の四の3の〔一〕記載のとおり

〔二〕 被告野村ファイナンスの主張

本件商品が売れなかつたのは単に商品の人気がなかつたからである。すなわち前記のとおり原告及び野村カードサービスは本件商品の販売のために販促活動を行つたが、ほとんど申込みがなく、また、原告は日本に在住する韓国人の団体である民団を回つて販促活動を行つたが、全く売れなかつた。そこで、昭和六三年八月中旬ころからセット販売に加えてばら売りも開始し、代金支払方法も前払いから引換え払いに変えるなどしたが、ほとんど売れなかつた。このように本件商品が売れなかつたのは本件商品自体またはその販売方法に問題があつたからで、原告が主張するように被告電通が承認番号交付書を交付しなかつたことや野村カードサービスが原告からのミニマムロイヤリティの支払を拒絶したことが原因であるわけではない。

仮に万一買手がつかなかつたのが宣伝広告活動の不足にあるとしても、それは原告の宣伝広告活動が悪かつたからで、野村カードサービスには何らの責任もない。

なお、原告が主張する損害は、およそ本件商品が売れなかつたことによる損害とはいえない。

第三  争点に対する判断

一  本件各争点を判断するにあたり、その前提として原告、被告電通及び野村カードサービスとの間における商品化許諾権の交渉の経過などをみるに、前記第二の一、二の事実、《証拠略》を総合すれば、次の事実が認められる(一部争いのない事実を含む。)。

1  コン・ヴュ社は、ソウルオリンピックの韓国国内での宝飾品ライセンシーとして金とアメジストにソウルオリンピックの公式エンブレムと公式マスコットを付した指輪、タイピン、タイバー、カフス、ペンダントヘッド、ピアスなどを製造し、エーデンアーツ社(エデン商工社ともいう。)は、これらの商品の広告を韓国の全国紙に掲載したうえ、申込窓口を銀行とし、申込期間を昭和六三年五月三日から同月六日までとして韓国国内において限定販売したところ、右の期間中に完売した。

そこで、コン・ヴュ社の代表者であるハンは、同様の商品を同様の方法で日本において販売すれば、相当の売上げが期待できると考えて、昭和六三年六月、原告代表者に対し、ダイヤモンドとアメジストにソウルオリンピックの公式エンブレムと公式マスコットを付した指輪、タイピン、タイバー、カフス、ペンダントヘッド、ピアスなどの販売の話しをもちかけたところ、原告代表者も在日韓国人を中心に相当の売上げが期待できると考えて、コン・ヴュ社から右の商品を輸入してその販売を行うこととしたうえ、野村カードサービスの取締役である畑に右の商品の提携販売を申し入れた。野村カードサービスは、昭和六一年、原告との間で、原告が輸入したダイヤモンドを野村カードサービスと提携関係にあるジェーシービー(以下「JCB」という。)のカード会員、野村証券株式会社をはじめとする野村グループの会社の社員などに斡旋販売すること、商品が売れた場合は原告は野村カードサービスに手数料として販売価格の一五パーセントを支払うことなどを合意し、以後原告が輸入したダイヤモンドや象牙の印鑑などの斡旋販売を行つてきたが、畑は原告代表者から韓国での売れ行きなどを聞いて日本においても相当の売上げが見込まれると考えて、右の原告の申入れを承諾し、原告との間で、原告と野村カードサービスは、原告がコン・ヴュ社から仕入れた商品を野村カードサービスが斡旋販売すること、その際の野村カードサービスの販売手数料は従前どおりとすることなどを合意した。

2  ところで、日本国内において商品化許諾権の使用許諾を得ようとする者は、韓国オリンピック組織委員会(略称KOC)、日本オリンピック組織委員会(略称JOC)から商品化許諾権の使用許諾を得なければならないが、その使用許諾の申込みの窓口は被告電通のオリンピック室とされており、同室の審査を受けて承認されれば、事実上商品化許諾権の使用が許諾されたことになり、日本オリンピック組織委員会には被告電通から商品化許諾権の使用を許諾した旨の報告が事後的にされることとされていた。

そこで、ハンは、昭和六三年六月二四、二五日、コン・ヴュ・コーポレーション・ジャパンの代表者である中村などを伴つて、ソウルオリンピックの日本国内におけるサブライセンサーである被告電通のオリンピック室(被告電通のスポーツ文化事業局内に設けられたソウルオリンピックの商品化許諾権の使用を許諾する部署)の副理事でかねてから知合いであつた加藤に対し、商品化許諾権の使用の許諾につき打診をした。

ところが、加藤は、原告が設立後日が浅く、ミニマムロイヤリティの支払能力などに問題があることなどを理由に原告に商品化許諾権の使用を許諾しないと回答した。そこで、原告代表者は加藤に野村カードサービスとの提携販売を提案したが、加藤は、ヴィザ(VISA)がソウルオリンピックのオフィシャルスポンサーとなつているためJCBと提携関係にある野村カードサービスをライセンシーとすることには難色を示した。

しかし、ハンが加藤に対し、野村カードサービスが原告のミニマムロイヤリティなどの支払を保証する形で原告に商品化許諾権の使用を許諾することはできないかと提案したところ、加藤はそれは可能であると答えた。

3  そこで、原告代表者は、野村カードサービスの取締役である畑に対し、原告に商品化許諾権の使用許諾がおりるようミニマムロイヤリティなどの支払保証を申し入れたところ、畑はこれを承諾し、被告電通の第七営業局(被告電通で野村証券株式会社をはじめとする野村グループの会社との取引を担当する部署)に対して原告をライセンシーにするよう協力を要請した。そして、第七営業局は、オリンピック室の意向を受けて、野村カードサービスとの間で折衝を行い、野村カードサービスが、被告電通にミニマムロイヤリティを支払うこと、原告との販売提携という形で関与することなどを条件に、被告電通が原告に商品化許諾権の使用を許諾することとした。被告電通のオリンピック室は、原告に商品化許諾権の使用許諾の申込みをするよう促し、原告は、昭和六三年六月二七日ころ、ミニマムロイヤリティを金三四八四万五一〇〇円、使用予定期間を同年六月二七日から一二月三〇日までとする商品化許諾権の使用許諾申込書を被告電通に提出し、第七営業局と野村カードサービスは、そのころミニマムロイヤリティ及びロイヤリティの支払方法、支払時期を従来の被告電通と野村カードサービスの取引慣行に従つて二〇日締めの翌月払いとし、ミニマムロイヤリティを同年八月二〇日締めの九月三〇日払いとすることを合意した。

また、コン・ヴュ社が、原告と本件商品の売買契約を締結するにあたり、野村カードサービスも当事者となるよう求めたので、野村カードサービスはこれを承諾し、コン・ヴュ社との契約の際には契約当事者となることにした。

4  韓国オリンピック組織委員会はダイヤモンドなどの奢侈品に対して商品化許諾権の使用を許諾することに否定的であつた。

そのため、加藤は原告からの申込みを受けると、直ちに韓国に渡つて同委員会との間で原告に商品化許諾権の使用を許諾するよう折衝し、同委員会から原告に商品化許諾権の使用を許諾する旨の承認を得て、同年七月八日ころその旨を原告に伝えた。

そこで、原告と野村カードサービスは、同月一一日コン・ヴュ社との間で、コン・ヴュ社は原告と野村カードサービスから注文を受けた本件商品を製造してこれを納入すること、代金はダイヤモンドセットが一セット金一二五万七二五六円、アメジストセットが一セット金二四万五〇〇〇円とし、代金の支払方法は取消し不能の信用状の開設または送金によること、原告と野村カードサービスはコン・ヴュ社から本件商品を各二〇〇セット購入することを保証することなどを合意した。

