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東京地方裁判所 平成10年(ワ)13608号 判決 2000年3月30日

原告

佐久間裕美

原告

石川智子

原告

風間恵理子

原告

佐藤美智代(現姓田中美智代)

原告

鈴木淳子

原告

廣瀬花織

原告

川上美智子(現姓小菅美智子)

原告

海沼るみ子

原告

武藤美智子

原告

岡部正人

原告

松橋義和

原告

江口精二

右原告ら一二名訴訟代理人弁護士

宮里邦雄

古川景一

日隅一雄

被告

カンタスエアーウェイズリミテッド

右日本における代表者

ポール・ハロルド・ミラー

右訴訟代理人弁護士

佐藤博史

高橋一郎

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  原告らが被告に対し被告との間の労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

二  被告は、原告らに対し、それぞれ別紙請求債権目録記載の原告氏名欄において原告らの氏名が記載された欄の請求額欄記載の金額の金員及びこれに対する平成一〇年六月二六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  本件は、被告に雇止めをされた原告らが、被告に対し、原告らが被告に対し被告との間の労働契約上の権利を有する地位にあることの確認及び未払賃金としてそれぞれ別紙請求債権目録記載の原告氏名欄において原告らの氏名が記載された欄の請求額欄記載の金額の金員及びこれに対する弁済期の後である平成一〇年六月二六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である。

二  前提となる事実

1  被告は、オーストラリア国シドニー市に本店を置くオーストラリア国会社法に基づいて設立された国際航空運送業等を営む外国株式会社であり、肩書住所地に日本における支店(以下「日本支社」という。)を有している(争いがない。)。

2  被告が客室乗務員として雇用している日本人には、オーストラリア本社で管理されている者(以下「オーストラリアベース客室乗務員」という。なお、原告らは訴状及び準備書面において「オーストラリアベース」を「シドニーベース」と呼んでいる。)と日本支社で管理されている者(以下「日本ベース客室乗務員」という。なお、原告らは訴状及び準備書面において「日本ベース」を「東京ベース」と呼んでいる。)がいる。現在オーストラリアベースの客室乗務員のほとんどは被告との間で期間の定めのない契約を締結しているが、東京ベースの客室乗務員はかつてはすべて被告との間で期間の定めのない雇用契約を締結していた(争いがない。)。

3  原告らは、次に掲げる入社日に次に掲げるベースの客室乗務員として被告に雇用された。

原告氏名 入社日 採用時ベース

佐久間裕美 昭和六二年九月一一日 日本ベース

石川智子 昭和六二年九月二五日 右に同じ。

風間恵理子 昭和六二年九月二五日 右に同じ。

佐藤美智代(現姓田中) 昭和六二年九月二五日 右に同じ。

鈴木淳子(旧姓井口) 昭和六二年九月一一日 右に同じ。

廣瀬花織(旧姓向田) 昭和六二年九月一一日 右に同じ。

川上美智子(現姓小菅) 平成三年九月二三日 日本ベース(以前にオーストラリアベースでの勤務経験がある。)

海沼るみ子 平成三年九月二三日 右に同じ。

武藤美智子 平成三年一一月一八日 右に同じ。

岡部正人 平成三年一一月一八日 右に同じ。

松橋義和 平成四年一月一三日 右に同じ。

江口精二 平成五年四月一九日 右に同じ。

(争いがない。)

4  日本ベースで雇用された客室乗務員のうち以前にオーストラリアベースでの勤務経験がない者の雇用契約をめぐる状況について<略>

5  日本ベースで雇用された客室乗務員のうち以前にオーストラリアベースでの勤務経験がある者の雇用契約をめぐる状況について<略>

6  被告は、平成九年七月一〇日付けで、原告らを含む二三名に対し「契約客室乗務員の新労働条件について」と題する書面を配布した。この書面(原文は英文であるが、日本語訳を次に掲げることとする。)には、次のような記載がある(<証拠略>、弁論の全趣旨)。

「拝啓

本社と日本支社とによって労働条件見直し作業が行われた結果、日本ベースの契約客室乗務員の新しい労働条件が下記の通り決定したので発表する。この新条件で契約JFAに再応募する意志があれば、七月二五日までに是非応募してほしい。再応募に当っては、添付の用紙に署名等をして、日本地区総務人事本部長へ提出することとする。

新規採用日又は契約更新日又は一九九七年七月二八日のいづれか早い日をもって、下記の新条件が適用されるものとする。

1 基本給は二三五、〇〇〇円とする。

2 手当は、時間外勤務手当、該当する乗務手当と通勤手当を支払う。深夜割増手当は基本給に既に含まれている。家族手当と住宅手当その他の手当類は前述の手当を除いて、支払なしとする。

3 一時金(賞与)は、夏と冬に基本給一月分をそれぞれ支払うものとする。

当該賞与の支払条件については、日本ベース一時契約客室乗務員用の就業規則に記載されているとおりとする。

4 契約の更新は、更新時における空席の有無と勤務成績を条件に、合計二回の更新で三年勤続終了までとする。

5 就業規則と会社規則の手引に加えて、添付の「JFA就労条件」が、前述の新労働条件とともに適用されるものとする。」

7 被告は原告らとの間で締結した雇用契約に定めた契約期間が満了したという理由で原告らを雇止めにした(以下「本件雇止め」という。)が、被告が原告江口を雇止めにしたのは平成一〇年四月一八日であり、原告江口を除くその余の原告らを雇止めにしたのは平成九年一一月二〇日である(争いがない。)。

