東京地方裁判所 平成10年(ワ)18707号 判決 2000年6月28日
《住所略》
原告
株式会社女性時報社
右代表者代表取締役
甲野太郎
東京都中央区日本橋1丁目9番1号
被告
野村證券株式会社
右代表者代表取締役
氏家純一
右訴訟代理人弁護士
勝俣幸洋
同
長尾敏成
同
三好豊
同
菊地健治
口頭弁論終結日 平成12年4月26日
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一 原告の請求
被告は、原告に対し、金234万7130円及び内金66万7130円に対する平成10年2月1日から、内金168万円に対する平成10年8月28日から各支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要及び当事者の主張
一 事案の概要
原告は、「女性時報」との紙名の新聞(以下「本件新聞」という。)を月に2回程度発行している会社であり、被告は、昭和61年ころから本件新聞を継続的に購読し、また随時広告を掲載してきた会社であるが、本件は、被告が、平成9年になって本件新聞の購読及び広告掲載を拒否したことから、原告が、被告に対し、購読契約に基づく購読料及び広告掲載契約に基づく広告掲載代金の支払いを求めた事案である。
二 争点
1 原被告間に平成10年1月1日から同年12月末までの本件新聞の購読契約(以下「本件購読契約」という。)は成立しているか。
2 仮に本件購読契約が成立している場合、その後の解約の可否。
3 原被告間に本件新聞への平成9年6月及び同年10月掲載分に関する広告掲載契約は成立しているか。
4 仮に右広告掲載契約が成立している場合、その後の解約の可否。
5 原告による本件購読料請求権及び右広告掲載代金請求権の行使は、権利の濫用等に当たるか。
三 争点に関する当事者の主張
1 争点1について
(一) 原告の主張
原告と被告は、平成9年4月28日、次のとおり、平成10年1月1日から同年12月末まで本件新聞を購読するとの契約を締結した。
(1) 毎月号(毎月15日と25日に発行、1部200円) 各100部
年間購読料 金48万円
(2) 特集号(年2回発行、1部200円) 各300部
年間購読料 金12万円
(3) 送料(26回分) 金3万5360円
(4) 消費税 金3万1770円
(5) 合計 金66万7130円
(6) 支払期日 平成10年1月末日
(二) 被告の主張
将来定期的に発行される新聞・雑誌等について、未だ発行されていない段階で定期購読を申し込むことは社会一般に広く見られるところであるが、このような将来の新聞・雑誌の申込みは定期購読契約についての予約の申込みにすぎないから、現実の新聞・雑誌の発行及びその受領という行為があるまでは、申込者が申込みを撤回することは当然のこととして容認されるものである。
被告は、原告に対し、平成9年4月28日、本件新聞の購読を申し込んだが、それは購読開始日の約8か月前になされたものであって、右にいう予約の申込みにすぎないところ、被告は、原告に対し、同年7月10日、右申込みを撤回したから、本件購読契約は成立していない。
2 争点2について
(一) 被告の主張
(1) 本件購読契約の法的性質
本件購読契約の法的性質は、以下のとおり、継続的売買契約又は請負契約類似の無名契約と解すべきである。
ア 被告は、昭和61年から平成9年まで12年間にわたり、原告が発行する本件新聞を、部数及び購読料等には変更がないまま継続的に購読してきたものであって、原告と被告との間の本件新聞の購読契約は、実質的には期間の定めのない継続的売買契約である。平成9年4月28日になされた本件購読契約は、平成10年分の部数、購読料等を確認したにすぎないものである。
そして、継続的売買契約について期間が定められていない場合は、各当事者は、契約の種類、性質等に応じた相当の予告期間を設けて解約することができると解されているから、本件新聞についても、相当の予告期間を置いて解約することができる。
