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東京地方裁判所 平成10年(ワ)16925号 判決 2001年7月06日

原告

甲野一郎

原告

熊谷地区労熊谷ユニオンティアール建材支部

同代表者支部長

甲野一郎

上記両名訴訟代理人弁護士

海渡雄一

萱野一樹

被告

ティアール建材株式会社

同代表者代表取締役

馬場和夫

被告

エルゴテック株式会社(旧商号株式会社トーヨコ理研)

同代表者代表取締役

神嵜信吾

上記両名訴訟代理人弁護士

中野明安

川俣尚高

主文

1  原告らの請求をいずれも棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  原告甲野一郎が被告ティアール建材株式会社との雇用契約に基づく従業員たる地位にあることを確認する。

2  被告ティアール建材株式会社は,原告甲野一郎に対し,平成10年4月以降毎月25日限り1か月23万2560円の割合による金員を支払え。

3  被告ティアール建材株式会社が,別紙団交要求目録(一)記載の各事項について,原告熊谷地区労熊谷ユニオンティアール建材支部と団体交渉を行う義務のあることを確認する。

4  被告エルゴテック株式会社が,別紙団交要求目録(二)記載の各事項について,原告熊谷地区労熊谷ユニオンティアール建材支部と団体交渉を行う義務のあることを確認する。

第2事案の概要

本件は,被告ティアール建材株式会社(以下「被告ティアール建材」という。)との間で期間1年の雇用契約を締結していた原告甲野一郎(以下「原告甲野」という。)が,同被告のなした雇用期間満了日をもって解雇する旨の意思表示は権利の濫用であって無効であると主張し,被告ティアール建材に対し従業員たる地位の確認と解雇後の賃金の支払を求め,また,原告甲野の所属する原告熊谷地区労熊谷ユニオンティアール建材支部(以下「原告組合」という。)が,被告ティアール建材及び同被告の筆頭株主である被告エルゴテック株式会社(以下「被告エルゴテック」という。)との間で,それぞれ別紙団交要求目録(一)及び(二)記載の事項について,原告組合との団体交渉に応諾する義務があることの確認を求めた事案である。

1  争いのない事実等(証拠を掲記しない事実は争いがない。)

(1)  当事者

ア 被告エルゴテック(旧商号は株式会社トーヨコ理研。平成10年10月1日に現商号に変更。以下,商号変更の前後を通じ「被告エルゴテック」という。),(ママ)平成2年に理研鋼機株式会社とトーヨコ空調株式会社との合併により設立された会社である。

イ 被告ティアール建材は,平成8年11月,被告エルゴテックの上尾工場におけるスチールの扉・窓加工製造部門が分社化されて設立された株式会社であり,平成9年3月,理研アルミ工業株式会社(以下「理研アルミ工業」という。)を吸収合併した。(<証拠略>)

ウ 原告甲野は,昭和62年11月16日,理研アルミ工業に雇用期間1年の臨時工として就職し,以後,同社との間で雇用期間1年の雇用契約を更新していたが,理研アルミ工業が被告ティアール建材に吸収合併されたことにより同被告の従業員となり,平成9年3月31日付けで,期間同年4月1日から平成10年3月31日までとする雇用契約を締結していた。

エ 原告組合は,被告ティアール建材で働く労働者の労働組合であり,平成9年6月2日に結成された。所属する組合員は,支部長である原告甲野外1名であったが,平成10年4月1日原告甲野以外の組合員1名が脱退したことにより,現在は原告甲野のみである。

(2)  被告ティアール建材による人員整理と原告甲野の解雇

被告ティアール建材は,平成10年2月25日付けで,理研アルミ工業から引き継いだ原告甲野を含む従業員140名(正規従業員105名,日給者7名,パート28名。なお日給者とは,雇用期間の定めがあり,賃金が日給により定められている者を指す。)全員に対し,同年3月31日をもって解雇する旨の意思表示をし(以下,原告甲野に対するこの解雇の意思表示を「本件解雇」という。),同年3月31日付けでいったん全員を解雇した上,このうちの40名との間で新たに雇用契約を締結した。

被告ティアール建材は,原告甲野との間では,同年4月1日以降の再雇用契約を締結していない。

(3)  原告甲野の賃金

平成10年3月当時の原告甲野の賃金は,1日当たり1万0580円であり,毎月末締切り翌月25日支払の約束であった。解雇前3か月の平均賃金は月額23万2560円である。

(4)  原告組合の被告らに対する団体交渉要求

原告組合は,被告ティアール建材に対し,平成10年4月1日,同月21日及び同年6月1日,別紙団交要求目録(一)記載の各事項について団体交渉に応じるよう要求したが,同被告はこれに応じていない。

また,原告組合は,被告エルゴテックに対し,同年5月25日及び同年6月22日,別紙団交要求目録(二)記載の各事項について団体交渉に応じるよう要求したが,同被告はこれに応じていない。

(5)  被告ティアール建材による予備的解雇の意思表示

原告甲野は,平成10年7月27日に本訴を提起し,遂行していたところ,平成11年7月22日,建造物侵入・凶器準備集合罪の容疑で逮捕・起訴され,平成12年12月7日まで継続して勾留された。(<証拠略>)

被告ティアール建材は,平成12年2月22日送達の内容証明郵便により,仮に原告甲野と被告ティアール建材との雇用契約関係が平成10年4月1日以降存在していたとしても,原告甲野による労務提供が長期にわたり不可能であることが明らかであるとして,平成12年3月31日をもって原告甲野を解雇し,又は再契約を締結しない旨の意思表示をした(以下「予備的解雇」という。)。(<証拠略>)

