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東京地方裁判所 平成10年(ワ)18531号 判決 2001年5月18日

原告

有限会社光商会

訴訟代理人弁護士

粕谷芙美子

望月千鶴

勝俣幸洋

佐伯幸男

被告

株式会社バンダイ

訴訟代理人弁護士

柳瀬康治

山本昌平

主文

1  被告は,原告に対し,金35万8298円及びこれに対する平成10年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2  原告のその余の請求を棄却する。

3  訴訟費用は,これを100分し,その1を被告の負担とし,その余を原告の負担とする。

事実及び理由

第1請求

1  主位的請求

被告は原告に対し,金3億5421万3804円及びこれに対する平成5年9月9日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2  予備的請求

被告は原告に対し,金4億円及びこれに対する平成10年8月27日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等

1  争いのない事実等

(1)  当事者

ア 原告は,映画フィルムの製作,販売,レンタル等を目的とする有限会社である。

イ 被告は,玩具,遊戯用具,運動用具の企画,製造,販売等を目的とする株式会社である。

(2)  原告と被告との本件キャラクター商品に関する契約

平成5年5月10日,原告と被告は,原告が被告に対して別紙「キャラクター目録」記載のイラストレーション(以下「本件キャラクター」という。)を使用した商品(以下「本件キャラクター商品」という。)を製造販売することを許諾することを内容とする商品化権使用許諾契約を締結した。

(3)  相撲協会等と原告及び被告との変更合意の成立

ア 平成5年7月20日,A,Bらは,原告及び被告に対し,本件キャラクター商品の販売禁止等を求める仮処分の申立てをした(乙5,以下「本件仮処分事件」という。)。なお,本件仮処分事件には,財団法人日本相撲協会(以下「相撲協会」という。)が利害関係人として参加した(以下本件仮処分事件における債権者及び利害関係人をまとめて「相撲協会等」という。)。

イ 本件仮処分事件が取り下げられた後,相撲協会らと被告との間で,和解交渉がされ,平成5年9月24日,被告が本件キャラクター商品の製造販売を別紙「調整数量一覧表」記載のものに限ること等を内容とする和解契約が成立した(甲19,乙5,弁論の全趣旨)。

ウ 原告と被告は,上記和解契約を前提とする被告の製造販売数量の減少等を内容とする合意書を作成した(甲3,以下「本件修正合意」という。)。

なお,上記(2)記載の原告と被告間で締結された商品化権使用許諾契約の内容は,本件修正合意により変更されなかった部分はそのまま有効とされた(以下,本件修正合意後の原告被告間の契約を「本件契約」といい,本件修正合意前の契約は,「本件修正合意前契約」という。)。

(4)  許諾料の支払状況

被告は,平成5年10月から平成6年10月まで,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおりに本件キャラクター商品を製造販売したとして,原告に対して,報告し,合計2320万0196円の許諾料を支払った(甲5,甲27の1ないし3,甲28の1ないし3,甲29の1ないし3,甲30の1ないし3,甲31の1ないし3,甲32の1ないし3,甲33の1ないし3,甲34の1ないし3,甲35の1ないし3,弁論の全趣旨)。

2  事案の概要

原告は,①被告は,本件契約15条により別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造する義務があるから,その許諾料を支払う義務がある,②被告は,本件契約に違反して,別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造販売した,③被告が本件契約に違反して別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造販売した行為は,原告が有する本件キャラクターに係る著作権を侵害すると主張し,主位的には本件契約に基づいて許諾料を請求し,予備的には本件契約の債務不履行又は著作権侵害を理由として損害賠償を請求している。

3  本件の争点

(1)  本件契約15条によって,被告は別紙「商品化申請目録」記載のキャラクター商品に関して製造義務を負うかどうか等

(2)  被告は,別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造販売したかどうか

(3)  被告による上記(2)の製造販売は,原告主張に係る本件キャラクターに関する著作権を侵害するかどうか

(4)  原告が被った損害額

第3争点に関する当事者の主張

1  争点(1)について

【原告の主張】

(1) 本件契約15条は,「被告は本契約締結日から3か月以内に許諾商品を製造しなければならない。ただし,原告が承認した場合は,被告はその製造を延期することができる。」と規定している。これは,被告の許諾商品に対する製造義務を定めたものである。本件契約7条によって,「原告は被告より・・・承認申請がなされた場合,1週間以内に認証の可否を連絡する。この期間を過ぎて原告より返答がない場合,被告よりの申請は承認されたものとする。」と規定されているとおり,被告から商品化許諾申請がなされ,原告が承認するか又は1週間以内に拒絶しなければ,上記申請に係る商品は許諾商品になる。したがって,上記許諾商品に関しては,本件契約15条によって,被告に製造義務が生じ,原告には許諾料の請求権が発生する。

被告は,原告に対し,平成5年8月10日,ファックスで,別紙「商品化申請目録」に記載されている本件キャラクター商品に関する承認申請を出したから,被告には,別紙「商品化申請目録」記載の数量の商品について,製造義務が生じ,原告は被告に対して,その許諾料の支払を請求することができる。

(2) 本件修正合意前の契約によると,原告は被告に対し,商品上代の5パーセントの許諾料の支払を請求することができるから,原告は被告に対して,別紙「商品化申請目録」記載の商品代金額の5パーセントに当たる3億7741万4000円の支払を請求することができるところ,被告は,2320万0196円の許諾料を支払ったのみであるから,原告は被告に対して,3億5421万3804円を請求する権利を有する。

上記金員は,本件契約4条2項により製造後30日以内に支払われるべきであるから,原告は,被告に対して,上記金員及びこれに対する平成5年9月9日から支払済みまで年6分の割合による遅延損害金の支払を求める。

【被告の主張】

本件契約15条は,許諾商品の製造着手の義務を定めた規定であり,許諾数量全量を本件修正合意前の契約締結日から3か月以内に製造する義務を課したものではない。

本件契約には,最低保証料が1000万円と定められており,製造報告が義務づけられ,契約期間があること等を勘案すると,3か月以内に全商品を製造することを約したものでないことは明らかである。

2  争点(2)について

【原告の主張】

(1) 被告は,本件契約締結前から,別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造販売する予定にしており,本件修正合意前に,既に,これらの商品を製造済み又は製造発注済みであった。そのことは,本件仮処分事件に係る相撲協会等の代理人から被告代理人に宛てたファックス文書に「和解契約添付の「商品目録」につきましては,その大部分が既に製造済み,又は製造発注済みであること」という記載があることから明らかである。

このように,被告は,別紙「商品化申請目録」の「計画数量」欄記載の数量の商品を製造販売したのであるが,原告に対しては,別紙「被告製造報告一覧表」記載の報告しかしていない。

(2) 被告が別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造販売したことは,次の各事実から明らかである。

ア 「クッション」及び「のれん」について

(ア) 被告は原告に対し,クッションに関しては,1280円のもののみを製造販売した旨報告した。しかしながら,実際には,1980円のものも製造販売されていた。

(イ)a クッション及びのれんは,大永寝具工業株式会社(以下「大永寝具」という。)が製造したが,同社は,被告から本件修正合意による製造数量を知らされていなかった。

b 大永寝具社長のCらは,原告社員らに対して,大量のクッション及びのれんが売れて儲かった旨述べている。

c 大永寝具は,以下のとおり,株式会社コッカ(以下「コッカ」という。)から,クッション及びのれんに貼付する被告作成に係る黄色の証紙(以下「本件証紙」という。)を購入した。

