東京地方裁判所 平成10年(ワ)13394号 判決 2001年6月27日
原告
佐藤俊哉
外三名
原告ら訴訟代理人弁護士
小林誠
被告
株式会社A
代表者代表取締役
甲野太郎
被告
住友不動産販売株式会社
代表者代表取締役
中澤道明
被告住友不動産販売株式会社訴訟代理人弁護士
山分榮
同
島田耕一
被告
住商ハウジング株式会社
代表者代表取締役
竹内庸喜
被告住商ハウジング株式会社訴訟代理人弁護士
來山守
主文
1 被告株式会社Aは、
(1) 原告佐藤俊哉に対し、四八九二万四六五〇円及び内金一〇〇万円に対する平成五年五月二二日から、内金一〇〇万円に対する同年六月三〇日から、内金一一一六万円に対する同年七月二六日から、内金三四〇〇万円に対する同年八月一日から、内金一七六万四六五〇円に対する平成一〇年六月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を
(2) 原告谷口公大に対し、五三一〇万八八三五円及び内金一〇〇万円に対する平成五年六月二六日から、内金三〇〇万円に対する同年七月三〇日から、内金四六一〇万円に対する同年九月一〇日から、内金三〇〇万八八三五円に対する平成一〇年六月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を
(3) 原告小野延年に対し、五二四〇万三二〇〇円及び内金一〇〇万円に対する平成六年二月二六日から、内金四八五〇万円に対する同年四月三〇日から、内金二九〇万三二〇〇円に対する平成一〇年六月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を
(4) 原告柿澤清二に対し、五二四七万九一〇一円及び内金二〇〇万円に対する平成五年一〇月二三日から、内金四六五〇万円に対する平成六年一月三一日から、内金三九七万九一〇一円に対する平成一〇年六月二八日から、それぞれ支払済みまで年五分の割合による金員を
支払え。
2 被告住友不動産販売株式会社は、
(1) 原告佐藤俊哉に対し、五三〇万円及びこれに対する平成五年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を
(2) 原告谷口公大に対し、五六〇万円及びこれに対する平成五年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を
(3) 原告小野延年に対し、五五〇万円及びこれに対する平成六年二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を
支払え。
3 被告住友不動産販売株式会社及び被告住商ハウジング株式会社は、原告柿澤清二に対し、連帯して五四〇万円及びこれに対する平成五年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
5 訴訟費用は、これを一〇分し、その一を原告らの負担とし、その余は被告らの負担とする。
6 この判決は、第1ないし第3項に限り、仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 原告らの請求
1 被告株式会社A及び被告住友不動産販売株式会社は、原告佐藤俊哉に対し、連帯して、六〇三三万五八三八円及びこれに対する平成五年五月二二日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
2 被告株式会社A及び被告住友不動産販売株式会社は、原告谷口公大に対し、連帯して、六五五〇万四六二六円及びこれに対する平成五年六月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
3 被告株式会杜A及び被告住友不動産販売株式会社は、原告小野延年に対し、連帯して、六四〇六万八七七五円及びこれに対する平成六年二月二六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
4 被告株式会社A、被告住友不動産販売株式会社及び被告住商ハウジング株式会社は、原告柿澤清二に対し、連帯して、六四一八万八〇一一円及びこれに対する平成五年一〇月二三日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
5 訴訟費用は被告らの負担とする。
6 仮執行宣言
第2 事案の要旨と争いのない事実
(略称の表示)
以下では、原告佐藤俊哉を「原告佐藤」、原告谷口公大を「原告谷口」、原告小野延年を「原告小野」、原告柿澤清二を「原告柿澤」という。被告株式会社Aを「被告A」、被告住友不動産株式会社を「被告住友不動産」、被告住商ハウジング株式会社を「被告住商ハウジング」という。
また、別紙物件目録1(1)及び(2)記載の各土地を「佐藤土地」、同目録1(3)記載の建物を「佐藤建物」ないし「三号棟」、同目録2(1)及び(2)記載の各土地を「谷口土地」、同目録2(3)記載の建物を「谷口建物」ないし「二号棟」、同目録3(1)及び(2)記載の土地を「小野土地」、同目録3(3)記載の建物を「小野建物」ないし「一号棟」、同目録4(1)及び(2)記載の土地を「柿澤土地」、同目録4(3)記載の建物を「柿澤建物」ないし「四号棟」といい、前記各土地を「本件各土地」、前記各建物を「本件各建物」と総称する。
1 事案の要旨
本件は、被告Aから、原告佐藤、同谷口及び同小野においては、被告住友不動産の仲介により、原告柿澤においては、被告住友不動産及び被告住商ハウジングの仲介により、それぞれ土地建物を買い受けたが、いずれも土地に地盤沈下が発生したことを原因として建物に不具合が生じたと主張して、次のとおり金員の支払を求めた事案である。
(1) 被告Aに対し、
ア 主位的請求((ア)、(イ)は選択的併合)
(ア) 瑕疵担保責任を理由とする売買契約解除に基づく原状回復請求としての売買代金の返還及び損害賠償の支払
(イ) 詐欺に基づく各売買契約の取消し又は錯誤に基づく売買契約無効を理由とする不当利得の返還及び損害賠償の支払
イ 予備的請求
瑕疵担保責任に基づく補修費等の損害賠償の支払
(2) 被告住友不動産及び被告住商ハウジングに対し、売買の目的物である地盤の性質及び施工された基礎工事の内容についての説明告知義務違反を理由として、共同不法行為又は債務不履行に基づく損害賠償の支払
2 争いのない事実等
(1) 被告らは、いずれも不動産の売買及び仲介を業とする株式会社である。被告Aは、本件各土地建物を分譲した。
(2) 被告住友不動産は、平成五年五月六日、被告Aとの間で、本件各土地建物についての専任媒介契約を締結した(乙イ第1号証)。
(3) 原告佐藤は、平成五年五月二二日、被告Aから、被告住友不動産の仲介により、佐藤土地建物を代金四七一六万円で買った。その際原告佐藤に交付された重要事項説明書には、「当該地区は軟弱地盤地区の為、新築時には対応できる基礎工事が必要となります」と記載されていた。(甲第3号証の1、2)
(4) 原告谷口は、平成五年六月二六日、被告Aから、被告住友不動産の仲介により、谷口土地建物を代金五〇一〇万円で買った。その際原告谷口に交付された重要事項説明書には、「近隣には軟弱地盤の土地がありますが、当該物件には調査の結果、基礎はべた基礎で対応してあります」と記載されていた(甲第4号証の2)。(なお、原告谷口は本人尋問において、売買契約締結の日は平成五年九月一〇日であると供述し、甲第13号証にはこの供述に沿う記載があるが、売買契約書及び重要事項説明書(甲第4号証の1、2)には平成五年六月二六日との記載があり、さらに、甲第50号証(平成五年九月一〇日付け四六一〇万円の領収書)には、「別紙売買契約に係る残金として」との記載が存在しているから、これらに照らすと、同原告の前記供述部分及び甲第13号証の記載部分は採用することができない。)
(5) 原告柿澤は、平成五年一〇月二三日、被告Aから、被告住友不動産及び被告住商ハウジングの仲介により、柿澤土地建物を代金四八五〇万円で買った。その際原告柿澤に交付された重要事項説明書には、「当該地区の近隣には軟弱地盤地区がある為、新築時には対応できる基礎工事が必要になります。(本物件の基礎工事は十分対応できる処置がされています。別添資料参照)」と記載されていた。(甲第5号証の1、2)
(6) 原告小野は、平成六年二月二六日、被告Aから、被告住友不動産の仲介により、小野土地建物を代金四九五〇万円で買った。その際原告小野に交付された重要事項説明書には、地盤に関する記載や基礎工事に関する記載はなかった。(甲第6号証の1、2)
(以下においては、(3)ないし(6)の売買契約を「本件各売買契約」と呼称することがある。)
(7) 原告らは、平成八年九月二四日、被告Aに対し、書面で瑕疵担保責任を理由として本件各売買契約を解除する旨の意思表示をし、同書面は同月二六日、同被告に到達した(甲第67号証の1、2)。
(8) 原告らは、被告Aに対し、平成一三年一月二四日の本件口頭弁論期日において、詐欺を理由として、本件各売買契約を取り消す旨の意思表示をした。
第3 争点
1 原告らの建物に不具合が発生した原因
2 本件において施工された基礎工事の適否
3 被告Aの責任の有無
4 被告住友不動産及び被告住商ハウジングの責任の有無
5 被告らの責任内容
第4 争点に関する当事者の主張
1 争点1(原告らの建物に不具合が発生した原因)について
(1) 原告らの主張
ア 原告らの建物に不具合が発生した原因は、本件各土地に地盤沈下が起こったためである。
イ 本件各土地周辺は、国分川沿いの枝谷にあり、その地盤は腐植土が厚く堆積した極めて軟弱なものであって、盛り土及び建物の加重によって長期的な圧密沈下(有機質土や粘土のように透水性の低い土が加重を受け、内部の水を徐々に排水しながら長い年月をかけて地盤沈下していく現象)を生じやすいものであった。そこで、本件各土地上に建物を建築する場合、建物に不等沈下が生じることを防止するため、その基礎について、後記2(1)のような支持杭基礎構造(軸組だけでなく一階床を含めた建物全体を支持杭で支える構造)とする必要があったが、本件各建物はこのような構造になっていない。
ウ その結果、本件各建物に次のような変形が生じている。
(ア) 小野、谷口建物は、いずれも全体として北から南に傾斜しており、基礎の立ち上がり部分及び底盤、外壁、外壁とベランダの接合部の亀裂、ドア・サッシの変形等を生じており、これらが更に進行している。小野建物においてはその基礎上端高の最大高低差は平成九年二月時点で二九ミリメートルであったが、平成一二年五月一四日時点で三九ミリメートルあり、谷口建物においては、基礎上端高の最大高低差は平成九年二月時点で三六ミリメートルあり、一階床面の最大高低差は同年二月時点で二〇ミリメートル、平成一二年五月一四日時点で二五ミリメートルあった。
