東京地方裁判所 平成10年(ワ)16546号 判決 2001年5月28日
原告
オリエント・パワー・カーステレオズ・リミテッド
同
オリエント・パワー・エレクトロニクス・リミテッド
原告ら代表者代表取締役
プーン・カ・ハン
原告ら訴訟代理人弁護士
土田耕司
同
戸田満弘
同
須崎憲顕
被告
株式会社商船三井
被告代表者代表取締役
生田正治
被告訴訟代理人弁護士
枡本安正
主文
1 被告は、原告オリエント・パワー・カーステレオズ・リミテッドに対し、金二二一万三七八八米国ドル、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス・リミテッドに対し、金二三万一四五九米国ドル及びこれらに対する平成一〇年九月二日から各支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
3 この判決は仮に執行することができる。
事実及び理由
第1 請求
主文同旨
第2 事案の概要
本件事案の概要は以下のとおりである。
原告らは、ブラジル連邦共和国法人であるセミログ・エレクトリカ・ダアマゾニア・リミタダ及びセミログ・コンポーネンツ・エレクトロニコス・エルティーディーエイに対し、家電製品を売った。被告は、原告らから前記家電製品の運送委託を受けて当該製品を船積し、原告らに対し、船荷証券を振り出した。被告は、原告らから運送委託を受けた前記家電製品を引渡場所であるブラジル連邦共和国マナウス港に海上運送した。
原告らは、取立銀行に、船荷証券を送り、セミログ・エレクトリカ・ダアマゾニア・リミタダ及びセミログ・コンポーネンツ・エレクトロニコス・エルティーディーエイから売買代金を得ようとしたが、両社は、原告らに対し、売買代金の支払をすることができなかった。そのため取立銀行は、原告らに対し、船荷証券を返送した。
本件は、被告が、船荷証券を所持していないセミログ・エレクトリカ・ダアマゾニア・リミタダ及びセミログ・コンポーネンツ・エレクトロニコス・エルティーディーエイに対し、原告らから運送委託を受けた前記家電製品を引き渡したために、船荷証券上の権利者である原告らは、代金の支払を受けることも、また、前記家電製品の引渡を受けることも不可能となり損害を受けたとして、被告に対し、債務不履行又は不法行為に基づき損害賠償を求めている事案である。
1 争いのない事実等(証拠等によって認定した事実は末尾に当該証拠等を掲記する)
(1) 当事者
原告らはラジオなどの輸出販売等を目的とする香港の有限責任会社であり、被告(旧商号、大阪商船三井船舶株式会社)は海運業等を目的とする株式会社である。
(2) 原告らとセミログ・エレクトロニカ・ダアマゾニア・リミタダ及びセミログ・コンポーネンツ・エレクトロニコス・エルティーディーエイとの間の売買契約の締結
ア 原告オリエント・パワー・カーステレオズ・リミテッド(以下「原告オリエント・パワー・カーステレオズ社」という)及び原告オリエント・パワー・エレクトロニクス・リミテッド(以下「原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社」という)は、セミログ・エレクトロニカ・ダアマゾニア・リミタダ及びセミログ・コンポーネンツ・エレクトロニコス・エルティーディーエイ(以下両社を併せて「訴外セミログ」という)に対し、別紙船荷証券一覧表「運送品の内容」欄各記載の貨物(以下「本件各貨物」という)を同表「送り状記載金額」欄各記載の金額で売った(以下「本件各売買契約」という)。
イ 本件各売買契約では、訴外セミログが原告らに対し本件各貨物代金を支払うのと引換えに、原告らが、訴外セミログに対し、船荷証券原本を含む船積書類を交付すると定められた。
(3) 船荷証券発行の経緯(甲1ないし19の各1ないし4、弁論の全趣旨)
ア 原告らは、平成九年六月ころから同年一〇月ころにかけて、被告との間で、本件各貨物を香港又は南京からブラジル連邦共和国(以下「ブラジル」という)アマゾナス州マナウス港(以下「マナウス港」という)まで海上運送するとの内容の海上運送委託契約を締結した(以下「本件各運送契約」という)。
イ 被告は、前記アの合意に基づき、本件各貨物を香港又は南京でそれぞれ船積みし、別紙船荷証券一覧表「証券発行日」欄各記載の日に、同表記載1ないし19の各複合運送船荷証券(以下、別紙船荷証券一覧表の各複合運送船荷証券については、同表記載の番号に従い、例えば番号1の複合運送船荷証券は「本件船荷証券1」、番号2の複合運送船荷証券は「本件船荷証券2」というように表示する)原本各三通を発行した(本件船荷証券1ないし16は原告オリエント・パワー・カーステレオズ社が荷送人として記載され、同17ないし19については原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社が荷送人として記載されている)。
ウ 本件船荷証券1、3ないし16の荷受人欄には訴外セミログの指図人との記載が、本件船荷証券2の荷受人欄には訴外セミログとの記載が、本件船荷証券17ないし19の荷受人欄にはバンコ・ド・ブラジル・エスエーの指図人との記載がある。
また、本件船荷証券2を除く本件各船荷証券には不知約款の記載がある。
(4) 本件各貨物の運送
被告は、本件各運送契約に基づき、本件各貨物を運送し、本件各貨物は、別紙船荷証券一覧表「到着日」欄各記載の日に、マナウス港に到着した。
被告は、本件各貨物を荷揚げし、港湾会社(スーパーターミナル)に引き渡した。
(5) 訴外セミログの代金不払及び原告らの本件各船荷証券所持
ア 本件各売買契約では、前記(2)のとおり、訴外セミログの売買代金支払と引換えに、原告ら(実際には取立銀行)が、訴外セミログに対し、本件各船荷証券を含む船積書類を交付する旨合意されていた。
しかし、訴外セミログは、原告らに対し、売買代金を支払うことができなかった。そこで、取立銀行は、原告らに対し、本件各船荷証券を返送した。
イ 原告オリエント・パワー・カーステレオズ社は本件船荷証券1ないし16を、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社は本件船荷証券17ないし19をそれぞれ所持している。
(6) 本件各貨物の引渡
本件各貨物は、別紙船荷証券一覧表「出庫日」欄各記載の日に、本件各船荷証券原本との引き換えなく、訴外セミログに引き渡された。