また、継続的売買契約はたとえ期間が定められているときであっても、社会通念上契約を継続させることが著しく不当又は不合理と認められる事由が存在する場合は、契約を解約することができると解すべきであるから、仮に本件購読契約が平成10年1月1日から1年間の定期購読契約であったとしても、やはり正当事由が存在する場合は一方当事者の意思のみで解約することができる。
イ 本件購読契約は、読者が、編集作業に着手もされていない将来の定期出版物について、その編集方針等に期待して、その定期購読の申込みをし、出版社がこれに応諾し、当該出版物が出版されれば、大量に印刷されるものの一部を右読者に有償で交付することを約する無名契約であって、民法上の請負契約に類似するものである。
そうすると、民法641条が類推適用されるべきであり、被告は、原告の仕事完成前に本件購読契約を一方的に解約することができる。
(2) 解約申入れ
被告は、原告に対し、平成9年7月10日付け書面をもって、本件購読契約について、解約を申し入れた。
(3) 期間の相当性
被告の解約申入れは、実際の購読開始日の約6か月も前である平成9年7月10日になされたものであり、その通知した時点では、平成10年分の本件新聞は未だ記事も作成されておらず、原告には何らの損害も発生していない。
したがって、右時点における解約申入れは相当な期間をおいたものである。
(4) 正当理由の存在
被告については、平成9年3月6日、総会屋に対する利益供与事件が発覚し、代表取締役が逮捕、起訴される事態に発展した。この事件のマスコミ、世論への影響は大きく、世論全体が被告の動静を注目していた。そのため、被告は、いわゆる総会屋をはじめとする反社会勢力と明確に決別し、企業行動の適正化を達成するために、全社的な業務の見直しに着手し、その一環としてそれまで被告が購読してきたあらゆる新聞・雑誌等について検討を加え、購読の打切りを実施した。
本件新聞の購読打切りも右企業行動の適正化に伴う業務の見直しの一環として行われたものであり、解約の理由には以下のとおり正当理由がある。
ア 本件新聞は、その記事内容が趣旨不明かつ支離滅裂であり、およそ新聞の名に値しない無意味・無価値なものであって、被告にとって購読料に見合うだけの企業利益は全くなかった。
イ 被告が数年にわたり本件新聞を購読してきた理由は、原告の代表取締役である甲野太郎、取締役であった甲野花子らに、被告本社へ押しかけられ、強引に購読等を迫られるなどしたからであり、購読するに至った経緯自体が、被告の困惑に乗じた極めて悪質なものであった。
ウ 甲野太郎及び甲野花子は、強引に被告の担当者と面会し、面会するなり、インタビューと称して、例えば「皇室外交をどう思うか」等とおよそ企業の経済活動とはかけ離れた質問を一方的かつ唐突に始め、かつ、承諾なく写真撮影を行うなどしている。そして、支離滅裂かつ趣旨不明な内容の記事を被告の担当者があたかも話したかのように、しかも写真付きで無断で本件新聞に掲載するなどしていた。このような行為は、掲載された被告の担当者の名誉信用を毀損するものであり、ひいては被告の名誉信用をも失墜させるものであった。
(二) 原告の主張
被告が、平成9年7月10日、原告に対し、本件購読契約の解約を申し入れてきたことは認めるが、本件購読契約の法的性質は売買であり、右解約申入れは、何らの正当理由もないから無効である。
3 争点3について
(一) 原告の主張
原告と被告は、平成8年10月2日、次のとおり、本件新聞に被告の広告を掲載する契約を締結した(以下「本件広告掲載契約」という。)。
掲載日 平成9年4月、6月、10月
スペース 天地16.8センチメートル
左右37.2センチメートル
広告掲載料 1回当たり金80万円
計 金240万円
支払日 各広告掲載月の末日
(二) 被告の主張