(イ) また、佐藤建物は、杭により補強され、一階床は地面に置かれた床束で支えられた布基礎構造で施工されているところ、その床束は大きく浮き上がって束石との間に空隙を生じ、これが徐々に拡大している。そして、その一階床面は、人の歩行によりトランポリンのように激しく上下動するほか、床面の傾斜、ねじれ及び起伏も大きく、同建物内で生活することが困難なほどである。さらに、同建物の玄関ポーチと駐車スペースの床面との間に大きな亀裂を生じ、その幅も、平成九年二月時点で一五ないし二〇ミリメートルであったが、平成一二年五月一四日時点で四〇ないし四五ミリメートルあった。また、基礎の立ち上がり部分及び底盤、外壁、外壁とベランダの接合部の亀裂が生じ、ドア・サッシの著しい変形等も生じており、更にはガスメーターを外壁に固定する金具が歪む等しており、これらが更に進行している。
(ウ) 柿澤建物は、平成九年四月ころに応急修理をしたため、佐藤建物ほどではないが、これと同様の不具合が生じ、これが進行中であり、杭で支持されているはずの軸組に変形を生じているほか、水道管が破裂して水を吹き上げるという事態まで生じている。
エ 本件各建物と同一区画内に存する桐岡良次所有の建物(以下「桐岡建物」という。)及び宮原某所有の建物(以下「宮原建物」という。)においては、支持杭の上に鉄筋コンクリートの底盤を設けた基礎が施工されているため、これらの建物については何ら不具合が生じていない。
オ 被告A代表取締役の甲野太郎(以下「甲野」という。)は、原告柿澤の建物に不具合現象が生じている理由について、束石が下がったことがその原因であるなどの説明をしている。
カ 以上の点に照らすと、本件各建物に不等沈下が発生したと考えざるを得ないのであって、これが本件各建物に生じた不具合の原因であることは明らかである。
(2) 被告住友不動産の主張
ア 原告らの建物に不具合が発生した原因は、本件各土地に地盤沈下が起こったためではない。
イ 本件各土地は、地表から3.6メートルまでの盛土層と、その下の2.85メートルの腐植土層と、その下に締まった洪積層のある土地であり、前記盛土層全体で直接基礎でも支持でき、木造二階建ての建物程度であれば十分な転圧等を施工すれば、べた基礎でも荷重が分散され、支持力には問題がないから軟弱地盤とはいえない。前記腐植土層に含まれる水分が建物の重量や盛土層の重さで徐々に抜け、その体積が減少するために沈下が起きうるとしても、本件各土地についてその性状はそれぞれ異なるのである。また、柿澤土地については地表から1.5メートルの部分について地盤改良のため杭を打つ必要があり、これについては軟弱地盤であるとしても、杭の打設が行われており(佐藤建物も支持杭が打たれている。)、その支持力に問題がない。
ウ 本件各建物は、平成四年一二月ころ、建築確認を受けており、平成五年四月ころにも調査が入っているが、本件各土地建物の売買当時においても、特に問題を指摘されたこともない。原告らの主張する本件各建物の傾き等があるとしても、それが建築後に生じたのか、あるいは腐植土層の沈下により生じたのかは断定できず、そのメカニズムは不明であり、将来腐食土層の沈下を原因として傾くということもできない。
エ 本件各建物の傾きなるものは、許容範囲内にあり、傾斜が二センチメートル以内であるから、瑕疵とはいえない。
(3) 被告住商ハウジングの主張
ア 柿澤建物の最大高低差は不等沈下による沈下量を示すものではない。柿澤建物に不具合が発生した原因としては、第一に、不等沈下をしていない柿澤建物本体と地盤沈下をした柿澤建物の周囲の敷地との間の接合部の不具合によることが考えられる。第二に、仮に、最大高低差が不等沈下によるものだとしても、柿澤建物の不具合の原因は、柿澤建物の床束の部分が杭基礎に支えられていないという施工上の不良によることが考えられ、第三に、地盤沈下と関係ない柿澤建物の施工上の不良によることが考えられる。以下、これを敷衍して述べる。
イ 第一については、柿澤建物の周囲の浄化槽及びコンクリートのたたき並びに柿澤建物に取り付けられたガス管やメーターの不具合は、いずれも柿澤建物が杭基礎により強固に支持されていて不等沈下していないのに対し、杭基礎に支持されていない周囲の土地が沈下して発生したものであり、柿澤建物の不等沈下によるものではない。また、柿澤建物の不具合は、周囲の土地の沈下の発生を予測して柿澤建物と周囲の土地との接合部に適切な施工をしていなかったことに起因しているものである。
ウ 第二については、柿澤建物の床面のたわみや傾斜の不具合は、柿澤建物本体が杭基礎により強固に支持されているのに対し、床面を支える床束が杭基礎により支持されていないという施工上の不良に起因するものといえる。杭基礎を使用した場合には、建物の荷重は全て杭基礎にかけるのが施工上の常識であるのにこれを怠ったのが原因である。
柿澤建物は杭長一〇メートルの鋼管杭を二六本も使用しており、この杭基礎は柿澤建物を支持することができ、施工が適切に行われていれば、不等沈下が起こることはないのである。
エ 第三については、柿澤建物の平成九年三月時点での四隅基礎上端高の高低差は1.8センチメートルであるが、これが直ちに不等沈下による沈下量を意味するものではないし、その一番低いところは南西隅であるが、その直上の南西隅の床面の高さは平成九年四月から平成一二年五月までの間沈下していないことから、柿澤建物の最大高低差が不等沈下に起因するものでないことは明白である。平成九年四月から平成一二年五月までの間に、柿澤建物の不具合の中には、床面の高さのレベルが一階では下がりながら、同じ位置の二階のレベルは逆に上がるという現象も見られ、不具合は建物の不等沈下にはまったく関係がなく、柿澤建物本体の施工上の不良に起因するものといえる。
2 争点2(本件において施工された基礎工事の適否)について
(1) 原告らの主張
ア 本件各土地上に建物を建築する場合には、圧密沈下による被害を防止するため、各棟毎に地盤改良及び改良杭等を施工することが適当であり、深度一〇メートル以深の締まった砂質土層に支持力を求める支持杭基礎工法を用いて、建物の歪み、沈下、傾斜等に対処すべきであり、付近の建物の傾斜等を考慮すれば、地盤改良、摩擦杭等の使用は控えるべきである。
本件各建物の基礎を支持杭基礎構造とする場合、軸組だけでなく一階床を含めた建物全体を支持杭で支える構造としなければならず(建物の一部のみを支持杭で支えた場合には、支持杭で支えられた部分は沈下しないが、支持杭で支えられていない部分は沈下してしまい、かえって変形量が過大となってしまう。)、そのためには、支持杭と支持杭との間に梁を渡したり、支持杭上に鉄筋コンクリートの底盤を設けるなどして、一階床を含めた建物全体を支持杭で支持するようにしなければならない。
実際、本件各建物と同一区画内で、かつ、被告Aにおいて建築した桐岡及び宮原の建物では支持杭上に鉄筋コンクリートの底盤を設けた基礎が施工されている。
イ しかしながら、佐藤建物及び柿澤建物の基礎については、杭基礎が施工されているものの、深度一〇メートル以深の締まった砂質土層に支持力を求める支持杭基礎が施工されているか極めて疑わしい。
また、谷口建物及び小野建物の基礎については、直接基礎で十分対応できるというわけではないから、いずれも深度一〇メートル以深の締まった砂質土質に支持力を求める支持杭基礎工法を用いる必要があったが、このような基礎工法は用いられていない。
ウ したがって、本件各建物の基礎工法が不十分、不適切であったことは明らかである。
(2) 被告住友不動産の主張
谷口土地及び小野土地はよく締まっており、本件各土地の盛土の性状は粘性土に近いと推定されるから、被告Aが谷口建物及び小野建物について、べた基礎を選択したことは妥当な判断である。
(3) 被告住商ハウジングの主張
柿澤建物は、木造建築物であり、その荷重は相当軽いが、杭基礎が採用され二六本の各直径一四〇ミリメートルの鋼管杭が使用された。柿澤建物の荷重はこのように鋼管杭によって支持されているから、その上部構造部が連続基礎状になるかべた基礎状になるかは支持力の面では関係ない。
3 争点3(被告Aの責任の有無)について
(1) 原告らの主張
ア 被告Aは、本件各土地において地盤沈下の発生及び進行が十分予見できたにもかかわらず、その防止のための特段の対策を講じることなく、本件各建物を建築し、その結果不等沈下等により本件各建物の形状に変形を来している。その変形は現時点で既に居住に多大の困難を覚える程度に達しているが、今後沈下の進行に伴い、ガス、水道管の断裂、自然排水の逆流等安全、衛生面での支障がさらに拡大することが確実に予想される。すなわち、本件各建物は、地盤沈下を起こしやすい土地上に何らの沈下防止対策も施さずに建築された建物であり、これは、居住用として社会通念上期待される性質を欠いた瑕疵といえ、原告らが専門家による調査の結果報告を受けてこれを確認したのは平成九年四月一五日のことであり、本件各売買契約締結当時は隠れたる瑕疵であった。
そして、修繕が物理的に可能であっても修繕費が著しくかかるような場合には、「契約ヲ為シタル目的ヲ達スルコト能ハザル場合」に該当するところ、本件各建物の補修には、補修関係費のみでも、後記5の(1)イの(ア)ないし(エ)のとおり、いずれも本件各売買契約における各代金額の五〇パーセント前後に及ぶ多額の費用を要するので、この場合に該当するといえ、原告らは本件各売買契約を解除することができる。
以上のように、被告Aは、瑕疵担保責任に基づく責任を負うところ、原告らは、平成八年九月二六日、被告Aに対し、瑕疵担保責任を理由として、本件各売買契約を解除する旨の意思表示をした。
イ 甲野は、本件各売買契約締結前に、乙ロ第1号証及び第2号証を入手しており、その内容も理解していたのであるから、甲野は、本件各売買契約締結にあたって、本件各土地地盤が極めて軟弱であること及び本件各土地上の基礎としてべた基礎構造は適切でなく建物が不等沈下するおそれのあることを十分に認識していた。
すなわち、甲野は、当初、本件各建物の基礎について、いずれもべた基礎構造で施工することを計画して建築確認を取得し、有限会社赤坂工務店(以下「赤坂工務店」という。)に建築を依頼したが、谷口建物及び小野建物について、べた基礎構造で建築工事に着工したものの、甲野は、何らかの理由で滅多に行わない本件各土地地盤の調査を指示し、その結果に基いて、未だ建築工事が着工されていない佐藤建物及び柿澤建物の基礎について、よりコストの高い杭打ち工事を行うことに変更した。また、その後建築された桐岡及び宮原の建物の基礎は、さらにコストの高い支持杭上に鉄筋コンクリートの底盤を設けた基礎構造に変更されている。この点について、甲野は不等沈下に備えてこのような基礎構造に変更したと説明している。