訴外セミログは、現在倒産状態にあり、原告らが、本件各貨物を訴外セミログから回収することは不可能である(弁論の全趣旨)。
2 争点
(1) 本件における準拠法は日本法か、それともブラジル法か。
(原告らの主張)
本件各運送契約締結地である香港の国際私法では、準拠法約款の効力が認められており、本件各船荷証券の裏面約款二五条によれば、日本法を準拠法とすると定めている。よって、本件各運送契約を巡る紛争については、日本法が準拠法となる。また、原告らと被告との間には、準拠法をブラジル法とする旨の合意は成立していない。
被告が、準拠法をブラジル法と主張する根拠は、本件各船荷証券の裏面約款一六条一項(h)にあると解される。しかし、当該条項は、運送人が運送債務の履行に関して、荷揚地の慣行に従うことができることを定めているにすぎず、運送契約を細分化し、履行部分に限り現地の法律を準拠法にすると解釈することはできない。
よって、本件の準拠法は日本法である。
(被告の主張)
船荷証券による運送債務の準拠法は、法例七条一項に基づき、当事者の意思によって決まる。本件船荷証券の裏面約款一六条一項(h)は、被告の運送債務のうち引渡しに関しては荷揚地の法律を準拠法にすると定めている。よって、本件の準拠法は荷揚地の法律であるブラジル法である。
(2) 原告らは本件各船荷証券の正当な所持人であり、本件各貨物の引渡請求権(それに代わる損害賠償請求権)を有するか。
(原告らの主張)
ア 原告オリエント・パワー・カーステレオズ社は本件船荷証券1ないし16を、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社は同17ないし19を所持している。
イ 原告らは、被告に対して、本件各船荷証券の発行を請求し、本件各船荷証券を喪失、譲渡することなく所持していた。また、本件各船荷証券上に荷受人として表示されている訴外セミログ等が、本件各船荷証券に基づく権利を取得することは一度もなかった。
ウ よって、原告らは、本件各船荷証券の正当な所持人であり、本件各船荷証券を発行した被告に対し、本件各貨物引渡請求権を有する。
(被告の主張)
ア 原告らは、本件各船荷証券の正当な所持人ではないから船荷証券上、貨物の引渡請求をすることはできない。
イ すなわち、本件船荷証券2の荷受人表示は記名式であり、裏書禁止の記載がある。したがって、本件船荷証券2は、荷送人及び荷受人間において裏書譲渡性がないから、正当な所持人として貨物の引渡を請求できるのは荷受人の訴外セミログであり、原告らではない。
ウ 本件船荷証券2を除く本件各船荷証券の荷受人表示は、いずれも記名人指図式である。記名人指図式の場合に、正当な所持人として貨物の引渡を請求できるのは、裏書が連続する船荷証券の正当な所持人に限られる。しかるに、本件船荷証券1、3ないし16は裏書が全くないし、本件船荷証券17ないし19も裏書が連続していない。よって、原告らは、本件船荷証券2を除く本件各船荷証券の正当な所持人ではない。
エ 以上のとおり、原告らは、本件各船荷証券の正当な所持人ではなく、本件各船荷証券を単に握持しているのみである。よって、原告らは、被告に対し、本件各貨物の引渡請求権を有していない。
(3) 被告に注意義務違反は認められるか。
(原告らの主張)
ア 債務不履行責任
(ア) 原告らは、本件各船荷証券の正当な所持人であるから、運送人である被告は、原告らに対し、本件各貨物を引き渡さなければならないという義務を負っている。
(イ) 港湾会社に貨物を引き渡せば、その後は、運送品の物理的管理について責任を負わなくてよいとしても、被告は、税関当局が関与しない部分では、本件各船荷証券の正当な所持人が運送品を受け取れるようにする注意義務を負っている。
(ウ) ブラジルでは、船荷証券の所持を失った者は、運送人に対して船荷証券喪失宣言書の発行を求めることができる。その場合、運送人は、船荷証券喪失宣言書の発行を求めている者が、①一旦は船荷証券の正当な所持人になっているか否か、②その所持が同人の意思によらずに失われたか否かを調査しなければならない。
(エ) 本件では、被告は、調査することなく、前記(ウ)の二要件を満たさない訴外セミログに対し、運賃支払証明書及び船荷証券喪失宣言書(以下「船荷証券喪失宣言書等」という)を発行している。
(オ) 以上のとおり、被告は、本件各船荷証券の正当な所持人である原告らに対し、船荷証券の正当な所持人に対してのみ貨物を引き渡す義務を負っていたところ、本件各船荷証券の正当な所持人ではない訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行し、本件各貨物を引き渡したから、原告らに対して債務不履行責任を負う。
イ 不法行為責任
更に、被告の前記アの各行為は、民法七〇九条の不法行為の要件を満たしている。よって、被告は、原告らに対し、不法行為に基づく損害賠償責任を負う。
ウ 被告らの主張に対する反論
(ア) 被告に履行遅滞はないとの主張に対して
原告らの被告に対する本件各請求は、履行遅滞に基づく損害賠償請求ではなく、履行不能に基づく損害賠償請求である。
(イ) 貨物を引き渡したのはマナウス港の税関であるとの主張に対して
マナウス港においても、到着した貨物が自動的に税関によって訴外セミログに引き渡されるものではない。このことは、原告らの要請に応じて、被告が通関手続に必要な書類の交付を留保したために、訴外セミログへの引渡を免れた貨物が存在することからも明らかである。
(ウ) 船荷証券喪失宣言書等を発行したのは被告ではないとの主張に対して
訴外ミツイ・オー・エス・ケー・ラインズ・エイジェンシア・マリティマ・リミタダ(以下「訴外ミツイ」という)は、被告のマナウス港における代理店であり、被告を代理してその業務を行っている。よって、訴外ミツイは被告の履行補助者に当たるから、被告は、訴外ミツイが船荷証券喪失宣言書等を発行する際に注意義務を怠ったことについて、責任を負う。
更に、被告の主張が事実とすれば、被告は、現地代理店である訴外ミツイの行為をほとんど把握していないことになる。被告が、このような状態で本件各運送契約を請け負い、船荷証券を所持していない訴外セミログに貨物を引き渡したことは、別個、善管注意義務違反を成立させる。
(エ) 運送品差止処分請求権の不行使の主張に対して
運送品差止処分請求権の行使は原告らの義務ではない。