帰国した加藤は原告方を訪ねて、原告が掲載などを予定していた新聞広告の原稿、チラシ、パンフレットなどを見て、掲載する場合の注意を与えた。

そして、加藤は、同月一二日、原告代表社に対し、本件商品に対する商品化許諾権の使用許諾の承認番号がJSL一二二であること、承認番号交付書は翌一三日に交付すること、今後原告の販促活動が可能であることなどを伝えた。

5  原告と野村カードサービスは、ハンから韓国国内における販売方法、売上状況などを聞かされ、日本においても爆発的な売上げを見込めると考え、とりあえず本件商品の販売を一九八八セットの限定販売とすることにしたうえ、具体的な販促活動も韓国における販売方法を参考にし、原告は読売新聞、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞などの全国紙に本件商品の広告を掲載し、パンフレットやチラシを配布すること、野村カードサービスは野村証券株式会社をはじめとする野村グループの会社の社員及びその顧客に対する宣伝、野村カードサービスと提携関係にあるJCBのカード会員に対する宣伝、野村グループの会社の取引先などである全日空、ロッテなどに対する宣伝などを行うことなどとした。本件商品の広告にあたつては、被告電通が野村カードサービスの広告代理店になつていた関係から、野村カードサービスの勧めもあつて、原告は被告電通を通じて本件商品の広告を全国紙に掲載することにした。

ところで、全国紙に広告を掲載する場合、虚偽、誇大広告による消費者の被害を事前に防止するなどの意味で、掲載予定の広告の内容によつては、その広告を掲載する新聞社の自主的判断に基づいて審査協会の審査を経ることとされている。

そこで、原告は、同月一一日にダイレクトメール用のチラシ及び新聞広告を加藤に提示し、同月一二日に加藤から承認番号を伝えられたことから、直ちにパンフレット、チラシ、ダイレクトメールなどの印刷の準備にとりかかる一方で、同月一三日ころ、かねてから本件商品の広告の製作を依頼していたネットワークを通じて審査協会へ審査を依頼した。同社は日経新聞と取引関係にある毎日広告社に審査対象である原稿を送付して審査の依頼を行つた。

原告は、当初は購買層を絞らずに本件商品を販売しようと考えていたが、ソウルオリンピックの開幕まで間がないこと、在日韓国人がソウルオリンピックのために金五二〇億ウォンにのぼる募金を行うなどソウルオリンピックを熱心に支援していたことなどから、在日韓国人を主たる購買層と捉えて販促活動を行おうと考え、まず東京の山の手地区を中心に新聞の折込みのチラシを配付し、次に審査協会による審査結果が出るまでの間、審査を必要とされない在日韓国人向けの新聞などの広告を掲載することにして、同月二二日には東洋経済日報に全一五段(全頁)の広告を、同月二三日には統一日報に全一五段(全頁)の広告を、韓国新聞に全五段の広告をそれぞれ総販売元原告、販売提携野村カードサービスの名で掲載し、同年八月六日には韓国新聞に全五段の広告を総販売元原告の名で掲載した。また、野村カードサービスも同月三〇日までに高額所得者などを中心にダイレクトメール三七四一通を発送した。

6  ところで、被告電通が日本国内の企業などに商品化許諾権の使用を許諾する場合、ミニマムロイヤリティは契約締結時に現金で支払うこととされており、被告電通のオリンピック室は原告に商品化許諾権の使用を許諾するにあたつてもミニマムロイヤリティを契約時に支払わせようと考えていたところ、被告電通の第七営業局は野村カードサービスからの要請もあつて同社との間でミニマムロイヤリティの支払を昭和六三年八月二〇日締めの九月三〇日払いとした。そのため、ミニマムロイヤリティの支払に関するオリンピック室の意向は無視された結果となつた。しかし、オリンピック室の室長服部庸一は、あくまでも契約締結時にミニマムロイヤリティを支払うことに固執し、原告に対し、商品化許諾権の使用許諾をすることに難色を示すようになり、そのため、オリンピック室は、日本オリンピック委員会に対して、原告が販促活動を早急に行いたいというので口頭で承認番号を伝えたものの、ミニマムロイヤリティの支払条件の折合いがつかないので、正式には商品化許諾権の使用許諾を与えていないと報告した。

加藤は、口頭で承認番号を伝えた日の翌日である同月一三日に原告に承認番号交付書を交付せず、同月一五日に原告を訪ねた際にも承認番号交付書を持参しなかつたが、その際、原告代表者からミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期に関する第七営業局と野村カードサービスの合意の内容を聞かされた。

そこで、加藤は、被告電通に帰社した後、第七営業局の営業部長小林衛と面談してその合意内容を確認し、ミニマムロイヤリティを昭和六三年七月分の売上げとして計上し、その支払は同年八月二〇日締めの九月三〇日払いとすることにし、同年七月一八日にはその旨を原告に伝えた。しかし、被告電通のオリンピック室は、依然、原告に対して承認番号交付書を交付しなかつた。

7  日経新聞から、同月一九日、審査協会に対して本件商品の広告について審査依頼がされたので、審査協会の篠原は、被告電通のオリンピック室に対して原告に承認番号を付与したか否か問い合わせたところ、応対に出た加藤は、前記6のとおりオリンピック室長が本件契約に難色を示していたことなどから、原告には商品化許諾権の使用を許諾し、承認番号も口頭で伝えたものの、権利関係には未だ明確でない点があり、今後詰めなければならない問題が残つているので、未だ承認番号交付書を交付していない旨答えた。このため、篠原は、原告が被告電通から正式かつ最終的な商品化許諾権の使用許諾を得ていないと受け取り、同月二五日、日経新聞に対し、掲載申込みのあつた広告については二、三の文字を削除すべきであること、商品化許諾権の使用許諾につき被告電通の正式かつ最終的な許諾を得るべきであることなどを回答し、その旨は毎日広告社、ネットワーク、原告へと順次伝えられた。

しかし、原告代表者は、加藤の話しなどから被告電通から商品化許諾権の使用許諾を得たと考えていたので、右回答に納得できず、同月二七日、篠原宛に電話を架けて問い質したところ、篠原は、前述の加藤から聞いた話の内容を伝え、審査協会としては問題を片付づけて承認番号交付書の交付を受ければいつでも広告することができると判断しているゆえ、被告電通から御墨付をもらつてほしい旨答えた(被告電通のこの点に関する自白の撤回は、前掲各証拠に照らし、自白が真実に反するとはいえないから、許されない。)。

その頃、来日したハンは、原告代表者からその話しを聞いて、直ちに加藤に連絡をとり、被告電通が原告に口頭で承認番号を伝える一方で、原告の販促活動を阻害するかのような行動をとつていることに抗議をしたところ、加藤は、被告電通のオリンピック室がミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期に関し、第七営業局ともめているので、承認番号交付書を交付することができない旨答えた。また、原告代表者から話しを聞かされた畑も、第七営業局に対し、承認番号交付書を直ちに交付するよう求めたが、第七営業局も加藤と同趣旨の回答をし、結局、その後も承認番号交付書は交付されなかつた。そのため、原告と野村カードサービスは、全国紙への本件商品の広告の掲載を依頼しなかつた。

