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東京地方裁判所 平成10年(ワ)2238号 判決

原告 和光鋼業株式会社

右代表者代表取締役 酒寄紀子

原告 大和工業株式会社

右代表者代表取締役 酒寄紀子

右両名訴訟代理人弁護士 松島暁

同 加納小百合

被告 朝日火災海上保険株式会社

右代表者代表取締役 野口守彌

右訴訟代理人弁護士 江口保夫

同 江口美葆子

同 豊吉彬

右訴訟復代理人弁護士 中村威彦

主文

一  原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告は、原告和光鋼業株式会社(以下「原告和光鋼業」という。)に対し、金三九三三万六二〇二円及びこれに対する平成九年八月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

2  被告は、原告大和工業株式会社(以下「原告大和工業」という。)に対し、金一億九二二〇万六四〇〇円及びこれに対する平成九年八月六日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

3  訴訟費用は、被告の負担とする。

4  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  原告和光鋼業は、損害保険業を目的とする被告との間で、別紙物件目録一ないし五記載の建物(以下同目録一ないし五記載の建物を順次「A棟」、「B棟」、「C棟」、「D棟」、「E棟」と略称し、これらを併せて「本件建物」という。)につき、別紙保険目録一ないし三記載の各保険契約(以下「本件各和光保険」という。)を締結した。

2  原告大和工業は、被告との間で、本件建物内の物品につき別紙保険目録四ないし八記載の各保険契約(以下「本件各大和保険」という。)を締結した。

3  平成九年四月一八日午後一〇時三〇分ころ、本件各建物において火災(以下「本件火災」という。)が発生した。

(一) 本件火災により、本件建物五棟延べ四七八六平方メートルのうち、床面積で三二・〇四平方メートル、表面積で三四五・七六平方メートルが焼損した。本件建物の修復には金三九三三万六二〇二円が必要である。

(二) 本件火災により、本件建物内に存置された商品、製品、材料等(一億四四九二万四四〇〇円相当)及び什器備品(三九三万九〇〇〇円相当)が焼失した。

(三) 別紙保険目録八記載の保険(大和保険<5>)の利益保険特約条項一条、四条、五条により算出される原告大和工業に填補されるべき営業利益・全経常費は、金四三三四万三〇〇〇円となる。

4  原告和光鋼業及び同大和工業は、被告に対し、平成九年八月一日付け内容証明郵便により、保険金の支払を催告し、右書面は同月五日に到達した。

5  よって、原告和光鋼業は、被告に対し、本件各和光保険に基づく保険金として金三九三三万六二〇二円及びこれに対する催告の日の翌日である平成九年八月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を、原告大和工業は、被告に対し、本件各大和保険に基づく保険金として金一億九二二〇万六四〇〇円及びこれに対する催告の日の翌日である平成九年八月六日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払をそれぞれ求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1、2及び4は認める。

2  請求原因3のうち、火災発生の事実は認めるが、その余はいずれも不知。

三  抗弁(故意又は重大な過失による免責)

1  本件各保険契約には、火災保険普通保険約款が適用されるところ、右約款二条一項(1) 号には、保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときは、その理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意もしくは重大な過失又は法令違反により発生した損害については保険金を支払わない旨の約定があった。

2  本件火災は、以下の事情から、原告ら、もしくはその指示を受けた者の故意による火災事故招致によるものである。

(一) 不審火であること

(1)  本件被災建物は、本件火災に先立つ平成七年七月一二日に罹災したが、倉庫内のプレハブ事務所という同一の出火場所であること、煙や煤による被害が及んだ範囲が同一であること、倉庫建物そのものの損害は比較的軽微で、損害のほとんどは建物内収容のロッカー・ロッカー部品であることなどは、本件火災と酷似している。

(2)  本件火災直後の現場から採取した焼残物には明らかに灯油成分に類似する可燃性液体が検出されており、しかも石油ストーブから若干離れたB棟側スレート壁直近において多量の油性成分が検出されている。

(二) 第三者の放火の可能性

本件火災を含めた一連の火災は、いずれも出火場所が屋内であり、しかも原告和光鋼業、同大和工業及びその関連会社に限って発生していることから、愉快犯による犯行とは考えにくい。

また、本件被災建物は、単なる倉庫であって、原告らの生産設備には全く支障がなく、原告らに対するダメージとはなりにくいから、怨恨による犯行とは考えられない。

(三) 原告ら及び原告ら関連会社並びに原告役員らの不審火歴

(1)  原告らは、従前、別紙火災事件一覧表のとおり、原告和光鋼業が五件、原告大和工業が二件火災に遭遇し、保険金を取得し、あるいは保険金支払をめぐり係争中である。

