東京地方裁判所 平成元年(ワ)4722号 判決 1991年9月06日
原告
甲野太郎
右訴訟代理人弁護士
鈴木淳二
同
喜田村洋一
同
渡辺務
同
加城千波
被告
株式会社朝日新聞社
右代表者代表取締役
一柳東一郎
右訴訟代理人弁護士
芦苅直巳
同
芦苅伸幸
同
星川勇二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告は、原告に対し、金五五〇万円及びこれに対する平成元年四月二九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事実の概要
本件は、新聞に掲載された記事による名誉毀損の成否等が争われた事案である。
一争いのない事実
被告は、その発行に係る日刊紙「朝日新聞」に、原告が大久保美邦(以下「大久保」という。)と共謀のうえ、甲野一美(以下「一美」という。)を銃撃して殺害したことを内容とする殺人被疑事件(以下「銃撃事件」という。)について、要旨次のような各記事を掲載した。
1 昭和六三年一〇月二四日付夕刊
(一) 見出し「一美さん銃撃 甲野、保険金担保に借金 一億円、会社負債穴埋め」(以下「第一記事」という。)
(二) 第一記事は、原告が一美の負傷後に保険会社から受け取った約一億五〇〇〇万円の保険金の使途がほぼ解明されたと報じるものであるが、その中で、これまで原告は、自己の経営する雑貨輸入販売株式会社「フルハムロード」(以下「フルハムロード」という。)の経営が順調であり、右の保険金には手をつけていないとして、一貫して保険金の入手が銃撃の動機となり得ないことを強調してきたが、「実際は保険金を定期預金などに分け、それらを担保に約一億円を銀行から借り、会社を整理する際、負債の穴埋めなどに使っていた」ことが判明したとしている。そして、原告は、右預金などを担保に借りた一億円のほとんどを会社整理にあてているが、「借金の時期がかなり早いことや、担保とすることで表面上保険金そのものには手をつけていない形になっていることから、銃撃事件が保険金目的の犯行であることを隠すための操作である。」として捜査本部が原告を追求するとしている。
2 昭和六三年一〇月二五日付夕刊
(一) 見出し「白いバン 借用書は廃棄寸前 周辺人物 会社の場所記憶」(以下「第二記事」という。)
(二) 第二記事は、一美を銃撃した犯人が使用していたとされる白いバンに関するものであるが、同記事には、車のボンネットに原告が乗っている三段抜きの大きな写真(以下「本件写真」という。)が掲載されており、本件写真には「今年5月、警視庁が入手した白いバンの写真。ボンネットの上で甲野がポーズをとっている」との説明が付されている。そして、第二記事には、四段抜きで「白いバン 借用書は廃棄寸前」という大きな見出しが付けられており、大久保が犯行に使用したとされる白いバンを借り出したレンタカー会社とその関係書類が発見されたこと、捜査当局は本件写真に写っている白いバンが犯行に使われたものかも知れないと捜査したが、実は別の自動車であったことなどを報道するものである。本件写真の隣には、原告の共犯であるとされる大久保に関する記事が並んで掲載され、そこでは「大久保、関与を示唆 一美さん銃撃 現場に触れる供述も 甲野との関係口開く」と五段抜きの大見出しが付されている。
3 平成元年三月二一日付朝刊
(一) 見出し「甲野の会社、決算を粉飾 ロス疑惑 融手振り出し何度も 警視庁委嘱調査で判明『カネ目的』立証へ」(以下「第三記事」という。)
(二) 第三記事は、フルハムロードの資金繰りが極めて危険な状態にあるとする報告書がまとめられていることを報じるものである。同記事は、リード部分において、警視庁に委嘱された中小企業診断士らが右の報告書をまとめていたことが明らかになったとした後、本文中でこの報告の中身を詳細に報じており、「『フルハムロード』では仕入れ先台帳、支払手形記入帳、商品出納帳がそろっておらず、『常識では考えられない』『でたらめな』(報告書)経理だった」と、右報告書をそのまま引用し、あるいは、「報告書はまた、『殴打』事件直後の五十六年九月が資金繰りに最も苦しんだ時期だった、と指摘している。」とその中身を紹介している。さらに、リードの末尾には「東京地検は二十三日に始まる『一美さん銃撃事件』の公判廷にこの報告書を証拠申請し、動機立証の切り札としたい考えだ」として、右報告書が銃撃事件において証拠申請されることを明らかにしている。
