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東京地方裁判所 平成元年(行ウ)188号 判決

一 成立に争いのない甲第一号証、第三号証の一ないし三及び五、乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証の一、第四号証、第七号証並びに弁論の全趣旨によれば、原告は、昭和六三年一二月一八日に本件出願をしたこと、被告は、原告に対し、本件出願について本件補正命令をしたこと、原告は、平成元年四月六日に本件補正書を提出したこと、被告は、同年六月一九日に本件補正書の不受理処分をしたことが認められる。原告は、被告がした不受理処分は、本件願書についてしたものである旨主張するが、被告がした不受理処分が本件補正書についてしたものであることは、右認定のとおりであるところ、この認定を左右するに足りる証拠はないから、原告の右主張は、採用することができない。

二 そこで、本件補正命令が無効であることの確認を求める訴えが適法であるか否かについて判断する。

行政事件訴訟法三条四項は、無効等確認訴訟について、「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。」と規定しているところ、右にいう処分、すなわち、行政庁の処分その他公権力の行使に当たる行為とは、その行為によつて、直接国民の権利義務を形成し、又はその範囲を確定することが法律上認められているものをいうものと解するのが相当である。ところで、右一認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、本件補正命令は、特許法一七条二項の規定によるものであることが認められる。そして、同項は、特許庁長官又は審判長は、同項各号所定の事由がある場合は、相当の期間を指定して、手続の補正をすべきことを命ずることができる旨規定し、また、同法一八条一項は、特許庁長官は、同法一七条二項の規定により手続の補正をすべきことを命じた者が同項の規定により指定した期間内にその補正をしないときは、その手続を無効にすることができる旨規定している。右の各規定によれば、特許庁長官は、同法一七条二項各号所定の手続上の瑕疵がある場合には、手続の補正をすべきことを命じて、その補正の機会を与えるものであるから、同項の規定による補正命令は、手続の補正をすべきことを命じられた者に対し、補正を促すにとどまるものであつて、その行為によつて、直接手続の補正をすべきことを命じられた者の権利義務を形成し、又はその範囲を確定するものであるとはいえず、したがつて、行政処分であるとは認められない。もつとも、その後、手続の補正をすべきことを命じられた者が指定された期間内に補正をしないとき、同法一八条一項の規定により、特許庁長官によつて手続を無効にする処分が行われ、これによつて、具体的な権利義務が形成されることはありうるが、それは、手続を無効にする処分による効果であつて、補正命令による効果ではない、というべきである。そうすると、被告がした本件補正命令は、行政事件訴訟法三条四項にいう「処分」に該当しないものといわなければならない。この点について、原告は、本件補正命令は、十分な強制力を伴つており、これに従わないときは、手続無効処分がされるのであつて、具体的処分と切り離すことのできないものであるから、処分に該当する旨主張するが、原告の右主張は、右説示に照らし、採用することができない。

したがつて、本件補正命令は、無効等確認訴訟の対象とすることができないものというほかはないから、本件補正命令が無効であることの確認を求める訴えは、不適法であるといわなければならない。

三 次に、本件願書又は本件補正書の不受理処分の取消しを求める訴えが適法であるか否かについて判断する。

1 原告は、被告がした不受理処分は、本件願書についてしたものである旨主張するが、前一の認定のとおり、被告がした不受理処分は、本件補正書についてしたものであるから、本件願書の不受理処分の取消しを求める訴えは、訴えの対象を欠くものであつて、不適法である。

2 被告が、平成元年六月一九日、本件補正書の不受理処分をしたことは、前一の認定のとおりである。ところで、本件補正書の不受理処分は、原告の補正を却下するという行政処分であるから、その取消しを求める訴えは、特許法一八四条の二の規定により、行政不服審査法による異議申立てを経た後でなければ提起することができないものである。ところで、原告が、右不受理処分について行政不服審査法による異議申立てをしたことを認めるに足りる証拠はないから、本件補正書の不受理処分の取消しを求める訴えは、不適法である。