原告の主張する平成8年10月2日の時点では、主張のような広告掲載契約は成立しておらず、被告は、広告掲載の回数を3回と指定して申し込んだにすぎず、その法的性質は予約の申込みにすぎない。本件新聞への広告の掲載は、掲載が予定された号ごとに被告から原告への版下の提供があって初めて原告が紙面に掲載する広告内容が確定するのであり、単に掲載の時期・回数を決めた段階では、原告の具体的債務は定まっていない。この段階で契約としての拘束力を認めることは、常識に反する上、当事者の公平性を著しく害することになる。
そして、本件新聞への広告掲載契約は、被告が、原告に対し、1回の広告掲載ごとに版下を授受することによって成立するというべきである。そして、被告は、原告に対し、平成9年3月25日には口頭で、広告掲載の中止を通知しており、その後、平成9年6月分及び同年10月分の広告の版下の授受は行われていないのであるから、この2回分に関する広告掲載契約は成立していない。
4 争点4について
(一) 被告の主張
(1) 本件広告掲載契約の民法641条又は656条、651条1項に基づく解除
本件広告掲載契約は、請負契約又は準委任契約であるから、民法641条又は656条、651条1項が適用される。
そして、被告は、原告に対し、本件広告掲載契約について、平成9年6月分及び同年10月分の広告掲載が行われる前の平成9年3月25日、口頭で以後の広告掲載を取り止める旨を通知し、また、同年11月13日付け通知書をもって同旨を通知し、もって本件広告掲載契約のうち未履行の平成9年6月分及び同年10月分に係る部分を解除した。
原告は、本件広告掲載契約について、「買い切り」すなわち売買契約の性質を有するものである旨主張するが、「買い切り」とは、広告社が媒体社から特定のスペースを買い取って、これを広告主に提供する広告形態を指すのであって、本件の場合は、広告社を介さずに広告主である被告と媒体社である原告が直接に契約する、いわゆる「直扱い」の形態であるから、原告の右主張は理由がない。
よって、右解約は、民法641条又は同法656条、651条1項により有効である。
(2) 本件広告の正当理由に基づく解除について
前記のとおり、被告は、当時、企業行動の適正化を図るため、全社的な業務の見直しを行っていたのであり、本件広告掲載契約の解約もその一環として行われたものである。
また、被告は、原告に対し、前もって広告掲載の中止を通知しており、原告には何ら損害が発生していない。
原告は、あたかも損害が発生したかのような主張をするが、被告が買い切ったと主張するスペースに、被告以外の広告主の広告を掲載して発行していたのであり、損害は発生していない。
したがって、被告の解除には、正当理由がある。
(二) 原告の主張
(1) 本件広告掲載契約の民法641条又は656条、651条1項に基づく解除
被告は、原告に対し、平成9年5月、行政処分を受けているところなので広告は自粛している、出せるようになったら出すので待っていて欲しい旨申入れた。また、同年9月10日には、原告取締役である甲野花子が被告取締役であったA(以下「A」という)らと面談した際、Aは、契約ができているものについては履行する旨述べ、本件広告掲載契約を履行することを約したのであるから、平成9年3月25日には本件広告掲載契約の解除はなされていない。
また、本件広告掲載契約は、特定の時期の特定の紙面を広告社が媒体社から買い取り、これを広告主に提供するといういわゆる「買い切り」類似の形態であり、その法的性質は売買契約であるから、被告が一方的に解約することはできない。
(2) 本件広告掲載契約の正当理由に基づく解除について
被告からの解約の申入れにより原告には以下のような損害が生じた。
すなわち、原告は、本件新聞を2頁で発行する場合は2社の、4頁で発行する場合は4社の広告を予め確保しておくのであるが、被告が平成9年5月に入って急きょ同年6月分及び同年10月分の広告を先送りしてほしいと申し出たため、同年6月25日号については、4頁で発行することを断念した。よって、2頁分の取材の経費が無駄になった。
また、同年10月25日号については、同年12月掲載予定の他社の広告契約を前倒しで掲載してもらった。
そして、原告は、被告の広告掲載を待ちながら、他社の広告を前倒しで掲載したりしたが、結局、平成10年4月以降は4頁での発行はできなくなった。
