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東京地方裁判所 平成10年(ワ)16017号 判決 2000年1月28日

原告

ヤーマン株式会社

右代表者代表取締役

【A】

右訴訟代理人弁護士

山田勝利

小川憲久

被告

株式会社エヌ・エス商事

右代表者代表取締役

【B】

右訴訟代理人弁護士

遠藤安夫

右補佐人弁理士

【C】

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告は、別紙物件目録記載の光脱毛装置を使用してはならない。

二  被告は、その所有又は占有する別紙物件目録記載の光脱毛装置を廃棄せよ。

三  被告は、原告に対し、金三億円及びこれに対する平成一〇年七月三〇日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  争いのない事実

1  原告は、次の特許権(以下「本件特許権」といい、その特許請求の範囲請求項1記載の発明を「本件発明」という。)を有している。

登録番号 特許第一九二六四〇〇号

発明の名称 光脱毛装置

出願日 平成元年五月一九日

公告日 平成六年五月一八日

登録日 平成七年四月二五日

特許請求の範囲請求項1

「それぞれ赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する二種の発光光源と、両発光光源から発する光の照射強度及び照射時間を設定するための制御回路を装備する本体と、光を皮膚に照射するための付属照射プローブと、前記本体と付属照射プローブ間を連結するための可撓性連結部と、更に前記本体に上記二種の光を別々に切り換えて照射する機能部も保有していることを特徴とする光脱毛装置」

2  本件発明の構成要件は、次のとおりに分説できる(以下「構成要件A」などという。)。

A それぞれ赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する二種の発光光源を有すること、

B 前記発光光源から発する光の照射強度及び照射時間を設定するための制御回路を装備する本体を有すること、

C 光を皮膚に照射するための付属照射プローブを有すること、

D 前記本体と前記付属照射プローブ間を連結するための可撓性連結部を有すること、

E 前記本体に前記二種の光を別々に切り換えて照射する機能部を保有すること、を特徴とする光脱毛装置。

3  被告は、その経営に係るエステティックサロン(店名エルセーヌ)において、別紙物件目録記載の光脱毛装置(以下「イ号物件」という。)を使用して業務を行っている。

4  イ号物件は、光脱毛光源本体と付属品からなる光脱毛用光源装置であり、次の構成を有する。

a 別紙物件目録添付の分光エネルギー分布に示される「分光温度三〇〇〇K」の分光エネルギーに近似する分布を示す発光光源であるハロゲンランプと、同目録添付の放射スペクトル分布(溶融石英タイプ)に示される「キセノンランプ(一五〇W)」の放射スペクトル分布に近似する分布を示す発光光源であるキセノンランプと、キセノンランプ前方には可視光領域外である紫外光をカットするフィルターを有し、

b 右a記載の発光光源から発する光の照射強度及び照射時間を設定するための制御回路を装置本体に有し、

c 右a記載のハロゲンランプは、ハロゲンランプ照射器により光を皮膚に照射すると共に、キセノンランプは装置本体内に装置されて、照射プローブを介して光を照射し、

d 右c記載のハロゲンランプ及び照射プローブと装置本体とを連結する電気導線及び光導体ケーブルの可撓性連結部を有し、

e 右a記載の各光源につき、各々点灯・消灯が可能な電源スイッチ及びスタートボタンを有することによって、右各光源の光を別々に切り換えて照射する機能を有する光脱毛用光源装置。

二  本件は、本件特許権を有する原告が、被告によるイ号物件の使用は本件特許権を侵害すると主張して、被告に対し、イ号物件の使用の差止め及びその廃棄を求めるとともに、不法行為による損害賠償を求める事案である。

第三争点及びこれに関する当事者の主張

一  イ号物件は、構成要件Aを充足するかどうか。

1  原告の主張

(一) 本件発明は、「皮膚表面の脱毛したい領域に可視光を照射して、光熱反応により毛根近傍の生体組織を真皮領域内に限定して乾固させ」る光脱毛装置であり、可視光は必須であるが、本件発明の発光光源が可視光領域外の光を発光することを除外する理由はない。そして、本件発明が「それぞれ赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する二種の発光光源を有すること」としているのは、「可視光を照射して、光熱反応により毛根近傍の生体組織を真皮領域内に限定して乾固させ」るためであり、「所定の強度で赤色光と青色光の照射はそれぞれ皮膚の真皮の深い領域及び浅い領域にある毛の組織因子を乾固させる」作用を有するからである。