原告和光銅業及び原告大和工業の代表取締役はともに酒寄紀子であるが、その実質的経営者は酒寄紀子の配偶者である酒寄守である。

本件被災建物は、所有者である原告和光鋼業から原告大和工業が賃借し、ロッカーの類の最終仕上げ・配送センター・倉庫として使用しているものであり、茨城物流センターと呼ばれている。茨城物流センターの所長である藤本光明の身分は、原告和光鋼業から原告大和工業に出向という形になっている。

(2)  酒寄守が代表取締役として経営の中核を担い、酒寄紀子が監査役などとして経営に関与していたダイワ工業は、昭和五四年、昭和六二年、平成元年の三回火災事故に遭遇し、保険金を取得している。

(3)  酒寄守、紀子夫妻が経営に参画していたジャソックも、平成四年に火災事故に遭遇し、係争中である。

(4)  酒寄守、紀子夫妻が経営を担ってきたダイコーも、平成四年に火災事故に遭遇し、係争中である。

(5)  酒寄三兄弟の長男酒寄誠は、昭和五九年まで三男酒寄守とともに原告和光鋼業の取締役であったところ、両名は同時に和光ボウルの経営にも関与していたが、和光ボウルは、二回の火災事故に遭遇し、保険金を取得している。

(6)  酒寄三兄弟の次男酒寄勲は、昭和五二年まで酒寄守とともに原告和光鋼業の取締役であったところ、その実質的経営にかかるワークスは、平成七年に火災事故に遭遇し、係争中である。

(7)  本件火災後である平成一〇年一一月一日午前九時二六分、原告大和工業の第五工場において、次いで、平成一一年二月一日、同原告の工場で火災事故が発生した。

(四) 原告らの防火対策

原告らにおいては、再三にわたる消防署からの指導にもかかわらず、有効な防火対策がとられていない。原告らの異常な火災発生率をあわせ考慮すれば、本件を含めた一連の火災が原告らによって招致された火災であるといわざるを得ない。

(五) 原告らの事故後の対応

(1)  被告は、原告ら代理人弁護士による書面に基づく保険金請求に対し、被告において免責を通知するとともに、本件のような火災事故については十分な調査が必要であることを説明したところ、原告らからは特段の応答はなかった。

(2)  しかるに、原告らは、全日本同和会なる者に交渉を委任し、被告に対し、面談・架電による保険金請求を執拗に行ってきた。

(六) 動機について

原告和光鋼業は、別紙「借入金と返済」表の通り、平成九年七月の時点で各金融機関に対し合計約六七億円もの巨額の借入金残高が存在し、そのほとんどが今もって返済されていない状況にある。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1は認める。同2の冒頭部分は争う。

2  同(一)(1) のうち、出火場所が同一であること、煙や煤による被害が生じたこと、ロッカー・ロッカー部品に損害が生じたことは、いずれも認める。同(2) は否認する。本件火災の原因は不明であり、漏電による出火や従業員の火の不始末による出火の可能性も否定できない。

3  同(二)は否認する。倉庫内には人が通ることが可能な程度の隙間が空いており、ここから人間が出入りすることも可能であった。よって、部外者も本件建物に放火できる状況にあった。

4  同(三)(1) のうち、別紙火災事件一覧表記載の日時に火災事故が発生したこと及び同記載の保険金が支払われたこと、原告らの代表者が酒寄紀子であること、酒寄紀子の配偶者が酒寄守であること、酒寄守が、酒寄重郎、酒寄志つの三男であること、藤本光明が原告和光鋼業から同大和工業への出向社員であることは、いずれも認める。同(2) のうち、酒寄守が、ダイワ工業の代表取締役であり、酒寄紀子が同社の監査役をしていた事実並びに火災事故及び保険金支払の事実は認める。同(3) 及び(4) は、いずれも認める。同(5) のうち、酒寄誠が原告和光鋼業の取締役であった事実、火災事故及び保険金支払の各事実は認める。同(6) のうち、酒寄勲が原告和光鋼業の取締役であった事実は認め、その余は不知。同(7) は認める。

