大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。
官報全文検索 KANPO.ORG
月額980円・今日から使える・メール通知機能・弁護士に必須
AD

東京地方裁判所 平成10年(ワ)13399号 判決 2000年11月30日

《住所略》

原告

奥澤明男

右訴訟代理人弁護士

藤原宏高

堀籠佳典

《住所略》

参加人

奥澤産業株式会社

右代表者

奥澤國男

右訴訟代理人弁護士

三木昌樹

石田英治

木原右

《住所略》

被告

江藤誠士

右訴訟代理人弁護士

齋藤弘

主文

原告の請求を棄却し、参加人の参加の申出を却下する。

訴訟費用は、参加によって生じた費用は参加人の負担とし、そのほかは原告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求

一  原告の請求

被告は、参加人に対し、412万8015円及びこれに対する平成10年6月30日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

二  参加人の共同訴訟参加による請求

被告は、参加人に対し、609万5214円及びこれに対する平成12年2月15日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第二  事実の概要

一  原告の請求原因の要旨

原告の請求は、参加人奥澤産業株式会社の取締役総務部長として経理責任者の地位にあった被告が会社の経理処理に当たって、被告が立て替えた経費の償還債務と被告の会社に対する貸金利息及び仮払金精算金の支払債務との相殺処理をしたことについて、会社の株主であり代表取締役社長である原告が、被告が会社に支払義務のない架空の経費立替金と相殺する不正な経理処理を行って減額処理された未収利息及び仮払金相当の損害を会社に与えたとして、株主代表訴訟によりその損害の賠償を請求したものである。

二  参加申出の経緯と参加人の請求原因の要旨

参加人は、商法268条2項に基づき共同訴訟人として本件訴訟に参加し、被告の経理処理によって貸金利息及び仮払金精算金の支払債務が減少しないとすれば、原告の請求額を超える貸金・貸金利息及び仮払金精算金の支払債務が残っているとして、被告に対し、平成11年11月30日現在の貸付元金及び未収利息並びに仮払金精算金の支払を請求するとともに、請求額のうち原告の請求額に相当する412万8015円については、相殺処理により減額された未収利息及び仮払金相当の損害賠償を予備的請求原因として主張したが、その後、原告の請求額に相当する請求について、相殺処理により減額された未収利息及び仮払金相当の損害賠償を主位的請求原因とし、未収利息及び仮払金精算金の請求を予備的請求原因とする主張に変更した。

三  争いのない事実

原告は、奥澤産業の株主であり代表取締役社長である。被告は、昭和35年から平成5年3月31日まで奥澤産業の従業員として勤務し、併せて昭和49年から平成5年まで奥澤産業の取締役として登記されていた。

被告は、奥澤産業の総務部長として会社の経理事務の責任者としての地位にあった平成元年から4年にかけて、毎年の会社の決算期末において、次のとおり被告が立て替えた会社の費用を計上するとともに、会社に対する被告の貸金利息又は仮払金精算金の返済を計上してこれを相殺処理する会社の経理処理を行った。

1  未収利息の相殺処理

平成元年8月31日

費用計上額     599,583円

未収利息返済額   599,583円

平成2年8月31日

費用計上額     720,000円

未収利息返済額   720,000円

平成3年8月31日

費用計上額    1,032,990円

未収利息返済額  1,000,000円

平成4年8月31日

費用計上額     872,638円

未収利息返済額  1,021,043円

2  仮払金の相殺処理

平成3年8月31日

費用計上額     902,804円

仮払金返済額   1,010,000円

第三  当事者の主張

一  原告の主張

被告が奥澤産業の取締役総務部長として経理事務を処理するに当たって、前記当事者間に争いのない事実のとおりの費用を計上して自己の債務と相殺処理する経理処理を行ったが、これらは会社の代表取締役社長である原告の承認のないものであり、許されないものであった。被告の不正な相殺処理により、奥澤産業の被告に対する未収利息及び仮払金精算金の債権が各年の費用計上額合計額に相当する412万8015円減額し、奥澤産業は同額の損害を被った。

よって、原告は商法267条2項の株主代表訴訟により、被告に対し、商法266条1項5号に基づく損害賠償として412万8015円及びこれに対する訴状送達の翌日から支払済みまで商事法定利率年6分の割合による遅延損害金を奥澤産業に支払うよう求める。