したがって、甲野は、本件各売買契約締結にあたって、本件各土地地盤が極めて軟弱であること及び本件各建物に施工されている基礎構造はいずれも不適切であったか、又は不適切であった可能性が高かったのであるから、建物が不等沈下するおそれのあることを説明告知すべき信義則上の義務を負担していたというべきである。甲野がこれを告げず、本件各土地地盤は軟弱でない旨、本件各建物には適切な基礎が施工されている旨等と虚偽の説明を行い、原告らをしてその旨誤信させて、本件売買契約を締結させたことは詐欺に該当する。
そして、原告らは、被告Aに対し、平成一三年一月二四日の本件口頭弁論期日において、本件各売買契約を取り消す旨の意思表示をした。
ウ 原告らは、本件各土地地盤が軟弱であり、本件各建物に施工されている基礎構造が適切でなく、建物に不等沈下が生じるおそれがあるにもかかわらず、本件各土地地盤は軟弱ではなく、本件各建物には適切な基礎が施工されていると信じて、被告Aとの間で本件各売買契約を締結した。
したがって、原告らの意思表示は要素の錯誤に基づくものであるから、本件各売買契約は無効である。
(2) 被告Aの主張
ア 被告Aは、宅地建物取引業者において通常予想される範囲での地盤沈下防止策は講じており、原告らの建物に発生した不具合を予見することは困難であった。
イ 原告らの詐欺取消し、錯誤無効の主張については、否認ないし争う。
4 争点4(被告住友不動産及び被告住商ハウジングの責任の有無)について
(1) 原告らの主張
ア 被告住友不動産の責任について
(ア) 不動産の仲介を委託された宅地建物取引業者は、委託の本旨に従って、善良な管理者の注意義務をもって誠実に仲介業務を処理すべきである。仲介業者は土地建物の利用に支障を来すような重要な事実について、委託者に対しこれを説明告知すべき契約上の義務があり、説明告知義務の一内容として、一定の場合に調査義務が認められ、これを尽くさずに説明告知を行った場合には、説明告知義務違反の責任を免れない。
(イ) 本件においては、仲介業者である被告住友不動産は、本件売買契約締結前に、乙ロ第1号証及び第2号証を甲野から見せられ、これを入手しており、その意味を理解していたし、不動産売買を仲介する際、このような地盤調査報告書が存在するケースは稀であって、担当者の乙野次郎(以下「乙野」という。)はその重要性も認識していたのであるから、乙野は、本件各売買契約締結にあたって、本件各土地地盤が極めて軟弱であること及び本件各土地上の建物の基礎としてべた基礎構造は適切でなく、建物が不等沈下するおそれのあることを知り又は十分に知りうる状況にあった。
したがって、被告住友不動産は、原告らに対し、本件各土地は極めて軟弱な地盤であり、それに対応できる適切な基礎が施工されていなければ、本件各建物が将来沈下、変形する蓋然性があったのであるから、このような土地の性状に関する事実を告知説明する義務を負担していた。
さらに、本件各建物については、現に、適切な基礎の施工がなされていなかったのであるから、被告住友不動産は、適切な基礎の施工がなされていない事実をも告知説明する義務を負担していた。
しかし、本件各売買契約にあたって、乙野は、土地の性状に関する事実すら告げていなかった。
具体的には、乙野は、原告佐藤に対して、重要事項説明書に「当該地区は軟弱地盤地区の為、新築時には対応できる基礎工事が必要となります」との記載があるが、殊更に本件各土地の地盤が軟弱であることへの言及を避けた。また、乙野は、売買契約締結の際、原告佐藤に対して、「横に貯水池があるため普通の土地よりも池川の地盤が多少数値上弱いだけで何も問題はありません。べた基礎でいいところを念には念を入れて杭を打っていますから。」と説明し、軟弱地盤に対応する適切な基礎が施工されていなければならないとの事実を告げるべきところ、逆にそのような基礎は不要であるという説明を行った。
次に、乙野は、原告谷口に対して、重要事項説明書の「近隣には軟弱地盤の土地がありますが、当該物件は調査の結果、基礎がべた基礎で対応しております」との記載を読み上げたが、重要事項説明書において軟弱地盤の土地は近隣の土地に限定されており、この記載から本件各土地の地盤が軟弱であることを読み取ることはできない。そして、売買契約締結の際、乙野は、この点に関する具体的な説明を一切しなかった。
また、乙野は、原告柿澤に対して、重要事項説明書の「当該地区の近隣には、軟弱地盤地区がある為、新築時には、対応できる基礎工事が必要となります。(本物件の基礎工事は十分対応できる処置がされています。)」との記載を読み上げたが、重要事項説明書において軟弱地盤地区は当該地区の近隣に限定されており、この記載から本件各土地の地盤が軟弱であることを読み取ることはできないし、柿澤土地の地盤が軟弱であることと関連付けて読み取ることはできない。そして、売買契約締結の際、乙野は、この点に関する具体的な説明を一切しなかった。
さらに、乙野は、原告小野に対して、重要事項説明書に本件各土地の地盤の性質や基礎工事の内容について何ら記載をせず、売買契約締結の際にもこの点に関する説明を一切しなかった。
したがって、被告住友不動産は、原告らに対する説明告知義務違反の責任を免れない。
(ウ) そして、本件においては、乙野が土地の性状に関する事実のみならず、適切な基礎の施工がされていない事実を知っており、本件各建物が将来、沈下、変形する蓋然性が極めて高いという事実を知っていた。したがって、被告住友不動産は、被告Aと共謀して原告らを欺罔し、原告らに対し欠陥住宅を売りつけたと評価されてもやむを得ないものであるから、被告Aと同様の責任を負うといわなければならない。
イ 被告住商ハウジングの責任について
被告住商ハウジングは、原告柿澤から不動産の仲介を委託された宅地建物取引業者であり、担当者の丙野三郎(以下「丙野」という。)は、遅くとも契約締結前の段階において、重要事項説明書の記載内容、柿澤建物に杭打ち工事が行われていること、柿澤建物の基礎に杭を打つのは本件各土地地盤が軟弱だからであることを認識していた。
そうであれば、丙野としては、本件売買契約締結にあたって、原告柿澤に対し、本件各土地地盤が軟弱であり、建物が不等沈下するおそれのあることを説明告知すべき契約上及び信義則上の義務を負担していた。
しかし、丙野は、原告柿澤に対して上記の事実をまったく告知説明していないのであるから、被告住商ハウジングは、原告らに対する説明告知義務違反の責任を免れない。
(2) 被告住友不動産の主張
ア 被告住友不動産は、仲介業者にすぎず、媒介契約上目的物件の性状についてまで調査、説明義務を負うものではないから、被告住友不動産には債務不履行も不法行為も成立しない。
イ 仮に、被告住友不動産に何らかの注意義務があるとしても、注意義務違反はない。
被告Aは、本件各土地建物を建築する前に地盤調査を行い、南側及び東側の擁壁に近接した佐藤建物及び柿澤建物については、強固な地盤まで達する長さの杭を打ち込みその上に布基礎を設置する基礎工事を行い、谷口建物及び小野建物については、調査の結果べた基礎で十分対応可能を判断してべた基礎により工事を行った。そして、杭打ち工事については、被告住友不動産の担当者が現地において目視しており、これを受けて被告住友不動産は、重要事項説明書において、原告佐藤及び原告柿澤については「軟弱地盤地区のため新築時にこれに対応できる基礎工事が必要である」旨、原告谷口については「軟弱地盤に対しべた基礎で対応した」旨明記した。他方、不等沈下は、各建築工事を施工した赤坂工務店の不完全な工事により発生したものであり、このような不完全な工事まで仲介業者にすぎない被告住友不動産において予見することはできず、また、工事結果についてまで調査する義務がないことは明らかである。
(3) 被告住商ハウジングの主張
ア 仲介業者は、宅地建物取引業法三五条により、取引関係者に対し、重要事項を説明する義務を負っているが、重要事項は、同法所定の事項に限定されているというべきであり、同法に定める事項のほかはその説明義務を負っていない。そして、売買の目的土地の地盤が軟弱であるか否かは同法所定の重要事項ではないから、仲介業者はその説明義務を負っていない。目的土地の地盤が軟弱であるか否かを判断するには、専門の調査機関による調査とその調査結果を分析する高度な専門知識を必要とするが、仲介業者はそのような調査能力も専門知識も有していないので、軟弱地盤であるか否かを客観的事実として取引関係者に説明することは不可能である。
また、建売住宅の買主にとっては地盤の状態に応じた適切な施工がなされているか否かが重要な問題である。そして、この事実は、売買の目的物件の品質についての問題であり、仲介業者が説明する重要事実とは範疇が異なる。
イ 仮に、仲介業者に売買の目的土地が軟弱地盤であるとの説明義務が課せられる場合があるとしても、それは売買の目的土地につき仲介業者の認識している特段の事情があって、その結果、仲介業者が目的土地が取引関係者にとって不都合が生じる軟弱地盤であることを業務上予見することが可能である場合に限定されるべきである
本件において、柿澤土地は、埋土及び盛土により造成された土地であるが、埋土及び盛土後一〇年以上経過しており、このような場合には、その土地上に木造建物などの軽量な建物を建築する場合には通常の基礎工法で不具合が生じることは少ない。したがって、このような場合、目的土地上に木造建物を建築する予定の取引関係者にとって目的土地は通常軟弱地盤とはいわない。
柿澤土地の地盤の特殊性は、埋土及び盛土をするにあたりコンクリート塊などの産業廃棄物が混入し、その結果、地中に空隙が生じて地耐力の不均等と低下を生じさせていたことにある。通常の基礎工法により柿澤建物を建築した場合に不具合を発生させる可能性があるとすれば、上記埋土の方法の異常性にある。そして、被告住商ハウジングが原告柿澤に対して、地盤の軟弱性について説明義務を負うのは、上記埋立の方法の異常性について知っていた場合に限定されるべきであるが、被告住商ハウジングは、柿澤土地が埋土及び盛土により造成された土地であること及び地中に空隙が生ずる方法で埋土されて造成された土地であることを知らなかったのであるから、被告住商ハウジングは、軟弱地盤であることについて予見可能性がなかった。
さらに、被告住商ハウジングは、平成二年以来、主として市川市で仲介業務を行ってきたが、その敷地の地盤の状態が市川市において問題になることはなく、被告住商ハウジングがこれまで仲介の目的土地の地盤について調査や説明をしたり、調査や説明を求められたことはなかった。市川市は、原告柿澤の土地及びその周辺の地域を軟弱地盤のある土地とは指定しておらず、被告住商ハウジングが原告柿澤の土地及びその周辺の地域に軟弱な地盤があるかもしれないという噂を聞いたこともなく、逆に、従前、柿澤土地の近隣土地の売買について仲介をしたことがあったが、地盤の状態についてクレームを受けたことはなかった。また、原告柿澤の建物は、住宅金融公庫の融資の対象となるいわゆる「公庫仕様」として建築された建物であり、被告住商ハウジングは、公庫仕様の建物は厳正な検査の対象となっているため不具合の生ずる可能性が少ないと認識していた。本件において、被告住商ハウジングは、本件売買契約の前日まで柿澤土地の地盤の状態及び柿澤建物の基礎の施工方法について情報提供をまったく受けておらず、本件売買契約の当日になって、被告住友不動産により重要事項説明書が読み上げられたときに初めて知ったにすぎなかった。
