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東京地方裁判所 平成元年(ワ)4200号 判決

一 請求の趣旨1の請求について

原告が、被告に対し、別紙目録(一)記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。

ところで、特許法の規定によれば、発明者は、その発明について特許を受けることができるのであつて(特許法二九条一項)、発明をすることによつてその発明について特許を受ける権利を取得するのである。そして、右権利は、移転することができるものであつて(同法三三条一項)、例えば、右権利が譲渡されると、譲受人が右権利を取得し、その反面、譲渡人は、右権利を失うのである。そこで、右の譲渡が特許出願前にされた場合には、特許出願をするかどうか、特許出願した場合に出願の放棄又は取下をするかどうか、その場合に出願審査の請求をするかどうか、手続補正をするかどうかというようなことは、譲受人が、その地位に基づき、任意になしうることである(もつとも、出願審査の請求は何人もすることができる。)(同法三六条一項、一四条、四八条の三第一項、一七条一項等)。これに対して、譲渡人は、特許を受ける権利を失つているのであるから、特許出願をしたり、出願の放棄をしたりする権限を有しないのである。また、右の譲渡が特許出願後にされた場合には、その届出によつてその効力が生じると(同法三四条四項)、譲受人が出願人の地位を取得し、その反面、譲渡人は、その地位を失うのである。そして、特許権設定の登録を受けて特許権者となるのは、譲受人である出願人である(同法五〇条、五一条、六〇条、六二条、六三条二項、六六条二項、一〇七条一項等)。

これを本件についてみるに、成立に争いのない乙第六、第一二、第二一号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一、第二号証によれば、前示原告の被告に対する別紙目録(一)記載の発明についての特許を受ける権利の譲渡は、右の特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡であると認められる。この点に関して、原告は、右の特許を受ける権利の譲渡を受けた使用者である被告は、発明者である従業員の原告を代理して特許出願をしたものである旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右のとおり、右の特許を受ける権利の譲渡は、右の特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡であり、右の発明についての特許出願は、譲受人である被告が、その地位に基づいて行うのであつて、原告を代理して行うものではないと認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。そうすると、右発明についての特許権者は、前説示に照らし、譲受人である被告であつて、原告ではないといわざるをえない。以上によれば、原告が右発明についての特許権者であることを前提とする原告の請求の趣旨1の請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

二 請求の趣旨2の請求について原告が、被告に対し、別紙目録(二)記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。そして、前掲甲第一、第二号証、成立に争いのない乙第一、第一一、第一三、第二四ないし第二六号証、原告及び小山泰弘作成名義部分について成立に争いがなく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第九号証、乙第一五号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、原告作成名義部分について真正に成立したものと推定すべく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第一五号証によれば、右発明についての特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡と認められる。この点に関して、原告は、右の特許を受ける権利の譲渡は、原告のために右発明について特許出願その他特許を受けるための手続をすべき代理権を付与したものである旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右のとおり、右の特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡であつて、原告のいうような代理権を付与するものではないと認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。そうすると、右発明についての特許出願の取下などは、譲受人である被告が、その地位に基づき、任意になしうることであるといわなければならない。

したがつて、たとえ、被告が右発明についての特許出願の取下などをしたとしても、被告の右行為は、原告の権利を喪失させるものではないから、原告の請求の趣旨2の請求は、理由がないものというべきである。

三 請求の趣旨3の請求について

1 原告が、被告に対し、別紙目録(三)1記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、右発明は、原告が主たる発明者、訴外古橋隆宏が従たる発明者であり、譲渡証にもその旨記載されていたのに、被告は、右譲渡証を破棄し、右古橋を主たる発明者、原告を従たる発明者とする譲渡証を作成し、この譲渡証に従つて特許出願の手続をした旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、乙第二三号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、原告作成名義部分について真正に成立したものと推定すべく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第二三号証によれば、原告らがその意思に基づいて作成した右発明についての特許を受ける権利の譲渡証には、発明者の主従についての記載はないことが認められ、また、前掲甲第二号証によれば、右発明についての特許出願の公開特許公報にも、発明者の主従についての記載はないことが認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用するに由ないものといわざるをえない。そうすると、あらためて右発明についての特許を受ける権利の譲渡契約の締結を求める原告の請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

2 原告が、被告に対し、別紙目録(三)2記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、被告は、原告ら以外の者に原告らの署名押印をさせて、右発明についての特許を受ける権利の譲渡証を作成した旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、乙第二二号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、原告作成名義部分について真正に成立したものと推定すべく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第二二号証によれば、原告、訴外堀井将弘及び柄沢幹雄は、その意思に基づいて作成した譲渡証をもつて、被告に対し、右発明についての特許を受ける権利を譲渡したものと認められ、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。そうすると、あらためて右発明についての特許を受ける権利の譲渡契約の締結を求める原告の請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

