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東京地方裁判所 平成10年(ワ)10808号 判決 1998年10月27日

原告 オリックス・クレジット株式会社

右代表者代表取締役 丸山博

右訴訟代理人弁護士 木村裕

同 山宮慎一郎

同 小池和正

同 林彰久

同 池袋恒明

同 池田友子

被告 渡邉徹

主文

一  被告は原告に対し、五六八万四六〇〇円及びこれに対する平成七年一〇月一二日から支払済みに至るまで年六分の割合による金員を支払え。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判例は仮に執行することができる。

事実及び理由

第一  請求

主文同旨

第二  事実の概要

一  本件は、原告が、被告のために支払ったゴルフ会員権購入代金についての分割払金の支払を求めたのに対し、被告がゴルフ会員権の対象となったゴルフ場が開場されていないとしてその支払いを拒んでいる事件である。

二  争いのない事実

1  原告は、平成二年二月八日、被告との間で、左記内容のゴルフ会員権クレジット契約(以下「本件契約」という。)を締結した。

(一) 被告は、原告に対し、被告が株式会社真理谷(以下「真理谷」という。)の経営する「ゴルフ&カントリークラブグランマリヤ」(以下「本件ゴルフクラブ」といい、このクラブのゴルフ場を「本件ゴルフ場」という。)の個人正会員権(以下「本件ゴルフ会員権」という。)を購入するに当たり、その代金一六〇九万円から申込金五〇九万円を控除した残金一一〇〇万円についての真理谷に対する支払債務について、保証することを委託し、原告はこれを受託する。

(二) 被告は、原告が右残金を代金決済日に被告の保証人として真理谷に代位弁済することを承認する。

(三) 被告は、原告に対し、原告が前項により代位弁済した残金に分割払手数料四八七万三〇〇〇円を加算した一五八七万三〇〇〇円を、平成二年四月一〇日を第一回目とし、以後毎月一〇日限り一二〇回に分割して一三万二二〇〇円宛(ただし、第一回目のみ一四万一二〇〇円)支払う。

(四) 被告が支払期日に分割払金の支払を遅滞し、原告から二〇日以上の相当な期間を定めてその支払いを書面で催告されたにもかかわらず、その期間内に支払わなかったときは期限の利益を失う。

2  原告は、本件契約に基づき、平成二年二月一四日、被告が取得した本件ゴルフ会員権の残金一一〇〇万円を真理谷に代位弁済した。

3  被告は、平成六年一〇月一〇日に支払うべき分割払金の支払を遅滞したため、原告は、被告に対し、平成七年九月二〇日に被告に到達した内容証明郵便をもって、二一日間の期間を定めてその履行を催告したが、被告は、期間内に分割金の支払をしなかった。したがって、被告は、同年一〇月一一日をもって期限の利益を失ったが、右時点の分割払金残金は五六八万四六〇〇円である。

4  本件契約の契約書一〇条(1)には、購入者は、左記の事由が存するときは、その事由が解消されるまでの間、当該事由の存する商品について、支払を停止することができる旨規定されている(以下「本件特約」という。)。

(一) 商品の引渡しがなされないこと(以下「本件特約<1>」という。)。

(二) 商品に破損、汚損、故障、その他の瑕疵があること(以下「本特約<2>」という。)。

(三) その他商品の販売について、販売会社に対して生じている事由があること(以下「本件特約<3>」という。)。

三  争点

被告は、本件ゴルフクラブの本件ゴルフ場はその開場が著しく遅延しており、これは商品に瑕疵があることに該当するから、本件特約の支払停止事由に該当し、この状況が解消されるまで債務の支払を停止すると主張している。

これに対して、原告は、(一) 本件特約は、本件ゴルフ場が開催されない場合の危険を原告において引き受けることを合意した条項ではない、(二) もともと本件特約は、既に市場に流通している会員権の売買を念頭に置いて、販売会社に対して主張し得ることを原告に主張し得るとしたものであって、本件のように新規募集の場合には適用されない、(三) ゴルフ場が予定の時期に開場されないことは本件特約の支払停止事由に該当しない、と主張している。

したがって、本件の争点は、本件ゴルフ場が開場されないことが本件特約の支払停止事由に該当するか否か、すなわち、本件ゴルフ場が開場されないことをもって被告は原告に対する分割払金の支払を拒み得るか否かである。

第三  判断

一  証拠(甲一、二の1、2、三ないし五、六の1ないし5、八ないし一〇、乙一の1、2)並びに弁論の全趣旨によれば、本件契約の対象商品である本件ゴルフ会員権は、いわゆる預託金制のゴルフ場の会員権であるところ、本件ゴルフクラブの入会契約は、入会申込者の入会申込みに対し、真理谷がこれを承諾し、入会申込者が入会金及び預託金(預り保証金)を支払うことによって成立すること、本件契約は、被告が真理谷の経営する本件ゴルフクラブへの入会に際して、被告が真理谷に支払うべき入会金及び預託金の一部(被告が現金で入会申込時に支払った残金)を被告から委託を受けて保証人となった原告が代位弁済をするという形式をとっているが、その実質は、真理谷との本件ゴルフクラブの入会契約に当たって被告が真理谷に支払うべき入会金及び預託金の一部を、被告の委託を受けて原告が真理谷に立替払いをするというものであり、原告が本件契約に基づいて真理谷に一一〇〇万円を支払うことによって、被告は、本件ゴルフ会員権を取得したこと、本件ゴルフ場は、本件契約がされた平成二年二月当時工事中であったが、資金不足のため、平成四年三月、いわゆる荒造成工事の段階で工事が中断されたこと、その後、真理谷は、平成六年一二月二日、東京地方裁判所において会社更生手続が開始されたが、本件ゴルフ場は、現時点では未完成のままであり、開場の時期等の見通しは立っていないこと、以上の事実が認められる。

