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東京地方裁判所 平成10年(ワ)21709号 判決 2000年11月29日

原告

株式会社フォース

右代表者代表取締役

上間健有

右訴訟代理人弁護士

小島秀樹

出井直樹

本間正浩

桐原和典

菊池毅

小川浩賢

斜木裕二

蛇持裕美

岡田泉

臼井隆行

被告

コマツソフト株式会社

右代表者代表取締役

水澤雅武

右訴訟代理人弁護士

柏木義憲

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告に対し、五七四七万〇八八二円及びこれに対する平成一〇年一一月一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

3  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  平成一〇年一〇月二三日以降の得べかりし業務委託費及び成功報酬相当分の損害賠償請求

(一) 原告は、画像処理システムの企画、設計、開発、販売、各種コンピュータのハードウェア・インターフェイスの設計、開発等を業とする会社である。

被告は、コンピュータ及び周辺機器・自動制御装置並びに事務用機器の販売及び保守等を業とする会社である。

(二) 原告と被告は、平成八年三月一三日、要旨左記のとおりを合意した(以下「本件契約」という。)。

(1) 原告は、被告のCG事業部門で取り扱う商品の営業、開発、製造、試験、修理、技術支援、サポート、コンサルタント等を行う。

(2) 原被告の事業協力体制の責任者は被告とし、原告と協議してマネージメントを行うものとする。

(3) 被告は、原告に対して、CG事業部門支援に対する業務委託費として、毎月五〇〇万円を支払う。

(4) 原告は、被告に対し、CG事業支援に対する成功報酬としてCG事業部門の売上粗利益の中から次の割合で算出した額を毎月請求するものとする。

ア 一か月の粗利益が二〇〇〇万円以下の部分について、その二〇パーセントに相当する額

イ 一か月の粗利益のうち、二〇〇〇万円を超え三〇〇〇万円以下の部分について、その一〇パーセントに相当する額

ウ 一か月の粗利益が三〇〇〇万円を超える部分については別途協議する。

(三) 原告と被告は、本件契約締結の際、本件契約の有効期間を本件契約締結の日から一年とすること、原告又は被告が別段の申し出をしないときは同一条件で期間を一年延長すること、及び、右期間を延長した後においても右と同様にさらに期間を延長し得ることを合意した(以下「本件契約期間及び延長の合意」という。)。

(四) 本件契約の期間は二回延長された。

(五) 被告は、平成一〇年一〇月二三日から平成一一年三月一二日までの期間(四か月と三分の二か月)の業務委託費及び契約関係を継続していれば原告が得られたであろう成功報酬の支払をしない。

本件契約に基づく原告の四か月と三分の二か月分の業務委託費は、消費税込みで二四四九万九九六五円である。また、平成一〇年七月前の一年間における一か月の成功報酬額の平均は消費税込みで五六六万八九五六円であるから、四か月と三分の二か月分の得べかりし成功報酬は、二六四五万五〇九〇円である。

したがって、原告は、被告の債務不履行により、五〇九五万五〇五五円の損害を被ったものというべきである。

2  平成一〇年四月から九月までの成功報酬の未払部分の請求

(一) 請求原因1(一)ないし(四)と同じ。

(二) 被告は、本件契約に基づく平成一〇年四月から九月の原告の成功報酬を算定する際に、原価割れ販売による損失を一二七四万七六〇〇円とし、不良在庫の処分による損失を一八二八万〇一五二円とした上、右合計三一〇二万七七五二円の損失を算入して右期間の粗利益を算定し、その粗利益に基づいて原告の成功報酬を算定した。

しかし、次の(三)(1)ないし(7)のいずれかの理由により、被告は右の三一〇二万七七五二円の損失を算入せずに成功報酬の基礎となる粗利益を算定し、その粗利益に基づいて原告の成功報酬を算定すべきであり、被告が原告に支払った成功報酬は、本来支払うべき金額よりも、右三一〇二万七七五二円の二〇パーセントである六二〇万五五五〇円低額であったから、被告は原告に対して右六二〇万五五五〇円に消費税を加えた六五一万五八二七円を支払う義務がある。(なお、以下では、本件契約に基づく成功報酬の算定に関し、損失を算入せずに成功報酬の基礎となる粗利益を算定することを「損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する」と表現することとする。)

(三)(1) 本件契約締結時の合意

原告及び被告は、本件契約締結時に、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨の合意をした。

すなわち、本件契約の成功報酬の約定(請求原因1(二)(4)参照)には、被告が商品の原価割れ販売及び不良在庫の処分をした場合にその損失を原告が負担する旨の定めがないのであるから、被告が原価割れ販売や不良在庫の処分を行った場合には、原告がそれらについて損失を負担する理由がなく、原告には一切責任がないというべきであり、それらの損失は原告の成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨が合意がされたものというべきである。

(2) 協議確認書作成時の合意

ア 原告及び被告は、平成八年六月一日、本件契約における成功報酬の算定方法の骨子として、左記のとおり記載した協議確認書と題する書面(以下「本件協議確認書」という。)を作成した。

① 報酬の基準となる粗利=売り上げ高−(仕入高+付帯経費)−開発費

なお、付帯経費とは、梱包、運送、輸入諸掛、為替差損益、パッケージング経費等の諸経費をいう。

② この粗利がマイナスとなった金額は翌月に繰り越す。

③ 半期で累計粗利を計算し、報酬額を半期ベースで計算し調整する。

④ 在庫分は半期の計算の中で調整する。

イ 原告及び被告は、本件協議確認書作成の際、被告が原価割れ販売を行った場合に原告がその損失を負担しないことを十分に確認し合い、その損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨の合意をした。本件協議確認書中の右ア②の約定は、原告が原価割れ販売による損失を負担しないことを確認したものである。

(3) 電子メールによる合意

原告と被告は、平成一〇年六月一五日、原告代表者上間健有(以下「上間」という。)と被告の担当取締役である渡辺奎吾(以下「渡辺」という。)間の電子メールのやり取りにより、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨の合意をした。

(4) 本件契約の性質

仮に、右(1)ないし(3)の合意が成立しないとしても、本件契約の性質から、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外するべきである。

すなわち、本件契約は、被告が原告に業務を委託して成功報酬を支払うという性質のものであるところ、仮に原価割れ販売及び不良在庫の処分をした場合の損失を原告が負担するとすれば、ある月の売上高がその商品の売上原価を割っていた場合には原告が被告に対して損失部分を支払うこととなるし、不良在庫を処分した場合には原告が被告に対し被告の取得原価全額について支払うこととなる。これは業務を受託した原告が業務を委託した被告に対して損失部分を支払うという結果を招くことになり、被告が原告に業務を委託して成功報酬を支払うという本件契約の性質に反するから、本件契約は、被告が原価割れ販売及び不良在庫の処分を行った場合には、それらによる損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外することを当然のこととして合意されたものと解すべきである。

このことは、本件契約の成功報酬が、被告の事業について原告が行う「営業、開発、製造、試験、修理、技術支援、サポート、コンサルタント等」の現実の業務提供に対する対価または技術指導ないし援助に対するランニング・ロイアルティ的な性格を有しており、被告がその事業遂行において、価格を下落させたり陳腐化させてしまった商品についてはその安売り価格ないし処分価格を使用して売上高を計算することは当然予定しないことからも、また、被告が安売りしたり在庫を陳腐化させて処分したことは被告自身の経営上の問題であって、他社である原告の成功報酬の基礎となる粗利益の額に反映させることは相当でないことからも明らかである。

(5) 被告の会計処理の誤り

被告は、不良在庫の評価損を売上高から控除して粗利益を算定したが、その不良在庫の評価損には原価性がなく、原価性がない評価損は会計上は営業外費用又は特別損失となるべきものであって売上原価とはならないから、結局被告は売上原価とならない評価損を売上高から控除して粗利益を算定するという会計上の誤りを犯しており、会計上正しい扱いをして、不良在庫の評価損を売上高から控除せずに成功報酬の基礎となる粗利益を算定すべきである。

(6) 原価割れ販売の不当性

被告が行った原価割れ販売の中には、通常の販売価格で販売できる商品であるにもかかわらず、異常な廉価で販売したものがあるのであって、このような原価割れ販売についてまでそれによる損失を算入して成功報酬の基礎となる粗利益を算定することは不当であり、原価割れ販売による損失を算入しないで成功報酬の基礎となる粗利益を算出すべきである。

(7) 評価損処理の不当性

被告が行った不良在庫の評価損処理は次のアないしオのとおり、不当なものであるから、その評価損処理に基づいて生じた損失を原告が負担する理由はない。

ア 被告は事業から撤退するとしながら、在庫の一部についてしか評価損処理をしていない。

イ 被告が平成一〇年九月に不良在庫の評価損処理をした時点では、被告はまだ在庫の処分を行っていなかったのであるが、販売も処分もしていない被告の在庫の評価損を粗利益の算定の際に控除することは、被告社内での会計処理の正当性は別論としても、別法人である原告に対する成功報酬の基礎となる粗利益の算定に関しては、その会計処理は不当である。すなわち、右評価損処理によれば、右処理をした当該期の売上原価が増大して粗利益及び成功報酬が減少し、原告が不利益を被ることとなる一方、翌期以降の在庫処分時における売上原価の減少による粗利益増大については原告が恩恵を受けられないこととなり、原告のみに不利益な結果が生じることとなるのであって、これが不当なことは明らかである。

ウ 国税庁は、事業撤退を理由として在庫を全額評価損処理をするためには、原則として在庫を廃棄処分する必要があるとしている。

エ 被告が全額評価損処理をした在庫の中に、後日販売できたものがあるので、被告による全額評価損処理は誤りである。

オ 被告は、事業撤退を理由に在庫の評価損処理をした後にも、右在庫商品と同種の商品について仕入れと販売を行っており、かつその販売の粗利益は高いから、被告が事業から撤退するとして評価損処理を行うことは不当である。

3  平成一〇年一〇月の成功報酬の未払部分の請求

(一) 請求原因1(一)ないし(四)と同じ。

(二) 仮に、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を除外して成功報酬の基礎となる粗利益を算定すべきであり、かつ平成一〇年九月に被告が行った不良在庫の評価損処理が正当なものであるとしても、被告は、平成一〇年一〇月における原告の成功報酬の算定に際して、成功報酬の基礎となる粗利益を一九七万三〇〇〇円(なお、原告は、右金額を一八七万三〇〇〇円とするが、右は誤算であることが明らかであるので、前記金額を主張するものと善解する。)少なく算定したが、右は後記(三)のとおり誤りであり、その部分について原告の成功報酬が少なく算定されている。

(三) 被告は、次のとおり粗利益を少なく算定している。

すなわち、被告は、平成一〇年九月に評価損処理をした商品を同年一〇月に売却したことから、売上原価を二重に計上することを避ける措置として、同年一〇月の製品売上原価から、同年九月の評価損計上分の戻しとして、ソフトバンクと取引した商品について一四〇万三六〇〇円を控除し、高電社と取引した商品について一一二二万三四三五円を控除した。しかし、ソフトバンクと取引した商品については、評価損処理前の売上原価は二八七万六六〇〇円であり、高電社と取り引きした商品については評価損処理前の売上原価は一一七二万三四三五円であって、いずれも評価損処理前の売上原価を控除すべきであるから、その差額分の合計である一九七万三〇〇〇円分粗利益が低く算定され、その分だけ原告の成功報酬が低く算定されており、これと同額の成功報酬未払分が存することとなる。