したがって、本件発明の「それぞれ赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する」とは、可視光領域において赤色光及び青色光に対応する部分に主強度を有することを意味するのであり、本件発明は、その発光光源が可視光領域外に強度を有するものであるか否かは問題としていない。すなわち、ある光源の主たる強度を有する波長が可視光領域外の紫外光又は赤外光であったとしても、当該光源の可視光領域における主強度が赤色又は青色に対応する部分であれば、本件発明の「赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する」に当たるのである。

(二) イ号物件のハロゲンランプは、そのエネルギー分布が別紙物件目録添付の分光エネルギー分布の分布温度三〇〇〇Kの曲線にほぼ合致し、これによると、右ハロゲンランプの光は、可視光領域から赤外光領域にかけて最大の強度を有するものの、可視光領域においては、赤色光に対応する七〇〇ナノメートル付近の強度が最大であるから、右ハロゲンランプは、本件発明の「赤色に対応する可視光領域に主強度を有する発光光源」に該当する。

また、イ号物件のキセノンランプは、その放射強度が別紙物件目録添付の放射スペクトル分布(溶融石英タイプ)のキセノンランプ(一五〇W)の曲線にほぼ合致し、これによると、右キセノンランプの光は、八〇〇ナノメートルより大きい赤外光領域で最大の強度を有するものの、可視光領域においては、青色光に対応する四七〇ナノメートル付近の強度が最大であるから、右キセノンランプは、本件発明の「青色に対応する可視光領域に主強度を有する発光光源」に該当する。

(三) したがって、イ号物件のハロゲンランプ及びキセノンランプは、それぞれ赤色及び青色に対応 する可視光領域に主強度を有する二種の発光光源であるから、イ号物件は、構成要件Aを充足する。

2  被告の主張

(一) 本件発明の「それぞれ赤色及び青色に対応する可視光領域に主強度を有する二種の発光光源」とは、各発光光源において一番強い照度を示す部分が赤色又は青色に対応する可視光領域にあることを意味する。

(二) イ号物件のハロゲンランプの分光放射照度の主強度は、三〇・〇六六九で、これに対応する波長は可視光領域外の赤外光領域の九九五ナノメートルである。

また、別紙物件目録添付の分光エネルギー分布の分布温度三〇〇〇Kの曲線によっても、イ号物件のハロゲンランプの主強度を示す縦線の一〇〇の数値に対応する横線の波長の数値は、可視光領域外の赤外光領域にある。

したがって、いずれにしてもイ号物件のハロゲンランプは、その主強度が可視光領域外の赤外光領域にあるから、本件発明の「赤色に対応する可視光領域に主強度を有する発光光源」には当たらない。

(三) イ号物件のキセノンランプの分光放射照度の主強度は、二七・三四七で、これに対応する波長は可視光領域外の赤外光領域の八八二ナノメートルであり、可視光領域においては、赤色光領域の波長七六五ナノメートルの出射強度が三・六八九であるのに対し、青色の波長帯である四五五ナノメートルから四八五ナノメートル間の出射強度は、一・六七八から一・八三三である。

また、別紙物件目録添付の放射スペクトル分布(溶融石英タイプ)のキセノンランプ(一五〇W)の曲線によっても、イ号物件のキセノンランプの主強度を示す縦線の一〇〇の数値に対応する横線の波長の数値は、可視光領域外の赤外光領域の九〇〇ナノメートル付近にある。

したがって、いずれにしてもイ号物件のキセノンランプは、その主強度が可視光領域外の赤外光領域にあり、また、可視光領域においても、その主強度は赤色光領域にあるから、本件発明の「青色に対応する可視光領域に主強度を有する発光光源」には当たらない。

(四) 以上のとおりであるから、イ号物件は構成要件Aを充足しない。

二  イ号物件のハンゲンランプ照射器は、本件発明の「付属照射プローブ」(構成要件C)に当たるかどうか。

1  原告の主張

(一) 本件発明の「付属照射プローブ」とは、「光を皮膚に照射するための」器具を意味する用語であり、それ以上に、光を集束させ又は拡散させるためのものであるとの限定はない。