したがって、被告の解除には正当理由がない。
5 争点5について
(一) 被告の主張
本件新聞は、およそ購読紙として客観的に無意味・無価値であり、購読代金に照らして全く対価性がなく、宣伝効果も全くない。したがって、本件購読契約及び本件広告掲載契約は暴利行為に他ならない。
また、被告は、原告に強引に押しかけ、執拗に購読を迫るなどして被告を困惑、疲弊させることにより、契約締結させたのであり、公序良俗に反し、無効である。
また、原告による本件購読料請求権及び広告掲載代金請求権の行使は、社会通念上到底許されるものではなく、権利の濫用に当たる。さらに、未だ本件新聞が発行されず、広告の掲載もされていない時期で、かつ履行期よりも相当前の段階においては、被告が契約を解消しても原告に不測の損害を与えることはないから、契約の解消を認めないことは信義則にも反する。
(二) 原告の主張
被告の右各主張は争う。
第三 争点に対する判断
一 当事者間に争いのない事実に証拠(甲一ないし三、八、一四ないし一六、乙一ないし八、一一、一二、証人B及びCの証言)及び弁論の全趣旨を総合すれば、次の事実を認めることができる。
1 本件新聞について
本件新聞は、昭和58年に、原告の代表者である甲野太郎及び甲野花子らを中心として発刊され(甲八、乙一ないし八)、毎月15日及び25日の2回発行される他に、年2回特集号が発行され、年間合計26回発行されている(争いがない。)。同紙は、国際化、皇室外交等をテーマにしており、その内容は、官公庁職員、企業経営者等のインタビュー記事を中心とするが、毎号1面のトップには「天皇」又は「皇室」等の語を用いた大きな活字の見出しの下に、皇室活動を賛辞する記事が掲載されている(乙一ないし八)。
本件新聞は、会社関係等により多数購読されている(甲八、弁論の全趣旨)。
2 被告による本件新聞の購読等について
(一) 被告は、昭和61年1月1日から平成9年まで継続して本件新聞を購読し(争いがない。)、少なくとも平成5年からは、1年ごとに、いずれも購読契約にかかる年の前年の1月又は2月に、新しい契約書が作成されていたが、その購読部数、購読料及び支払期日等に何ら変更はなかった(甲一五の一ないし四)。
また、被告は、少なくとも平成5年から継続して本件新聞に広告を掲載し、原告に対し、年間240万円の広告掲載代金を支払っていた(甲一四の一ないし四、乙一一)。
(二) 被告は、右のとおり本件新聞を購入していたが、本件新聞の記事内容は被告の業務にとって特に有用ではなかったため、社内で閲読することなく廃棄していた(乙一一、証人B)。
3 本件広告掲載契約について
被告は、平成8年10月2日、「『女性時報』広告申込書及び契約書」と題する書面を作成し原告に交付したが(争いがない。)、同書面には、掲載日は平成9年4月、6月、10月、広告の掲載スペースは天地16.8センチメートル、左右37.2センチメートル、広告掲載料は金240万円と記載されていた(甲二)。
4 広告掲載方法について
本件新聞紙上への被告の広告掲載は、以下のような方法によって行われていた(争いがない。)。
(一) 原告と被告との間で広告掲載の時期、回数等について定める。
(二) 広告主である被告が、原告に対し、1回の広告掲載ごとに実際に掲載する広告の版下を提供することによって、具体的な広告の内容が決定される。
(三) 原告が右版下を使用して広告を作成し、本件新聞紙上に掲載する。
(四) 広告掲載料の支払いは、1回の広告掲載毎に行われる。
5 購読契約について
被告は、平成9年4月28日、「『女性時報』購読申込及び契約書」と題する書面(甲一)を作成し、これを原告に交付した(争いがない。)。
右書面には、本件新聞について、被告が平成10年1月1日から毎月号を各100部、特集号を各300部購読し、その年間購読料合計60万円の支払期日を平成10年1月末日とするとの内容で申込契約する旨記載されている。
6 被告による利益供与事件等について