5  同(四)は否認する。

6  同(五)(1) は認める。同(2) のうち、原告らが被告主張の者に交渉を委任した事実は認める。

7  同(六)の事実は認めるが、これが放火の動機であるとの主張は否認する。

理由

一  請求原因1、2、4及び3のうち本件火災発生の事実は、いずれも当事者間に争いがない。

二  そこで、被告の抗弁(故意による免責)につき判断する。

1  本件各保険契約は、火災保険普通保険約款が適用される契約であり、同約款二条一項(1) 号には、保険契約者、被保険者又はこれらの者の法定代理人(保険契約者又は被保険者が法人であるときは、その理事、取締役又は法人の業務を執行するその他の機関)の故意によって生じた損害に対しては、保険金を支払わない旨の規約(免責約款)があることは、当事者間に争いがない。

2  免責約款適用の有無について

(一)  本件火災の状況及び出火原因等

(1)  証拠(甲二一の1、二二、乙一一の1ないし15、一六、三一、三二の1、2、三五、証人藤本光明)によれば、次の各事実が認められる。

本件建物においては、原告大和工業の春日部工場で製造したコインロッカーにキーを取り付け、鍵の調整をし、完成品を保管する業務を行っており、当時、所長の藤本光明を含めて三名の従業員が本件建物で働いていた。

本件建物のうちのA棟は、鉄骨造スレート葺平家建、床はコンクリート平打ちとなっており、A棟内の南側仕切壁沿いの中央以西に、鉄骨プレハブ平家建ての事務所が基礎なしでコンクリート平打ちに直接建てられていた。右事務所内には、事務机、ファクシミリ、電話、タイムカードレコーダー、冷蔵庫、ガスストーブ、クーラー等があった。また、B棟には、石油ストーブがあった。D棟南側部分には、壁のない部分をベニヤ板で塞いでいる部分があったが、そこから人の進入が可能であった。

藤本は、帰宅の際、冷蔵庫、タイムカードレコーダー、ファクシミリ、電話以外は、ブレーカーを切り、たばこの吸い殻や灰を表にあるドラム缶のところに捨て、ガスストーブの元栓を閉めていた。

藤本らは、本件火災当日、午後五時三〇分ころ作業を終え、全員が午後六時三〇分頃には帰宅した。藤本は、帰りがけに倉庫全体のブレーカーを切り、たばこの吸い殻を外のドラム缶に捨て、ガスの元栓を閉めて、事務所出入り口の鍵をかけずに、倉庫自体の鍵をかけて帰宅した。なお、事務所内にあったガスストーブは午後から使用していなかった。また、藤本は、石油ストーブと石油ストーブ用のポリタンクを事務所から出して、それぞれ別な場所のロッカーの陰に隠すようにしておいた。

本件火災の状況については、A棟は事務所のあった場所を中心に床三二・四平方メートル、屋根三四五・七六平方メートルの部分焼失であるが、事務所は全焼していること、倉庫は事務所南側のスレート壁及び事務所直上を中心に東、北、南側へ放射状に屋根が焼け落ちていることから、出火場所はA棟内の事務所と認められる。また、B棟側組立作業所付近、スレート壁直近が別の出火場所と推定された。

本件火災直後の実況見分時においては、事務所内床面の電気配線等の顕著な溶融痕は発見できず、油臭も確認できなかった。また、事務所専用分電盤は焼け変形なく、冷蔵庫、タイムカードレコーダー、電話交換機のノンヒューズブレーカーが「入」の状態で、他の電気回路は「切」の状態であった。石油ストーブとポリタンクは、罹災前とその位置、灯油量に変化がなかった。

消防署は、確証がないため出火原因は不明としているが、たばこの不始末、暖房器具の使用放置、電気機器及び配線などの短絡、絶縁劣化の可能性は極めて低く、本件各建物の戸締まり状況から外部の者の侵入が容易であることから、放火の可能性が高いと考えている。

被告は、本件火災後の同年五月一九日、現場の焼残物を採取し、株式会社分析センターがパージ・トラップ濃縮ーガスクロマトグラフ質量分析法を用いて、可燃性液体が存在する可能性につき調査したところ、プレハブ事務所跡の工場内仕切壁など四カ所から灯油成分に類似する可燃性液体が検出された。

なお、本件火災の約二か月前である平成九年二月八日ころにも、本件事務所内の石油ストーブの周囲の床が焦げ、スイッチのある部分が焦げるという事件が発生した。右事件は、事務所に侵入した者による放火らしき状況であった。