イ号物件のハロゲンランプ照射器は、光を皮膚に照射するための器具であるから、本件発明の「付属照射プローブ」に当たる。

(二) 仮に、本件発明の「付属照射プローブ」が光を集束する形態のものに限定され、イ号物件のハロゲン照射器が光を拡散させるものであったとしても、イ号物件のハロゲン照射器は、本件特許権の特許請求の範囲請求項5の「赤色光の付属照射プローブの先端には、照射強度を低減させて照射範囲を拡大させる光拡散用キャップが装着可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置」と均等なものとしてその技術的範囲に属する。

2  被告の主張

本件発明の「付属照射プローブ」は、発光光源よりの光を凸レンズによる集束光学系により集光する部材である。

イ号物件のハロゲンランプ照射器は、ハロゲンランプの光を拡散板により拡散するものであり、集束光学系である凸レンズを使用していないから、本件発明の「付属照射プローブ」には当たらない。

三  原告の損害

1  原告の主張

被告は、直営店一〇六店舗において脱毛業務を行っているところ、各店舗には少なくとも二台のイ号物件を保有しており、既に三年以上イ号物件を使用して脱毛業務を行っている。

被告は、平成七年以降、年間一四〇億円以上の売上を得ており、そのうち脱毛業務の売上は年間七〇億円であるところ、本件特許権の使用料は右売上の二パーセントが相当である。

したがって、原告は、被告がイ号物件を使用して右脱毛業務を行ったことにより、三年分の使用料に相当する四億二〇〇〇万円の損害を被った。

よって、原告は、被告に対し、右損害賠償の内金として三億円及びこれに対する不法行為の後である平成一〇年七月三〇日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

2  被告の主張

原告が損害を被ったとの主張を争う。

第四当裁判所の判断

一  争点二について

1  証拠(甲三、乙一六)と弁論の全趣旨によると、以下の事実が認められる。

(一) 本件特許権にかかる明細書(以下「本件明細書」という。)には、本件発明の「付属照射プローブ」の用語の意味を特に定義した記載はない。また、本件明細書には、

(1) 「産業上の利用分野」の項に、「この発明は、皮膚表面の脱毛したい領域に可視光を照射して、光熱反応により毛根近傍の生体組織を真皮領域内に限定して乾固させ、永久脱毛を行う光脱毛装置に関する。」(特許公報(甲三、以下「本件公報」という。)3欄9行ないし12行)

(2) 「作用」の項に、「この発明による光脱毛装置では、(1)赤色光・・・と青色光・・・を発生する二つの光源が装備してあり、所定の強度で赤色光と青色光の照射はそれぞれ皮膚の真皮の深い領域及び浅い領域にある毛の組織因子を乾固させる。(2)上記二つの光源から出射した光を独立した二個又は単独の一個の照射プローブに導き、このプローブ先端から皮膚に所望の光量を照射できる。(3)前記プローブの先端に装着できる拡散光学系により赤色光を低照射強度で広範囲な皮膚表面に照射できる。」(本件公報4欄12行ないし23行)

(3) 「実施例」の項に、「この発明にかかわる脱毛方法は、処置の順序に従ってそれぞれ予備処置、毛根組織の乾固、脱毛処置及び後処置に区分できる。」(本件公報4欄32行ないし34行)として、表Ⅰに、「1.プレヒーティング」、「2.赤色光の照射」、「3.青色光の照射」、「4.ワックス脱毛」、「5.スローグロー」、「6.フラッシング」、「7.モイスチャライザ」の各処置段階における処理内容及び作用・効果の記載があり、「2.赤色光の照射」の処理内容では「照射領域 約5㎜φ」と、「3.青色光の照射」の処理内容では「照射領域約10㎜φ」と記載され、さらに、「第一段階では、予備処置として比較的弱い照射光(赤色光)を皮膚表面の広い範囲に当て、毛穴を開かせ、皮脂腺の温度を予め上昇させる・・・第二及び第三段階では、この発明の主要な処置である主として真皮内の生体組織のみ、即ち皮脂腺及び毛嚢内の毛の因子、毛乳頭等を乾固させる。・・・この場合には、光の照射領域を狭め照射光の光量を第一段階の時よりも強める。・・・第四段階は、照射した真皮内毛根組織が乾固している毛を抜く処置に対応するもので、・・・第五段階は、蛋白質分解酵素により毛の因子の蛋白質を分解して、毛の成長、発育を抑制する塗布剤を毛の向き・・・に逆らうように擦り込む。第六段階では、第五段階で塗布した塗布剤の働きを更に活性化するため、第一段階と同じように広い照射領域を有する弱い赤色光を脱毛した個所の皮膚表面に当てる。第七段階では、脱毛によって皮膚に加えた負担を緩和・鎮静化するため、鎮静用の塗布剤を脱毛個所に塗布して一連の脱毛処置を完了する。以上の説明から理解できるように、この発明による脱毛装置は、皮膚に強弱及び青・赤色を主成分とする可視光を照射する第一、第二、第三及び第六処置段階に使用されている。」(本件公報5欄10行ないし44行)