2  争点

(1)  本件解雇の効力

(原告らの主張)

ア 原告甲野と被告ティアール建材との間の雇用契約は,形式的には雇用期間1年の有期契約(臨時工)であるが,10年以上にわたって契約が反復更新され,仕事の内容も本工と何ら変わりがないから,実質上は期間の定めのない雇用契約と同視すべきである。

イ 本件解雇はいわゆる整理解雇に該当するところ,以下の事情を総合すれば,相当性を欠き,権利濫用として無効である。

(ア) 人員削減の必要性の欠如

人員削減は,企業経営上の十分な必要性に基づいてなされるべきであり,本件において,この必要性は,被告ティアール建材のみならず親会社である被告エルゴテックを含む企業グループ全体について判断すべきところ,被告エルゴテック及び被告ティアール建材は,そのような経営危機にはなかった。

(イ) 解雇回避努力の放棄

被告ティアール建材は,配転,出向,一時帰休,希望退職募集等,解雇を回避の努力を一切放棄し,いきなり全員解雇という労働者にとって最も打撃の大きい手段をとった。

本件整理解雇は,企業グループ全体では,解雇を回避し,希望退職を募る等の努力をする余地が十分あったにもかかわらず,グループ内の人員整理を下請企業の労働者を犠牲にする形で一方的に強行したものである。

(ウ) 被解雇者選定の妥当性の欠如

被告ティアール建材の行った解雇は,理研アルミ工業から転籍した140名全員をいったん解雇した上,うち40名を再雇用するというもので,これは実質的には指名解雇である。指名解雇の場合,被解雇者の選定については,客観的で合理的な選定基準を設定し,公正に適用して行うべきところ,本件解雇においては,再雇用の選定基準は一切明らかにされていない。

(エ) 手続の不当性

使用者は,労働者又は労働組合に対し整理解雇の必要性,整理方針,整理解雇基準,解雇・退職条件などについて十分な説明をする義務があるにもかかわらず,本件解雇にあたっては,一方的な通告と説明があっただけで,労働者の納得が得られるような手続がされていない。

(被告らの主張)

ア 原告甲野は契約期間1年の日給者であるから,雇用期間満了日である平成10年3月31日の経過により,被告ティアール建材の従業員たる地位を失った。

なお,被告ティアール建材が原告甲野に対して行った解雇予告通知は,法律上は期間満了後再契約を締結しない旨の意思表示(雇止め)である。

イ 仮に原告甲野に対する雇止めについて,期間の定めのない労働契約に関する解雇に関する法理を類推適用すべきであるとしても,被告ティアール建材が原告甲野を含む人員整理を行うに至った経緯は以下に述べるとおりであり,日給者・パートを削減するだけでは足りず,全員解雇(ただし一部は再雇用)しなければ会社経営が立ちゆかなくなり,場合によっては従業員に対する退職金の手当もつかず倒産する可能性もあった状況で,雇用期間の定めある原告甲野との雇用契約を再締結しなかったことについて,権利濫用にあたる事情は存しない。

(ア) 理研アルミ工業は,被告エルゴテックと新日軽株式会社(以下「新日軽」という。)との合弁企業で,被告エルゴテック上尾工場と同一敷地内において,新日軽から受託するアルミサッシの加工製造を主たる業務とし,他に地場の工務店より発注されるマンションのへだて(ベランダの間仕切り),新日軽及び被告エルゴテックから発注されるビル建材の製造も多少行い,また平成6年以降,被告エルゴテックから発注されるアルミ窓の加工製造も行っていた。

合併前における理研アルミ工業は,平成8年3月期の経常損益が1億0200万円の赤字であり,実質的に15億円の累積損失をかかえていた。このような大幅な損失が計上されるに至ったのは,主力アルミサッシ部門を初め,工場として採算が合っていないことによる損失が累積したためであり,所有不動産の売却により損失を補填し,合理化策を講じたものの,単独での存続は困難な状況,すなわち何らかの抜本策を講じない限り会社を清算し従業員全員を解雇せざるを得ない状況まで追い込まれていた。

(イ) 平成8年11月,スチール製扉・窓の加工製造を行っていた被告エルゴテック上尾工場が被告ティアール建材に分社化された上,平成9年3月理研アルミ工業が吸収合併され,理研アルミ工業の実質的な存続と従業員の雇用確保が図られたが,その際,累積損失を一掃するため,理研アルミ工業に残っていた最後の所有不動産が売却された。

合併により旧理研アルミ工業の従業員159名は被告ティアール建材の従業員となったが,旧上尾工揚で働いていた従業員は転籍とならず,被告エルゴテックから被告ティアール建材に出向することとなった。また,合併後の被告ティアール建材は,旧理研アルミ工業のアルミサッシ加工製造部門(第2製造部製造第1課),アルミ窓・へだて・ビル建材加工製造部門(同製造第2課),旧上尾工場(第1製造部)の3部門と管理部門その他から成り立っていた。

(ウ) しかし,合併後も旧理研アルミ工業の各部門の経常収益は改善されず,平成10年3月期にはいずれも経常損失が見込まれ,合併前から赤字基調であった旧上尾工場も合併後さらに業績が悪化して大幅な赤字となり,被告ティアール建材は,平成10年3月期には,早くも5億円程度の債務超過に陥る見通しとなった。