平成9年3月6日、被告のいわゆる総会屋に対する利益供与事件が発覚し、同年3月から5月にかけて、被告に対しては強制捜査が行われるなどして、元代表取締役らが逮捕、起訴される事態となり、被告は、同年7月30日、一部業務停止処分を受けた(争いがない。)。
被告は、右事件により、被告の企業倫理、企業体質がマスコミ等により厳しく非難され、被告が多くの雑誌等の購読や雑誌等への広告の掲載を行っていたことについても、総会屋等への利益提供の温床になるとの批判を受けた。このため被告は、同年4月、内部管理委員会を設置するなどし、企業行動の適正化のため、全社的な業務の見直しを行い、その一環としてそれまで被告が購読してきた新聞雑誌等について検討を加え、約700社の新聞雑誌等について購読を打ち切った(乙一一、一二、証人B、同C)。
7 本件新聞の購読等の打切りについて
被告は、被告に対し強制捜査が行われた同年3月25日、原告に対し、本件新聞への今後の広告掲載を取り止める旨を口頭で通知したが、同年4月分の広告については間に合わず、広告が掲載され、そのため被告は原告に対し広告掲載代金80万円を支払った(乙一一、一二、証人B及びC)。
原告は、平成9年6月及び同年10月に発行した本件新聞には被告の広告を掲載せず、いずれも他企業の広告を掲載し、被告の広告を掲載しなかったことによる空白の部分はない(乙五ないし八)。
被告は、原告に対し、同年11月13日、書面をもって、広告掲載の中止を通知した(争いがない。)。
被告は、右業務の見直しの一環として、被告の業務に直接関係のない本件新聞の購読を打ち切ることを決め、原告に対し、同年7月10日、書面(甲三)で本件新聞の今後の購読を断る旨を通知した(争いがない。)
二 争点1について
前記一の各事実(殊に5の事実)によれば、平成9年4月28日、原告と被告との間で、本件新聞について、毎月号を各100部、特集号を各300部、年間購読料合計60万円とし、その支払期日を平成10年1月末日とする旨の内容の本件購読契約が締結されたことが認められる。
この点、被告は、平成9年4月28日には、購読契約の予約の申込みをしたにすぎない旨主張するが、このとき被告が原告に交付した書面には「『女性時報』購読申込及び契約書」との表題が太字で大きく記載されており、また、本文中には前記一5のとおり、「申込契約します」との文言も記されているのであるから、被告による右書面の交付が本件新聞の購読契約の申込みであることは明らかである。そして、右書面は被告の申込みがあれば直ちに契約を成立させる趣旨で原告が被告に予め交付したものと言うべきであるから、被告の右申込みによって本件購読契約が成立したことは明らかで、被告の主張は理由がない。
三 争点2について
1 本件購読契約の性質について
前記一の各事実、殊に、本件購読契約が、被告において、年間26回にわたり発行される本件新聞を定期的に購入し、その対価として購読料を支払うことを内容とするものであること、右取引は12年間中断することなく継続していたこと、少なくともここ数年は購読部数、購読料等の条件の変更もなかったこと、原被告間では、1年ごとに「購読申込書及び契約書」と題する書面が交わされているものの、いずれも契約期間の開始の8か月から11か月以上も前に作成されており、その体裁も、原告の押印もない簡略なものであること、当時、被告のいわゆる総会屋に対する利益供与事件が発覚し、被告の企業倫理、企業体質が厳しく非難され、特に被告が多くの雑誌等の購読等を行っていたことが総会屋等への利益提供の温床になるとの批判が強かったこと、本件新聞は、その記事内容が被告の業務にとって特に有用なものではなく、被告においても購入後閲読することなく廃棄していた等の事実からすれば、本件購読契約は、相当の予告期間をおいて行う意思表示により解約することのできる継続的売買契約であると認められる。
2 相当の予告期間について