4  よって、原告は、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償として五〇九五万五〇五五円、本件契約に基づく報酬請求として六五一万五八二七円、及びこれらに対する平成一〇年一一月一日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1(一)  請求原因1(一)ないし(四)の各事実はいずれも認める。

(二)  同1(五)は争う。

2(一)  同2(一)の事実は認める。

(二)  同2(二)は争う。

(三)(1)  同2(三)(1)の事実は否認ないし争う。本件契約では、成功報酬は、CG事業部門の売上粗利益の中から、一か月の粗利益が二〇〇〇万円以下の部分について、その二〇パーセント、一か月の粗利益のうち二〇〇〇万円を超え三〇〇〇万円以下の部分について、その一〇パーセント、一か月の粗利益が三〇〇〇万円を超える部分については別途協議して定める割合とすると定められているところ、CG事業部門の売上粗利益を算定する際には、原価割れ販売や在庫処分の損失も含めて算定するのは当然のことである。

また、原価割れ販売及び在庫処分による損失を原告が負担することと、成功報酬の基礎となる売上粗利益の算定の際に原価割れ販売及び在庫処分の損失を算入することは別の事柄であって、これに関する原告の主張はそれらを混同し、それらが同一であることを前提としており、失当である。

(2)ア 同2(三)(2)アの事実は認める。

イ 同2(三)(2)イの事実は否認する。

(3) 同2(三)(3)の事実は否認する。

(4) 同2(三)(4)の事実は否認ないし争う。前記のとおり、原価割れ販売及び在庫処分による損失を原告が負担することと、成功報酬の基礎となる売上粗利益の算定の際に原価割れ販売及び在庫処分の損失を算入することは、まったく別の事柄であるのに、原告はそれが同一であることを前提とした主張をしており、失当である。また、本件契約では、CG事業部門の売上粗利益の中から成功報酬を支払うと約定したのであるから、原価割れ販売や在庫処分の損失によってCG事業部門の売上粗利益が減少すれば、成功報酬が減少するのは当然のことである。

(5) 同2(三)(5)は否認ないし争う。被告が行った評価損処理は、市場における製品価値の低下に基づくものであり、その評価損には原価性がある。

(6) 同2(三)(6)は否認ないし争う。

(7) 同2(三)(7)は否認ないし争う。

3(一)  同3(一)の事実は認める。

(二)  同3(二)は否認する。被告が行った原告の成功報酬の算定に誤りはない。

三  抗弁(請求原因1に対して・本件解約権の行使)

1  原告及び被告は、本件契約締結の際、原告又は被告が三か月の予告期間をおいて相手方に対して本件契約の解約を通知することにより、本件契約を解約することができる(以下「本件解約権」という。)旨を合意した(以下「本件解約権の合意」という。)。

2  被告は、原告に対し、平成一〇年七月二二日、本件解約権を行使し、三か月の予告期間経過後に本件契約を解約する旨の意思表示(以下「本件解約の意思表示」という。)をした。

3  平成一〇年一〇月二二日が経過した。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1の事実は否認する。

原告及び被告は、本件契約締結の際、本件契約についての覚書(以下「本件覚書」という。)を作成し、その第八項に「本取り決め有効期間は、覚書を取り交わした日から一年とする。但し、甲(被告)又は乙(原告)が、別段の申し出をしない場合は、同一条件でさらに一年の期間延長をするものとする。以後この例による。」との条項をおき(本件契約期間及び延長の合意についての条項)、右条項に続く第九項に「本取り決めは甲(被告)、乙(原告)、いずれか一方の三か月の予告期間を持って、相手方に対しての解約の旨を通知することにより、本覚書を解約することができる。」との条項をおいたが、原告と被告との間では、「第九項が三か月の予告期間をおいて相手方に対して解約の通知をすることにより本件契約を解約することができる旨の条項なのか、それとも第八項にいう『別段の申し出』すなわち契約の更新拒絶の申し出は契約期間終了の三か月前までに行わなければならないことを定めた条項なのか」が確定されていなかった。このことは、上間が、右第九項について、契約期間満了の三か月前までに更新を拒絶する旨の通知をしない限り契約が更新される旨を定めた規定であると考え、第九項が契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨の規定であるとはまったく考えていなかったことからも明らかである。したがって、本件解約権の合意は成立していない。

2  同2及び3の各事実はいずれも認める。

五  再抗弁

1  本件解約権の合意を変更する合意の成立

(一) 仮に、本件解約権の合意が成立したとしても、原告及び被告は、平成九年三月二四日、本件解約権の合意を変更し、契約期間中に本件契約を一方的に解約をすることはできないこととする旨合意した(以下「本件変更合意」という。)。

(二) なお、本件変更合意成立の前後の経緯は、次の(1)ないし(6)のとおりである。

(1) 上間は、本件契約締結当時、本件覚書の第九項について、契約期間満了の三か月前までに更新を拒絶する旨の通知をしない限り契約が更新される旨を定めた規定であると解釈しており、第九項が契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨の規定であるとはまったく考えていなかった。

(2) 上間は、平成九年二月二二日ころ、平成九年三月以降の新たな契約内容の検討に入り、かつて原告の法律部門を担当していた伊藤博史(以下「伊藤」という。)に対し、新たな契約内容に関する書面を作成することを依頼した。上間は、その際、伊藤から、「法律を勉強したことのある人が本件覚書の第九項だけを読めば、その文言から、三か月の予告期間さえおけば契約期間中いつでも一方的に解約できる規定と解釈されるのが普通である」との指摘を受け、契約期間中の解約はできないという自分の理解が正しいのか、伊藤が指摘する右解釈が正しいのか不安になった。そこで、上間は、伊藤に対し、被告が本件契約を解約することを困難にするため、「解約をした当事者は本件覚書に伴う製品の販売権及びその他一切の権利を放棄するものとする」旨の条項(以下「解約時商権放棄条項」という。)を入れた書面を作成することを求めた。

(3) その上で、上間は、被告に対し、平成九年二月二七日、本件契約に解約時商権放棄条項及び被告が原告独自の販売その他の営業活動をある程度認める旨の条項(以下「独自活動容認条項」という。)を加えることを電子メールで求め、上間と渡辺は、翌二八日に会談することとなった。

上間は、同月二八日、渡辺と会談し、口頭で、本件契約に解約時商権放棄条項及び独自活動容認条項を加えることを提案して協議をした。渡辺は、右会談の直後、上間に対し、「当初の合弁会社設立のプロジェクトが被告の都合によりご破産となったが、被告と原告が日本の販売代理店となるという事業形態を継続することについて上間社長の尽力もあってマトロックス社に了解してもらったことに対し、同社本社へお礼の挨拶に行くので上間社長に同行してほしい」旨を依頼するとともに、「本件契約に解約時商権放棄条項を加えることを被告が了承したのでぜひマトロックス社へ一緒に行ってほしい」と提案した。そこで上間は、渡辺とともにマトロックス社を訪れることを了解した。

(4) 上間と伊藤は、解約時商権放棄条項、独自活動容認条項及び被告が原告に業務委託費を支払うことを止め、被告が原告に支払う成功報酬は原被告のすべての経費を差し引いた残額を折半とする旨の条項(以下「ジョイントベンチャー方式条項」という。)を入れた確認書と題する書面(以下「確認書」という。)を作成した。

上間は、渡辺に対し、平成九年三月一二日、本件確認書をファックスで送信した。

(5) 上間は、平成九年三月二四日、被告本社を訪れ、渡辺に対し、本件契約に、解約時商権放棄条項、独自活動容認条項及びジョイントベンチャー方式条項を加えることを求めた。

これに対し、渡辺は、原告の独自活動については容認する旨を答え、本件覚書の写しにその旨の書き込みをしたが、解約時商権放棄条項については、事前に同意していたにもかかわらず、これを翻意し、「口約束にすぎない」と述べて本件確認書に調印することを拒否したほか、ジョイントベンチャー方式条項についても同意しなかった。

そこで、上間は、渡辺に対し、「ジョイントベンチャー方式もだめ、商権放棄もだめということになれば、本件契約は三か月の予告で一方的に解約できるのですか。そのような不安定な形で原告の収益の大部分を占める事業を継続するわけには行かない。」旨言ったところ、渡辺は、上間に対し、「被告は、毎年三月に年間予算を組み事業計画を立てて事業を行うから、原告から契約期間中にいつでも解約され得るとの認識の下に本件契約を締結したのではない。被告としては原告との本件契約の継続を強く望んでいる。」旨述べ、「本件覚書第九項は、第八項の更新拒絶についての規定である。」旨を言明し、本件覚書第九項は、第八項の更新拒絶について、契約期間満了の三か月前までに更新を拒絶する旨の通知をしない限り契約が更新される旨を定めた規定であるとの解釈を示した。その上で、渡辺は、上間の目の前に本件覚書の写しを置いて、本件覚書の第八項と第九項は一体として読むものであるとして両条項を一体とするマークを書いた上で、第九項の冒頭に「前条期間更新について」との文言を手書きで書き加えた(以下、本件覚書の写しに右のとおり渡辺が手書きで書き加えたものを「本件手書きメモ」という。)。渡辺は、本件手書きメモをコピーし、その原本を被告が保管することとし、その写しを「原告成功報酬と当社販売費」と題する書面とともに上間に手渡し、写しを原告が保管することとなった。

右のとおり、渡辺が、「本件覚書の第九項は第八項の更新拒絶についての規定である」旨言明し、その旨を明らかにする本件手書きメモを作成してその写しを上間に交付し、本件変更合意が成立した。

本件手書きメモ作成の際、渡辺は、上間に対し、「上間さんが本件覚書第九項の私の解釈について、本件手書きメモでは不十分であるというのであれば、修正した覚書を作成して調印しましょうか」と提案した。これに対し、上間は、本件契約の条項の解釈の問題にすぎないのであれば新たな覚書は必要はないと考えるとともに、渡辺は本件契約に解約時商権放棄条項を加えることを事前に同意していたのに口約束にすぎないとして反故にしてしまったが、渡辺直筆の本件手書きメモが作成されたので今回は反故にされることはないであろうし、覚書の作成と調印を求めることは渡辺を信用していないこととなり、失礼に当たるとも思ったことから、「原告としてはあえて新たな覚書を作成するまでの必要はないと思う」と答え、本件変更合意について新たな覚書を作成することはなかった。

また、本件解約権の合意は、三か月の予告期間をおけば一方的に本件契約を解約することができるという原告にとって一方的に不利な合意であるところ、被告のCG事業は原告の技術を前提としており原告の被告に対する交渉力は絶大であったから、原告にとって一方的に不利な本件解約権の合意を残したまま本件契約を更新するはずがないのであって、この点からも本件変更合意の成立は明らかである。

(6) 上間は渡辺宛に平成一〇年四月三日に電子メールを送ったが、その内容は、被告が契約期間中に本件契約を一方的に解約をしてはならないことを確認するものであった。渡辺が上間宛に同日送った右電子メールに対する返答の電子メールは、原告の被告に対する右確認事項を認める内容のものであった。