また、原告らは、平成九年一一月中旬に、被告の香港代理店に対し、電話で、訴外セミログから代金の支払がないことを説明し、訴外セミログ向けコンテナ貨物引渡状況の調査及び引渡未了コンテナ貨物の引渡中止と香港への返送を依頼している。前記原告らの行為は、まさに、国際海上物品運送法の運送中止処分権の行使に当たる。本件損害は、被告が海上運送契約の定めに反して、本件各船荷証券と引換えでなく、運送品を訴外セミログに引き渡したことに対してである。したがって、原告らによる運送品処分権が行使されていないことは、原告らが、被告に対して有する本件損害賠償請求権の行使に何ら影響を及ぼさない。
(被告の主張)
ア 被告に履行遅滞はないこと
本件各船荷証券に基づく運送品引渡債務は、期限の定めのない債務である。そうだとすると、原告らが、本件各船荷証券原本を呈示してコンテナの引渡請求をしていない以上、被告の本件貨物引渡債務は履行遅滞にならない。
本件で、原告らは、被告に対し、本件各船荷証券原本を呈示してコンテナの引渡請求をしていないので、被告に履行遅滞はない。
イ 貨物を滅失したのはマナウス港の税関であること
(ア) 海上運送契約における運送人の責任は、物品が船舶から船側において港湾会社に引き渡されたときに完全に終了するというのがマナウス港の慣習又は慣例である。マナウス港の慣習又は慣例によれば、本件においても、被告の運送債務は、被告が本件各貨物を荷揚げして港湾会社に引き渡した時点で終了している。
したがって、本件各貨物を滅失させたのは被告ではなく、マナウス港の税関であり、本件各貨物の滅失に関し、被告には責任がない。
(イ) また、マナウス港の税関は、国際海上物品運送法三条一項に規定する、被告が「使用する者」にも当たらず、同条項によっても、被告は責任を負わない。
ウ 船荷証券喪失宣言書等を発行したのは被告ではないこと
本件において、訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等が発行、交付されているとしても、それは訴外ミツイが行ったもので、被告は何ら関与していない。
船荷証券喪失の場合にどのような手続がとられるかという問題は、運送人の運送債務履行の問題とは全く別個の問題である。運送人は、荷受人から船荷証券喪失の通知を受けた場合、慣習若しくは慣行として船荷証券喪失宣言書を発行せざるを得ない。仮に、訴外ミツイが船荷証券喪失宣言書を発行していたとしても、それは税関及び港湾会社が行う本件各貨物の占有移転手続に、訴外ミツイが独自に関与したということにすぎない。
したがって、訴外ミツイが、訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行したことは、被告において運送人に課される注意義務を怠ったということにはならない。
エ 原告らが運送品差止処分請求権を行使していないこと
船荷証券が発行された場合、荷送人が、荷揚地において、貨物の引渡請求をすることは予定されていない。その代わり、荷送人は、運送人に対し、船荷証券原本を呈示し、貨物の運送中止、返還その他の処分をする権限のあることが法律上定められている。荷送人は、当該処分をしなければ、運送人に対し、債務不履行責任を問うことはできない。
本件で、原告らは、被告が本件各貨物の引渡を完了する前に、運送品差止処分請求権を全く行使していないので、被告には、運送中止等の処分義務は発生しておらず、被告が債務不履行責任を追及されるいわれはない。
(4) 国際海上物品運送法四条二項五号の「公権力による処分」の適用により被告は免責されるか。
(被告の主張)
ブラジルにおいては、税関が、船荷証券原本と引換えに貨物の引渡業務を行っている。本件でも、マナウス港の税関が本件各貨物の引渡を行っており、当該税関の行為は、国際海上物品運送法四条二項五号の「公権力による処分」に当たり、被告は免責される。
(原告らの主張)
訴外セミログが、本件各貨物受取のための必要書類を準備したために、事情を知らないマナウス港の税関が本件各貨物を引き渡したのであって、本件各貨物の引渡は「公権力の処分」に当たらない。
(5) 国際海上物品運送法一四条一項により被告の責任は消滅したか。
(被告の主張)
船荷証券所持人は、運送人に対し、船荷証券原本を呈示して貨物の引渡請求をしなければ、損害賠償請求権を行使できない。
原告らは、国際海上物品運送法一四条一項が定める一年以内に、被告に対し、本件各船荷証券原本を呈示して、本件各貨物の引渡請求をしていない。
よって、国際海上物品運送法一四条一項によれば、運送品に関する被告の責任は消滅している。
(原告らの主張)
本件各船荷証券に表示される本件各貨物のうち、最も早くマナウス港に到着したのは、本件船荷証券1に記載された貨物であるが、その到着日は平成九年八月六日である。原告らは、その日から一年以内の平成一〇年七月二七日に本訴を提起しており、被告の責任は、国際海上物品運送法一四条一項によっても消滅していない。
(6) 原告らに損害は発生したか。仮に損害が発生している場合、損害額は幾らか。
(原告らの主張)
ア 損害の発生
被告は運送を委託された本件各貨物を所持しておらず、また、原告も、訴外セミログから本件各貨物の占有を回復することは困難な状況にある。よって、被告の原告らに対する本件各貨物の引渡は履行不能の状態に陥り、原告らは損害を被った。
イ 具体的な損害額
本件各貨物の価格は、別紙船荷証券一覧表「送り状記載金額」欄各記載のとおりであり、被告の行為により、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社は二二一万三七八八米国ドルの損害を、また、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社は二三万一四五九米国ドル相当の損害を被った。
ウ 被告の主張に対する反論
(ア) 訴外セミログが弁済しているとの主張に対して
争う。
原告らとしては、被告が当該主張の根拠とする甲27号証の5のメモから、何故原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社が訴外セミログから代金を受け取ったことになるか理解することができない。
(イ) 不知約款が存在するとの主張に対して
原告らは、コンテナへの本件各貨物カートン数の積込み、カートンの中身についての立証を尽くしている。
(ウ) 損害額の主張に対して