そして、被告は、原告に対し、平成10年1月以降の本件新聞の購読について、その約半年前である平成9年7月10日に右購読を取り止める旨を通知し、解約申入れを行っていることについては当事者間に争いがないところ、前記一のとおり、本件新聞は月に2回発行される新聞であること、本件新聞は会社やその関係者に広く購読されており、被告はその中の一人にすぎないこと、被告が本件新聞に広告掲載することを取り止めた後も空きスペースを作ることなく他社の広告が掲載されていること等の事実によれば、購読開始の約半年前に行われた右解約申入れは、右時期により原告に著しい不利益を生じさせるものではなく、相当な予告期間をおいて行われたものと認められ、本件購読契約の解約は有効というべきである。
四 争点3について
前記一の事実(殊に3の事実)によれば、平成8年10月2日、原告と被告との間で、掲載日を平成9年4月、6月、10月とし、広告掲載のスペースを天地16.8センチメートル、左右37.2センチメートルとし、掲載料の合計を240万円とする内容の本件広告掲載契約が締結されたことが認められる。
被告は、「『女性時報』広告申込及び契約書」(甲二)を作成し原告に交付したのは、広告掲載契約の予約の申込みにすぎない旨主張するが、右書面には明らかに「契約書」と記されており、被告としても当然右事実を認識した上で作成し、交付したものと認められるから、被告の主張は理由がない。
五 争点4について
1 前記一の認定事実、殊に本件広告掲載契約の内容及び被告が被告の作成した版下を原告に交付し、原告はこれを使用して被告の広告を本件新聞に掲載するという方法で広告を掲載していたこと等の事実によれば、本件広告掲載契約は準委任契約であると認められる。
そして、前記一7の事実によれば、被告は、原告に対し、平成9年3月25日、本件広告掲載契約の解約を通知したことが認められるから、本件広告掲載契約のうち未履行の平成9年6月分及び同年10月分に関する部分は解約されたというべきである。
2 原告は、本件広告掲載契約は「買い切り」であって売買契約である旨主張する。しかし、一般に「買い切り」とは、広告社が媒体社から特定のスペースを買い取り、これを広告主に提供する広告形態を指すものであるところ、本件広告掲載契約は広告社を介さずに媒体社である原告と広告主である被告との間で直接に行われていること、本件広告掲載契約は、被告の広告を掲載する新聞を6月分及び10月分と特定するのみであって、15日発行分と25日発行分とのいずれに掲載するのかを特定していないこと、被告が本件新聞への広告掲載を取り止めた後も、6月分及び10月分の4回とも空白のスペースを作ることなく広告が掲載されていること等の事実に照らせば、原告主張のような「買い切り」とは形態を異にするものであって、本件広告掲載契約を売買契約と解することはできない。
また、原告は、被告は平成9年9月10日に本件広告掲載契約の履行を改めて約したものであって、同年3月25日に解約を通知した事実はない旨主張する。なるほど、甲第一六号証によれば、同年9月10日に被告の担当者が「契約は、きちっと履行しますと言うのが、我々の考えです。」との発言をしたことが認められるが、このときの会話を全体としてみれば、被告が解約の申入れをしたことについて原告が抗議してきたことから、これに対して担当者が不祥事を起こして全社的に業務の見直しを迫られている被告の立場を説明し、事を荒立たせないため婉曲な表現を用いて、解約に至った事情について原告の理解を得ようと努めていたこと、そして、前記発言もそうした事情説明の中で一般論として言われたものであることが認められるから、右発言をもって本件広告掲載契約の履行を約したものと認めることはできない。他に原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。
六 以上のとおり、その余について判断するまでもなく、原告の請求は理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法61条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 一宮和夫 裁判官 今岡健 裁判官 北條桃子)