2  信義則違反

仮に、再抗弁が認められないとしても、再抗弁1(二)(5)及び(6)の事実のとおり、被告は原告をして本件覚書第九項によって本件契約を一方的に解約することはできないと信じさせたのであるから、被告が本件覚書第九項の本件解約権を行使することは信義則に反するというべきであって、本件解約の意思表示による本件契約の解約は無効である。

3  本件契約の性質等による一方的解約の制限

次の(一)ないし(三)の諸事実を考慮すると、被告が本件解約権を行使して本件契約を解約するためには、原告との取引関係を継続し難いやむを得ない事由が存在することが必要であると解するべきところ、被告による本件解約の意思表示には右事由が存在しないから、本件解約の意思表示による本件契約の解約は無効である。

(一) 本件契約は、本件契約期間及び延長の合意が存することから、いわゆる継続的取引契約に該当するというべきであって、契約関係の継続に対する契約当事者の期待が大きい。

(二) 本件契約による原告の収益は、平成八年度においては原告の全収益のうちの約八九パーセント、平成九年度においてはその約九三パーセントを占めており、被告が契約期間中の解約権を行使することによる原告の経営的打撃が非常に大きい。

(三) 原告の資本額は一億円以下であり、従業員の数は三〇〇人以下であるから、原告は下請中小企業振興法の「中小企業者」に該当し、被告は同法上の親事業者に該当するから、親事業者である被告は、継続的な取引関係を有する下請事業者である原告との取引を停止しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の予告期間をもって予告する義務があるというべきところ、本件解約の意思表示は三か月という短期間の予告期間をおいて本件契約を解約するというものであるから、相当な予告期間をおいたものとはいえない。

六  再抗弁に対する認否

1(一)  再抗弁1(一)の事実は否認する。本件変更合意は成立していない。

(二)  同1(二)の事実は否認する。原告の本件変更合意前後の経緯に関する主張は事実と異なる。その要点は、次の(1)ないし(6)のとおりである。

(1) 本件覚書の第九項は、「本取り決めは甲(被告)、乙(原告)、いずれか一方の三か月の予告期間を持って、相手方に対して解約の旨を通知することにより、本覚書を解約することができる。」と規定しており、その文言から契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨の規定であることは明らかであって、上間もそのように解釈していたはずである。さらに、上間は、被告に対し、平成九年一月三一日、電子メールで本件契約の解約を告知しており、上間が本件覚書の第九項を、契約期間満了の三か月前までに更新を拒絶する旨の通知をしない限り契約期間が更新される旨を定めた規定であると解釈していたとは到底考えられない。

(2) 渡辺が本件契約に解約時商権放棄条項を加えることに同意したことはない。

(3) 本件手書きメモは、本件覚書の写しの中に、①第八項と第九項を括弧でくくる書き込みをするとともに、②第八項と第九項の間に「前条の期問更新について」という文言を書き込んだものにすぎず、その書き込みの内容からは、第九項の本件解約権を失わせる旨の意味は読みとれず、むしろ、第八項の契約の更新拒絶の場合にも三か月の予告期間が必要であるとする意味の書き込みとなっている。

(4) 本件手書きメモは、平成九年二月から三月にかけて原被告間で行われた本件契約の改訂交渉の過程の中で、上間が渡辺に対して「九項の頭にこれを書き入れることが希望だ」と述べたことを渡辺がそのままメモとして書いたものであり、渡辺が上間の発言のニュアンスから、八項の更新拒絶についても三か月の猶予をもって予告するようにしたいという希望であると理解し、八項と九項を括弧でくくったものであって、原告が再抗弁1(五)で主張するような議論を経た後に作成されたものではない。

また、原告が主張する本件変更合意の内容は、原被告双方の代表者が調印して作成した本件覚書の内容を変更するものであり、仮に本件変更合意が成立したのであれば、それを証する文書も調印文書とするのが通常である。原被告代表者双方の署名や調印のある書面が作成されなかったのは、本件変更合意が成立していないからである。

(5) 上間が渡辺宛に平成一〇年四月三日に送った電子メールは、被告が契約期間中に本件契約を一方的に解約をしてはならないことを確認する内容のものではない。右メールに対する同日の渡辺から上間宛の返答の電子メールは、被告が契約期間中に本件契約を一方的に解約をしてはならないことを認める内容のものではない。

(6) 上間は、平成一〇年七月二三日に渡辺と会談した際、本件手書きメモを取り出し、「こんなもので引っかけるようなことをして申し訳ないが、これで来年三月までの支払のことについて弁護士と相談している。」と発言した。この事実からも本件変更合意が成立していないことは明らかである。

2  再抗弁2は否認ないし争う。

3  再抗弁3は争う。被告が本件解約権を行使して本件契約を解約するために、原告との取引関係を継続し難いやむを得ない事由が存在することは必要ではない。その理由の要点は次の(一)ないし(四)のとおりである。

(一) 本件契約の契約期間は、一年という短期のものである。

(二) 本件契約には本件解約権の合意があり、当事者が三か月の予告期間をもっていつでも解約できることを前提とした契約である。

(三) 右(一)及び(二)を内容に含む本件覚書の原案は、上間が作成したものである。

(四) 本件契約締結から本件解約の意思表示までの間に、原告は本件契約の解消を二回企図しており、本件契約関係の継続への原告の期待は大きくない。

七  再々抗弁(再抗弁3に対して)

仮に、本件解約権を行使するためには原告との取引を継続し難いやむを得ない事由が必要であるとしても、被告が本件解約の意思表示をした当時、本件契約の対象となっている被告のマトロックス社製品を扱う事業は、次の(一)ないし(四)の経済情勢等を含む諸般の事情から、大幅な赤字が避けられないことが確実になったため、被告は右事業から撤退することを決定したのであるから、本件解約権の行使に関しては、原告との取引を継続し難いやむを得ない事由が存在したというべきである。

(一)  マトロックス社がその販売政策を変更したため、従来維持してきた粗利率(二五から三〇パーセント)の半分を確保することも困難になることとなった。

(二)  半導体業界等における競争激化及びパーソナルコンピュータの低価格化が進み、これに連動して、商品単価が下落し、利益の確保が困難になった。

(三)  マトロックス社の製品自体の競争力も低下した。

(四)  CGボードを必要とするパーソナルコンピュータはデスクトップ型であるが、その出荷数量は減少傾向にあり、今後CGボードの販売を大きく伸ばすことは期待できなくなった。

八  再々抗弁に対する認否

再々抗弁の事実は否認ないし争う。次の(一)ないし(四)のとおり、本件解約の意思表示の当時、被告は、マトロックス社の製品を扱う事業から撤退せざるを得ないような状況にはなかった。

(一)  元来、コンピュータ・グラフィック・ボードの販売の粗利率は、一五パーセント前後とされており、仮に粗利率が二五ないし三〇パーセントから半減するとしても、通常の企業であれば十分に経営は成り立つはずである。

(二)  マトロックス社の製品単価が下落したのは、同社が高級機のみではなく中級機をも品揃えするという戦略に移行したからであり、商品単価の下落は消費者の拡大をもたらし、ひいては利益の拡大につながり得るものであって、事業撤退の理由にはなり得ない。

(三)  マトロックス社の製品の競争力は低下していない。

(四)  デスクトップ型パソコンの国内出荷台数は、必ずしも減少していない。

理由

第一  平成一〇年一〇月二三日以降の得べかりし業務委託費及び成功報酬相当分の損害賠償請求について

一  請求原因1について

請求原因1(一)ないし(四)の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  抗弁について

1 甲一号証によれば、本件覚書の第九項に、「本取り決めは甲、乙、いずれか一方の三か月の予告期間を持って、相手方に対して解約の旨を通知することにより、本覚書を解約することができる。」との条項が存することが認められ、この事実によれば、原告と被告は、本件契約締結の際、本件解約権の合意をしたことが認められる。

2 この点に関し、原告は、本件覚書の第八項に、本件契約期間及び延長の合意についての条項が存し、これと右条項に続く前記第九項を併せて読めば、原告と被告との間では、第九項が契約期間中の解約権を規定したものであることは必ずしも明らかではなく、かえって、第八項における更新拒絶の申し出について契約期間終了の三か月前までに行わなければならないことを定めた条項であり、上間もそのように考えていたことからしても、原告と被告との間において本件解約権の合意が成立したことはない旨を主張し、右主張に沿う証拠(甲一四、原告代表者上間の供述)もある。

しかしながら、甲一号証によれば、本件覚書の第八項に、「本取り決め有効期間は覚書を取り交わした日から一年とする。但し甲又は乙が別段の申し出をしない場合は同一条件でさらに一年の期間延長をするものとする。以後この例による。」との条項が存することが認められ、これに続く第九項に前示のとおりの条項が存するところ、通常の契約解釈によれば、前者が本件契約の期間に関する事項について規定し、後者が本件契約の期間中における解約に関する事項について規定するものであって、それぞれ独立しかつ両立し得る事項に関する規定であると解され、本件覚書第九項の文言自体からも、第九項が契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨の規定であることは一義的に明確であるというほかはない。これを実質的にみても、OA機器又はコンピュータ・ソフト業界における技術革新の状況及びそれに伴う機器・ソフトの早期陳腐化が著しいことに対応して、契約関係者が、これに即応してビジネス展開をしていく必要性があることを考慮すると、本件のような解約権の合意をすることについては合理性があるものと解される。また、原告の側からみても、マトロックス社と従来から関係があったのであるから(後記三1(一)(3)参照)、より有利な条件を提示するパートナーと組むなど別のビジネスチャンスの機会を確保するという意味があるのであるから(そのようなビジネスチャンスの機会確保という点では被告も同様の要請があるとみてよい)、その意味でも、本件解約権の合意をすることについて十分合理性があったものと解されるのである。

これに対して、原告主張のように本件覚書の第八項と第九項を併せて読むことは、通常の契約の解釈の方法として不自然である上、実質的な合理性という観点からしても失当である。

これらの点からして、右各証拠は到底採用できず、原告の右主張は認めることはできず、ほかに右1の認定を覆すに足りる証拠はない。

3  抗弁2及び3の各事実は、いずれも当事者間に争いがない。

三  再抗弁1(本件変更合意の成立)について

1  本件をめぐる基礎的な事実関係について

本件変更合意の成立の有無は、本件訴訟の中心的争点として争われ、この争点をめぐって、両当事者の主張立証が重点的に行われている。そこで、この争点について判断をする前提として、本件をめぐる基礎的な事実関係について、検討を加えることとする。

当事者間に争いのない事実に加えて、証拠(甲一ないし七、八の一、二、九、一〇の一ないし一〇、一一の一ないし三、一二の一ないし一六、一六、一七ないし一九の各一、二、二〇の一ないし七、二一、二二の一、二、四一、四二の一、四四、四五、四六、四七の各一、二、四八、五二の一、二、乙一、二の一、二、三、四、五の一ないし五、六の一ないし三、七の一ないし七、九、一〇の一、二、一四、証人渡辺)及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

(一)(1) マトロックス社は、コンピューター・グラフィックス用ボード等の商品を販売するカナダの会社であり、平成七年当時、訴外ジョン・カッチ(以下「カッチ」という。)は同社の極東販売マネージャーであった。(特に、乙六の一)