二争点
1(一) 第一記事の内容は、原告の名誉を毀損するものであるか。
(二) 第一記事の内容は真実であるか。
(三) 被告が第一記事を真実と信ずるについて相当の理由があるか否か。
2 第二記事の内容は、原告の名誉を毀損するものであるか。
3(一) 被告による第三記事の掲載と刑事訴訟法四七条とはどのような関係にあるか(被告は、同条違反により不法行為責任を負うか。)。
(二) 第三記事の内容は、原告の名誉を毀損するものであるか。
(三) 被告が第三記事を真実と信ずるについて相当の理由があるか否か。
第三争点に対する判断
一争点1について
1(一) 第一記事は、原告は保険金には手をつけていないとして、保険金の入手が銃撃の動機となり得ないと強調しているが、実は保険金を定期預金などにし、これを担保に銀行から一億円の融資を受けており、捜査当局はこの点を銃撃事件が保険金目的の犯行であることを隠すための操作とみて、甲野を追求するというものであって、原告が保険金詐取という目的のために妻である一美を殺害したことを示唆するものである。
したがって、第一記事は、原告についての社会的評価を低下させるものであり、原告の名誉を毀損するものであるといえる。
(二) 被告は、第一記事が掲載された当時、既に捜査当局は、原告が保険金目的で一美を殺害したことを公式発表しており、また、当時原告は既にいわゆる一美殴打事件(殺人未遂事件、以下「殴打事件」という。)について懲役六年の実刑判決を受け、更に、銃撃事件について殺人罪で再逮捕されていたから、第一記事で原告の名誉を毀損するものではないというが、本件記事は、原告の保険金に関する弁解が根拠がないことの具体的事実をあげ、犯行の動機があったことを示唆するものであるから、被告の主張は採用できない。
また、被告は、第一記事は受領した保険金を担保に借金をしてこの金を自己の経営する会社の整理のために使用したとする部分と、保険金目的の犯行の動機を有していたと報ずる部分に分けられるとしたうえで、前者については、その者の社会的評価を低下させるようなことでは全くなく、後者については、具体的根拠事実を含めて捜査当局の公式の記者会見において正式かつ明確に発表された事実であるから、これを報道したことについては免責の対象となることは明らかである旨主張している。
しかし、前者については公式発表されておらず、第一記事は前者の事実を、原告が保険金詐取のために殺人をしたという動機を裏付ける事実として報じられているものであり、両者を分けることはできないから、被告の主張は理由がない。
2(一) 新聞記事が他人の名誉を毀損する場合であっても、その内容が公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的で報道したものであるときは、摘示された事実が真実であったことが証明される限り、右行為は違法性を欠き不法行為は成立せず、また、右事実の真実性が証明されなくても、その報道する側において右事実が真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由がある場合には、右行為には他人の名誉を毀損することにつき故意、過失がなく、不法行為は成立しないものと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、第一記事は、保険金目的の殺人という極めて重大な犯罪の嫌疑に関して報道したものであり、この報道は、公共の利害に関する事実に係り、専ら公益を図る目的に出たものであると認められる。
(二) そこで、本件記事が真実であるか否かにつき判断する。
