東京地方裁判所 平成元年(行ウ)154号 判決 1990年10月05日
主文
本件訴えをいずれも却下する。
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実
第一 当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告両名が平成元年五月二三日に日本道路公団(以下「公団」という。)に対してした高速自動車国道の料金及び料金徴収期間の変更の認可処分のうち、「車種区分・車種間料金比率」中、普通車一に対し中型車を一・〇六、大型車を一・五五、特大車を二・七五とした部分及び「対距離料金」中、中型車を一キロメートル当たり二四・三八円、大型車を一キロメートル当たり三五・六五円、特大車を一キロメートル当たり六三・二五円とした部分を、いずれも取り消す。
2 訴訟費用は被告らの負担とする。
二 請求の趣旨に対する被告らの本案前の答弁
主文同旨
第二 当事者の主張
一 請求原因
1 原告らは、東名高速道路及び名神高速道路の沿線に本社を置く運送業者であり、三〇台ないし一〇〇台の貨物自動車等を保有して、東名高速道路及び名神高速道路を利用しているものである。
2 被告らは、平成元年五月二三日、道路整備特別措置法二条の四の規定に基づき、公団が平成元年三月三〇日付けでした高速自動車国道の料金の変更(値上げ)申請(以下「本件申請」という。)につき、別紙「高速自動車国道の料金改定」の「認可」欄記載のとおりの認可をした(以下、右の各認可を「本件各認可」という。)。
3 本件各認可のうち、「車種区分・車種間料金比率」中の普通車一に対し中型車を一・〇六、大型車を一・五五、特大車を二・七五とした部分及び「対距離料金」中の中型車を一キロメートル当たり二四・三八円、大型車を一キロメートル当たり三五・六五円、特大車を一キロメートル当たり六三・二五円とした部分には、次のとおりの違法がある。
(一) 画一料金方式適用の違法
本件申請は、いわゆる料金プール制(予定路線の収支を併合して計算する方式)を採用して全国六四一〇キロメートルに及ぶ高速自動車国道予定路線の建設費及び償還期限内の維持費管理費等の道路整備特別措置法施行令一条の五所定の費用を高速自動車国道予定路線の償還期限内の料金収入で賄うことを前提とし、全路線画一料金方式によって料金を算定してなされたものである。しかし、右の料金プール制は、道路整備特別措置法一一条によって認められているものではあるが、全国的な不採算路線の建設費や管理費の負担を採算路線の利用者にしわよせするものであるから、その運用にはおのずから一定の制約があるべきである。
もともと高速自動車国道は、個別採算制を原則としてスタートし、各路線の建設費等をおおむね三〇年で償還することを前提に運用されてきたものであり、昭和三八年開通の名神高速道路及び昭和四三年開通の東名高速道路は、既に使用開始当初に予定された本来の償還期限に近づいている道路である。これらの高速自動車国道は、現在、交通量が多く、収入対費用の効率(収支率)が極めて良いことから、料金プール制の運用上他の不採算路線を内部補助する立場にあるが、交通量の過多や経年変化による路面の悪化に基因して、事故渋滞や工事渋滞が多く、また、パーキングエリアの不足が著しいなど、その利用者に対するサービスが急激に悪化している。
このように名神高速道路及び東名高速道路が多くの収益をあげながら利用者は悪いサービスの提供しか受けられない結果となっているもとで、単純に画一料金制を適用して他と同一の値上げを認めた本件各認可は、料金の額は公正、妥当なものでなければならないとする道路整備特別措置法一一条に違反しており、違法である。
(二) 車種別値上げ幅の違法
本件各認可は、従前単一の車種区分であった普通車を軽乗用車等、普通車、中型車の三種類に細分し、普通車全体としては平均一・〇一パーセントの値上げに抑制しつつ、中型車の料金を一二・三五パーセントと大幅に値上げし、また、大型車については九・五二パーセント、特大車については五・九九パーセントの値上げを認めている。
しかし、これらの中型車、大型車及び特大車は今日の大量貨物輸送社会の中で運輸手段として中核的役割を果たしている。また、運送業の運輸料金については、認可運賃制がとられているが、実勢運賃はこれよりもはるかに低額であり、しかも、高速自動車国道料金については、これを荷主に別途に請求できる建前にはなっているが、運送業者は、荷主の希望というよりも自動車運転者に対する労務管理対策として高速自動車国道を利用しているものであるから、その料金を荷主に負担させることが困難な実情にある。
このような現状のもとで、中型車、大型車及び特大車の高速自動車国道料金を大幅に値上げした今回の料金の変更は、原告ら運送業者の収益に顕著な打撃を与えるものである。