二  ところで、本件のような預託金制のゴルフ場の会員権は、ゴルフ場及び附帯施設を優先的に利用することができる権利、約定の据置期間の経過後に預託金の返還を請求することができる権利、年会費を支払う義務等を内容とする契約上の地位であり、本件ゴルフ場のように開場前のゴルフ場の会員権にあっては、ゴルフ場会社に対し、開場予定の時期までに、又はその後社会通念上相当として是認される範囲内の時期までに、ゴルフ場及びその附帯施設を完成させ、これを優先的利用に供するように請求する権利をも有するものと解される。もっとも、この権利は、会員が入会契約により取得した会員としての地位に基づくものであるから、この権利を行使するには、会員としての地位を取得することが必要である。

そして、本件契約における本件特約は、昭和五九年法律第四九号による改正後の割賦販売法三〇条の四第一項の規定及び右改正法の施工に伴い同年一一月二六日付けで通商産業省産業政策局消費経済課長通達をもって社団法人日本クレジット産業協会ほかの団体に周知徹底が図られた割賦購入あっせん標準約款一一条(1)にならって採用されたものと解されるところ、右割賦販売法の規定は、割賦購入あっせんの方法による商品の購入者がその商品の販売につき販売業者に対して生じている抗弁事由をもって割賦購入あっせん業者に対抗することを認めた、いわゆる抗弁権接続の規定であるから、標準約款一一条(1)にならっている本件特約の規定も、本件契約によってゴルフ会員権を購入する者が、ゴルフ会員権販売業者との売買契約(本件では真理谷との入会契約)上生じている抗弁事由をもって、原告に対抗することができることを定めた規定と解すべきである。

また、割賦販売法がいわゆる抗弁権の接続を認めた趣旨は、購入者を保護する観点から、購入者が割賦購入あっせんの方法によらないで販売業者から商品を購入したとすれば販売業者に対して主張することができたはずの抗弁事由をもって割賦購入あっせん業者に対抗することができるとしたものであるから、その抗弁事由は、販売業者との売買契約について生じている事由で、直接販売業者に対して代金を支払うべきものとすれば、その支払いを拒絶することを正当化するものがこれに当たると解すべきである。これを本件に即していえば、被告が真理谷との間で本件ゴルフクラブについて締結した入会契約につき、入会金及び預託金の支払いを拒むことを正当化し得る事柄が、本件特約によって原告に対しても分割払金の支払いを拒み得る事由となるというべきである。

三  かかる見地に立って、本件ゴルフ場の開場が遅延していることが本件特約上の支払停止事由に該当するかを検討するに、本件特約<1>は、商品の引渡しがないことを支払停止の事由としているが、本件契約の対象となっている商品は本件ゴルフ会員権であり、被告は、前記のとおり本件ゴルフ会員権を現に取得しているのであるから、商品の引渡しがないとはいえない。

また、本件特約<2>は、商品に破損、汚損、故障その他の瑕疵があるときの支払停止を認めているが、被告が真理谷と本件ゴルフクラブの入会契約を締結した当時、本件ゴルフ場は工事中であり、当然のことながら開場しておらず、被告もそのことを十分承知の上で入会契約をしたものと推認することができるから、本件ゴルフ場が開場していないことは、被告が本件ゴルフ会員権を取得するために入会金及び預託金の支払を拒み得る事由ではなく、本件特約<2>にいう商品(本件ゴルフ会員権)の瑕疵には当たらないというべきである。

本件特約<3>は、本件特約<1>、<2>以外の事由があるとき以外にも、契約の不成立、無効、取消し又は解除により債務が消滅し、あるいは、同時履行の抗弁権を行使して支払を拒絶し得る場合があるところから設けられたものと解されるところ、前述のとおり、本件ゴルフ会員権には本件特約上の瑕疵があるとはいえないのであって、本件ゴルフ場が未開場であることは、入会金及び預託金の支払いを拒み得る事由には該当しないといわざるを得ない。

結局のところ、本件ゴルフ場が未完成であり、現在も開場の時期等の見通しが立っていないということは、入会契約後に生じた事由として、本件ゴルフクラブの会員の地位を取得した被告が真理谷に対して主張し得る事由にすぎないものといわざるを得ないのであり、被告は、本件特約によっては本件契約に基づく分割払金の支払いを拒むことはできないというべきである。

四  以上のとおりであるから、被告の主張は採用することができず、前記の争いのない事実によれば、分割払金残金五六八万四六〇〇円とこれに対する期限の利益喪失の日の翌日である平成七年一〇月一二日から支払済みに至まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める原告の本訴請求は、理由があるものといわなければならない。よって、主文のとおり判決する。

(裁判官 大橋弘)

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