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東京地方裁判所 平成10年(ワ)18256号 判決 1999年2月24日

原告

株式会社ダイエーオーエムシー

代表者代表取締役

佐々木博茂

訴訟代理人弁護士

片岡義広

小林明彦

被告

破産者株式会社ベストフーズ

破産管財人

馬橋隆紀

訴訟代理人弁護士

岡本弘哉

被告

代表者法務大臣

中村正三郎

指定代理人

清野正彦

外六名

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  原告と被告らとの間において、原告が別紙供託目録記載の各供託金について還付請求権を有することを確認する。

2  訴訟費用は被告らの負担とする。

二  被告ら

主文と同旨

第二  事案の概要

一  本件事案の骨子

株式会社ベストフーズは、原告に対し、平成九年三月三一日、株式会社イヤマフーズが原告に対して負担する一切の債務を担保するために、株式会社ベストフーズが株式会社ダイエーとの間の継続的取引契約に基づいて取得する商品売掛代金債権及び商品販売受託手数料債権(いずれも現在及び将来の債権)を譲渡するとともに、債務者である株式会社ダイエーに対し、その旨の確定日付ある通知をした。

原告は、その後、右譲渡担保権を実行すべき事由が生じたとして、株式会社ダイエーに対し平成一〇年三月三一日付け譲渡担保権実行通知書をもって譲渡担保権実行の通知をし、約定に基づき被担保債権である株式会社ベストフーズの株式会社ダイエーに対する商品売掛代金債権及び商品販売受託手数料債権について直接の取立権を取得したと主張している。

他方、被告国は、右の譲渡担保に係る株式会社ベストフーズの株式会社ダイエーに対する商品売掛代金債権及び商品販売受託手数料債権は滞納者である株式会社ベストフーズに帰属するものとして、右債権につき滞納処分による差押えを行い、株式会社ダイエーに対し、平成一〇年四月三日付け及び同月六日付け差押通知書をもってその旨を通知した。

このようなところから、株式会社ダイエーは、右債権につき、平成一〇年五月二六日、債権者不確知を理由として、別紙供託目録記載のとおり、被供託者を株式会社ベストフーズまたは原告とする供託をした。

そこで、原告において、もう一方の被供託者である破産者株式会社ベストフーズ(平成一〇年六月二五日・破産宣告)の破産管財人と、差押債権者である国を被告として、原告が別紙供託目録記載の各供託金の還付請求権を有することの確認を求めて提訴したのが、本件事案である。

二  基礎となる事実

1  本件債権譲渡担保設定契約と債務者に対する通知

株式会社ベストフーズは、原告との間で、平成九年三月三一日、株式会社イヤマフーズが原告に対し負担する一切の債務の担保として、左記の債権(以下「本件担保差入債権」という)を原告に譲渡する旨の契約(以下「本件債権譲渡担保設定契約」という)を締結するとともに、債務者である株式会社ダイエーに対し、同年六月四日付けの債権譲渡担保設定通知書を翌五日到達の内容証明郵便物として送付し、右債権譲渡担保設定の事実を通知した(以下「本件譲渡担保設定通知」という)。〔甲二号証、三号証の一、二〕

債権者 株式会社ベストフーズ

債務者 株式会社ダイエー

債権の内容 ① 債権者が債務者に対して、平成九年三月三一日現在有する商品売掛代金債権及び商品販売受託手数料

② 債権者が債務者に対して、同日から一年の間に取得する商品売掛代金債権及び商品販売受託手数料

2  担保提供者株式会社ベストフーズの弁済受領権

本件債権譲渡担保設定契約においては、約定の譲渡担保権実行の事由が生じたことに基づき、譲渡担保権者である原告が第三債務者株式会社ダイエーに対し譲渡担保権の実行通知をするまでは、担保提供者である株式会社ベストフーズは、その計算において、株式会社ダイエーから担保債権の弁済を受けることができるものとされている。〔甲二号証〕