この点に関する原告の主張について以下判断する。(1)被告の本案前の主張に対する原告の主張2(二)(1)について 憲法七六条二項は、行政機関もまた裁判を行うことがあることを前提としているところ、行政機関が行う裁判と司法裁判所が行う裁判との相互関係については、裁判所が終審として裁判を行うことを要するものとしたほか、行政機関が行う裁判を裁判所に対する訴訟提起の前提要件とするかどうかは、法律の定めるところに一任しているものと解するのが相当であるから、特許法一八四条の二の規定がいわゆる審査請求前置主義を定めているからといつて、憲法三二条に違反するものということはできない。そして、いわゆる審査請求前置主義は、行政庁自身に再度の考案による処分の是正の機会を与え、更に、上級行政庁による監督権の行使による行政の統一的な適用を図るものであつて、行政庁による簡易迅速な手続による国民の権利ないし利益の救済を期待することができるものであり、しかも、行政事件訴訟法八条二項各号所定の事由があるときには、審査請求等を経ることなく訴えを提起することができることに鑑みれば、特許法一八四条の二の規定がいわゆる審査請求前置主義を定めているからといつて、憲法一一条その他の条項に違反するものということもできない。(2)同2(二)(2)について 不受理処分とは、一般に、行政庁に対する申請行為に形式的な瑕疵がある場合に、当該行政庁が申請の内容について何ら審理することなく、形式的な瑕疵があることを理由に、その申請を拒否する却下処分をいうものであると解されるところ、申請が法の要求する本質的要件を備えず、かつ、その瑕疵が補正することができないときには、具体的な明文の根拠がなくても、申請を却下するという意味で、これを不受理処分にすることができるということは、法が当然に予定しているものというべきである。したがつて、本件補正書のような手続補正書を不受理処分にすることについても、特許法が当然に予定しているものであるといわなければならないから、右不受理処分は、同法一八四条の二の規定にいう「この法律又はこの法律に基づく命令の規定による処分」に該当するものである。(3)同2(二)(3)(ア)について 仮に、本件出願に係る発明がかなり広範囲に及ぶ高度な発明であつて、少なくともできる限りの早期の処理が必要であるとしても、このことのみをもつて、行政事件訴訟法八条二項二号の規定にいう「処分、処分の執行又は手続の執行により生ずる著しい損害を避けるため緊急の必要があるとき」に該当するものということはできず、他に同規定に該当する事情があることをうかがわせるに足りる証拠はない。(4)同2(二)(3)(イ)について 特許法又はこれに基づく命令の規定による処分は、技術的専門的な知識経験に基づく判断を必要とするものであるから、特許法一八四条の二の規定がいわゆる審査請求前置主義を定めているからといつて、国民の権利ないし利益の救済の観点に照らして、著しく不適当であるということもできない。また、原告が右不受理処分についての異議申立てをした場合に、被告が、これを却下するか、又は右申立てをした日から三か月を経過しても決定をしないかのいずれかであるということが明らかであるとは到底いえない。更に、原告は、もはや、右不受理処分についての異議申立てをすることができないとしても、このことは、原告が所定の異議申立期間内に異議申立てをしなかつたことの当然の結果にすぎないものである。したがつて、原告が主張する事情からは、行政事件訴訟法八条二項三号の規定にいう「その他裁決を経ないことにつき正当な理由があるとき」に該当するものということはできず、他に同規定に該当する事情があることをうかがわせるに足りる証拠もない。以上のとおり、原告の右主張は、いずれも採用することができない。

四 よつて、本件訴えは、不適法であるから、これを却下する。

〔編注〕本件に関する当事者の主張は左のとおりである。

一 請求の原因

1(一) 原告は、昭和六三年一二月一八日、発明の名称を「1)無段階変速方式 2)直線動型及び弦張型駆動方式 3)弦張型緩衝方式」とする発明について特許出願をした(同年特許願第三二〇一九〇号。以下「本件出願」という。)。

