大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 平成10年(ワ)19257号 判決

原告 飯山晶子

原告 武岡智美

原告 齋藤雅

原告 小野直史

右四名訴訟代理人弁護士 泉弘之

同 山崎善久

被告 長島俊夫

被告 長島快子

被告 長島秀樹

被告 長島康子

右四名訴訟代理人弁護士 吉田哲

主文

一  原告らと被告らとの間において、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地について、原告らが通行の自由権(自動車による通行の自由は含まない。)を有することを確認する。

二  被告らは、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地上にある、RC縁石(別紙図面の黄緑色部分)、金属製ポール(車止め、別紙図面の紫色部分)、CBフェンス(別紙図面の黄色部分)、花壇八基(別紙図面の<1>ないし<8>の桃色部分)、煉瓦敷(別紙図面の水色部分)を収去せよ。

三  被告らは、原告ら及び別紙物件目録9ないし12の各建物に出入りする者が、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地を通行すること(自動車による通行は含まない。)を妨害してはならない。

四  原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

五  訴訟費用は、これを五分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告らの負担とする。

六  この判決は、第二項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

一  原告らと被告らとの間において、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地について、原告らが通行の自由権を有することを確認する。

二  被告らは、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地上にある、RC縁石(別紙図面の黄緑色部分)、金属製ポール(車止め、別紙図面の紫色部分)、CBフェンス(別紙図面の黄色部分)、花壇八基(別紙図面の<1>ないし<8>の桃色部分)、煉瓦敷(別紙図面の水色部分)を収去し、プランター、植木鉢を撤去せよ。

三  被告らは、原告ら及び別紙物件目録9ないし12の各建物に出入りする者が、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地を通行すること(自動車を含む。)を妨害してはならない。

四  訴訟費用は被告らの負担とする。

五  第二項につき仮執行宣言

第二事案の概要

本件は、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地(以下「本件通路」という。)に面してその一部を含む土地を所有する原告らが、同じく本件通路に面してその一部を含む土地を所有している被告らに対し、被告らが本件通路上に各種障害物を設置し、原告ら及び原告ら所有建物に居住する者の本件通路の通行を妨害しているとして、本件通路が建築基準法四二条二項の指定を受けた道路の一部であることを根拠として、通行の自由権(人格権的権利)を有することの確認を求めるとともに、右通行の自由権に基づき、本件通路の通行妨害禁止及び本件通路上に設置してある障害物の撤去を求めている事案である。

一  前提となる事実(証拠の記載のない事実については当事者間に争いがない。)

1  原告飯山晶子(以下「原告飯山」という。)は、別紙物件目録4の土地を所有し、同地上に別紙物件目録13の建物を所有して、そこに家族とともに居住しながら学習塾を経営している。

2  原告武岡智美(以下「原告武岡」という。)は、別紙物件目録5の土地を所有し、同地上に別紙物件目録14の建物(建物名サンハウス)を所有している。

3  原告齋藤雅(以下「原告齋藤」という。)は、別紙物件目録6、7の各土地を所有し(持分各三分の一)、右各土地に隣接する足立区千住五丁目七二番一八の土地上に存する別紙物件目録15の建物を所有して、そこに家族とともに居住している。

4  原告小野直史(以下「原告小野」という。)は、別紙物件目録8の土地を所有し(持分三分の二)、右土地に隣接する足立区千住五丁目七二番一六の土地上に存する別紙物件目録16の建物を所有して、そこに家族とともに居住している。

5  被告長島俊夫、同長島快子は、別紙物件目録1の土地を所有し(持分は被告長島俊夫三分の二、同長島快子三分の一)、被告長島俊夫は同土地上に別紙物件目録9の建物(建物名ヴィラセブン)を所有し、同建物には、被告長島俊夫、同長島快子が居住している。

さらに、被告長島俊夫は、別紙物件目録2、3の各土地を所有し、右各土地上に存する別紙物件目録10の建物(建物名第一みすず荘)を、別紙物件目録3の土地上に存する別紙物件目録11の建物(建物名第三みすず荘)を所有している。

6  被告長島秀樹、同長島康子は、別紙物件目録3の土地及び足立区千住五丁目七二番一の各土地上に存する別紙物件目録12の建物を所有し(持分は被告長島秀樹五分の四、同長島康子五分の一)、そこに居住している。