3  株式会社ベストフーズの株式会社ダイエーに対する売掛代金債権等

株式会社ベストフーズは、株式会社ダイエーとの間の継続的取引により、同社に対し、次のとおりの売掛代金債権等(以下「本件債権」という)を有していた。〔争いがない〕

① 平成一〇年三月一一日から同月二〇日までの間の商品売掛代金及び商品販売受託手数料・一億三七三七万二七七三円(ただし、平成一〇年四月一三日の時点における金額。)

② 平成一〇年三月二一日から同月三〇日までの間の商品売掛代金及び商品販売受託手数料・一億四二九六万〇五一八円(ただし、平成一〇年四月二一日の時点における金額。)

4  原告の取立権の取得

本件債権譲渡担保設定契約における被担保債権の連帯保証人である株式会社ベストフーズが、平成一〇年三月二五日、第一回目の手形不渡を出したため、原告と株式会社イヤマフーズとの間の債務弁済契約公正証書三条二号、本件債権譲渡担保契約証書三条により、債務者株式会社イヤマフーズは、同日をもって被担保債務について期限の利益を喪失した。〔甲二、四号証、弁論の全趣旨〕

原告は、本件債権譲渡担保契約証書三条に基づいて、第三債務者株式会社ダイエーに対し、平成一〇年三月三一日、書面により譲渡担保権の実行を通知し(以下「本件譲渡担保権実行通知」という)、本件債権について、株式会社ダイエーに対する取立権を取得した。〔甲二、六号証〕

なお、右の時点においては、譲渡人である株式会社ベストフーズから債務者である株式会社ダイエーに対し確定日附ある証書による債権譲渡の通知はされていない。〔弁論の全趣旨〕

ちなみに、本件債権譲渡担保設定契約に係る平成一〇年五月二六日現在の被担保債権は、次のとおりである。〔弁論の全趣旨〕

① 原告と株式会社イヤマフーズとの間の平成五年三月二日付け金銭消費貸借契約に基づく貸付金残元金・三億四四〇八万〇二三五円

② 右①の貸付金残元金に対する平成九年一月一日から完済まで年一四パーセントの割合による遅延損害金

5  被告国の滞納処分による差押え

被告国は、本件債権が国税の滞納者である株式会社ベストフーズに帰属しているとの前提に立ち、次のとおり滞納処分による差押え(以下「本件差押え」という)をした。

① 3項の①の売掛代金債権を対象として、関東信越国税局大蔵事務官から株式会社ダイエー宛ての平成一〇年四月三日付け差押通知書をもってされた滞納処分による差押え〔甲五号証の一〕

② 3項の①の売掛代金債権を対象として、大宮税務署大蔵事務官から株式会社ダイエー宛て平成一〇年四月三日付け差押通知書をもってされた滞納処分による差押え〔甲五号証の二〕

③ 3項の①の売掛代金債権を対象として、大宮税務署大蔵事務官から株式会社ダイエー宛て平成一〇年四月六日付け差押通知書をもってされた滞納処分による差押え〔甲五号証の三〕

④ 3項の②の売掛代金債権を含む平成一〇年三月二一日以降の商品売掛代金債権を対象として、関東信越国税局大蔵事務官から株式会社ダイエー宛て平成一〇年四月三日付け差押通知書をもってされた滞納処分による差押え〔甲五号証の四〕

6  本件供託

株式会杜ダイエーは、平成一〇年五月二六日、債権者不確知を理由として、別紙供託目録記載のとおり、被供託者を株式会社ベストフーズまたは原告とする供託をした。〔争いがない〕

三  争点

本件の争点は、原告は、本件債権譲渡担保設定契約に基づく本件債権の譲受について、本件差押えをした被告国に対し対抗することができるか否か、である。

1  右の争点に関する判断は、基本的には、本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があったのは、①本件債権譲渡担保設定契約が締結された平成九年三月三一日の時点であると認められるのか、それとも、②本件譲渡担保権実行通知が第三債務者である株式会社ダイエーに到達した平成一〇年三月三一日の時点であると認められるのか、によって決せられる。

