東京地方裁判所 平成元年(ワ)5031号 判決 1991年4月23日
原告
株式会社ナガナワ
代表取締役
長縄和憲
訴訟代理人弁護士
吉田杉明
被告
株式会社日本デイリー・クイーン
代表取締役
広田丹
訴訟代理人弁護士
五十嵐啓二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は、原告の負担とする。
事実及び理由
一請求
(不法行為による損害賠償請求として)
被告は、原告に対し、一五〇〇万円及びこれに対する平成元年四月二八日から支払済みまで年五分の金員を支払え。
二事案の概要
1 本件は、被告のフランチャイズチェーンに加盟した原告がチェーン店を開く前に、被告が根拠ある事実に基づかず、虚偽または誇大な売上及び予想収益の開示等を行なったため、これに基づいて開店した原告が予想を遥かに下回る収益しかあげられず、合計二九三七万円相当の損害を蒙ったとして、うち一五〇〇万円の賠償を被告に請求した事案である。
2 争いのない事実等
(一) 原告は、飲食業を営む株式会社であり、被告は、ソフトクリーム等の飲食店のフランチャイズを展開する株式会社である。
(二) 原告は、被告のフランチャイズ店舗を経営したいと考え、昭和六一年九月二五日、被告との間で、被告のフランチャイズチェーンに加盟する契約(本件契約)を締結した。
(三) 被告は、本件契約に基づいて、同年一一月、原告に対し、相模原市相模大野五丁目四〇三七番の物件を紹介し、デイリー・クイーン相模大野店(本件店舗)を開店するよう勧めた。そして、同年一二月初め頃、本件店舗の売上として一か月「四〜五〇〇万円は狙えると思う」と記載された「物件現地調査報告」を原告に示した(<証拠略>)。
(四) 被告は、昭和六二年二月一三日、本件店舗前道路における歩行者の通行量調査を実際に行った。このときは、道路の店頭側の歩道について、両方向に向かう歩行者数を計測したところ、午前八時から深夜〇時までの歩行者数が一〇五四七人であるという結果が出た(<証拠略>)。
(五) 原告は、被告の紹介を受けて、昭和六二年二月二〇日、本件店舗を開店した。しかし、本件店舗の営業成績は、月間売上一〇〇万円強程度と振るわず(<証拠略>)、原告は同年七月一九日、本件店舗を閉店した。
3 争点
(一) 被告は、原告に対して、一か月四〇〇万円程度の売上が見込める旨売上を保証したか。
(二) 被告は、実際の通行量の倍程度の誤った店前通行量の推定に基づいて、原告の売上を予想したか。
(三) 被告が原告の売上を推定した根拠として用いた、平均競合率、DQ属性などの数値が、不適切なものであったか。
三争点に対する判断
1 争点(一)(売上保証の事実の有無)について
(一) <証拠略>によれば、原告代表者が本件店舗用の物件を初めて見に行った際、被告の担当者である三門雅夫店舗運営部長は、ハンバーガーを主力商品とする近隣のファーストフード店「モスバーガー」のパンのバンズケースの空箱数から判断して、一か月六〇〇万円ぐらい売れると言い、その後「物件現地調査報告」を原告代表者に示し、月間四五〇万円という数字を示した上、絶対売れる旨保証したという。
しかしながら、右「物件現地調査報告」には、本件店舗の月間売上として、「四〜五〇〇万円は狙えると思う」と記載されているにとどまり、右記載は、被告が原告に売上が見込める旨保証したものとはいえず、他に売上が見込める旨保証したと認められるような証拠はない。むしろ本件契約の契約書(<書証番号略>)には、被告が加盟店の利益について保証しない旨明記されている。右の記載等に照せば、原告代表者の言うように、被告側の担当者が売上が確実に見込まれるかのような説明をしたとしても、それはあくまで開店を勧誘するためのセールストークにすぎないと見るのが妥当である。
したがって、被告が原告に対し、一定の売上が見込める旨売上を保証した事実を認めることはできない。
2 争点(二)(通行量調査の誤り)について
<証拠略>によれば、被告の担当者である三門部長は、昭和六一年一一月二六日午後二時から三時まで、本件店舗付近を現地調査し、店前における歩行者の通行状況や、「モスバーガー」のパンのバンズケースの空箱数等から判断して、一か月四〇〇ないし五〇〇万円の売上が狙えると予測し、その旨「物件調査報告」に記載して原告代表者に示したこと、右の予測は、その後被告側で商圏人口等により割り出した、本件店舗前における一日の歩行者の推定通行量(一一五二三人)に基づき、被告独自の計算式により算出した数値に合致することが認められる。
被告の主張によれば、被告の売上予測は、一日につき一一五二三人という推定通行量をもとに、次のような被告独自の売上予測のための計算式に基づいて算出されたものであるという。
来店見込客=店前通行量×平均競合率×DQ属性×類似立地吸引率
推定売上高=来店見込客×客単価×営業日数
これに対して、原告は、本件の売上予測に用いられた平均競合率(他社製品との競合によるシェアの割合)、DQ属性(被告の商品に見合う属性)、類似立地吸引率(通行客を吸引する割合)などの数値が不当であったと主張する。
確かに、これらの数値は、あくまで一般的な予測値にすぎず、ある予測値があらゆる状況に適合するとはいえないことも十分考えられ、個々の状況下でより適当な値がありうるという批判も可能である(<証拠略>)。しかし、これらの値について、売上高に影響を与えるような客観的で明白な誤謬があるとの立証がなされていないから、これらが誤った数値であると断定することはできない。
そして、これらの数値を用いて算出した売上予測値は、実際の売上高と大きく異なったことが認められるが、原告の営業が予想を遥かに下回った原因として、開店時期や店前の道路工事、店員どうしの仲が険悪で店の雰囲気が悪かったことなど、種々の要因が指摘されており、それらの要因を否定するに足る資料は提出されていない(<証拠略>)。そうすると、実際の売上が売上予想を大きく下回ったことのみを理由に、被告の用いた平均競合率等の数値が誤っていたものと認めることも困難である。
(裁判長裁判官淺生重機 裁判官森英明 裁判官岩田好二は、転官のため、署名押印することができない。裁判長裁判官淺生重機)