8  原告は、新聞広告、チラシなどを見た顧客から電話で注文を受けた後、カタログと予約番号の入つた注文書をその顧客宛に送付し、顧客が売買代金を原告が三井銀行本店に開設した口座に振り込むのを確認し、右振込みをもつて正式な申込みとしていた。原告と野村カードサービスは、原告が行つた在日韓国人向けの新聞への広告の掲載、野村カードサービスが行つた取引先などに対するダイレクトメールの発送によつてかなりの注文があるものと考えるとともに、注文の際代金を前払いとしたことから、前払いの代金によつてミニマムロイヤリティを支払うための資金も事前に調達できると考えていた。

そして、野村カードサービスは、原告の要請を受けて、昭和六三年七月二二日コン・ヴュ社から見本として本件商品を各五セット輸入するために同社に対する信用状を三井銀行本店に開設した。コン・ヴュ社はその旨の注文を受けて船積みの準備をしたものの、右の信用状の最終船積み期限が短かつたため、船積みが間に合わず、結局右の見本の輸入は実現しなかつた。

ところで、原告や野村カードサービスは、従来の経験から、一般的に新聞などに広告を掲載した場合、その効果は掲載後二、三日以内に現れ、ダイレクトメールを送付した場合、その効果は送付後一週間以内に現れると考えていたにもかかわらず、前記広告の掲載後、原告に対しいくつか問合わせはあつたものの、三井銀行本店に対する銀行振込は一件もなく、野村カードサービスが発送したダイレクトメールに対する反応もほとんどなく、結局、在日韓国人向けの新聞への広告の掲載、ダイレクトメールの送付などによつて成約に至つたのはわずか数件にとどまつた。原告は同年八月六日にも韓国新聞に全五段の広告を掲載したが、多少の問合わせはあつたものの、一件も成約には至らなかつた。野村カードサービスは同月一二日前記信用状を取り消した。

9  原告代表者は、このままセット販売を続けても目標の一九八八セットを完売することはできないとの危機感を抱き、ハンの勧めもあつて、同月中旬以降はセット販売のほかにバラ売りを行うこととし、代金の支払方法も現金による前払いだけでなく、分割払い、カードによる支払などもできるようにしたうえ、本件商品がダイヤモンドやアメジストを用いたかなり高価な商品であることから、新聞広告だけでは顧客を引きつけることができないと考えて、在日韓国人の団体である居留民団(以下「民団」という。)などをはじめとする各種団体をまわつて販売活動を展開することにした。

原告は、同月一〇日、かねてから契約交渉を行つていた高島易断総本部神聖館(以下「高島易断」という。)との間で、本件商品を高島易断の会員及び会員から紹介のあつた者に斡旋販売すること、斡旋販売の手数料は最終販売価額から物品税を差し引いた価額の一五パーセントとすること、高島易断は本件商品のうちダイヤモンドセット一五〇セット、アメジストセット一〇〇セットの斡旋販売を保証し、斡旋販売数が右の数に至らない場合には、その不足分を最終販売価額から物品税、手数料を差し引いた価額で買い取ることなどを合意した。また、原告は、右同日ころ、株式会社学研映像制作室の代表取締役である原田英男との間で、本件商品を各六セット購入すること、同社の取引先である株式会社本田技研及びその関連会社への販売の斡旋を行うことなどを合意した。また、原告代表者は、東京、名古屋、大阪、神戸、福岡などの民団をまわつて在日韓国人の名簿の提出を求め、提出を受けた分についてはダイレクトメールの発送の準備に取りかかつた。

これに対し、野村カードサービスは、同年七月三〇日までに発送したダイレクトメールに対する反応がほとんどなかつたうえ、原告の商品化許諾権について、原告と被告電通が承認番号交付書の交付をめぐつて争うなど権利関係に不明確な点があるかのように見受けられたことなどから、同年八月中は同社の社員及び野村グループの会社の社員に対して本件商品の案内を行うにとどめていた。

10  被告電通の第七営業局の参事山田満は、昭和六三年八月九日、野村カードサービスの畑に対し、ミニマムロイヤリティ支払を求める請求書を持参したいと連絡した。畑は直ちにその旨を原告代表者に伝えたところ、原告代表者は、前記8のような本件商品の売行状況なども踏まえて、畑に対し、被告電通から承認番号交付書の交付を受けておらず、ミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期も当初の昭和六三年九月末日との話しと食い違つてきているうえ、そもそも契約書も取り交わしていないので、請求書を受け取らないでほしいと答えた。山田満から、同年八月一七日、畑に対し、再び請求書を持参したいとの連絡があつたので、畑は、直ちに原告代表者に連絡をとつたところ、前同様その受領を拒絶してほしいといわれた。そこで、畑は、山田満に対し、承認番号交付書の交付がなく、契約書も取り交わしていない以上、請求書を受け取るわけにはいかないと答えた。

被告電通のオリンピック室では、野村カードサービスによる請求書の受領拒絶の話しを聞き、直ちに同年七月に計上した原告に対するミニマムロイヤリティの売上げを削除しようとしたが、加藤は、協賛会社からの集金が予定額に達していなかつたことなどから、原告の翻意を期待して数日間原告の出方を待つことにし、原告の要求どおり契約書作成の作業を進めようと考え、同年八月一七日、原告に対し、契約書の原案をファックスで送付した。ただ、ミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期については、加藤は、野村カードサービスが請求書の受領を拒絶している以上、本来の被許諾者である原告が本来の契約条件に従つて現金で支払わない限り、本件契約の効力は生じないと考えていた。

これに対し、原告代表者は契約書原案が送付されてきた旨を畑に告げ、畑は同月一八日第七営業局に対して承認番号交付書を交付するよう求めたところ、第七営業局は、承認番号交付書はミニマムロイヤリティの支払と引換えになつているようだと答えた。

11  原告と野村カードサービスは、同月二二日、被告電通に対し、口頭で承認番号を伝えられたものの、その後四〇日間以上も承認番号交付書が届かず、新聞広告も認められず、販売のための宣伝活動ができなつた以上、右宣伝活動ができなかつた期間に相当する分の損害として本件商品のうちダイヤモンドセット二五〇セットの最低保証使用料をミニマムロイヤリティから差し引き、ミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円に減額すべきこと、ダイヤモンドセットについて売上げがある毎にロイヤリティを支払うことなどを求めて、その旨を記載した訂正申込書を作成し、被告電通にファックスで送付した。

これに対し、加藤は、右同日、すでに原告から右訂正申込書がファックスで送付されてきていたことを知らずに、承認番号の入つた承認番号交付書の写しに、翌日正式な承認番号交付書を送付すると記載して、これを原告宛にファックスで送付した。その結果、原告も野村カードサービスも、従前からの要求どおりようやく承認番号交付書が交付されるものと思つた。

ところが、その後、加藤は、原告からの前記訂正申込書が送られてきたことに気付き、もはや原告による本件契約で約したミニマムロイヤリティの支払は期待できないとみて、右同日、同年七月に計上したミニマムロイヤリティの売上げを削除する措置をとり、オリンピック室では本件契約は失効したこととされた。

12  原告代表者は、その後、ミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円とする商品化許諾権の使用許諾申込書を加藤に交付したが、被告電通のオリンピック室は右の申込みを拒否することにした。ただ、加藤は原告または野村カードサービスが当初のミニマムロイヤリティを支払いさえすれば、本件契約を復活させてもよいと考えていた。

