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東京地方裁判所 平成10年(ワ)11682号 判決 1999年2月25日

原告

ドルナ・プロモシオン・デル・デポルテ・エス・エイ

右代表者

エンリケ・アルダマ・オロツコ

原告

株式会社ドルナジャパン

右代表者代表取締役

原一雄

右原告ら訴訟代理人弁護士

横山経通

渡邊肇

末吉亙

三好豊

右訴訟復代理人弁護士

野口祐子

被告

ジェイ坂崎マーケティング株式会社

右代表者代表取締役

坂崎和憲

右訴訟代理人弁護士

遠山友寛

石原修

千葉尚路

五十嵐敦

藤井基

加畑直之

大石篤史

小林卓泰

右補佐人弁理士

稲葉良幸

保坂延寿

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一  原告らの請求

一  被告は、別紙一「被告広告器目録」記載の広告器(以下「被告広告器」という。)を製造し、使用し、譲渡し、貸し渡し、輸入し、譲渡若しくは貸渡しの申出をしてはならない。

二  被告は、被告広告器を廃棄せよ。

三  被告は、原告ドルナ・プロモシオン・デル・デポルテ・エス・エイ(以下「原告ドルナ・プロモシオン」という。)に対し、四二〇万円及びこれに対する平成一〇年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

四  被告は、原告株式会社ドルナジャパン(以下「原告ドルナジャパン」という。)に対し、一四〇〇万円及びこれに対する平成一〇年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  被告は、原告らに対し、別紙二「謝罪広告目録」記載の謝罪広告を、同目録記載の掲載条件で各一回掲載せよ。

第二  事案の概要

本件は、原告らが被告に対し、被告が被告広告器を使用したことが、原告ドルナ・プロモシオンの意匠権を侵害し、かつ原告ドルナジャパンの周知商品等表示と誤認を生じさせる不正競争行為に該当すると主張して、それぞれ意匠法及び不正競争防止法に基づき、被告広告器の使用等の差止め及び廃棄、損害賠償並びに謝罪広告の掲載を求めている事案である。

一  争いのない事実並びに証拠(甲二、四)及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実

1  原告ドルナ・プロモシオンは、次の意匠権(以下「本件意匠権」といい、その登録意匠を「本件登録意匠」という。)の意匠権者である。

(一) 出願年月日

平成二年六月一二日

(二) 出願番号

平二-一九五八八号

(三) 優先権主張

国名 スペイン

出願年月日

一九八九年一二月一九日

件数    一

(四) 意匠に係る物品 広告器

(五) 登録年月日

平成四年一〇月二八日

(六) 意匠登録番号

第八五九八五二号

(七) 移転登録年月日

平成一〇年五月二五日

(八) 登録意匠の構成 別紙三「意匠公報」記載のとおり

2  原告ドルナジャパンは、日本国内において、原告らが「アドタイム」と呼んでいる広告器(以下「原告広告器」という。)を使用している。原告広告器の形態は、本件登録意匠の構成のとおりである。

3  被告は、平成一〇年三月ころ、横浜国際競技場等において、被告広告器を使用した。

二  争点及びこれに関する当事者の主張

1  被告広告器の使用が本件意匠権の侵害に当たるか。

(一) 原告ドルナ・プロモシオンの主張

(1) 意匠法における要部すなわち取引者・需要者の注意を最も引く意匠の構成がどこであるかは、当該物品の性質、目的、用途、使用態様等に基づいて認定すべきものとされている。原告広告器は、運動場やスタジオに設置して正面のシートに張り付けた広告をモータにより回転させて順次表示するために使用するものであり、その取引者・需要者とは、広告を依頼するスポンサーや、競技場においてこれを見る観戦者及びテレビ等の視聴者であって、これらの者が注目する構成部分は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点である。

また、登録意匠の要部を認定するに当たっては、当該登録意匠の分野における公知意匠を参酌すべきものとされているところ、原告広告器以前の広告器においては、回転する表示部分が正面の一部に限られるものであったのに対し、原告広告器は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点が特徴的である。

したがって、本件登録意匠の要部は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点にある。

(2) 意匠の類似の判断は、実際に当該意匠が実施される状況を念頭においた上で、その要部にあらわれた意匠の形態が看者に異なった美感を与えるか否かによって行うべきであるとされている。