7  本件通路上には、別紙のとおり、RC縁石(別紙図面の黄緑色部分、以下「本件縁石」という。)、金属製ポール(車止め、別紙図面の紫色部分、以下「本件ポール」という。)、CBフェンス(別紙図面の黄色部分)、花壇八基(別紙図面の<1>ないし<8>の桃色部分)、煉瓦敷(別紙図面の水色部分)が被告らによって設置され、現在も存在する。

8  また、本件通路上には、被告らによって、別紙物件目録3の土地上に、別紙物件目録7及び8の各土地の境界に沿って、幅約二〇ないし三〇センチメートル、長さ約六〇ないし七〇センチメートル、高さ約一九センチメートルのプランターが設置され、さらに、本件縁石に沿って多数の植木鉢(平成一〇年七月二七日時点で二四個)が置かれていたが、原告らが、平成一〇年八月一〇日に被告らに対して申し立てた通行妨害禁止の仮処分(東京地方裁判所平成一〇年ヨ第五三六七号事件)の審尋期日(平成一〇年九月二五日)において成立した暫定的和解に基づいて、現在は、いずれも、別紙物件目録9ないし12の建物付近に移動されている(甲五、六の5ないし13、七の1ないし3、九)。

二  主たる争点及びこれに対する当事者の主張の要旨

1  徒歩、自転車の通行の自由の確認の利益の存否

【原告らの主張】

被告らは、原告らに対して、本件通路部分の被告ら所有土地内への立ち入りを拒絶していたし、本件訴訟係属後においても、原告ら以外の居住者の被告ら所有土地内の通行を拒絶するなどして揉め事を起こしているから、なお確認の利益は存する。

【被告らの主張】

被告らは、原告らに対しては勿論、その他一般人に対して、本件通路を徒歩又は自転車で通行することを拒絶するものでないから、その確認の利益は存しない。

2  自動車の通行の自由の存否

【原告らの主張】

(一) 被告らは、従前、本件通路上を自己の関係車両を頻繁に通行させていた。

(二) 原告飯山、同齋藤、同小野は、自己又は同居者の自動車を、自己の所有地内に駐車させたいと思っているものの、被告らの妨害により、本件通路上を通行することができないため、それができず、別に駐車場を借りることを余儀なくされている。

【被告らの主張】

(一) 本件通路の入り口部分の別紙物件目録9の建物が建て替えられた平成八年五月までは 旧建物の風呂場部分が本件通路にはみ出していたため、それによって、自動車による本件通路の通行は不可能であったから、それまで本件通路を自動車が通行したことはなかった。

(二) 本件通路の下には、上下水管・ガス管等が設置されており、また、その舗装は人のみが通行することを前提として簡易舗装であるうえ、有効幅員は約二メートルと狭く、自動車が通行すると通路脇の建物等を損壊させる危険性が大きい。

3  本件通路の通行の妨害排除及び妨害予防の各請求権の存否及びその範囲

【原告らの主張】

本件通路内に被告らが設置した工作物は、すべて、原告ら関係者の通路使用を妨害する意図の下に、平成元年四月以降順次設置されていったものであり、以下のとおり、原告らの徒歩通行の自由自体の重大な制約となっているのであるから、建築基準法四二条二項の法意に照らし、当然に収去請求が認められるべきである。

(一) 本件縁石は、平成九年四月下旬、専ら原告飯山宅への通行を妨害する目的で設置されたもので、主観的要素においても違法性が高いばかりか、客観的にみても、本件通路側から原告飯山宅の私用玄関に入るには常に本件縁石を跨がなければならず、自転車の通行、乗り入れなどは特に困難な状況にある。

(二) 本件ポールは、平成一〇年五月に設置されたもので、本件縁石と相伴って、本件通路に自転車等が進行すること自体を大きく妨害している。

(三) CBフェンス、花壇八基、煉瓦敷については、これがあるため、被告ら所有アパートの住民は、居住建物の壁面に密着して自転車を置くことができず、やむを得ず本件通路のより中央付近に自転車やバイクを放置する結果を生じさせ、これが原告らの本件通路の通行の妨げとなっている。

【被告らの主張】

(一) 別紙物件目録9の建物が建て替えられた平成八年五月以降、新たに設置された工作物は、本件縁石、本件ポール、花壇二基(別紙図面<1>及び<2>)のみであり、それ以外のものは右時点では既に設置済みであった。