しかし、原告及び野村カードサービスは、本件契約が失効したとは考えていなかつた。野村カードサービスは、その後も第七営業局に対し、被告電通を通じて本件商品の広告を全国紙に掲載することを求めるとともに、同年八月下旬ころには畑の友人、知人及び野村証券株式会社をはじめとする野村グループの会社にダイレクトメールを発送したり、本件商品の広告を野村グループの会社の社員の回覧に供するなどし、同年九月八日には畑の知人である伊川貞典が取締役をしている株式新聞に広告を掲載するなどしたうえ、右の広告などによる販売に合わせて本件商品の見本を取り寄せようと考えた。そこで、野村カードサービスは、販促活動の一環としてコン・ヴュ社から本件商品の見本男女各一セットずつを輸入した。見本の商品は同月一一日に新東京国際空港に到着したが、被告電通から正式に商品化許諾権の使用許諾をしていないなどといわれたため一旦通関手続が頓挫したものの、ハンが加藤に交渉して右輸入だけは認めることで話しがつき、結局同月二二日に通関手続が完了した。

13  前記12の野村カードサービスによる広告の掲載、ダイレクトメールの送付などによる本件商品の売上げは、畑の家族、友人、取引先などから合計金二二六万三〇〇〇円の注文があつたに過ぎなかつた。

また、前記9の原告による販促活動のうち、高島易断は本件商品の広告が全国紙に大々的に掲載された後に会員に対する斡旋販売を開始しようとしていたが、承認番号交付書が交付されないため全国紙への広告の掲載ができないとの話しを聞いて躊躇を覚えるなどしたため、結局斡旋販売を行わず、株式会社学研映像社の代表者も同様の理由などにより原告との間で約していた株式会社本田技研及びその関連会社への本件商品の斡旋販売を取り止めた。

そして、原告は、民団の各地方本部などの承諾が得られたところについては、名簿に基づいてその会員である在日韓国人に対してダイレクトメールを発送するなどしたが、申込みはわずかにとどまつた。

14  被告電通のオリンピック室は、同年九月一二日に野村カードサービスに対してミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円とする商品化許諾権の使用許諾の申込みを拒否する旨の書面を準備し、第七営業局を通じて野村カードサービスにこれを交付し、畑は同月二二日原告に対してその書面をファックスで送付した。また、被告電通は、日本オリンピック委員会に対して、一旦は原告に承認番号を口頭で伝えたものの、その後野村カードサービスがミニマムロイヤリティの支払を拒否したので、結局商品化許諾権の使用を許諾しなかつたと報告した。

そして、野村カードサービスは、同月三〇日、被告電通に本件契約で支払を約したミニマムロイヤリティを支払わなかつた。

本件商品の購入申込みとして、書類上、明確な分は、ダイヤモンドセットの男女ペアセットが三八セット、アメジストセットの男女ペアセットが一五セットなどで、その金額は合計金一億三一五五万三〇〇〇円になつたが、野村カードサービスは、以上のような状況のもと、本件商品を輸入通関できる見込みがないと判断して、同年一〇月三日同社が取りまとめた購入申込みを取り消す旨を原告に通知して本件契約を解除する旨の意思表示をした。また、原告も、本件商品の輸入通関できる見込みがないと判断して、民団の会員などからの注文など本件商品の購入申込みをすべて断つた。

以上の事実が認められる。

ところで、証人加藤は、審査協会の篠原の問合わせに対し、原告に使用を許諾した商品化許諾権について権利関係に不明確な点があるかのような話しをしたことはないと証言し、証人畑も、原告代表者や同証人は当時承認番号交付書がなければ全国紙に本件商品の広告を掲載することができないと思い込んでいたが、実際にはそれがなくても本件商品の広告の掲載が可能であつたと証言する。そして、野村カードサービスは同年九月八日に株式新聞に本件商品の広告を掲載しているところ、《証拠略》によれば、株式新聞は審査協会に加盟していることが認められる。

右によれば、原告による本件商品の広告についての審査依頼に対し、審査協会が承認番号交付書の交付を受ければ掲載が可能であると回答するはずがないと考えられないでもない。そして、原告代表者が承認番号交付書がなければ本件商品の広告を掲載することができないと言い始めた動機について、証人畑は、本件商品の売上げ不振のため被告電通との間で約したミニマムロイヤリティを支払うだけの売上げを上げることができないことから、その値下げ交渉を有利に展開するためであつたかのような趣旨の証言をする。

しかし、前記認定のとおり原告代表者が審査協会から審査依頼に対する回答を受け取つたのは昭和六三年七月二七日のことであり、証人畑も同月末ころには原告代表者から承認番号交付書がないと本件商品の広告を全国紙に掲載することができないと聞かされたと証言していること、原告代表者が右回答を受け取つた当時、在日韓国人向けの新聞に掲載した本件商品の広告に対する反応はある程度明らかになつていたとはいえるものの、野村カードサービスが発送したダイレクトメールに対する反応は未だ明らかになつていなかつたうえ、原告は同年八月六日にも在日韓国人向けの新聞に本件商品の広告を掲載していることなどの前記認定の事実、証人畑の右証言などに加えて、審査協会からの回答後の原告代表者やハンの対応などに関する証人ハンの証言も考え合わせると、昭和六三年七月末ころの時点で、原告代表者が被告電通との間でミニマムロイヤリティの値下げ交渉を有利に展開するためにわざわざ全国紙に掲載する機会を自ら放棄したとは考え難く、したがつて、動機に関する証人畑の前記証言は、にわかに信じ難い。

また、《証拠略》によれば、畑は野村証券株式会社の出身であること、株式新聞は株式投資家向けの業界紙であり、同新聞の取締役である井川卓典は畑の知人で、畑に勧められて一旦は本件商品の購入の申込みをしていることが認められ、右の事実に照らせば、野村カードサービスが株式新聞社に直接交渉して本件商品の広告を掲載することとなつたため承認番号交付書の有無も特に問題とはされなかつたと考えられないでもない。

そして、以上の諸点に照らすと、証人加藤の前記証言は、にわかに信用することができず、結局、審査協会が承認番号交付書の交付を受ければいつでも広告の掲載が可能であると回答するはずがないとはいえない。

そのほか、証人加藤の証言に沿う甲第六〇号証、乙第四号証も、同様直ちに信用することができない。

二  本件契約の成否、その成立時期及びその内容(本件の争点1)について

1  《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

一般的に、商品化許諾権の使用が可能となるのは、被告電通とその使用の許諾を求める企業などとの間で、使用許諾の合意がされ、ミニマムロイヤリティが支払われたときである。被告電通は、一旦その使用を許諾すると、まずその企業などに対して承認番号を口頭で伝え、以後その企業などは事実上販促活動を展開することが可能となる。承認番号交付書は、被告電通が承認番号を与えたことを証する書面であるが、商品化許諾権の使用許諾を得た企業などは、販促活動を展開するにあたつて、事前に承認番号交付書の交付を受けなければならないということはない。すなわち、商品化許諾権の使用許諾のようなビジネスでは、契約当事者の信頼関係が重視されるため、契約書の作成は契約の内容を確認する意味があるのに過ぎず、承認番号交付書の交付も契約の効力発生要件とされることはない。