(2) 訴外株式会社小松製作所の子会社である同コマツテック株式会社は、平成七年後半ころから、コンピューター・グラフィックス事業に着手することを企画した。なお、被告は、小松製作所の子会社であって、コマツテックとは兄弟会社に当たり、平成八年四月一日から、コマツテックから右事業を継承した。(特に、乙六の一)

(3) 原告は、マトロックス社のMGAミレニウム・ウィンドウズ九五ドライバーの翻訳等も含めて、従前から同社と取引があった。(特に、甲一一の一)

(二) カッチは、平成八年一月九日、上間に対し、「コンピューター・グラフィックス用ボードの販売に関し、原告やコマツテックとジョイントベンチャーとして業務を行うことができるかについて、コマツテックとともに話し合いたい」旨を通知したほか、平成八年二月三日、原告に対し、マトロックス・MGA製品の販売権に関する提案として、「①コマツテックがマトロックス製品を購入し、NECを除き、日本のすべての販路で再販する。②原告は、マトロックス・MGA製品の日本仕様化、技術支援、マーケティングと宣伝を行う。③マトロックス社は、原告が日本仕様化した日本語ドライバー、マニュアルのような資料について、全世界に提供する目的で、電子ファイル又はフロッピーの形態でアクセスする権利を有する。④コマツテックは、日本におけるマトロックス社の総販売店として行動する。⑤この販売店契約は六か月又は一年で終了する。右終了時に、マトロックスがコマツテックと合弁関係の可能性を協議し、あるいはマトロックス社の日本法人設立を希望するかもしれない。」旨を通知した。(特に、甲一一の二、乙六の二)

(三) 原告は、平成八年三月一三日、被告との間で、CG事業部門の展開に関し、本件覚書を取り交わして、本件契約を締結した。なお、本件覚書は、その条項のみならず、その書式も含め、原告自らこれを作成した。

本件覚書には、「①原告は、被告のCG事業部門で取り扱う商品の営業、開発、製造、試験、修理、技術支援、サポート、コンサルタント等を行う。②原告と被告との事業協力体制の責任者は被告とし、原告と協議してマネージメントを行うものとする。③被告は、原告に対し、CG事業部門支援に対する業務委託費として、毎月五〇〇万円を支払う。④原告は、被告に対し、CG事業支援に対する成功報酬として、CG部門の売上げ粗利益の中から下記の割合で成功報酬を毎月請求する。なお、取扱商品はマトロックス社製品、原告製品3DE-300SX/ 300SX-DELTA/400TX等であり、粗利益は月二〇〇〇万円までは二〇パーセント、二〇〇〇万円を超えた粗利益一〇〇〇万円までは一〇パーセント、三〇〇〇万円を超えた粗利益については別途協議する。⑤原告と被告は、協議し、③、④の費用の範囲内で新製品を開発することができる。ただし、開発に関わる原材料費は原告と被告の粗利益より負担する。⑥原告は、被告のCG事業部門に原告の所有する製品(ただし、3DE-300SXより前の製品はこれに含まれないものとする。)の営業権を移管するとともに営業支援を行う。原告と被告は、市場動向を見て協議し、被告は原告に対し、3DE-300SX及びそれ以降の製品を発注し、納入ベースで引きとるものとする。⑦被告は、原告の所有する製品仕掛品(3DE-300SX-DELTA/400TX)を製品完成後に一括して引きとる。⑧本取決めの有効期間は、覚書を取り交わした日から一年とする。ただし、原告又は被告が、別段の申出をしない場合は同一の条件で更に一年の期間延長をするものとし、以後この例による。⑨本取決めは、原告、被告のいずれか一方の三か月の予告期間をもって、相手方に対して解約する旨を通知することにより、本件契約を解約することができる。」旨等が記載されており、その末尾には、被告及び原告の会社名がそれぞれ記載され、その代表者名の右側に、被告に関してはその代表取締役である水野伸太郎社長(以下「水野社長」という。)の印が、原告に関してはその代表者印がそれぞれ押捺されている。(特に、甲一)

(四)(1) カッチは、平成八年三月二七日、被告に対し、被告がその件名を被告の訪問として、被告がマトロックス社の代理店としてマトロックスMGAのパソコン製品を取り扱うこととなり、被告担当者が同年四月二二日からモントリオールのマトリックス本社を訪問し、ミーティングを行うことに関して、そのスケジュールを通知した。(特に、乙七の五)

(2) マトロックス社のエド・ドワイヤーは、同月二三日、渡辺に対し、合弁構想に関するメモを作成し、マトロックス社と被告との二社が合弁する可能性について言及した。(特に、乙六の一、三)

(3) カッチは、平成八年五月九日、被告に対し、その件名をマトロックス、コマツの販売店契約に原告を加えることについてとし、カッチが、同月八日に、上間と会談し、「マトロックス社と原告は、平成八年五月末までに締結する予定の販売店契約に、原告を加えるべきであるとの合意に達した。マトロックス社としては『この合意は原告が技術支援、マーケティング、日本市場向けのMGA製品の日本仕様化の役割を果たし続けるとの条件を充たす限りにおいてのみ効力を有する』という条項を追加したいと思う。」旨を通知した。(特に、甲一一の三)

(五) 原告は、平成八年六月一日、被告との間で、本件契約に関し、協議確認書と題する書面を取り交わした。

右書面には、「①開発費の負担について、被告は、平成八年三月末日までに発生した新製品3DE-TurboSXの開発に要した原材料二〇〇万円を負担する旨を本件覚書の五項に追加する。②製品仕掛品の一括引取り(本件覚書六、七項)について、ⅰ覚書七項の製品仕掛品とは、本件契約締結以前に原告が独自に発注していた3DE-300SX-DELTA一〇〇本分とTX一〇〇本分の仕掛品を指し、同項は、被告が右仕掛品を完成時に全量買いとることを明記したものである。ⅱ覚書六項の300SX及びそれ以後の製品とは、右各一〇〇本以降の生産品を指し、同項は、この二〇一本目以降の発注等について、両者協議し、その結果に基づき、被告が発注し、原告がその全量を納入することを明記したものである。③成功報酬(覚書第四項)の算定及び支払は、ⅰ(ア)算定方法の骨子として、報酬の基準となる粗利益は、売上高から、仕入高、付帯経費(梱包、運送、輸入諸掛、為替差損益、パッケージング経費等の諸費用)及び開発費を控除した額とする。(イ)右粗利益がマイナスとなった金額は翌月に繰越す。(ウ)半期で累計粗利を計算し、報酬額を半期ベースで計算して調整する。(エ)在庫分は半期の中で調整する。ⅱ支払方法として、当月分を翌月初めに被告が算定し、原告に通知して、被告が月末に支払う。」旨が記載されているほか、原告の被告に対する開発費の請求方法についても記載されている。(特に、甲一六)

(六)(1) その後、被告は、本件CG業務に関し、事業計画立案、実績集計、マトロックス社への発注、為替送金、マトロックス社との調整等の管理業務を行うとともに、業務委託した原告の事務所にデモ用設備と作業場を設けたことから、従業員五名程度を出向させ、原告側従業員とともに、業務を行っていた。その結果、被告は、平成八年下期には黒字に転換させ、平成九年上、下両期も相応の利益を計上する状況であった。

なお、被告は、平成八年五月三一日、原告に対し、本件CG事業に関し、両社のマネージメントレベルの会議体として、「KFミーティング」と称する会議を持ち回りで開催したい旨を申し入れ、右会議を開催するなどしていた。(特に、甲四四、四五、乙五の一)

(2) しかし、上間は、平成九年一月三一日、渡辺に対し、電子メールで、「被告との業務提携も来る三月で一年を迎えるが、本件覚書の節目である一年(三月一三日)に際して、業務提携契約は同年三月末日をもって終結する。被告は、同年四月以降、二次販売代理店としてマトロックス社の製品の営業を行う。原告は、マトロックス社の一次代理店として、製品輸入、在庫管理、マーケティング、広告宣伝、プロモーション、ローカライズ、技術サポート、営業サポート等に努める。」旨を通知した(特に、甲一二の一)。

(3) もっとも、上間は、右同日、渡辺に対し、電子メールで、「業務提携契約を終結すれば、マトロックス社は被告との取引を中止してくるかもしれず、次の代理店が原告となるとは限らないため、誰も得をするものがいなくなる。被告が二次代理店になることを承諾できないのであれば、原告の被告に対する先の申入れは白紙撤回したい。」旨を通知した。(特に、甲一二の二)

(4) 渡辺は、平成九年二月三日、上間に対し、電子メールで、「メールを見たが、急なことなので驚いている。被告の正式見解を至急連絡する。」旨の返事をした。(特に、甲一二の三)

(七)(1) 上間は、平成九年二月二八日ころ、渡辺に対し、電子メールで、「マトロックス社は、ビジネスの現状に満足しており、それまでの三社関係を今後も引き続き良好な状態で維持したいとの考えであり、これを踏まえて、業務提携を更に一年延長する。継続に当たり、一方的都合で契約を解消することを防ぐ目的で、解消を通告した者は本件覚書に伴う商権を含む一切の権利を放棄することとする。原告独自の活動をある程度認めてもらいたい。原告が採用を予定している人材を本ビジネスで使用したいが、人件費の一部負担をお願いしたい。」旨の提案をした。(特に、甲一二の四)

(2) 渡辺は、平成九年二月二八日、上間と面談し、上間の前記業務提携関係の解消申入れの経緯について説明を求めるとともに、原告との関係を修復して、両者連携して業務関係の拡大に当たる意思を確認した。その際、上間は、渡辺に対し、右申入れの経緯を説明したほか、「被告側からいつ契約を打ち切られるかわからず不安である。原告の独自のビジネス活動の余地を認めてほしい。業務委託費の計算方式を、業務委託費と成功報酬ではなく、CG事業に関わるそれぞれの経費を利益額から控除して、控除後の額を折半するジョイントベンチャー方式にしてほしい。」旨を申し入れた。

渡辺は、業務提携解消の申入れを突然されたこともあって、上間に対して不信感を抱いていた上、被告の社内でも原告に対する支払が過大であるとの批判を受けていたこともあり、上間の右申入れには明確な同意をしないまま、上間に対し、「本件覚書の文言を変更しない方が原告にとって有利である」旨の説得した。(特に、乙五の一、証人渡辺)