(4) 「発明の効果」の項に、「この発明による光脱毛装置によって、(a)真皮中に毛の因子、皮脂腺、毛嚢内の細胞組織を乾固させ、永久脱毛処置を効果的に行うことができる。(b)更に、精神的及び生体的に負担のかかる脱毛をより安全に、精神的に不安なく行うための予備光照射が行え、毛穴の開放及び皮脂腺の予備昇温が行える。(c)事後照射によって、乾固させた生体組織に対して蛋白質分解酵素の働きをより活性化させ、永久脱毛を一層確実にする。」(本件公報8欄43行ないし9欄1行)との記載がある。

(二) 本件特許の願書には、図面として、本件発明による光脱毛装置の構成及び機能を説明するための第1A図ないし第5図が添付されており、同図面に示されている照射プローブの構成は、集束光学系を導入して集光するもの(第1A図、第1B図、第2A図、第2B図)及び「光導体ケーブル中の光導体ケーブルの保護外被中にある被繊維の束が直接プローブ先端まで達している。それ故、光の伝送は光ファイバーの全反射によって効率良く開口部に導入される」(本件公報8欄34行ないし38行)というもの(第3A図、第3B図、第4図)である。本件明細書の「実施例」の項では、赤色光、青色光の双方について、照射プローブは、右のいずれかの構成を有する旨説明されている。

(三) 本件公報に参考文献として挙げられている昭六〇・九二七〇一号公開特許公報により公開された特願昭五九・一九八七七一号特許出願の明細書には、発明の名称を「光脱毛方法及び装置」とする、「光源に結合するスイッチを、毛体を死なせるのに十分な光エネルギーを該毛体に与えるのに必要な期間作動させて、プローブ先端部を介して毛根又は該毛根付近に光源からの光エネルギーを導いて前記毛体を死なせ、斯様な処置を多数の各毛体に繰り返し行って、少なくとも一種類のタイプの多数の毛体を脱毛する方法」及び「光エネルギー源と、先端部にて成端するプローブと、前記光エネルギー源とプローブ先端部との間を結合し、これらの間に光エネルギーを導く光ケーブルと、前記光エネルギー源を附勢するスイッチとを具え、少なくとも一種類のタイプの多数の毛体を脱毛する装置」に関する発明が開示されているところ、同明細書には光脱毛装置のプローブの意味を特に定義する記載はないが、同明細書の発明の詳細な説明の記載及び右公開特許公報掲載の図面では、光脱毛装置のプローブは、プローブ先端部を介して一つの毛根又は毛根付近に光を当てることができるような先端の細い部材として示されている。

2  右1の認定を前提として本件発明の「付属照射プローブ」の意味について検討する。

(一) 右1(一)のとおり、本件明細書には本件発明の「付属照射プローブ」の用語を定義する記載はないが、「プローブ」という用語が、「奥まった所、隔たった所に用い、細部を非破壊的、遠隔的に観測する器具、物質、電磁波などを称する。また、その概念をさすこともある。外科医学では、身体のくぼみや傷の深さ、方向を探るために用いる先の尖っていない棒状の器具のことを称する。」(岩波理化学辞典第5版)との意味を有することは当裁判所に顕著であり、これによると、「プローブ」がある器具を指すものとして用いられる場合には、その器具は「狭い所に対して用いられる器具」を意味するということができる。