このような状況下において,新日軽において,被告ティアール建材に発注していたアルミサッシの加工製造について,今後新日軽高岡工場において加工製造することとし,被告ティアール建材には発注しない方針が決定された。加えて,近時のゼネコン不況に伴い,被告エルゴテックにおける受注高が減少し,被告ティアール建材に対するアルミ窓の加工製造の発注も当然減少した。

被告ティアール建材にはもはや含みのある資産はなく,また被告エルゴテックに不祥事等が発生したことにより,漫然経営を続けることができない状況となり,被告ティアール建材の経営陣としては,従業員に対する退職金の支払が可能なうちに人員整理(日給者・パートについては期間満了による雇止め)を進めることとし,従業員全員をいったん退職させた上で,アルミサッシ加工製造部門以外の部門から必要人員を再雇用する方針を決めたのである。

(エ) この決定後,被告ティアール建材は,ティアール建材労働組合(従業員140名中78名が加入)及び原告組合と順次協議に入った。

ティアール建材労働組合は,退職金の支給がなされるのであれば従業員の退職はやむを得ないとしてこれを了承し,退職方法は,一部従業員のみを退職させる方法より,全員退職の上一部従業員について再雇用する方法が望ましいとの意見を示した上,具体的事項について,<1>再雇用する人物については被告ティアール建材からの指名による,<2>就業規則では退職金が支給されない入社3年目未満の従業員にも退職金を支給する,<3>有給休暇消化残及びヘルスケア休暇消化残について買い上げをする,<4>再就職のあっせんをする,等の希望を提出したので,被告ティアール建材は,上記提案はすべて受け入れ,実施に移すこととした。なお,ティアール建材労働組合からは,退職金の増額についても求められたが,会社の財政状況を示して増額はできないことを説明し,最終的に了承を得た。

これと並行して,原告組合に対しても,平成10年2月2日,同月9日,同月25日に協議を行い,会社側の上記方針について,人員整理を行わざるを得ない経緯及び理由を懇切丁寧に説明し,原告組合からの質問に対しても丁寧に回答し,理解を求めたが,同意を得ることができなかった。その中で,原告組合から,日給者・パートには退職金が支給されないことに対する不満が示され,ティアール建材労働組合からも質問事項として取り上げられていたこともあり,被告ティアール建材は,日給者には1か月分の,パートは5万円ないし10万円の転進援助金を支給することを決定した。

(オ) 被告ティアール建材は,原告組合の同意を得ることはできなかったものの,平成10年2月16日,ティアール建材労働組合との間で,同年3月31日をもって退職することの覚書を締結したので,同月25日,全従業員に対し解雇通知(日給者・パートについては,法律上は再契約をしない旨の通知)を発送した。

原告組合は,埼玉県労働委員会に対し労働争議あっせんの申立てを行い,同年3月18日及び30日に同委員会によるあっせん期日が開かれたが,被告ティアール建材が人員整理の理解を求めたのに対し,原告組合が人員整理計画の白紙撤回を主張するのみであったため,合意に至らず不調となった。被告ティアール建材は,この間の同月23日及び同月31日にも,原告組合と団体交渉を行ったが,結局原告組合の理解を得ることができなかった。

被告ティアール建材の従業員140名中,原告甲野を除く139名は,特段の異議なく同月31日をもって退職し,被告ティアール建材から退職金・転進援助金を受領した。

再雇用については,今後も被告エルゴテックからの受注が見込まれるアルミ窓・ビル建材部門,地元工務店からの発注があるへだて部門及び管理部門その他について,必要人員を被告ティアール建材の指名により,当該部門内では原則的に正規従業員を優先させて採用する方針のもとに,最終的に40名を再雇用した。アルミサッシ加工部門からの再雇用者はおらず,また,ほとんどの再雇用者は正規従業員であり,日給者は,管理部門において雑役を担当していた者1名のみである。原告甲野は,アルミサッシ加工製造部門に従事していた日給者であり,上記再雇用の基準に照らして,再雇用の対象となることはあり得なかった。

(2)  予備的解雇の効力

(原告らの主張)

原告甲野に対する逮捕・勾留・起訴は,全く不当な政治的弾圧によるものであり,原告甲野が不当弾圧により身柄を拘束され就労できないことをよいことに解雇するのは解雇権の濫用である。

(被告らの主張)

争う。

(3)  被告ティアール建材の原告組合に対する団体交渉応諾義務の存否

(原告組合の主張)

ア 被告ティアール建材は,原告組合から別紙団交要求目録(一)記載の各事項つ(ママ)いて団体交渉に応じるよう要求されているにもかかわらず一切これに応じない。

イ 被告ティアール建材による原告甲野の解雇は(1)において主張したとおり無効であり,原告甲野は被告ティアール建材の従業員たる地位を有する。

ウ 本件解雇前の団体交渉等における被告ティアール建材の説明は,原告らの資料開示要求を一貫して拒否し,抽象的で形式的説明を行っただけで,実質的には一方的通告に終始したのであり,団体交渉に応じる義務を尽くしたとはいえない。

(被告ティアール建材の主張)

ア 原告組合は,原告甲野外1名を構成員とする労働組合であったが,外1名の組合員は平成10年4月1日に脱退したため,原告甲野が唯一の組合員である。そして,原告甲野も同年3月31日をもって被告ティアール建材従業員たる地位を喪失したから,被告ティアール建材には自己の従業員を組合員に有しない労働組合との間の団体交渉に応じる義務はない。