平成5年11月4日 6280枚

平成5年11月17日 1720枚

平成5年11月17日 6558枚

本件証紙の購入は,原告に製造報告があったもの(クッション6200枚,のれん1800枚)とは製造時期を異にするものである。

d クッションに関しては,大永寝具のみならず,蒲装株式会社でも製造販売されている。

e 原告は,株式会社まるや商店(以下「まるや商店」という。),イトーヨーカ堂,長崎屋に対して,クッションを注文して購入した。また,有限会社クアーズ(以下「クアーズ」という。)は,大永寝具に対して,クッション及びのれんを注文して購入した。これらの商品は,いずれも新規に製造されたものであり,被告の製造報告によるものとは全く別物である。

f ダイエーではクッションの販売は行っていないということであったが,原告は,ダイエーにおいて,クッションが販売されていた事実を確認した。また,Cもダイエーにクッションを卸した事実を認めている。

(ウ) 以上の事実からすると,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されているクッション及びのれんを製造販売したことは明らかである。

イ 「タオル」について

(ア) ダイエー作成の販売実績表(甲37),株式会社ナストウ(以下「ナストウ」という。)作成の納品書(甲38の4ないし12),被告作成の注文書及び運輸控(甲39の4ないし6,甲40の4ないし10)に基づいて作成した別紙「タオル一覧表(1)」によると,以下の事実が認められる。

a 上記タオル一覧表の1によると,ナストウがダイエーに納品したのは平成5年2月10日以降であるにもかかわらず,ダイエーは,その前月である1月から販売している。

b 上記タオル一覧表の2によると,同表の1と同様に,ダイエーでは納品日以前からタオルの販売が開始されている。また,納品数量が2万7562枚であるのに対して,ダイエーでの販売は,2万7564枚と多くなっている。

c 上記タオル一覧表の3によると,ダイエーは,平成5年2月から5月にかけて納品されたタオルを1年3か月後に販売したことになるが,ダイエーが長期間在庫品を残しておくことは考えられない。また,上記タオル一覧表の4によると,同表の3と同様に,納品時期と販売時期との間が1年3か月あって不自然であるうえ,納品数量よりも販売数量の方が多くなっている。

ダイエーの販売員は,4種類のタオルを同時期に販売し,販売価格が徐々に下がっていった旨話をしていることに照らすと,同表3及び同表4は,被告が製造報告したものとは別のタオルであると考えられる。

d 原告は,平成7年12月及び平成8年2月にダイエー別府店において,スポーツタオル合計780枚を購入したが,この分は上記タオル一覧表の販売実績には入っていない。

(イ) 本件タオルは,ダイエーにおいて独占的に販売されているということであったが,実際にはジャスコの各店舗においても販売されていた。原告の調査によると,ジャスコにおいて販売されたタオルについては,ナストウとは別に楠橋繊維株式会社(以下「楠橋繊維」という。)から吉岡商事が仕入れ,さらに吉岡商事はサンイイダ株式会社(以下「サンイイダ」という。)に販売し,九州ジャスコ株式会社(以下「九州ジャスコ」という。)がサンイイダから仕入れたものであることが明らかになった。

(ウ) ナストウの社員は,原告代表者に対して,タオル10万枚,スポーツタオル5万枚,バスタオル3万枚を販売した旨述べている。

(エ) 以上の事実からすると,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されているタオルを製造販売したことは明らかである。

ウ 「ジュニアキルケット」について

(ア) 別紙「商品化申請目録」記載に係るジョニアキルケットの計画数量は,3500円のものが3万枚,3980円のものが1万枚であったところ,本件修正合意により,被告は,3980円のもの2万5000枚を限度として製造することとなった。ところが,被告は,製造報告において,小売価格3500円のものを1万1000枚製造販売した旨報告しており,3980円のものについては製造販売した旨の報告はない。

(イ) 被告との契約期間が経過した後,原告は,ナストウ及び株式会社ニッショーコーポレーションから,ジュニアキルケットを購入したが,これらは,工場からの直接の販売であること,一般的に商品を滞留させず,早期に処分されることからすると,原告が購入したジュニアキルケットは,被告の製造報告には含まれていないものである。

(ウ) ジュニアキルケットを製造した橘織物株式会社(以下「橘織物」という。)は,被告から平成6年1月6日に2000枚,同月21日に2000枚,同月28日に3000枚,同年3月10日に4000枚の本件証紙をそれぞれ購入したことになっているところ,被告からのジュニアキルケットの製造報告は,平成6年2月までの時点におけるものである。取引上証紙は商品製造前に売買されることからすると,被告の上記製造報告は虚偽である。

(エ) 以上の事実からすると,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されているジュニアキルケットを製造販売したことは明らかである。

エ 「毛布」について

被告の製造報告によると,被告は,1種類の毛布1300枚を製造したことになっている。

しかしながら,毛布を製造した橘織物は,2種類の毛布を製造したことを認めていること,橘織物から毛布を仕入れたナストウの社員は,毛布を何万枚か作っていると述べていることからすると,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されている毛布を製造販売したことは明らかである。

オ 「綿毛布」について

(ア) 綿毛布については,被告からの報告はない。しかしながら,被告は,平成5年5月25日,綿毛布に関する新商品企画申請書を作成しているところ,同申請書には,目標数量,発売予定日(平成5年6月)の記載がある。そうすると,平成5年7月の時点において,綿毛布は,既に完成していたと考えられる。

(イ) 綿毛布は,橘織物で製造され販売されたところ,被告は,本件修正合意前に,橘織物から当初予定数量分の許諾料の前受金を受領しており,橘織物が綿毛布を製造販売することを許諾していた。

(ウ) したがって,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されている綿毛布を製造販売したことは明らかである。

カ 「子供用浴衣」及び「大人用浴衣」について

子供用浴衣及び大人用浴衣については,被告からの製造報告はない。しかしながら,被告は,平成5年5月12日,浴衣に関する新商品企画申請書を作成しているところ,同申請書には,目標数量,発売予定日(平成5年6月)の記載がある。また,本件仮処分事件の審尋期日において,被告の担当者は,既に完成した大人用浴衣を持参していた。そうすると,本件仮処分事件の申立てがされた平成5年7月20日の時点においては,子供用浴衣及び大人用浴衣は,既に完成していたと考えられる。したがって,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されている子供用浴衣及び大人用浴衣を製造販売したことは明らかである。

キ 「ハーフケット」について

ハーフケットについては,被告からの製造報告はない。しかしながら,本件修正合意前の平成5年6月16日,原告は被告に対し,ハーフケットの製造販売を承認していたから,被告は,本件修正合意前に,製造業者から許諾料の前受金を受領し,製造発注済みであった。したがって,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されているハーフケットを製造販売したことは明らかである。

ク 「ホームソーイング」について

ホームソーイングについては,被告からの製造報告はない。しかしながら,原告は,ダイエー,イトーヨーカ堂他多数の販売店における担当者から販売していた旨の具体的な話を聞いており,これらの多数の販売店においてホームソーイングが販売されていた。したがって,被告が,別紙「商品化申請目録」に記載されていホームソーイングを製造販売したことは明らかである。