すなわち、本件債権の譲渡(移転)があったのが右の①の時点であるとすれば、右譲渡については、前示二1のとおり、平成九年六月五日、譲渡人である株式会社ベストフーズから債務者株式会社ダイエーに対し確定日附ある証書をもってした譲渡担保設定通知が到達しているから、本件債権譲渡は民法四六七条一項、二項の定める譲渡についての第三者対抗要件を具備していることになり、これに対し、本件債権の譲渡(移転)があったのが右の②の時点であるとすれば、前示二4のとおり、右の時点においては、譲渡人である株式会社ベストフーズから債務者である株式会社ダイエーに対し確定日附ある証書による譲渡通知がされていないから、本件債権譲渡は民法四六七条一項、二項の定める譲渡についての第三者対抗要件を具備していないことになるからである。

2  もっとも、本件債権の株式会杜ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があったのが右の②の時点であると解されるとしても、将来債権の譲渡については、一般に、債権の発生、成立前の譲渡契約時に譲渡人がした確定日附ある証書による譲渡通知に第三者対抗力を認めることができると解されるところ、本件債権も、前示二1のとおり、本件債権譲渡担保設定契約時においては将来債権であったから、右のこととの関係において、確定日附ある証書をもってされた本件譲渡担保設定通知によって、本件債権の譲渡についての第三者対抗要件を具備したものと解することができないかどうか、検討することを要しよう。

四  争点に関する当事者の主張

1  被告国――第三者対抗要件の欠缺の主張

本件債権は、本件譲渡担保権実行通知によって初めて終局的に原告に移転したものと解すべきところ、右移転について、原告は、第三債務者である株式会社ダイエーに対し確定日附ある証書をもって通知をしておらず、かつ、確定日附ある証書をもってされた本件譲渡担保設定通知をもって、右移転に係る第三者対抗要件を具備したものと解することはできないから、結局、原告は、本件債権について本件差押えをした被告国に右移転を対抗することができない。

以下、その理由を具体的に述べる。

(一) 本件債権の原告への移転時期について

もともと、譲渡担保の法律関係は、その担保としての実質に即して把握されるべきである。

本件債権譲渡担保についてみても、その設定契約によれば、原告は、株式会社イヤマフーズの期限の利益の喪失等、約定の事由が生じたときに初めて、第三債務者である株式会社ダイエーに対し譲渡担保権の実行通知をすることにより、株式会社ダイエーから担保債権を直接取り立てることができるものとされ、他方、担保提供者である株式会社ベストフーズは、原告が右のように取立権を取得するまでは、自らの計算において、株式会社ダイエーから担保債権の弁済を受けることができるものとされているのであり、また、本件譲渡担保設定通知においても、同様に、原告から株式会社ダイエーに対し譲渡担保権実行通知がされた場合には、原告に対して本件担保差入債権の弁済を行って下さいとされているのであって、本件担保差入債権が譲渡担保権の実行通知前に原告に移転することは予定されていないのである。

そして、現実にも、本件担保差入債権は、本件譲渡担保権実行通知がされるまでは、株式会社ダイエーから担保提供者である株式会社ベストフーズに対して弁済がされていたのであり、かつ、弁済の経済的効果は株式会社ベストフーズに帰属していたところである。

したがって、本件譲渡担保権実行通知がされるまでは、本件担保差入債権は担保提供者である株式会社ベストフーズに帰属していたのであり、右通知によって初めて本件債権が原告に移転したものというべきである。

(二) 本件債権の移転について原告が第三者対抗要件を具備していないことについて

右のとおり、本件債権は、本件譲渡担保権実行通知によって初めて終局的に原告に移転したものであるところ、右通知に確定日附を付されていないから、原告は、その後に本件債権について本件差押えをした被告国に対し、右移転を対抗することはできない。

もっとも、将来債権について譲渡契約があった場合において、債権の成立前に譲渡人がした譲渡通知であっても、一概に無効とされるわけではないところ、本件においても、本件譲渡担保設定通知は確定日附ある証書をもってされているところから、これをもって、本件債権譲渡の第三者対抗要件を具備したものと解することができるようにみえなくもない。