8 原告らの賃金のうち、前月一日から末日までの基本給、超過勤務手当、家族手当及び住宅手当は当月二五日限りに、前月一日から末日までのODTA(海外出張手当)及びADTA(国内出張手当)は当月二〇日前後に、食事手当は各乗務の際に、それぞれ支払われている(争いがない。)。

三  争点<原・被告の主張は略>

1  本件雇止めについて解雇に関する法理が適用されるか。

2  本件雇止めについて解雇に関する法理が類推適用されるか。

3  本件雇止めは解雇に関する法理に照らし無効か。

4  未払賃金の金額について

第三当裁判所の判断

一  争点1(本件雇止めについて解雇に関する法理が適用されるか。)について

1  前記第二の二4(三)及び(四)の各事実、次に掲げる争いのない事実、(証拠・人証略)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

(一) 昭和六二年ころから被告が日本に乗り入れている路線(以下「日本路線」という。)に対する乗客の需要が急増したため、被告には顧客サービスのために日本語を話せる客室乗務員を日本路線に増員配置する必要が生じたが、日本語を話せる客室乗務員をオーストラリアベースに配属されている客室乗務員の中から獲得することは困難であった。被告は、日本ベースに配属されている客室乗務員の増員を検討したが、オーストラリアベースに配属されていた客室乗務員の間では日本路線に対する人気は高かった上、日本ベースの客室乗務員の増員や欠員の補充について被告のオーストラリアベースに配属されていた客室乗務員で組織する労働組合と合意することとされていたため、日本ベースに配属される正社員の客室乗務員を直ちに増員することは右の労働組合との関係で困難であった。そこで、日本ベースに配属される客室乗務員を正社員ではなく、一定の期間を契約期間と定めた契約社員として配置することにした(<人証略>)。

(二) 原告佐久間は被告に雇用されるのが決まるまでノースウェスト航空に機内通訳として勤めていた。原告風間は被告に雇用されるのが決まるまでシンガポール航空に勤めていた。原告石川は被告に雇用されるのが決まるまでキャセイ・パシフィック航空に客室乗務員として勤めていた。原告佐藤は被告に雇用されるのが決まるまでキャセイ・パシフィック航空に勤めていた。原告鈴木は被告に雇用されるのが決まるまで東亜国内航空(現日本エアシステム)に客室乗務員として勤めていた。原告廣瀬は被告に雇用されるのが決まったときには大学生であった(<証拠略>、原告石川、原告風間)。

(三) 原告風間、原告石川、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬は昭和六二年七月二〇日付けのジャパンタイムズに掲載された被告の求人募集広告を見て被告の客室乗務員として応募することにしたが、その求人募集広告には契約社員として客室乗務員を募集していることを示す「Contract」や「Temporary」という文言は一切記載されていなかったので、その求人募集広告を見た原告風間、原告石川、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬は契約社員として客室乗務員を募集しているとは思わずに被告の採用試験に臨んだところ、二次試験である面接の際に、採用する予定の客室乗務員には日本ベースに配属される者とオーストラリアベースに配属される者がいること、日本ベースに配属される者は契約期間を五年とする契約社員であるが、オーストラリアベースに配属される者は正社員であること、被告の客室乗務員として働き続けたいのであればオーストラリアベースに移って正社員として働き続けることができることなどについて説明を受けた。原告佐久間も、二次試験である面接の際に、採用する予定の客室乗務員には日本ベースに配属される者とオーストラリアベースに配属される者がいること、日本ベースに配属される者は契約期間を五年とする契約社員であるが、オーストラリアベースに配属される者は正社員であることなどについて説明を受けた(<証拠略>)。

以上の事実が認められるのに対し、原告佐久間及び原告佐藤は、その陳述書(<証拠略>)において、日本ベースに配属される者が契約期間を五年とする契約社員であると聞かされたので、五年後の契約期間の満了後にも契約が存続するかどうかについて質問をしたところ、「契約期間である五年は経過した時点ではおそらく正社員に昇格するであろう。」と言われたという趣旨の供述をしている。

しかし、被告は前記(一)で認定した経緯で昭和六二年に日本ベースで雇用する客室乗務員は一定期間を契約期間と定めた契約社員として雇用することにしたというのであるから、被告の日本支社の副支社長や部長といった幹部社員が契約社員として採用する客室乗務員をいずれ正社員に昇格させるという話をしたとは考え難いし、仮にそのような発言があったとしても、その発言内容からすれば、そのことから直ちに原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木と被告との間で将来同原告らを正社員とするという合意が成立したということはできない。