ケ 「ナップザック」について

ナップザックの製造販売に関して,原告は許諾していない。それにもかかわらず,被告は,別紙「商品化申請目録」に記載されているナップザックの製造販売を行ったものである。

コ 「ピクニックマット」について

被告は,製造報告において,ピクニックマット大小各6500個ずつ製造した旨報告した。しかし,実際には,被告は,これらの商品に関して,別紙「商品化申請目録」に記載されている数量を製造販売したものである。

サ 「カーテン」,「バスマット」及び「ハイソックス」について

カーテン,バスマットに関しては,被告からの製造報告はない。ハイソックスに関しては,600円のもの2150個しか製造報告はない。しかしながら,これらの商品に関して,被告は,平成5年5月又は6月に,新商品企画申請書を作成しているところ,同申請書には,目標数量,発売予定日(同年6月及び8月)の記載がある。そうすると,これらの商品に関しては,本件修正合意成立前に被告において既に全量製造発注済みであったと考えられるから,被告が,これらの商品に関して,別紙「商品化申請目録」に記載されている数量を製造販売したことは明らかである。

シ 「巾着」及び「巾着袋」について

巾着及び巾着袋について,被告からの製造報告はない。しかしながら,被告は,平成5年5月27日,巾着及び巾着袋に関する新商品企画申請書を作成しているところ,同申請書には,目標数量,発売予定日(同年7月)の記載がある。そうすると,被告が,本件修正合意前に別紙「商品化申請目録」に記載されている巾着及び巾着袋を製造販売したことは明らかである。

【被告の主張】

(1) 被告は,相撲協会等との和解交渉の過程において,相撲協会等の要望で,別紙「商品化申請目録」の商品名,予定上代,計画数量を記載したものを提示したが,その後の話合いの結果,同目録記載のアイテム及び数量を減らすことになった。相撲協会らと被告との間で締結された和解契約書には,別紙「調整数量一覧表」と同内容のものが添付されており,被告は同一覧表記載のアイテム及び数量の範囲内で本件キャラクター商品を製造販売した。このような相撲協会らとの和解契約の内容に関しては,原告との間で合意書を作成し,了解を得ていたものである。そして,被告は,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,本件キャラクター商品を製造販売し,原告に対し,定められた許諾料を支払っているのであるから,本件契約には何ら違反していない。

(2) 75億4830万円もの商品を販売の売行きをも見ずに一度に製造したという主張自体常識的に考えても荒唐無稽である。

3  争点(3)について

【原告の主張】

(1) 原告の著作権

原告は,平成3年から平成5年にかけて,「どすこい,わんぱく土俵」という題名のアニメーション映画を企画製作し,本件キャラクターの著作権を取得した。

なお,原告は,平成3年9月19日,当時相撲協会理事長であったDに対し,1000万円を支払い,上記映画に登場するD理事長及びその一門に対するアニメ化について承諾を得ている。

(2) 被告の著作権侵害行為

被告は,別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品を製造販売した。このうち,別紙「被告製造報告一覧表」に記載されているものを超える部分に係る被告の本件キャラクター商品の製造販売行為は,原告の著作権を侵害する。

【被告の主張】

(1) 原告が本件キャラクターの著作権を取得した事実は,知らない。

(2) 被告は,上記2で述べたとおり,原告の了解を得た別紙「調整数量一覧表」記載の範囲内で本件キャラクター商品を製造販売し,原告に対し,約定の許諾料の支払を完了しているのであるから,原告の著作権を侵害していない。

4  争点(4)について

【原告の主張】

被告は,別紙「商品化申請目録」記載の本件キャラクター商品(金額合計75億4830円)を製造販売し,売上額の15パーセントの利益を得たから,原告は,被告に対し,この金員の一部である損害金4億円及びこれに対する平成10年8月27日から支払済みまで年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。

仮に,右利益に基づく請求が認められないとしても,売上額に対する許諾料相当額を損害として請求することができる。

【被告の主張】

原告の主張は争う。

第4当裁判所の判断

1  前記第2の1記載の争いのない事実等並びに証拠(甲1ないし3,5,6,甲7の1,2,甲9,10,19,甲21の1,2,甲22の1,2,甲23の2ないし6,甲27の1ないし3,甲28の1ないし3,甲29の1ないし3,甲30の1ないし3,甲31の1ないし3,甲32の1ないし3,甲33の1ないし3,甲34の1ないし3,甲35の1ないし3,甲108の1,2,甲116の1,甲125,乙1,乙3の1,2,乙4,5,証人Eの証言)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

(1)ア  平成5年5月10日,原告と被告との間で締結された本件修正合意前契約の内容は,概ね以下のとおりである(以下の「別紙商標」は,本件キャラクターを指す。)。

第1条(目的)

原告は,著作物「ドスコイわんぱく土俵」,「花田ファミリー」(以下「本キャラクター」という。)の商品化取扱権利者及び,二子山部屋全力士の肖像の正当な管理者として,被告に対し,著作物の商品化権並びに別紙商標及び,原告が本肖像を使用してイラストレーション(以下「原画」という。)を制作し,当該原画及び,二子山部屋全力士の名称を使用した商品(以下「許諾商品」という。)を製造及び販売することを許諾する。

第4条(許諾料)

被告は,原告に対し,商品化権許諾料として許諾商品の製造数量にメーカー希望小売価格の5パーセントを乗じた金員を現金で次のとおり支払うものとする。

(ア) 最低保証料(最低責任製造数量に相当する使用料)

金1000万円 本契約締結後30日以内に支払う。

(イ) 追加使用料(最低製造数量を超えて製造する数量に相当する使用量)は,追加製造後30日以内に支払うものとする。

第7条(商品化の承認)

原告は,株式会社エムエヌオー(以下「エムエヌオー」という。)を通じて,被告より本キャラクターの商品化についての承認申請がされた場合,1週間以内に原告はエムエヌオーを通じて被告に対し承認の可否を連絡するものとする。この期間を過ぎてエムエヌオーを通じて原告より返答がない場合,被告よりの申請は承認されたものとする。

第9条(証紙の貼付)

被告は,本契約に基づき製造,販売,頒布する許諾商品の各個に原告が交付する証紙を貼付しなければならない。ただし,商品の種類により被告は原告の承認を得て製造報告書により証紙に代えることができるものとする。

第11条(報告義務)

被告は,原告の請求がある場合には,許諾商品の製造数量,販売数量,在庫数量,売上金額その他の事項を原告に報告しなければならないものとする。

第15条(報告及び正価販売価格)

被告は,本契約締結日から3か月以内に許諾商品を製造しなければならない。ただし,原告が承認した場合は,被告はその製造を延期することができる。

第18条(契約期間)

本契約の有効期間は,平成5年5月10日より平成6年5月9日までとする。ただし,契約満了90日前までに原告被告どちらかからも異議申立てがない場合は,第4条を除き同一条件で1年間延長されるものとし,以後も同様とする。