したがって、運送業者が認可運賃どおりの運輸料金を収受できるような基盤の整備さえ行わずに、このような大幅な値上げを認めた本件各認可は、原告ら貨物運輸事業者のみを不公平に扱うものであって、道路整備特別措置法一一条所定の公平妥当主義に違反し、違法である。
よって、原告らは、被告らに対し、本件各認可処分のうち請求の趣旨記載の各部分の取消しを求める。
二 被告らの本案前の主張
1 本件各認可の処分性
本件各認可は、道路整備特別措置法二条の四の規定に基づいて行われたものであるが、以下に述べるとおり、いずれも抗告訴訟の対象となる行政庁の行為には当たらない。
(一) 建設大臣が行う本件認可の性質
公団は、昭和三一年、有料道路制度による道路整備事業の効率的運営・促進を図ることを目的として設立された公法人である(日本道路公団法一条、二条)が、建設大臣は、公団に対し、次のような監督権限を有している。
すなわち、日本道路公団法によれば、建設大臣は、公団の役員の任免を司り(一〇条、一三条)、公団の資本金の増額(四条二項)・予算及び事業計画(二二条)・借入れ(二六条一項本文)の各認可を行い、また、財務諸表の承認(二四条一項)等を行うほか、公団の業務についても、業務開始の際に業務方法書を認可し(二〇条)、平素の業務全般を監督し(三四条)、必要があるときは、公団の業務に関して監督上必要な命令をすることができるものとされている。
また、道路整備特別措置法によれば、建設大臣は、本来自らが行うべき高速自動車国道の新設又は改築(高速自動車国道法六条)を公団をして行わせ、料金の徴収をさせることができ(二条の二)、公団がこの規定に基づいて右道路を新設し、又は改築しようとするときは、路線名及び工事の区間、工事方法、工事予算等を記載した工事実施計画書について建設大臣の認可を受けなければならないものとされ(二条の三)、一般国道等についても、公団は、建設大臣の許可を受けてその新設、改築をして料金の徴収を行うことができるものとされている(三条一項)。
右のような法律の規定に照らせば、建設大臣と公団とは、公団の事業の遂行に関し、実質的に上級行政機関と下級行政機関との関係に立つものと解すべきものであり、道路整備特別措置法二条の四の規定に基づいて建設大臣の行う認可は、公団と建設大臣の右のような関係を前提として、高速自動車国道の料金及び料金徴収期間の変更が高速自動車国道事業の円滑な遂行及び道路の維持管理に関する事業の根幹にかかわる重要事項であることにかんがみ、公団の行う右変更について、実質的な上級行政機関として法定の要件の具備等を審査する監督手段としての承認の性質を有するものというべきである。
また、右変更に係る料金については、これが官報に公告され、更に、利用者が現実に高速自動車国道を通行することによって、初めて公団は個々の利用者に対する具体的な料金債権を取得することとなるものであり、本件認可によって公団が直ちに変更認可に係る料金を利用者から徴収できることとなるものではないことは明らかである。
したがって、道路整備特別措置法二条の四の規定に基づく建設大臣の認可は、行政上の決定に至る行政過程内における行政機関相互間の行為であって、それ自体が外部に対する効力を有するものではなく、また、これによって直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政行為には該当しない。
(二) 運輸大臣が行う本件認可の性質
運輸大臣は、建設大臣と共に、高速自動車国道の料金及び料金徴収期間について認可を行う(道路整備特別措置法二条の四)ほか、高速自動車国道の路線を指定し(高速自動車国道法四条)、指定した路線につき整備計画を定める(同法五条)こととされている。これは、高速自動車国道が我が国の基幹的な交通施設であり、その路線指定、整備計画の定め並びにその料金及び料金徴収期間が、公共的な交通サービスの維持・整備を目的とする運輸行政と深くかかわりを持ち、右目的を遂行するためには、各交通機関の特性とその連携を重視した総合的かつ効率的な施策を行うことが必要であることによるものである。
これらの諸規定及び前記のとおり公団が広い意味で国家行政組織の一部をなす一種の政府関係機関であることからすると、運輸大臣と公団とは、本件認可等に関し、実質的な上級行政機関と下級行政機関との関係に立つものと解すべきであり、道路整備特別措置法二条の四の規定に基づいて運輸大臣の行う認可は、高速自動車国道の料金及び料金の徴収期間が、並行する鉄道の利用者や高速自動車国道を利用するバス、トラック等に影響を及ぼすところが大きく、運輸行政の根幹にかかわる重要事項であることにかんがみ、公団の行うその変更について、実質的な上級官庁として法定の要件の具備等を審査する監督手段としての承認の性質を有するものというべきである。
したがって、道路整備特別措置法二条の四に基づく運輸大臣の認可も、前記の建設大臣の認可と同様、抗告訴訟の対象となる行政庁の行為には該当しないというべきである。
