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東京地方裁判所 平成元年(特わ)126号 判決 1989年11月09日

本店所在地

東京都港区新橋三丁目三番一四号

大伸共立株式会社

(右代表者代表取締役 穴戸賢士)

本籍

同都板橋区大谷口北町二七番地

住居

同都港区高輪三丁目一二番三二号

会社役員

田名部太郎

昭和一五年二月二七日生

右両名に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官渡辺咲子出席の上審理し、次のとおり判決する。

主文

被告人大伸共立株式会社を罰金九〇〇〇万円に、被告人田名部太郎を懲役二年六月にそれぞれ処する。

被告人田名部太郎に対し、この裁判確定の日から五年間、その刑の執行を猶予する。

理由

(罪となるべき事実)

被告人大伸共立株式会社(以下、被告会社という。)は、東京都港区新橋三丁目三番一四号に本店を置き、不動産の売買及び仲介等を目的とする資本金二〇〇〇万円の株式会社であり、被告人田名部太郎(以下、被告人という。)は、被告会社の実質的経営者として同会社の業務全般を統括しているものであるが、被告人は、被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外し、架空仕入れを計上するなどの方法により所得を秘匿した上、

第一  昭和六〇年八月一日から同六一年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が一億七九五五万七七七二円で(別紙1修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が一億一一三万七〇〇〇円あった(別紙2脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六一年九月二九日、東京都港区芝五丁目八番一号所在の所轄芝税務署において、同税務署長に対し、所得金額が五八一九万八七七二円で、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が二五二五万七二〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(平成元年押第九〇三号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額九六四七万五八〇〇円と右申告税額との差額七一二一万八六〇〇円(別紙2脱税額計算書参照)を免れ、

第二  同六一年八月一日から同六二年七月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が四億九八七九万三六〇六円で(別紙3修正損益計算書参照)、課税土地譲渡利益金額が五億一二八七万七〇〇〇円あった(別紙4脱税額計算書参照)のにかかわらず、同六二年九月二九日、前記芝税務署において、同税務署長に対し、所得金額が七〇八四万八八五三円で、課税土地譲渡利益金額が零であり、これに対する法人税額が二八二八万六四〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額三億一〇五九万八七〇〇円と右申告税額との差額二億八二三一万二三〇〇円(別紙4脱税額計算書参照)を免れ、

たものである。

(証拠の標目)

判示全部の事実につき

一  被告人の当公判廷における供述

一  被告人(平成元年七月五日付)及び被告会社代表者の検察官に対する各供述調書

一  能敏朗(平成元年六月二九日付)及び守屋行雄の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の領置てん末書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  仕入高調査書

2  土地譲渡利益金額調査書

一  東京法務局港出張所登記官作成の登記謄本

判示第一の事実につき

一  被告人の検察官に対する平成元年七月六日付供述調書

一  検察事務官作成の捜査報告書

一  押収してある法人税確定申告書(昭和六一年七月期分)一袋(平成元年押第九〇三号の1)

判示第二の事実につき

一  被告人の検察官に対する平成元年七月七日付、同月一〇日付及び同月一三日付各供述調書

一  能敏朗(平成元年六月三〇日付、同年七月一日付、同月三日付及び同月四日付)、鵜川次男及び木内保の検察官に対する各供述調書

一  収税官吏作成の次の各調査書

1  売上高調査書

2  売上利益分配金調査書

3  受取仲介手数料調査書

4  期末棚卸高調査書

5  受取利息調査書

6  事業税認定損調査書

一  押収してある法人税確定申告書(昭和六二年七月期分)一袋(平成元年押第九〇三号の2)

(法令の適用)

一  罪条

1  被告会社

判示第一及び第二の各事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項

2  被告人

判示第一及び第二の各所為につき、法人税法一五九条一項

二  刑種の選択

被告人につき、懲役刑選択

三  併合罪の処理

1  被告会社

刑法四五条前段、四八条二項

2  被告人

刑法四五条前段、四七条本文、一〇条(犯情の重い判示第二の罪の刑に加重)

四  刑の執行猶予

被告人につき、刑法二五条一項

(量刑の理由)

本件は、不動産の売買・仲介等を目的とする被告会社の実質的経営者である被告人が、同会社の法人税を免れようと企て、売上の一部を除外したり、架空仕入を計上するなどして、二事業年度分の法人税合計三億五三五三万九〇〇円を免れたというものであって、脱税額が巨額である上、ほ脱率は約八六・八四パーセントと高率であること、土地重課制度の趣旨を踏みにじり、その犯行の動機にも酌むべき点はないこと、ほ脱の具体的方法も、架空の領収書や売買契約書を作成するなどして税務調査に備えていたもので、その手口は巧妙であることから、犯情は悪質で、被告人らの刑事責任は重大であって、被告人については実刑をもって臨むことも充分考えられるところである。

しかしながら、被告人は、本件査察調査開始前の税務署の調査に応じて、その旨の修正申告をする予定であったこと、本件査察調査開始後も全面的に自白して捜査に協力していること、修正申告を行った上、本税及び附帯税を完納し、地方税についても納付したこと、本件脱税額のうち土地譲渡税額及び留保税額を除く部分は二億三二二〇万円余であること、本件ほ脱所得の大部分について、知人からの依頼によるゴルフ場建設のために使用していること、その金額については既に返済がなされ、それをも含む本件ほ脱所得について、被告会社の公表帳簿上も受入れがなされていること、被告人は本件犯行を深く反省し、今後は正しく申告納税する旨誓っていること、これまでのワンマン体制を改め合議制にし、また税理士資格を有する者を経理部長に迎え、かつ他の税理士の監督を受ける等経理について二重のチェック体制を整えたこと、本件が新聞等でも取り上げられるなど既に相当の社会的制裁を受けていることなど、被告人らに有利な事情も認められ、これらに被告人の身上、経歴、家庭の状況等をも総合勘案して、主文のとおり量刑し、被告人に対しては、今回に限りその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した次第である。

(求刑 被告会社につき罰金一億円、被告人につき懲役二年六月)

よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 中村俊夫)

別紙1

修正損益計算書

大伸共立株式会社

自 昭和60年8月1日

至 昭和61年7月31日

<省略>

別紙2

脱税額計算書

大伸共立株式会社

自 昭和60年8月1日

至 昭和61年7月31日

<省略>

別紙3

修正損益計算書

大伸共立株式会社

自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

<省略>

別紙4

脱税額計算書

大伸共立株式会社

自 昭和61年8月1日

至 昭和62年7月31日

<省略>

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