東京地方裁判所 平成元年(行ワ)2277号 判決 1992年9月30日
原告
日本フルート(株)(東京都練馬区早宮)
被告
ニューロング工業(株)(東京都葛飾区)
同
ニューロング(株)(東京都台東区東上野)
主文
一、被告ニューロング工業株式会社は、別紙目録記載の構造を有する製袋機を製造してはならない。
二、被告ニューロング株式会社は、右製袋機を販売してはならない。
三、被告らは、各自、原告に対し、金430万4,000円及びこれに対する平成元年3月23日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
四、原告のその余の請求を棄却する。
五、訴訟費用は、これを3分し、その2を被告らの、その1を原告の負担とする。
六、この判決は、原告勝訴部分に限り、仮に執行することができる。
七、ただし、被告ニューロング工業株式会社が金300万円の担保を供するときは同被告に対する、被告ニューロング株式会社が金300万円の担保を供するときは同被告に対する、各仮執行を免れることができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一、原告
1. 主文1及び2と同旨
2. 被告らは、各自、原告に対し、金858万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日から支払済みに至るまで年5分の割合による金員を支払え。
3. 訴訟費用は被告らの負担とする。
4. 仮執行宣言
二、被告ら(省略)
第二当事者の主張
一、請求の原因
1. 原告は、次の実用新案権を有する。
実用新案登録番号 第1672175号
考案の名称 製袋機の封着部離間装置
登録日 昭和62年3月6日
2. 本件考案の実用新案登録出願の願書に添付した明細書の実用新案登録請求の範囲(1)の記載は、次のとおりである。(省略)
3. 本件考案の構成要件を分説すれば、次のとおりである。
A. 長尺の偏平な筒状体をその一端部から製袋装置に導入して順次所定の長さに切断するとともにその切断部の前後部の少なくとも一方を封着して多数の袋体を形成し、
B. この多数の袋体を上記製袋装置の前方に設けられた束ね装置において重積して束ねるものにおいて、
C. 上記束ね装置の前後部の少なくとも一方に垂直面に沿って回動可能な回転体を設け、
D. この回転体に複数の間挿体を放射状に配設し、
E. 上記回転体を回動することにより上記束ね装置に送られた各袋体の封着部を上記各間挿体間に位置させて封着直後の各袋体の封着部を離間させるようにしたことを特徴とする。
F. 製袋機の封着部離間装置。
4. 被告ニューロング工業株式会社は、昭和57年頃から、業として、別紙目録記載の構造を有する製袋機(商品名は、「701HT型」又は「702HT型」である。)を製造し、被告ニューロング株式会社は、業として、被告製品を販売している。
5. 被告製品の袋体封着部離間装置は、次のとおり、本件考案の構成要件をすべて充足し、したがって、本件考案の技術的範囲に属する。(省略)
6(一) 被告らは、出願公開の日である昭和57年3月9日から出願公告の前日である同59年9月18日までの間に、本件考案が出願公開されていることを知りながら、被告製品である701HT型製袋機(販売価格700万円)を7台、同じく702HT型製袋機(販売価格1,300万円)を3台、業として製造販売した。被告らは、右行為によって、8,800万円の売上を得たところ、本件考案の実施料担当額は売上額の3%であるから、実用新案法13条の3第1項により、原告が被告らに対して請求できる補償金は、264万円である。
(二) 被告らは、故意又は過失により、出願公告の日である昭和59年9月19日から平成元年2月23日までの間に、被告製品である701HT型製袋機(販売価格700万円)を6台、同じく702HT型製袋機(販売価格1,300万円)を12台、業として製造販売した。被告らは、右行為によって、1億9,800万円の売上を得たところ、本件考案の実施料担当額は売上額の3%であるから、原告が被告らに対して請求できる損害金は594万円である。
7. よって、原告は、本件実用新案権に基づき、被告ニューロング工業に対し被告製品の製造差止を、被告ニューロングに対し被告製品の販売差止を各求めると共に、被告ら各自に対し、実用新案法13条の3第1項による補償金264万円、本件実用新案権及びその仮保護の権利の侵害による損害賠償金594万円の合計858万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成元年3月23日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。
二、請求の原因に対する認否及び被告らの主張(省略)
3(一) 請求の原因6(一)のうち、被告らが、昭和57年3月9日から同59年9月18日までの間に、被告製品である701HT型製袋機を7台、同じく702HT型製袋機を3台、業として製造販売したことは認め、右期間において被告らが本件考案が出願公開されていることを知っていたことは争わない。
その余の主張は争う。
(二) 同6(二)のうち、被告らが、出願公告の日である昭和59年9月19日から平成元年2月23日までの間に、被告製品である701HT型製袋機を6台、同じく702HT型製袋機を12台、業として製造販売したことは認め、その余の主張は争う。
(三) 被告製品である製袋機におけるU型打抜部と搬送コンベア部は、製袋機の構成上独立した一部分を成しているのであり、製品価格の算定上も係争の被告離間装置と別にして評価可能である。この部分の701HT型の価額は210万円であり、702HT型の価額は290万円である。
仮に、被告製品の売上高から原告の損害額を算定すべきであるとしても、被告製品の価額から右部分の価額を控除した701HT型490万円、702HT型1,010万円を基準とすべきである。
理由