被告広告器の意匠(以下「被告意匠」という。)は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という構成となっている。そして、被告広告器は、原告広告器と同様に、競技場に横一列に配置されて使用されるものであり、看者は離れた距離からこれを観察した場合の美的印象を念頭に置いて類否を判断するのであって、現実に原告広告器と被告広告器とが混同された例が多数生じている。

なお、被告意匠には正面の上部及び下部に広告を巻き込むためのカバーがある点で本件登録意匠と相違するが、右の点は極めて微細な構成上の差異にすぎず、両者の構成の共通部分から生じる美感の同一性がこれによって妨げられることはない。

右のとおり、被告意匠は本件登録意匠の要部を備えており、本件登録意匠に類似する。

(3) 被告は、業として被告広告器を使用している。また、被告広告器を製造し、譲渡し、貸し渡し、又は輸入するおそれが極めて高い。被告の右行為は、本件意匠権の侵害に当たる。

(4) 原告ドルナ・プロモシオンは、被告による意匠権侵害行為により、実施料相当額として三〇〇万円、弁護士費用として一二〇万円の損害を被った。

(5) よって、原告ドルナ・プロモシオンは、被告に対し、被告広告器の製造、使用等の差止め及び廃棄、損害賠償(右(4)の合計額四二〇万円及びこれに対する侵害行為の後である平成一〇年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金)並びに謝罪広告の掲載を求める。

(二) 被告の主張

(1) 原告ドルナ・プロモシオンは、「モータにより回転される」点が本件登録意匠の要部であると主張するが、モータや回転等の機能が意匠の要部になり得ないことは明白である。また、「回転される広告が正面の全体に掲示される」との点は、同原告の別の登録意匠においても同様であり、これらが別個の意匠として登録されているのは、両者の意匠が要部を異にしていることを意味している。

したがって、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点が本件登録意匠の要部であるということはできないから、原告ドルナ・プロモシオンの主張は主張自体失当である。

(2) なお、被告は、世界的に著名なスポーツマーケティング会社であるCWL社から広告器を購入して使用したものであり、被告がこれを製造、譲渡及び輸入をしたことはなく、今後もその予定はない。

2  被告広告器の使用が不正競争行為に該当するか。

(一) 原告ドルナジャパンの主張

(1) 原告ドルナジャパンは、平成五年ころから、日本国内で開催された各種スポーツイベントにおいて、原告広告器を使用している。原告広告器は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点が特徴的であり、このような広告器はこれまでに見られなかったものである。原告広告器は、一瞬のうちに会場全体の広告露出を転換する機能を持っており、設置した広告器全体を一社の広告で利用することができるため、これまでにない絶大な広告効果を発揮する。そのため、原告広告器は、世界的に大変な好評を博し、国内外の多くのスポーツイベントで使用され、原告ドルナ・プロモシオン及びその関連企業の商品等表示として世界的に周知となった。そして、我が国においては、原告ドルナジャパンが、原告ドルナ・プロモシオンからリースを受けて、原告広告器を独占的に使用しているので、原告広告器の「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という形態は、原告ドルナジャパンの商品等表示として周知なものとなっている。

(2) 被告広告器の形態は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ものであり、原告ドルナジャパンの周知商品等表示と類似しているから、これを被告が使用した場合には、需要者は原告ドルナジャパンのものであると誤認するものであって、現に混同の生じた事例がある。

(3) 被告は、業として被告広告器を使用している。また、被告広告器を譲渡し、引き渡し、譲渡若しくは引渡しのために展示し、又は輸入するおそれが極めて高い。被告の右行為は、不正競争防止法二条一項一号に該当する。

(4) 原告ドルナジャパンは、被告による不正競争行為により、使用料相当額として一〇〇〇万円、弁護士費用として四〇〇万円の損害を被った。

(5) よって、原告ドルナジャパンは、被告に対し、被告広告器の使用、譲渡等の差止め及び廃棄、損害賠償(右(4)の合計額一四〇〇万円及びこれに対する侵害行為の後である平成一〇年六月三〇日から支払済みまで年五分の割合による民法所定の遅延損害金)並びに謝罪広告の掲載を求める。