(3) 渡辺は、平成九年三月一日、被告の水野社長に対し、上間との会見内容について電子メールで報告をした。

これには、「①渡辺は、被告としてはマトロックスビジネスを継続することが最優先の課題であるから、被告の対応策として、ともかくも原告と協調して事業を支障なく進めることであるとの前提に立ち、上間と交渉した旨、②上間は、渡辺に対し、平成七年後半ころ、マトロックス社代理店の受け皿として、原告とコマツテックとで合弁会社を作ってこれに当たろうと構想していたこと、しかし、コマツテックが被告に吸収され、この構想がとん挫したこと、コマツテックの谷村は、上間に対し、被告との関係はいわば緊急避難で一年だけであり、実際の業務は原告が自由に行ってよい旨等々を申し述べていた旨を説明したこと、③渡辺は、被告としては驚くべき内容であるが、それまでの原告とのトラブルの背景が双方の認識の差にあるとすると、あながち説明がつかないわけではない旨、④上間は、被告との関係は基本的に一年で終わり、その後は谷村が考える新たな受け皿でやるものと考えていたようである旨、⑤上間は、マトロックス社の商権は原告にあり、そのイニシアチブで被告との関係を切る動きに出ても、マトロックス社が原告側に商権を与えるものと信じて疑わなかったようだが、カッチは、この点について、明確に否定したため、上間も、谷村から離れて、被告との関係を継続する線で翻意したものと思われる旨、⑥上間は、前記のような申入れをしたほか、被告から出向している技術要員が電話対応などをしており、十分活用されていないが、これにドライバソフトなどを担当させたい旨、その際、アルバイトを雇う費用を被告と共同負担としたい旨、⑦もともと、上間の方から、業務提携の解消を申し入れたにもかかわらず、被告から契約打切の不安があるとはあきれるばかりだが、同人が再びこのようなことを仕掛けてくることに対抗するため、現状どおり、三か月の予告で契約を切れるようにしておくべきであると考える旨、⑧渡辺は、原告の独自のビジネス活動については、もともと否定していないが、渡辺個人としては、聞き置くだけに止め、同意は与えていない旨、⑨上間に対しては、被告社内では原告に払いすぎという議論も強いし、今回の騒動の直後でもあり、ジョイントベンチャー方式も互いの経費公開というナーバスな問題もあるので、この段階で無理に競業の骨格や契約内容をいじることは支払減額の話につながりかねず、原告にも相当なダメージをもたらすことになるので、一言一句いじらない方がよいと説得した旨、⑩今後とも、同様の説得をしていく旨」等の報告がされている。(特に、乙五の三、乙七の三)

(八)(1) 上間は、平成九年三月一三日、渡辺に対し、「業務提携に関する確認書を原告サイドで作ったので検討してほしい」旨を通知し、ファックスで右確認書を送付した。しかし、被告は、右確認書に調印するには至らなかった。

右確認書には、「①原告と被告が本件契約の有効期間を更に一年間延長する。②被告が原告に支払うべき対価は、成功報酬のみと変更し、その算定方法は、総売上から原告及び被告が使用した本CG事業に関するすべての経費を控除した利益(純益)を各月毎に二分割した金額とする。ただし、原告、被告双方の管理者人件費及び本CG事業以外に使用した費用については前記経費から除外する。なお、原告は、被告の販売台帳を閲覧する権利を有する。③本件契約の有効期間中に、原告又は被告のいずれか一方が、個別の事由により事業協力関係を解消することとした場合には、少なくとも三か月前に相手方に通知することのほか、提携解消時には本件契約に伴う製品の販売権その他一切の権利を放棄するものとする。④被告は、本件契約で定めた業務提携に支障を及ぼさない範囲において原告が独自に事業展開することを容認する」旨が記載されている。(特に、甲三、一二の七、弁論の全趣旨)

(2) 渡辺は、平成九年三月一三日、上間に対し、「提案の内容については、現在、被告の経理サイドも巻き込んで検討中である。ジョイントベンチャー方式は運用上技術的な問題があるというのが被告側の現在の考え方である。被告からの反対提案も含め、近々相談したい。」旨を返答した。

もっとも、渡辺は、上間に対し、その後も、本件契約(本件覚書)の内容を変更しないことがお互いのためである旨の説得を続け、上間も、被告社内では支払減額の要求が強いことを知り、契約の内容を変更しないままで取引関係を継続することを了承していた。(特に、甲一二の八、乙五の一)

(3) その後、上間は、渡辺との間で、右CG業務に関し、平成九年九月ころはPermedia2に関する問題について、平成一〇年三月ころは被告の従業員である訴外越隆之の従業員への対応問題について、いずれも電子メールのやり取りを通じて連絡を取り合いながら業務提携関係を継続していた。(特に、甲一二の九ないし一四)

(九)(1) マトロックス社製品のCGボード事業は、市場における競争が激化していったが、マトロックス社自身、平成八年九月ころ、被告との取引に関して、被告のコストが高すぎ、被告の利益のために値引きも十分でない等の不満を抱いていることを表明し、改善を申し入れ、平成九年八月にも、CGグラフィック製品を販売する経験を有する者を担当させるよう要求するなどしていたが、平成一〇年二月ころから、その販売数量の拡大を狙って、仕切率変更、複数代理店設定、日本での定価決定権取り上げを骨子とする通告をし、日本における販売政策を大幅に変更する姿勢を明示した。(特に、甲四六、四七の各一、二、四八、乙五の一)

(2) 上間は、平成一〇年四月二日、渡辺と会食した際、「原告と被告が別々の道を歩むことにしたい」旨を申し出た。渡辺がその趣旨を確認すると、「マトロックスの事業は被告が行い、原告は別の仕事をすることとしたい」旨を説明した。渡辺は、上間に対し、そのような場合における被告の原告に対する業務委託費の支払いに関する問題について話し合った。(特に、乙七の一)

(3) 上間は、同月三日、渡辺に対し、電子メールで、その件名を「業務提携の解消に向けて」として、現況の認識を確認すると称して、「現在の契約の状態は二回目の自動継続がされたところである。契約条件は従前と同様で月五〇〇万円と、成功報酬が二〇パーセント、二〇〇〇万円超については一〇パーセントである。特に何もなければ平成一一年三月まで現在の条件が維持される。一二月の契約更改期日に次の一年について必要であれば協議を行うことができ、換言すると、原則として本CG業務の遂行が不可能な事態にならない限り、業績の出来不出来に関わらず、被告はそれだけの法的義務を契約上負っていることになる。今後、合意が成立すれば契約の解消は可能である。業務提携解消に伴い、マトロックスは被告に、GLiNTは原告に全面的に移管される。業務引継までのプロセスとしては、①六月中にそれぞれの業務を相手方にすべて引き渡し、七月以降は互いに干渉は許されない。②被告は、原告に対し、九月まで従来の契約どおりの金額を支払い、一〇月から翌年三月までは、被告は、原告に対し、契約違約金名目で月三〇〇万円(成功報酬なし)を支払う。③原告はその間を利用して新製品を開発し、自立できる体制を整えることができる。④被告は、必要であれば、現事務所を引き続き三月まで使用できる権利を有する。⑤その際、事務所の設備費用及び使用面積等について事前に両者間で合意する必要があり得る」旨を通知した。(特に、甲一二の一五)

(4) 渡辺は、平成一〇年四月三日、上間に対し、右「業務提携の解消に向けて」に対し、「上間の申入れは「部を除いては、おおよそは前日上間が渡辺に述べたことと合致していた。しかし、渡辺は、移行プロセスとその内容について別のことを述べていた。渡辺としては原告との関係を円満に調整したいと考えている。上間が、法的問題や違約金という表現をすることについて、被告と原告間の争いに発展することを憂慮して用語に注意することがよい。原告と円満に業務提携関係を解消するタイミングを平成一〇年一二月末と考えており、被告は、同年九月までは本件契約に基づき業務委託費及び成功報酬を支払い、同年一〇月から同年一二月までは月二五〇万円を支払うことを主張している。この支払は違約金という趣旨ではなく、原告の事務所を一二月末日まで被告が使用すること及び被告が原告に対し臨時的にサポートを依頼することに対応してもらう対価であると考えている。」旨の回答をした(特に、甲一二の一六、乙七の二)

(一〇)(1) 上間は、平成一〇年六月一五日、渡辺に対し、電子メールで、「マトロックス社製品に関し、余剰在庫処理についてはいくらか改善されてきたが、いくつかの製品に関しては難しい局面を迎えつつある。マトロックス社で引きとってくれればよいが、海外メーカーはこれに応じないのが一般的である。日本で余剰在庫を処理する際には、なるべく値段を下げて売ること、場合によっては原価割れでも販売して在庫を圧縮すること、あるいは不良在庫として資産を廃棄することの二方法が考えられるところ、原価割れ販売については既に金額は小さいが、そのような取引ではないかと思われるものがある。原価割れ販売の際には、原告にとって成功報酬が減ずることになり、甚大な影響を被るが、原告の顧問弁護士の見解では、本件契約上は成功報酬の規定はあるが、損失補填の条項はないので、原告が損失を負担する必要はなく、原価割れ販売自体が契約違反であると言っている。原告としては、在庫の縮小について被告に協力したいので、原価割れ販売については、個別の事案ごとに原告責任者の署名又は押印で事前に承認を得てほしい。損失補填に相当する事案についても、上記形式の如何に関わらず、事前に文書で通知し、原告が承認した旨の証明を残すようにしてほしい。原告の承認のない取引については損失分の補填をしないでほしい。不良資産廃棄については被告の資産の問題であるから、原告の成功報酬には何ら影響しないものと了解している。」旨の通知をした。(特に、甲一七の一)

(2) 渡辺は、平成一〇年六月一五日、上間に対し、右電子メールに関して、「その申入れに関しては了解した。越君に指示しておいたのでよろしくお願いする」旨を回答するにとどまり、上間の申入れに対して積極的に対応しないでいた。(特に、甲一七の二)

(一一)(1) カッチは、平成一〇年七月三日、現在のMGI事業の見直し、マトロックス社の日本市場における新たな戦略、その他の重要事項について協議するために来日したが、その際、上間は、同人に対し、日本における代理店体制を原告と被告との二社体制にすることを求めたが、カッチは、「財務力の面から原告を代理店とすることは困難である」旨回答したが、上間は、その後も、マトロックス社の代理店となる希望を有していた。

なお、カッチは、渡辺が同月二二日にバンクーバーに赴いた際、渡辺に対し、「上間から、執拗に原告をマトロックス社の代理店とすることを求められているが、マトロックス社としては原告以外の会社を代理店と認定することに決定した」旨を告げた(特に、甲四一、乙五の一)

(2) 被告は、マトロックス社の日本における販売政策の変更通告に基づき、当該事業の採算性について検討試算した。その結果、第一に、マトロックス社の販売政策変更による仕切率変更、複数代理店設定、日本での定価決定権取り上げの通告により、被告が従来キープしてきた粗利益率二五ないし三〇パーセントの二分の一のレベルの確保も困難になることが明確となったこと、第二に、競争激化、パソコンの低価格化に連動して、商品単価(定価)は事業開始時の五万九〇〇〇円から二万六〇〇〇円に低下し、利益絶対額の確保も困難となったこと、また、事業開始時の為替レートが一ドル一一六円であったのに対し、平成一〇年七月段階では一四五円となり、国産製品との競争上不利となったこと、第三に、マトロックス社の製品性能が競合製品のそれに追いつかれ、競争力が弱くなったこと、第四に、CGグラフィックボードを必要とするパソコンはデスクトップ型であるが、同型のパソコンはこの三年間で出荷量が減少し、ノート型パソコンは、大幅に出荷量が伸びているものの、CGグラフィックボードを必要としないから、今後、右事業の拡大が期待できなくなったこと等を理由として、平成一〇年下期以降の事業採算確保が極めて困難であるとの結論に達し、大幅な赤字が避けられない見通しが確実となったことから、最終的に平成一〇年七月一五日、右事業から撤退することを正式に決定した。(特に、乙五の一、証人渡辺)