ウ 被告住商ハウジングは、被告住友不動産と共同して、原告柿澤と被告Aとの売買契約を仲介したが、被告住友不動産が作成した重要事項説明書には、「当該地区の近隣には軟弱地盤地区がある為、新築時には対応できる基礎が必要となります。(本物件の基礎工事は十分に対応できる処置がされています。別添資料参照)」という記載があり、被告住友不動産は売買に先立って上記記載部分を読み上げた。そして、被告Aは、原告柿澤の建物は、三一本ないし三二本の鋼管杭により基礎が作られており、まったく心配がない旨の説明を行った。
上記記載及び説明は、原告柿澤の土地が軟弱地盤である可能性を排除できない場合を包含していると言うべきであり、仮に、被告住商ハウジングが軟弱地盤であることの説明義務を負っていたとしても、十分にその説明義務を尽くしたというべきである。
5 争点5(被告らの責任内容)について
(1) 原告らの主張
ア 主位的請求
瑕疵担保責任を理由とする各売買契約の解除、詐欺を理由とする各売買契約の取消し、錯誤を理由とする各売買契約の無効を主張する場合の被告らに対する請求額は以下のとおりである。
(ア) 原告佐藤
売買代金相当額 四七一六万円
別途負担金 三五万五四〇〇円
登記手続費用 四八万七二五〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 五三九万二四六五円
合計 五九三一万七一一五円
(イ) 原告谷口
売買代金相当額 五〇一〇万円
別途負担金 一〇万〇五〇〇円
仲介手数料 一五九万二〇三五円
登記手続費用 三九万四三〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 五八一万〇八八四円
合計 六三九一万九七一九円
(ウ) 原告柿澤
売買代金相当額 四八五〇万円
別途負担金 一〇〇万円
仲介手数料 一五六万〇四五〇円
登記手続費用 三四万七八〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
応急修理費用 一四万八八五一円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 五七四万七九一〇円
合計 六三二二万七〇一一円
(エ) 原告小野
売買代金相当額 四九五〇万円
別途負担金 七五万円
仲介手数料 五〇万円
登記手続費用 七三万一二〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 五七四万〇三二〇円
合計 六三一四万三五二〇円
イ 予備的請求
瑕疵担保責任に基づく補修費等の損害賠償の支払を主張する場合の被告らに対する請求額は以下のとおりである。
(ア) 原告佐藤
補修費用
基礎工事 一七五〇万円
外溝工事 一三〇万円
埋戻し工事 五〇万四〇〇〇円
木構造工事 三七六万九五〇〇円
仮住まい費用 一二〇万円
引っ越し費用 五〇万円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 三〇六万九五五〇円
合計 三三七六万五〇五〇円
(イ) 原告谷口
補修費用
基礎工事 一五一〇万円
外溝工事 一二〇万円
埋戻し工事 四九万円
木構造工事 三七九万〇五〇〇円
仮住まい費用 一二〇万円
引っ越し費用 五〇万円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 二八二万〇二五〇円
合計 三一〇二万二七五〇円
(ウ) 原告柿澤
補修費用
基礎工事 一八〇〇万円
外溝工事 一四〇万円
埋戻し工事 五三万三〇〇〇円
木構造工事 三九九万円
仮住まい費用 一二〇万円
引っ越し費用 五〇万円
調査費用 九二万二〇〇〇円
応急処置費用 一四万八八五一円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 三一六万九三八五円
合計 三四八六万三二三六円
(エ) 原告小野
補修費用
基礎工事 一六二〇万円
外溝工事 一三〇万円
埋戻し工事 五〇万三〇〇〇円
木構造工事 三八五万三五〇〇円
仮住まい費用 一二〇万円
引っ越し費用 六五万円
調査費用 九二万二〇〇〇円
慰謝料 五〇〇万円
弁護士費用 二九六万二八五〇円
合計 三二五九万一三五〇円
(2) 被告らの主張
原告らの主張はすべて争う。
第5 争点に対する判断
1 関係各証拠(後記かっこ内に掲記のもの)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(1) 本件各建物の不具合について(甲第7号証、第12ないし第16号証、第37ないし第40号証、乙ロ第3号証、証人成瀬昌弘及び同谷口陽子の各証言、原告佐藤俊哉、同谷口公大、同小野延年及び同柿澤清二の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨)
ア 佐藤建物について
(ア) 平成五年一〇月ころ、一階和室の障子の開閉がうまくいかなくなり、建具の不調、床鳴り、床揺れなどが発生した。
(イ) 平成六年四月ころ、一階トイレのドアが閉まらなくなり、一階、二階トイレの外枠がすぐはずれるようになった。また、一階廊下の床と階段の一番下の蹴上げの部分との間に隙間が発生した。このころ、一階の床揺れの程度がひどい状態となった。
(ウ) 平成六年一一月ころ、玄関ポーチ、浄化槽上部を利用する駐車場のコンクリート床に亀裂が発生した。
(エ) 平成七年八月、甲野が佐藤建物の補修を始めたが、その内容は、床束と束石の間にくさびを打ち込み、接着剤によって止めるというものであった。
(オ) 平成九年二月の調査時点において、佐藤建物の基礎傾斜の最大高低差は一七ミリメートル、測定点における外壁の傾斜は、一三ミリメートルであり、北から南に傾斜していた。また、外壁の亀裂、基礎の亀裂、勝手口ドアの開閉不能、各サッシの開閉困難が外観上観察できる変形状態であった。
一階居間食堂の床面の最大高低値は、二五ミリメートルであり、基礎に載った軸組列の床変形量は、五ミリメートルであった。一階和室の床面に生じた変形による最大高低差は、一〇ミリメートルで、軸組部分の変形量は一〇ミリメートルであった。
玄関と廊下の床は、仕上げ材のフローリング床面にねじれが発生していたため、歩行障害と平衡感覚障害を引き起こす状態であった。
一階の床を支持する基礎に相当する束石は、手で簡単に動かすことができる状態であった。また、束石が下がり、床束が宙に浮いていたため、束石と床束の間にくさびが打ち込まれ接着剤で固められていたものの、くさびごと宙に浮いていた。
二階和室の床面に生じた変形による最大高低差は、一二ミリメートル、軸組部分の変形量は、九ミリメートルであった。二階洋室の床面に生じた変形による最大高低差は、一七ミリメートル、軸組部分の変形量は、一七ミリメートルであった。
以上の変形等のため、居間食堂の床は歩行しにくいものとなり、佐藤建物は、全体として、日常生活にも困難な状態が生じていた。
駐車スペース上部のコンクリート床面には、大きな構造亀裂(クラック)が発生していた。浄化槽床と建物基礎との接合部及びタイル張りで一段高くなった玄関ポーチの床には、亀裂と段差が発生し、それをモルタルで補修した跡があったが、さらに、新たな沈下割れ目が生じており、沈下量は約一五ないし二〇ミリメートルに達していた。また、沈下した割れ目からスケールテープを差し込んだ際には、スケールテープが奥行約1.9メートルある玄関の床下を貫通するという状態であった。
(カ) 平成一二年五月一四日の調査時点において、佐藤建物は、床の変形が著しく居住できる状態ではなく、歩行すると平成九年二月の調査(以下、この調査を平成一二年五月一四日の調査と比較する際に「前回調査」と呼称することがある。)の時よりも床面が大きく上下に移動してトランポリンのような状態になり、床下の地盤沈下も進行して床束のくさびが完全に浮き上がり床束の隙間が増大していた。
一階の居間食堂の床面の最大高低差は三九ミリメートルであり、前回調査時よりも一四ミリメートル沈下が増大していた。一階和室の床面の最大高低差は一四ミリメートルで、前回調査よりも四ミリメートル沈下が増大していた。
駐車場の床と玄関ポーチの床の亀裂幅は、前回調査時には約一五ないし二〇ミリメートルであったが、それが約四〇ないし四五ミリメートルに拡大しており、沈下量も約二五ミリメートル増大していた。
その他、基礎の亀裂、土間床の亀裂、外壁の亀裂が増加したり、外壁に固定したガスメーター、配管等の固定金物が歪んで変形するなどの状態が発生していた。
イ 谷口建物について
(ア) 原告谷口が谷口建物に入居後、約三か月が経過したころから、庭のブロック塀、浄化槽のコンクリート、外壁等に亀裂が発生したり、床に盛り上がりが生じたり、網戸、襖、障子を正常に閉めることができないなどの不具合が発生し始めた。
(イ) 平成九年二月の調査時点において、谷口建物の基礎傾斜の最大高低差は三六ミリメートル、測量点における外壁の傾斜は、一六ミリメートルであり、北から南に傾斜していた。また、外壁の亀裂、基礎の亀裂、各サッシの開閉困難が外観上観察できる変形状態であった。さらに、佐藤建物との敷地境界に亀裂が生じていた。
一階居間食堂の床面の最大高低値は、二〇ミリメートルであり、基礎に載った軸組列の床変形量は、二〇ミリメートルであった。一階和室の床面に生じた変形による最大高低差は、一八ミリメートルで、軸組部分の変形量は一八ミリメートルであった。
二階廊下の床面に生じた変形による最大高低差は、一二ミリメートル、軸組部分の変形量は、九ミリメートルであった。
(ウ) 平成一二年五月一四日の調査時点において、谷口建物は、床に傾斜変形が感じられた。
一階居間食堂の床面の最大高低差は、二五ミリメートルで、前回調査時よりも五ミリメートル沈下が増大していた。一階和室の床面に生じた最大高低差は、二〇ミリメートルで、前回調査時よりも増大していた。
その他、基礎の亀裂、土間床の亀裂、外壁の亀裂幅が増大し、建物の変形に伴ってドア、サッシの開閉に不具合が生じていた。
ウ 小野建物について
(ア) 平成六年七月、小野建物の二階中央洋間のベランダ出入口のサッシの鍵のかかり具合が悪くなり、床が盛り上がっていた。
