大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京地方裁判所 平成10年(ワ)10460号 判決 1999年2月26日

原告 秩父商工株式会社

右代表者代表取締役 A

右訴訟代理人弁護士 山浦善樹

被告 破産者a産業株式会社破産管財人Y

右訴訟代理人弁護士 飛田博

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  請求の趣旨

1  主位的請求

(一) 別紙債権目録<省略>の売買代金債権のうち二一六七万三七八五円について、原告が動産売買先取特権を有することを確認する。

(二) 被告は、原告に対し、二一六七万三七八五円及びこれに対する平成一〇年六月四日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告は、原告に対し、二一六七万三七八五円及びこれに対する平成一〇年六月四日(訴状送達の翌日)から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  右1(二)、2、3について仮執行の宣言。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1(一)  原告は、秩父小野田株式会社の関係会社として、主として、セメント・生コンクリート等を販売する商社である。

(二)  被告は、平成九年一一月七日、東京地方裁判所平成九年(フ)第四七四一号破産事件で破産宣告を受けたa産業株式会社(以下「a産業」という。)の破産管財人である。

2(一)  原告は、a産業に対し、別紙一覧表〔A〕<省略>のとおり、合計二一六七万三七八五円(消費税込み)の生コンクリートを売り渡した(以下「本件売買契約」という。)。

(二)  a産業は、浅野總業株式会社(以下「浅野總業」という。)に対し、別紙一覧表〔B〕<省略>のとおり、前項の生コンクリートを合計二一八七万〇六〇八円(消費税込み)で転売した(以下「本件転売契約」という。)。

(三)  したがって、原告は、a産業に対する動産売買による先取特権(以下「本件先取特権」という。)に基づき、本件転売契約の売買代金債権のうち二一六七万三七八五円について、物上代位による優先弁済権を有する。

3(一)  浅野總業は、平成一〇年二月一八日、被告に対し、本件転売契約の売買代金を支払うため、約束手形(合計二一八七万〇六〇〇円)を振り出し交付した。

(二)  浅野總業は、被告に対し、平成一〇年五月二〇日、右手形金二一八七万〇六〇〇円を支払った。

4  しかるに、被告は、原告が本件先取特権を有することを争う。

5  よって、原告は、被告に対し、①主位的に、原告が、別紙債権目録<省略>の売買代金債権のうち二一六七万三七八五円について、動産売買先取特権を有することの確認を求めるとともに、本件先取特権の物上代位による優先弁済権に基づき、右3(二)の手形金のうち二一六七万三七八五円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成一〇年六月四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求め、②被告による浅野總業からの手形金二一八七万〇六〇〇円の回収は、原告の損失において被告が同額の利得をしたことになるから、予備的に、不当利得返還請求権に基づき、右3(二)の不当利得金二一六七万三七八五円及びこれに対する訴状送達の翌日である平成一〇年七月四日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実は認める。

2  請求原因2の(一)(二)の事実は認め、(三)は争う。

3  請求原因3(一)(二)の事実は認める。

4  請求原因4の事実は認める。

三  原被告の法律上の主張

原告の法律上の主張は、別紙平成一〇年九月二八日付けの準備書面(第五項以下を削除したもの)記載のとおりであり、被告の法律上の主張は、別紙平成一一年一月七日付けの準備書面記載のとおりである。

理由

一  請求原因1、2(一)(二)、3(一)(二)及び4の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  主位的請求における法律上の問題は、動産売買の買主が破産宣告を受け、買主の破産管財人が当該動産の転売先から転売代金を受領した後であっても、その売主は、買い主の破産管財人に対し、差押えをすることなく、動産売買先取特権に基づき、物上代位による優先弁済権を主張することができるかという点である。

この点について、原告は、優先権を有しない他の破産債権者と動産売買先取特権者とでは、差押えがなくとも後者をより保護すべきであるとしたうえで、破産管財人の地位と破産手続の特殊性から、破産管財人による転売代金の受領は、買主が転売代金を受領した場合とも、あるいは、一般民事執行手続において買主に対する他の債権者が転売代金債権を取り立てた場合とも同視することは相当ではなく、動産売買先取特権者は、破産管財人が行う最後の配当の除斥期間の終了時まで、破産管財人が受領した当該動産の転売代金相当額について、動産売買先取特権に基づき、差押えをすることなく、物上代位による優先弁済権を行使することができる、と主張する。