二  参加人の主張

1  主位的請求原因

原告と同一の請求原因に基づき、商法266条1項5号に基づく損害賠償として、参加人は被告に対し、412万8015円の請求権を有している(損害賠償)。

参加人は被告に対し、別紙計算書一のとおり、平成元年8月31日において、貸付残元金90万円、未収利息565万2210円の債権を有していた。参加人は、その後、被告に対し、平成4年10月22日、11月2日、12月7日に10万円ずつ貸し付け、平成5年9月7日に退職金との相殺処理によって200万円の返済を受けている。したがって、被告による相殺処理により会社の被告に対する債権が減額されるとしても、参加人は被告に対し、別紙計算書三のとおり、平成11年11月30日において元金120万円、未払利息761万7199円の合計196万7199円の請求権を有している(貸金・未払利息)

よって、参加人は被告に対し、損害賠償請求権412万8015円と貸金元金及び未収利息の請求権196万7199円の合計609万5214円とこれに対する参加申出書送達の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

2  予備的請求原因

参加人の被告に対する貸金・未払利息の請求権は、主位的請求原因のとおりであるから、仮に、被告の不正な経理処理によっても、参加人の被告に対する未収利息債権及び仮払金債権が減少しないとすると、参加人は被告に対し、別紙計算書二のとおり、平成11年11月30日の貸金残元金120万円及び未収利息399万2410円の請求権のほか、仮払金精算金として少なくとも被告が相殺処理した費用計上額相当の90万2804円の返還請求権を有している。よって、参加人は被告に対し、以上の請求権合計609万5214円とこれに対する参加申出書送達の翌日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

三  被告の主張

1  原告の請求に対する反論

(一) 本案前の申立て

被告は名目だけの取締役で実質的な取締役ではなかった。また、仮に被告が取締役であったとしても、原告が損害賠償の原因として主張する行為は被告が会社の従業員として行った行為である。したがって、本件訴訟は、取締役の行為を原因とする損害賠償を請求するものではないから、株主が代表訴訟によって請求することはできない。

また、本件株主代表訴訟の提起に当たって原告が会社にした提訴請求は、被告の行為の内容が特定されていないから不適法である。

したがって、本件株主代表訴訟は不適法であり却下されるべきである。

(二) 請求原因に対する答弁

被告が経費として費用計上した金額は、いずれも被告がその職務上の必要から会社に立て替えて支出したものであるから、会社にとって必要な交際費等の支払である。

仮に会社に支払義務のない立替金を被告の会社に対する債務とを相殺する不正な経理処理を被告がしたとしても、そのことによって会社の被告に対する未収利息・仮払金等の返還債権が減少するものではないから、会社の損害は生じない。

本件訴訟は、被告が取締役退職後5年以上経てからの請求であるが、被告が原告を相手に株主代表訴訟を提起して原告の責任を追及していることから、その報復のために提起したものであり、信義に反し、権利の濫用として許されない。

2  参加人の参加の申出に対する反論

参加人の参加の申出は、参加人の被告に対する貸付金・未収利息及び仮払金の支払を求めるものであり、商法268条2項によって許される参加の理由の範囲を超えている。また、本件訴訟は、訴訟要件を欠き、仮にそうでないとしても会社に損害がないことは明らかであり、既に審理を終結すべき段階に達しており、参加人の参加申出は、不当に訴訟を遅延させるものである。

したがって、本件参加の申出は、却下されるべきである。

第四  裁判所の判断

一  株主代表訴訟の適法性

被告は、奥澤産業の実質的な取締役ではなく、また本件請求の原因行為は被告の従業員としての行為であって取締役としての行為ではないと主張して、本件株主代表訴訟の適法性を争っている。

しかし、被告の主張の趣旨は、被告が株主総会において取締役として選任され、就任承諾の意思表示をしたことを争う趣旨ではなく、実質的に取締役としての職務を行っていなかったという趣旨にすぎないものと認められる。そうであるとすると、取締役に就任した以上、その取締役が取締役在任中に会社における職務行為に関して会社に対して負うべき損害賠償責任は、その行為の性質が従業員としての行為か取締役としての行為かという性質を論ずるまでもなく、株主が代表訴訟によって追及することができる取締役の責任(商法267条1項)に含まれると解すべきである。

また、被告は、原告の会社に対する提訴請求は、原因行為の特定が不十分であって不適法であると主張するが、甲第三号証の一によれば、「元取締役江藤誠士氏が経理を担当していた6事業年度にわたる会計事務処理を調査した結果、金412万8015円に上る使途不明金が存在することが判明いたしました。」と記載されており、その当時、会社の代表取締役である原告自身が被告の会計事務処理の調査をしていたことから、この程度の記載で会社としては十分に本件訴訟の請求内容を知ることができたはずであるから、この提訴請求が不適法であるとはいえない。