原告らが請求している損害賠償額は、売買代金(FOB価格)に当たる。このFOB価格は、到達地価格を下回る。よって、原告らは、少なくともFOB価格に相当する損害を被った。
(被告の主張)
ア 訴外セミログは売買代金を弁済しているとの主張
証拠(甲27の5)によれば、訴外セミログは、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社に対し、本件船荷証券17ないし19の各貨物の売買代金のうち、11万5729.50ドルを支払っている。
イ 不知約款が存在するとの主張
本件各船荷証券には不知約款が記載されている。原告らは、不知約款があるので、本件各船荷証券の貨物明細の記載のみに基づいて、本件各貨物引渡請求ないし損害賠償請求することはできない。原告らは、現実に特定の物品をコンテナに積み込んだことを主張立証して初めて本件各貨物引渡請求ないし損害賠償請求をすることができる。本件では、原告らは、本件各貨物の積込みの事実を立証できていない。よって、原告らに、損害は発生していない。
ウ 原告らは損害額を主張立証しなければならないとの主張
(ア) 本件は、貨物の滅失には当たらない。よって、本件には、滅失を前提とする国際海上物品運送法一二条の二の規定の適用はなく、原告らは、民法四一五条に基づき、自らの損害額を、主張立証する必要がある。
(イ) 仮に、国際海上物品運送法一二条の二が適用される場合、運送品に関する損害賠償額は、荷揚地での運送品の市場価格によって決定される(国際海上物品運送法一二条の二第一項)。したがって、原告らは、荷揚地であるマナウス港における本件各貨物の市場価格が幾らであるかを主張立証するか又は同種類で同一品質の物品のマナウス港における市場価格を主張立証しなければならないところ、原告らはこれを主張立証していない。
(7) 原告らに損害回避義務違反、損害拡大防止義務違反が認められるか。
(被告の主張)
ア 原告らは、被告に対し、継続的に海上物品運送を委託していた。本件のように、原告らが、コンテナを被告の多数船舶に積載して継続的に香港からマナウス港へ発送し、マナウス港における貨物の引渡がマナウス港の税関により行われている場合には、信任関係の有無にかかわらず、信義誠実の原則により、原告らに損害回避義務を認めるべきである。本件において、原告らは、損害回避義務に違反しており、原告らの本訴請求は認められない。
イ また、仮に、損害回避義務違反が認められないとしても、原告らには、損害拡大防止義務違反が認められ、原告らの本訴請求は、過失相殺と同趣旨により、損害額は少なくとも半額以下に減額されるべきである。
(原告らの主張)
被告の主張は、自らの代理店である訴外ミツイが本件各船荷証券の引換えなしに本件各貨物を引き渡したにもかかわらず、原告らに損害回避義務違反及び損害拡大防止義務違反があると主張するものであり、不当である。判例上、荷送人に関する損害回避義務及び損害拡大防止義務は認められていない。
第3 争点に対する判断
1 争点(1)(準拠法)について
(1) 海上運送人と船荷証券所持人との間に傭船契約が存在しない場合は、両者の関係は、原則として、船荷証券によって証明される運送契約による。この場合の準拠法は、法例七条の定める当事者自治の原則に従い、船荷証券の発行人である海上運送人の指定意思によって決定される。
これを本件についてみるに、証拠(甲1ないし19の各1、2、3)及び弁論の全趣旨によれば、本件各船荷証券の裏面約款二五条には、「この船荷証券によって証明され、あるいは締結される運送契約は、ここにおいて別に定めがなければ日本法を準拠法とする」との記載があることが認められる。前記約款二五条によれば、運送人である被告は、本件運送契約上で生じる法律問題について、原則として日本法を準拠法とする指定意思を有していたと認めるのが相当である。
(2) ところで、証拠(甲1ないし19の各1、2、3)及び弁論の全趣旨によれば、本件各船荷証券の裏面約款一六条一項(h)には、「運送人は、荷主に通知することなく、いつでも、法律上、事実上若しくは商業上のものであるかを問わず、地域的、全国的若しくは国際的に普及しているか否かを問わず、さらに荷主が運送品の受取、船積み、積付け、保管、運送、荷揚げ及び・又は引渡に関する慣習若しくは慣例を直接知っているか否かを問わず、いかなる港又は場所の慣習若しくは慣例に従うことができる。特に運送人は慣習若しくは法律によるか否かを問わず、慣例として認められている地域においては、船荷証券原本の呈示なしに、運送品を引き渡すことができる。かかる慣習若しくは慣例に従うことは、本船荷証券のもとで運送契約を正当に履行したものとみなされる」との記載があることが認められる。
被告は、本条項を根拠に、本件は荷揚地であるブラジルでの債務の履行が問題となっており、その準拠法はブラジル法であると主張する。しかし、国際海上運送契約を細分化し、履行部分に限りブラジル法を準拠法とすることは、法律関係を複雑にするとともに、荷送人又は船荷証券所持人の立場を不安定にする。したがって、船荷証券の約款の記載内容が明確であり、かつ、荷送人又は船荷証券所持人が不測の損害を被るおそれのないといった特段の事情があればともかく、そのような特段の事情がない限り、一つの国際海上運送契約の準拠法の分割は認めるべきでないと解するのが相当である。
これを本件についてみるに、本件各船荷証券の裏面約款一六条一項(h)は、履行地法を履行に関する準拠法と定める旨明言していない。したがって、履行に関する準拠法を定めた規定であるとは解されず、むしろ、本条項は、履行に関する準拠法も日本法であるとの理解に立ちつつ、運送人が履行地の慣習若しくは慣例に従って履行すれば、日本法を適用しても免責されることを定めた規定であると解するのが相当である。そして、他に、本件各運送契約のうち、履行地における履行部分に限っての準拠法がブラジル法であると定めたものであるとの特段の事情を認めるに足りる証拠は存在しない。
(3) 以上によれば、本件の準拠法は日本法であると認めるのが相当であり、この点について被告の主張は理由がない。
2 争点(2)(原告らは本件各船荷証券の正当な所持人であり、被告に対して貨物引渡請求権を有するか)について
(1) 船荷証券の効力発生時期について
