東京地方裁判所 平成10年(ワ)18387号 判決 1999年5月14日
東京都千代田区神田駿河台二丁目三番一四号
原告
奈良總一郎
右訴訟代理人弁護士
高石義一
同
養老信吾
東京都渋谷区代々木五丁目四八番一号
被告
株式会社ジー・シー
右代表者代表取締役
光岡甫
右訴訟代理人弁護士
林浩二
主文
一 原告の請求を棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 請求
被告は、原告に対し、金三九〇〇万円及び平成九年四月一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
本件は、商標権を有していた原告が、被告が別紙標章目録一及び二記載の標章(以下、順に「被告標章一」「被告標章二」といい、あわせて「被告標章」という。)を使用して商標権を侵害したと主張し、被告に対し、損害賠償の支払を請求した事件である。
一 前提となる事実(証拠を示した事実以外は、当事者間に争いがない。)
1 原告は、平成一〇年二月八日まで、次の各商標権(以下、あわせて「本件商標権」といい、その登録商標をあわせて「本件登録商標」という。)を有していた(甲二、三(枝番号は省略。以下同様とする。))。
<1> 登録番号 第九七六九八四号
出願日 昭和四三年一二月二日
登録日 昭和四七年八月二二日
更新登録日 平成五年二月二五日
指定商品 旧第二五類 日記欄つき手帳
登録商標 別紙商標目録一記載のとおり
<2> 登録番号 第九七六九八五号
出願日 昭和四三年一二月二日
登録日 昭和四七年八月二二日
更新登録日 平成五年二月二五日
指定商品 旧第二五類 日記欄つき手帳
登録商標 別紙商標目録二記載のとおり
2 被告は、平成八年八月ころから、被告標章を印刷した帯又は表紙を手帳(以下、被告標章が付された手帳を「被告商品」という。)に付して、これを百貨店、書店又は顧客に販売した。
二 争点
1 被告標章の使用は、商品の品質、機能を表示する普通名称としての使用か。
(被告の主張)
「SYSTEM DIARY」及び「システムダイアリー」は、今日では「システム手帳」を表すものとして、一般に広く使用されている名称である。「SYSTEM DIARY」は、被告商品のような組合せ式の手帳に使用したときは、単にその商品の品質、機能を表示するものに過ぎず、被告標章の使用形態からも、被告が被告標章を普通名称として使用していたことは明らかである。したがって、本件商標権の効力は、商標法二六条一項二号により、被告の被告標章の使用には及ばない。
(原告の反論)
本件登録商標の使用に当たっては、登録商標であることを明示している。また、バインダー式の手帳の呼び名としては、システム手帳、システム・バインダー、システム・スケジュール、システム・デートブックと様々あるが、多くのメーカーが「SYSTEM DIARY」及び「システムダイアリー」が登録商標であることを知っていたため、「システムダイアリー」の名称の使用は回避されている。平成七年中旬ころから平成八年一月ころまで一時期、本件登録商標と同一ないしは類似の商標が、原告に無断で、一部のダイアリーメーカーに使用されたことがあるが、原告は、直ちに、警告書を送付するなどしている。
以上のとおり、「SYSTEM DIARY」及び「システムダイアリー」が普通名称として使用されたことはない。
2 損害額
(原告の主張)
被告は、平成八年八月から同年一〇月末日ころまでに、被告商品を三〇万部販売した。被告商品一冊当たりの店頭小売価格は一三〇〇円であり、ダイアリーメーカーが得る通常の利益は、少なくとも店頭小売価格の一〇パーセントと考えられるから、被告は、被告商品一冊当たり、少なくとも一三〇円の利益を得ている。したがって、被告は、被告商品の販売により、三九〇〇万円(一三〇円×三〇万)の利益を得ている。
(被告の反論)
被告商品の実売数は九万七一四五点である。また、被告商品は、被告の登録商標である「PLANEX」ブランドの商品として消費者に購入されたのであり、仮に、被告の行為が違法であるとしても、その違法性は低く、その損害賠償額は低額とされるべきである。
第三 争点に対する判断
一 争点1(普通名称)について
1 証拠(甲四、五、七、九ないし二五、二九ないし三五、乙一、五ないし一四、一六、一九ないし二二、検甲一ないし八)によると、次の事実が認められる。
(一) 被告商品は、用紙の差替えが自在にでき、異なる機能を持つリフィル用紙を綴じ込むことのできる機能的な手帳(以下「差替え可能な手帳」という場合がある。)の一つである。被告商品の表紙に、縦長の帯紙が付されているが、右帯紙には、いずれも横書きで、上から順に、<1>「SYSTEM」「DIARY」と二段に書き分けた文字(被告標章一)、<2>「96.10~98.3」「1997」等の使用期間の表示、<3>やや大きく「Planex」「Plano」と二段に書き分けた文字、<4>「¥1,300」等の値段の表示、<5>「カレンダー」「スケジュール」等の差替えページの特徴等の表示、<6>販売者としての被告の名称等が、それぞれ記載されている。また、リフィル用紙の第一枚目の表には、いずれも横書きで、上から順に、<1>「1997」等の年表示、<2>他の文字より、太字で大きく「Planex」「Plano」と二段に書き分けた文字、<3>「SYSTEM DIARY」と一連に書かれた文字(被告標章二)、<4>「PERSONALSCHEDULES APPOINTMENTS AND CELEBRATIONS」と四段に書かれた文字、<5>販売者としての被告の名称等が、それぞれ記載されている。