捜査当局は、フルハムロード等に融資をした東海銀行原宿支店の書類や関係者を調べたが、銃撃事件の起訴後検察官は冒頭陳述で「保険金はいったん預金し、これを担保に銀行から融資を受け、その金員をフルハムロードに貸し付けて同社の運転資金にした……」と述べ、弁護側の求釈明に対し、「例えば千代田生命から取得した五〇〇〇万円でいうと、五七年四月に約二四七〇万円を八口の通知預金とし、同月末に三口の九七〇万円を解約して一部を充当したうえ、一〇〇〇万円の定期預金を作った。これを同銀行に担保として差し入れ、フルハムロードに一〇〇〇万円の融資をさせている。」と述べているところ、現に同年四月二七日、同支店は原告の一〇〇〇万円の定期預金を担保にしてフルハムロードに運転資金として一〇〇〇万円を貸し付けていること(<書証番号略>)などを考えると、定期預金を担保に融資を受けたとする記事の一部は真実であるとうかがえる証拠はあるものの、その余の部分については立証されているとはいいがたい。
(三) 次に、本件記事の内容たる事実につき被告がこれを真実であると信じたことについて相当の理由があったか否かにつき判断する。
証拠(<書証番号略>、証人田村正人、同清水建宇、同佐藤日出男)によれば、第一記事の取材に至る経緯、取材の状況及び取材後第一記事が掲載されるまでの経緯等は次のとおりである。
(1) 被告の取材記者である清水建宇(以下「清水」という。)は、週刊誌「週刊文春」が原告にかかわる殴打事件及び銃撃事件を内容とするいわゆる「ロス疑惑」と称される事件について連載をした昭和五九年一月当時、警視庁記者クラブ捜査一、三課担当のチーフで、そのころから、同事件について取材をしており、その後警視庁クラブを離れた後も右ロス疑惑を担当する捜査幹部とは折りに触れて接触を続けていた(清水は、その後第三記事掲載当時には警視庁記者クラブへ持ち場換えとなり、サブキャップの立場にあった。)。清水は、昭和六二年六月一三日に、捜査の全体を指揮して把握できる立場の幹部のうちの一人から取材をし、原告が銃撃事件の後に入手した保険金を定期預金にして、それを担保に金融機関から借り入れを受けていたことについて捜査当局が大筋をつかんでいることを知った。
(2) 清水は、右捜査幹部の取材から一週間を置かずに、当時進行中であった殴打事件の原告側弁護人の一人に、保険金を元にした預金などを担保に借入をして会社経理の穴埋めをしたか否かについて取材をしたところ、銀行預金が外形的に残っていること、原告からこれを担保にして融資を受けた話は聞いていないことを理由にこれを否定する回答を得た。
(3) 被告の取材記者である佐藤日出男(以下「佐藤」という。)は、清水の取材をもとに更に取材を続けていたが、昭和六三年七月二日、ある捜査担当者から、その後捜査がかなり進行し、フルハムロードの経営実態をほぼ解明したこと、東海銀行から原告が預金を担保に一億円を借りたことなどにつき、具体的にフルハムロードの取引業者の名前、数字などをあげて説明を受けた。
佐藤は、同僚の二人の記者とともに、それぞれの取材対象にどこから入手した情報かわからないように気をつけながら、別の捜査幹部を含めた捜査担当者に右情報が正しいかどうか確認の取材を続けた結果、情報は正しいとの回答を得た。その間、佐藤は、フルハムロードの経理を知っている者に右の点の取材をしたが、はっきりした回答は得られなかった。
(4) また、被告の記者は、原告が東海銀行原宿支店から借り入れを受けたことを聞き、同銀行に裏付け取材をしたが、回答を拒否された。
(5) 同年一〇月二〇日の警視庁捜査一課の記者会見において、同日、原告外一名を殺人容疑で逮捕したという事実が発表され、フルハムロードが昭和五六年八月には買掛金五〇〇万円を支払えず、翌月には取引先から一〇〇〇万円の借金をしている等具体的事実を摘示しながら、原告が同社の資金繰りに困っていたという動機を明らかにしたうえ、原告は外一名と共謀の上、妻にかけていた一億五五〇〇万円の生命保険金の取得を目的に犯行に及んだものであるとの見解が正式に発表された。
(6) 佐藤は、右記者会見の後、同月二三日に、第一記事の内容について、捜査担当の最高責任者で事件の捜査資料すべてに通じていた捜査幹部のうち、二人に会って確認を得たうえ、同月二四日、第一記事を作成し、掲載した。