ア 船荷証券は、運送人が、運送品の受取又は船積の事実を証明し、かつ、指定港においてこれと引換えに運送品を引き渡すことを約する有価証券であり、運送人は、運送品の船積を確認した後、荷送人に対して船荷証券を交付する。船荷証券が発行されると、運送品引渡請求権の行使、移転に船荷証券の呈示、交付が必要となる(処分証券性)。
イ しかし、本件のように、船荷証券の占有が荷受人に移転することなく荷送人が船荷証券を所持している場合に、船荷証券の効力が発生しないと解すると、船荷証券が荷送人の占有下にある場合には、船荷証券に基づき貨物の引渡請求を行使することができる者が存在しないことになる。しかし、このような結論は、国際海上運送取引の実情にあわず、不合理であり、採用することができない。
ウ よって、船荷証券の効力の発生時期は、運送人が船荷証券を発行し、荷送人(取引銀行)に交付した時点で発生すると認めるのが相当である。このように解すると、本件では、前記争いのない事実等によれば、運送人である被告は、原告らに対し、本件各船荷証券を発行、交付していると認められ、本件各船荷証券の効力も発生していると解するのが相当である。そこで以下、本件各船荷証券の効力が認められることを前提に、原告らが、本件各船荷証券の正当な所持人であるか否かについて検討する。
(2) 本件船荷証券1ないし16について
ア 前記争いのない事実等及び証拠(甲1ないし16の各1、2、3、4)並びに弁論の全趣旨によれば、本件船荷証券1、3ないし16の荷受人欄には訴外セミログの指図人との記載が、本件船荷証券2の荷受人欄には訴外セミログとの記載があり、本件船荷証券1ないし16は記名指図式ないしは記名式の船荷証券であることが認められる。
イ ところで、運送品を受け取ることができる正当な船荷証券所持人には、裏書の連続している船荷証券の所持人のほか、裏書は連続していないが実質的権利を証明できる証券所持人も含まれると解するのが相当である。
ウ これを本件についてみるに、前記争いのない事実等及び証拠(甲1ないし16の各1、2、3、4)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 荷送人である原告らは、運送人である被告に対し、本件船荷証券1ないし16の発行を求めた。被告は、原告らの求めに応じて、本件各貨物の船積後、各三通の本件各船荷証券原本を発行した。
(イ) 本件船荷証券1ないし16の原本は、ブラジルの取立銀行に送られたが、訴外セミログが商品代金の支払をしなかったために、取立銀行から、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社に返送された。
(ウ) 本件船荷証券1ないし16には裏書はされておらず、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社の他に、本件船荷証券1ないし16の正当な所持人であると主張している者はいない。
(エ) 本件船荷証券1ないし16(原本各三通)は、現在、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社が所持している。
エ 以上によれば、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社は、本件各船荷証券1ないし16の実質的な権利を有する正当な所持人であると認められ、この判断を覆すに足りる証拠は存在しない。
(3) 本件船荷証券17ないし19について
前記争いのない事実等及び証拠(甲17ないし19の各1、2、3、4、甲29)並びに弁論の全趣旨によれば、本件船荷証券17ないし19は、バンコ・ド・ブラジルから香港ダオ・ハン銀行へ、さらに、香港ダオ・ハン銀行から原告へ裏書譲渡されたことが認められる。
以上によれば、原告オリエント、・パワー・エレクトロニクス社は、裏書の連続した船荷証券の所持人であるから、その余の点を判断するまでもなく本件船荷証券17ないし19の正当な所持人であると認められる。
(4) 小括
以上のとおり、原告らは、本件各船荷証券の正当な所持人であり、被告に対して、本件各貨物の引渡請求権(それに代わる損害賠償請求権)を有していると認められる。
3 争点(3)(被告の注意義務違反の有無)について
(1) 前記1で判断したとおり、本件各運送契約の債務不履行についての準拠法は日本法であるところ、国際海上物品運送法三条一項、一五条一項によれば、運送人は、自己又はその使用する者が、運送品の荷揚げ及び引渡につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失につき損害賠償の責任を負うとされている。そこで、本件で問題となるのは、次の三点である。第一点は、本件各貨物は滅失したといえるのか。第二点は、本件各貨物滅失の原因は何か。第三点は、本件各貨物滅失の原因について被告は責任を負うのか。殊に被告と訴外ミツイとの関係をどうみるのかという点が問題になる。以下、順次検討する。
(2) 本件各貨物の滅失について
ア 貨物の滅失については、物理的な滅失のみならず運送品の相対的引渡不能をも含むと解するのが船荷証券の所持人保護の見地から相当であるところ、本件では、前記争いのない事実等によれば、被告は、本件各貨物を所持しておらず、また、原告らも倒産状態にある訴外セミログから本件各貨物の占有を回復することが客観的に不可能な状態にあることが認められる。そうだとすると、本件各貨物は、既に滅失していると評価でき、この判断を覆すに足りる証拠はない。
イ なお、被告は、被告の本件各貨物引渡債務が未だ履行遅滞に陥っていないことを前提に自らの責任を否定するが、原告らは、履行不能を問題にしているのであり、この点の被告の主張はその余の点を判断するまでもなく理由がない。
(3) 本件各貨物滅失の原因について
ア 前記争いのない事実等及び証拠(甲1ないし19の各1、2、3、4、甲21、22、28、乙6)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 本件各運送契約では運賃着払いの合意があった。運賃着払いの合意がある場合、船荷証券所持人は、船荷証券原本を、運送人に呈示して運賃を支払い、運送人から、運賃を支払ったことを確認する船荷証券への署名を得る。
(イ) 輸入者が船荷証券原本を所持していない場合、通関のためには、船荷証券喪失宣言書及び運送人の代理店の運賃支払証明が不可欠である。