本件建物は、国道二九四号線沿いの交差点に位置し、その敷地北側は自動車販売会社店舗及びヨシの草原に隣接し、東側もヨシの生い茂る広大な草地となっていて、本件建物の東方約五〇メートルの所には五棟の住宅が存在する。南側には、道路をはさんで自動車修理販売業者の店舗が存し、西側は右国道に接している。本件建物付近の交通量は、国道に面しているため、昼間の通行量は多いものの、夜間には減少し、更に西南北側近隣は、事務所、店舗のため、夜間は無人化し、東方の住宅とも離れているため、夜間に他人に目撃されることなく、建物に出入りすることが容易な環境にある。

(2)  以上の事実、ことに、本件建物内の通電は、特に負荷のかかる状態ではなく、電気配線、分電盤等に漏電の痕跡はなかったことからすると、漏電は考えにくいこと、ガスストーブ及び石油ストーブの使用状況及び退社時の片づけの状況からすると、暖房器具の使用放置による出火も考えられないこと、たばこの火も藤本が本件建物外へ処分したことからして、たばこの火の不始末による出火も考え難いこと、本件建物は外部の者の侵入が容易であり、本件火災の約二か月前にも同一場所で放火らしき事件が発生していること、出火場所の焼残物から灯油成分に類似する可燃性液体が検出されたことなどの諸事情を総合考慮すると、本件火災の出火原因は、失火によるものではなく、何者かによる放火であると推認するのが相当である。

(3)  これに対し、原告らは、本件火災が漏電等による出火や火の元の不始末による出火の可能性も否定できないと主張するが、これらを裏付ける積極的な証拠はないし、消防署も、断定は避けているものの、たばこの不始末、暖房器具の使用放置、電気機器及び配線などの短絡、絶縁劣化の可能性は極めて低く、放火の可能性が高いと判断しているのであるから、原告らの右主張は採用できない。

(二)  罹災品の申告内容について

証拠(乙三五、証人内川清志)によれば、原告らは、本件火災に先立つ平成七年七月一二日発生の火災の際、スチールロッカー六六八台、木製ロッカー一〇五台、計七七三台が罹災し、常磐企画に廃棄処分を依頼したとして常磐企画からの請求書を三井海上に提出していること、右常磐企画の請求書の体裁は、当時、常磐企画が使用していたものとは体裁が異なること、常磐企画の代表者は、ロッカーの処分及び請求書の発行につき、記憶がない旨供述していること、仮に常磐企画がその処分を請負ったとすれば、その廃棄処分を金井産業ないし石崎鉄工所に下請させているところ、その関係者は、いずれもロッカーの廃棄処分を依頼された記憶はない旨を供述していること、以上の事実が認められる。

他方、証人酒寄守は、平成七年七月一二日発生の火災の罹災品処分について、となみ重量運輸センターに依頼したと証言し、原告らはスチールロッカー六六八台、木製ロッカー一〇五台、計七七三台の廃棄処分代金の記載されたとなみ重量運輸センター作成の請求書を甲二大号証の一として提出している。なお、となみ重量運輸センターは罹災物件である本件建物の二階に事務所を設けている。しかし、右供述及び請求書は、前回罹災時に三井海上に提出された書類と矛盾するし、証拠(証人内川清志)によれば、となみ重量連輸センターの代表者は、ロッカー何十台かを廃棄物として処分したにすぎない旨を供述しているのであって、この事実とも矛盾する。

そうすると、前回火災時のロッカーは、大半が処分されずに存置され、本件火災時にも本件建物内に存在していた疑いが強く、原告らは、罹災品につき虚偽の申告をしている可能性が高い。

(三)  原告会社の経済的困窮

原告和光鋼業は、別紙「借入金と返済」表の通り、平成九年七月の時点で各金融機関に対し合計約六七億円もの巨額の借入金残高が存在し、そのほとんどが今もって返済されていない状況にある(争いがない)。また、証拠(甲二一の1、乙一六、三四の1ないし4、証人酒寄守)及び弁論の全趣旨によれば、原告和光鋼業は、銀行以外のいわゆるノンバンクからも、一〇〇億円を超える借入れを行い、不動産投資を行ったが、バブルの崩壊や巨額の株式投資(最大五〇億円)の失敗により、各金融機関等に対し、巨額の借入金残高が存在し、現在、そのほとんどが返済されていない状況にあること、酒寄守は、平成七年一二月、債権者マルヨシ鋼業から破産の申立てを受け、平成八年三月二二日、東京地裁において、破産宣告を受けたが、その負債総額は、約二五〇億円であることが認められる。右事実によれば、原告和光鋼業の営業利益から右借入金を返済していくことは、到底不可能な状況にあるというべきである。