しかしながら、もともと民法四六七条一項が、債権譲渡につき、債務者の承諾と並んで債務者に対する譲渡の通知をもって、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係においても対抗要件とした法意に照らせば、将来債権の譲渡そのものではなく、将来債権の譲渡担保に係る本件事案については、本件譲渡担保設定通知をもって、本件債権譲渡の第三者対抗要件を具備したものと解することはできない。

すなわち、民法四六七条一項が、債権譲渡につき、債務者に対する通知をもって、債務者のみならず債務者以外の第三者に対する関係においても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者が債務者に対してする債権の存否ないしはその帰属に関する照会に対し、債務者は、譲渡の通知を受けない限り、第三者に対し債権の帰属に変動がないことを表示するのが通常であり、第三者はこのような債務者の表示を信頼してその債権を譲り受けるという事情を基礎としているものであるところ、将来債権の譲渡そのものであれば、債権が将来発生・成立する都度、直ちに譲受人に移転する効果が発生するのであるから、当該債権を譲り受けあるいは差し押さえようとする第三者から債権の存否ないしはその帰属に関する照会があった場合、債務者は、これについて一義的にその認識を表示することが可能であるということができ、したがって、このような将来債権の譲渡について当初の譲渡通知に第三者対抗力を認めることは、民法四六七条一項の法意に合致するものということができよう。

ところが、本件のような将来債権の譲渡担保においては、全く趣を異にする。すなわち、前述のように、本件担保差入債権は、本件譲渡担保の設定によって直ちに原告に移転するのではなく、譲渡担保権実行通知によって初めて終局的に原告に移転するものである。したがって、譲渡担保権実行通知があるまで右債権は株式会社ベストフーズに帰属しているところ、実行通知があるまでの間において、株式会社ベストフーズから本件担保差入債権を譲り受け又は本件債権を差し押さえようとする者が、債務者株式会社ダイエーに対して債権の存否ないしその帰属を確認しようとしても、株式会社ダイエーとしては本件債権が譲渡担保に付されているという認識、すなわち将来譲渡がなされるという可能性があるとの認識を回答し得るにとどまり、一義的に債権の帰属を回答することは不可能なのである。

そして、このような場合においても、本件譲渡担保権実行通知による債権移転の第三者対抗力が本件債権譲渡担保設定通知ないしその確定日付まで遡及することを容認するならば、本件債権につき差押え又は二重譲渡の関係に入った者がたとえ第三者対抗要件を備えたとしても、将来本件譲渡担保が実行されれば、その地位を覆されることとなり、法律関係の安定を著しく阻害することは明らかである。

しかも、本件譲渡担保権が実行されるか否かは、本件被担保債権の債務者である株式会社イヤマフーズ及び連帯保証人である株式会社ベストフーズの資力及び弁済状況等に依存する極めて不確定な事柄であって、第三者には本件譲渡担保が実行されるか否か、実行されるとしてその時期を判断することは不可能といってよいであろう。

そうとすると、仮に本件のような将来債権の譲渡担保の事案についてまで、当初の譲渡担保設定通知に第三者対抗力を認めるものとすれば、当該債権についてこれを譲り受けようとする者が債務者に対し債権の存否ないしその帰属を確認しようとしても、債務者から一義的な回答・表示を受けることができず、将来の不確定な要素によって自己の地位が容易に覆される危険性が生ずるのであるから、かかる契約形態は債務者に対する債権の確認行為を実質的に無意味化するものであって、債務者を債権の公示方法とした民法四六七条の前記趣旨に真っ向から反するものであることはいうまでもない。

しかも、仮に当初の債権譲渡担保設定通知に第三者対抗力を認めるとすれば、譲渡担保の設定により、債権者に、将来の当該債権の差押債権者及び二重譲受人等の権利行使の実効性を常に阻却しうる地位の創出までをも認めることにつながりかねず、あたかも排他的な差押禁止財産を創出するかのごとき不当な結果を招来することとなるのである。

結局、本件譲渡担保設定通知は第三者対抗力を具備するものといえず、原告は、本件譲渡担保権の実行通知による本件債権の移転について、確定日附を付するのでなければ、本件債権を差し押さえた被告国に対し、本件債権の移転を対抗することができないのである。