確かに、動産売買先取特権者は、破産管財人による転売代金債権の回収前はこれを差し押さえることによって優先弁済権を行使することができたという意味においては、他の一般の破産債権者とは異なった地位にあったということはできるものの、この点をもって、転売代金債権の回収後も優先弁済権を主張することの根拠とすることは相当ではなく、動産売買先取特権に転売代金回収後も差押えを要するとした明文に反してまでその優先弁済権を存続させるべき合理性、必要性等をもって根拠とすべきであるが、原告は、この点について、何らその論証に成功しているということはできない。

次に、民法三〇四条一項但書において、先取特権者が物上代位権を行使するためには金銭その他の払渡又は引渡前に差押えをしなければならないものと規定されている趣旨は、先取特権者のする右差押によって、第三債務者が金銭その他の目的物を債務者に払渡し又は引渡すことが禁止され、他方、債務者が第三債務者から債権を取立て又はこれを第三者に譲渡することを禁止される結果、物上代位の対象である債権の特定性が保持され、これにより物上代位権の効力を保全せしめるとともに、他面、第三者が不足の損害を被ることを防止しようとすることにある。すなわち、先取特権者は、債務者及びその一般財産を引き当てとする一般債権者との関係では、第三債務者の弁済により、目的債権が債務者と物上代位権者との関係でも実体的に消滅し、その結果、先取特権もまた消滅して、その後は債務者及び一般債権者に対し、第三債務者の給付した目的物につき再度の物上代位を主張し、あるいは自己の掌握した担保価値の債務者の一般財産への混入を理由として、一般財産につき優先権を主張することができない。そして、破産手続の目的は、破産債権者の公平な満足にあるから、破産管財人は、破産債権者全体の利益を代表する者である。とすると、先取特権者と破産管財人との関係は、先取特権者と一般債権者との関係と同様に捉えることができる。すなわち、先取特権者は、破産管財人との関係では、第三債務者の弁済(破産管財人の債権回収)により、目的債権が債務者と物上代位権者との間でも実体的に消滅し、その結果、先取特権もまた消滅して、その後は破産管財人に対し、第三債務者の給付した目的物につき再度の物上代位を主張し、あるいは自己の掌握した担保価値の破産財団への混入を理由として、破産財団につき優先権を主張することができない。このように考えると、動産売買先取特権者の物上代位による優先弁済権の主張は、破産管財人の回収と動産売買先取特権者の差押えとのいずれが早いかにより左右されることになるが、破産管財人が破産債権者全体の利益を代表して破産財団に帰属する債権の回収を図るものである以上、何ら不合理ではなく、むしろより努力したものこそ報われるべきであるという本来の原則に沿うものである。そして、動産売買先取特権者による物上代位のための差押命令が申立てから発令まで一か月以上もかかるという原告の主張するような実情を考慮しても、破産管財人による転売代金債権等の回収が破産宣告後一か月以内に終了することが通常であるとはとてもいえないことに鑑みれば、右の理が覆るものではない。

原告の論旨を採用した場合、破産管財人は、動産売買先取特権者という特定の債権者のために破産財団に属する債権の回収を行うわけではもちろんなく、むしろ、そのような債権の回収を破産財団の費用負担で行うことは任務違背になるのであるから、売掛債権についてはほとんどすべての財団に帰属する債権について物上代位権行使の可能性を検討しなければならず、迅速な回収業務が阻害され、他方、動産売買先取特権者は、買主が破産した場合には、自ら率先して債権回収の措置を講ずることなく、破産管財人による回収業務の追行を拱手傍観すれば配当の恩典に浴することになる。原告の論旨を採用すると、このように、二重、三重の意味で破産債権者にとって不利益となることが明らかであるが、破産債権者にそのような多大な不利益を強いてまで、動産売買先取特権者を保護すべき理由は見当たらない。

以上により、動産売買の買主が破産宣告を受けた場合に、その売主が、右買主の破産管財人が受領した当該動産の転売代金について、動産売買先取特権に基づき、差押えをすることなく、物上代位による優先弁済権を主張できると解することは相当ではなく、原告の論旨は採用することができない。

よって、原告の主位的請求は理由がない。

三  次に、予備的請求についてみるに、前項に判示したところによれば、動産売買の買主が破産宣告を受けた場合に、その売主が、右買主の破産管財人が受領した当該動産の転売代金について、破産管財人には、動産売買先取特権者に対し、引き渡すべき義務のないことは明らかである。したがって、破産管財人が右転売代金を破産財団に組み入れたからといって、法律上の原因を欠くものとはいえず、原告の論旨は採用することができない。

よって、原告の予備的請求も理由がない。

(裁判官 塚原朋一)

<以下省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例