(四)  原告ら及び原告関連会社における火災の連続性

原告ら及びその関連会社においては、別紙火災事件一覧表記載の日時に、実に一四件もの火災事故が発生し、同表番号1、2、4、5、6、7、9の七件につき保険金が支払われている(争いがない)。

火災原因については、同表1の原因は公式には不明で、同表2については、不審者によるたばこの火の不始末とされているが、酒寄誠は、いずれも同人と酒寄守との共謀による放火であると供述している(甲二八、乙一四の5、7、一五、二八)。同表3については、原因不明とされている(乙一四の4、二八、証人酒寄守)。同表4は、コンセントの短絡による火災と推定されているが、詳細は不明である(乙一四の3、二八、証人酒寄守)。同表5は、塗装ブース解体作業中の失火である(乙二八、証人酒寄守)。同表6は、事務所荒らしの犯人による放火とされているが、詳細は不明である(乙一四の2、二八、証人酒寄守)。同表7は、当時原告和光鋼業所有の家を賃借していた者が天ぷら鍋を火にかけて外出したところ、出火したものである(乙二八、証人酒寄守)。同表8は、原因は不明であるが、その手口から何者かの放火による可能性が高い(乙二八、証人酒寄守)。同表9は、原因不明であるが、冷蔵庫からの漏電による可能性が高い(乙一四の6、一六、二八、証人酒寄守)。同表10は、原因不明であるが、不審火であり、何者かによる放火の可能性が高い(乙二八、証人酒寄守)。同表11の契約当事者である株式会社ワークスは、酒寄守と敵対する酒寄勲が代表を務めており、原告らとは関係が薄い(乙二八、四四)。同表13は、原因不明であるが、工場は操業しておらず、電気は止められていたし、人の出入りもなかったのであるから、放火の可能性が高い(乙二〇の1、四一、証人酒寄守)。同表14は、操業停止中の工場内にダンボールを敷き、灯油をまき、ビニール袋に入れたシンナーを置き、布を巻き付けた松明様のもので火をつけたもので、明らかに放火事件である(乙三三、四二)。

以上のように、本件以外で原告関連会社の建物が何者かによって放火されたものないしその可能性が高いものは、1、2、3、6、8、10、13及び14の合計八件も存在する。また、原告大和工業に関する最近の火災をみると、平成七年七月一二日(同表9)、同年八月一五日(同表10)、平成九年四月一八日(同表12、本件火災)、平成一〇年一一月一日(同表13)、平成一一年二月一日(同表14)と、短期間の間に五件もの火災が発生し、そのうち四件は不審火ないし放火の疑いがあるのは、いかにも不自然である。

このような状況から、原告らの工場の近辺では、かなり前から保険金目当ての会社だという風評が立っていた(乙一四の7、三五)。また、本件火災の第一発見者は、原告大和工業の火事をこれまでに二度ほど見てきたので、またか、という感想を抱いたと供述している(乙一一の8)。

耐火金庫やロッカーを保管する倉庫は、通常の操業状態及び防火態勢にあれば、その保管物の性質上、火災は発生しにくいと思われるにもかかわらず、同表のように火災が連続して発生しているだけでも不自然であるのに、原因が放火と疑われる火災が多数あることは、火災保険金めあての不審火ないし放火である可能性が高い。

(五)  防火対策

原告らは、平成六年一二月一五日以来、再三にわたり消防署から屋内消火栓、自動火災報知器、誘導標識等の消防用設備を設置すること、消化器の本数を増加すること、倉庫の外壁を合板で応急的に修理してある部分を不燃材料にすることなどの指導を受けたが、工場責任者である藤本に対し、具体的な防災対策についての指示を全く行わず、本件火災の約二月前の放火らしき事件の後に、藤本から報告を受けたにもかかわらず、何らの指示も行わず、火災事件当日に倉庫壁の合板の隙間を応急的に塞いだのみであった(乙一二号の1ないし4、証人藤本光明)。また、原告らは、本件建物において、平成七年七月、本件火災と同様A棟プレハブ事務所から出火して本件火災とほぼ同様の商品被害を受けていたにもかかわらず(別紙火災事件一覧表9)、ロッカーなどの商品の保管場所をD棟やE棟等、より安全で事務所から出火しても被災しにくい場所に移動していない(乙一六)。