ただ、原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木は被告に雇用されるのが決まるまで他の航空会社に客室乗務員などとして勤務していたこと(前記(二))からすれば、被告の日本支社の幹部社員から同原告らに対し五年という契約期間の満了後も契約が存続することを保障する発言が全くなかったとは考え難いもののように考えられないでもない。そして、原告松橋はその陳述書(<証拠略>)において昭和六二年に入社した契約社員が五年の契約期間が満了した後には正社員になれるか、同様の契約が続くと言われたと供述し、原告江口はその陳述書(<証拠略>)及び本人尋問において五年という契約期間が満了したときのことを尋ねると、ベインズ副支社長は「五年継続され、さらに五年間継続される。」と答えたと供述していることからすれば、五年契約の終了後もその更新、継続を約束するかのような発言があったのではないかと考えられないでもないこと、しかし、他方において、原告石川、原告風間、原告鈴木及び原告佐藤は、その陳述書(<証拠略>)において、被告の日本支社の幹部社員に対し五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続するかどうかについて尋ねたことに対する回答は、「いつでもオーストラリアベースに移ることができるし、日本で働き続けたいのであれば、追々話し合っていきましょう。オーストラリア人は話の分からない人種ではありません。」とか、「日本ベースで採用された場合でも、いつでもオーストラリアベースに移転できる。」とか、「長く勤務して下さい。」などというものであったと供述しているが、仮にこれらの供述に係る事実が真実であるとすれば、これらの発言内容に照らし、被告の日本支社の幹部社員が五年契約の終了後もその更新、継続を約束するかのような発言をしたとは考え難いというべきであり、仮にそのような趣旨の発言をしたとしても、そのような趣旨の発言をした被告の日本支社の幹部社員は五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障することを約束したと後に言われないようにするために慎重に言葉を選んでそのような趣旨の発言と受け取られるかのような発言をするにとどめたとも考えられること、原告佐久間はその陳述書(<証拠略>)においてノースウェスト航空の勤務における経験から契約社員といっても無制限に更新が繰り返されるものと考えていたと供述しているが、この供述からすれば、外国の航空会社では契約社員ということはとりもなおさず契約の更新が無制限にされることが当然の前提とされていたものと考えられないでもなく、そうであるとすると、原告風間、原告石川及び原告佐藤はいずれも外国航空会社での勤務の経験があるから、日本ベースに配属される客室乗務員が契約社員であると聞かされても、原告佐久間と同様に契約社員であることにさしたる不安を持たなかった可能性もないではないこと、以上の点を総合すれば、被告の日本支社の幹部から原告佐久間、原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木に対し五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障するかのように受け取ることができる発言があった可能性は否定できないものの、仮にそうであったとしても、被告の日本支社の幹部社員の発言が五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障するかのように受け取ることができる発言であったと考えられるにとどまるものである以上、その発言によって原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木と被告との間で五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障する合意が成立したことを認めることはできない(なお、原告佐久間及び原告廣瀬はその陳述書(<証拠略>)において採用試験における面接の際に契約制について質問したことはないと供述しており、原告廣瀬は被告に雇用されるのが決まったときには大学生であった(前記(二))から、原告佐久間及び原告廣瀬に対し五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障するかのように受け取ることができる発言があったことを認めることはできない。)。

(四) 原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口はオーストラリアベースに配属されていたときは被告の正社員であった。原告川上及び原告海沼はオーストラリアベースに配属されていたときに日本ベースに移った後の身分が契約社員又は正社員のいずれになるかを聞かされておらず、日本支社で説明を受けて初めて自分たちが契約社員とされたことを知った。原告武藤、原告岡部及び原告江口はオーストラリアベースに配属されていたときに日本ベースに移った後の身分が契約社員又は正社員のいずれになるかを被告に確認していた。原告松橋はオーストラリアベースに配属されていたときに日本ベースに移った後の身分が契約社員又は正社員のいずれになるかを聞かされていなかったが、日本ベースに移ったときの身分について格別不安はなかった(<証拠略>、原告武藤、原告江口)。

以上の事実が認められるのに対し、原告川上、原告海沼及び原告武藤は、その陳述書(<証拠略>)において、被告の日本支社の幹部社員から自分たちの日本ベースにおける身分が契約社員であることを知らされた際に「来年には日本ベースに一九八七年に入社した契約社員が正社員になるので、それを待って君たちも正社員になれるでしょう。」と言われたという趣旨の供述をしている。

しかし、被告は前記(一)で認定した経緯で昭和六二年に日本ベースで雇用する客室乗務員は一定期間を契約期間と定めた契約社員として雇用することにしたというのであるから、被告の日本支社の幹部社員がいずれ正社員に昇格させるという話をしたとは考え難いし、仮にそのような発言があったとしても、その発言内容からすれば、その発言内容から直ちに原告川上、原告海沼及び原告武藤と被告との間で近い将来同原告らを正社員とするという合意が成立したということはできない。

また、原告江口はその陳述書(<証拠略>及び本人尋問において五年という契約期間が満了したときのことを尋ねると、ベインズ副支社長は「五年継続され、さらに五年間継続される。」と答えたと供述している。

しかし、原告江口の供述によれば、ベインズ副支社長が発言したのは平成四年一、二月であるというのであり、原告江口が被告との間で日本ベース客室乗務員としての雇用契約を締結したのは平成五年四月のことである(前記第二の二3)であるから、仮にベインズ副支社長が原告江口の供述に係る発言をしたとしても、その発言内容だけでは原告江口と被告との間で契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新するという合意が成立しているということはできない。

また、原告松橋はその陳述書(<証拠略>)において昭和六二年に入社した契約社員が五年の契約期間が満了した後には正社員になれるか、同様の契約が続くと言われたと供述しているが、この供述だけでは原告松橋と被告との間で近い将来同原告らを正社員とするという合意が成立したということはできないし、原告松橋と被告との間で契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新するという合意が成立しているということもできない。