また、プランター及び植木鉢は、本件仮処分における和解に基づき、被告らにおいて撤去済みである。

(二) 本件通路を自動車により通行できないのは、平成八年五月以前から存在する設置物のためであり、被告らが本件縁石や本件ポール等を設置したことと自動車による通行ができないこととの間には因果関係が存しない。

(三) 他方、徒歩による通行については、被告らが工作物を設置した後も、従前どおりの通行が可能であり、そもそも妨害に事実がないから妨害排除請求には理由がなく、また、将来妨害がなされる具体的危険性も存しないから予防請求も理由がない。

第三当裁判所の判断

一  認定事実

証拠〔甲一ないし一六(枝番を含む。)、乙一、二、三の1、2、五、証人齋藤洋子、原告飯山晶子、被告長島俊夫、鑑定の結果〕及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。

1  建築基準法四二条二項道路の指定

本件通路を含む土地部分は、昭和二五年一一月建築基準法制定時に「現に建築物が立ち並んでいる幅員四メートル未満の道」であったことから、同法四二条二項の規定に基づき、東京都によって建築基準法上の道路として一括指定されたものであり、その際の道路中心線は、別紙図面の赤線部分であり、道路とみなされる範囲は、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地すなわち本件通路及びこれに東側に隣接する通路部分である(鑑定の結果、弁論の全趣旨)。

2  土地の所有関係

(一) 別紙物件目録1及び2の土地は、被告長島俊夫において昭和三〇年一月一一日に払い下げを受けた後、平成元年一一月に分筆したものであり、別紙物件目録3の土地は、同じく被告長島俊夫において昭和三四年二月六日に払い下げを受けて所有権を取得したものである(甲一の1、5、6)。

(二) 別紙物件目録4の土地は、戦前から原告飯山の祖先が所有していたが、平成九年八月に相続により、原告飯山がその所有権を取得した(甲一の3、原告飯山)。

(三) 別紙物件目録5の土地は、元株式会社ガクエン住宅(以下「ガクエン住宅」という。)が所有していたが、昭和六三年三月に原告武岡の先代が購入し、平成八年四月、原告武岡が相続によりこれを取得した(甲一の3、一六の1、乙一、弁論の全趣旨)。

(四) 別紙物件目録6、7及び8の土地は、元は一筆の土地で斉藤将の所有であり、同人がその地上に本件通路にはみ出して共同住宅(建物名さくら荘)を所有していたが、平成三年夏ころ、右斉藤が右共同住宅を取り壊し、その敷地を売りに出したので、右土地の南側に隣接して土地を所有し、その土地上に建物を所有していた原告齋藤、同小野らが、それまでは南側路地を通行して西側公道に達していたが、別紙物件目録6ないし8の土地を取得することによって、建物敷地が本件通路に通じる結果、建物の増築も可能となると考え、平成四年五月に右一筆の土地を分筆の上、同年五月ないし七月、原告齋藤らが別紙物件目録6、7の土地を、原告小野らが別紙物件目録8の土地を買い受けた(甲一の4、7、8、三、一四、一五、乙三の1、2)。

(五) これらの土地の位置関係は、別紙図面のとおりである。

3  建物の建築状況

(一) 被告長島俊夫所有の別紙物件目録10の建物(第一みすず荘)は、昭和四六年九月一〇日、同じく別紙物件目録11の建物(第三みすず荘)は、昭和四九年一一月二〇日にそれぞれ建築されたが、その際、各建物の南端は、本件通路の中心線からほぼ二メートル後退して建築されている(甲二の2、3、乙五、鑑定の結果)。

また、被告長島秀樹、同康子所有の別紙物件目録12の建物は、昭和六三年五月六日に建築されたが、右建物も、その南端は、本件通路の中心線から二メートル以上後退して建築されている(甲二の4、鑑定の結果)。

(二) 原告武岡の先代は、昭和六三年三月、別紙物件目録5の土地を取得するのと同時に、その地上に別紙物件目録14の建物を新築したが、右建物の北端は、本件通路の中心線から二メートル以上後退して建築されている(甲一の3、二の6、鑑定の結果)。

(三) 原告齋藤ら及び原告小野らは、平成四年五月ないし七月に、別紙物件目録6ないし8の土地を取得したが、右地上には未だ建築物は存しない。ただし、原告齋藤は、平成九年四月、従前からの所有地上の建物を増築するため建築確認申請を行った際、足立区の建築指導課により、確認を出す前提として、建築基準法四二条二項道路の範囲を明らかにするため、別紙物件目録7の土地のうち本件通路の中心線から二メートルの部分に縁石を設置するよう指示されたため、これに応じた(甲六の6ないし13、一五、鑑定の結果)。