したがって、本件株主代表訴訟が不適法であるとする被告の本案前の抗弁は採用することができない。

二  原告の請求について

前記争いのない事実(第二の三)によれば、被告の経理処理は、自己の支出した金銭について、毎年決算期末に相当多額の金額をまとめて経費計上して会社に対する債務と相殺処理し、そのことについて社長である原告には数年間事後報告すらもしていないというのであるから、このような経理処理は、会社の経理責任者として極めて不透明な処理であったという非難は免れず、会社の経費として処理した金額が、本当に会社のために職務として被告が立て替えた経費であったかどうかはともかくとして、これを正当化すべき特段の事情が認められない本件においては、このような経理処理をした手続は、会社の総務部長であり経理事務の責任者であるという被告の立場においては、被告の会社に対する義務に違反した行為であるといわざるを得ない。

しかし、原告の請求は、要するに、会社が経費として支出する義務のない被告の立替金を被告が費用として計上し、これと被告の会社に対する貸金利息又は仮払金の返還債務とを相殺して減額する経理処理を行ったことによって、会社が支払義務のない費用計上額相当の損害を被ったというものである。そして、仮に、被告の経理処理が会社に対する義務違反であり、また、被告が費用計上した経費立替金について会社が被告に償還する義務がなかったとしても、反対債務が存在しない以上、被告が経理上相殺処理したことによって会社の被告に対する利息又は仮払金の返還請求権が消滅するものではないから、これによって、会社に損害は発生しないと認められる。

したがって、そのほかの点について判断するまでもなく、原告の請求は、その主張自体において失当であって、理由がないことは明らかである。

なお、原告は主張してないが、被告の奥澤産業に対する貸金・仮払金等の債務について、被告が最後に違法な会計処理を行った平成4年8月31日から5年を経過した平成9年8月31日の経過によって消滅時効が完成したと認められるところ、被告が不正な会計処理を行ったことによって会社の被告に対する未収利息請求権の行使が妨げられた結果としてその債権の消滅時効が完成したなどの事情があればそのことをもって損害の発生と構成する余地がないではない。しかし、奥澤産業の代表取締役社長である原告は、消滅時効完成前の平成8年11月27日には中雅俊公認会計士からの報告を受けて被告の不正な会計処理を認識しているから(甲第二号証)、被告の不正な会計処理と消滅時効の完成との間に因果関係があるとはいえず、奥澤産業の被告に対する貸金等の請求権の行使が被告の違法行為によって妨げられたとは認められない。

三  参加人の参加の申出について

参加人の参加申出の経緯は、前記(第二の二)のとおりである。参加人は、当初は、被告の経理処理によって会社の損害が認められない場合を前提として、主位的請求原因として貸金・仮払金の返還を請求し、原告の請求額の範囲で予備的請求原因として原告の請求原因と同一の損害賠償を請求したものであって、請求総額も原告の請求額を超えるものであった。その後、原告の請求額の範囲内の請求について、主位的請求原因を原告の請求原因と同一の損害賠償請求に変更したが、これを超える部分については、依然として貸金の返還を主位的請求原因として主張し、予備的請求原因としては、当初の参加申出の主位的請求原因と同一の貸金・仮払金の返還を請求している。そして、参加人の請求する貸金又は仮払金の返還請求権は、取締役であるかどうかにかかわらず会社との関係で生ずる請求権であって、その請求権を商法267条2項によって株主代表訴訟を提起することができる「取締役の責任」の追及であるということはできないと解するのが相当である。

このような参加申出の経緯及び内容からすると、参加人の参加申出は、代表取締役である原告自らが既に退任した取締役である被告に対して提起した株主代表訴訟に会社がことさらに参加したものであって、参加をすべき実質的な必要性がないばかりでなく、株主代表訴訟において提起した損害賠償請求が認められない場合を考慮して、被告に対して株主代表訴訟では請求することができない性質の貸金等の返還を請求することを主たる目的とするものであると認められるのであって、このような請求を商法268条2項による会社の株主代表訴訟に対する参加として行うことは、同項の規定の趣旨に沿わないものであると認められる。また、前記のとおり、本件株主代表訴訟は、被告の経理処理の会社に対する効力や被告の会社に対する経費等の立替金償還請求権の存否等の点について判断するまでもなく、請求の原因となる主張自体が失当であって、会社に損害が発生しないことが明らかであるから、参加人が本件訴訟に参加することは、訴訟を遅滞させるものであると認められる。

したがって、参加人の参加の申出は、商法268条2項ただし書により、却下することが相当である。

四  結論

よって、原告の請求は理由がないから棄却し、参加人の参加の申出は不適法であるから却下し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小林久起 裁判官 河本晶子 裁判官 松山昇平)

計算書一

<省略>

<省略>

計算書二

<省略>

計算書三

<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例