(7) その後、東京地検は、前記認定のとおり冒頭陳述及び釈明をしている。
以上の事実からすれば、第一記事は、少なくともその一部につき、これをうかがわせる事実が存在すること、捜査担当者のうち数人の幹部の共通の具体的かつ根拠を示したうえでの情報に基づくものであり、その内容はその後の原告の殺人、詐欺被告事件における冒頭陳述においても維持されている程度の嫌疑を有していたこと、第一記事の掲載に先立ち、捜査機関は原告が昭和五六年八月ころには会社経営の資金繰りに困っていた点、銃撃事件が保険金取得目的の殺人事件である点について公式発表をしていること、被告の取材記者らは記事掲載の一年前から大筋の点に関する情報を得て、捜査当局のみならず、確認を得られなかったとはいえ東海銀行の関係者、殴打事件の弁護人、フルハムロードの経理を知っている者にも取材をし、最終的に捜査幹部の確認を得て記事を掲載していることなどの事実からして、被告は第一記事を裏付ける手立てを尽くした結果これを真実であると信じ、かつ、そう信じるにつき相当の理由があったものということができる。
なお、被告の記者らは、昭和六二年に第一記事の大筋について捜査当局者から取材した直後に、当時の原告の殴打事件弁護人に事実関係の確認をしたのみで、その後構成の変わった原告の弁護人らに第一記事の内容について取材をしていないが、前掲証拠によれば、保険金の使途については、殴打事件等がマスコミに取り上げられるようになった当初から原告自身がテレビで発言をしており、その後もその主張内容は基本的には変化していなかったと推認されるから、その後銃撃事件において、原告がこの点に関する主張を大幅に変えることはないであろうと被告の記者らが推測するのはそれなりの理由があるというべく、特に第一記事の内容について、改めて構成の変わった弁護人らに対して取材をしなかったことの一事をもって、被告が取材を尽くしていなかったということはできない。
二争点2について
原告は、第二記事の写真並びに見出しを見た一般読者は、この写真が原告が犯人の使用した白いバンに乗っている場面だと理解するとして名誉毀損を主張する。
しかしながら、新聞記事による名誉毀損の成否は、その記事内容や見出し、写真等を総合して判断すべきである。
前記のとおり、第二記事は、原告の共犯者として逮捕された大久保が犯行現場で目撃されたものと同種の白いバンを事件前日に借りていた事実を捜査当局が把握するまでの経緯を詳述したものであり、その中で捜査の過程における失敗例として、本件写真に基づく追跡調査について触れているものであり、本件写真は第二記事の従たる内容であって、確かに、失敗例の写真として掲載するには、やや妥当性を欠くきらいがないでもない。しかし、一般読者の通常の注意力をもってすれば、本件写真の白いバンと銃撃事件に使用された白いバンとが直接の関わりのあるものではないことについては十分に理解に達しうると考えられる。すなわち、第二記事全体を見れば、「こんな失敗例もあった。」という書き出しで原告が白いバンに乗っている本件写真との関係が述べられていること、そして、銃撃事件の際に大久保が使用したと推測される白いバンは、レンタカー会社「バレー」から借り出されたもので、捜査当局は廃棄寸前の右車の借用書を発見しているのに対し、本件写真で原告とともに写っているバンを貸したレンタカー会社はすでに倒産し、借り出し記録は残っていない旨記載されていることなどからして、本件写真と大久保が犯行に使用したとされる白いバンとは無関係であることが認識できるのが通常であり、第二記事の読者が原告の主張するような誤った理解をするおそれが存しないことは明らかである。
したがって、第二記事が原告の名誉を毀損するものとはいいがたい。
三争点3について
1 刑事訴訟法四七条は、刑事訴訟に関する記録が公判開廷前に公開されることによって、訴訟関係人の名誉を毀損し、公序良俗を害し、又は裁判に対する不当な影響を引き起こすことを防止するために、予め訴訟関係書類を公にすることを原則として禁止した規定である(最高裁判所昭和二八年七月一八日判決・刑集七巻七号一五四七頁参照)。そして、本条は、右の目的から、裁判官、検察官その他の訴訟関係人に対し、公開の禁止を訴訟法上義務づけているものであり、その違反が直ちに不法行為に該当するという趣旨ではないと解される。