(五) 平成二年末にはコンチネンタル航空が倒産し、平成三年にはパンアメリカン航空、イースタン航空が相次いで倒産した。この倒産の主たる原因は航空燃料の高騰による経営悪化であり、平成三年は航空業界の苦境が一段とはっきりした年であった。被告もその例外ではなく、平成二年七月から平成三年六月までの会計年度において社員の削減等により前年度比で八パーセントを超す経費の削減を行ったのに、創業以来最悪の四億オーストラリアドル(約四二〇億円)の経常損失を計上した。さらに平成三年一月一七日の湾岸戦争の開戦により日本国内に海外渡航を自粛する動きが一気に広がり、被告においても予約のキャンセルなど売上げの減少が見られた。被告は日本ベース客室乗務員の賃金水準がオーストラリアベース客室乗務員と比べて割高となっていたことから、同年二月四日には膨大な赤字と湾岸戦争による影響を踏まえて日本地区において早期退職優遇制度を発表し、同年六月には民営化に備えて(当時被告は国営会社であった。)全社的に三六五〇人の人員整理を発表し、同年一二月までにウィーン、マドリード、ベオグラード、ヘルシンキ、コペンハーゲン、トロントの海外支店を閉鎖した。このように被告も世界的に航空会社の生き残りをかけて人件費の削減を中心とする合理化に取り組み始めた(<証拠・人証略>)。

(六) 昭和六二年に雇用された日本ベースの客室乗務員全員に配布されていた就業規則(<証拠略>)では日本ベースの客室乗務員の定年は四〇歳と定められていたが、昭和六二年以前に日本ベースの客室乗務員として雇用された者の労働条件の問題として昭和六二年以前から四〇歳定年制の撤廃という問題が存在していた。また、訴外組合には平成四年初めころから契約社員の正社員化を求める動きがあった。林部長は同年四月三日春闘に関して開催された団体交渉の席上で被告が契約社員との間で締結した雇用契約である五年契約と呼ばれる契約(以下「五年契約」ということがある。)については継続ということで対策を考えており、また、四〇歳定年についても考慮すると発言し、同月九日に開催された団体交渉の席上で今春闘中に継続という正式な回答を出すと発言した。被告は、同年五月二八日に開催された団体交渉において、JFA諸条件について、<1>定年を六〇歳に延長する、<2>五年契約について、同年九月の契約満了時に一年ごと、五年を最高とする条件で契約を更新する、<3>オーストラリアベースから日本ベースに移った者についても、一年ごと、五年を最高とする条件で契約を更新する、<4>契約の更新は、定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「Depending on Satisfactory Service(勤務成績が良好でないこと)(ママ)及び「Depending on Medical Satisfaction(医学的な支障があること)」という二つの要件にあてはまらない限り、更新されるという案などを提示した。訴外組合は契約社員の正社員化を求めたが、被告はその求めには応じられないと答えた。訴外組合はこの被告の提示に係る案を訴外組合執行委員長の発行に係る「なかま第一八-九号」に掲載して組合員に報告するとともに、この程度で団体交渉を終わらせようという考えを組合員に示した。被告と訴外組合は同年六月一〇日労働協約を締結したが、この労働協約において日本ベース客室乗務員の定年について定めた就業規則を満六〇歳に達した月の末日とすることに改められたが、この労働協約には五年契約の更新に関する定めを就業規則に盛り込むことを定めた条項は見当たらない(争いのない事実、<証拠略>、原告石川、原告風間、弁論の全趣旨)。

以上の事実が認められるのに対し、原告らは、「Depending on Satisfac-tory Service」の字義について「会社の利益を妨げるようなことをすること」と主張するが、証拠(<証拠略>)によれば、訴外組合執行委員長の発行に係る「なかま第一八一(ママ)九号」には平成四年五月二八日の団体交渉において被告が提示した案を紹介する箇所において「以上の項目は、定期健康診断、並びに勤務状態の結果によるものとする。」という記述があることが認められ、この記述のうち「勤務状態の結果」とは「Depending on Satisfactory Service」を指しているものと考えられ、そうすると、「勤務成績が良好でないこと」が「Depending on Satis-factory Service」の字義として明らかに誤っているということはできない。

(七) 被告は、平成四年五月二八日開催された団体交渉において、約一か月後に新しい契約書と退職金について最終的な回答をすると約束していたにもかかわらず、同年七月二七日に至っても、新しい契約書を提示しなかったので、訴外組合が同月二七日付けの抗議書を被告に提出したところ、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬に対し同月三一日付けの書面(前記第二の二4(三))を送付してきた。ところが、訴外組合は、この書面によって、五年契約の客室乗務員の労働条件に関して従前は正社員と全く同一であったのに、平成四年の契約書の書換え以降は五年契約の客室乗務員の定期昇給を行わず、正社員と同率のベースアップのみを実施するという方針を明らかにし、労働条件に格差が生じることが判明したとして、平成四年九月に書換えを予定していた契約書の内容を問題とし始め、また、五年契約という方式そのものが労働基準法に違反するのではないかという疑問が生じたため、被告との間で団体交渉を開催することになった。このため被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬に送付した同年七月三一日付けの書面により契約書を取り交わすことができない状況となった。被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬に対し同年一〇月一六日付けの書面を送付したが、この書面(原文は英文)には「既にご承知のとおり、あなたの雇用契約の改定について会社は団交中である。したがって、すべての現行の契約の有効期間を一九九二年一〇月三一日まで延長する。団交終了次第、新しい契約を発効させる。」と書かれていた。訴外組合は平成四年九月二八日被告に五年契約は労働基準法に違反するという内容の意見書を提出した(前記第二の二4(三)、争いのない事実、<証拠略>、原告石川、原告風間)。