(ウ) 被告の代理店である訴外ミツイは、訴外セミログから運賃の支払を受け、船荷証券喪失宣言書等を発行し、これを訴外セミログに交付した。
(エ) 訴外セミログは、訴外ミツイから交付を受けた船荷証券喪失宣言書等を、マナウス港の税関に提出し、本件各貨物の引渡を受けた。
イ 以上によれば、本件各貨物が、訴外セミログに渡り、滅失するに至った原因は、訴外ミツイが訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行、交付したことにあると認めるのが相当である。
(4) 本件各貨物滅失の原因に対する被告の責任の有無について
ア そこで次に問題となるのは、訴外ミツイが船荷証券喪失宣言書等を発行、交付したことに注意義務違反があったかという点である。
(ア) 前記争いのない事実等及び証拠(甲21、28)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 船荷証券喪失宣言書は、船荷証券の紛失ないし盗難の場合に発行される。
b 船荷証券喪失宣言書の発行を求めることができる者は、一旦は船荷証券の権利者となったが、その所持を取引行為によらず失った者に限られ、船荷証券の正当な所持人となっていない者は、船荷証券喪失宣言書の発行を求めることはできない。
c 運送人が、船荷証券喪失宣言書発行請求者が無権利者であることを知り、あるいは過失によって知らずに、船荷証券喪失宣言書を発行した場合、ブラジル民法一五九条では損害賠償責任を負うと定められている。
d 輸入者が権限を持っているか否かを確認できない場合には、運送人は船荷証券喪失宣言書の作成を拒否することができる。
e 原告らは、本件訴訟の対象となっている一九件の貨物のほか、二一件、合計四〇件の貨物の運送を被告に依頼していたが、二一件の貨物については、原告らの要求により、被告が訴外セミログに対して、貨物引取りのために必要な書類を発行せず、このため、訴外セミログは貨物を受け取ることができなかった。
f 訴外ミツイは、船荷証券喪失宣言書を発行する前に、原告らに対し、本件各船荷証券の所持について確認していない。また、訴外ミツイは、訴外セミログから、本件各運送契約に基づく運賃を受領し、運賃支払証明書を発行した。
(イ) 以上の認定事実に加え、船荷証券は貨物引渡請求権を表章し、船荷証券の呈示無しで貨物を引き渡した後、正当な権利者が船荷証券を呈示して貨物の引渡を要求してきた場合には、運送人は貨物を取り戻して引き渡さない限り損害賠償の責任を負うのが原則であること(甲22)、被告の内部規定(甲49)にも、船荷証券の再発行又は保証渡を求める荷受人が正当な権利者か否か疑わしい場合等には、送り状等証明資料の提出を求め、またL/C銀行、積地又は揚地への照会を行う等、十分調査の上、正当な権利者であることを確認したときに限り、再発行又は保証渡を行うと記載されていること、着払い運賃の支払の場合は、船荷証券原本の呈示ないしは正当な権利者であることの確認が必要であるのに、訴外ミツイは、訴外セミログが本件各貨物の正当な権利者であることの確認をせずに運賃を受領し、訴外セミログに対し、運賃支払証明書を発行していることをも併せ考慮すると、訴外ミツイは、船荷証券喪失宣言書等を発行する際に要求される注意義務を尽くしていないと認めるのが相当である。
イ 次の問題は、訴外ミツイの前記注意義務違反をもって、被告の注意義務違反ということができるかという点である。
この点につき、被告は、船荷証券喪失宣言書等が発行された事実を知らないとし、仮に、船荷証券喪失宣言書等が発行されていたとしても、船荷証券喪失宣言書等を発行したのは、訴外ミツイであり被告ではないから、被告に債務不履行責任はないと主張する。
しかし、前記(1)のとおり、運送人は、自己又はその使用する者が運送品の引渡につき注意を怠ったことにより生じた運送品の滅失等について、損害賠償責任を負う(国際海上物品運送法三条一項)。そして、運送人の「使用する者」とは、運送人が自らの債務の履行のために使用する者、すなわち、履行補助者を意味し、運送人と雇用関係にある狭義の履行補助者には限られず、下請人、代理商等のいわゆる履行代行者も含まれると解されるところ、訴外ミツイは、被告のブラジル代理店であると認められるから(甲25の2)、運送人の履行代行者に当たることは明らかである。よって、訴外ミツイが船荷証券喪失宣言書等を発行するについて注意義務違反がある以上、被告にも注意義務違反があるということになる。
(5) 以上(1)ないし(4)の検討結果によれば、被告は、本件各貨物が、訴外セミログに引き渡されたことにより本件各貨物が滅失したことについて、本件各船荷証券の正当な所持人である原告に対し、債務不履行責任を負う。
(6) 被告の主張について
ア 免責の主張について
(ア) ところで、前記1で認定したとおり、本件各運送契約の履行に関する準拠法は日本法であるが、被告は、本件各船荷証券の裏面約款一六条一項(h)に基づき、マナウス港の慣習若しくは慣例に従った貨物の引渡をすれば免責される。
そして、被告は、海上運送契約での運送人の責任は、貨物が船舶の船側において港湾会社に引き渡されたときに完全に終了するというのがマナウス港の慣習若しくは慣例であり、本件においては、本件各貨物を訴外セミログに引き渡したのはマナウス港の税関であり、被告ではないから、被告は、本件各貨物の滅失につき責任を負わないと主張する。
そこで、以下、被告が、マナウス港における貨物の引渡の慣習、慣例に従った履行をし、その責任が免責されるか否かについて検討する。
(イ) 前記争いのない事実等及び証拠(甲21、22)並びに弁論の全趣旨によれば、マナウス港での貨物の引渡に関する慣習若しくは慣例は、次のとおりであると認められる。
a アマゾン川の錨地で、コンテナ貨物は、コンテナ船から艀取りされ、陸揚げ後、港湾会社が管理するコンテナターミナルに運ばれ、通関手続が行われるまで、コンテナターミナルで保管される。
b 運送人の現地代理店は、到着の約三日前に、荷受人又は通知人に対し、コンテナ貨物の到着を通知する。
c 運送人から通知を受けた荷受人は、通関手続の準備として運送人の代理店に対し、船荷証券原本を呈示して、その裏面に運賃支払済みを証明する署名ないしスタンプを受ける。
d 荷受人は、通関の許可を受ける際、税関に対して、通関貨物の権利者であることを証明するため、運送人代理店が運賃支払済みである旨証明する署名ないしスタンプのある船荷証券原本か船荷証券喪失宣言書を提出する。