(四) 被告長島俊夫は、別紙物件目録1の土地上、すなわち本件通路の入り口部分の北側に、旧居宅を所有していたところ(右居宅の風呂場が本件通路上にかなりはみ出していた。-乙三の2)、平成七年一〇月にこれを取り壊し、平成八年四月、別紙物件目録9の建物に建て替えたが、右建物も、その南端が本件通路の中心線からほぼ二メートル後退して建築されている(甲二の1、乙五、鑑定の結果)。

(五) 原告飯山は、先代の時代から引き継いで、別紙物件目録4の地上建物(自宅)において学習塾を営んでいたが、平成九年五月、旧建物を建て替え別紙物件目録13の建物を新築したが、右建物の北端を本件通路の中心線から二メートル以上後退して建築した(甲二の5、六の1ないし5、九、鑑定の結果)。

4  通路協定書(乙一)及び念書(乙二)の存在等

被告長島俊夫は、昭和六二年一二月、別紙物件目録5の土地の前所有者であったガクエン住宅との間で、別紙物件目録1の土地と同5の土地との地境からそれぞれ二メートルの奥行きで空き地を確保して、将来的には右部分を幅員四メートルの通路とすることなどを主とする内容の通路協定書と題する書面(乙一、以下「本件協定書」という。)を作成した。本件協定書には、「各々の権利承継者に本協定の趣旨を伝達しなければならない。また、権利承継者は知ると知らざるとにかかわらず、この協定事項を遵守するものとする。」との記載がある(もっとも、原告武岡は、ガクエン住宅から本件協定書の内容を伝達されたことはなかった。)。

さらに、被告長島俊夫は、平成四年四月、別紙物件目録6ないし8の土地の前所有者であった斉藤将から土地の売買や測量について委託されていた株式会社昭和リビング(以下「昭和リビング」という。)に対し、右土地の利用に関し、右土地と被告長島俊夫所有地との間の境界から、将来の道路として二メートル後退することを約束させ、原告齋藤や原告小野が右土地を買い受けた場合には、同人らに右協定事項を遵守させることを約束する旨の念書(乙二、以下「本件念書」という。)を差入れさせた。

被告らは、本件協定書や本件念書の存在を根拠に、原告らに対し、本件通路の中心線からではなく、土地境界線から二メートル後退することを求め、被告ら所有地内への立ち入りを拒否するなどしたため、本件通路の通行を巡って紛争が顕在化したが、その後、さらに後記5のとおり、原告らの被告ら所有地内の通行を制限する目的で、順次、障害物を設置したため、本件訴訟に至った。

5  工作物の設置状況等

被告らは、別紙物件目録10及び11の各建物を建て替えた一年以上を経過してから、本件通路上にはみ出して別紙図面の<3>ないし<8>の花壇を設置し、別紙物件目録12の建物を建築した約一年後になって、本件通路上にはみ出してCBフェンスをした(被告らは、右のそれぞれの工作物は、各建物の外構工事として建物の建築と同時に設置された旨主張するが、建物完了検査時に右各工作物が存在した場合には、東京都によって違法工作物として撤去が指示されている可能性が高いことから、右主張は採用できない。)。

また、被告らは、別紙物件目録9の建物が竣工して一年を経過した平成九年四月下旬以降、本件縁石や別紙図面<1>及び<2>の花壇や煉瓦敷を、平成一〇年五月には本件ポールをそれぞれ設置した。

さらに、被告らは、平成一〇年五月以降、本件通路内に土地境界線に沿って多数のプランターや植木鉢を置き、併せて「私道につき関係者以外の通行はご遠慮願います。」「花壇(プランター)はまたがないでください。」などと記載した立て札を二個設置した。

なお、被告らは、本件仮処分による和解に基づき、プランターや植木鉢等は本件通路内から搬出し、原告らには直接的には本件通路の通行に関して苦情を述べることはなくなったものの、原告ら以外の本件通路利用者に対しては、通行に関して苦情を述べ、何度か口論等に発展したことがあった。

(以上、甲六の1ないし13、七の1ないし3、八ないしー〇、弁論の全趣旨)

