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東京地方裁判所 平成10年(ワ)16052号 和解

破産者株式会社和宏破産管財人

原告

山本眞弓

被告

大成ロテック株式会社

右代表者代表取締役

三嶋希之

右訴訟代理人弁護士

横井弘明

和解条項

一 原告は本訴を取り下げ、被告はこれに同意する。

二 被告は、破産会社に対する破産債権の届け出を取り下げる。

三 原告と被告は、本件に関し、本和解条項に定めるほか何らの債権務のないことを相互に確認する。

四 訴訟費用は各自の負担とする。

(事案の概要)

本件は、破産者株式会社和宏(以下「破産会社」という。)の破産管財人山本眞弓が、被告と破産会社との間の請負契約に基づいて、請負代金を請求したところ、元請会社たる被告は、下請会社たる破産会社の支払停止後、破産会社と被告間の専門工事請負契約約款(以下「本件約款」という。)の条項に基づいて、孫請会社に対して立替払いをして取得した破産会社への立替払金請求債権を自働債権として請負代金債務を相殺する旨の意思表示をしていたため、右相殺の効力が争われた事案である。

(争点)

下請会社たる破産会社の支払い停止後に元請会社たる被告が本件約款に基づいて孫請会社に対して立替払いをして立替払金請求債権を取得した場合、これを自働債権として、破産会社への請負代金債務と相殺することは許されるか。立替払いをして本件立替払金請求債権を取得したことは、破産法一〇四条四号但書中段の「債権者カ支払ノ停止若ハ破産ノ申立アリタルコトヲ知リタル時ヨリ前ニ生シタ原因ニ基ツクトキ」にあたるか。

(当事者の主張)

一 原告の主張

本件約款第三三条は、「乙(破産会社)もしくは再請負者が、工事の施工に関して、賃金、工事材料代金、工事用機器代金などの支払いを遅滞し、または乙もしくは再請負者に支払停止等の事情が生じて、乙の被用者、再請負者の被用者もしくは第三者に障害が生じまたはそのおそれがあるときは、乙はすみやかに自己の費用と責任で解決する。乙もしくは再請負者がすみやかに適当な措置をとらないとき、または適当な措置をとる見込みがないと認められるときは、甲(元請会社)が立替払をする等自らこれを解決することができる。」と規定するが、このような抽象的約束文言のみで被告に相殺への合理的期待があるとはいえない。本件約款によると、被告は破産者に対して立替払いの義務を負担しているわけではないし、破産者の返還約束も、相殺合意も規定されていないから、被告の相殺を認めるべき合理的理由はなく、本件相殺の前提となる立替払金請求債権の取得は、破産法一〇四条但書中段の「前ニ生シタ原因ニ基ツクトキ」にあたると解することはできない。また、実質的にも、このような相殺を認めれば、それぞれの請負契約をその連鎖毎に聖域化することになり、債権者平等に著しく反する結果となる。

二 被告の主張

本件約款は、建設業法四一条二項、三項に基づくものであり、同条項は、特定建設業者の下請工事業者が労働者に賃金を支払わない場合や他人に損害を与えた場合に、労働者や損害を受けた第三者を保護するために、行政当局が特定建設業者に立替払いを勧告する制度を規定しており、勧告に従わない場合、営業停止処分になることもあるから、被告会社は事実上立替払いを強制される立場にあった。仮にこのような相殺が認められないとすれば、下請工事業者の連鎖倒産を招く等の結果となり、下請工事業者やそこで働く労働者を保護するという建設業法の立法趣旨が没却される。

(当裁判所の見解)

本件約款第三三条は、下請会社である破産会社が支払停止状態で孫請会社に請負代金を支払わない場合に、元請会社である原告が立て替え払いをすることができることを定めている。そして、元請会社が孫請会社に対し実際に立替払いをした後、どのような効果が発生するか(相殺が許されるか等)は、本条項の解釈及び一般法理によって決せられる。

本件約款第三三条は、立替払金請求債権発生の効果を生ずべき直接の基礎をなす法律関係についての定めであって、下請会社倒産の際、元請会社が孫請会社に直接支払いをして工事を続行させ、元請会社として注文主に対する請負義務を果たすという趣旨で規定されているものであると解される。そして、立替払い後、下請会社に対して立替払金請求債権を取得することは、一般法理上明らかであり、本件約款第三一条一項も、このことを当然の前提としている。

また、被告は破産会社の支払停止後、破産会社との請負契約を解除した上で立替払いをしているところ、本件約款第三七条一項一号は、下請会社に支払い停止、破産等の事情が生じた場合、元請会社は請負契約を解除できる旨規定しており、これを受けたと解される第三一条二項には相殺することができる旨明文で規定されている。

実質的にも、元請会社が下請会社に対して取得した立替払金請求債権を自働債権として、下請会社に対する請負代金債務を相殺をしても、元請会社の経済上の出費は変わらない。すなわち、右相殺は、破産法一〇四条が禁止する実価の下落した債権で相殺をして自己の債務を有利に免れるようなものではない。このような相殺ができるという元請会社の期待はこの類型の契約の特質からしても合理的なものとして保護されるべきである。

また、立替払いが元請会社たる原告の義務ではないことは、この類型の契約の特質を考慮すれば、相殺期待の合理性に影響するものとはいえない。

以上より、本件約款第三三条は、破産法一〇四条但書中段の「前ニ生シタル原因」にあたり、それに基づく立替払金請求債権の取得は、「前ニ生シタル原因ニ基ツクトキ」にあたると解される。

(裁判官加藤新太郎)

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