(3) 渡辺は、平成一〇年七月一六日、カッチに対し、被告の社内の会議において、マトロックス社が日本で新しく計画している活動の構造と販売条件のもとでは同社のCGボード販売事業をこれ以上続けることができないとの最終結論に達したため、ここ一、二か月のうちにこの事業を終結しなければならないとして、被告は、マトロックス社に対し、この事業を終結する意向であることを通告した。(特に、乙五の四)

(4) カッチは、平成一〇年七月一八日、渡辺に対し、電子メールで被告の解約通知に従い、「マトロックス社の与信部が被告の口座を凍結した。マトロックス社は、被告に対して三〇日の信用期間を与えない。当該メールで被告とマトロックス社との販売代理店事業は現実に終了した。カッチは、被告から解約通知を受けとるとは予想していなかった。顧客に対して衝撃と困惑を与えないよう助言されたい。」旨を通知した。(特に、甲五)

(5) 渡辺は、平成一〇年七月一九日、カッチに対し、電子メールで、「マトロックス社の新販売代理店への移行が被告との協力により円滑に行われるようにしたい。被告は、直ちに事業撤退するわけではなく、顧客第一という社是からも、二、三か月は通常通り事業を行い、この移行期間中は、既に受けている注文についてはマトロックス社製品の供給をし、今後は新たな受注をしない。したがって、被告がマトロックス社に対して追加注文をすることもあり得る。顧客の混乱を防ぐためには、マトロックス社が、日本での販売代理店を例えば、平成一〇年一〇月一日から、被告からSynnex(?)に変更する旨を伝えることが一番であり、マトロックス社が新販売代理店への移行をつつがなく行うという姿勢を強く示すことが大事である。その旨の文書を顧客に送付する時期は同年八月末がよく、それまではこの情報を外部に漏らすべきではない。」旨を通知し、その後もカッチとの間で事業撤退に伴う処理に関して連絡を取り合っていた。(特に、甲六、五二の一、二)

その後、マトロックス社は、訴外株式会社東和商工に対し、販売代理店としてマトロックス社のCGグラフィック製品の販売を委ねることとし、東和商工は、平成一〇年一〇月、マトロックス製品の販売を担当する旨のパンフレットを作成し、新規事業としてグラフィックボードを中心にパソコン関連製品の企画、販売、サポートを、「in-foMagic」のブランドの製品企画の海外メーカーの高性能な製品を厳選して輸入、広告、販売、技術サポートまでを行う旨をプレスリリースした。

右パンフレットには、東和商工が、グラフィック事業部として、新たにグラフィックボードを中心にパソコン関連製品を扱うグラフィック事業部「in-foMagic」を設立した旨、新事業部は、マトロックス社の日本総代理店であった被告が代理店を降りたため、マトロックス製品をはじめとするグラフィック製品に情熱を持っている原告従業員であった者を含むスタッフにより結成された旨、したがって、広告宣伝、販売、テクニカルサポート等、従来と変わらないサービスが提供できる旨、infoMagicの主な事業内容は、右ブランドの製品のプロデュース、マトロックス社製品の販売代理店、広告宣伝、日本語ドライバーやマニュアルの開発、テクニカルサポートである旨が記載されている。

なお、上間は、infoMagicには参加していない。(特に、乙一〇の一、二、証人渡辺)

(一二)(1) 他方、渡辺は、本件CGボード業務からの撤退決定に基づき、平成一〇年七月一六日、上間に対し、直接、口頭で「三か月の予告期間をおいて、本件契約を解約する」旨を説明し、同人から同意を取り付けたうえ、同月一七日、原告に対し、被告訴訟代理人を通じて、解約通知書を送付し、右通知書は、同月二二日、原告に到達した。

右通知書には、「被告が、原告との間で本件覚書を取り交わして本件契約を締結し、これに基づいて業務委託を行っていたが、被告は、諸般の経済情勢等から、本件契約の事業の維持、継続が困難になったため、本件覚書九項の定めに従い、右通知書到達の日から三か月の予告期間をおいたうえ、本件契約を解約することとし、その旨を右通知書で意思表示する。その結果、本件契約は、右予告期間結過後、あらためて通知することなく、解約となる。」旨記載されている。(特に、甲七、乙二の一、二)

(2) 原告は、平成一〇年七月二八日、被告に対し、被告訴訟代理人を通じて、「本件覚書の九項は契約期間中の解約権を規定したものではなく、八項の期間満了前における予告解約に関する規定である。被告の前記解約通知は、本件契約における期間中の解約はしないとの合意に反するものであり、債務不履行を構成する。原告は、被告に対し、平成一〇年一〇月二三日以降の業務委託費及び成功報酬合計五〇九五万五〇五五円を逸失利益として損害賠償請求する。」旨を回答した。(特に、甲八の一、二)

(3) 被告は、平成一〇年八月三日、原告に対し、被告訴訟代理人を通じて、原告の右回答に対し、「本件覚書の九項は契約期間中の解約権を定めた規定であり、原告はこれがその後に合意改訂されたと主張するが、そのような事実はなく、右改訂を前提とする主張は失当である」旨を再回答した。(特に、甲九)

(一三)(1) 上間は、平成一〇年八月五日、渡辺に対し、再度、「原告の弁護士事務所に照会したところ、原告には赤字分の損失負担の義務はないとの見解となった。ついては、原告責任者の署名又は押印のない案件に関しては成功報酬計算分から除外してほしい。」旨通知した。(特に、甲一八の一)

(2) 渡辺は、平成一〇年八月六日、上間に対し、右申入れに対し、「先般、被告顧問弁護士から回答したとおりであり、被告と原告との業務委託関係に関する規定は、平成八年三月一三日締結の覚書に記載の事柄がすべてである」旨を通知し、上間の申入れについて拒否した(特に、甲一八の二)

(3) 上間は、平成一〇年一〇月一日、渡辺に対し、「原価割れ販売赤字分の成功報酬への不算入について、メールでの合意に基づき処理してほしい」旨を通知した。なお、上間は、被告の水野社長ほかにもその旨を通知するに及んだ。(特に、甲一九の一)

(4) 渡辺は、平成一〇年一〇月二日、上間に対し、「被告の公式回答は、同年八月六日付けの渡辺の上間に対するメールで回答したとおりであり、メールでのやり取りで本件契約の内容が変更されるわけではないことは上間にもわかっているのではないか」として、上間の申入れに対して厳しく抗議した。また、渡辺は、上間に対し、「上間の六月一五日付けのメールについては、越に対し、原告の責任者である五十嵐と赤字案件の情報共有について協議するよう指示したが、成功報酬の計算方式についてまでを指示したことはない。越は、五十嵐と協議しようとしたが、同人が不在がちであり、実務的にはほとんど無理で、現場では進まなかったと報告を受けている。成功報酬の規定をよく読めば、赤とか黒とかの議論はしておらず、あくまでも期間の合計粗利について議論してあるだけで、その点は明確に規定してある。渡辺は同年七月二三日にも、上間に対し、同様の内容を説明している。被告の公式見解は八月六日の回答である。」旨を繰り返し通知した。(特に、甲一九の二)

以上の事実が認められ、右認定に反する甲一四、三六ないし三九、五四の各記載部分並びに原告代表者本人の供述部分は、前掲各証拠に照らし、たやすく措信することができない。以下では、以上の事実を前提として、再抗弁1について検討することとする。

2  原告は、被告との間で、平成九年三月二四日、本件解約権に関し本件変更合意をした旨、その際、本件手書きメモ(甲二)が本件変更合意の合意文書として作成された旨を主張し、右主張に沿う証拠(甲二、四、一四、三九、原告代表者上間)もあるので、右各証拠について以下検討する。

3(一)  本件手書きメモ(甲二)について

なるほど、甲二号証によれば、本件手書きメモが本件覚書の写しに手書きで書き込みをしたものであること、その書き込みは、①本件覚書の冒頭にある「コマツソフト株式会社(以下、甲)と株式会社フォース(以下、乙)とはCG事業部門の今後の事業展開に関し、次のとうり合意したのでこの覚書を取り交わす。」との文章の途中に「お互いの所頼関係(「信頼関係」の誤記)に基づいて両者手をたずさえて展開することについて、」との文言を挿入するもの、②本件覚書の第五項の末尾に「但し、乙が独自に開発する活動についてはこの限りではない」との文言を加えるもの、及び、③本件覚書の第八項と第九項を括弧でくくり、第九項の冒頭に「前条期間更新について」との文言を挿入するものであることが認められ、右書き込みが渡辺によってなされたことも認められる(証人渡辺)。

しかしながら、右③の書き込みそれ自体からは、その意味するところが必ずしも一義的に明確であるということはできない。また、その形態は、本件手書きメモ自体が単に本件覚書の写しを利用したものにすぎず、書き込みの文字も一見して走り書きないしは殴り書きともいうべき乱雑なものである。さらに、その形式は、本件手書きメモに書き込みを加えた年月日、その趣旨又は目的、書き込みをした者の氏名等、書面の作成に関して重要な事項の記載が一切存しない上、原告又は被告の代表者印があらためて押捺されるなどしたことは全くないのである。

他方、原告と被告は、本件契約に関して、本件覚書や本件協議確認書を取り交わすなど、その重要な事項に関する合意について、ワープロ等のOA機器を用いて作成され、かつ原告及び被告の会社名が印刷され、水野社長の印及び原告の代表者印が押捺された書面を作成している(甲一、一六)のである。そうすると、原告の主張する本件変更合意が、本件覚書中の契約期間中の解約権に関する変更の合意であって、極めて重要な意味を有するものであるにもかかわらず、手書きによる書き込んだ内容は一義的明確さを欠くばかりか、前述のとおりメモの形態、形式において会社間における取引関係書類としての体裁を全くそなえていないことをも併せて考慮すると、本件手書きメモをもって本件変更合意の成立を証する文書ということは到底できないものというほかはない。結局、本件手書きメモ自体から本件変更合意の成立が認められないことは明らかである。

(二)  上間作成の陳述書(甲一四)及び原告代表者上間の供述について

次に、本件手書きメモ作成の際、上間と渡辺の間において交渉した結果、渡辺が上間に対し、「本件契約においては契約期間中の解約は予定されておらず、本件覚書の第九項は第八項の更新拒絶に関して定めた規定である」旨を言明し、本件手書きメモを作成したものであるとの甲一四号証の記載部分及び原告代表者上間の供述部分が存する。

しかしながら、右各証拠とまったく反対趣旨の証拠(乙五の一、七の一、一二、証人渡辺)もあるのみならず、右各証拠は、前示(二2)のとおり本件覚書の第九項が契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨を一義的かつ明確に規定しており、契約の性質上合理性を有しているにもかかわらず上間がそのように解釈しなかったとすることを前提とする点においてそもそも不自然かつ不合理であるといわなければならない。加えて、右各証拠中、被告のCG事業は原告の技術を前提としており原告の被告に対する交渉力は絶大であったとしながら、本件契約に解約時商権放棄の条項を加えることについて渡辺が一旦同意しながら口約束にすぎないとして反故にしたとする点や、渡辺が一旦同意したことを反故にしたにもかかわらず、渡辺の方から本件変更合意について新たな覚書の作成と調印をもちかけたのに上間がそれに応じなかったとする等個々にわたる点においても不自然かつ不可解な点が多々あり、それ自体として信用性が乏しいものというほかはない。以上によれば、本項冒頭に掲記の甲一四号証の記載部分及び原告代表者上間の供述部分のみでは原告の前記主張は到底認められないものというべきである。