2  被告電通の債務について

右1で認定した事実のほか、前記認定の原告と被告電通との間において昭和六三年六月から七月にかけてされた商品化許諾権の使用許諾を求める交渉の経過、特に加藤の渡韓の目的、野村カードサービスが、原告が支払うべきミニマムロイヤリティの支払保証をするに至つた経緯、原告とともに締結したコン・ヴュ社からの本件商品の購入契約の内容などの事実も考え合わせると、原告、被告電通及び野村カードサービスは、遅くとも昭和六三年七月八日ころまでに、被告電通は原告に対し、使用期間を同年一二月三〇日までとしてダイヤモンドとアメジストの指輪、タイピン、タイバー、カフス、ペンダントヘッド、ピアスについて商品化許諾権の使用を許諾し、野村カードサービスは被告電通に対し、原告が支払うべきミニマムロイヤリティ及びロイヤリティを支払うこと、ミニマムロイヤリティは金三四八四万五一〇〇円とし、その支払時期は同年八月二〇日締めの九月三〇日払い、ロイヤリティは毎月二〇日締めの翌月末日払いとすることを合意したことが認められる。

そうすると、被告電通は、原告に対し、単に契約で定めた使用期間中、原告が本件商品に公式エンブレム及び公式マスコットを付して販売することに異議を申し立てないとの義務を負うのみならず、本件商品に公式エンブレム及び公式マスコットを付して販売することを妨げないとの義務も負うものと解するのが相当である。

3  被告野村ファイナンス(野村カードサービス)の債務について

(一) 前記認定の野村カードサービスと原告との本件以前の取引の内容、野村カードサービスが、原告が支払うべきミニマムロイヤリティの支払保証をするに至つた経緯、原告とともにコン・ヴュ社との間で本件商品の購入契約を締結するに至つた経緯、購入契約の内容、特にコン・ヴュ社に対する本件商品の発注及び代金の支払方法、信用状を開設した経緯、原告と野村カードサービスの間における販促活動に関する合意などの事実のほか、《証拠略》に照らせば、原告と野村カードサービスは、昭和六三年六月から七月にかけて順次、原告がコン・ヴュ社から本件商品を購入する際には野村カードサービスも購入内容の当事者となるが、本件商品の宣伝、広告と専ら原告が担当し、野村カードサービスは従前どおり斡旋販売を行うこととすること、但し、本件商品の宣伝、広告中に、総販売元原告、販売提携野村カードサービスとうたうことを認めること、本件商品の購入代金の支払、その輸入のための費用、その販売のための宣伝、広告費用などはすべて原告の負担とし、野村カードサービスは信用状を開設するが、その保証料は原告の負担すること、野村カードサービスの斡旋販売の手数料は従前同様販売価格の一五パーセントとすること、野村カードサービスが被告電通に支払うべきミニマムロイヤリティ及びロイヤリティは最終的には原告が負担することなどを合意したことが認められる。

そうすると、野村カードサービスは、原告に対し、昭和六三年九月三〇日に被告電通に金三四八三万五一〇〇円のミニマムロイヤリティを支払う義務、その後、本件商品が売れるごとに毎月二〇日締めの翌月末日払いで被告電通にロイヤリティを支払う義務をそれぞれ負うとともに、従前どおり斡旋販売という形で本件商品の販促活動について原告と協力する義務を負うことが認められる。

これに対し、証人畑は、野村カードサービスはミニマムロイヤリティなどについて被告電通に支払義務を負うものではなく、単なる支払窓口に過ぎず、原告から支払に必要な資金が提供されなければ、一銭も支払う義務を負わないというもの(証人畑はスルー方式と呼んでいる。)で、そのことは被告電通の第七営業局の営業部長小林衛も承諾していたと証言する。

しかし、前記認定の野村カードサービスがミニマムロイヤリティの支払保証をするに至つた経緯に鑑みると、原告のミニマムロイヤリティなどの支払能力に相当の不安を抱いていた被告電通のオリンピック室がその支払方法をスルー方式とすることを承諾したとは極めて考え難く、右スルー方式とすることを承諾していたと認めることはできない。

したがつて、証人畑の右証言は、直ちに信用することができない。

(二) ところで、原告は、被告野村ファイナンス(野村カードサービス)が、前記義務のほか、原告に使用が許諾された公式エンブレム、公式マスコットなどを使用をすることができる状態を作出する義務も負うと主張する。

しかし、前記認定の事実や本件全証拠に照らしても、野村カードサービスが原告に対して右のような債務を負つていたと認めるに足りない。

4  ところで、被告電通は、原告に商品化許諾権の使用を許諾する旨の契約が一旦は成立したものの、その後、昭和六三年八月に至り、野村カードサービスが被告電通の請求書の受領を拒絶したことから失効し、その後、原告からされたミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円とする商品化許諾権の使用許諾の申込みについてはこれを承諾しない旨の回答をしているので、いずれにせよ、被告電通には原告に商品化許諾権の使用を許諾する義務はないと主張するので、次にこの点につき判断する。

前記認定の事実によれば、被告電通が昭和六三年八月九日及び一七日にミニマムロイヤリティの支払請求書を野村カードサービス宛に送ろうとしたところ、野村カードサービスがその受領を拒否したことは認められるものの、本件契約において、野村カードサービスがミニマムロイヤリティの支払請求書の受領を拒絶するなど約定のミニマムロイヤリティを支払わないとの意思を表明した場合に、本件契約が当然に失効するとの合意があつたことを認めるに足りる証拠はない。

仮に被告電通の右の主張を、野村カードサービスによる請求書の受領拒絶によつて同社が被告電通に対して負つているミニマムロイヤリティの支払義務を履行しない意思が明確になつたとしてその支払時期の到来を待たずに右の支払義務が債務不履行になつたことを理由に本件契約を解除したとの主張であると解するとしても、本件ではミニマムロイヤリティの支払義務は後履行とされており、前記認定の野村カードサービスが支払請求書の受領を拒絶するに至つた経緯を考え合わせると、そもそも野村カードサービスはむろん、原告が債務不履行に陥つたといえるか極めて疑問である。前記認定の野村カードサービスが支払請求書の受領を拒絶するに至つた経緯に照らせば、加藤が審査協会の問合わせに対し、原告の商品化許諾権のつき権利関係が不明確な点があるかのような話しをしたため、審査協会は承認番号交付書の交付を受ければ、いつでも全国紙に本件商品の広告を掲載することができると回答し、原告も野村カードサービスもその回答を信じて被告電通に承認番号交付書の交付を求めたが、なかなか交付されないので、原告の要請を受けた野村カードサービスが支払請求書の受領を拒絶したものである。後記説示のとおり、右は被告電通の債務不履行に当たるというべきであるから、原告のミニマムロイヤリティの支払義務が債務不履行に陥つたということはできない。しかも、本件全証拠に照らしても、被告電通が昭和六三年八月一七日から同月二二日にかけて本件契約を解除するとの意思表示をしたとは認められないから、いずれにせよ、被告電通の前記主張は、理由がない。また、前記認定の事実によれば、被告電通が野村カードサービスに交付した昭和六三年九月一三日付けの書面は、ミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円とする商品化許諾権の使用許諾申込みに対する回答であるから、右の書面によつて本件契約を解除する旨の意思表示をしたということもできない。

なお、前記認定のとおり、原告はミニマムロイヤリティを金二〇四万〇六九四円とする訂正申込書及び商品化許諾権の使用許諾申込書を提出しているが、右は被告電通が承認番号交付書を交付しなかつたために販促期間が短縮されたことなどを理由にミニマムロイヤリティの値下げを求めたものであり、本件契約を一度白紙に戻し、改めて商品化許諾権の使用許諾契約を締結しようとする趣旨ではないから、右訂正申込書等の提出によつて、本件契約が失効したということもできない。