イ 実質的に見ても,被告ティアール建材は,原告組合との間で平成10年2月2日以来団体交渉あるいは埼玉県地方労働委員会のあっせん手続等で本件人員整理問題について協議を重ねたが,原告組合は人員整理計画の撤回を求めるだけで何らかの一致点を見いだせる可能性がないため,団体交渉を打ち切ったのであり,被告ティアール建材にこれ以上の団体交渉応諾義務はない。

(4)  被告エルゴテックの原告組合に対する団体交渉応諾義務の存否

(原告組合の主張)

以下の事情からすれば,被告エルゴテックは,原告甲野の実質的使用者であって,本件解雇を実質的に決定した者であるから,原告組合との団体交渉に応じる義務がある。

ア エルゴテックは,被告ティアール建材の筆頭株主であり,親会社にあたる。

イ 本件解雇当時の被告ティアール建材の役員のうち3名は被告エルゴテックの役員を兼ねていた。

ウ 被告ティアール建材は,平成10年3月31日までは被告エルゴテックと新日軽両社からの業務を行っていたが,本件整理解雇後は被告エルゴテックの業務のみを行っている。

エ これまで,原告組合と被告ティアール建材との団体交渉の場には被告エルゴテックから被告ティアール建材に出向していた浅場某が出席し答弁に立っていた。

(被告エルゴテックの主張)

争う。被告エルゴテックは,原告組合との関係では使用者にあたらず,団体交渉に応じる義務はない。

第3争点に対する判断

1  争点1(本件解雇の効力)について

(1)  原告甲野と被告ティアール建材との雇用契約において,雇用期間が平成9年4月1日から平成10年3月31日までの1年間とされていたことは前述のとおりであるところ,争いのない事実等,証拠(<証拠・人証略>)及び弁論の全趣旨によれば,原告甲野は,昭和62年11月16日理研アルミ工業に採用され(当時の原告甲野の年齢41歳),試用期間を経て,昭和63年4月から雇用期間1年間,日給月給制の雇用契約を締結し,期間が満了する都度その更新を重ね,平成10年3月31日の時点で勤務期間が通算11年を超えていたこと,この間,原告甲野と理研アルミ工業及び被告ティアール建材との間では,少なくとも,平成元年,2年,3年,7年,8年,9年の各3月ころ,雇用期間を毎年4月1日から翌年3月31日までとする雇用契約書が作成されたこと,これら雇用契約書には,いずれも,「契約変更及び解約」として,「引き続き会社が必要とし,健康であり,本人が希望する場合」に雇用契約を更新する旨が記載されていること(合併の前後を通じ,契約書には同一の書式が用いられ,文言も同一である。),原告甲野は,理研アルミ工業時代から一貫してアルミサッシ加工製造の仕事に従事し,合併後の被告ティアール建材においても,アルミサッシ加工製造を行う第2製造部製造第1課に配属されていたこと,同課には,44名前後の正規従業員のほか,原告甲野同様の日給者5名前後とパート従業員20名前後が勤務していたが,原告甲野の行っていた仕事の内容は,理研アルミ工業の時代から正規従業員と何ら異なるところがなかったこと,以上の事実が認められる。

同認定事実によると,本件解雇の意思表示は,法的には,期間の定めある雇用契約について雇用期間が満了する平成10年3月31日の後契約を更新しないとの意思表示であって,いわゆる雇止めの意思表示であると解すべきであるが,原告甲野の従事していた業務内容が正規従業員と異ならず,かつ10年以上にわたって契約が更新されてきたこと及び雇用契約書の契約更新に関する文言等からすれば,原告甲野と理研アルミ工業及び同社の地位を承継した被告ティアール建材との間では,会社側に景気の変動等による労働力過剰状態を生じ又は原告甲野に健康上労働に耐えないという事情が認められない限りは,1年の雇用期間満了後雇用契約は当然更新されることが契約当事者双方において予定されていたというべきであり,そのような労働者の雇止めは,実質において解雇と変わりがないから,雇止めとするについては,解雇に関する法理が類推されるべきである。したがって,解雇であれば,解雇権の濫用として解雇が無効となるような事情が存在する場合には,再契約を締結しないことは権利の濫用として許されず,従前の雇用契約が更新されたと同一の法律関係を生じると解される(もっとも,解雇に関する法理が類推されるべきであるといっても,期間の定めのない雇用契約における解雇の場合と,期間の定めがある雇用契約における期間満了後の雇止めの場合とでは,権利の濫用となるべき事情・要件は自ずと異なるというべきであるが,この点はひとまずおく。)。

(2)  そこで進んで,同事情の存否について判断する。

ア 争いのない事実等及び証拠によれば,本件解雇に至る事情について,次の事実が認められる。

(ア) 理研アルミ工業は,被告エルゴテックと新日軽との合弁会社(資本金5000万円)で,新日軽の下請企業として,同社から受託する住宅建材(アルミサッシ)の加工製造及びビル建材の加工製造を主力業務としていた。