(二) 被告の主張

(1) 原告ドルナジャパンが主張する「モータにより回転される」という点は、外部から見えない機能ないし構造であり、不正競争防止法上の商品等表示たり得ない。

(2) 被告が広告器を購入して使用したことは認めるが、被告がその製造、販売等を行ったことはないし、今後もその予定はない。

第三  争点に対する判断

一  争点1(意匠権侵害)について

1  原告ドルナ・プロモシオンは、前記第二、二1(一)のとおり、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」点が本件登録意匠の要部であり、被告広告器も「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ものであるから、被告意匠は本件登録意匠に類似すると主張している。

そこで検討すると、意匠法における意匠とは、「物品の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるもの」をいい(意匠法二条一項)、意匠法は、「意匠の保護及び利用を図ることにより、意匠の創作を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」ものであって(同法一条)、「登録意匠の範囲は、願書の記載及び願書に添付した図面に記載され又は願書に添付した写真、ひな形若しくは見本により現わされた意匠に基いて定め」るべきものとされている(同法二四条)。このように、意匠権は、意匠に係る物品の「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」を保護するものであるから、これを離れて、当該物品の機能や作用にまでその効力が及ぶものではないことは明らかである。

これを本件についてみると、本件登録意匠の構成は、別紙三「意匠公報」記載のとおりであるところ、原告ドルナ・プロモシオンが「要部」であると主張する点は、本件意匠権に係る物品である広告器が果たすべき機能ないし作用を述べたものにすぎず、その「形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合」によって特定される本件登録意匠の構成態様について何ら触れるものではないから、これをもって本件登録意匠の要部(看者の注意を引く部分)であると認めることはできない。本件登録意匠の「要部」に係る原告ドルナ・プロモシオンの右主張は、意匠法による意匠の保護に名をかりて、広告器を競技場に横一列に配置して、その正面のシートに張り付けた広告を正面の全体に掲示し、かつこれをモータにより回転させて順次掲示することによって一瞬のうちに会場全体の広告露出を転換するという広告器としての機能ないし広告方法を独占しようというものであって、主張自体失当というべきである。

2  右のとおり、意匠権侵害に係る原告ドルナ・プロモシオンの主張は採用できないものであるが、念のために本件登録意匠と被告意匠の類似性について付言する。

本件登録意匠及び被告意匠の構成は、それぞれ別紙三「意匠公報」及び別紙一「被告広告器目録」に記載されたとおりであるところ、まず、正面から見た形状は、本件登録意匠及び被告広告器のいずれにおいても、基本的構成態様が横長の長方形である点は共通しているが、長辺(幅)対短辺(高さ)の比が、本件登録意匠においては約一〇対八であるのに対し、被告意匠では約一〇対2.5であって、両者は看者に与える視覚的印象が相当程度異なっていると認められる。さらに、側面から見た形状を比較すると、奥行きより高さの方が大きいという点では両者が共通しているものの、本件登録意匠の基本的構成態様は、背面下側の角を除く三つの角が丸められている四角形であって、正面が背面より高くなっており、背面は底面に対しほぼ垂直となっているが、正面は背面側に傾いているため、上方に向かうに従って奥行きが狭くなっていて、正面側の上部頂点が鋭角状になった形状であり、高さ対奥行きの割合が約一〇対五であるのに対し、被告意匠の基本的構成態様は、正面と背面が平行で、上部と下部が丸められた縦長の形状であり、高さ対奥行きの割合は約一〇対二であるから、両者は基本的構成態様を大きく異にしていると認められる。

したがって、本件登録意匠と被告意匠とでは、視覚を通じて起こされる美感が著しく相違していることは明らかであるから、両者が類似しているとは到底認めることができない。

3  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告ドルナ・プロモシオンの請求はすべて理由がない。

二  争点2(不正競争防止法違反)について

1  原告ドルナジャパンは、前記第二、二2(一)のとおり、原告広告器の「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示されるという形態」は、原告ドルナジャパンの商品等表示として周知なものとなっており、被告広告器の形態も「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ものであるから、被告による被告広告器の使用は不正競争行為に該当すると主張している。