三  被告電通の債務不履行の有無(本件の争点2)について

1  前記一、二で認定した事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

商品化許諾権の使用許諾を得た企業などがソウルオリンピックの公式エンブレム及び公式マスコットを付した商品を販売するにあたつて、その広告を全国紙に掲載しようとする場合、審査協会の審査を経ておく必要があるが、その審査は虚偽、誇大広告から読者を保護するという観点から広告内容などを審査するにとどまるため、広告の掲載を予定している企業などが真実商品化許諾権の使用許諾を得ているか否かは本来審査対象とならない。しかし、ソウルオリンピックの公式エンブレム及び公式マスコットを付した商品の広告を行う場合、広告主である企業などが商品化許諾権の使用を許諾されていることが当然の前提とされるから、審査協会は、商品化許諾権の使用許諾の窓口である被告電通のオリンピック室に対し、契約の成否などについて問合わせをする。そして、その回答によつて商品化許諾権の使用許諾を得ていると認められる場合には、広告内容が審査基準に合致している限り、たとえその企業などが承認番号交付書の交付を受けていなかつたとしても、広告を掲載することは可能である。

以上の事実が認められる。

《証拠判断略》

2  ところで、原告は、被告電通は本件契約によつて原告に対して承認番号交付書を交付する義務を負つているが、原告の再三の要求にもかかわらずこれを交付せず、そのため本件商品を全国紙に掲載するなど原告の販促活動が著しく阻害されたと主張し、前記一で認定した事実、右1で認定した事実に照らせば、被告電通が本件契約によつて原告に承認番号交付書を交付する義務を負つていることが認められる。

そこで、被告電通が原告に承認番号交付書を交付しなかつた結果、本件商品の広告を全国紙に掲載することができなかつたか否かにつき判断する。

右1で認定した事実のほか、前記一で認定した事実、前記二の1で認定した事実を総合すると、次の事実が認められる。

審査協会は原告からの審査依頼により、直ちに被告電通のオリンピック室に対し、原告に与えられたとされる商品化許諾権の権利関係について問い合わせた。しかし、第七営業局がオリンピック室の意向を無視した形でミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期を決めてしまつたため、オリンピック室の室長が商品化許諾権の使用許諾に難色を示したことから、同室の加藤は、審査協会に対し、原告に与えたとされる商品化許諾権には未だ権利関係に明確でないところがあり、詰めなければならない問題があるため承認番号交付書を交付していない旨答えた。審査協会は、右の回答から、商品化許諾権が正式に与えられてはいないが、将来権利関係が明確になれば被告電通は原告に承認番号交付書を交付するものと判断し、虚偽、誇大広告の排除という観点から二、三の文字の削除を原告に指示するとともに、承認番号交付書の交付を受けて権利関係を明確にしさえすればいつでも広告することは可能であると原告に答えた。これに対し、原告代表者は、商品化許諾権の使用を許諾され、口頭で承認番号まで伝えられていたことから、権利関係に不明確な点があるはずはなく、したがつて、全国紙に本件商品の広告を掲載するにあたつての要件として承認番号交付書の交付を受けるよう求められたと思い込み、ハンを通じてオリンピック室に、畑を通じて第七営業局にそれぞれ承認番号交付書の交付を求めた。加藤は、第七営業局との間で、同局が野村カードサービスとの間で定めたミニマムロイヤリティの支払時期、支払方法を確認し、了承していたものの、オリンピック室の室長の意向などから、ハンや第七営業局を通じての原告の要求を無視し、承認番号交付書を交付しなかつた。そのため原告も野村カードサービスも、承認番号交付書がない以上、全国紙に掲載することができないと考え、全国紙に本件商品の広告を掲載しようとせず、また、野村カードサービスは社内での販促活動のほかは原告に約したとおりの積極的な販促活動を行うことを差し控えた。

そうすると、本件では、原告が審査協会に本件商品の広告の審査を依頼するに先立ち、すでに使用が許諾された商品化許諾権の権利関係が明確になつていたということができ、また、原告が承認番号交付書の交付を受けていることが本件商品の広告を全国紙に掲載するにあたつての要件とはされていなかつたのであるから、原告が被告電通の第七営業局または同被告以外のメディア(媒体)若しくは広告会社などを通じて全国紙に本件商品の広告の掲載を求めれば、最終的には本件商品の広告を掲載することは可能であつたと推認される。

したがつて、被告電通が原告に承認番号交付書を交付しなかつたために、原告は本件商品の広告を全国紙に掲載することができなかつたということはできない。

3  しかし、前記説示のとおり、被告電通は、原告に対し、許諾にかかる商品化許諾権に基づいて本件商品に公式エンブレム及び公式マスコットを付して販売することを妨げないとの義務を負つているものと解せられるところ、前記認定のとおり、原告に使用が許諾された商品化許諾権をめぐる権利関係は確定していたにもかかわらず、オリンピック室の加藤は審査協会の篠原に対し、未だ右権利関係が確定していないかのような回答をしたこと、そのため篠原は権利関係を明確にする必要があると思い込み、原告代表者に対し被告電通から承認番号交付書の交付を受けて権利関係を明確にすれば広告の掲載が可能となると答えたこと、その結果、原告代表者は承認番号交付書がなければ全国紙に本件商品の広告を掲載できないと思い込んで広告の掲載をとどめたことが明らかであり、以上の一連の経過及び前記認定の被告電通のオリンピック室の職掌などに照らせば、被告電通のオリンピック室は審査協会に曖昧な回答をすることにより、原告による本件商品の広告の全国紙への掲載を阻害し、ひいては本件商品の販売を阻害したものと認められる。

したがつて、被告電通のオリンピック室が原告による本件商品の全国紙への掲載を阻害し、ひいては本件商品の販売を阻害したことは被告電通の債務不履行に当たるというべきである。

四  被告電通の債務不履行による損害の有無(本件の争点3)について

1  原告は、本件商品の広告を全国紙に掲載していれば、販売を予定していた一九八八セットは完売できたはずであると主張するので、次にこの点につき判断する。

《証拠略》によれば、日本国内においても本件商品に対する関心があつたことが窺われないでもない。しかし、在日韓国人向けの新聞に原告が掲載した広告、野村カードサービスが発送したダイレクトメール、株式新聞に掲載した広告などに対する反応はほとんどみられなかつたこと、そのため原告代表者も本件商品の売行きを心配し、新聞広告だけでは販売できないと考え、民団などの各種団体を回るようになつたこと、しかし、その結果も思わしくなかつたことは前記認定のとおりであり、また、《証拠略》は、あくまで本件商品の販売が不能にあつた後の関係者の意見に過ぎないことに照らすと、右甲号各証記載のとおり、本件商品に対する関心があつたからといつて、それだけでは原告が当初の予定どおり本件商品の広告を全国紙に掲載すれば、当然に本件商品が原告の思惑どおりの売行きを示したはずであるということはできない。