(三)  本件変更合意成立前の経緯に関する証拠(甲三、一二の四ないし八、一四、原告代表者上間)について

原告は、上間は本件覚書第九項が契約期間中の解約権の規定でないと考えていたが、これに関する疑念を払拭するために本件変更合意をし、本件手書きメモ作成に至ったとの経緯からしても、本件変更合意がなされたことが明らかであるとして、再抗弁Ⅰ(一)ないし(四)のとおり縷々主張し、右主張に沿う証拠(甲三、一二の四ないし八、一四、原告代表者上間)もある。

しかしながら、上間が本件覚書第九項について契約期間中であっても三か月の予告期間をおいて契約を解約できる旨の規定であるとは考えていなかったとする点が不自然かつ不合理であることは既に説示のとおりであって、右各証拠は到底措信することができず、原告における本件覚書第九項の理解に関する事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、原告の右主張は、その前提を欠くものであって、認められないものというほかない。そして、その余の主張事実は本件変更合意の成立を推認する間接事実として機能するものとはいえない。

(四)  本件変更合意後の経緯に関する証拠(甲一二の一五、一六)について

原告は、本件変更合意成立後、渡辺が契約期間中の解約が許されないことを電子メールで認めていた旨を主張する。

しかしながら、甲一二号証の一五及び一六によれば、上間は渡辺宛に平成一〇年四月三日に電子メールを送ったこと、右メールはその件名「業務提携の解消に向けて」とし、本件契約の現状認識に関する問い合わせと業務提携が解消された際の処理に関する取扱の確認をするものであったこと、したがって、被告が契約期間中に本件契約を一方的に解約をしてはならないことを確認する内容のものではなかったこと、同日渡辺が上間宛に送ったメールも、その件名を「Re、業務提携の解消に向けて」とするものであり、原告と被告間における業務提携の解消が円満になされるよう調整しようとするものであったこと、したがって、被告が契約期間中に本件契約を一方的に解約をしてはならないことを認める内容のものではないことが認められ、この事実に照らすと、原告の右主張を認めることはできず、ほかに原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

(五)  以上によれば、本件手書きメモは、原被告間(上間・渡辺間)のある時期の交渉の過程で出された事項について推測させるものではあるが、それは、交渉途中で作成されたメモにすぎないものであって、他の事情を総合考慮しても、本件変更合意の成立を証する文書とは到底みることができないものというほかない。結局、前記2に掲記の各証拠のみでは、本件変更合意の成立を認めることはできず、ほかに本件変更合意の成立を認めるに足りる証拠はないのである。

4  なお、原告は、本件の弁論準備手続期日の出席者等(上間、伊藤、渡辺、原告代理人、被告代理人、裁判官、書記官)の発言の記録であるとして、原告訴訟代理人斜木裕二弁護士が作成した「法廷報告書」と題する書面を甲三六ないし三八号証として提出し、甲三七及び三八号証によって、渡辺が弁論準備手続期日において本件手書きメモを法的な効力のある書面として作成した旨陳述したことを立証しようとし、ひいては本件変更合意の成立を立証しようとする。

しかしながら、渡辺が、本件の弁論準備手続期日において、本件手書きメモを法的な効力のある書面として作成した旨を陳述したことがないことは当裁判所に顕著であり、甲三七及び三八号証は採用することができない。

当裁判所は、事柄の性質にかんがみて、実質的な判断を示したが、右のように弁論準備手続における当事者の発言について、弁論準備手続調書に記載を求めることなく、後日、報告書のような形で云々することははなはだ不適切なものであって、本来は証拠適格を欠くものとして却下すべきものと考える。その理由は、第一に、民事訴訟法は、弁論準備手続において当事者及び裁判所が自由闊達な議論を行い、その法律的主張の当否や証拠の意味合い等について種々の角度から吟味しあい、主張・証拠(争点)を整理し、事案の理解を深めつつ、充実した審理を進めることを目的としているところ、右のような訴訟活動は、当事者間の片言隻語に基づき、揚げ足をとる類いのものであって、不公正であるばかりか、弁論準備手続の本来の目的を達することができなくなるおそれがあるものである。すなわち、裁判所は、弁論準備手続期日において、訴訟代理人及び当事者に対し、さまざまな質問をし、あるいは一定の立場から他の立場の言い分を検討するなどし、そのやり取りを通じて関係者はいずれも事案に対する理解を深めていくことになるが、一回の期日はその限定された一コマであって、中途段階のやり取りにすぎない。また、裁判所が、同期日において、和解の気運を探ることもあるが、これまた中途段階での調整の一コマにすぎないのである。右のような訴訟活動は、これらを逐一意味のあるものの如く取り上げるものであって、それ自体不相当であることは、経験ある法律事務家にとっては多言を要しないところである。第二に、必要であれば弁論準備手続調書に記載を求めるべき事柄を後日正確性の担保されない私製の報告書に記載し、外形上その事実が存したかのように作出する点において訴訟当事者間の訴訟法上の信義則にも悖るものである。第三に、相手方にもその対応を余儀なくさせ、無用の負担を強いるのみならず、紛争を一層深刻にし、拡大する契機となりかねないものである。

以上のとおり、弁論準備手続の目的、訴訟当事者間の信義則のほか訴訟政策の観点からみても、右のような訴訟活動は、はなはだ不適切であって、そのような証拠である甲三六ないし三八号証は、証拠としての適格性を欠くものというほかない。

四  再抗弁2(信義則違反)について

原告は、本件覚書第九項が契約期間中の解約権の定めであるとの理解を有しないまま、右疑義を解消すべく被告と交渉し、本件手書きメモを作成するに至り、その内容を事後に電子メールで確認したが、その際、被告は原告をして本件覚書第九項によって本件契約を一方的に解約することはできないと信じさせたのであるから、被告が本件覚書第九項の本件解約権を行使することは信義則に反するというべきであり、本件解約の意思表示による本件契約の解約は無効であると主張する。

しかしながら、原告が本件覚書の第九項が契約期間中の解約権の定めであることを了解し得なかったとの事実を認められないことは前述のとおりであるのみならず、被告が原告をして本件覚書第九項によって本件契約を一方的に解約することはできないと信じさせたとの事実を認めるに足りる証拠もない。

したがって、被告が本件解約権を行使することが信義則に反するとは到底いえず、ほかに原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

五  再抗弁3(解約の際のやむを得ない事由の要否)について

1  原告は、被告が本件解約権を行使して本件契約を解約するためには、(一)本件契約が継続的取引にかかる契約であること、(二)原告の収益の大半は本件契約に依っていること、(三)原告は下請業者として保護されるべきであることを理由として、原告との取引関係を継続し難いやむを得ない事由が存在することが必要であると主張する。

2 そこで検討するに、たしかに、本件契約には、契約期間を一年とし、別段の申し出をしないときは同一条件で契約期間を一年延長し、その後も同様とする約定があることは前示のとおりであり、更新を重ねることによってある程度の期間にわたって契約関係を継続することもあり得る内容となっていることから、その意味で継続的取引関係の面を有するといえないわけではない。

しかしながら、継続的取引関係であることの一時をもって、解約に関する合意が許されないわけではないのみならず、本件契約は、前述のとおり、契約当事者双方がいずれも三か月の予告期間をおいて解約を通知することにより契約を解約できる旨を定めるものであって、右解約権の行使を制限するような定めはない。これに加えて、前述のとおり、OA機器又はソフト業界における技術革新の進歩に伴い技術の陳腐化が極めて早いことに対応し、契約関係者がこれに即応する必要性、双方のビジネスチャンスの機会確保の要請等から、契約期間中の解約に関する合意に合理性があり、契約自由の原則の下、被告は本件解約権を行使することができるものと解される。本件契約が継続的契約であることを根拠にやむを得ない事由が存在する場合にのみ本件解約権を行使することができるとする原告の主張は採用することができない。

3 また、原告が本件契約から得られる収益に依存して、本件契約の継続を期待する状況にあったとしても、2で述べたとおり、このことが直ちに、本件解約権の行使を制約するものとはいうことはできないし、そのように解しても、三1で判示したとおりの本件解約の意思表示に至る経緯等からして、当事者の衡平を害することにはならないと解される。

また、「下請中小企業振興法の規定に基づく振興基準」(平成三年二月八日通商産業省告示第三八号)は、第2の6「取引停止の予告」において、「親事業者は、継続的な取引関係を有する下請事業者との取引を停止し、又は大幅に減少しようとする場合には、下請事業者の経営に著しい影響を与えないよう配慮し、相当の猶予期間をもって予告するものとする。」と定めているが、右は契約関係を解消する事由を制限するものではなく、相当な猶予期間をおくことを定めたものである。そして、本件契約においては、原告と被告との間で、明示的に三か月の予告期間をおいて一方的に解約を通知することによって本件契約を解約できることを合意したものであるところ、右は、右振興基準にいうところの「相当の猶予期間を」をおいたものと解することができるから、右振興基準の趣旨に反するものということはできない。

4 そうすると、被告が本件解約権を行使するに際して、原告との取引関係を継続し難いやむを得ない事由が存在することを要するとの原告の主張は採用することができないというべきである。

六  小括

以上によれば、本件契約は、本件解約の意思表示により平成一〇年一〇月二二日の経過をもって終了したものというべきであるから、原告の平成一〇年一〇月二三日以降の得べかりし業務委託費及び成功報酬相当分にかかる損害賠償請求が理由のないことが明らかである。

第二  平成一〇年四月から九月までの成功報酬の未払部分の請求について

一  原告は、本件契約における原告の成功報酬について、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失は成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外すべきであり、その根拠として請求原因2(三)(1)ないし(7)のとおり主張している。そこで、以下では、右主張の当否を順に検討していくこととする。

二  請求原因2(三)(1)について

原告は、本件契約の成功報酬の算定に関しては、被告が商品の原価割れ販売及び不良在庫の処分をした場合にその損失を原告が負担する旨の約定がないから、原告には一切責任がないというべきであり、原告及び被告が、本件契約締結時に、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を粗利益の算定から除外する旨の合意をしたものというべきである旨を主張する。そして、右主張に沿う証拠(甲三九、五四)もあり、たしかに、甲一号証によれば、本件覚書には被告が商品の原価割れ販売及び不良在庫の処分をした場合にその損失を原告が負担する旨の規定はされていないことが認められる。

しかしながら、甲一号証によれば、本件覚書には、原告の成功報酬について「CG事業部門の売上粗利益の中から下記の割合で成功報酬を毎月請求するものとする。」と記載されていることが認められ、これによれば、原告の成功報酬算定の基礎となる粗利益が「CG事業部門の売上粗利益」であることは明らかである。これに加えて、右「CG事業部門の売上粗利益」が、一企業における事業部門の粗利益である以上、原価割れ販売や不良在庫の処分等によって損失が発生したものをも含めて算定すべきことは、契約の合理的な解釈からしても当然のことである。そうすると、原告が主張する原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失は粗利益の算定から除外する旨の合意(特約)が成立したということは到底できず、かえって、原価割れ販売及び不良在庫の処分等による損失も含めて成功報酬の基礎となる粗利益を算定する旨を約定したものと認められ、この事実に照らすと、前記各証拠(甲三九、五四)は到底採用できず、ほかに原告の前記主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、請求原因2(三)(1)の原告の主張は理由がない。