2 原告適格
行政処分の取消しを求める訴えの原告適格については、処分の根拠となった行政法規が原告ら高速自動車国道の利用者の個別的、具体的利益を保護しているか否かの見地からこれらを判断すべきところ、本件各認可の根拠規定である道路整備特別措置法二条の四並びに運輸省令及び建設省令は、料金及び料金の徴収期間の変更認可基準をなんら示しておらず、わずかに同法一一条一項、三項に、高速自動車国道の料金の額は、右道路の新設、改築その他の管理に要する費用で政令で定めるものを償うものであり(いわゆる償還主義)、かつ、公正妥当なものでなければならない(いわゆる公正妥当主義)と定め、料金及び料金の徴収期間の基準は政令で定めるとの規定を置いているにとどまる。
右の公正妥当主義とは、高速自動車国道の料金の額は、高速自動車国道の公共性に照らし、その料金の額が社会・経済に与える影響を考慮して、他の交通輸送機関の料金や公共料金との均衡、国民経済上の各種観点等から総合的にみて相当かつ合理的なものでなければならないとするものであり、その実現を通じて償還主義を効率的に達成しようとするものであって、個々の利用者の個別的な権利ないし利益を保護する趣旨に出たものではない。
このように本件各認可に係る道路整備特別措置法及びその他の関連規定は、専ら料金及び料金徴収期間の変更による高速自動車国道事業の適正な収支の確保並びに公団の不公正、不当な料金等の改定の抑制による不特定多数の利用者の不利益の防止という公益の保護を図ったものと解すべきであり、個々の利用者の個別的、具体的利益は、右のような公益の保護を通じて事実上達成されるいわゆる反射的利益ないし付随的利益に過ぎないというべきである。
したがって、単に営業のため高速自動車国道を利用し、その料金を支払っているというだけでは、原告らは、本件各認可の取消しを求める原告適格を有するということはできない。
三 本案前の主張に対する原告の反論
1 本件各認可の処分性についての反論
道路整備特別措置法二条の二及び二条の四の各規定からすれば、本件各認可によって、公団は、国との関係において一定額の道路料金を高速自動車国道の利用者から徴収し得るようになると共に、高速自動車国道の利用者との関係でも認可された額どおりの料金を徴収できることとなるというべきである。
このように、被告両大臣の認可は、公団に対する監督作用としての承認の性質を持つにとどまらず、公団の値上げ申請行為と相俟って、高速自動車国道利用者に変更された料金を課するという外部的効果を直接に生じさせるものであるから、本件各認可は抗告訴訟の対象となる行政処分に当たるというべきである。
2 原告らの原告適格についての反論
公団は、道路無料公開の原則に対する例外として、道路整備特別措置法によって高速自動車国道の料金を徴収することができるものとされているが、同時に、右規定によって公団が徴収することができる料金額の決定変更の基準については、償還主義及び公正妥当主義の二つの基準によるべきことが定められ(同法一一条一項)、更に同法施行令によって、公団の管理する高速自動車国道の徴収料金総額が公団の管理する高速自動車国道にかかる同法施行令一条の五に掲げる費用に見合う額となるようにすること(一条の六第一項)及び徴収期間及び利用効率を勘案して決定すること(同条三項)が定められている。
料金徴収の主体が特殊法人である公団であることからして、右の各基準は行政作用法的性格を有していると解され、加えて、道路利用料金の徴収は道路無料公開の原則に対する例外に当たることからすれば、法は、公団及び被告らの自由を拘束して右基準を遵守させることによって、料金の最高額を画し、かつ各車両間又は地域間の料金の不当な差別等を禁じているものであって、これにより、個々の利用者が法律で定められた基準を正しく適用して計算された料金額で高速自動車国道を利用できる利益を個別的・具体的に保護しているものというべきである。
したがって、高速自動車国道の利用者である原告らは、公平妥当主義に則った料金で高速自動車国道を利用したいという利益を有しているから、本件各認可処分の取消しを求める原告適格を有しているものである。
第三 証拠<省略>
理由
一 本件各認可が抗告訴訟の対象となる行政庁の行為に該当するか否かについて
1 高速自動車国道は、建設大臣及び運輸大臣が、国土開発幹線自動車道建設法三条において定められた予定路線及び右両大臣が高速自動車国道法三条に基づいて定めた予定路線のうちから政令で路線を指定し(高速自動車国道法四条)、その整備計画を定め(同法五条)たうえ、建設大臣が、これに基づいて、その新設、改築その他の管理を行う(同法六条)こととされている。