イ  被告は,原告に対し,平成5年6月10日,本件修正合意前契約4条に基づいて,最低保証料1000万円を支払った。

(2)ア  平成5年7月20日,A,Bらから本件仮処分事件の申立てがされた。

イ  被告は,平成5年8月10日ころ,「㈱バンダイ 『どすこい!わんぱく土俵』商品化申請(販売期間は3年を予定しております。)」と題する書類(別紙「商品化申請目録」と同内容の商品アイテム及び予定上代,計画数量が記載されたもの,予定上代総額75億4830万円)を作成し,原告に送付した。また,被告は,上記書類を,本件仮処分事件において,相撲協会等に示した。

ウ  平成5年9月,A,Bらは,本件仮処分事件を取り下げた。

(3)  平成5年9月24日,相撲協会らと被告は,概ね以下の内容の和解契約を締結した。なお,本和解契約書に添付された「別紙商品目録」とは,別紙「調整数量一覧表」記載の調整数量及び予定上代価格と同一の内容が記載されたものであった。

ア 被告が本件キャラクター商品について,その損益分岐点を基本とし,当初予定数の品目数で40パーセント以下,販売総額で50パーセント以下と限定した別紙商品目録の販売品目,販売数量の製造販売を希望していることを認め,特例として,その製造販売を以下の条件の下に許諾する。

イ 本件キャラクター商品の製造期間は,本和解成立時から平成7年3月末日までとし,販売期間は平成7年9月末日までとする。

ウ 被告は,販売商品に「当社以外の他社が同種商品の製造・販売を行うことは日本相撲協会に認められておりません。」との表示をつけ,かつ同旨文を販売促進・宣伝用パンフレットに掲載する。

エ 被告は,本件キャラクター商品について,テレビ・新聞・雑誌におけるCMは行わず,また直接の販売先等にも自粛させるよう努める。

オ 被告は,本和解成立より前に販売商品を市場に流通せしめた事実がないこと,及び本件商品については,原告と被告との契約に関する限り,日本国内における独占的販売権を保持することを相撲協会に対して保証する。

(4)  平成5年9月21日,原告と被告間で締結された本件修正合意の内容は,概ね以下のとおりである。なお,本件修正合意書に添付された「別紙商品目録」は,上記相撲協会らとの和解契約書に添付されたものと同一のものであって,別紙「調整数量一覧表」と同一内容のものである。

ア 原告は,被告が別紙商品目録の記載の販売品目,販売数量の本件キャラクター商品を製造販売することに異議がない。

イ 原告と被告は,原契約(本件修正合意前契約)を次のとおり,変更することに合意する。

① 原契約18条の契約期間を本合意成立時から平成7年9月末日までと変更する。

② 原契約4条の許諾料を5パーセントから4パーセントに変更する。

(5)  被告は,原告に対し,原告から発行される証紙に代えて,毎月,被告が製造販売した商品名,売価,生産数量,発生ロイヤリティを「花田ファミリーロイヤリティ集計表」と題する報告書により報告することとなった。

(6)  被告は,原告に対し,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,本件キャラクター商品の製造販売に関して報告し,製造販売した数量分の許諾料として,合計2320万0196円を支払った。なお,平成5年6月10日,被告は原告に対し最低保証料として,1000万円を支払ったが,同金員は,上記許諾料に充当された。

(7)  被告は,本件キャラクター商品に係る製造販売数量の管理について,すべて被告が製造業者に交付する本件証紙によって行っていた。

なお,被告が製造販売した本件キャラクター商品には,上記証紙の他に,下げ札と被告のオリジナルネームが貼付されたが,これらは被告自身が作成する場合のほか,製造業者自身が作成する場合もあった。

2(1)  原告は,本件契約15条は,被告に対して許諾商品の製造義務を定めたものであり,原告は,被告が製造義務を負う商品の許諾料を請求する権利を有する旨主張する。

確かに,本件契約15条の文言では,「3か月以内に製造しなければならない」となっている。しかし,前記1(1)ア認定のとおり,本件修正合意前契約の契約期間は,平成6年5月までであり,延長することができたこと,前記(2)ア認定のとおり,被告が,平成5年8月に送付した「㈱バンダイ 『どすこい!わんぱく土俵』商品化申請」と題する書類には,総額75億円余りの商品が記載されていたが,証拠(証人Eの証言)によると,売行きをみることなく,このような大量の商品を契約後3か月間で製造することはあり得ず,もしそうであれば,被告は,本件契約を締結しなかったものと認められること,前記1(3)(4)認定のとおり,被告と相撲協会らとの間の合意によって製造期間は,平成7年3月までとなり,原告と被告との契約の契約期間も延長され,前記1(6)認定のとおり,被告は,原告に対し,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり本件キャラクター商品を製造販売したとして報告していること,この報告が行われていた間に,原告が,被告に対して特段異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないことからすると,本件契約15条は,被告が製造に着手すべき時期を定めたものであって,3か月以内に製造を完了することまで定めたものではないと認められる。

また,前記1(1)ア認定のとおり,本件契約中には,被告が支払うべき最低保証料が定められているとともに,被告に,製造数量等の報告義務が課されており,被告は,最低保証料を超えて製造する数量については,追加製造後30日以内に許諾料を支払うものとされていること,実際にも,前記1(6)認定のとおり,被告は,原告に対し,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり報告し,製造販売した数量分の許諾料のみを支払っており,この間に,原告が,被告に対して特段異議を述べたことを認めるに足りる証拠はないこと,原告は,平成12年4月14日付け準備書面における主張までは,本件契約15条によって被告が製造義務を負う商品の許諾料を請求する権利を有する旨の主張をしていなかったこと(当裁判所に顕著な事実)からすると,本件契約において,被告は,最低保証料のほかは,製造数量に応じて許諾料を支払う義務を負っているものと認められ,許諾を得たが実際に製造していないものについてまで許諾料の支払義務が発生するとは認められない。

(2)  以上からすると,本件契約15条を根拠とする原告の主張は理由がない。

そして,前記1で認定した事実によると,原告は,被告に対し,本件修正合意により確認された別紙「調整数量一覧表」記載に係る商品アイテム及び数量の範囲内において本件キャラクター商品の製造販売を許諾したと認められ,被告は,その範囲内であれば,本件キャラクター商品を製造販売することができ,実際に製造販売した数量分の許諾料の支払義務を負っていたと解することができる。

3  原告は,被告は,本件契約締結前から,別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造販売する予定にしており,本件修正合意前に,既に,これらの商品を製造済み又は製造発注済みであったと主張し,本件仮処分事件に係る相撲協会等の代理人から被告代理人に宛てたファックス文書に「和解契約添付の「商品目録」につきましては,その大部分が既に製造済み,又は製造発注済みであること」という記載があることを,その根拠として主張する。

そこで,判断するに,証拠(甲6,19,乙4,5)及び弁論の全趣旨によると,平成5年9月24日,相撲協会等の代理人であるF弁護士が,被告代理人に対して送信したファックス文書の1枚目には,「被告提示の商品目録について,協会関係者より,「こんなに多く一度に発注するはずがない。せいぜいこの10分の1だ」または「損益分岐点はこの5分の1程度」との意見があり,対応に苦慮している」旨の記載があること,同ファックス文書の3枚目には,被告が相撲協会に対して和解の際に提出する書面の原案としてF弁護士が記載した文書が付されており,それには,「和解契約添付の「商品目録」につきましては,その大部分が既に製造済みまたは製造発注済みであること」という記載があること,被告代理人から,被告が商品目録記載の商品を既に製造済み又は製造発注済みであるという上記記載部分を否定する旨の主張がされたこと,以上の事実が認められる。