昭和61年4月以降の営業実績をみると,第33期(平成3年4月から平成4年3月)までは売上高及び利益を順調に伸ばしていたものの,同期の総売上高75億1700万円(100万円未満四捨五入,以下の損益計算関係の数字も同じ。)をピークに,以後総売上は毎期10億円近く減少し続け,37期(平成7年4月から平成8年3月)の総売上高は41億8800万円まで落ち込んだ。この間,35期(平成5年4月から平成6年3月)には3億1500万円もの損失(税引後利益)を計上し,所有不動産を順次売却して損失を補填していたが,赤字基調を脱することはできなかった。

理研アルミ工業の業績悪化の主要因は,新日軽からのビル建材加工製造の受注量が急激に減少したためであり,被告エルゴテックより新たにアルミ窓の加工製造を受託したものの,ビル建材加工製造部門の落ち込みを補うには至らなかった。37期決算では,売上高41億8800万円のうち,アルミサッシの加工製造を行う製造第1課の売上高が約31億5500万円,ビル建材・特品・へだて・アルミ窓の加工製造を行う製造第2課の売上高が10億3300万円(うちビル建材が5億9600万円)であったが,製造第1課の営業損益は4200万円の損失(経常損益では6700万円の損失)であり,製造第2課についても,特品及びアルミ窓部門は利益を計上したものの,同課の売上の6割近くを占めるビル建材部門が大幅な損失となったため,課全体の営業損益は2700万円の損失(経常損益では3500万円の損失)であり,全体では,経常損益べースで1億円以上の赤字となった。

この間,理研アルミ工業では,余剰人員の削減を進め,また役員・管理職の給与カット等の方策をとったが,赤字脱却の効果はなかった。

ちなみに,この人員削減により,従業員数は,吸収合併後の平成10年3月までを通じてみると,平成6年1月に158名いた正規従業員は平成7年1月に127名,平成8年1月に109名,平成10年3月に105名と,また平成6年1月に199名いた総従業員数は,平成10年3月に140名へとそれぞれ減少していた。

上記の経営状況の下で,理研アルミ工業は,平成8年12月保有不動産をすべて売却し累積損失を解消した上で,平成9年3月,被告ティアール建材に吸収合併された。

(争いのない事実等,<証拠・人証略>)

(イ) 他方,被告エルゴテックは,空調事業と建材事業の2事業を主たる業務とし,旧上尾工場においてスチール製の扉・窓等金属製建具の製造加工を行っていたが,合理化の一環として旧上尾工場の業務を分社化する方策をとり,平成8年11月22日に資本金4000万円の被告ティアール建材が設立された。被告ティアール建材は,平成9年3月,旧上尾工場の同一敷地内で業務を行っていた理研アルミ工業を吸収合併することにより,アルミとスチール素材の金属製建具の加工製造を主な業とする資本金9000万円の株式会社となった。

合併後の持株比率は,被告エルゴテックが44.44パーセント,新日軽が15.56パーセント,被告エルゴテックのグループ会社が34.45パーセント,株式会社竹中工務店が5.55パーセントであり,常勤役員5名のうち,代表取締役専務中田武士と取締役清水紘一は新日軽からの派遣取締役で,非常勤役員には被告エルゴテックの役員3名と新日軽の役員2名が含まれていた。

(<証拠・人証略>)

(ウ) 合併後の被告ティアール建材の組織は,<1>被告エルゴテック旧上尾工場の業務を引き継いだ第1製造部,<2>旧理研アルミ工業の業務を引き継いだ第2製造部,<3>管理部門その他に分かれ,第2製造部は,理研アルミ工業時代と同様,アルミサッシ加工製造を行う第1課と,アルミ窓・へだて・ビル建材加工等を行う第2課に分かれ,旧上尾工場の従業員約98名は,被告エルゴテックから出向する形で第1製造部に所属し,旧理研アルミ工業の従業員は,従前の業務内容に従って第2製造部と管理部門等その他に所属することになった(ただし2名の正規従業員のみ第1製造部に所属)。

第1製造部を除く各部門の人員は,第2製造部第1課が69名(正規従業員44名,日給者5名,パート20名),同第2課が35名(正規従業員29名,日給者1名,パート5名),管理部門その他が34名(正規従業員30名,日給者1名,パート3名)であった。(<証拠略>)

(エ) ところで,新日軽では,平成9年3月期決算において,売上高が前期の88.40パーセントに落ち込み,88億円の損失(経常利益)を計上するなど,経営が悪化したことから,経営再建のため大胆な経費削減策が検討され,合理化の一環として,平成9年中に希望退職により100名以上の人員削減を行う一方,自社工場の操業度を上げ,コストダウンを図るため,被告ティアール建材に発注していたアルミサッシ加工製造の6割程度と特窓の全量を平成10年4月以降新日軽の自社工場に移管する方針を打ち出し,平成9年末から平成10年の年頭ころにかけて,これを被告ティアール建材の経営陣に伝えた。被告ティアール建材側では,新日軽に対し,同方針の変更,受注単価の引上げ,他の仕事の発注等を要請したが,新日軽側では,同社の累積赤字155億円を改善すべく今後なお400名の希望退職者を募集する経営状況であるため,いずれについても応じられないとの確固たる姿勢を示した。このため,被告ティアール建材は,同年4月以降確実となった新日軽からの受注激減に対する対応策の検討を迫られることとなった。

(<証拠・人証略>)