なお、藤本は自分の判断で、消化器を増やし、本件火災の二月又は三月前の放火らしき事件の後に石油ストーブ及びその燃料用ポリタンクを事務所の外の別な場所に保管することにしていた(甲二二、乙一六、証人藤本光明)。

このような、原告らの防火体勢についての無関心ともいうべき態度は、火災事故が頻発している会社の経営者のとる行動としては、極めて不自然、不合理である。

(六)  酒寄誠及び勲の供述

酒寄誠は、酒寄守が放火犯人である旨の文書を多数の取引先の社長に送付したことによる名誉毀損事件で起訴され(水戸地方裁判所土浦支部平成二年(わ)第五三号)、被告人質問において、酒寄守と保険金詐取のために、酒寄守と共同でボーリング場(別紙火災事件一覧表1の事件)及びメゾン新宿(同2の事件)に火をつけた旨を供述している(甲一一、二八、乙一四の7、一八、三五)。なお、酒寄誠は、右刑事事件で有罪判決を受けたが、同判決は、摘示事実の真実性については、判断していない(甲一一)。

また、酒寄勲は、同表11に関連する保険金請求事件(当庁平成八年(ワ)第七一〇〇号事件)における証人尋問において、昭和五四年ころ、酒寄守が事業が苦しくなったら「かちかち山」をやれば保険金が出るからいいよという趣旨の発言をしていたと供述している(乙三五、四四、証人内川清志)。

これに対し、原告らは、酒寄誠及び酒寄勲と酒寄守は、会社の経営を巡って骨肉の争いを繰り広げていたこと、それに関連する訴訟が多数発生している状態にあったことから、酒寄誠及び酒寄勲の前記供述には、全く信用性がない旨主張する。

しかし、酒寄誠の供述内容は、会話内容、放火の手段、アリバイ工作など、具体的で詳細であり、これは酒寄守を陥れるために作り上げたものというよりも、真実を語っていると考えるのが素直であるから、その信用性は高いものというべきであり、また、酒寄勲の供述内容にも特段不自然な点は存しないのであって、十分信用に値するものということができる。

以上の事実からすると、酒寄守は、以前、火災保険金を不正取得したことがあり、その後も火災保険金の不正取得によりさらに金員を得ようと企てていたことが推認できる。

(七)  事故後の原告らの対応

原告らは当初、代理人弁護士を通じて保険金の請求を行ったが、被告も代理人弁護士を通じて書面をもって免責を通知した。ところが、原告らは、突然全日本同和会なる者に交渉を委任し、保険金請求を行った(争いがない)。

3  まとめ

そこで、本件各契約の保険約款上の免責事由の有無について判断するに、本件各契約は、いずれも平成八年七月から平成九年三月までの約八か月の間に次々と締結され、最後に締結された別紙保険目録七記載の保険(大和保険<4>)の締結の日からわずか一か月後に本件火災が発生していること、本件火災は、漏電等による出火や火の元の不始末による出火の可能性は極めて低く、何者かによる放火であると推認されること、本件建物の所在場所、人通り、周囲の状況などの客観状況からして、無関係な第三者による放火であるとは考えられないこと(証人酒寄守は、同人がダイワ工業を倒産させたことから、個人についても債務保証したマルヨシ鋼業から破産の申立てを受けるなど、従業員や債権者から恨みをかっているため、嫌がらせを受けているのではないかと推測している旨を供述するが、このような事情は、放火に結びつくほどの強い動機と認めることはできないし、まして、たび重なる火災事故の動機となるとは思われない。)、一方、原告ら及びその関連会社においては、過去に多数の火災が発生しており、その中の相当数が不審火ないし放火によるものであること、酒寄守は、原告ら会社の経営に行き詰まっていたものであり、過去にも多数回にわたり、多額の火災保険金を取得して急場を乗り切った経験があることからすれば、火災を起こして保険金を取得することにつき十分な動機が認められること(この点につき、原告らは、本件火災における保険金程度の金額では、到底巨額の負債をしのげるものではなく、本件火災の事故招致の動機とならないと主張するが、いかに現在の債務額が巨額であるとしても、原告らが本件において請求している保険金額は、二億三〇〇〇万円余りであり、二億円を超える保険金が即時に入手できるのと、そうでないのでは、原告らの経営状態に格段の変化が生ずるから、原告らの経営が極めて困難な状況にあったことは、保険金を得ることの十分な動機足り得る。)、原告らは罹災商品について虚偽の書類を提出している疑いが強く、再三の火災にも関わらず、十分な防火対策をとろうとしていないことに鑑みれば、火災に乗じて損害以上の保険金を取得しようとしている意図すら推認できること、酒寄守の実兄の一人が酒寄守とともに放火したことを自身の刑事被告事件の公判廷で供述し、別の実兄は、別件の民事事件の法廷において、事業が苦しくなったら「かちかち山」をやれば保険金が出るからいいよという趣旨の発言を酒寄守がしていたと供述していることなどの諸事情に照らすと、本件火災における放火の実行者並びにその具体的機序は不明であるものの、本件火災は、酒寄守が本保険金を取得する意図の下に、自ら又はその意を受けた者を介して、灯油類似の可燃性液体を使用して、本件建物内の事務所に放火したため惹起されたものと認めるのが相当である。