被告は、昭和六三年に「PLANEX」からなる商標(指定商品 旧二五類紙類、文房具類)について商標登録出願をし、被告の関連会社が、右商標に係る商標権を所有している。また、被告は、遅くとも平成二年ころには、「差替え可能な手帳」について、右登録商標を付して、一連のシリーズ化した標章として、その販売を継続している。
(二) 「SYSTEM」及び「システム」は、有機的に関係し合い、全体としてまとまった機能を発揮している複数の要素の集合体、組織、系統を意味する語であり、また、「DIARY」及び「ダイアリー」は、日記、日誌を意味する語である。差し替えが自在で、スケジュール表や住所録等異なる機能を持つリフィル用紙を綴じ込むことのできる機能的な手帳が普及しているが、このような手帳は、一般的に「システム手帳」ばかりでなく、「システムダイアリー」と呼ばれた例がある。すなわち、昭和六二年六月一一日発行の読売新聞、昭和六三年二月五日発行の朝日新聞の記事、その他の文具業界紙の記事において、「SYSTEM DIARY」ないし「システムダイアリー」が、用紙の差替えが自在で、異なる機能を持つリフィル用紙を綴じ込むことのできる機能的な手帳を意味する語として用いられている。右経緯に照らすと、「SYSTEM DIARY」ないし「システムダイアリー」は、一般人に、右のような機能を有する「差替え可能な手帳」を指す語として認識されていると解すべきである。
(三) 一方、原告は、原告が代表者をしている有限会社奈良コンピューターシステムに対し、本件登録商標の使用を許諾し、同社は、本件登録商標を付した手帳を販売していたが、その際、「システムダイアリー」が登録商標であることを表示した。同社の販売する手帳は、雑誌等に取り上げられたこともある。また、原告は平成八年に、「SYSTEM DIARY」ないしは「システムダイアリー」の商標を付した商品を販売していた複数の企業に対し、右商標の使用差止めを求める通知を送付し、右商標を付した商品の販売を中止させたことがある。
2 右認定した事実を前提として、被告標章の使用が、当該商品の普通名称を普通に用いられる方法で表示したものといえるか否かについて検討する。
前記のとおり、<1>被告商品の帯紙及びリフィル用紙の第一枚目の表における各表示の大きさ、位置関係等の表示態様、被告が関連会社を通じて「PLANEX」からなる登録商標を有し、これを継続的に用いている等の使用態様に照らすならば、被告商品と他社商品とを識別する機能を有する表示が、「Planex」「Plano」部分にあり、「SYSTEM DIARY」部分にはないことは明らかであること、<2>そうすると、「SYSTEM DIARY」部分は、被告商品の機能や品質上の特徴を説明するものとして用いられていると解するのが相当であること、<3>「SYSTEM DIARY」ないしは「システムダイアリー」は、用紙の差替えが自在で、異なる機能を持つリフィル用紙を綴じ込むことのできる機能的な手帳を意味する語として用いられた例があり、一般人もそのように理解していたこと等の事実を総合すると、被告が被告標章を被告商品に付して使用したことは、被告商品の品質、機能を示す普通名称を普通に用いられる方法で表示したものと認められる。
確かに、前記のとおり、原告が自己が経営する会社に本件登録商標の使用を許諾し、右会社が本件登録商標を付した手帳を販売し、右手帳のことが雑誌等に取り上げられた事情があるが、そのような事情があったからといって、前記の認定を左右するに足りるものとはいえない。
以上によると、商標法二六条一項二号により、本件商標権の効力は、被告の右行為に及ばない。
二 よって、その余の点について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないので、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 飯村敏明 裁判官 八木貴美子 裁判官 沖中康人)
商標目録一
商標出願公告 昭46-44245
公告 昭46.8.26
商願 昭43-85786
出願 昭43.12.2
出願人 奈良総一郎
東京都千代田区神田駿河台2の3の15
指定商品 25日記欄つき手帳
<省略>
商標目録二
商標出願公告 昭46-44246
公告 昭46.8.26
商願 昭43-85787
出願 昭43.12.2
連合商願 43-85786
出願人 奈良総一郎
東京都千代田区神田駿河台2の3の15
指定商品 25日記欄つき手帳
<省略>
標章目録一
<省略>
標章目録二
<省略>