(八) 被告は、平成四年一〇月一二日に開催された団体交渉において、五年契約によって労働者を五年間拘束するものではなく、いつでも退職できるので、労働基準法には違反しないという見解を明らかにし、被告と訴外組合は、同月二九日に開催された団体交渉において、被告が既に原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬に送付した書面と同一の内容の契約書を取り交わすことにし、その提出期限を同年一一月二〇日までとすることを合意した。ところが、原告廣瀬と藤田礼子は同年一一月六日付けの書面により被告に対し、同年七月三一日付けの書面中の「Your appoint-ment is for one year after which de-pendant on satisfactory servicey(ママ)early renewals will be offered to a total of five years.」の「will be offered」を「will be guaranteed」と変更するよう申し入れ、被告はこの申入れを受け入れて契約書の内容を変更した。また、原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤及び原告廣瀬は同月四日付けで被告のシドニー本社の社長あてに自分たちが被告の東京支店の正社員であると信じており、正社員として扱われて仕事を継続したいと望んでいるという内容の文書を送付し、契約書の提出期限である同月二〇日までに回答するよう求めたが、回答は来なかった。原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬は同月二〇日までに同月月(ママ)一一日付けの契約書に添付された同意書に署名した上、これを被告に提出した(前記第二の二4(四)、争いのない事実、<証拠略>、原告石川、原告風間)。

2  1の事実を前提に、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約の内容について判断する。

(一) 原告佐久間、原告鈴木及び原告廣瀬が被告に雇用されるに当たって受け取った書面には「あなたを一九八七年九月二一日付けで健康診断の結果が良好であることを条件に日本ベース客室乗務員に任命する。この任命は契約がベースとなり、その効力は一九九二年九月二一日をもって消滅する。」という記載がある(前記第二の二4(一))が、この記載によれば、被告が原告佐久間、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約は契約期間が満了すればそのまま失効し、同一の契約期間をもって更新されることは予定されていないと考えられること、原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬が昭和六二年九月に被告に雇用された際に被告との間で取り交わした契約書には「期間は不定であるが、シドニーでの教育訓練終了日から数えて五年を超さない期間とする。」という記載があるのみで、この契約書中には右の契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新することを明言した記載はなく、ただこの契約書中には「いつでも雇用を終了できるが、少なくとも一か月前の予告を必要とする。また、あなたの契約終了又は契約失効前ならいつでも、また、右契約終了又は契約失効後であっても一か月以内であれば、当社のオーストラリアでの雇用条件下でオーストラリアベースの客室乗務員に応募するのを目的にこの契約を終了することも選択できるものとする。この場合、日本地区副総支配人に申し出なければならない」という記載はある(前記第二の二4(二))ものの、これだけでは右の契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新することを明らかにした記載であるとはいえないこと、仮に、二次試験である面接の際に被告が契約社員として客室乗務員を募集していることを知った原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木に対し、被告の日本支社の幹部社員から、五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障するかのように受け取ることができる発言があったとしても、その発言によって原告佐久間、原告風間、原告石川、原告佐藤及び原告鈴木と被告との間で五年という契約期間の満了後も被告との間の雇用契約が存続することを保障する合意が成立したということはできないのであり、ましてや被告の日本支社の副支社長や部長といった幹部社員がいずれ正社員に昇格させるという話をしたとは考え難いのであって(前記第三の一1(三))、そうすると、契約書の記載にかかわらず、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で昭和六二年九月に雇用したときに取り交わした契約書に定めた契約期間が満了した場合に、従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新するという合意が成立しているということはできないこと、以上の点を総合すれば、被告が昭和六二年に原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約は契約期間をシドニーでの教育訓練終了日から数えて五年を超さない期間とした有期契約であり、契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新することが予定されていたということはできない。

そうすると、原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬が昭和六二年九月に被告に雇用されたときに被告と取り交わした契約書によれば、契約期間はシドニーでの教育訓練終了日から数えて五年を超さない期間とされていた(前記第二の二4(二))というのであるから、原告佐久間、原告鈴木及び原告廣瀬については遅くとも平成四年一〇月二九日には契約期間が満了して雇用契約が失効し、原告石川、原告風間及び原告佐藤については遅くとも同年一一月一二日には契約期間が満了して雇用契約が失効するという状況にあったということができる。

(二) 訴外組合には昭和六二年初めころから契約社員の正社員化を求める動きがあった(前記第三の一1(六))というが、証拠(<証拠略>、原告石川、原告風間)によれば、昭和六二年に被告に雇用された契約社員は勤務可能な年数の相違という点を除けば労働条件及び職務内容の面では正社員と全く同一であったと認識していたことが認められ、この事実によれば、原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬は、契約社員と正社員との相違は、契約期間内しか被告で働けないか、定年まで被告で働けるかという点にあるものと理解していたものと認められ、そうすると、以上の点に前記(一)を加えて総合考慮すれば、契約社員の正社員化を求める動きというのは、要するに、被告における勤務可能な年数という観点から契約社員について定められた契約期間の拘束を撤廃することを求めることを意味するものにほかならず、前記(一)のような雇用契約が失効するという状況を打開するために勤続可能な年数の延長を正社員化という方法によって実現しようとする措置であるというべきであるが、契約社員の雇用契約が前記(一)のように失効するという状況を打開するために勤続可能な年数を延長しようとする方法としては、正社員化のほかに契約社員という身分はそのままにした上で雇用契約を更新するという方法が考えられる。