そこで検討すると、不正競争防止法二条一項一号は、「他人の商品等表示」すなわち「人の業務に係る氏名、商号、商標、標章、商品の容器若しくは包装その他の商品又は営業を表示するもの」として需要者の間に広く認識されているものと同一又は類似の商品等表示を使用等する行為を不正競争行為と規定することにより、周知な商品等表示の持つ出所表示機能を保護するものである。そして、商品の形態は、商品の機能を発揮したり商品の美感を高めたりするために適宜選択されるものであり、本来的には商品の出所を表示する機能を有するものではないが、ある商品の形態が他の商品に比べて顕著な特徴を有し、かつ、それが長期間にわたり特定の者の商品に排他的に使用され、又は短期間であっても強力な宣伝広告等により大量に販売されることにより、その形態が特定の者の商品であることを示す表示であると需要者の間で広く認識されるようになった場合には、商品の形態が右条項により保護されることがあるものと解される。ただし、商品の形態が当該商品の機能ないし効果と必然的に結びつき、これを達成するために他の形態を採用できない場合には、右形態を保護することによってその機能ないし効果を奏し得る商品そのものの独占的・排他的支配を招来し、自由競争のもたらす公衆の利益を阻害することになるから、機能ないし効果に必然的に由来する形態については、右条項による保護は及ばないと解すべきである。

これを本件についてみると、原告ドルナジャパンは、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」ことが原告広告器の形態であり、同原告の商品等表示として周知であると主張するが、同原告の右主張するところには、原告広告器の形態が具体的にどのようなものであるのかに関する主張が何ら含まれておらず、要するに、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という、原告広告器の有する機能そのものがその形態であると主張しているにすぎないものであって、主張自体失当というべきである。そして、商品の機能は不正競争防止法による保護の対象となるものでないから、同法に基づいて「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」広告器を独占することを求める原告ドルナジャパンの請求は、理由がない。

2  右のとおり、原告ドルナジャパンの請求はこれを認めることができないものであるが、念のために付言すると、仮に、原告広告器の形態が同原告の商品等表示として出所表示機能を有し得るとしても、その場合に商品等表示となる原告広告器の形態は、本件登録意匠の構成と同一のものであると認められる。ところが、右一2において説示したとおり、本件登録意匠と被告意匠とが類似していないことは明らかである。したがって、原告広告器の形態と被告広告器の形態とが類似しているということも、需要者の間に誤認混同が生じ得るということもできないから、いずれにしても、同原告の請求は理由がないことに帰する。

なお、同原告は、需要者の間において現に被告広告器が同原告のものであると誤認されていると主張し、それに沿う証拠(甲九)を提出している。しかしながら、仮に、右のような事例があるとしても、以上説示したところによれば、その誤認混同は、「モータにより回転される広告が正面の全体に掲示される」という機能が原告広告器と被告広告器とに共通しているために生じたものと解され、両者の形態が類似していることに由来するものであると認めることはできないから、誤認混同の事例があったことを理由に、被告による被告広告器の使用が不正競争行為に 該当するということはできない。

3  以上によれば、その余の点について判断するまでもなく、原告ドルナジャパンの請求はすべて理由がない。

三  よって、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官三村量一 裁判官長谷川浩二 裁判官中吉徹郎)

別紙一被告広告器目録

下記図面に示すとおりの広告器

別紙三

日本国特許庁

平成5年(1993)1月29日発行 意匠公報(S)

F5-10C

859852     意願 平2―19588  出願平2(1990)6月12日

登録平4(1992)10月28日

優先権主張1989年12月29日(スペイン)

創作者  ホセ マリア ゴンザ スペイン国、マドリッド、ブラスコ・デ・ガレイ、11

レス マルテイン

意匠権者  ゲステイオン デ ソ スペイン国、マドリッド、トレホン デアルドス ボルテス パブリシタ アヴダ メテイテラネオ 7リオス エス エー

代理人  弁理士 鈴江 武彦 外2名

審査官  川越弘

意匠に係る物品  広告器

説明  本物品は運動場やスタジオに設置して正面のシートに貼付けた広告をモータにより回転させて、順次広告するために使用するものであり、その使用に際しては、同一形態をなすこの広告器を1台乃至数台を横列に並べ、そして本体内に設けられたシート回転用の軸に巻回された点模様のシートに広告を貼ってリモートコントロールにより決められた時間に適宜上方向、下方向に回転させてテレビ放映中その広告が放送されるようにしたものである。なお、大きさは正面図において、横約1.5m位のものである。

別紙二謝罪広告目録<省略>

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