更に、建設大臣は、公団をして右の高速自動車国道の新設又は改築を行わせ、料金の徴収を行わせることができ(道路整備特別措置法二条の二)、公団が右の規定に基づいて右道路を新設し、又は改築しようとするときは、路線名及び工事の区間、工事方法、工事予算等を記載した工事実施計画書について、建設大臣の認可を受ける必要があり(同法二条の三)、右新設又は改築に係る道路について料金を徴収し、又はこれを変更しようとするときにも、料金及びその徴収期間について、建設大臣及び運輸大臣の認可を受けなければならない(二条の四)ものとされており、本件各認可は、右の規定に基づいて行われたものである。
2 公団は、右の高速自動車国道をはじめとする有料道路の新設、改築、維持その他の管理を総合的かつ効率的に行うこと等によって道路の整備を促進し、円滑な交通に寄与することを目的として(日本道路公団法一条)、旧道路整備特別措置法三条一項の規定による道路整備事業等に関する国の権利義務を承継して、昭和三一年に政府の全額出資によって設立された公法人である(日本道路公団法二条、四条、附則九条)が、建設大臣は、公団に対し、次のような広汎な監督権限を有している。すなわち、日本道路公団法によれば、建設大臣は、公団の業務一般について監督を行い、必要な命令をすることができる(三四条)ほか、公団の総裁及び監事を任命し、副総裁及び理事の任命の認可を行い(一二条)、業務方法書の認可(二〇条)、毎事業年度の予算及び事業計画の認可(二二条)、財務諸表の承認(二四条)、借入れ及び道路債券の発行及びその償還計画の認可(二六条、二九条)等を行うものとされており、更に、道路整備特別措置法によれば、公団に対して同法二条の三及び二条の四の各規定に基づく前記の各認可を行うほか、有料の一般国道等の新設、改築の許可(同法三条)等をも行うものとされている。
一方、公団には、高速自動車国道を新設する場合等において、建設大臣の有する権限の一部を代行することが認められている(同法六条の二)。
右のような法律の規定の内容に照らすと、公団は、形式的には国とは独立した法人ではあるものの、少なくとも高速自動車国道の新設、改築及び料金の徴収等の管理に関する限り、実質的には国との間に一体性を有し、建設大臣の下級機関として位置付けられているものというべきである。
3 また、運輸大臣は、建設大臣と共に、高速自動車国道として建設すべき道路の予定路線を定め(高速自動車国道法三条)、その整備計画の策定及び変更を行い(同法五条)、高速自動車国道に係る料金及び料金徴収期間の認可を行う(道路整備特別措置法二条の二)ものとされているほか、道路整備特別措置法三条一項又は二項の規定に基づいて公団が徴収する料金について建設大臣がその許可をするに際しては、建設大臣にはあらかじめ運輸大臣と協議し又はその意見を聴くことが義務付けられている(道路整備特別措置法一三条)。
これらの規定は、高速自動車国道が我が国の基幹的な交通施設であり、その路線の指定及び整備計画の定め並びに高速自動車国道等の料金等が、公共的な交通サービスの維持・整備を目的とする運輸行政に密接に関連することから、運輸大臣をその決定等に関与させ、総合的かつ効率的な施策を行うことを目的としたものと解される。
4 以上のことからすれば、高速自動車国道の料金及びその徴収期間の設定及び変更は、それが、本来建設大臣の責務に属する高速自動車国道の管理の中でも特に重要な事項であり、かつ、並行する鉄道の利用者や高速自動車国道を利用するバス、トラック等に大きな影響を及ぼすなど運輸行政の根幹にもかかわる事柄であることから、これに建設大臣及び運輸大臣の認可を要するものとされているのであり、右の建設大臣及び運輸大臣の認可はいずれも上級行政機関としての承認としての性格を有するものと解すべきである。
また、本件各認可に係る料金は、公団が右認可に係る料金の額及び徴収期間を官報に公告し(道路整備特別措置法一四条)、個々の利用者が現実に高速自動車国道を通行することによって徴収されることとなる(同法一二条)ものであるから、本件各認可によって直接に国民の権利義務に変動が生じるものでないことは明らかである。
5 以上によれば、本件各認可は、行政上の決定に至る行政過程内における行政機関相互間の内部的な行為と同視すべきものであって、それ自体として外部に対する効力を有するものではなく、また、それによって直接国民の権利義務を形成し、若しくはその範囲を確定する効果を伴うものではないから、抗告訴訟の対象となる行政庁の行為には該当しないというべきである。
したがって、本件各訴えは、抗告訴訟の対象とはならない行政庁の行為をその対象とするものであるから、その余の点について検討するまでもなく、不適法なものといわざるをえない。
二 結語
よって、本件訴えをいずれも却下することとし、訴訟費用の負担につき、行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 涌井紀夫 裁判官 市村陽典 裁判官 小林昭彦)