この観点から、平成四年において被告と訴外組合との間で開催された団体交渉等の経過を見てみるに、訴外組合には平成四年初めころから契約社員の正社員化を求める動きがあったこと、林部長は同年四月三日春闘に関して開催された団体交渉の席上で被告が契約社員との間で締結した五年契約については継続ということで対策を考えており、また、四〇歳定年についても考慮すると発言し、同月九日に開催された団体交渉の席上で今春闘中に継続という正式な回答を出すと発言したこと、被告は、同年五月二八日に開催された団体交渉において、JFA諸条件について、<1>定年を六〇歳に延長する、<2>五年契約について、同年九月の契約満了時に一年ごと、五年を最高とする条件で契約を更新する、<3>オーストラリアベースから日本ベースに移った者についても、一年ごと、五年を最高とする条件で契約を更新する、<4>契約の更新は、定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「勤務成績が良好でないこと」及び「医学的な支障があること」という二つの要件にあてはまらない限り、更新されるという案などを提示したのに対し、訴外組合は契約社員の正社員化を求めたが、被告はその求めには応じられないと答えたこと、訴外組合はこの被告の提示に係る案を訴外組合執行委員長の発行に係る「なかま第一八-九号」に掲載して組合員に報告するとともに、この程度で団体交渉を終わらせようという考えを組合員に示したこと(以上、前記第三の一1(六))、被告は平成四年五月二八日開催された団体交渉において約一か月後に新しい契約書と退職金について最終的な回答をすると約束していたにもかかわらず、同年七月二七日に至っても、新しい契約書を提示しなかったので、訴外組合が同月二七日付けの抗議書を被告に提出したこと(前記第三の一1(七))、以上の経過に照らせば、訴外組合は契約社員の雇用契約が前記(一)のように失効するという状況を打開するために勤続可能な年数の延長を正社員という方法によって実現しようとしたが、被告が正社員化ではなく契約の更新という方法で契約社員の雇用契約をさらに五年間延長することには応じるという意向を示したことから、正社員化の問題は継続協議事項としてとりあえず契約社員の雇用契約の延長に応じることにしたものというべきである。

そして、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬に送付した同年七月三一日付けの書面には「一九九二年九月二五日付けであなたを日本ベース客室乗務員に再任する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年更新する。」という記載があるのみで、この契約書中には右の契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新することを明言した記載はないのであり(前記第二の二4(三))、また、原告らはrenewalの字義等を根拠に「一九九二年九月二五日付けであなたを日本ベース客室乗務員に再任する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年更新する。」という記載にはその契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもってさらに雇用契約を更新するという趣旨が含まれていると主張するが、被告が同年七月三一日付けの書面を送付するまでの前掲の経過に照らせば、renewalの字義等を根拠にそのように解することはできないこと、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で取り交わした平成四年一一月一一日付けの契約書には「一九九二年一一月二一日付けであなたを日本ベース客室乗務員に任命する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年の更新を保障する。」という記載があるのみで、この契約書中には右の契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新することを明言した記載はないのであり(前記第二の二4(四))、また、「一九九二年一一月二一日付けであなたを日本ベース客室乗務員に任命する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年の更新を保障する。」という記載にはその契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもってさらに雇用契約を更新するという趣旨が含まれていると解することはできないこと、被告は平成三年以降世界的に航空会社の生き残りをかけて人件費の削減を中心とする合理化に取り組み始めたのであり(前記第三の一1(五))、そのような状況の下で契約社員の雇用契約の更新を無制限に行うことにしたとはおよそ考え難いこと、以上の点に平成五年から平成八年にかけて毎年更新された契約書の内容(前記第二の二4)を加えて総合考慮すれば、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で平成四年には定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「勤務成績が良好でないこと」及び「医学的な支障があること」という二つの要件にあてはまらない限り同原告らの雇用契約を契約期間一年として更新するが、平成五年以降は「会社の利益を妨げるようなことをすること」という要件にあてはまらない限り平成八年まで毎年更新を繰り返すことを合意したものと認められるが、その合意において平成九年以降の更新が当然に予定されていたことまで認めることはできない。

(三) これに対し、原告らは、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約は、一年後ごとに「会社の利益を妨げる行為をする」ことという解除条件に該当する事実の有無が審査され、右の解除条件に該当する事実が存在する場合にはその審査の時点において雇用契約は解除条件の成就のために終了するが、右の解除条件に該当する事実が存在しない限り雇用契約は存続することを内容としていると主張するが、その主張の前提を成す平成四年における被告と訴外組合との間の団体交渉の経過等は、前記認定のとおりであり、原告らの主張は、その前提に誤りがあるというべきであるから、その余の点について判断するまでもなく、採用することはできない。

(四) 以上によれば、被告は昭和六二年九月に原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間でシドニーでの教育訓練終了日から数えて五年を超さない期間を契約期間として同原告らをそれぞれ日本ベース客室乗務員として雇用する契約を締結したが、この契約は平成四年一〇、一一月には契約期間の満了により失効するはずであったところ、被告が同年四月ころから訴外組合との交渉を重ねた結果、被告と原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した前記雇用契約を更新することになり、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で平成四年には定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「会社の利益を妨げるようなことをすること」及び「医学的な支障があること」という二つの要件にあてはまらない限り同原告らの雇用契約を契約期間一年として更新するが、平成五年以降は「会社の利益を妨げるようなことをすること」という要件にあてはまらない限り平成八年まで毎年更新を繰り返すことを合意したのであるが、その合意において平成九年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのであり、そうすると、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約は期間の定めのある契約であるというべきである。