(オ) また,同時期,被告ティアール建材の株式の約44パーセントを保有する被告エルゴテックにも緊急の経営改善計画を迫られる事態が生じていた。すなわち,被告エルゴテックは,トーヨコ建設株式会社を中核とするトーヨコグループに属していたが,平成9年12月,100億円近い多額の会社資金が不正にグループ内他社に流用され,その一部30億円以上が回収不能見込みであることが判明した。このため,被告エルゴテックでは,トーヨコグループから離脱する一方,平成10年1月に緊急経営改善計画を策定し,収益力を改善するため,希望退職実施による人員削減,不採算部門からの撤退等の方針を打ち出した。具体的には,空調部門から140名,建材部門から80名の希望退職を募集して人件費を圧縮しつつ,建材事業部を分社化し,同部門の従業員を被告ティアール建材に移籍させ,製造販売を一体化させることによって本社経費等を節減し,黒字化を図る等の方針である。

なお,被告エルゴテックの第7期(平成9年4月から平成10年3月)決算では,受注高が前期比28.6パーセント減,売上高も同9.1パーセント減であり,営業利益は6億7200万円を計上したが,前期比で49.9パーセントの減となった上,上記流出資金の回収不能による37億5600万円の特別損失その他の特別損失により,44億5000万円の当期損失を計上した。とりわけ,建材部門では,受注高が前期比31.4パーセント減,売上高も前期比22.1パーセント減となり,価格競争の激化により今後も大幅な改善が見込めない状況にあった。このため,被告エルゴテックは,同期中にビル建材事業の縮小を決定した。

(<証拠略>)

(カ) 前述のとおり,合併前の理研アルミ工業及び被告エルゴテック旧上尾工場はともに赤字体質の会社であり,被告ティアール建材では,合併前から人員削減,役員・管理職の報酬・給与カットなど,一応の経営改善努力が続けられたものの,赤字体質を脱却することができずにいた上,上記(エ),(オ)の事態に遭遇したことから,被告ティアール建材は,平成10年3月期における予想損益計算を踏まえつつ,新日軽の前記移管計画等が実施された場合の対応策を検討した。そして,新日軽からの残受託量について工賃から算出した損益ゼロベースでの雇用可能人員(13名程度と算出)では生産可能な体制を取ることができないことから,新日軽からの受託加工事業から全面的に撤退せざるを得ないこと,同撤退に伴う余剰人員の吸収は,被告ティアール建材内部では到底不可能であり,被告エルゴテックにおいても経営再建策が打ち出され希望退職募集を実施する予定である等の状況下では,被告エルゴテックや関連会社に余剰人員を受け入れてもらえる可能性はほとんどないこと,以上の判断から,余剰人員は解雇せざるを得ないとの結論に達し,平成10年1月26日開催の取締役会において,この方針を承認決議した。

なお,平成10年1月時点における被告ティアール建材の予想損益計算(平成9年4月から平成10年3月まで)では,粗利ベースですら利益を計上できるのは,第2製造部製造第2課の一部特品ラインのみであり,売上高50億3000万円の第1製造部,同21億9200万円の第2製造部製造第1課は,営業利益ベースでそれぞれ3億4800万円,9700万円の赤字が見込まれ,第2製造部全体でも1億3400万円の赤字が見込まれていた。

被告ティアール建材では,余剰人員を解雇する場合の退職金については,要支給額の1割程度しか積み立てがされておらず,他に原資となるべき資産もない状況にあったため,労働組合に上記方針を受け入れてもらうべく,全員に退職金全額を支給できるよう,被告エルゴテックに対し,不足額の融資を要請していた。

(<証拠・人証略>)

(キ) 被告ティアール建材には,全従業員約140名中正規従業員78名が加入するティアール建材労働組合と,平成9年6月に結成され,原告甲野外1名が加入する原告組合の2労働組合が存したところ,被告ティアール建材は,上記取締役会の決定を受け,同年1月27日以降,上記2労働組合に対する説明及び団体交渉を行った。

まず,ティアール建材労働組合に対しては,同年1月27日及び同年2月4日,組合委員長,副委員長及び書記長の3名に,新日軽の内製化方針及び被告エルゴテックの経営再建計画等,会社が直面している上記の実情を説明した上で,従業員の退職を要請し,退職者の範囲を新日軽からの受託加工部門に限定するか,いったん全員退職として退職金を支給し,継続事業(第1製造部から仕事を受託するアルミ窓・建材加工部門とへだて部門)に必要な人員を再雇用とするかの判断をティアール建材労働組合側に委ねた。同労働組合は,会社の置かれた状況から人員整理はやむを得ないと判断し,退職金を確保するため全員退職の方法を選択する旨回答した上,退職金の割増し,入社3年未満の者に対する退職金の支給,再就職あっせん,有給休暇の買上げ等の要求を会社側に提出し,これら要求事項について同年2月12日,同月24日及び同年3月5日に団体交渉が開かれた。交渉の結果,<1>組合は組合員全員について同年3月31日付けで会社都合による解雇とすることについて承諾する,<2>退職金は会社都合による退職金を原則として退職後1か月以内に支給し,就業規則では支給対象外の勤続3年未満の者に対しても基本給の1か月相当分を支給する,<3>退職時における年次有給休暇未消化日数に相当する金額を支給すること等を合意した。また,再雇用対象者については,最終的に同労働組合側から,希望者を募集する方法ではなく,会社側で採用を決定するよう申入れがされた。

(以上につき,<証拠・人証略>)