以上の事実に前記1(3)認定の事実を総合すると,上記ファックス文書における「和解契約添付の「商品目録」」という記載は,その文言,当該文書が出された時期等からすると,平成5年9月24日に相撲協会らと被告との間で締結された和解契約書添付の「別紙商品目録」(別紙「調整数量一覧表」記載の調整数量及び予定上代価格と同一の内容が記載されたもの)を指すことは明らかであって,これが別紙「商品化申請目録」と同一内容のものであったとは認められない。そのうえ,上記認定のとおり,「和解契約添付の「商品目録」につきましては,その大部分が既に製造済みまたは製造発注済みであること」という記載は,相撲協会等の代理人であるF弁護士が記載したもので,被告代理人は,これを否定していたものと認められる。

そうすると,上記認定の「和解契約添付の「商品目録」につきましては,その大部分が既に製造済みまたは製造発注済みであること」という記載を根拠として,被告は,本件修正合意前に,既に,別紙「商品化申請目録」記載の商品を製造済み又は製造発注済みであったと認めることはできない。

4  原告は,前記第3の2(2)記載のとおり,被告が,商品アイテム及び数量ともに,別紙「被告製造報告一覧表」記載のものを超える本件キャラクター商品を製造販売した旨主張するので,以下,各商品アイテムごとに原告の主張に沿って検討する。

なお,以下特に断らない限り,個別の商品名は,本件キャラクターを使用したものである。

(1)  クッション及びのれん

ア 証拠(甲23の6,甲38の1,2,甲39の1,2,甲40の1,2,甲87,甲109の1,2,証人G,同E,同Cの各証言)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

(ア) 被告は,興和株式会社(以下「興和」という。)に対し,クッション及びのれんをバイセル取引により販売した。バイセル取引とは,相手方製造を委託するとともに,製造を委託した商品を相手方に販売する取引方法をいう。

被告は,被告が販売した製品であることを明確にし,かつ,許諾数量以外の商品を流通させないために,販売数量に相当する本件証紙を販売先に交付しており,興和に対しても,本件証紙を交付した。

(イ) 興和は,コッカに対し,バイセル取引により,クッション及びのれんの製造委託と販売を行い,その際,被告から交付を受けた本件証紙を交付した。

コッカは,大永寝具に対し,バイセル取引により,クッション及びのれんの製造委託と販売を行い,その際,興和から交付を受けた本件証紙を交付した。

大永寝具は,クッション及びのれんを製造し,本件証紙を付けて,販売した。

(ウ) 本件修正合意によって,被告が製造販売することができるクッション及びのれんの数量は,1280円のクッションが6200枚,1280円ののれんが1800枚となった。

(エ) 興和大阪支店のGは,平成9年12月19日,警視庁からの問合せに対し,概要以下のとおり回答した。

被告からのクッションの発注年月日

発注枚数

納品単価

平成5年9月28日

5000枚

371.2

平成5年11月1日

1200枚

371.2

被告から本件証紙を受領した年月日及び受領枚数

平成5年10月1日

5000枚(1280円クッション用)

平成5年11月5日

1200枚(1280円クッション用)

平成5年11月12日

6558枚(1200円トランクス用)

合計

1万2758枚

本件証紙をコッカに交付した年月日及び内容

平成5年10月27日

5000枚(1280円クッション用)

1280枚(1280円のれん用)

平成5年11月15日

6558枚(1280円クッション用)

平成5年11月17日

1200枚(1280円クッション用)

520枚(1280円のれん用)

クッション及びのれんの実際の販売数量及び在庫数量

販売数量

在庫数量

1280円クッション

1万2586枚

612枚

1980円クッション

580枚

1280円のれん

1659枚

ある日突然被告から商品化をストップせよとの申入れがあり,生産を途中で中断した。そして,その時点での状況をすべての製品・原料等の数量を報告した。

被告は相撲協会と条件付きで和解し,商品化が再開されたが,商品アイテムと数量が限定された。クッションに関しては,商品化ストップ指示の時点で,製品6137個とクッション用プリント生地が2186メートル(用尺0.335メートル/個で6376個分)残っていた。販売が先行していたため,どうしてもクッションを生産したいと被告の担当者に申し入れ,被告の了解のもと,トランクス(1200円)で本件証紙を6558枚申請し,生産販売した。

クッション,のれん,トランクスの生産数量等

証紙申請枚数

証紙実使用数

実生産数

1200円トランクス

4万5158

3万8600

3万8600

1000円トランクス

2万0100

2万0100

2万0100

1280円クッション

6200

1万2758

1万3416

1280円のれん

1800

1659

1659

(オ) クッション用及びトランクス用の各タッグは,いずれも被告自身が作成したものではなく,下請け製造業者が被告から支給されたデザインを基に作成したものである。

(カ) クアーズは,大永寝具から仕入れた1980円のクッションを580枚販売した。

イ 以上認定した事実に証拠(甲23の3ないし5,証人Gの証言)を総合すると,大永寝具は,1280円のクッションを1万3198枚製造し,平成9年12月19日の時点では,そのうち1万2586枚を販売し,612枚が在庫であったこと(証人Gの証言によると,上記回答書記載の1280円のクッションの実生産数1万3416枚は計算間違いであり,実生産数としては,1万3198枚が正しいと認められる。),大永寝具は,1980円のクッションを580枚製造販売したこと,興和は,コッカに対し,1280円のクッション用として,被告から交付を受けた1万2758枚(6200枚+6558枚)の本件証紙を交付し,これは,コッカから大永寝具に交付されたこと,上記6558枚の本件証紙に関しては,1200円のトランクス用に被告から交付を受けた本件証紙を転用したものであること,興和は,コッカに対し,1980円のクッション用の本件証紙を交付していないこと,大永寝具は,1280円ののれんを1659枚製造販売したこと,興和は,コッカに対し,被告から交付を受けた1280円ののれん用の本件証紙を1800枚交付し,これは,コッカから大永寝具に交付されたこと,以上の事実が認められる。

なお,証拠(甲23の3ないし5)によると,上記1万2758枚(6200枚+6558枚)のクッション用の本件証紙及び上記1800枚ののれん用の本件証紙がコッカから大永寝具に交付されたのは,平成5年11月4日に6280枚,同月17日に8278枚(1720枚+6558枚)であったことが認められるところ,原告は,この証紙の交付は,原告に製造報告があったものとは別のものであると主張する。しかし,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,クッション及びのれんの製造報告は,平成5年10月と11月に,トランクス6558枚の製造報告は,平成5年11月にされており,製造報告後に,実際の製造者(大永寝具)が証紙の交付を受け,それを商品に付して販売することもあり得ると考えられることからすると,これらが別のものであるとは認められない。また,証拠(甲38の1,2,甲40の1,2)によると,興和から被告に対するクッション及びのれんの納品日と納品枚数は,平成5年10月1日に6280枚,同年11月5日に1720枚であり,被告から興和に対するクッション及びのれんの納品日と納品枚数は,平成5年10月18日に6280枚,同年11月5日に1720枚であって,上記のとおり本件証紙がコッカから大永寝具に交付される前に納品されていることになるが,後記(2)イ認定のバイセル取引の特殊性を考慮すると,特に不自然ではないというべきである。