三  請求原因2(三)(2)について

1  原告は、原告と被告が、本件協議確認書作成の際、本件協議確認書中に報酬の基準となる粗利がマイナスとなった場合には、当該金額を翌月に繰り越す旨を定め、原価割れ販売による損失を原告が負担しないことを十分に確認し合い、その損失は成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨の合意をしたと主張し、右主張に沿う証拠(甲三九、五四)もある。

また、原告及び被告が、平成八年六月一日、本件協議確認書を作成したこと、本件協議確認書には、本件契約の成功報酬の算定方法として、「①報酬の基準となる粗利=売り上げ高−(仕入高+付帯経費)−開発費。なお、付帯経費とは、梱包、運送、輸入諸掛、為替差損益、パッケージング経費等の諸経費をいう。②この粗利がマイナスとなった金額は翌月に繰り越す。③半期で累計粗利を計算し、報酬額を半期ベースで計算し調整する。④在庫分は半期の計算の中で調整する。」旨の記載があることは、当事者間に争いがない。

しかしながら、本件全証拠を検討しても、原告と被告が、本件協議確認書作成時に、原価割れ販売を行った場合の損失を原告が負担しないことを十分に確認し合ったと認めるに足りる証拠はない。

2  また、右1②の記載は、「この粗利がマイナスとなった金額は翌月に繰り越す。」と規定するのみであって、その文言に照らしても、「上記粗利」すなわち、右1①に記載する「報酬の基準となる粗利=売り上げ高−(仕入高+付帯経費)−開発費」がマイナスとなった場合に、そのマイナス分を翌月に繰り越す旨を定めた規定であることは明らかであり、原告が原価割れ販売による損失を負担しないことを確認したものでないことは明らかであるといわなければならない。

3  以上の事実に照らすと、前記各証拠(甲三九、五四)は採用することができず、結局、本件協議確認書作成時に、原価割れ販売による損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外する旨の合意が成立したとの原告の前記主張は認められず、ほかに原告の右主張を認めるに足りる証拠はない。

したがって、請求原因2(三)(2)の原告の主張は理由がない。

四  請求原因2(三)(3)について

1  さらに、原告は、原告と被告が、平成一〇年六月一五日、上間・渡辺間の電子メールのやり取りにより、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失は粗利益の算定から除外する旨及び特に原告が同意して署名もしくは押印したものに限り原価割れ販売についての損失を成功報酬に算入することができる旨の合意をしたと主張し、右主張に沿う証拠(甲一七の一及び二、三六、四二の二、三九、五四)もある。また、甲一七号証の一、二によれば、上間が渡辺に対し、平成一〇年六月一五日、余剰在庫処理に関する電子メールを送り(以下「上間メール」という。)、その中で、余剰在庫処理の対策として、①「なるべく値段を下げて売る。場合によっては原価割れでも販売して在庫を圧縮する。」との対策、及び②「不良在庫として資産を廃棄処分」との対策を示し、①の対策をとった場合には原告の成功報酬が減少するが、原価割れ販売による損失については原告が負担する必要がないこと、②の対策をとる場合には、不良資産廃棄は被告の問題であるから成功報酬には何ら影響しないことを述べるとともに、原価割れ販売をする際には原告責任者の署名をもしくは押印による事前承認を得るよう求める内容のものとなっていること、渡辺が上間に対し、平成一〇年六月一五日、上間メールに対する返答の電子メールを送り(以下「渡辺メール」という。)、そこには、「了解しました。越君に指示しておきましたので、宜しくお願いします。」と記載されていたことが認められる。

しかしながら、右認定の事実によっても、渡辺が、渡辺メールにおいて、上間メールによって上間が被告に対して何を要求しているかを理解し、その対応を越に指示したことは認められるものの、それ以上に、原告が求める損失の粗利益算定からの除外についてまで承諾をしたものということはできず、右各証拠(甲一七の一、二)のみでは、原告の右主張を認めることはできない。

2  また、甲三九号証、四二号証の二には、原告と被告との間で、原価割れ販売による損失は粗利益の算定から除外する旨の合意を前提として、被告が原告に対し、原価割れ販売の損失を成功報酬に算入することについて署名もしくは押印を求め、原告がそれに対し署名もしくは押印をしたことがあるとの記載部分がある(関連する証拠として甲三六号証があるが、これが証拠としての適格を欠くものであることは前述したとおりである。)。

しかしながら、甲四二号証の二には、赤字販売に関連して署名もしくは押印が問題となったことがある旨の記載部分がみられるものの、その内容があいまいである上に、その署名もしくは押印の趣旨も不明であるというほかはなく、原価割れ販売による損失を成功報酬の基礎となる粗利益から除外する旨の合意の成立を認めるに足りるものとは到底いえず、甲三九号証もこれと反対趣旨の証拠(乙二〇、証人渡辺)に照らしてにわかに採用できない。

3  以上から、本項冒頭掲記の各証拠からは請求原因2(三)(3)記載の合意の成立を認めることはできず、ほかに右合意の成立を認めるに足りる証拠はない。

五  請求原因2(三)(4)について

原告は、本件契約の性質から、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失は、成功報酬の基礎となる粗利益の算定からは除外されるべきであると主張する。

しかし、前述のとおり、本件契約において、原告の成功報酬を算定する際には、原価割れ販売及び不良在庫の処分等によって損失が発生した商品も含めて粗利益を算定する旨が合意されたことが明らかであるから、原告の右主張は失当であるというほかはない。

六  請求原因2(三)(5)について

原告は、被告が不良在庫の評価損を売上高から控除して粗利益を算定したことについて、その不良在庫の評価損には原価性がなく、原価性がない評価損は会計上は営業外費用又は特別損失となるべきものであって売上原価とはならないから、結局被告は売上原価とならない評価損を売上高から控除して粗利益を算定するという会計上の誤りを犯したと主張し、右主張に沿う証拠(甲四三)もある。

しかしながら、本件契約において、原告の成功報酬を算定する際には、原価割れ販売及び不良在庫の処分等によって損失が発生した商品も含めて粗利益を算定する旨の合意があることは前示のとおりであって、不良在庫の評価損処理によって損失が発生した場合においても、CG事業部門に損失が生じた以上、原告の成功報酬も減少することは当然のことといわざるを得ず、その評価損が会計上売上原価となるものであるか、営業外費用又は特別損失となるものであるかにかかわらず、原告の成功報酬の算定の基礎としての粗利益には算入されるというべきであるから、原告の右主張は失当であるというほかない。

七  請求原因2(三)(6)について

原告は、被告が行った原価割れ販売の中には、通常の販売価格で販売できる商品であるのに異常な廉価で販売したものがあるが、このような原価割れ販売による損失を控除して成功報酬の基礎となる粗利益を算定することは不当であると主張する。

しかしながら、被告は営利を目的とする企業であって、通常の販売価格で販売できるのに、これを異常な廉価で販売することは、資金調達上の必要性が大きい場合、あるいは事業縮小に伴う場合など合理的理由がない限り通常は考えられない事態であるところ、必ずしもそのような事情を窺わせる証拠はないばかりか、本件全証拠によっても、被告が右のような廉価販売を行ったという事実を認めるに足りる証拠はない。これに加えて、本件契約において、原告の成功報酬を算定する際には、原価割れ販売及び不良在庫の処分等によって損失が発生した商品も含めて粗利益を算定する旨の合意があることは前示のとおりであるところ、原告と被告との間には、商品をどのような値段で売却すべきかの約定や、商品の値段によって成功報酬の基礎となる粗利益に算入するか否かを区分けする約定もないことをも考慮すると、より高く売れたはずであるということの一事をもって、廉価で販売した商品について成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外することを求める原告の主張は失当であるというほかない。

八  請求原因2(三)(7)について

原告は、被告が行った不良在庫の評価損処理は不当なものであるから、その評価損処理に基づいて生じた損失を原告が負担する理由はないと主張し、評価損処理が不当である理由として請求原因2(九)(1)ないし(5)のとおり主張する。

しかしながら、本件全証拠によっても被告が行った不良在庫の評価損処理が不当であるとの事実はこれを認めることができないのみならず、前述のとおり、本件契約において、原告の成功報酬を算定する際には、原価割れ販売及び不良在庫の処分等によって損失が発生した商品も含めて粗利益を算定する旨の合意があることが明らかであり、評価損が生じた商品についてはその評価損を成功報酬の基礎となる粗利益に算入することも本件契約からは当然のことであるところ、証拠(乙一三)によれば、被告は、平成一〇年九月時点で、販売見込みがなく処分損が見込まれる商品について評価損を計上し、その評価損を成功報酬の基礎となる粗利益に算入したことが認められ、右認定の事実によれば、結局、被告による右の成功報酬の算定には何ら問題がないというべきであり、原告の右主張は到底採用することができない。

九  小括

以上によれば、原価割れ販売及び不良在庫の処分による損失を成功報酬の基礎となる粗利益の算定から除外すべきであるとの原告の主張は認められず、原告の平成一〇年四月から九月までの成功報酬の未払部分の請求には理由がない。

第三  平成一〇年一〇月の成功報酬の未払部分の請求について

一  原告は、平成一〇年一〇月の成功報酬の算定に関連して、同年九月の評価損計上分の戻しによって、ソフトバンクと取引した商品については二八七万六六〇〇円を売上原価から控除すべきであるのに一四〇万三六〇〇円しか控除しておらず、高電社と取引した商品については、一一七二万三四三五円を売上原価から控除すべきであるのに一一二二万三四三五円しか控除していないと主張し、その差額分だけ成功報酬の基礎となる粗利益が低く算定されていると主張する。

二  しかし、証拠(乙一三、一七、一八)によれば、平成一〇年一〇月にソフトバンクと取り引きした商品のうち、MIL2P/4F一〇〇個については同年九月に評価損を計上しておらず、MIL2P/MOD8一〇〇個については、同年九月に評価損を計上していること、その評価損処理は一個当たりの簿価一万四〇三六円を〇円と評価するものであり、一〇〇個の評価損は一四〇万三六〇〇円であること、高電社と取引をした商品については、平成一〇年九月における評価損処理において、簿価である一一七二万三四三五円から販売見込額である五〇万円を控除した一一二二万三四三五円を評価損として計上していることが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。

右認定の事実に照らすと、MIL2P/4F一〇〇個については評価損の戻しは不要であることのほか、ソフトバンクと取引した商品について、評価損の戻しとして一四〇万三六〇〇円を売上原価から控除した被告の処理に何ら問題は存せず、高電社と取引をした商品についても、一一二二万三四三五円を評価損として計上しているのであるから、同額を評価損の戻しとして売上原価から控除した被告の処理に問題のないことは明らかである。

三  小括

以上から、平成一〇年一〇月分の原告の成功報酬の算定に誤りがあるものとはいえず、未払の成功報酬は存しないから、原告の平成一〇年一〇月の成功報酬の未払部分の請求には理由がない。

第四  結論

以上によれば、原告の請求は、いずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法六一条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官・加藤新太郎、裁判官・足立謙三、裁判官・中野琢郎)

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