また、コン・ヴュ社が韓国において発売した本件商品に類似したアメジストと銀を用いた商品は、同国内において短期間のうちに爆発的な売行きを示したことは前記認定のとおりであるが、その販売方法は、全国紙に広告を掲載したうえ、申込窓口である銀行にその見本を置くとするものであるから、購入希望者がこれを自分の目で確かめることができるうえ、申込窓口である銀行に対する信頼なども相まつて前記のような売行きを示したというべきであるほか、《証拠略》によれば、そもそも右の商品は韓国ではじめて開催されたオリンピックについての記念品として、オリンピックに対して格別の関心を抱いていた韓国人の熱意を商売に吸い取ろうとしたところに爆発的な売行きの大きな一因があつたとみられる。しかし、本件においては、《証拠略》によれば、本件商品の見本は東京都渋谷区所在の原告の店舗に置かれただけで、本件商品の販売提携をしている野村カードサービスの各店舗にはひとつも置かれていなかつたことや、韓国国内ほどにはオリンピックに対する関心に欠けた我が国において、本件商品のもつブランドの低さも相まつて、一般的にも、在日韓国人間でも、本件商品に対する購買意欲が欠けたことが認められ、これらの事実のほか、前記認定の原告と野村カードサービスがとつた本件商品の販促活動とその売行き状況、原告と野村カードサービスのとつた販促活動に関する証人ハンの批判的な証言なども考え合わせると、仮に原告が当初の予定どおり本件商品の広告を全国紙に掲載したとしても、たやすく韓国において見られたような爆発的な売行きを示したはずであるということはできない。

また、原告代表者は、在日韓国人はソウルオリンピックの開催にあたつてこれを熱心に応援していたから、全国紙に本件商品の広告を掲載していれば、ソウルオリンピックの成功の余韻に浸つて本件商品に飛びついたはずである旨供述し、前記認定のとおり、在日韓国人は多額の募金を集めて韓国オリンピック委員会に送るなどしてソウルオリンピックの開催を熱心に応援していたとはいえる。しかし、前記認定のとおり、原告の販売活動にもかかわらず、在日韓国人の本件商品に対する反応はほとんどなかつたのであるから、右のような状況があつたからといつて、それだけでは原告代表者がもくろんでいたように本件商品を購入したとは考え難い。

そして、以上認定、説示したところに加えて、昭和六三年八月中旬以降の本件商品の売行きの見通しに関する《証拠略》に照らせば、原告が本件商品の広告を全国紙に掲載していれば、当然に販売を予定していた一九八八セットを完売できたはずであるということはできない。

2  そこで、本件商品の広告を全国紙に掲載した場合、どの程度の売上げを見込むことができたかが問題となる。

原告は高島易断との間で本件商品の売買契約を締結したが、右契約によれば、高島易断は本件商品のうちダイヤモンドセット(男女ペアセット)一五〇セット、アメジストセット(男女ペアセット)一〇〇セットの斡旋販売を保証し、その会員に対する斡旋販売を予定していたものの、原告が約した本件商品の広告の全国紙への掲載が行われず、商品化許諾権の権利関係自体に不明確な点があるかのような話しを聞くなどしたため、右斡旋販売を取り止めたうえ、原告が最終的に本件商品の購入を断念したことから右の契約は履行されなかつたことは、前記認定のとおりであり、前記三で認定、説示したところに照らせば、被告電通の債務不履行がなければ、右最低保証数量は販売できたはずといえる。

そうすると、被告電通の債務不履行がなければ、少なくとも前記認定の申込金額金一億三一五五万三〇〇〇円の売上げのほか、高島易断との間の最低保証数量分の金四億九六五〇万円の売上げの合計金六億二八〇五万三〇〇〇円の売上げがあつたはずということができる。

しかし、前記1のとおり、本件商品の広告を在日韓国人向けの新聞に掲載した際の反応がほとんどなかつたことなどに照らせば、在日韓国人向けの新聞のほかに全国紙に掲載することにより、具体的に右売上げを大幅に超える売上げがあるとはにわかに考えられない。原告代表者は、二〇〇セットの予約があつたとか、本件商品の広告を全国紙に掲載すれば、ダイレクトメールと相まつて購買意欲をかき立て、民団の会員を中心に相当の売上げが見込めると考えていた旨供述するが、これを裏付ける確実な証拠もないうえ、前記認定、説示したところに照らせば、たやすく信用することができない。

したがつて、以上認定、説示したところによれば、原告が本件商品の広告を全国紙に掲載したとしても、本件商品について、右の金六億二八〇五万三〇〇〇円を超える具体的な売上げがあつたと認定することは困難というほかはない。

3  そこで、原告が本件商品を販売するにあたつて要したであろう費用などについてみるに、前記一の認定した事実、《証拠略》によれば、次の事実が認められる。

(一) 本件商品のうちダイヤモンドセットの一セット(男女ペアセット)当たりの仕入原価は金一二七万八一七八円、物品税は金三七万一七三九円、ロイヤリティは金一二万七八一七円、関税は金七万九二三六円で、仕入原価などの合計は金一八五万六九七〇円であり、アメジストセットの一セット(男女ペアセット)当たりの仕入原価は金二四万九〇七七円、物品税は金九万円、ロイヤリティは金二万四九〇七円、関税は金一万六四三四円で、仕入原価などの合計は金三八万〇四一八円である。そして、前記一の14、四の2によれば、ダイヤモンドセット(男女ペアセット)は一八八セット、アメジストセット(男女ペアセット)は一一五セットが販売可能であつたことになるから、前者の分の仕入原価の合計は金三億四九一一万〇三六〇円、後者の分の仕入原価の合計は金四三七四万八〇七〇円となる。

(二) 原告が本件商品の販売のために支出した費用は、その主張のとおり、合計金六〇一七万四四三〇円となる。

(三) また、全国紙のうち、最も発行部数の多い読売新聞に全五段のスペースで本件商品の広告を掲載すれば、一回当たり金一四五三万九七五〇円の費用を要するから、読売新聞のほか、朝日新聞、毎日新聞、日経新聞に各三回にわたつて本件商品の広告を掲載するとすれば、少なくとも金一億七四四七万七〇〇〇円を要する。

以上の事実が認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。

また、右のほか、原告は、本来、その販促活動に要する費用としてミニマムロイヤリティ金三四八四万五一〇〇円を支払うことを要する。

4  そこで、原告の逸失利益をみるに、以上認定したところによれば、金六億二八四五万三〇〇〇円の売上げに対し、販促活動に要する費用は、ダイヤモンドセットの仕入原価などの合計が金三億九二八五万八四三〇円、宣伝、広告費の合計が金六〇一七万四四三〇円、本件商品の広告の全国紙への掲載費が金一億七四四七万七〇〇〇円、ミニマムロイヤリティが金三四八四万五一〇〇円で、合わせて少なくとも金六億六二三五万四九六〇円にのぼる。

そうすると、原告には逸失利益があるということはできない。

5  原告は、販売予定数の一九八八セットの逸失利益、原告がコン・ヴュ社との契約によつて購入義務を負つている本件商品各二〇〇セットの仕入原価及び前記認定の宣伝、広告費をいずれも原告の損害として請求する。

しかし、前記認定、説示のとおり、本件において一九八八セットを完売できたということはできないから、右逸失利益の請求は、その前提を欠き、理由がない。

また、前記認定の事実によれば、原告は本件契約によつて本件商品各二〇〇セットの購入義務を負つていることが認められる。

しかし、弁論の全趣旨によれば、ソウルオリンピックが過去のものとなつた現在、コン・ヴュ社において、本件商品を原告に引き渡すことは、事実上、不可能ないし意味のないことと考えられるから、本件商品の仕入原価がそのまま損害になるとはいえない。