6  工作物設置の影響

(一) 本件縁石の設置の結果、原告飯山らは、本件通路から自己所有建物の私用玄関に入るためには、本件縁石を跨ぐ必要があり、老人や幼児にとっては負担となるうえ、自転車等による通行の際には、本件縁石を乗り越える必要が生じ、それがなかなか容易でないため、本件縁石と別紙物件目録13の建物との間を通って西側公道に出ようとすると、荷物や衣服を建物の壁で擦ってしまったり、バランスを崩して転倒しそうになったりすることも少なからず生じた(甲九、弁論の全趣旨)。

(二) 原告齋藤は、平成一一年三月三一日午前六時三〇分ころ、突然腹部が激痛に襲われ(診断の結果は尿管結石であった。)、救急車の出動を要請したが、本件縁石や本件ポール、その他放置された自転車、バイク等が邪魔になり、救急車は勿論、ストレッチャー(救急担架)すら自宅前まで持ち込むことができず、雨中、救急隊員が原告齋藤を背負って、西側公道に停車していた救急車まで運ぶということもあった(甲九、一五、弁論の全趣旨)。

(三) 被告らは、被告長島俊夫所有の共同住宅の住人に対し、自転車やバイクは、本件通路上の被告長島俊夫所有土地部分に置いてもよい旨伝えていることから、右共同住宅前には花壇が設置されていることもあって、日常的に自転車やバイクが本件通路上に放置されている状況である(甲六の1ないし7、一五、弁論の全趣旨)。

7  自動車の通行の状況

(一) 本件通路への西側公道からの入り口部分において、被告長島俊夫所有の旧居宅が本件通路内に大きくはみ出していたため、それが取り壊された平成七年一〇月までは、本件通路内を自動車が通行することは物理的に極めて困難な状況であったため、ほとんど車両が通行することはなかった(別紙物件目録12の建物建築の際には工事用の軽車両が通行した模様である。)(甲九、乙三の1、2、乙五、被告長島俊夫、弁論の全趣旨)。

(二) 被告長島俊夫所有の旧居宅の取り壊し後、一時期において、別紙物件目録9の建物の建築工事用の車両等が本件通路内を不定期に通行したことがあったが、原告らは、本件通路内を車両で通行したことはなかった(甲九、一〇、乙五、弁論の全趣旨)。

(三) 原告飯山と同居中の同人の妹は、軽自動車を所有しているが、西側公道から直接別紙物件目録4の土地に進入し、別紙物件目録13の建物の西側に駐車保管しており、また、原告齋藤及び原告小野は、自動車を所有しているが、別に駐車場を確保している(甲六の3、九、一五、弁論の全趣旨)。

二  争点1について

被告らは、本件通路における原告らの徒歩ないしは自転車による通行の自由は、これを拒絶していないから、確認の利益がない旨主張する。

しかしながら、前記一、4、5に認定した被告らによる従前からの工作物設置等による通行妨害の事実、被告長島俊夫が本件協定書や本件念書の有効性を主張し、原告らに対し、なおその内容の実現を求めていること(弁論の全趣旨)などの点に照らし、本件通路における原告らの徒歩ないしは自転車による通行の自由に関しても、なお確認の利益を有するものと認められる。

三  争点2について

1  原告らは、本件通路の通行の自由権には、自動車による通行の自由も含まれる旨主張する。

通行の自由権の内容として自動車による通行をも含むか否かについては、道路を確保することによって、通行を確保し、防災活動や災害避難に備えるという建築基準法の目的の実現、当該通路の幅員、長さ、付近の道路状況等地理的、物理的条件、これまでの通行の実績及び実情、通行を認めることによって得られる利益と失われる利益との利害得失、その他諸般の事情を斟酌して総合的に判断されるべきである。

2  そこで、本件通路に関して、具体的に検討する。

(一) 本件通路は、当初は通路内に幾つもの建物がはみ出しており、有効幅員が二メートル前後であったため、長い間、物理的に自動車の通行は極めて困難な状況にあり、実際にもほとんど自動車の通行の事実はなかったこと、その後、順次、建物の建て替えが進み、建て替え後の建物は道路中心線から二メートル後退して建築されたことから、次第に有効幅員が拡大されてきたが、被告長島俊夫所有の旧居宅が取り壊される平成七年一〇月までは右の事情は大幅には変わらなかったことは前記一、3及び6のとおりである。