原告らは契約継続を前提とする諸事情を主張している(前記第二の三1(一)(2))が、原告らの主張に係るこれらの諸事情をもって、被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した雇用契約が期間の定めのある契約であるという前記判断を左右することができないことは明らかである。

3  前記1の事実を前提に、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で締結した雇用契約の内容について判断する。

(一) 原告川上及び原告岡部が受け取ったメモランダムには「あなたが当社より辞職し、引き続き日本ベース乗務員として再就職する件に関して、一九九一年七月二三日に私のオフィスで交わされた会話に補足として以下の事項を再雇用の条件として提示します。(中略)あなたはオーストラリアでの客室乗務員としての地位を辞職するが、オーストラリアを離れる前に必要な手続をすべて終えておくこと。東京で日本ベース乗務員として再雇用されるに当たってあなたの資格権利及び恩恵はあなたの新しい入社日から発生する。現在与えられているサービスのうち再雇用後も更新するのは、社員旅行割引制度と永年勤続社員表彰のみである。その余は退職時における通常の手続を経て精算される。」という記載がある(前記第二の二5(二)(1))が、この記載によれば、原告川上及び原告岡部はオーストラリアベースから日本ベースに移るに当たっていったん被告を退職し、改めて日本ベース客室乗務員として被告に雇用されるものとされていたこと、原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部及び原告松橋はオーストラリアベースに配属されていたときは正社員であった(前記第三の一1(四))が、原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部及び原告松橋がオーストラリアベースから日本ベースに移ったときに被告と取り交わした契約書には「○○○○年○○月○○日付けであなたを日本ベース客室乗務員に任命する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年更新する。ただし、その間に四〇歳に達した場合には、四〇歳をもって更新なしとする。」という記載があり(前記第二の二5(二)(2))、この記載によれば、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部及び原告松橋との間で締結した雇用契約は契約期間が満了するか、契約期間満了前に四〇歳に達すればそのまま失効し、同一の契約期間をもって更新されることは予定されていないと考えられること、原告江口がオーストラリアベースから日本ベースに移ったときに被告と取り交わした契約書には「一九九三年四月一九日付けであなたを日本ベース客室乗務員に任命する。契約期間は一年間であるが、勤務成績が良好である限り、五年間にわたって毎年の更新を保障する。」という記載があり(前記第二の二5(三)(1))、この記載によれば、被告が原告江口との間で締結した雇用契約は契約期間が満了すればそのまま失効し、同一の契約期間をもって更新されることは予定されていないと考えられること、原告川上、原告海沼及び原告武藤と被告との間で近い将来同原告らを正社員とするという合意が成立したということはできないし、原告江口と被告との間で契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新するという合意が成立しているということはできないし、原告松橋と被告との間で近い将来同原告らを正社員とするという合意が成立したということはできないし、原告松橋と被告との間で契約期間が満了した場合に従前と同一の契約期間をもって雇用契約を更新するという合意が成立しているということはできないこと(前記第三の一1(四))、以上の点を総合すれば、原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口はオーストラリアベースから日本ベースに移るに当たっていったん被告を退職し、改めて日ベース客室乗務員として被告に契約社員として雇用されたものと認められる。

そうすると、原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口がオーストラリアベースに配属されていたときに被告との間で締結していた雇用契約は、同原告らが日本ベースに移った際には終了していたというべきである。

(二) 被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で平成四年一一月一一日付けの契約書を取り交わしているが、この契約書を取り交わすことによって被告と原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間に成立した雇用契約とは、要するに、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で平成四年には定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「勤務成績が良好でないこと」及び「医学的な支障があること」という二つの要件にあてはまらない限り同原告らの雇用契約を契約期間一年として更新するが、平成五年以降は「会社の利益を妨げるようなことをすること」という要件にあてはまらない限り平成八年まで毎年更新を繰り返し、平成九年以降は更新を予定していないことを合意したという内容の雇用契約であるというべきであること、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部及び原告松橋との間で平成四年一一月一一日付けの契約書を取り交わしているが、この契約書の内容は被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で取り交わした契約書の内容と同じであること(前記第二の二5(二)(3))、被告が原告江口との間で平成五年三月一一日付けの契約書を取り交わしているが、この契約書の内容は被告が原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で取り交わした契約書の内容と同じであること(前記第二の二5(三)(1))、以上によれば、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で契約書を取り交わすことによって被告と原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間に成立した雇用契約とは、要するに、被告は原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で平成四年一一月又は平成五年三月に契約期間を一年として雇用契約を締結するが、平成五年又は平成六年以降は「勤務成績が良好でないことをすること」という要件にあてはまらない限り平成八年又は平成九年まで毎年更新を繰り返すことを合意したものと認められるが、その合意において平成九年又は平成一〇年以降の更新が当然に予定されていたことまで認めることはできない。

(三) そうすると、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で締結した雇用契約は期間の定めのある契約であるというべきである。

原告らは契約継続を前提とする諸事情を主張している(前記第二の三1(一)(2))が、原告らの主張に係るこれらの諸事情をもって、被告が原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で締結した雇用契約が期間の定めのある契約であるという前記判断を左右することができないことは明らかである。

4  小括

以上によれば、被告が原告らとの間で締結した雇用契約は期間の定めのある契約であるというべきであるから、その雇用契約の終了に当たって当然に解雇に関する法理が適用されるということはできない。

