東京地方裁判所 平成元年(行ウ)114号 判決 1989年6月14日
東京都西多摩郡瑞穂町武蔵一八三番地三
原告
角田豊治
東京都青梅市東青梅四丁目一三番四
被告
青梅税務署長
嶋田佳剛
主文
本件訴えを却下する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
一 原告の本訴請求の趣旨は、「原告が被告に対し昭和六三年五月九日付けでした憲法一六条及び請願法に基づく別紙請願書記載の申立てに対し、被告が何らの応答をしないことは違法であることを確認する。」というものである(以下、右申立てを「本件申立て」という。)。
二 ところで、行政事件訴訟法三条五項に規定する不作為の違法確認の訴えの対象となるのは、法令に基づく申請に対する行政庁の不作為のみであり、法令に基づかない申請に対する行政庁の不作為は、右訴えの対象の資格を欠くものというべきである。
三 原告は、憲法一六条及び請願法に基づき本件申立てをしたと主張するが、憲法一六条及び請願法で認められる請願とは、国又は地方公共団体の機関に対し、その職務に関する事項について希望を述べるものにすぎず、請願を受けたものがそれに対して応答する義務を負うものではないから、本件申立ては行政事件訴訟法三条五項でいう法令に基づく申請に該当しないものといわなければならない。また、本件申立てが請願以外のものであるとしても、原告が被告に対して本件申立てを行うことができる旨定めた法令はないので、やはり行政事件訴訟法三条五項でいう法令に基づく申請に該当しないものである。
そうすると本件申立ては、法令に基づくものとはいえないので、本件訴えは、訴えの対象となる不作為を欠き、不適法であるというべきであり、その欠缺が補正することのできない場合である。
四 よって、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法二〇二条により本件訴えを却下し、訴訟費用の負担につき行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 青野洋士)
別紙
請願書
1989年5月 日
青梅税務署長
大蔵事務官
嶋田佳剛殿
住所 東京都西多摩郡瑞穂町大字武蔵183番地3
氏名 角田豊治
貴職に対し、下記について文書で回答されるよう請願します。
記
本件は、納税者の権利に係る請願であり、刑法第193条もあるので、貴職はその職務に遺憾なきよう対処すること。
(公務員の職権濫用)刑法第193条公務員其職権ヲ濫用シ人ヲシテ義務ナキ事ヲ行ハシメ又は行フ可キ権利ヲ妨害シタルトキハ二年以下ノ懲役又ハ禁錮ニ処ス
1) 貴職は、納税者である本件請願者に対し行政処分をしたか。
2) もし1)について、処分をしたことがあれば、それについて国税通則第77条第1項にいう「不服申立て」の期間はいつまでと承知しているか。
3) 2)について、処分の理由とその算出根拠は何か。
訴状
東京都西多摩郡瑞穂町武蔵一八三番地三
原告 角田豊治
東京都青梅市東青梅四の一三の四
被告 嶋田佳剛
不作為の違法確認請求訴訟事件
訴訟物の額 金九五〇、〇〇〇円也
貼用印紙 金八、二〇〇円也
請求の趣旨
原告が被告に対して為して、文書での回答を求める、知る権利的請願についての被告の不作為は、結果として原告の「行フ可キ権利ヲ妨害」するもので、違法である。
訴訟費用は被告の負担とする。
との判決を求める。
請求の原因
一、原告は個人で事業を営む納税者であり、被告は国家公務員であり、青梅税務署の署長である。
二、被告は一九八八年五月九日、所得税の調査として部下の職員を原告の店に出張させた。
三、原告は一九八九年五月九日、被告に対し憲法第一六条と請願法に基いて請願書を提出し、被告はこれを受理した。
四、しかし被告今日に至るも原告の請願に対し、公文書での回答をしていない。
請求の理由
右のような被告の不作為は、原告をして、行政処分に係る異議申立期間について、知る権利を妨害し、国税通則法第八三条によって原告の異議申立期間について、知る権利を妨害し、国税通則法第八三条によって原告の異議申立権を失わせしめ、同法一一五条によって訴訟権を失わしめるものであり、刑法第一九三条に抵触するから原告は、裁判上被告の違法確認の裁判を求めるために、本訴に及んだものである。
証拠書類
甲第一号証 メモ 一通
甲第二号証 請願書 一通
甲第三号証 督促状 一通
一九八九年 六月一日
右原告 角田豊治
東京地方裁判所 御中