(イ) 平成七年四月には、一階台所壁面タイルに亀裂が発生し、一階リビング、二階の各部屋の床に盛り上がりが生じていた。また、二階浴室の壁面の膨らみ、二階中央洋間及び東側クローゼットの扉のずれなども発生していた。
(ウ) 平成八年三月九日に再点検を行ったところ、玄関ポーチ前のコンクリート、建物外壁等に亀裂が生じており、各部屋及び廊下の床に盛り上がりあり、サッシのガラス戸のずれ及び開閉不良などが発生していた。
(エ) 平成九年二月の調査時点において、小野建物の基礎傾斜の最大高低差は二九ミリメートル、測定点における外壁の傾斜は、一五ミリメートルであり、北から南に傾斜していた。また、小野建物周辺の敷地境界部分に亀裂が生じていた。
一階台所回りの壁仕上げのタイル張りに生じたタイル亀裂、二階洋室テラスサッシの開閉困難が、外観上観察できる変形状態であった。一階玄関ホール及び居間食堂の床面の変形による最大高低差は、二八ミリメートルで、基礎の載った軸組列の床変形量は、二八ミリメートルであった。二階洋室の床面に生じた変形による最大高低差は、二四ミリメートル、軸組部分の変形量は、二四ミリメートルであった。また、部屋の中央付近で床面が部分的に捻れた状態であり、二〇ミリメートル急激に変化していたため歩行に支障が生じている状態であった。二階廊下の床面に生じた変形による最大高低差は、一四ミリメートル、軸組部分の変形量は一四ミリメートルであった。
(オ) 平成一二年五月一四日の調査時点において、小野建物の一階居間食堂の床面の変形による最大高低差は、三九ミリメートルであり、前回調査時よりも一一ミリメートル沈下が増大していた。二階洋室の床面に生じた変形による最大高低差は、三二ミリメートルであり、前回調査時よりも八ミリメートル沈下が増大していた。
その他、基礎の亀裂、土間床の亀裂、外壁の亀裂幅が増大し、建物の変形に伴ってドア、サッシの開閉に不具合が生じていた。
エ 柿澤建物について
(ア) 平成六年二月、トイレ、玄関、リビングのドアが閉まりにくく、玄関のコンクリート床に亀裂が発生した、床が不安定で部屋の中を歩くたびに家具が揺れるなどの不具合が生じていた。
また、その後、ガスメーターが外壁から外れたり、水道管が外れて水が噴き出すなどの事故が発生した。床は、歩くと不安定な状態であった。
(イ) 原告柿澤は、平成七年二月ころ、浄化槽を点検してもらった際に、清掃点検業者から「槽内に何か所か損傷がある。しばらくは大丈夫と思うが適当な時期に修理した方がよい。」旨の指摘を受けた。そこで、柿澤が平成八年八月に浄化槽の清掃と修理を業者に依頼したところ、駐車場床の点検マンホール周りのコンクリートが破損して、コンクリート片が浄化槽内に脱落していることが発見された。
(ウ) 原告柿澤は、平成八年八月ころ、建物の床がトランポリンのような状態になる理由を尋ねたところ、甲野は、「杭によって支えられている部分については問題ないが、それ以外の床束と束石によって支えられている部分については、地盤が沈下することによって束石が下がるが、床束そのものは下がらないのでそこに隙間が空いてトランポリン状態になった。」と説明した。
(エ) 平成九年二月の調査時点において、柿澤建物の基礎傾斜の最大高低差は一八ミリメートル、測定点における外壁の傾斜は、一四ミリメートルであり、東から西に傾斜していた。また、外壁の亀裂、基礎の亀裂、各サッシの開閉困難等が外観上観察できる変形状態であった。
一階居間食堂の床面の最大高低値は、二九ミリメートルであり、基礎に載った軸組列の床変形量は、五ミリメートルであった。
一階居間食堂の台所を仕切る袖壁は、壁の下に土台等の受材がないため、床と袖壁が分離して壁が宙に浮いている状態であった。一階居間の全ての床は、トランポリンの上を歩行するような感じであり、行動が制約される状態であった。
二階洋室の床面に生じた変形による最大高低差は、一四ミリメートル、軸組部分の変形量は、一四ミリメートルであった。二階廊下の床面に生じた変形による最大高低差は、八ミリメートル、軸組部分の変形量は、八ミリメートルであった。
一階和室床下の地盤面には地割れが発生し、駐車スペース上部のコンクリート床面には、クラックが発生していた。浄化槽床と建物基礎との接合部及びタイル張りで一段高くなった玄関ポーチの床には、亀裂と段差が発生し、それがモルタルで補修されていたが、さらに、新たな沈下割れ目が生じており、沈下量は約一五ないし二〇ミリメートルに達していた。
北側外壁に設けられている屋根堅樋は、樋の受口が沈下して樋が浮上って外れ、樋の近くに設置してあるガスメーター回りは配管が沈下して配管の受金物が歪んでいる状態であった。
(オ) 平成九年一一月一日、柿澤建物の給水埋設管が破裂して水が噴出するという事態が発生した。
(カ) 平成一二年五月一四日の調査時点においては、二階廊下の最大変形量の高低差が前回調査時よりも六ミリメートル増大していた。駐車場の床及び玄関ポーチの床の亀裂が、前回調査時においては約一五ないし二〇ミリメートルであったが、今回調査時には約四〇ないし四五ミリメートルに拡大していた。
その他、基礎の亀裂、土間床の亀裂、外壁の亀裂幅が増大する、建物の変形に伴ってドア、サッシの開閉が困難になる、外壁に固定されたガスメーター、配管等の固定金物が大幅に歪んで変形する、雨水堅樋が受管からはずれて分離するなどの不具合が発生していた。
(2) 本件各土地の地質について(甲第7号証、乙ロ第1ないし第3号証、証人成瀬昌弘の証言、弁論の全趣旨。なお、乙ロ第2号証は、直接には、本件各土地についての調査ではないが、本件各土地に隣接した地点であり、本件各土地と地質が異なることを裏付ける証拠がないから、調査対象として地質は本件各土地の地質とほぼ同様であると認めるのが相当である。)
ア 本件各土地の所在地である市川市の地形は、標高が二〇ないし三〇メートルの洪積台地と標高一〇メートル以下の沖積低地に大別され、本件各土地は、国分川沿いの国分谷の枝谷によって台地を細長く刻まれた沖積低地に位置している。この地域は、国分川がせき止められて湿地帯となり、枝谷の出口が閉じこめられて沼地が形成され、有機質土が堆積したと考えられる地形であり、いわゆる軟弱地盤地域である。
有機質土は、含水率が高く、多孔質で圧縮されやすいので、盛土の影響や建物の荷重により地盤沈下が起こりやすい土質である。有機質土が荷重を受けると、内部の水分を徐々に排水しながら何年間もかかって体積が減少していく圧密現象が起こり地盤が沈下する。この軟弱地盤上に、無対策で盛土を行い建物を建てた結果、圧密沈下により傾斜変形などの被害が生じた実例は数多い。
イ 本件各土地は、地表から3.6メートルまでは、埋土層(埋土、盛土)で、標準貫入試験値(標準貫入試験により得られる地盤の強度指標のことであり、値が小さいほど軟らかい。以下「N値」という。)が二ないし四である。この層には、コンクリート、レンガ塊、木片、針金、生活廃材などが多量に混入している。
3.6メートルから6.45メートルまでは、腐植土層(有機質シルト腐植土)で、N値は二である。この層は、軟らかく、含水比が高いので圧密沈下の原因となる。
6.45メートルから七メートルまでは、粘性土層(砂混り粘土)であり、七メートルから7.65メートルまでは、成田層群(火山灰質粘土)で、N値は三である。
7.65五メートル以深は、成田層群(細砂)で、N値は五ないし三三で、特に九メートル以深では比較的締まっておりN値が二五以上となっている。
ウ 室内土質試験結果によれば、本件各土地は、湿潤密度が1.334グラム毎平方センチメートル(一般の粘性土や砂質土では1.4ないし2.0グラム毎平方センチメートル、以下、かっこ内の値は、一般の粘性土、砂質土の数値を表す。)、土粒子の密度が2.426グラム毎立方センチメートル(2.6ないし2.8グラム毎立方センチメートル)であり、いずれも軽い。自然含水比は106.84パーセント(一〇〇パーセント以下)、間隙比は2.866(2.5以下)で、土粒子が軽く水分が多い。土の強さを表す一軸圧縮強さは0.146重量キログラム毎平方センチメートルであるが、0.2重量キログラム毎平方センチメートル以下の場合は非常に軟弱な部類に入る。圧縮指数は、この値が大きいほど沈下量が大きくなるところ、本件各土地は、1.47であり、一般的な計算式から導かれる1.2よりも大きい。圧密降伏応力は、地盤が過去に受けた最大の圧密応力を示し、この値が小さいほど圧密沈下を起こしやすいところ、本件各土地については0.25重量キログラム毎平方センチメートルであり、非常に小さい。
エ 本件各土地は、地表面から3.6メートルまでは人工的に埋め立てられた埋土で構成されているが、埋土にはコンクリート塊、レンガ、木片、針金などの廃棄物が多量に含まれている。建設省編集の「宅地防災マニュアル」によれば、建設廃材、腐植土、生ゴミなどは埋土材料として使用してはならないとされており、本件各土地の埋土は埋土材料の品質としては問題がある。また、腐朽性のある木片及びゴミは時間とともに体積が減少し地表面が沈下することがある。
さらに、深度が一メートル前後の埋土の強度は、N値が四前後で、スウェーデン式サウンディング試験の半回転数が一〇〇以下であって、十分な強度や締固め度を有しているといえない状態である。
(3) 地盤沈下及び不等沈下の発生と今後の予測について(甲第7号証、第12ないし第17号証、乙ロ第3号証、証人成瀬昌弘、同谷口陽子の各証言、原告佐藤俊哉、同谷口公大、同小野延年及び同柿澤清二の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨)
ア 地盤沈下及び不等沈下の発生について
(ア) 本件各土地において、三〇ないし四〇ミリメートルの地盤沈下が発生した。本件各土地において地盤沈下が発生した原因は、圧縮性の高い腐植土に対して事前に軟弱地盤対策工事を施すことなく、不良な盛土材料で転圧も十分に行わず厚く埋め立てが行われたためである。
(イ) 小野建物及び谷口建物においては、不等沈下(建物基礎の沈下が一様ではなく場所によって異なった沈下量を示す状態。なお、この状態を不同沈下ともいうが、不等沈下と表記する。)が発生している。絶対的な沈下量は、腐植土層が厚い土地上に存在している谷口建物の方が多いが、変形量は山側に存在している小野建物の方が大きい。この不等沈下の原因としては、本件において腐植土の層厚が枝谷の中央部ほど厚く堆積しており、圧密層が厚くなるほど沈下量が大きくなること及び建物の荷重が偏っていることなどが考えられる。
イ 今後の予測について
(ア) 本件各土地は、地表面から深度5.4メートルの位置における有効上載圧が圧密降伏応力よりも大きいため、圧密が未了であり、今後も圧密沈下が継続することが予想される。具体的には、埋土開始時点からの最終的な総沈下量が七三センチメートルと計算され、そのうち平成九年三月以降の沈下量は約一〇センチメートルと予想される。(なお、一次圧密終了後のクリーブ沈下は二次密圧と呼ばれ、後に認定するように本件各土地には腐植土が分布しているところ、腐植土においては二次沈下がかなり長く続くことが多い。一般的には、一次沈下が五年程度で進行し、二次沈下が一〇年ないし一五年かけて終息していく。)