(二) 被告は、平成元年三月二八日、原告に対し、本件出願について同月一三日付手続補正指令書(方式)を発送して、右発送の日から三〇日以内に手続補正書を提出するよう命じた(以下「本件補正命令」という。)。

(三) 原告は、平成元年四月六日、手続補正書(以下「本件補正書」という。)を提出した。

(四)(1) 被告は、平成元年六月一九日、本件出願の願書(以下「本件願書」という。)を受理しない旨の処分をした。

(2) 仮に右(1)が認められないとしても、被告は、同日、本件補正書を受理しない旨の処分をした。

2 しかしながら、本件補正命令は、法律の明文の規定に基づかないものであつて、重大かつ明白な瑕疵があるから、無効である。

3(一) 本件願書の不受理処分は、次のとおり、違法である。

(1) 本件願書の不受理処分は、特許法上の根拠に基づかない処分であるから、違法である。

(2) 被告は、本件願書があら探しのような些細な事項を除いては補正の必要がないのに、必要がない補正を命じたうえ、補正がまだ十分に可能であるのに、行政庁として当然すべき再度の補正を命じることなく、補正が不十分であることを理由に本件願書の不受理処分をしたものであつて、右不受理処分は、本件出願そのものに対する嫌がらせ行為であるから、違法である。

(3) 特許法施行規則二五条は、願書に添付すべき図面は、様式第一七により作成しなければならない旨規定しているところ、本件願書の不受理処分の理由は、右様式第一七の[備考]に定める項目に該当せず、かつ、右理由中において中心線を禁じる部分は、JISを含めた一般製図法では異常すぎるものであるから、このような理由に基づいてした本件願書の不受理処分は、違法である。

(二) 仮に被告がした不受理処分が本件補正書に対するものであるとしても、右不受理処分は、次のとおり、違法である。

(1) 本件補正命令は、前2のとおり、法律の明文の規定に基づかないものであつて、無効であるから、これに続く本件補正書の不受理処分は、違法である。

(2) 被告は、原告が本件補正命令の趣旨に適合した本件補正書を提出したにもかかわらず、本件補正書の不受理処分をしたものであり、また、本件補正書による補正が不十分であつたとしても、これは、本件補正命令の趣旨に適合するが、補正が不足しているかも知れないというだけであるから、行政庁としては、当然に再度の補正を命じるべきであるにもかからわず、被告は、これをすることなく、本件補正書の不受理処分をしたものであるから、本件補正書の不受理処分は、違法である。

4 よつて、原告は、被告に対し、本件補正命令が無効であることの確認と本件願書又は本件補正書の不受理処分の取消しを求める。

二 被告の本案前の主張

1 本件補正命令について

本件補正命令は、特許法一七条二項の規定によるものであるところ、同項の規定による補正命令は、特許出願に瑕疵があることを単に勧告する意味をもつ、一連の出願手続の中途にされるものであつて、これにより、特許出願人の権利に直接影響を及ぼすものではないのであるから、本件補正命令は、処分性を有せず、いわゆる行政処分に該当しない。そして、行政事件訴訟法三条四項は、無効等確認訴訟について、「処分若しくは裁決の存否又はその効力の有無の確認を求める訴訟をいう。」と明確に規定しているのであるから、本件補正命令は、そもそも無効等確認訴訟の対象とすることができず、したがつて、本件補正命令が無効であることの確認を求める訴えは、不適法である。

2 不受理処分について

(一) 被告は、本件補正書の不受理処分をしたが、本件願書の不受理処分をしていないから、本件願書の不受理処分の取消しを求める訴えは、訴えの対象を欠き、不適法である。

(二) 被告がした本件補正書の不受理処分は、原告の補正を却下するという行政処分であるから、その取消しを求める訴えは、行政不服審査法による異議申立てを経た後でなければ提起することができない(特許法一八四条の二)。原告は、右不受理処分に対しては、行政不服審査法による異議申立てをしていないから、本件補正書の不受理処分の取消しを求める訴えは、不適法である。

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