原告組合に対する説明及び団体交渉は,これと並行して,平成10年2月2日,同月9日,同月16日,同月26日に開かれた。被告ティアール建材は,会社が置かれている状況及び人員整理方針について,ティアール建材労働組合に対して行ったのとほぼ同様の説明を行い,原告組合に対し了解を求めたが,原告組合は,事態回避のための経営努力がなされていない等の理由で,基本的に全員解雇の白紙撤回を求める姿勢を示し,交渉は平行線をたどった。このため,原告組合は,同月23日,埼玉県地方労働委員会に対し解雇撤回等を求めて労働争議のあっせんを申請したが,団体交渉の際と同様に見解が対立したままで合意に至らず,同年3月23日,同月31日に開かれた団体交渉でも同様の経過をたどったため,被告ティアール建材側は,解雇期限の同年3月31日をもって交渉を打ち切った。

なお,この団体交渉の中で,被告ティアール建材側は,原告組合から出された日給者・パートに対する退職金支給の有無についての質問に対し,当初,雇用契約書どおり退職金を支給しない旨回答していたが,その後,パート従業員からの要請を受け,転進援助金として,日給者には1か月分の給与相当額,勤続3年以上のパートには10万円,同3年未満のパートには5万円をそれぞれ支給する(支給日は同年4月25日)ことを決定し,原告組合に対してもその旨説明した。

(以上につき,<証拠略>)

(ク) 被告ティアール建材は,平成10年2月25日付けで,全従業員に対し,同年3月31日をもって解雇する旨を通知した。

解雇時点で在籍していた従業員は次のとおりである。

第2製造部第1課 正規従業員 44名

日給者 5名

パート 20名

第2製造部第2課 Dライン(アルミ窓等) 正規従業員 15名

日給者 1名

パート 2名

特品ライン(へだて) 正規従業員 12名

パート 1名

第1製造部 正規従業員 2名

管理部(第2製造部管理担当) 正規従業員 23名

日給者 2名

パート 3名

営業・品質管理・出向 正規従業員 9名

被告ティアール建材は,上記従業員のうち,第2製造部2課Dラインに属していた正規従業員11名とパート2名,同特品ラインに属していた正規従業員5名,第1製造部に属していた正規従業員1名,管理部(第2製造部管理担当)に属していた正規従業員13名,日給者1名及びパート2名,営業等に属していた5名の合計40名を再雇用したが,原告甲野の属していた第2製造部2課からは,正規従業員であると日給者・パートであるとを問わず,再雇用された者はいない。

なお,被告エルゴテックから出向していた第1製造部の従業員数は,希望退職等により,98名から75名に削減された。

(<証拠・人証略>,弁論の全趣旨)

(ケ) 被告ティアール建材は,同年4月25日,原告甲野に対し,転進援助金及び有給休暇買上げ分合計約55万円を支払ったが,原告甲野がその受領を拒絶して返還したため,同金員を供託した。(<人証略>)

イ 人員整理の必要性について

上記認定事実によれば,理研アルミ工業は,平成5年ころ以降売上げの急激な減少による赤字に苦しみ,保有不動産を売却して損失を補填する一方,新規受注の獲得,人員削減や役員報酬カットなど,一応の経営改善努力をしていたものの,これといった効果も見られず,結局赤字基調のまま被告ティアール建材に吸収合併され,同被告の第2製造部として業務を継続していたところ,合併後の第2製造部の業績も依然振るわず,加えて,第2製造部の主力受注先である新日軽から,平成10年4月以降のアルミサッシ加工製造の発注量を従前の4割に減少させる等の通告がなされたことにより,第2製造部第1課は同年4月以降これを存続させることが経営上不可能な状態となり,これを漫然放置するときは,被告ティアール建材が早晩倒産に至る可能性が極めて強い状況に立ち至っていたというべきである。そのような状況下で,被告ティアール建材が,新日軽からの受注加工事業から撤退し,この事業部門を事実上閉鎖することとしたのは,経営上やむをえない必要があり,かつ合理的な措置であったということができる。そして,この事業部門閉鎖により,第2製造部第1課だけで69名,同第2課及び管理部門をも含めると全従業員の2分の1をはるかに超える過剰人員を生じることとなるから,人員整理の必要があったことは明らかである。

原告らは,被告ティアール建材を含めた被告エルゴテックの企業グループ全体についてみると人員整理の必要性がなかったと主張するが,被告ティアール建材に大規模な人員整理の必要があったことは上記のとおりである上,被告エルゴテックも220名もの希望退職者を募集しており,これまた相当数の人員整理の必要があったことは明らかであって,原告らの同主張は採用しがたい。

また,原告らは,被告ティアール建材が配転,出向,一時帰休,希望退職募集等の解雇回避努力を尽くすべきであったと主張するが,前記認定事実に照らすと,被告ティアール建材内部にも,また被告エルゴテックとその関連会社にも,結果的には100名となった余剰人員を配置転換や出向で吸収しうるだけの労働力需要がなかったことは明らかである。そして,被告ティアール建材の労働力過剰状態は,直接には新日軽からの受注激減によって生じたものであるところ,理研アルミ工業時代から数年来受注量の減少が続いていたことや,当時の建築関係業界が置かれた経済情勢からすると,近い将来の需要回復を期待すべき根拠は皆無であったといえるから,過剰人員に対する対処の方法として一時帰休を選択すべきであったとも考えられない。さらに,上記のような極めて多数の過剰人員を希望退職の方法で解消するというのも現実的でない上,被告ティアール建材では退職金の原資となるべき金員が極端に不足しており,希望退職の方法をとった場合残留従業員の将来の退職金支払に不安が残るため,全員解雇の方法を採用したのであり,退職金受給資格のある正規従業員の大多数が所属するティアール建材労働組合もむしろこの方法を希望したことも考慮すると,被告ティアール建材が希望退職を募集せず,全員退職の方法をとったことには合理性があったというべきである。