3 原告が、被告に対し、別紙目録(三)3記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、右発明は、原告が主たる発明者、訴外古橋隆宏及び朝山隆史が従たる発明者であり、譲渡証にもその旨記載されていたのに、特許出願の際提出された譲渡証には、右古橋が主たる発明者、原告及び右朝山が従たる発明者と記載されている旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、乙第二八号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、原告作成名義部分について真正に成立したものと推定すべく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第二八号証によれば、原告らの意思に基づいて作成した右発明についての特許を受ける権利の譲渡証には、発明者の主従についての記載はないことが認められ、また、前掲甲第二号証によれば、右発明についての特許出願の公開特許公報にも、発明者の主従についての記載はないことが認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用の限りでない。そうすると、あらためて右発明についての特許を受ける権利の譲渡契約の締結を求める原告の請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

4 原告が、被告に対し、別紙目録(三)4記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。ところで、原告は、右発明は、原告が主たる発明者、訴外吉田誠、朝山隆史及び古橋隆宏が従たる発明者であるのに、譲渡証には、右古橋が主たる発明者、訴外矢崎憲弘、右朝山及び原告が従たる発明者と記載されている旨主張するが、原告が主たる発明者、右吉田、朝山及び古橋が従たる発明者であることを認めるに足りる証拠はなく、かえつて、乙第三〇号証の原告名下の印影が原告の印章によるものであることは当事者間に争いがないので、右の印影は原告の意思に基づいて顕出されたものと推定されるから、原告作成名義部分について真正に成立したものと推定すべく、また、弁論の全趣旨によりその余の作成名義部分について真正に成立したものと認められる乙第三〇号証によれば、原告らの意思に基づいて作成した右発明についての特許を受ける権利の譲渡証には、「代表発明者」の欄に右古橋の記名押印がされており、また、「その他の発明者」の欄に右矢崎、朝山及び原告の記名押印がされていることが認められ、また、前掲甲第二号証によれば、右発明についての特許出願の公開特許公報にも、発明者の主従についての記載はないことが認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。そうすると、あらためて右発明についての特許を受ける権利の譲渡契約の締結を求める原告の請求は、その前提を欠き、理由がないものというべきである。

四 請求の趣旨4の請求について

原告が、被告に対し、別紙目録(四)記載の発明のうち、9の発明を除き、そのほかの発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。そして、原告が、被告に対し、右9の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。ところで、原告は、被告は、譲渡証の正本を原告に交付する旨約したと主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はないから、原告の右主張は、採用することができない。したがつて、原告の請求の趣旨4の請求は、理由がない。

五 請求の趣旨5の請求について

原告が、被告に対し、別紙目録(五)記載の発明のうち、5の発明を除き、そのほかの発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。そして、原告が、被告に対し、右5の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことを認めるに足りる証拠はない。また、成立に争いのない乙第三一、第三三、第三四、第三六号証によれば、右発明についての特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡と認められる。この点に関して、原告は、右の特許を受ける権利の譲渡は、原告のために右発明について特許出願をすべき代理権を付与したものであるから、被告は、右発明について特許出願をし、かつ、その出願番号を原告に提示すべき義務がある旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右のとおり、右の特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡であつて、譲受人には右のような義務はないのであるから(なお、右証拠によれば、右の特許を受ける権利の譲渡証にも、右のような義務についての定めはないことが認められる。)、原告の右主張は、採用の限りでない。したがつて、原告の請求の趣旨5の請求は、理由がない。

六 請求の趣旨6の請求について

原告が、被告に対し、別紙目録(六)記載の発明についての特許を受ける権利を譲渡したことは、当事者間に争いがない。そして、前掲甲第二号証、乙第六、第一二、第一五号証、第二一号証ないし第二六号証、第二八、第三〇号証、成立に争いのない乙第四、第五号証、第二九、第三二、第三五号証によれば、右発明についての特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡と認められる。この点に関して、原告は、右の特許を受ける権利の譲渡は、原告のために右発明について特許出願その他特許を受けるための手続をすべき代理権を付与したものである旨主張するが、右主張事実を認めるに足りる証拠はなく、かえつて、右のとおり、右の特許を受ける権利の譲渡は、前示特許法の規定にいう特許を受ける権利の譲渡であつて、原告のいうような代理権を付与するものではないと認められるところであり、したがつて、原告の右主張は、採用することができない。そうすると、右発明について特許出願その他特許を受けるための手続をするかどうかは、譲受人である被告が、その地位に基づき、任意になしうることであるといわなければならない。したがつて、原告の請求の趣旨6の請求は、理由がないものというほかはない。

七 よつて、原告の本訴請求は、これを棄却する。

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