2  原告

被告国は、本件債権は、本件譲渡担保権実行通知によって原告に移転したものと解すべきであると主張し、その根拠として、本件債権譲渡担保設定契約上、譲渡担保権者である原告から第三債務者である株式会社ダイエーに対し譲渡担保権実行の通知がされるまでは、担保提供者である株式会社ベストフーズにおいて担保債権の弁済を受けることができるものとされていることを挙げる。

しかしながら、譲渡担保権者が、譲渡担保の設定を受けた後、譲渡担保権実行前の段階において担保設定者に用益を認めることは何ら背理ではないから、被告国の右主張は理由がない。

被告国のように解するとすれば、債権譲渡担保の設定と債権譲渡担保権の実行との区別がつかなくなることからして、被告国の主張は失当である。

また、被告国は、将来債権の譲渡において、債権譲渡の時点における確定日附ある通知が第三者対抗要件としての効力が認められるのは、真正な債権譲渡の場合に限られ、本件のような将来債権の譲渡担保の場合には、譲渡担保設定通知には第三者対抗要件としての効力が認められないと主張するようであるが、独自の見解であり、失当であることは明らかである。

第三  争点に対する判断

一  本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があった時期

1  本件債権譲渡担保設定契約においては、原告は、株式会社イヤマフーズの期限の利益の喪失等、約定の事由が生じたときに初めて、第三債務者である株式会社ダイエーに対し譲渡担保権の実行通知をすることにより、株式会社ダイエーから本件担保差入債権を直接取り立てることができるものとされているところである〔甲二号証〕。

そして、実際にも、前示第二の二4のとおり、本件債権譲渡担保設定契約における被担保債権の連帯保証人である株式会社ベストフーズが、平成一〇年三月二五日、第一回目の手形不渡を出したため、原告と株式会社イヤマフーズとの間の債務弁済契約公正証書三条二号、本件債権譲渡担保契約証書三条により、債務者株式会社イヤマフーズは、同日をもって被担保債務について期限の利益を喪失し、これを受けて、原告は、本件債権譲渡担保契約証書三条に基づいて、第三債務者株式会社ダイエーに対し、平成一〇年三月三一日、書面により本件譲渡担保権実行通知をし、これにより本件債権について、株式会社ダイエーに対する取立権を取得したところである。

2  他方、本件債権譲渡担保設定契約においては、前示第二の二2のとおり、約定の譲渡担保権実行の事由が生じたことに基づき、譲渡担保権者である原告が第三債務者株式会社ダイエーに対し譲渡担保権の実行通知をするまでは、担保提供者である株式会杜ベストフーズは、その計算において、株式会社ダイエーから本件担保差入債権の弁済を受けることができるものとされているところである。

そして、実際にも、本件担保差入債権は、本件譲渡担保権実行通知がされるまでは、株式会社ダイエーから担保提供者である株式会社ベストフーズに対して弁済がされていたのであり、かつ、弁済の効果は株式会社ベストフーズに帰属していたところである〔弁論の全趣旨〕。

3 右に考察したような本件債権譲渡担保設定契約の内容に照らせば、右契約が締結された平成九年三月三一日の時点において既に、本件債権について、株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があったものと認めることはできず、右の譲渡(移転)があった時期は、本件譲渡担保権実行通知が第三債務者である株式会社ダイエーに到達した平成一〇年三月三一日の時点であると認めるのが相当というべきである。

原告は、右の点について、本件債権譲渡担保設定契約が締結された平成九年三月三一日の時点において既に、本件債権を含む本件担保差入債権について、株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があったものと主張するようであるが、右1及び2に考察したとおり、本件債権譲渡担保設定契約締結後、本件譲渡担保権実行通知がされるまでの間は、本件担保差入債権についての弁済受領権は株式会社ベストフーズに帰属し、かつ、実際にも、株式会社ベストフーズは、その計算において、株式会社ダイエーから本件担保差入債権についての弁済を受領していたのであるから、原告の主張は、失当というべきである。

二  本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡について原告が第三者対抗要件を具備しているかどうか