したがって、少なくともこれまでは、本件通路内を日常的に自動車によって通行してきた事実は存しない。

(二) 原告飯山は、本件通路内を通行することなく、別紙物件目録4の土地内へ自動車を進入させることができ、また、原告齋藤や原告小野は、別に駐車場を確保しており、いずれも自動車による通行を認めなければ従前以上に不便、困難な状況に陥るという事情は存しない。

(三) 本件通路は、建物の建て替えによって次第に有効幅員を拡大してきてはいるが、なお、本件通路内にはみ出した建物も存在し(甲六の7、11、13、弁論の全趣旨)、また、本件通路の奥(東側部分)はさらに幅員が狭くなっており、自動車により東側公道に通り抜けができない状況であること(甲三、六の6、7、弁論の全趣旨)、本件通路の両脇には共同住宅が幾つも存するため、居住者が多く、本件通路を徒歩ないし自転車やバイクで通行する人が多いこと(甲三、六の5ないし7)などの事実に照らせば、本件通路内を自動車が通行するとそれらの通行者に多大の影響を及ぼすと考えられる。

(四) 以上の諸事情を総合すると、将来、例えば、本件通路が四メートルの有効幅員を確保することができ、東側の公道に通り抜けができる状態に達した際などには、関係者の協議により、一定の規則を定め秩序ある自動車通行も認められて然るべきであるが、少なくとも、現時点において、本件通路内において自動車による日常的な通行を行うことは、従前からの本件通路の使用状況と大幅に異なり、混乱を乗じる可能性も存するから、これを認めるまでの必要性は存しないものと認める。

ただし、消防自動車や救急車等の緊急自動車等、前記の建築基準法の目的の実現のために必要な自動車は、その範囲内で通行が認められるべきである。

3  よって、現時点においては、本件通路の通行の自由権には、自動車による通行の自由は含まれないものと判断する。

四  争点3について

1  建築基準法は、一方で、建築物を利用する上での通行、防災、避難などの必要から、建築物の敷地は、原則として幅員四メートル以上の道路に二メートル以上接していなければならない旨定め(四三条)、他方で、同法施行の際(昭和二五年一一月二三日)に幅員が四メートル未満であっても、現に建物が立ち並んでいる道で、特定行政庁が指定したものは、同法四二条一項の道路とみなし、その中心線からの水平距離二メートルの線をその道路の境界線とみなすこととしており(四二条二項)、右道路内に、又は道路に突き出して建築物等を建築、築造してはならないこととなっている(四四条)ことから、建物の建て替えが進行するに従って次第に有効幅員が両側に拡大し、従前の建築物がすべて建て替わった後には、有効幅員が四メートル以上の道路が確保されることが予定されており、それによって、前記の建築基準法の目的が達せられることが期待されている。

2  被告らは、被告らの設置したCBフェンスや花壇は、元々旧建物が存在した場所内に設置したものであるから、それらの設置により従前以上に通行の自由が妨害された事実はない旨主張し、被告長島俊夫の陳述書(乙五)にも同様の記述部分が存するが、右1記載のとおり、建築基準法は、将来最終的には有効幅員四メートル以上の道路が一般公衆の通行の用に供されるべきであることを前提とし、建築物の建て替え等に伴い、徐々に有効幅員が拡大していくことを予定しているのであって、旧建築物の取り壊しにより、一旦拡大された有効幅員を再度狭める行為は、右の法の趣旨に反することは明らかである。

3  また、被告らは、被告らの設置した工作物によって、原告らの徒歩や自転車等による通行の自由は何ら妨害されていない旨主張するが、本件縁石や本件ポールが原告らの通行の妨害になっていることは明らかであり(甲六の1ないし4、九、一五、弁論の全趣旨)、さらに、建築基準法が幅員四メートル以上の道路への接道義務を定めた目的(緊急時における緊急車両の進入など、防災、避難等)に照らしても、被告らの設置した工作物がその障害になることは明白である。

なお、被告らは、本件協定書や本件件書の有効性を主張し、これを根拠に、被告らの所有地への立入りを制限しようとするが、そもそも、それらの書面が原告らを法的に拘束するものとは認められないばかりか、かかる私人間の文書によって、公法上の負担が左右されるものではないことはいうまでもない。