e 税関は、船荷証券原本か船荷証券喪失宣言書のいずれかを提出した荷受人に対し、権限の有無を調査することなく、コンプロバンテ・インポルタカオ(CI、以下「輸入証明書」という)を発行する。輸入証明書の発行を受けた荷受人は、これを港湾会社に呈示して、コンテナターミナルでコンテナを受け取る。
f 船荷証券原本あるいは船荷証券喪失宣言書は、貨物引渡請求権を表章するとともに貨物所有権を証する書類であり、これらがないと荷受人は通関手続を開始できず、貨物を受領することもできない。
(ウ) 以上によれば、マナウス港では、運送人は、貨物を港湾会社に引き渡した後も、運送契約に基づき、運賃支払証明に伴う船荷証券原本の確認や船荷証券喪失宣言書の発行等の職務を行うことが予定されていること、マナウス港の税関は、通関に必要な書類が揃っている場合には、機械的に貨物を引き渡しており、貨物引渡の責任主体であるとはいい難いことが認められる。そうだとすると、マナウス港の慣習若しくは慣行においても、運送人の船荷証券所持人に対する責任は、運送人が貨物を港湾会社に引き渡しただけでは終了しないと認めるのが相当であり、この点に関する被告の免責の主張は理由がない。なお、被告は、ブラジル一九六七年執行法一一六号第三条を根拠にするが、本件は前記認定のとおり、被告に船荷証券喪失宣言書等の発行、交付につき注意義務違反の認められる事案であるところ、当該条項は、このような場合まで、運送人を免責するものとは認められず、この点の被告の主張は理由がない。
イ 運送品差止処分請求権の不行使について
(ア) 被告は、原告らにおいて、被告が本件各貨物の引渡を完了する前に運送品差止処分請求権を全く行使していない以上、被告には、運送中止等の処分義務は発生しておらず、債務不履行責任を追及されるいわれはないと主張するので、この点について検討する。
(イ) 前記争いのない事実等及び証拠(甲27の1)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
a 本件各貨物は、別紙船荷証券一覧表「到着日」欄各記載の日に、それぞれマナウス港に到着した。
b 被告は、本件各貨物を、港湾会社に引き渡した。
c 港湾会社は、別紙船荷証券一覧表「出庫日」欄各記載の日に、本件各貨物を、訴外セミログに引き渡した。
d 原告らグループの輸出担当者であるチュン・ミュー・ヤンは、平成九年一一月中頃になっても訴外セミログからの本件貨物の代金支払がないため、同年一二月三日、被告香港代理店の担当者であるオウに対し、本件各貨物の引渡状況について、調査を依頼した。
e オウは、平成九年一二月四日、原告らに対し、既に一四のコンテナが訴外セミログに引き渡されたことを伝えた。原告らは、同日、被告に対し、引渡未了の本件各貨物を、原告らに返還するよう要請した。
f オウは、平成一〇年三月一五日、原告らに対し、さらに五つの本件船荷証券記載の本件各貨物が引き渡されていることを伝えた。
(ウ) 以上によれば、原告らが、平成九年一二月四日に、被告に対し、引渡未了の本件各貨物について原告らに返還するよう要請したことは、原告らによる運送品差止処分請求権の行使と認めることができ、その行使時期も、国際海上運送の実態に照らし、遅いとは認められない。
よって、原告らが運送品差止処分請求権を不当に行使しなかったとの被告の主張には理由がない。
(7) 小括
以上によれば、本件各貨物の運送人である被告は、自己の使用する訴外ミツイの注意義務違反により訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行、交付したことにより、本件各貨物を滅失させ、その結果、本件各船荷証券の正当な所持人である原告らに損害を与えたということができ、その損害を賠償する義務(債務不履行)があるというべきである。
4 争点(4)(公権力による処分を理由とする免責の有無)について
ア 前記3(6)認定のとおり、荷受人は、通関の許可を受ける際、税関に対して、運賃が支払済みであることを証明する運送人の署名ないしスタンプのある船荷証券原本又は船荷証券喪失宣言書等を提出する必要があり、これらの書類がなければ荷受人は貨物の引渡を受けることができないこと、前記書類が提出された場合、税関は、荷受人の実質的な権限の有無を調査することなく機械的に貨物を引き渡すのがマナウス港での慣行であると認められる。したがって、マナウス港における貨物の引渡は、直接には、税関が行っているとしても、その手続には運送人の協力が不可欠であり、運送人の債務の履行という側面を有していると解するのが相当である。よって、運送人が通関に必要な書類を荷受人に渡していないにもかかわらず、税関が、貨物を引き渡した等の特段の事情がない限り、税関の引渡行為を指して「公権力による処分」として、運送人が免責されることはないと解するのが相当である。
イ これを本件についてみるに、前記3(6)認定のとおり、マナウス港における被告代理店である訴外ミツイが、訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行、交付したために、税関が本件各貨物をセミログに引き渡したと認められるから、本件貨物引渡は「公権力による処分」には当たらないと解するのが相当である。そして他に、被告の関与しないところで、本件各貨物が訴外セミログに引き渡されたとの事実を認めるに足りる証拠は存在しない。
ウ 以上によれば、本件各貨物の引渡は、国際海上物品運送法四条二項五号にいう「公権力による処分」には当たらず、この点に関する被告の主張は理由がない。
5 争点(5)(国際海上物品運送法一四条一項による責任消滅)について
(1) 被告は、国際海上物品運送法一四条一項が規定する一年以内に、原告らは本件各船荷証券原本を呈示して本件各貨物の引渡を請求していないから、被告の責任は消滅したと主張する。以下、その当否について検討する。
(2) 前記争いのない事実等及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
ア 本件各船荷証券に表章された本件各貨物のうち、最も早く訴外セミログに引き渡されたのは、本件船荷証券1に記載された貨物である。当該貨物は、平成九年八月二一日、港湾会社の管理するコンテナターミナルから出庫され、訴外セミログに引き渡された。
