大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成元年(ワ)6343号 判決 1990年11月14日

原告

社団法人太平洋美術会

右代表者理事

椿悦三

右訴訟代理人弁護士

加地修

被告

株式会社太平洋銀行

右代表者代表取締役

井上貞男

右訴訟代理人弁護士

平田政藏

右訴訟復代理人弁護士

三宅裕

主文

被告は原告に対し、金三二四万四四六一円及び内金三一八万〇三一六円に対する平成元年四月二八日から支払済みまで年六分の割合による金員払え。

訴訟費用は被告の負担とする。

この判決は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一原告の請求

主文と同旨。

第二事案の概要

本件は、原告が被告に預け入れた普通預金及び定期預金を解約し、預金元金及び利息並びに元金に対する解約の日の翌日からの遅延損害金の支払いを求めたのに対し、被告は、本件では所定の払戻請求書に届出印を押印し、通帳と共に提出するという解約手続きがなされていないこと、原告の代表者理事の地位につき争いがあることを理由に、その支払いを拒否している事案である。

一(争いのない事実)

1  原告は、絵画等の研究を奨励し、展覧会を開催することを目的とした社団法人であり、被告は預金などの業務を目的とした銀行である。

2  原告は被告に、普通預金(口座番号六〇六九五六七〇七三)及び自動継続定期預金(口座番号六〇六九五六七四六四。以下「定期預金」という。)を有し、平成元年四月二七日現在、普通預金の残高は一八万〇三一六円、定期預金の元金は三〇〇万円、利息は六万四一四五円となっている。

3  原告は被告に対し、平成元年四月二七日到達の書面で、右各預金契約を解約する旨の意思表示をした。

4  原告の現在の代表者は、理事(会長)椿悦三(以下「椿」という。)であるが、前理事であった石井達治(以下「石井」という。)が本件定期預金証書及び銀行届出印を原告に渡さないので、原告は所定の払戻請求書に届出印を押印し、通帳と共に提出するという解約手続きをとることができない。

5  石井他一名は、椿の理事選任決議を争い、その無効確認訴訟を提起している。

二(争点)

1  原告が右のような事情のもとに、所定の解約手続きがとれないことを理由に、被告は預金の返還を拒否できるか。

2  石井他一名が椿の選任決議無効確認訴訟を提起していることを理由に、被告は預金の返還を拒否できるか。

第三争点についての判断

1  (争点1について)

預金債権は指名債権であり、預金通帳、預金証書は証拠証券であって、被告主張の払戻請求書の届出印を押印し、通帳または証書と共に提出するという手続きは、有効な弁済をなしたことの証拠を確保するための手段に過ぎない。

したがって、本件のように、原告が被告に本件普通預金口座及び定期預金口座を有していることは争いがなく、第三者が定期預金証書及び届出印を原告に渡さないため、原告が所定の解約手続きをとることができない場合には、その手続きをしなくとも、被告は預金の返還請求に応じる義務がある。

2  (争点2について)

椿が現在理事として登記され、代表権限を有する会長となっていることは当事者間に争いがないところ、被告が単に、前理事の石井が椿の理事選任決議を争って訴訟を提起していることを知っているというだけで、(仮に、将来その選任決議が無効とされた場合に)椿の代表権限がないことについて、悪意または過失があったことになるとは言えないから、被告は原告の本件預金返還請求を拒否することはできないと解される。

(裁判官谷澤忠弘)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例