1  右のとおり、本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡(移転)があった時期は、本件譲渡担保権実行通知が第三債務者である株式会社ダイエーに到達した平成一〇年三月三一日の時点であると認めるのが相当であるところ、前示第二の二4のとおり、右の時点においては、譲渡人である株式会社ベストフーズから債務者である株式会社ダイエーに対し確定日附ある証書による譲渡通知がされていないから、本件債権譲渡は民法四六七条一項、二項の定める譲渡についての第三者対抗要件を具備していないことになる(ちなみに、本件譲渡担保権実行通知は、確定日附ある証書でない〔甲六号証〕ばかりでなく、債権の譲受人である原告が発した通知にすぎないから、そもそも民法四六七条の債権譲渡通知に当たらない。)。

2  もっとも、将来債権の譲渡については、一般に、債権の成立前の譲渡契約時に譲渡人がした確定日附ある証書による譲渡通知に第三者対抗力を認めることができると解されるところ、本件債権も、前示第二の二1のとおり、本件債権譲渡担保設定契約時においては将来債権であったから、右のこととの関係において、確定日附ある証書をもってされた本件譲渡担保設定通知によって、本件債権の譲渡についての第三者対抗要件を具備したものと解することができないかどうか、検討することとする。

3  民法四六七条一項が、債権譲渡について、債務者に対する通知をもって、債務者ばかりでなく債務者以外の第三者に対する関係においても対抗要件としたのは、債権を譲り受けようとする第三者が債務者に対してする債権の存否ないしはその帰属に関する照会に対し、債務者は、譲渡の通知を受けない限り、第三者に対し債権の帰属に変動がないことを表示するのが通常であり、第三者はこのような債務者の認識の表示を信頼してその債権を譲り受けるという事情を基礎としているものである。

そして、右のように、将来債権の譲渡について、債権が発生、成立する前の譲渡契約時に譲渡人がした確定日附ある証書による譲渡通知に第三者対抗力を認めることができると解されるのは、将来債権の譲渡そのものであれば、将来において債権が発生、成立する都度、直ちにその債権は譲受人に移転し、帰属する効果が発生するのであるから、その債権を譲り受けあるいは差し押さえようとする第三者から債権の存否ないしはその帰属に関する照会があった場合、債務者は、これについての認識を明確かつ確実に表示することが可能であるということができ、したがって、このような将来債権の譲渡については、譲渡契約の時点においてされる譲渡通知の第三者対抗力を認めても、民法四六七条一項の趣旨に反するということはできないからである。

これに対し、本件担保差入債権中の将来債権は、本件債権譲渡担保設定契約の締結によって、将来において具体的に債権が発生、成立する都度、当然かつ直ちに原告に移転し、帰属するというものではなく、前示一のとおり、原告から第三債務者である株式会社ダイエーに対し本件譲渡担保権の実行通知がされることによって初めて原告に移転し、帰属するものであり、しかも、本件譲渡担保権の実行通知がされるか否か、また、本件譲渡担保権の実行通知がされるとしても、それがどのような時期にされるかは、本件被担保債権の債務者である株式会社イヤマフーズ及び連帯保証人である株式会社ベストフーズの営業状況、信用状況及び経済情勢等に左右される極めて不確定的な事柄であるから、本件債権を譲り受けあるいは差し押さえようとする第三者から債権の存否ないしはその帰属に関する照会があった場合、債務者である株式会社ダイエーがこれについての認識を確定的かつ確実に表示することは著しく困難であるというべきである。そうであるとすれば、本件において、本件譲渡担保設定通知に本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡についての第三者対抗力を認めることは、民法四六七条一項の趣旨に反するものといわざるを得ない。

4  右の検討によれば、原告において、本件譲渡担保設定通知によって、本件債権の株式会社ベストフーズから原告に対する譲渡についての第三者対抗要件を具備したものと解することはできないというほかはない。

三  小括

したがって、原告は、本件債権譲渡担保設定契約に基づき本件債権を株式会社ベストフーズから譲り受けたことをもって、本件債権を差し押さえた被告国に対し、対抗することはできない。

第四  結論

以上のとおりであるから、原告の請求は、いずれも理由がないからこれらを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官川勝隆之)

別紙供託目録<省略>

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