イ その後、平成九年九月一日から同一〇年四月二三日にかけて、本件各貨物は、順次前記コンテナターミナルから出庫され、訴外セミログに引き渡された。
ウ 原告らは、平成一〇年七月二一日、本件訴えを提起した。
(3) 以上の認定事実を前提に、本件において、被告の責任が、国際海上物品運送法一四条一項により消滅しているかを検討する。
国際海上物品運送法一四条一項の一年の期間は、除斥期間であり、その起算点は、運送品が滅失した日であると解するのが相当である。
前記(2)で認定したとおり、本件各貨物は、平成九年八月二一日以降、コンテナターミナルから出庫され、訴外セミログに対し、順次引き渡されており、出庫日に、本件各貨物は滅失するに至ったと認めるのが相当である。そうだとすると、本件訴えは、本件各貨物が訴外セミログに引き渡され滅失した時点から一年を経過しないうちに提起されており、国際海上物品運送法一四条一項によっても、被告の責任は消滅していないと解するのが相当である。よって、この点に関する被告の主張は理由がない。
6 争点(6)(損害の発生及びその額)について
(1) 損害の発生
ア 本件船荷証券2を除く本件各船荷証券には不知約款が記載されているから、運送人である被告は、当然には、本件各貨物が、船荷証券上に記載された運送品と同一であることについて責任を負うものではなく、原告らは、本件各貨物が積み込まれた事実を主張立証しなければならない。
イ 前記争いのない事実等及び証拠(甲30ないし48の各1、2、乙12の1ないし19、乙23の1ないし19)並びに弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
(ア) 原告は、船積地である香港又は南京所在のコンテナヤードでコンテナを借り受け、原告らの工場で本件各貨物を積み込んだ。
(イ) 原告らは、積込みの終わったコンテナを、被告のコンテナヤードに戻した。被告は、コンテナを受け取り、本件各貨物をマナウス港まで運送した。
(ウ) 積込み及び運送の過程で作成される書類としては、荷積通知(荷卸通知)書、コンテナ詰め記録、製品運送伝票、ターミナル受領書、輸出積荷目録等がある。
(エ) 荷積通知書(甲30ないし45の各1)、コンテナ箱詰め記録(甲31の2)、運送伝票(甲48の1)、ターミナル受領書(甲30、32ないし48の各2)、梱包明細書(甲23の1ないし19)には、若干の数量等の記載の違いはあるものの、本件各船荷証券に記載された運送品の内容と一致する貨物がコンテナに積み込まれたとの記載が存在する。また、輸入証明書(乙12の1、3ないし19)の貨物のデータ欄の記載ともおおむね一致している。
ウ 以上の認定事実に、本件において、原告らと訴外セミログは、平成四年以来、継続的に取引を行っており、原告らの訴外セミログに対する年商は四〇〇ないし五〇〇万ドルにのぼることや訴外セミログが本件各貨物発送まで原告らに対し支払の遅延をしたことはないこと(甲27の1)をも併せ考慮すると、原告らは、別紙船荷証券一覧表「貨物明細」欄各記載のとおり、本件各貨物をコンテナに梱包し、被告はそれを船積みしたと認めるのが相当であり、そして、他に、本件船荷証券1ないし19と異なる貨物が積み込まれたと認めるに足りる証拠は存在しない。
エ なお、被告は、本件船荷証券17ないし19の各貨物の売買代金について、既に訴外セミログが、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社に対して弁済しているので、損害は発生していないと主張する。
しかし、被告が当該主張の根拠とするチャンチンキン陳述書添付書面(甲27の5)の該当箇所は、手書きの判読困難な記載であり、当該記載をもって訴外セミログが弁済したと認めることは困難である。また、本件船荷証券17ないし19の貨物の価格は合計二三万一四五九米国ドルであるところ、甲27の5の金額は11万5699.50米国ドルであり、一致しない。のみならず、被告は、本件船荷証券17ないし19の送り状価格の半額とおおむね一致することをもって訴外セミログの弁済の根拠とするが、何故、送り状金額の半額と一致することが弁済を裏付ける事実といえるのかその根拠が未だ明らかとはいえない。そして、本件全証拠を検討するも、他に、訴外セミログが弁済したとの認めるに足りる証拠は存在しない。
以上によれば、一部弁済についての被告の主張は理由がない。
(2) 損害額
運送人の債務不履行による損害賠償の額は、荷揚げされるべき地及び時における運送品の市場価格によって定められる(国際海上物品運送法一二条の二第一項)。
前記争いのない事実等及び証拠(甲1ないし19の各4)並びに弁論の全趣旨によれば、本件各貨物は、別紙船荷証券一覧表「到着日」欄各記載の日時に、マナウス港にそれぞれ荷揚げされたものと認められるところ、本件各貨物の市場価格は別紙船荷証券一覧表「送り状記載金額」欄各記載の金額を下回らないことが認められる。よって、原告オリエント・パワー・カーステレオズ社は二二一万三七八八米国ドルの損害を、また、原告オリエント・パワー・エレクトロニクス社は二三万一四五九米国ドルの損害をそれぞれ被ったと認めるのが相当であり、これを覆すに足りる証拠は存在しない。
7 争点(7)(原告らの損害回避義務違反及び損害拡大防止義務違反の有無)について
前記認定のとおり、本件は、運送人である被告が、注意義務違反により、本件各船荷証券を所持していない訴外セミログに対し、船荷証券喪失宣言書等を発行、交付したため、本件各貨物が滅失したという事案である。船荷証券喪失宣言書等の発行、交付に関し、原告らが関与する余地のない本件において、原告らに損害回避義務があったと認めることはできない。
また、前記認定のとおり、原告らは、平成九年一二月四日に、被告に対し、本件各貨物を含む引渡未了の貨物について原告らに返還するよう要請したにもかかわらず、その後に訴外セミログに引き渡された貨物も存在する。以上の各事実に照らすと、原告らが、長期間にわたって損害の発生防止及び軽減のための適切な手段を講じないまま放置し、その結果、損害が不当に拡大したとの事実は認められない。
以上によれば、原告らに損害回避義務違反及び損害拡大防止義務違反は認められず、この点に関する被告の主張は理由がない。
8 結論
以上によれば、原告らの本訴請求は、いずれも理由があるからこれを認容することにする。
(裁判長裁判官・難波孝一、裁判官・足立正佳、裁判官・富澤賢一郎)
別紙船荷証券一覧表<省略>