なお、仮に本件商品の引渡しが可能であるとしても、《証拠略》に照らせば、購入した商品を販売することは相当困難であると考えられ、したがつて、右の仕入原価がそのまま損害になると考えられないでもない。他方、本件商品はダイヤモンドまたはアメジストを用いた商品であり、その貴金属の価値も勘案すると、原告の予定していた小売価額では販売できないとしても、ダイヤモンド、アメジストそれ自体をある程度の価額で販売することは不可能ではないと解されるところ、その金額を確定するに足りる証拠はない。それゆえ、いずれにせよ本件商品各二〇〇セットの仕入原価をもつて直ちに損害と認めることはできない。

また、宣伝、広告費は逸失利益を算定する際に売上げから控除すべきものであり、その支出自体をもつて当然に被告電通の債務不履行による損害ということはできない。したがつて、原告のこれらの点に関する主張も採用することができないか、その損害を具体的に確定することができないというほかはない。

6  以上によれば、原告が当初の予定どおり本件商品の広告を全国紙に掲載したとしても、原告に損害が生じたということができない。

五  被告野村ファイナンス(野村カードサービス)の債務不履行の有無(本件の争点4)及びその損害の発生の有無(本件の争点5)について

1  野村カードサービスは、昭和六三年七月末に原告から承認番号交付書がないと本件商品の広告を全国紙に掲載することができないなどという話しを聞かされたため、原告の商品化許諾権について権利関係に不明確な点がある考え、以後同年八月末ころまで社内に対する販促活動のほかに、ロッテや全日空に対する販売活動を含めて対外的な販促活動を控えたことは前記認定のとおりである。

しかし、前記認定、説示のとおり、野村カードサービスは本件契約によつて本件商品の斡旋販売を行う義務を負つているに過ぎないと認められるうえ、前記認定の原告と野村カードサービスの交渉の経緯などに照らせば、右販促活動は、野村カードサービスの販売戦略の一環として同社が予定した販促活動の内容を原告に表明したに過ぎず、原告に対し、これを約したものとまで認めることはできない。しかも、前記認定のような状況のもとにおいて、野村カードサービスが右販促活動を控えたことは、やむを得ないものと認められる。

したがつて、野村カードサービスが前記のような販促活動を行わなかつたからといつて、それが原告に対する債務不履行に当たると解することは到底できない。よつて、この点に関する原告の主張は理由がない。

2  また、原告は、野村カードサービスが昭和六三年八月一七日に被告電通の第七営業局からミニマムロイヤリティの支払と承認番号交付書の交付が引換えにされているようだとの話しを聞いた以上、野村カードサービスには被告電通との間でミニマムロイヤリティの支払方法、支払時期を再確認したうえ、同被告の主張を撤回させ、承認番号交付書の交付を求める義務があるにもかかわらず、右同日以降、右の義務の履行を怠つたなどの債務不履行があると主張する。

しかし、前記認定の事実によれば、オリンピック室は、野村カードサービスによる請求書の受領拒絶を契機として、第七営業局と野村カードサービスとの間でされたミニマムロイヤリティなどの支払方法、支払時期に関する前記合意を一方的に破棄し、原告が商品化許諾権の使用許諾を望むのであれば、原則どおり契約締結時にミニマムロイヤリティを支払わなければならないとしていたのであり、仮に野村カードサービスが第七営業局を通じてオリンピック室の真意を問いただし、その翻意を促したうえ、承認番号交付書を求めるなどしたとしても、それだけではオリンピック室がこれに応じて右の点などについて再考する余地があつたとは、にわかに考えられない。

したがつて、野村カードサービスが昭和六三年八月一七日以降被告電通のオリンピック室と交渉しても、原告が予定していた本件商品の広告を全国紙に掲載するなどの販促活動を開始することができる見込みがあつたとは考えられず、そうすると、原告が主張する債務不履行と損害との間には因果関係があるとはいえないから、原告の右の主張も理由がない。

3  原告は、野村カードサービスが昭和六三年九月三〇日にミニマムロイヤリティを支払う義務を負つていたにもかかわらず、これを支払わなかつたのは債務不履行に当たると主張する。

しかし、前記認定の事実によれば、右の時点では、もはや原告には被告電通から本件商品について商品化許諾権の使用の許諾を得る見込みは全くなかつたのであり、《証拠略》によれば、原告は昭和六三年九月中旬ころからすでに被告電通に対する損害賠償請求訴訟の提起を準備していたと認められ、これらの事実のほか、ミニマムロイヤリティの最終的負担者は原告と野村カードサービスとの間では原告とされていたとの前記認定の事実も考え合わせれば、原告は、昭和六三年九月三〇日の時点では被告電通に対しミニマムロイヤリティを支払う必要はないと考えていたものであり、野村カードサービスも原告の右の考えを知つていたと推認される。

そうすると、野村カードサービスが右期日に被告電通に対しミニマムロイヤリティを支払わなかつたことは原告の意思に沿うものというべきであるから、右を野村カードサービスの原告に対する債務不履行ということはできず、原告の主張は理由がない。

4  以上のほか、原告は、野村カードサービスが昭和六三年九月初旬に被告電通に対し、漫然と本件商品の広告を全国紙に掲載するよう依頼し、拒否されたが、これに対する措置をとらなかつたこと、同月一三日に被告電通から本件契約の解除通知を受け取つたにもかかわらず、これに対して何らの対応もとらず、同月二二日までこれを放置したことはいずれも債務不履行に当たると主張する。

しかし、前記認定の当時の状況に照らせば、いずれにせよ野村カードサービスが被告電通を通じて本件商品の広告を全国紙に掲載しようとしてもできなかつたであろうことは、容易に想像されるところであるから、右の点をもつて同社の債務不履行ということはできない。

また、甲第二四号証(昭和六三年九月一二日付通知書)が被告電通から野村カードサービスに交付されるに至る経緯、畑が当時夏期休暇をとつていたことなど前記認定の事実に照らせば、野村カードサービスが被告電通から右の書面を受け取つた後、畑に手渡されるまでにはある程度の日数があつたと推認されるものの、右の書面はその内容からみてミニマムロイヤリティを減額することを求めた申込書に対する回答であることが窺われるうえ、前記認定のとおり、原告はそのころ被告電通に対する損害賠償請求訴訟の提起を準備しつつあつたことなどを考えると、野村カードサービスが被告電通からの右の書面に対して格別の措置をとらなかつたことが同社の原告に対する債務不履行に当たるということはできず、しかも、原告が右の書面が来ていることを少し早く知つたからといつて、当時の状況に何らかの変わりがあつたとは考えられないから、原告が主張する損害との間に因果関係があるともいえない。

したがつて、いずれにせよ原告の右の主張は理由がない。

六  結論

以上によれば、原告の請求はいずれも理由がないから棄却する。

(裁判長裁判官 浅野正樹 裁判官 升田 純 裁判官 鈴木正紀)

《当事者》

原告 東京ダイヤモンド株式会社

右代表者代表取締役 千葉憲一

右訴訟代理人弁護士 荒竹純一 同 堀 裕一 同 青木秀茂 同 安田 修 同 長尾節之 同 野末寿一 同 野中信敬 同 千原 曜 同 佐藤恭一 (第一三七六三号事件のみ)

被告 株式会社 電通

右代表者代表取締役 木暮剛平

右訴訟代理人弁護士 松嶋 泰 同 寺沢正孝

右訴訟復代理人弁護士 相場中行

被告 野村ファイナンス株式会社(合併前の商号野村カードサービス株式会社)

右代表者代表取締役 山田守正

右訴訟代理人弁護士 古曳正夫 同 金丸和弘 同 小沢征行 同 秋山泰夫

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