そして、酒寄守は、本件各契約時ないし本件火災発生時の原告らの取締役ではないが、本件各契約直前までは代表取締役であったこと、現在の代表者は同人の妻であるものの、実質的な経営権は依然として酒寄守が掌握しており、会長と呼ばれていることなどの諸事情を勘案すれば、原告らの業務を執行する機関と同一の立場にある者であり、したがって、火災保険普通保険約款二条1項(1) 号所定の「法人の業務を執行するその他の機関」に該当するものと解するのが相当である。

そうすると、被告は、火災保険普通保険約款二条一項(1) 号により、原告らに対して保険金支払義務を負わないものというべきである。

したがって、被告の抗弁はすべて理由がある。

三  よって、原告らの請求は、その余の点を判断するまでもなく、理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について民訴法六五条一項本文、六一条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 小磯武男)

物件目録

一 (別紙図面A棟)

1 所在 結城郡千代川村大字田下字時ケ田参八番地弐、同参八番地壱、同参八番地参、同参八番地四、同参七番地壱、同参七番地弐、同参九番地、同参九番地壱

2 家屋番号 参八番弐の弐

3 種類 倉庫

4 構造 鉄骨造スレ-ト葺平家建

5 床面積 六四弐・参九平方メートル

二 (別紙図面B棟)

1 所在 結城郡千代川村大字田下字時ケ田参八番地弐、同参八番地壱、、同参八番地参、同参八番地四、同参七番地弐、同参九番地、同参九番地壱

2 家屋番号 参八番弐

3 種類 倉庫

4 構造 鉄骨造スレ-ト葺平家建

5 床面積 八〇五・九八平方メートル

三 (別紙図面C棟)

1 所在 結城郡千代川村大字田下字時ケ田参八番地弐、同参八番地参、同参八番地四、同参九番地、同参九番地壱

2 家屋番号 参八番弐の参

3 種類 倉庫

4 構造 鉄骨造亜鉛メッキ鋼板葺高床式平家建

5 床面積 二参二・五〇平方メートル

(現況) 五六九・七四平方メートル

四 (別紙図面D棟)

1 所在 下妻市大字小島字前島九壱八番地

2 家屋番号 九壱八番

3 種類 倉庫

4 構造 鉄骨造スレ-ト葺平家建

5 床面積 壱弐六七・参壱平方メートル

五 (別紙図面E棟)