4  一般に、建築基準法四二条二項により道路とみなされた道路については、公法上の規制の結果、その反射的利益として、一般人には通行の自由が認められるところ、原告らは、本件通路に接して土地を所有して、その地上に建物を所有し、日々本件通路を通行する必要に迫られており、また、本件通路の有効幅員が拡大していくことを期待しうる立場にあることに照らせば、原告らの通行の自由権を人格的権利として民法上保護に値するものと解すべきであり、他方、被告らの設置した工作物は、いずれも原告らの円滑な通行権の行使に障害を与えるものである上、その設置の目的も原告らの通行を制約する意図の下になされたものであることなどの諸事情をも総合考慮するときは、右人格的権利に基づき、妨害を排除し、かつ、予防することができるものと解するのが相当である。

5  したがって、原告らは、被告らに対し、本件縁石や本件ポール、別紙物件目録記載の、花壇、煉瓦敷、CBフェンスの収去を求めることができるものと認められる。ただし、プランター及び植木鉢は、和解によりすでに撤去済みであるから、その撤去を求める必要性は存しない。

また、被告らは、原告ら及び別紙物件目録9ないし12の各建物に出入りする者が、別紙物件目録1ないし8の土地のうち、別紙図面のア、イ、ウ、エ、オ、カ、シ、サ、コ、ケ、ク、キ、アの各点を順次直線で結んだ土地を通行することを妨害してはならないというべきである。ただし、右の妨害禁止の対象には、現時点においては、自動車による通行は直ちには含まれていないことは、前記二記載のとおりである。よって、原告らの自動車による通行の妨害禁止を求める部分の請求は棄却することとなる(しかしながら、前記の建築基準法の目的に照らして、二項道路の各所有者は、災害時や緊急時における緊急車両等の通行や避難の障害にならないようその有効幅員の確保に努めなければならない。)。

五  結論

以上の結果、原告らの被告らに対する本訴請求は、主文掲記の限度で理由があるからその範囲でこれを認容し、その余は理由がないからこれを棄却することとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 村岡寛)

物件目録

1 足立区千住五丁目七二番二 宅地 一八五・一八平方メートル

(所有者長島俊夫持分三分の二、長島快子持分三分のー)

2 同所七二番一五 宅地 五九・五〇平方メートル

(所有者長島俊夫)

3 同所七二番一一 宅地 二九三・六一平方メートル

(所有者長島俊夫)

4 同所七二番三 宅地 一九二・一六平方メートル

(所有者飯山晶子)

5 同所七二番六 宅地 七四・八〇平方メートル

(所有者武岡美津子)

6 同所七二番一九 宅地 三三・〇五平方メートル

(所有者齋藤一友、齋藤雅、齋藤宗子持分各三分のー)

7 同所七二番二〇 宅地 六七・〇八平方メートル

(所有者齋藤一友、齋藤雅、齋藤宗子持分各三分のー)

8 同所七二番九 宅地 六三・七七平方メートル

(所有者小野直史持分三分の二、小野照子持分三分のー)

9 同所七二番地二 家屋番号七二番二 共同住宅 鉄骨造陸屋根四階建

一階 一〇九・四八平方メートル

二階 一〇五・六三平方メートル

三階 一〇五・六三平方メートル

四階 一〇四・四二平方メートル

(所有者長島俊夫)

10 同所七二番地二 七二番地一一 家屋番号七二番一一の三 共同住宅

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 一階 七四・五二平方メートル

二階 六四・八〇平方メートル

(所有者長島俊夫)

11 同所七二番地一一 家屋番号七二番一一の四 共同住宅

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 一階、二階共 五二・〇五平方メートル

(所有者長島俊夫)

12 同所七二番地一一、七二番地一 家屋番号七二番一一の五 居宅

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 一階、二階共 五二・〇五平方メートル

(所有者長島秀樹持分五分の四、長島康子持分五分の一)

13 同所七二番地三 家屋番号七二番三 事務所・居宅・共同住宅 鉄骨造陸屋根四階建

一階 八七・〇六平方メートル

二階ないし四階 九六・三六平方メートル

(所有者飯山晶子)

14 同所七二番地六 家屋番号七二番六 共同住宅

木造スレート瓦葺二階建 一階 三三・八七平方メートル

二階 三二・二二平方メートル

(所有者武岡美津子)

15 同所七二番地 家屋番号七二番一八 居宅

木造スレート瓦葺二階建 一階、二階共 二〇・二六平方メートル

(所有者齋藤トシ子)

16 同所七二番地、家屋番号七二番一五 居宅

木造亜鉛メッキ鋼板葺二階建 一階、二階共 二〇・六六平方メートル

(所有者小野直史)

以上

図<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!