一、請求の原因1ないし4の事実は当事者間に争いがない。
二、被告離間装置が本件考案の構成要件を充足し、本件考案の技術的範囲に属するか否かについて判断する。(省略)
7. 被告らは、本件考案は、ポリエチレン等合成樹脂製筒状体を対象とする場合エアーガイド装置による吹き落としを採用せざるをえず、エアーガイド装置による吹き落としを採用すると、圧縮空気が間挿体に当たり、対流を生じ、これにより封着部を押し上げる結果、各間挿体間に確実に位置させることが不可能になるという欠陥を有するものであるところ、被告装置は、筒状体がポリエチレン等合成樹脂製であっても、回転体の上方にエアーガイド装置や面積比約30%の割合の均一大の多数孔を穿設した薄い金属板の間挿体を備え、右エアーガイドにより筒状体を吹き落とすという構成を採用することにより、エアーガイドから吹きつけるエアーによって対流を生じさせることなく、各間挿体の間に、ポリエチレン等合成樹脂製筒状体を位置させることができるという作用効果を有するものであって、本件考案とは、その構成も作用効果も相違しているから、本件考案の技術的範囲に属しない旨主張するが、前認定のとおり、被告装置は、本件考案の構成要件を全て充足するものであって、仮に被告装置が被告ら主張の作用効果を有するとしても、本件考案の単なる設計事項の範囲を出るものではないと認められ、被告らの右主張は、採用することができない。
8. 以上によれば、被告離間装置は、本件考案の構成要件を全て充足し、本件考案の技術的範囲に属するものと認められる。
三、ところで、被告らは、被告離間装置のみを独立したものとしてそれぞれ製造あるいは販売しているものではなく、被告離間装置を有する製袋機である被告製品を一体として製造あるいは販売しているものと認められる。よって、被告ニューロング工業が業として被告製品を製造する行為、被告ニューロングが業として被告製品を販売する行為は、いずれも本件実用新案権を侵害するものであり、被告ニューロング工業に対する被告製品の製造差止を求める請求、被告ニューロングに対し被告製品の販売差止を求める請求は、いずれも理由がある。
四1. 請求の原因6(一)のうち、被告らが、出願公開の日である昭和57年3月9日から出願公告の前日である同59年9月18日までの間に、被告製品である701HT型製袋機(販売価格700万円)を7台、同じく702HT型製袋機(販売価格1,300万円)を3台製造販売したことは、当事者間に争いがなく、右期間において被告らが本件考案が出願公開されていることを知っていたことは、被告らにおいて明らかに争わないから自白したものとみなす。被告製品は、原反掛部、製袋部、U型打抜き部、排出コンベア部からなっていて、被告装置は、製袋部に関するものであることが認められるところ、被告製品の内U型打抜き部、排出コンベア部及びこれらに付属する電機部品の価格を分離算定することができ、701HT型製袋機では販売価格700万円の内210万円が、702HT型製袋機では販売価格1,300万円の内290万円が、それらの部分に相当する価格であることが認められるから、実用新案法13条の3第1項所定の考案の実施に対し通常受けるべき金銭の額に相当する額の補償金の算定に当たっては、販売価格からそれらの部分の価格相当額を控除した701HT型製袋機については1台当たり490万円、702HT型製袋機については1台当たり1,010万円を基礎額とすべきものと認められる。
また、被告製品から右U型打抜き部、排出コンベア部及びこれらに付属する電機部品を除いた残余の部分が全て被告離間装置であるわけではなく、右残余の部分は、被告離間装置の外、ローラー、封着切断装置、束ね装置等からなる製袋部、原反掛部等を含むものであることが認められる。このような被告製品全体の構成と被告離間装置の関係に原本の存在によって認められる国有特許権実施契約書の実施料率に関する基準等を勘案すれば、前記認定の各基礎額に製造販売台数を乗じた額の2%をもって補償金の額と認めるのが相当であり、その額を計算すると129万2,000円となる。
よって、原告が被告らに対して請求できる実用新案法13条の3第1項の補償金は、各自129万2,000円(不真正連帯)である。
2. 請求の原因6(二)のうち、被告らが、出願公告の日である昭和59年9月19日から平成元年2月23日までの間に、被告製品である701HT型製袋機(販売価格700万円)を6台、同じく702HT型製袋機(販売価格1,300万円)を12台、業として製造販売したことは、当事者間に争いがない。被告らの行為は、本件実用新案権及びその仮保護の権利を侵害するものであるから、被告らは各自その侵害行為について過失があったものと推認される。被告らの右不法行為による損害としての本件考案の実施に際し通常受けるべき金額に相当する額を算定するに当たっては、前記1に認定したとおり、被告製品1台当たりの各基礎額に製造販売台数を乗じた額の2%を損害金の額と認めるのが相当であり、その額を計算すると301万2,000円となる。
よって、原告が被告らに対して請求できる損害金は、各自301万2,000円(不真正連帯)である。
五、以上によれば、本訴請求は、被告ニューロング工業に対する製造差止請求、被告ニューロングに対する販売差止請求、被告らに対する補償金請求中各自129万2,000円、被告らに対する損害賠償金請求中各自301万2,000円及び各金銭に対する訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな平成元年3月23日から支払済みに至るまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度において理由があるから、これを認容し、その余は、理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法89条、92条本文、93条、仮執行の宣言について同法196条1項、仮執行逸脱の宣言について同条3項を各適用し、主文のとおり判決する。
(西田美昭 宍戸充 桜林正己)