さらに、本件各土地は、埋立ての経過時間が短く、埋立時のトラック、重機の出入りによる踏み固めが十分でなかった可能性があり、建設廃材を多く含んだ埋土が使われていたため、不良な埋土材料や施工方法を原因とする沈下も無視することができず、残留沈下量が上記の予測よりも増加する可能性も高い。
(イ) そのため、本件各建物は、圧密沈下が終息して地盤が安定するまで地盤とともに沈下し変形していく可能性がある。その結果、建具の開閉に支障を生じたり、地下に埋設されたガス、水道管等が破損することが考えられる。具体的には、佐藤建物及び柿澤建物については、地盤が安定するまで束立床の上下動が止まらず(なお、一時的に、束石との隙間にくさびを挟み込んでもまた地盤沈下が進行して隙間が生じる)、地盤沈下の進行した場合には配管が破損して事故につながる可能性がある。また、谷口建物及び小野建物については、駐車スペースと位置指定道路等との境界に発生している亀裂が地盤が安定するまで拡大していくおそれがある。
(4) 本件において施工された工事について(甲第7号証、第11号証、第17号証、第46号証、第49号証、第52号証の1、2、乙ロ第1ないし第3号証、証人成瀬昌弘及び同乙野次郎の各証言、被告A株式会社代表者尋問の結果、弁論の全趣旨)
ア 佐藤土地建物及び柿澤土地建物については、杭で補強した布基礎が施工されている。すなわち、不整形な底盤をしたコンクリート布基礎(幅約四〇〇ミリメートル、厚さ約一五〇ミリメートルのコンクリートの耐圧盤の上に土台を載せる基礎を立ち上げて壁列に配置する連続基礎)が施工され、それが鋼管杭(STK―四〇〇、直径139.8ミリメートル、厚さ4.5ミリメートル、長さ一〇メートル)で補強されている。
しかし、佐藤土地建物及び柿澤土地建物の布基礎については、通常基礎底盤の下に設けられる割栗地業や、地業の上に打設する捨コン(地業面を均して平滑にするコンクリート基礎)は施工されていなかった。また、地盤の突固め状態は不十分で外部に張り出したコンクリート底盤は型枠を用いないで垂れ流した不整形な状態で厚さが不足していた。さらに、二階建ての建物を建築する場合の布基礎は、通常逆T型として下側の基礎幅が広くされるが、佐藤建物では基礎幅がストレートで拡幅されていない状態である。
イ 谷口土地建物及び小野土地建物については、コンクリートべた基礎が施工されている。
しかし、佐藤土地建物及び柿澤土地建物同様、割栗地業や捨てコンは施工されておらず、地盤の突固め状態は不十分で、外部に張り出したコンクリート底盤は型枠を用いないで垂れ流した不整形な状態で厚さが不足していた。
ウ 本件各土地における基礎工事としては、敷地全体が盛土層であり盛土材の不均一が考えられることから、各棟毎に地盤改良及び改良杭などの施工が適当であるとされている。また、本件各土地における基礎工事としては、本件各土地が地耐力不足で非常に軟弱なシルト層が厚く分布しており地盤が不安定であるため、深度一〇メートル以深の締った砂質土層に支持力を求める支持杭基礎工法を用いて、建物の歪み、沈下、傾斜等の障害に対処すべきであり、付近の建物の傾斜等を考慮すると地盤改良や摩擦杭などの使用は控えるべきとされている。
エ 原告らの基礎工事が終了した後に基礎工事が施工された桐岡建物及び宮原建物においては、一一メートルの深さまで杭を打ち込むという基礎工事が行われている。
オ 本件各建物は、設計図及び申請関係図書においてはべた基礎で設計されていた。そして、谷口建物及び小野建物、次に佐藤建物及び柿澤建物、その後桐岡建物及び宮原建物の順番で基礎工事が行われ、その基礎工事の内容は順次変更されたが(なお、建築確認申請書については変更がなされていない。)、変更がなされた理由は甲野が建物の安全性を考慮したためである。
(5) 本件各売買契約に至る経緯及び本件各売買契約締結の際の状況について(甲第1号証、第2号証の1、2、第3号証の1、2、第4号証の1、2、第5号証の1、2、第6号証の1、2、第7号証、第12ないし第15号証、乙ロ第3、第4号証、乙ハ第5号証の1、2、第7号証、証人丙野三夫、同乙野次郎の各証言、被告A株式会社代表者尋問の結果並びに原告佐藤俊哉、同谷口公大、同小野延年及び同柿澤清二の各本人尋問の結果、弁論の全趣旨)
ア 被告Aは、平成二年四月一九日、木龍木材株式会社から、日本住建株式会社(以下「日本住建」という。)の仲介により、本件各土地を代金約二億五〇〇〇万円で買い受けた。そして、被告Aは、売買契約にあたって、日本住建から地盤調査報告書(乙ロ第1号証)を受け取った(なお、被告Aは、このような調査報告書を売主から受け取ることが異例であることを認識していた。)。
さらに、被告Aは、平成五年四月ころ、地盤調査報告書(乙ロ第2号証)を赤坂工務店から受け取った。
イ 乙野は、平成五年一月ころ、株式会社常盤開発の三村社長の紹介により、甲野と会った。甲野は、乙野に対し、市川市曽谷<番地略>に建築する建売住宅の分譲、販売を被告住友不動産に委託したい旨申し入れた。乙野は、被告住友不動産新松戸営業センターに話を持ち帰り、同センター所長である鬼川と現地を訪れ、その結果、被告住友不動産は、甲野の申出を了承することを決定した。
甲野は、その後、乙野に対し、地盤調査報告書(乙ロ第1、第2号証)を見せながら、「本件各土地については木造二階程度であれば支持力に問題はないとの調査結果があるので、べた基礎で対応すれば十分である、三号棟、四号棟については、べた基礎で十分対応できるが、念のため基礎は杭を打つことにしているので基礎は万全である。」と説明した。
平成五年四月になると、甲野が乙野に連絡し、乙野は原告佐藤と会って、売買契約の日時、売買代金等について打ち合わせを行った。
ウ 被告住商ハウジングは、平成五年に、被告住友不動産に対し、本件各土地建物に関して客を紹介させてほしいと申入れを行ったものの、被告Aと被告住友不動産が専任媒介契約を締結していたことから、当初この申し出は断られた。しかし、その後、四号棟についてのみ、買主を紹介する業者が共同仲介することが認められたため、丙野は、四号棟を原告柿澤に紹介することになった。
エ 原告佐藤について
(ア) 原告佐藤は、平成五年ころ、南行徳に住んでいたが、いずれ実家(市川市曽谷<番地略>)の近くに住もうと考えていた。そして、原告佐藤は、同年三月末ころ、実家の近くのマンションであるマックコートⅡを購入しようと考え手付金を支払うなどの手続を行った。
(イ) 平成五年四月八日、両親が、原告佐藤に対して、散歩中に本件各土地建物を発見した旨を連絡してきた。そこで、原告佐藤は、同月一〇日、一号棟、二号棟を見学した。
(ウ) 同年五月上旬ころ、原告佐藤は、甲野から、「一号棟、二号棟の基礎工事としては杭を打っていないが、三号棟、四号棟の基礎工事としては杭を打つ。」との説明を聞き、「三号棟、四号棟だけなぜ杭を打つのか、それほど地盤が弱いのではないか。」と質問したところ、甲野は、「通常は打つ必要もないが、念には念を入れて杭を打ちます。普通ならこんなたくさん杭は打ちません。もし大洪水とかあって土が流されても杭が岩盤まで打ってあり、杭の上に土台がのっているので家は絶対平気です。実家が近くにある人、また、この一画で一番最初に契約する人に変な買い物はしてもらいたくない。自信を持った物件です。」と答えた。
その折に、杭の中に石が投げ入れられた際、「ポチャ」と音がしたので、原告佐藤が甲野に対して「水はけが悪く、地盤の下は水が流れているのではないか。」と説明を求めたところ、甲野は、「雨水が杭の中にたまっているだけで決してそんなことはない。地盤の調査もしている。安心してください。」と答えた。
その後、佐藤は三号棟を購入することを決定し、マックコートⅡの手付金返金の手続を進めた。
(エ) 原告佐藤と被告Aは、平成五年五月二二日、被告住友不動産の仲介のもと、本件売買契約を締結した。
本件売買契約締結の際に、乙野は、原告佐藤に対して交付された重要事項説明書を記載し、その内容を読み上げた。その中には、「当該地区は軟弱地盤地区の為、新築時には対応できる基礎工事が必要となります。」との記載があったため、原告佐藤が「本当に大丈夫か。」と尋ねたところ、甲野及び乙野は、「普通の土地よりも横に調整池があるため、池側の地盤が多少数値上弱いだけであり何も問題はない。べた基礎でいいところを念には念を入れて杭を打っていますから。」と説明した。
なお、乙野が、重要事項説明書に上記のような記載を行ったのは、甲野から杭を打つということを聞いていたため、三号棟の地盤について少し柔らかいのではないかと判断したためであった。
この時、甲野及び乙野は、三号棟の地盤が軟弱地盤であるとの説明を行わなかったため、原告佐藤は、三号棟の地盤について何ら問題がないと考えた。
オ 原告谷口について
(ア) 原告谷口は、平成五年当時、相模原市東林間の賃貸住宅に居住していたが、住宅を購入することを考えていた。そして、原告谷口は、被告住友不動産の乙野に電話をかけたところ、「市川市に良い物件があるので案内させてください。」と勧められた。
(イ) 原告谷口及び妻谷口陽子(以下「陽子」という。)は、平成五年六月二一日、本件各土地建物を見学した。陽子は、北西の方角に見える家が少し傾いて見えたため、乙野に対して「ここの家は大丈夫ですか。」と尋ねたが、乙野は、「ここはべた基礎で対応していますので心配ありません。」と答えた。そして、乙野は、「もし気に入ったならば他にも何人も見に来ておりますので、手付けだけでも一週間以内に入れておいた方がいいですよ。」と勧めた。
(ウ) 原告谷口と被告Aは、六月二六日、被告住友不動産の仲介のもと、本件売買契約を締結し、手付金として一〇〇万円を支払った。
本件売買契約締結の際に、乙野は、原告谷口に交付された重要事項説明書を作成し、その内容を読み上げた。その中には、「近隣には軟弱地盤の土地がありますが、当該物件には調査の結果、基礎はべた基礎で対応してあります。」との記載があったが、甲野及び乙野は、二号棟が軟弱地盤であるとの説明を行わず、そのため、原告谷口は、二号棟が軟弱地盤であるとは知らなかった。また、甲野及び乙野は、上記記載における「近隣」がどこを指すのかについても説明を行わなかった。
なお、乙野が、重要事項説明書に上記のような記載を行ったのは、佐藤土地建物の基礎工事において杭が打たれていること及び原告佐藤に交付した重要事項説明書に軟弱地盤と記載したことと整合性をとるためであった。
カ 原告小野について