ウ 以上の事実からすると,大永寝具は,1280円のクッションを1万3198枚製造し,そのうち少なくとも1万2586枚販売したものと認められ,この製造数量は,原告が本件修正合意によって被告に許諾した数量6200枚よりも6998枚多いことになる。

ところで,上記認定に係るトランクス用に交付を受けた6558枚の本件証紙の転用については,上記ア(エ)認定のとおり,Gは,警視庁からの問合せに対し,被告の了解を得たと回答していること,Gは,証人尋問においても,被告の了解を得た旨明確に証言していること,興和と被告との取引関係に鑑みると,興和が,被告の了解を得ることなく証紙を転用するとは考えがたいこと,被告が,興和に対し,トランクス用の本件証紙の転用が明らかになった後に,取引停止等の措置をとったことを認めるに足りる証拠はないことを総合すると,この転用を被告は了解していたものと認められる。

このように,被告が本件証紙の転用を了解し,1280円のクッションが原告と合意した数量よりも多く製造販売されることを認めていたことからすると,大永寝具が,原告が許諾した数量6200枚よりも6998枚多いクッションを製造したことについて,被告には,原告に対して,債務不履行による損害賠償責任があるというべきである。

エ 上記認定したとおり,大永寝具は,1980円のクッションを580枚製造販売したのであるが,これは,原告が本件修正合意によって被告に許諾したものの範囲外である。

被告が上記製造販売を了解していたことを認めるに足りる証拠はない。

また,証拠(証人Cの証言,検甲1,2)によると,1280円のクッション用プリント生地,本件証紙,被告のオリジナルネーム及びタッグと1980円のクッション用のそれらは同一のものであって,単に中に入れる綿の量が異なるにすぎないと認められること,上記認定のとおり,被告と興和,興和とコッカ,コッカと大永寝具の各取引はいずれもバイセル取引であって,前記1(7)認定のとおり,被告は,本件証紙によって商品管理を行っているだけであることを総合すると,被告は,大永寝具が,1980円のクッションを製造販売したことを把握することは困難であったと認められる。

そうすると,大永寝具が1980円のクッションを製造販売したことについて,被告に債務不履行による損害賠償責任があるとまで認めることはできない。

オ なお,原告は,大永寝具社長のCらは,原告社員らに対して,大量のクッション及びのれんが売れて儲かった旨述べていると主張しているところ,大永寝具社長のCや同社の従業員との会話を録音したテープの反訳文(甲65,72)やダイエーの従業員との会話を録音したテープの反訳文(甲66の1,2)には,これらの者が,原告社員らに対し,大量のクッション及びのれんを販売した旨述べている部分が存する。しかしながら,上記反訳文から認められる当該発言がされた状況からすると,Cや各従業員の発言は,具体的,客観的な資料を基にしたものとはいえず,原告社員らの誘導に基づく部分も存在すること,Cは,証人尋問において,上記イ認定の数量を超えてクッションを製造販売したことを否定する証言をしていること等を総合すると,上記Cや従業員の発言を根拠として,上記イ認定の数量を超えてクッション及びのれんが製造販売されたことを認めることはできない。

また,原告は,クッションに関しては,大永寝具のみならず,蒲装株式会社でも製造販売されていると主張するが,同社の取締役との会話を録音したテープの反訳文(甲69)のみでは,同反訳文において言及されているクッションが,上記イ認定に係るものとは別の物であることを認めることはできず,他にこの事実を認めるに足りる証拠はない。

さらに,原告は,まるや商店,イトーヨーカ堂,長崎屋に対して,クッションを注文し購入したところ,これらの商品は,いずれも新規に製造されたものであり,被告の製造報告によるものとは全く別物であると主張する。証拠(甲56の1,2,甲57ないし59,61,甲62の1,2,甲63の1,2,)によると,原告は,平成7年にまるや商店に対して,平成8年にイトーヨーカ堂と長崎屋に対して,それぞれクッションを注文し購入したことが認められ,また,証拠(甲64の1ないし40)によると,クアーズは,大永寝具から,平成6年10月から12月にかけて,のれん及びクッションを購入したことが認められる。しかし,これらが上記イ認定に係るものとは別の物であることを認めるに足りる的確な証拠はない。

その他,上記イ認定の数量を超えてクッション及びのれんが製造販売されたことを認めるに足りる証拠はない。

(2)  タオルについて

ア 証拠(甲37,甲38の4ないし12,甲39の4ないし6,甲40の4ないし10,甲42,乙2)及び弁論の全趣旨によると,以下の事実が認められる。

(ア) 被告は,タオル製造メーカーであるナストウに対し,バイセル取引により,別紙「タオル販売一覧表(2)」のとおり,平成5年12月から平成6年2月までの間に,ハンドタオル合計3万枚,フェイスタオル合計3万枚,スポーツタオル3万枚,バスタオル2万枚を注文した。被告がナストウに対し注文した際における納品予定日は,平成5年12月25日,平成6年1月21日,平成6年2月4日であった。

(イ) ナストウ作成の出荷明細書(甲42)には,ナストウは,ダイエーに対し,平成6年1月から3月までと平成6年10月,11月に,ハンドタオル合計2万9453枚,フェイスタオル合計2万7564枚を出荷し,平成6年1月,2月,平成7年5月,12月に,スポーツタオル合計2万9965枚を出荷し,平成6年1月,2月,5月,平成7年5月,6月にバスタオル合計1万9880枚を出荷したとの記載がある。

ナストウと被告との間のバイセル取引におけるナストウから被告に対する納品日は,平成6年2月10日,3月11日,4月8日,5月10日,6月7日,9月30日であり,枚数は,ハンドタオル合計2万9756枚,フェイスタオル合計2万7562枚,スポーツタオル合計3万枚,バスタオル合計2万枚である。

(ウ) ダイエー作成の販売実績表(甲37)によると,ダイエーは,平成6年1月から3月までと平成6年10月から11月までの間に,ハンドタオル合計2万9453枚,フェイスタオル合計2万7564枚を販売し,平成7年5月,6月に,スポーツタオル合計3万0265枚とバスタオル合計1万9580枚を販売したとの記載がある。

イ 上記認定のナストウ作成の出荷明細書とダイエー作成の販売実績表を対比すると,ハンドタオルとフェイスタオルについては,ナストウのダイエーに対する出荷時期とダイエーの販売時期が合致し,数量も一致している。スポーツタオルとバスタオルについては,出荷(販売)時期や数量が必ずしも合っていないが,数量の差は小さく,また,ナストウ作成の出荷明細書に記載されている平成7年12月に出荷されたスポーツタオルについては,後記のとおりであり,その他,ナストウがダイエーに出荷するより前にダイエーが販売したというようなことも認められないから,両者が著しく矛盾するとはいえない。