したがって、被告のような報道機関はその対象ではなく、訴訟関係人から刑事訴訟に関する記録を事前に取得して公表した事実があっても、その一事をもって、不法行為責任を負うものではない。
ただ、その訴訟記録の内容が人の名誉を毀損するものである場合には、一般原則に従い、不法行為責任を負うものというべきである。
2 そこで、第三記事は、原告の名誉を毀損するものであるか否かについて判断する。
前記のとおり、第三記事の本文自体は、警視庁が委嘱した中小企業診断士らがフルハムロードの経営について調査し、報告書を提出したこと、同会社は経営困難となっていたことなどの報告書の要旨、弁護側の反論、検察側は右報告書を提出予定であること、銃撃事件の公判では、同会社の経営実体が焦点の一つとなること等を報道したものであるが、その見出しは「甲野の会社、決算を粉飾」「融手振り出し何度も」「警視庁委嘱で判明」「『カネ目的』立証へ」と記載されていることからみると、被告としては右報告書の内容が正しいとし、したがって、原告には犯行の動機があったことを示唆する記事となっており、原告の名誉を毀損する行為に該当する。
3 証拠(<書証番号略>、証人田村正人、同清水建宇、同上治信悟)によれば、第三記事の取材、掲載の経緯等は次のとおりである。
(一) 被告の記者である上治信悟(以下「上治」という。)は、昭和六一年八月から平成元年三月まで、警視庁クラブの捜査一課、三課の担当であったが、原告の銃撃事件の初公判の期日が迫っていた平成元年二月ころ、ある事件関係者から「警視庁の委嘱を受けた中小企業診断士が原告の会社の経理を調べ、資金繰りが苦しかったとする報告書を作った。」という話を聞き、訴訟関係人から六人の企業診断士が作成した報告書(以下「本件報告書」という。)を見せてもらった。
上治は、本件報告書の要点をノートに筆記し、また、記事に係わる部分はできるだけそのまま筆記することとし、合計五時間ほどかけて内容を書き写した。
(二) 上治や当時警視庁クラブのサブキャップであった清水は、殴打事件の第一審判決でフルハムロードの経営が悪くなかった旨の認定がなされていたことから、フルハムロードの経営状態が、銃撃事件の動機の面で大きな比重を占めるという判断をしていたので、本件報告書の内容が報道するに足るものであると考えた。
そして、被告は、殴打事件の第一審の記録に付されていたフルハムロードの会計書類と照らしあわせて本件報告書の中身を確認した。また、本件報告書の中で触れられている融通手形の相手方であるサンエイにも取材をした。
清水は第三記事掲載前日の平成元年三月二〇日、警視庁刑事部の参事官(警部)以上の役職にある幹部に取材をし、第三記事の骨子について確認を得た。
(三) 更に、上治は、原稿を書く際、本件報告書が検察側の立証書類であることから、上司から原告の主張をきちんと聞くように指示を受け、原告側弁護団の弁護士の事務所に電話を架けて、二〇分ほど取材をし、第三記事に記載されているとおり、「この報告書に対して、甲野被告の弁護側は『あまりに一方的な内容で納得できない。粉飾決算というが、フルハムロードの株主は親族ばかりで、業績をごまかす必要はなかった。まだ、手の内は明かせないが、法廷ではこちらが集めた資料を基に反論していく』と話している。」旨の記事を掲載して、公正を保つことにした。
以上のように、被告は従来の捜査当局の公式発表、非公式な取材内容などの前提の上に、本件報告書の内容につき裏付けをとるため、融通手形の相手方に対する直接の取材をし、フルハムロードの会計書類と照らし合わせ、更に警視庁幹部や弁護人からも話を聞いており、したがって、被告は第三記事の作成に関して一応なすべき手段を尽くし、その内容が真実であると信じ、かつ、真実と信じるにつき相当の理由があったものということができる。
(裁判長裁判官谷澤忠弘 裁判官古田浩 裁判官細野敦)