(ア) 平成六年一月ころ、原告小野は、社宅であったマンションに居住していたが、マイホームを購入したいと考えて、JR船橋駅から新小岩駅付近においてマンション及び建売住宅を探していた。
そして、原告小野は、本件各土地建物を見つけ、同年二月一八日、被告住友不動産新松戸営業センターに連絡し、翌日、本件各土地建物を見学した。その際に、原告小野が、隣地の遊水池に関連して本件各土地建物の地盤について尋ねたところ、乙野は、「奥の二棟は地盤が弱かったので杭を打ったが、隣と本件各土地建物はその心配がないのでべた基礎にしている。また、斜め向かいの土地の購入者は川崎市役所の建築課に勤務している方で、そういうことはよくわかっている人ですし、奥の建物を購入された方の実家はこのごく近所で地元の方ですから安心です。それにここの売主は単なる販売業者でなく建築のプロですから。」と答えた。
(イ) 原告小野と被告Aは、平成六年二月二六日、被告住友不動産の仲介のもと、本件売買契約を締結した。
本件売買契約締結の際に、乙野は、原告小野に対して交付された重要事項説明書を読み上げたが、重要事項説明書には、本件各土地の地盤に関する説明は何ら記載されていなかった。
また、甲野及び乙野が、原告小野に対して、小野土地の地盤が軟弱地盤であるとの説明をしたことはなく、そのため、原告小野は、一号棟が軟弱地盤であるとは知らなかった。
キ 原告柿澤について
(ア) 原告柿澤は、平成五年夏ころ、江戸川区平井のマンションに居住していたが、土地付き一戸建ての家を探し始めた。そして、被告住商ハウジングの丙野からいくつか物件を紹介され、原告柿澤は、本件四号棟を購入することを決定した。
(イ) 原告柿澤と被告Aは、平成五年一〇月二三日、被告住友不動産及び被告住商ハウジングの仲介のもと、本件売買契約を締結した。
本件売買契約締結の際に、乙野は、原告柿澤に対して交付された重要事項説明書を読み上げたが、その中に、「当該地区の近隣には軟弱地盤地区がある為、新築時には対応できる基礎工事が必要になります。(本物件の基礎工事は十分対応できる処置がされています。)」との記載があった。そこで、原告柿澤が「対応できる処置って何ですか。」と尋ねたところ、甲野は、図面を見せながら「柿澤土地に杭を打っていること、杭が打たれている位置、本来杭を入れる必要はないが、一種のサービスとして杭を打っていること」などの説明を行った。
しかし、甲野、乙野及び丙野が、原告柿澤に対して、四号棟が軟弱地盤であることを説明したことはなく、原告柿澤は、四号棟が軟弱地盤であると認識していなかった。なお、原告柿澤と被告Aの売買契約成立の前日に乙野から丙野に対してファックスで送信された重要事項説明書には、上記記載が存在していなかったが、丙野は、売買契約の当日、甲野及び乙野の説明を聞いて、原告柿澤の土地が軟弱地盤であることを認識していた。
なお、乙野が、重要事項説明書に上記のような記載を行ったのは、柿澤土地建物の基礎工事において杭が打たれていること及び原告佐藤に交付した重要事項説明書に軟弱地盤と記載したこととの整合性をとるためであった。
(6) 以上の事実が認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
そこで、以上の事実を前提として、本件における各争点について判断することとする。
2 争点1(原告らの建物に不具合が発生した原因)について
(1) 前記争いのない事実及び上記1(1)ないし(5)の認定事実によれば、次のように要約される。
① 本件各建物には、床面の傾斜、壁や床面における亀裂の発生など数多くの看過し難い不具合が発生している。これらの不具合は、平成九年二月の調査時点に比べて、平成一二年五月一四日の調査時点の方が、その程度が悪化している。
② 本件各土地は腐植土層が存在し、もともと土粒子が軽く、水分が多くて軟弱であり、圧密沈下を起こしやすい地質であり、特に地表から七メートルの深さまでは地盤の強度指標であるN値も低い。その上、本件各土地に使用された埋土には廃棄物等が多量に含まれ、埋土の固め作業も十分ではなかったため、もともと地盤沈下が発生する可能性が高かった。
③ 実際に本件各土地において地盤沈下が発生している。小野建物及び谷口建物においては不等沈下が発生しており、その変形は小野建物の方がより大きい。
以上の諸事情を総合考慮すると、本件において、原告らの建物に不具合が発生したのは、本件各土地が軟弱地盤であり、そのため地盤沈下が発生したことに起因しているものと推認することができる(なお、甲第7号証及び乙ロ第3号証においても、原告らの建物に不具合が発生した原因について、地盤沈下によるものであると推認されている。)。
(2) この点について、被告住商ハウジングは、「柿澤建物に不具合が発生した原因は地盤沈下によるものではなく、柿澤建物本体と周囲の敷地の接合部の不具合又は柿澤建物の床束部分についての施工上の不良あるいは柿澤建物の施工上の不良である」と主張する。
しかし、柿澤建物において傾斜の度合いや亀裂の状態が年月が経過するにつれて悪化していることは上記認定のとおりであり、また、本件において、柿澤建物について施工上の不良が存在したとしても、柿澤建物の不具合の発生について本件各土地において発生した地盤沈下が大きく影響していることは否定しがたい。
したがって、被告住商ハウジングの主張は採用することができない。
3 争点2(本件において施工された基礎工事の適否)について
(1) 上記1(1)ないし(5)、特に(4)の認定事実によれば、次のように要約される。
① 谷口建物及び小野建物については、べた基礎が、佐藤建物及び柿澤建物については、布基礎及び杭基礎が施工された。
② 本件各土地の基礎工事としては、敷地が盛土層であり盛土材が不均一であることから支持杭を用いるのが相当と考えられる。
③ 原告らの基礎工事終了後に建設された近隣の建物においては深さ一一メートルまで杭を打ち込む杭基礎工事が施工されたが、これは、甲野が建物の安全性を考慮して変更を決定したためである。
(2) 以上の諸事実に加えて、前記のとおり、本件各土地に地盤沈下が発生し、それを原因として本件建物に多数の不具合が発生していることを考慮すると、本件各土地において施工された基礎工事は、工法の選択上又は施工上不相当なものであったというべきである。
4 争点3(被告Aの責任の有無)について
(1) 前記のとおり、本件各土地においては現に地盤沈下が発生し、本件各建物には多数の不具合が発生しているが、本件各建物に不具合が発生したのは、本件各土地が軟弱地盤であり、そのため地盤沈下が発生したことが原因である。
そして、本件各土地が軟弱地盤であるという瑕疵は、本件各売買契約の前から存在したものであり、専門家の調査や異常の発生により初めて明らかになる性質のものであるから、売買契約時に存在した通常容易に発見し得ない「隠れた瑕疵」ということができる。
(2) 次に、原告らが上記瑕疵の存在により、本件各売買契約の目的を達することができないとみられるかどうかを検討する。
ア 本件瑕疵により生じている建物の不具合は、前記1(1)アないしエに詳細に認定したとおりであり、これらは日常生活を円滑に送ることを困難ならしめるものであり、安全面にも問題を生じるだけでなく、さらに、不具合の程度が悪化するという深刻な状態にある。
イ 甲第18号証の1、2、第20ないし第24号証によれば、本件において、上記不具合が発生しないようにするためには、以下のような補修工事が必要であることが認められる。
(ア) 佐藤建物及び柿澤建物の補修については、建物全体の歪みを是正すること及び一階床の振動を是正することが主な内容となり、その前提条件として、布基礎が沈下しないこと及び布基礎の耐力が保証されていることが必要とされる。しかし、現在打ち込まれている杭の信頼度が低く、基礎が今後も沈下するおそれがあるため、一旦上部構造を基礎から切り離し既存基礎を撤去して、既存杭の間に鋼管杭を増杭して布基礎梁を新設し、その上で布基礎梁に鋼製の一階床梁を掛け渡し、上部構造を新設した布基礎梁に戻して固定して鋼製の一階床梁に一階床組を載せる工事が必要である。
(イ) 谷口建物及び小野建物の補修については、建物の不等沈下をくい止める工事が必要である。具体的には、上部構造を基礎から切り離し既存基礎を撤去して、鋼管杭を圧入して布基礎梁を新設し、布基礎梁に鋼製の一階床梁を掛け渡し、上部構造を新設した布基礎梁に戻して固定して鋼製の一階床梁に一階の床組を載せる工事となる。
(ウ) 工事期間中は本件各建物は使用できず、工事においては本件各建物の外構工作物及び一階床はすべて撤去されることになる。工期は約三か月が必要である。
(エ) 各工事を実施する場合、敷地の広さや周囲の作業環境等に照らして、狭隘な場所における作業を余儀なくされるし、杭打ち機その他の重機、資材の搬入等極めて困難な問題があり、現実には実施が難しい。
ウ 甲第25号証の1ないし3、第26号証の1ないし3、第27号証の1ないし3、第28号証の1ないし3、第31ないし第34号証、第36号証、第43号証の1、2、証人谷口陽子の証言及び原告小野延年の本人尋問の結果によれば、上記補修費用及びそれに付随する費用として、原告佐藤について、二四七七万三五〇〇円、原告谷口について、二二二八万〇五〇〇円、原告柿澤について、二五六二万三〇〇〇円、原告小野について、二三七〇万六五〇〇円が必要であることが認められる。
エ 以上の認定の事実に照らして考えると、本件において発生した不具合は、本件各土地の地盤の性質に由来しているものであり、これを原因とする本件不具合を解消するためには、本件各建物の基礎工事について抜本的なやり直しが必要である上に、その実施の面でも困難が予想されるのである。加えて、そのために要する金額は、本件売買代金のおよそ半額に達し又は半額を超えるのであって、これは、本件各建物と同様の居住用建物における建築費に匹敵する額である。そうすると、結局、本件各建物の不具合を経済的合理性が認められる範囲内で修理することはできないというに等しいというほかはない。
また、原告らが本件各売買契約を締結したのは、本件各不動産を取得して、本件各建物に居住するためであり、実際に、原告らは、売買契約締結後、いずれもそれまで住んでいた住居から本件各建物に引っ越し、居住し始めたのである。ところが、本件不具合を解消するための工事は、三か月という長期にわたり居住者の生活に重大な支障をきたすことにもなるものであり、しかも、本件土地の性状を考慮すると、施工が万全でなければ補修が功を奏しない可能性もないとはいえないのである。そうすると、何ら落ち度のない原告らがそのような不都合及びリスクを甘受すべきものとするのは相当とは思われない。
オ 以上によれば、本件においては、何よりも生活の本拠である家を購入したのにもかかわらず、居住に著しい困難をもたらす多数の不具合が発生しており、それが土地の性状に起因する地盤沈下によるものであって、さらに、本件各建物の補修に要する金員は多額で、建物新築に匹敵するほどのものであること等を考慮すれば、結局、原告らは、本件各売買契約の目的を達することができないものというべきである。