また,上記認定のナストウ作成の出荷明細書におけるダイエーに対する出荷時期及び数量を,ナストウと被告との間のバイセル取引におけるナストウから被告に対する納品日及び数量を対比すると,ナストウ作成の出荷明細書におけるダイエーに対する出荷時期とナストウと被告との間のバイセル取引におけるナストウから被告に対する納品日は,合っておらず,数量も異なっているが,数量の差は小さく,また,証拠(証人Eの証言)及び弁論の全趣旨によると,バイセル取引においては,発注者(売主)と受注者(買主)の間で,実際に製造された商品の引き渡しが行われることはなく,書面上,納品したことにされるのみであると認められるから,バイセル取引におけるナストウから被告に対する納品日や数量がナストウのダイエーに対する出荷時期や数量と一致しないとしても,決定的に不自然であるということはできない。上記認定のとおり,この納品日は,注文の際における納品予定日とも異なっているが,納品予定日があくまでも「予定日」であることからすると,この点も決定的に不自然であるということはできない。

さらに,証拠(甲43の1,2,甲44,49)によると,原告は,平成7年12月及び平成8年2月にダイエー別府店において,スポーツタオルを合計780枚を購入したことが認められるが,上記認定のナストウ作成の出荷明細書によると,ナストウは,平成7年12月にダイエーにスポーツタオル780枚を出荷していることが認められるから,これが,原告が購入した780枚のタオルであると認められる。したがって,原告が購入した780枚のタオルが,上記アで認定したタオルとは別のものであるとは認められない。

ウ 証拠(甲45)によると,平成7年12月18日,原告代表者らはナストウの社員であるH及びIと面談し,ナストウにおけるタオルの製造販売状況等について話をしたことが認められる。同会話の中にはH及びIが,タオルの製造販売数量に関して,かなりの数を製造販売した旨述べた部分(タオルが10万枚,スポーツタオル5万枚,バスタオル3万枚を販売した。)があるが,それらはいずれも客観的,具体的な資料を基に述べられたものとは認められないこと,証拠(乙2)によると,Hは,原告代表者らをイベント会社の人であると信じて,大きな数字を話したかもしれない旨述べていると認められること,具体的な数量に関しては,原告代表者らの誘導によって述べた部分も存することが認められることからすると,H及びIの製造販売数量に関する発言部分は直ちに信用することができない。

エ 証拠(甲50の1,2,甲51の1,2,甲123)によると,本件イラストレーションを使用したタオルが九州ジャスコにおいて販売されていたこと,吉岡商事は,楠橋繊維からJ及びKのイラスト及び原告のマークが付されたスポーツタオルのB品600枚を仕入れ,サンイイダに販売したこと,サンイイダは九州ジャスコに同商品を販売したこと,以上の事実が認められる。また,吉岡商事社長L(以下「L」という。)と原告代表者らとの会話を録音したテープの反訳文(甲124)によると,Lは,原告代表者からダイエーで購入したタオルを見せられたのに対して,吉岡商事で扱っていたタオルとは絵や柄が異なるものであると述べていること,Lは,会話の中で「うちはバンダイの商品じゃないです。バンダイさんの商品は,バンダイさんはちゃんとチェーンというか,やっているところがありますからね,あそこ以外は売られへんですからね。」と述べていること,吉岡商事で扱っている商品は傷がついているもので,本来焼いて処分しなければならない品物であると述べていること,以上の事実が認められる。そうすると,九州ジャスコで販売されていたスポーツタオルは,何者かが,本来処分しなければならない不良品を出荷したものと認められ,被告がそのような行為に関与していたことを認めるに足りる証拠はない。

オ そして,他に,被告が,別紙「被告製造報告一覧表」記載に係る数量を超えてタオルを製造販売したことを認めるに足りる証拠はないから,結局のところ,タオルに関する原告の主張は認められない。

(3)  ジュニアキルケット

ア 別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,被告は,原告に対して,平成5年12月から平成6年2月にかけて,ジュニアキルケットの製造報告をしているところ,弁論の全趣旨によると,ジュニアキルケットを製造した橘織物は,被告から平成6年1月6日に2000枚,同月21日に2000枚,同月28日に3000枚,同年3月10日に4000枚の本件証紙をそれぞれ購入したことが認められる。このように,橘織物は,原告に対する製造報告後に本件証紙を購入しているが,製造報告後に,実際の製造者(橘織物)が,証紙を購入し,それを商品に付して販売することもあり得ると考えられるから,特に不自然ではないというべきである。

また,証拠(甲83の1,2,甲84の1ないし10)によると,原告は,平成7年12月にナストウから,平成9年4月に株式会社ニッショーコーポレーションから,それぞれジュニアキルケットを購入したことが認められるが,これらが,上記製造報告に係るものとは別のものであることを認めるに足りる証拠はない。

その他,被告が上記製造報告を超える数量のジュニアキルケットを製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

イ 証拠(甲108の1,2)によると,被告と原告との間の本件修正合意によるジュニアキルケットに係る調整数量は,別紙「調整数量一覧表」記載のとおり,3980円のもの2万5000枚であること,3500円のものについては許諾の対象となっていないこと,以上の事実が認められる。他方,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,被告が原告に対して報告したのは,3500円のジュニアキルケット1万1000枚であり,被告は原告に対し,これに対応する許諾料154万円を支払ったことが認められる。そうすると,被告は,原告との間で3980円のものを製造販売するとの合意をしながら,これとは異なる3500円のものを製造販売したことになる。しかしながら,証拠(甲5,甲28の3,甲29の4,甲30の3,甲31の3,甲32の3,甲33の3,甲34の3,甲35の3)によると,被告は原告に対し,「花田ファミリーロイヤリティ集計表」を作成し,被告が製造販売した商品名,生産数量,発生許諾料について,具体的に報告するとともに,許諾料の支払をしているところ,上記集計表には,ジュニアキルケットに関しては,売価3500円,許諾料140円と記載されていたこと,この点について原告は特に異議を述べずに,許諾料を受領していること,3500円と3980円の違いがあるにせよ,いずれもジュニアキルケットの製造販売であることからすると,原告は,被告が3500円のジュニアキルケットを製造販売していることを認識していたにもかかわらず,異議を述べることなく,3500円のジュニアキルケットに係る許諾料を受領していたと認められる。そうすると,この点について,被告に,事後的に許諾していたものと認められる。

ウ したがって,ジュニアキルケットに関する原告の主張は認められない。

(4)  毛布,綿毛布

ア 証拠(甲82,95)によると,被告は,原告に対し,平成5年5月に,綿毛布に関する新商品企画申請書を提出したこと,それには,発売予定日平成5年6月,目標数量3500枚と記載されていたこと,原告は,綿毛布の製造販売を承認したこと,以上の事実が認められる。

しかし,証拠(甲95,甲96の1,2,甲97の1,2,甲98ないし102,証人Eの証言)及び弁論の全趣旨によると,同申請書は,被告が新たに企画した商品について,本件修正合意前契約に基づき,原告の許諾を得るために提出されるものであって,発売予定日や目標数量は,提出時における見込みで記載されるものと認められるから,同申請書に,上記のとおり記載されており,その製造販売が承認されたからといって,直ちに被告が綿毛布を製造販売したことを認めることはできない。

また,原告は,被告は,本件修正合意前に,橘織物から当初予定数量分の許諾料の前受金を受領しており,橘織物が綿毛布を製造販売することを許諾していたとも主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠はない。

さらに,そもそも実際に綿毛布が販売されていたことを認めるに足りる証拠は全くない。

イ 証拠(甲132)によると,橘織物の社長は原告代表者らに対して,2種類の毛布を製造したことを認める発言をしたことが認められる。また,証拠(甲45)によると,橘織物から毛布を仕入れたナストウの社員が,原告代表者らに対し,橘織物は,毛布を何万枚か製造していると述べたことが認められる。しかしながら,これらの橘織物の社長やナストウの社員の発言は,いずれも曖昧な内容であって,客観的,具体的な資料に基づくものとは認められず,原告代表者らによる誘導も存することからすると,直ちに採用することはできない。

また,そもそも実際に2種類の毛布が販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。

ウ 他に,被告が別紙「被告製造報告一覧表」記載の製造数量を超えて毛布を製造販売したこと及び被告が綿毛布を製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

エ したがって,毛布及び綿毛布に関する原告の主張は認められない。

(5)  ハーフケット

証拠(甲82)によると,原告は,平成5年6月16日,被告に対して,ハーフケットの製造販売について承認したことが認められる。しかし,そうであるからといって,直ちに,被告が,ハーフケットを製造販売したとは認められない。また,原告は,被告は製造業者から許諾料の前受金を受領し,製造発注済みであったと主張するが,そのような事実を認めるに足りる証拠もない。

さらに,そもそも実際にハーフケットが販売されていたことを認めるに足りる証拠は全くない。

そして,他に被告がハーフケットを製造販売したことを認めるに足りる証拠はないから,原告のハーフケットに関する主張は認められない。

(6)  ホームソーイング

証拠(甲75ないし81)によると,原告代表者らとダイエーやイトーヨーカ堂等の小売店の店舗の従業員との会話を録音したテープの反訳文には,従業員が,J,Kの漫画が書かれた生地を販売していた旨述べた部分が存することが認められる。しかし,これらの従業員の話に出てくる生地がどういうものであったかは,右の話以上には明らかでなく,本件証紙が付されていたかどうかも不明であるから,その製造販売に被告が関与していたとまでは認められない。

そして,他に被告がホームソーイングを製造販売したことを認めるに足りる証拠はないから,原告のホームソーイングに関する主張は認められない。

(7)  ナップザック

被告がナップザックを製造販売したことを認めるに足りる証拠はないから,原告のナップザックに関する主張は認められない。

(8)  ピクニックマット

別紙「調整数量一覧表」の「ピクニックマット(小)」,「ピクニックマット(大)」の各項のとおり,本件修正合意によって,原告は,被告に対し,ピクニックマットについて,大小各6500個ずつ製造することを許諾したところ,別紙「被告製造報告一覧表」記載のとおり,被告は,原告に対し,ピクニックマットを大小各6500個ずつ製造した旨の報告をしており,一致している。

被告が上記報告数量を超えてピクニックマットを製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

したがって,原告のピクニックマットに関する主張は認められない。

(9)  子供用浴衣,大人用浴衣,カーテン,バスマット,ハイソックス,巾着,巾着袋

証拠(甲82,甲96の1,2,甲97の1,2,甲99ないし101)によると,被告は,原告に対し,平成5年5月から6月にかけて,これらの商品に関する新商品企画申請書を提出したこと,それには,発売予定日として,商品によって,「平成5年6月」,「平成5年7月」又は「平成5年8月」と記載されていたほか,商品によっては,目標数量が記載されていたこと,原告は,これらの商品の製造販売を承認したこと,以上の事実が認められる。前記(4)ア認定のとおり,同申請書は,被告が新たに企画した商品について,本件修正合意前契約に基づき,原告の許諾を得るために提出されるものであって,発売予定日や目標数量は,提出時における見込みで記載されるものと認められるから,同申請書が提出されたことから直ちに被告が当該商品を申請どおりに製造販売したと認めることはできない。

また,甲129(Mの陳述書)には,浴衣が販売されているのを見た旨の記載があるが,このような抽象的な記載のみで,実際に浴衣が販売されていたとは認められず,他に子供用浴衣,大人用浴衣,カーテン,バスマット,ハイソックス(600円のもの以外のもの),巾着,巾着袋が実際に販売されていたことを認めるに足りる証拠はない。

さらに,原告は,被告担当者が,本件仮処分事件の審尋期日に既に完成した大人用浴衣を持参していたと主張するが,これを認めるに足りる的確な証拠はなく,仮に,上記主張のとおりであったとしても,その後の被告と相撲協会らとの和解契約の内容,原告と被告との本件修正合意の成立等の事情に照らすと,被告担当者が商品を持参したことから直ちにその後被告が大人用浴衣,子供用浴衣を製造販売したとは認められない。

そして,他に被告がこれらの商品を製造販売したこと(ハイソックスについては,別紙「被告製造報告一覧表」記載のものを超えて製造販売したこと)を認めるに足りる証拠はないから,原告のこれらの商品に関する主張は認められない。

(10)  ハンカチ及びナフキン

証拠(甲126の1ないし7)によると,原告代表者らと小売店の従業員との会話を録音したテープの反訳文には,従業員が,ハンカチについて,「作りすぎて余っている」と述べたり,ハンカチやナフキンについて,千又は万単位の数量を販売したと述べたことが記載されているが,いずれも曖昧な内容であって,客観的,具体的な資料に基づくものとは認められず,原告代表者らによる誘導も存することからすると,供述内容を直ちに信用することはできない。

そして,他に,被告が別紙「被告製造報告一覧表」記載の製造数量を超えてハンカチ及びナフキンを製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

(11)  その他の商品

その他の商品に関しても,被告が,別紙「被告製造報告一覧表」記載の商品アイテム及び数量以外の商品を製造販売したことを認めるに足りる証拠はない。

5  原告が被った損害額

(1)  上記認定判断のとおり,被告は,1280円のクッションを本件修正合意後の調整数量(6200枚)の合意に反し,同数量よりも6998枚多く製造したことが認められる。

(2)  原告は,被告が得た利益額に基づく損害を主張しているが,原告は,被告に対して,本件キャラクター商品の製造販売を許諾して,許諾料を得ていたのみで,同種の商品を製造販売していたとは認められないから,許諾料相当額の損害を被ったとは認められるが,それを上回る損害を被ったとは認められない。

(3)  既に認定したとおり,本件修正合意前契約においては,許諾料は商品上代の5パーセントであったが,この契約は,相撲協会らと被告との和解契約及びそれを前提とする本件修正合意がされたことによって変更され,その結果,被告が原告に対して支払うべき許諾料は,商品上代の4パーセントとなったのであるから,許諾料相当額は,商品上代の4パーセントであると認められる。

1280円のクッションについての許諾料相当額は,1枚当たり51.2円(1280円の4パーセント)であるから,被告の損害額は,35万8298円(ただし,小数点以下四捨五入)となる。

(4)  なお,原告は著作権に基づく損害賠償請求もしているところ,既に認定した諸事実によると,原告の著作権に基づく損害損害賠償請求について,原告の損害額が上記金額を超えるものとは認められない。

6  結論

以上のとおり,原告の本件請求は,主文掲記の範囲で理由があるから,主文のとおり判決する。なお,仮執行宣言は,付さないこととする。

(裁判長裁判官 森義之 裁判官 内藤裕之)

裁判官 杜下弘記は,転補のため署名押印できない。 裁判長裁判官 森義之

<以下省略>

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