1 所在 下妻市大字小島字前島九壱七番地、同九壱八番地

2 家屋番号 九壱七番

3 種類 倉庫

4 構造 鉄骨造スレ-ト葺平家建

5 床面積 八四六・七壱平方メートル

保険目録

一 和光保険<1>

証券番号 一九六一三〇二〇四二九

保険の種類 普通火災保険

保険の目的 建物

保険の目的の所在地 茨城県結城郡千代川村田下時ヶ田三八の二、同三八の二の二

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(外壁) スレート

(屋根) スレート 地上一階

(用法) 作業場

(面積) 一戸 一四四八・三七平方メートル

(構造級別) 二級

(職作業) 普通品

(基礎工事) 含まず

(畳・建具・造作) 含む

(門・塀) 含む

(物置・車庫) 含む

契約日 平成八年八月二二日

保険期間 平成八年八月二四日から平成九年八月二四日まで

保険金額 五〇〇〇万円

保険料 六万七五〇〇円

二 和光保険<2>

証券番号 一九六一三〇二〇五〇〇

保険の種類 普通火災保険

保険の目的 建物

保険の目的の所在地 茨城県結城郡千代川村大字田下字時ヶ田三八の二の三

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレ-ト 地上一階

(用法) 作業場

(面積) 一戸 六五〇平方メートル

(構造級別) 二級

(職作業) 青写真焼付工場

(基礎工事) 含まず

(畳・建具・造作) 含む

(門・塀) 含む

契約日 平成八年九月一三日

保険期間 平成八年九月一七日から平成九年九月一七日まで

保険金額 四五五〇万円

保険料 六万一四三〇円

三 和光保険<3>

証券番号 一九六一三〇二〇八三九

保険の種類 店舗総合保険

保険の目的 建物

保険の目的の所在地 茨城県結城郡千代川村田下時ヶ田三八の二、同三八の二の二

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレート

(用法) 作業場

(面積) 一戸 一四四八・三七平方メートル

(構造級別) 二級

(職作業) 金属工場(ロ)、(ハ)

(基礎工事) 含まず

(畳・建具・造作) 含む

(門・塀) 含む

(物置・車庫) 含む

契約日 平成九年一月二一日

保険期間 平成九年一月二一日から平成一〇年一月二一日まで

保険金額 六〇〇〇万円

保険料 九万三〇〇〇円

四 大和保険<1>

証券番号 一九六一三〇二〇五一〇

保険の種類 店舗総合保険

保険の目的 商品一式

保険の目的の所在地 茨城県下妻市小島字前島九一七、同九一八

茨城県結城郡千代川村大字田下字時ケ田三八の二、同三八の二の二、同三八の二の三

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレート 地上一階

(用法) その他

(面積) 専有延面積     三七九四・八九平方メートル

建物全体の延床面積 三七九四・八九平方メートル

(構造級別) 二級

(職作業) 普通品

契約日 平成八年九月二〇日

保険期間 平成八年九月二四日から平成九年九月二四日まで

保険金額 一億円

保険料 一八万二〇〇〇円

五 大和保険<2>

証券番号 一九六一三〇二〇五一一

保険の種類 店舗総合保険

保険の目的 什器・備品一式

保険の目的の所在地 茨城県下妻市小島字前島九一七、同九一八

茨城県結城郡千代川村大字田下字時ケ田三八の二、同三八の二の二、同三八の二の三

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレート 地下二階

(用法) その他

(構造級別) 二級

契約日 平成八年九月二〇日

保険期間 平成八年九月二四日から平成九年九月二四日まで

保険金額 五〇〇万円

保険料 八〇〇〇円

六 大和保険<3>

証券番号 一九六一三〇二〇七〇五

保険の種類 店舗総合保険

対象物 商品一式

保険の目的の所在地 茨城県下妻市小島字前島九一七、九一八

茨城県結城郡千代川村大字田下字時ケ田三八の二、同三八の二の二、同三八の二の三

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレート 地上一階

(用法) 倉庫

(面積) 専有延面積     三七九四・八九平方メートル

建物全体の延床面積 三七九四・八九平方メートル

(構造級別) 二級

(職作業) 普通品

契約日 平成八年一一月一八日

保険期間 平成八年一一月一八日から平成九年一一月一八日まで

保険金額 五〇〇〇万円

保険料 九万一〇〇〇円

七 大和保険<4>

証券番号 一九六一三〇二一〇一五

保険の種類 店舗総合保険

保険の目的 商品・製品等一式

保険の目的の所在地 茨城県下妻市小島字前島九一七、九一八

茨城県結城郡千代川村大字田下字時ケ田三八の二、同三八の二の二、同三八の二の三

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(柱) 鉄骨

(外壁) スレート

(屋根) スレート 地上一階

(面積) 全体 三七九四・八九平方メートル

専有 三七九四・八九平方メートル

(構造級別) 二級

契約日 平成九年三月一九日

保険期間 平成九年三月三〇日から平成一〇年三月三〇日まで

保険金額 一億円

保険料 一八万二〇〇〇円

八 大和保険<5>

証券番号 一九六一三〇二〇三八二

保険の種類 利益保険

保険の目的の所在地 東京都文京区湯島二丁目三一番二五号

保険の目的およびこれを収容する建物の構造・用法・面積・級別等

(用法) 工場

(構造級別) 二級

(職作業) 金属機械器具製造

約定方式 てん補期間 六か月

付保項目 営業利益・全経常費

契約日 平成八年七月一二日

保険期間 平成八年七月一三日から平成九年七月一三日まで

保険金額 九億円

保険料 六六万六〇〇〇円

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