そうすると、原告らが被告Aに対しした、瑕疵担保責任を理由とする本件各売買契約の解除は有効である。
5 争点4(被告住友不動産及び被告住商ハウジングの責任の有無)について
(1) 不動産の仲介業務を委託された者は、委託の本旨に従って善良な管理者の注意義務をもって誠実に仲介事務を処理すべきであり、信義則上、不動産売買契約における買主に対しては、買主が当該物件を購入するかどうかの意思決定を行うに際して重要な意義を有する情報について説明告知する義務を負っており(宅地建物取引業法三五条、四七条参照)、これに違反して買主に損害を与えた場合には、説明告知義務違反としてこれを賠償する責任があると解するのが相当である。
そして、上記の見地からすれば、不動産仲介業者は、消費者の立場にある買主が物件購入の意思決定をするに当たって過不足のない情報を提供すべきであるから、説明告知する義務を負う事項は宅地建物取引業法三五条に規定されている事項には限られないということはいうまでもない。
(2) 上記争いのない事実等及び前記1(1)ないし(5)の認定事実によれば、次のとおり要約される。
① 本件各土地は、客観的に、土粒子が軽く、水分が多くて軟弱であり、圧密沈下を起こしやすい軟弱地盤である。
② 乙野は、本件各売買契約に先立って、甲野から本件各土地に関する地盤調査報告書を受け取り、その内容についての説明を受けていた。
③ 丙野は、売買契約当日、原告柿澤に対する甲野及び乙野の説明を聞いて、本件各土地が軟弱地盤であることを認識していた。
④ 乙野は、原告佐藤に交付した重要事項説明書に「当該地区は軟弱地盤地区の為、新築時には対応できる基礎工事が必要となります」と、原告谷口に交付した重要事項説明書に「近隣には軟弱地盤の土地がありますが当該物件には調査の結果、基礎はべた基礎で対応してあります」と、原告柿澤に交付した重要事項説明書に「当該地区の近隣には軟弱地盤地区がある為、新築時には対応できる基礎工事が必要になります。(本物件の基礎工事は十分対応できる処置がされています。別添資料参照)」と記載し、原告小野に交付した重要事項説明書には地盤に関する記載を行わなかった。
⑤ 乙野は、大丈夫かと尋ねた原告佐藤に対して、売買契約に際して、本件各土地の地盤については問題がない旨説明した。
⑥ 乙野は、本件各土地建物を案内した際、原告谷口に対して、谷口建物が傾斜する心配はない旨説明した(なお、陽子は乙野に対して大丈夫かどうかを確認している)。
⑦ 乙野は、売買契約締結の際に、原告柿澤に対して重要事項説明書を読み上げたのみで本件各土地の地盤の性質などについて特段の説明をしなかった。
⑧ 乙野は、本件各土地建物を案内した際、原告小野に対して、本件各土地の地盤の強度について心配がない旨説明した。
(3) 以上によれば、乙野は、甲野から交付された地盤調査報告書を見て、本件各売買契約を仲介する前に、本件各土地が軟弱地盤であることを認識していたものであり、丙野も、原告柿澤の売買契約当日に、甲野及び乙野の説明を聞き、本件各土地が軟弱地盤であることを認識していたのである。
そして、一般に、土地建物を購入する者にとって、買い受ける土地の性状がいかなるものであるのかという点は重大な関心事であり、その意味で本件各土地が軟弱地盤であるかどうかは当該土地を購入するかどうかの意思決定において大きな要素となるものである。原告らは、甲野、乙野及び丙野に対して、本件各土地の性状について質問していたことは上記認定のとおりであって、原告らが実際にもこの点に重大な関心を有していたことは明らかである。
すなわち、本件各土地が軟弱地盤であることは、原告らが本件不動産を購入するかどうかを決定するに際して決定的に重要な要素であったというべきである。
(4) そうすると、被告住友不動産及び被告住商ハウジングは、本件各土地が軟弱地盤であるとの事実が、買主が当該物件を購入するかどうかの意思決定に際して決定的に重要な要素となるのであるから、この点について原告らに十分に説明告知する義務を負っていたというべきところ、これを怠り、本件において、上記のとおり、乙野及び丙野は、原告らに対して、本件各土地が軟弱地盤であるという事実を説明しなかった(乙野及び丙野においては、原告らに対し、本件各土地の地盤が軟弱であることについての説明をことさらに避けた説明をした)ものである。したがって、被告住友不動産は原告ら全員に対して、被告住商ハウジングは原告柿澤に対して、それぞれ説明告知義務違反を理由とする不法行為責任に基づく損害賠償の責任を負うべきものといわなければならない。
なお、原告佐藤に交付された重要事項説明書には、本件各土地が軟弱地盤であることを示す記載が存在するが、上記認定のとおり、乙野は、売買契約締結時に、口頭でこれを否定する内容の説明を行っており、乙野が上記の義務を履行したとすることはできない。
(5) 原告らは、被告住友不動産が被告Aと共謀し、原告らを欺罔して、原告らに欠陥住宅を売りつけたと主張する。しかし、本件全証拠によっても、原告らの主張事実を認めることはできず、他に原告らの主張を認めるに足りる証拠はない。
6 争点5(被告らの責任内容)について
(1) 被告Aに対する請求について
ア 原告らが被告Aに対してした瑕疵担保責任を理由とする解除の意思表示が有効であることは既に説示したとおりである。そこで、原告らは、被告Aに対して、本件各売買契約の解除に基づく原状回復請求として、以下のとおり、売買代金の返還及び代金支払日からの遅延損害金の支払を求めることができる。
(売買代金の支払日については、甲第3号証の1、第4号証の1、第5号証の1、第6号証の1、第50号証、弁論の全趣旨により認められる。)
(ア) 原告佐藤について
売買代金 四七一六万円
売買代金支払日
平成五年五月二二日 一〇〇万円
平成五年六月三〇日 一〇〇万円
平成五年七月二六日 一一一六万円
平成五年八月一日 三四〇〇万円
(イ) 原告谷口について
売買代金 五〇一〇万円
売買代金支払日
平成五年六月二六日 一〇〇万円
平成五年七月三〇日 三〇〇万円
平成五年九月一〇日 四六一〇万円
(ウ) 原告小野について
売買代金 四九五〇万円
売買代金支払日
平成六年二月二六日 一〇〇万円
平成六年四月三〇日 四八五〇万円
(エ) 原告柿澤について
売買代金 四八五〇万円
売買代金支払日
平成五年一〇月二三日 二〇〇万円
平成六年一月三一日 四六五〇万円
イ また、原告らは、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、相当因果関係の範囲内である別途負担金、登記手続費用等の賠償を求めることができる。
(ア) 原告佐藤について(甲第64号証の1ないし11)
別途負担金 三五万五四〇〇円
登記手続費用 四八万七二五〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
合計 一七六万四六五〇円
(イ) 原告谷口について(甲第65号証の1ないし11)
別途負担金 一〇万〇五〇〇円
仲介手数料 一五九万二〇三五円
登記手続費用 三九万四三〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
合計 三〇〇万八八三五円
(ウ) 原告小野について(甲第66号証の1ないし11)
別途負担金 七五万円
仲介手数料 五〇万円
登記手続費用 七三万一二〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
合計 二九〇万三二〇〇円
(エ) 原告柿澤について(甲第54号証の1、2、第55号証、第56号証の1、2、第57号証の1、2、第58号証の1、2、第59号証の1、2、甲第60号証の1ないし5)
別途負担金 一〇〇万円
仲介手数料 一五六万〇四五〇円
登記手続費用 三四万七八〇〇円
調査費用 九二万二〇〇〇円
応急修理費用 一四万八八五一円
合計 三九七万九一〇一円
ウ もっとも、原告らは、瑕疵担保責任に基づく損害賠償として、慰謝料及び弁護士費用を請求するが、瑕疵担保責任に基づく損害賠償は、信頼利益に限られると解するのが相当であるから、慰謝料及び弁護士費用の請求は、これを認めることができない。
エ 以上によれば、原告らの被告Aに対する瑕疵担保責任を理由とする本件各売買契約の解除に基づく原状回復請求としての売買代金返還請求は、上記の限度で理由がある。
(なお、原告らは詐欺に基づく各売買契約の取消し又は錯誤に基づく売買契約無効を理由とする不当利得の返還等も主張しているが、選択的併合であるから、判断を要しない。)
(2) 被告住友不動産及び被告住商ハウジングに対する請求について
ア 乙野及び丙野が原告らに対して、上記認定のとおり、本件各土地が軟弱地盤であるという事実を説明しなかったため、原告らは、同程度の代金の別の物件の購入を検討する機会を喪失した上、本件各建物において安心して快適で平穏な生活を送ることができるという期待を裏切られたという精神的苦痛を被ったということができる。
そして、原告らの本件売買契約を締結するに至った経緯、被告住友不動産及び被告住商ハウジングの説明内容、原告らの交付された重要事項説明書の記載など本件に現われた全事情、特に、乙野の地盤の性質に関する説明内容は後になるほど後退しており、原告小野に至っては何らの記載もされていないなどの不誠実な言動があったこと等の諸事情を考慮すると、原告らの精神的苦痛を慰謝するためには、原告佐藤について四八〇万円、原告谷口について五一〇万円、原告小野について五〇〇万円、原告柿澤について四九〇万円が必要であると算定するのが相当である。
イ また、原告らは、原告ら訴訟代理人らに委任して本件訴訟を提起、追行していることは明らかであり、本件事案の難易度や認容額等に照らして、原告らが訴訟代理人に対して支払うべき手数料のうち、被告住友不動産及び被告住商ハウジングに対して賠償を求めることができるのは、原告らについて各五〇万円と認めるのが相当である。
(3) なお、本件において、被告Aと、被告住友不動産及び被告住商ハウジングとは責任根拠が異なるため連帯して責任を負う関係には立たないことを付言する。
第6 結論
以上によれば、原告らの請求は主文の限度で理由があるからこれを認容し、その余は失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民訴法六一条、六四条、六五条一項を、仮執行の宣言について同法二五九条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官・加藤新太郎、裁判官・足立謙三、裁判官・阿閉正則)
別紙物件目録<省略>