右1(一)の本件明細書の記載によると、本件発明は、「付属照射プローブ」によって、皮膚表面の脱毛したい領域に赤色光及び青色光の照射して、光熱反応により皮膚の真皮内にある生体組織を乾固させ、永久脱毛を行う光脱毛装置に関するものであるところ、本件発明の光脱毛装置において皮膚の真皮内にある生体組織を乾固させるのは、実施例でいうと、表Ⅰの第二及び第三段階での赤色光及び青色光の照射であり、その際赤色光及び青色光はプローブ先端から皮膚に照射されるものとされ、赤色光の照射は、照射領域が「約5㎜φ」、青色光の照射は、照射領域が「約10㎜φ」とされている。

右1(二)のとおり、本件公報の図面に図示された照射プローブは、赤色光、青色光の双方について、集束光学系又は光ファイバーが用いられており、その先端から毛根部等の狭い領域に光を照射することができるものである。

右1(三)のとおり、本件発明の先行技術である特願昭五九・一九八七七一号特許出願においても、光脱毛装置について「プローブ」という用語が用いられているが、そこでは、プローブは、プローブ先端部を介して一つの毛根又は毛根付近に光を当てることができるような先端の細い部材として示されている。

(二) 以上に述べたところを総合すると、本件発明の「付属照射プローブ」は、目的の毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることのできる器具を意味するものと解釈することができ、かつ、それは、赤色光、青色光の双方について存しなけれならないということができる。

3  別紙物件目録に証拠(甲九の一、検甲一)と弁論の全趣旨を総合すると、イ号物件のハロゲンランプ照射器は、ハロゲンランプの光が拡散して照射されるのみで、毛の毛根部等の狭い領域に集中して光を当てることができる器具ではないと認められるから、本件発明の「付属照射プローブ」に当たるとは認められない。したがって、イ号物件は、本件発明の技術的範囲に属さない。

4  原告は、イ号物件のハロゲンランプ照射器が本件発明の「付属照射プローブ」に当たらないとしても、本件特許権の特許請求の範囲請求項5の「赤色光の付属照射プローブの先端には、照射強度を低減させて照射範囲を拡大させる光拡散用キャップが装着可能であることを特徴とする請求項1に記載の装置」と均等なものであるとも主張する(前記第三の二1(二))。

原告の主張する右請求項5の装置は、赤色光の付属照射プローブの先端に「光拡散用キャップが装着可能である」本件発明の光脱毛装置であるから、この装置は、赤色光及び青色光を「付属照射プローブ」から照射することができるとの構成を備えたものに、赤色光用の「光拡散用キャップが装着可能である」との構成が付加されたものであることは、文言上明らかである。そして、右1(一)の本件明細書の記載からすると、右の光拡散用キャップは、皮膚の真皮内にある生体組織を乾固させるため(実施例でいうと、表Ⅰの第二及び第三段階での赤色光及び青色光の照射)に用いられるものではなく、その事前及び事後の照射(実施例でいうと、表Ⅰの第一及び第六段階での赤色光の照射)に用いられるものであると認められる。そうすると、右請求項5の装置は、「付属照射プローブ」から赤色光及び青色光を照射することによって、皮膚の真皮内にある生体組織を乾固させるとともに、光拡散用キャップを用いることによって、右処置の事前及び事後の処置として赤色光の照射をすることができるというものであると認められる。

これに対し、イ号物件のハロゲンランプ照射器が赤色光を「付属照射プローブ」から照射するという構成を備えていないことは右認定のとおりであって、イ号物件は、「付属照射プローブ」から赤色光を照射することによって、皮膚の真皮内にある生体組織を乾固させるものではないから、右請求項5の装置と同一の作用効果を奏するものということはできない。

したがって、その余の要件について検討するまでもなく、イ号物件のハロゲンランプ照射器は、右請求項5の装置と均等なものということはできず、原告の主張は採用できない。

二  以上の次第で、原告の本訴請求は、その余の点について判断するまでもなくいずれも理由がない。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 榎戸道也 裁判官 杜下弘記)

<以下省略>

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