ウ 再雇用の方法について

前記のとおり,被告ティアール建材は,140名の従業員全員をいったん解雇し,その上で被告ティアール建材が選択した従業員40名との間で再雇用契約をしたが,全員解雇は従業員の退職金受給を確保するための方策であったから,実質的にみると,被告ティアール建材が被解雇者を選定して整理解雇を行ったと同一の結果が生じたともいえるところ,原告らは,この点について,被告ティアール建材による被解雇者の選定が妥当性を欠いていたと主張する。

しかし,被告ティアール建材のとった再雇用方針は,基本的に,事業の継続する第2製造部製造第2課のDライン及びへだて部門に従事していた者及び営業・管理部門の者に範囲を限り,その一部を対象とするもので,実質的には,<1>全面撤退する製造第2部製造第1課に所属していた者は全員解雇し,<2>継続事業部門である同部製造2課についても,新日軽からの受託業務撤退により過剰となる人員分及び本来的に過剰であった人員分を一部解雇し,<3>これに伴い余剰となる管理部門の人員も一部解雇するのと同じこととなる。この方針は,客観的にみて合理的な基準によるもので,妥当なものということができる(他の選択肢として,全従業員を対象に,まず40名近くいた日給者・パートを解雇(雇止め)し,しかるのち正規従業員の解雇対象者を選別する方法も考えられるが,日給者である原告甲野に対する本件解雇の効力には影響を及ぼすものではないので,これ以上検討しない。)。

そして,現実に再雇用契約が締結された従業員は前記のとおりであり,少なくとも,再雇用者の中には,第2製造部製造第2課に所属していた従業員は,日給者・パートはもとより,正規従業員であった者も一人も含まれていないから,被告ティアール建材は,上記の方針に従って原告甲野に対する本件解雇を実践したと認めることができる。

したがって,原告らの上記主張も採用することができない。

エ 解雇手続について

原告らは,解雇に至る手続が不当であると主張するが,前記認定のとおり,被告ティアール建材は,団体交渉及び労働委員会のあっせんの場において,原告組合の代表者である原告甲野に対して,6回以上にわたり,整理解雇の必要性,整理方針,整理解雇の基準,退職条件について十分な説明を行っていると認められるから,原告らの同主張も採用しがたい。

オ 以上検討したところによれば,第2製造部製造第2課に所属していた日給者である原告甲野に対し,被告ティアール建材が行った本件解雇(雇止め)には,その必要性及び合理性が認められるのであって,これが権利の濫用として許されないと評価すべき特段の事情を認めることはできない。

(3)  以上によれば,原告甲野と被告ティアール建材との間の雇用契約は,平成10年3月31日をもって終了したというべきであり,争点2について判断するまでもなく,原告甲野の請求は理由がないこととなる。

2  争点3,4(被告らの団体交渉応諾義務)について

原告組合に所属する組合員が原告甲野のみであることは争いがないところ,1において判断したとおり,原告甲野は平成10年3月31日をもって被告ティアール建材の従業員たる地位を失ったから,原告組合には,被告ティアール建材を使用者とする労働者の構成員が存在しないこととなる。そうであれば,原告組合が被告ティアール建材に対し団体交渉を求めうる根拠はない。

また,原告組合の被告エルゴテックに対する請求も,原告甲野が被告ティアール建材の従業員たる地位にあることを前提とすることが明らかであるから,同様に,原告組合が被告エルゴテックに対し団体交渉を求めうる根拠はないことになる。

したがって,原告組合の被告らに対する請求は,その余について判断するまでもなく理由がない。

第3(ママ)結論

よって,原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決する。

(裁判官 三代川三千代)

団交要求目録(一)

1. 140名解雇問題について説明を求める。

2. 被告ティアール建材の赤字の月別報告を文書で回答すること

3. 40名の再雇用について説明を求める。

4. 1998年4月22日付で送られてきたテント撤去小屋等撤去申入書の件について説明を求める。

5. その他関連事項について

団交要求目録(二)

1. 原告ティアール労組支部長である原告甲野の解雇撤回を求め,今後ティアール建材もしくは株式会社トーヨコ理研の中において同人の雇用を保障する件について説明を求める。

2. 就労希望者の雇用を保障する件について説明を求める。

3. 正社員約80名を組織する訴外ティアール建材労働組合と被告ティアール建材とで1998年1月23日に団交を行ない,全員解雇について説明がなされて同組合の同意を取り付け,同年2月16日に協定書を取り交わした。しかるに,原告ティアール建材労組には一切の説明がなかったことについて説明を求める。

4. 1998年2月2日,会社側は,熊谷ユニオンティアール建材支部に倒産という形をとらないで社員全員の解雇と何名かの「再雇用」をしたいという説明を行なっただけで,労働者と労働組合にとって解雇という一番重大な問題に関して,会社は熊谷ユニオンティアール建材支部に対し,ティアール建材労働組合とは違った対応をしたことは不当であり,説明を求める。

5. ティアール建材株式会社が,新日軽の仕事を全面撤退することに関して,親会社である株式会社トーヨコ理研はどのような指示を与えたのか説明を求める。

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