二  争点2(本件雇止めについて解雇に関する法理が類推適用されるか。)について

1  期間の定めのある雇用契約において被用者が契約期間の満了後も雇用関係の継続を期待することにある程度の合理性が認められる場合には、そのような契約当事者間における信義則を媒介として、契約期間の満了後の新契約の締結拒否(雇止め)について解雇に関する法理を類推すべきであると解される(最高裁昭和四九年七月二二日第一小法廷判決(民集二八巻五号九二七頁)及び最高裁昭和六一年一二月四日第一小法廷判決(判例時報一二二一号一三四頁)は、右の観点から雇止めについて解雇の法理を類推適用したものと解される。)。

2  本件において、被告は、

(一) 昭和六二年九月に原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間でシドニーでの教育訓練終了日から数えて五年を超さない期間を契約期間として同原告らをそれぞれ日本ベース客室乗務員として雇用する契約を締結したが、この契約は平成四年一〇月又は同年一一月には契約期間の満了により失効するはずであったところ、被告が同年四月ころから訴外組合との交渉を重ねた結果、被告と原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で締結した前記雇用契約を更新することになり、被告は原告佐久間、原告石川、原告風間、原告佐藤、原告鈴木及び原告廣瀬との間で平成四年には定期健康診断及び勤務状態の結果に照らし「勤務成績が良好でないこと」及び「医学的な支障があること」という二つの要件にあてはまらない限り同原告らの雇用契約を契約期間一年として更新するが、平成五年以降は「会社の利益を妨げるようなことをすること」という要件にあてはまらない限り平成八年まで毎年更新を繰り返すことを合意したのであるが、その合意において平成九年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのであり、

(二) 原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で契約書を取り交わすことによって被告と原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間に成立した雇用契約とは、要するに、被告は原告川上、原告海沼、原告武藤、原告岡部、原告松橋及び原告江口との間で平成四年一一月又は平成五年三月に契約期間を一年として雇用契約を締結するが、平成五年又は平成六年以降は「勤務成績が良好でないこと」という要件にあてはまらない限り平成八年又は平成九年まで毎年更新を繰り返すことを合意したのであるが、その合意において平成九年又は平成一〇年以降の更新が当然に予定されていたということはできないのである

が、右のような雇用契約の内容に照らせば、仮に原告らの主張に係る契約継続を前提とする諸事情(前記第二の三1(一)(2))をすべて勘案したとしても、原告らが被告との間で締結した雇用契約の契約期間の満了日である平成九年一一月二〇日又は平成一〇年四月一八日が経過した(前記第二の二7)後も被告との間の雇用関係の継続を期待することに合理性があるということはできない。

したがって、本件雇止めに当たって解雇の法理を類推適用することはできない。

三  結論

以上によれば、被告が原告江口との間で締結した雇用契約は契約期間の満了日と定められた平成一〇年四月一八日の経過をもって終了したというべきであり、被告が原告江口を除くその余の原告らとの間で締結した雇用契約は契約期間の満了日と定められた平成九年一一月二〇日の経過をもって終了したというべきであり、そうすると、原告江口は平成一〇年四月一九日以降被告の社員たる身分を喪失しており、原告江口を除くその余の原告らは平成九年一一月二一日以降被告の社員たる身分を喪失しているということになるところ、原告らの請求は原告らが右各日以降も被告の社員たる身分を有することを前提としているから、その余の点について判断するまでもなく、原告らの請求はいずれも理由がない。

(裁判官 鈴木正紀)

請求債権目録

一 原告氏名 月額賃金 請求額

佐久間裕美 五一万三七八四円 三二五万三九六五円

石川智子 五一万五九二三円 三二六万七五一二円

風間恵理子 五〇万〇六七一円 三一七万〇九一六円

佐藤美智代(現姓田中) 五〇万六四九三円 三二〇万七七八九円

鈴木淳子(旧姓井口) 四七万五六二一円 三〇一万二二六六円

廣瀬花織(旧姓向田) 四九万六三七一円 三一四万三六八三円

(月額賃金は別紙賃金計算書により計算した過去三か月の平均賃金である(なお、別紙賃金計算書において原告廣瀬の支給対象月がその余の原告ら(ただし、原告江口を除く。)と異なるのは、原告廣瀬が平成七年一二月四日から平成八年二月六日まで出産休暇を取得し、同年五月三日以降出産休暇及び育児休暇を取得していたことによる。)。請求期間は平成九年一一月二一日から平成一〇年五月末日まで。平成九年一一月分の端数一〇日分については三〇分の一〇で計算した。)

二 原告氏名 月額賃金 請求額

川上美智子(現姓小菅) 四九万八九五三円 三一六万〇〇三五円

海沼るみ子 四五万二一四五円 二八六万三五八五円

武藤美智子 四七万五〇七〇円 三〇〇万八七七六円

岡部正人 五〇万二六一七円 三一八万三二四一円

松橋義和 四七万八一一一円 三〇二万八〇三六円

(月額賃金は別紙賃金計算書により計算した過去三か月の平均賃金である。請求期間は平成九年一一月二一日から平成一〇年五月末日まで。平成九年一一月分の端数一〇日分については三〇分の一〇で計算した。)

三 原告氏名 月額賃金 請求額

江口精二 四九万〇四五七円 六八万六六三九円

(月額賃金は別紙賃金計算書により計算した過去三か月の平均賃金である。請求期間は平成一〇年四月一九日から同年五月末日まで。同年四月分の端数一二日分については三〇分の一二で計算した。)

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