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東京地方裁判所 平成10年(ワ)22581号 決定 2000年1月27日

東京都千代田区日本橋茅場町2丁目16番1号

申立人

山一證券株式会社破産管財人

松嶋英機

《住所略》

原告

乙山和夫

《住所略》

被告

行平次雄

《住所略》

被告

三木淳夫

《住所略》

被告

石原仁

《住所略》

被告

白石信一

《住所略》

被告

白井隆二

《住所略》

被告

沓澤龍彦

《住所略》

被告

佐藤清明

《住所略》

被告

渡辺正俊

主文

申立人に対して本件訴訟手続を受継することを認める。

理由

第一  本件申立ての要旨

原告乙山和夫は、山一證券株式会社(以下「山一證券」という。)の株主として同社の取締役であった被告らの責任を追及する株主代表訴訟を提起したが、訴えの提起後、山一證券は破産を宣告され、申立人が山一證券の破産管財人に選任された。

本件申立ては、本件株主代表訴訟において、申立人が原告の地位の受継を申し立てたものである。

第二  被告白井隆二の異議の要旨

一  株主代表訴訟の継続中に会社が破産した場合、当該訴訟は中断し、破産管財人が受継すると解することには理論的な難点がある。

民事訴訟法125条1項は、当事者の破産による訴訟の中断について定めるが、同条項の「当事者」とは形式的当事者を指すと解すべきである。したがって、株主代表訴訟における会社は形式的当事者ではないので、会社が破産しても同条項によって株主代表訴訟が中断することはない。

当事者以外の破産の場合でも中断を認める破産法86条があるが、同条は民事訴訟法125条1項の例外として限定的に認められた規定と解すべきであり、債権者取消訴訟以外の場合に破産法86条を類推適用することはできない。

二  破産管財人が株主の地位を受継することには実質的にも難点がある。

株主が提起した代表訴訟に会社が共同訴訟参加又は補助参加した場合、会社が破産すると破産管財人が受継するのは会社の地位であって株主の地位ではない。会社と株主が異なる訴訟活動をしていれば、破産管財人が受継するのは会社が行ってきた訴訟行為のみである。にもかかわらず、たまたま会社が原告株主に共同訴訟参加又は補助参加をしていなければ、破産管財人が株主代表訴訟における株主の地位を受継すると解するのは不合理である。

三  以上のとおり、株主代表訴訟の係属中に会社が破産した場合、当該訴訟は中断し、破産管財人が受継すると解することはできない。よって、本件申立ては却下されるべきである。

第三  当裁判所の判断

一  株主代表訴訟は、取締役の責任追及の実効性を確保するため、株主が会社に代位して取締役に対する損害賠償請求権を行使するものであり、債権者代位訴訟とその性質を同じくする訴訟である。

ところで、債権者代位訴訟は、債権者が債務者の第三債務者に対する権利について管理処分権を行使するものであるところ、破産手続の開始後は、破産管財人が総債権者の利益を代表して破産財団の保全、回復にあたることが予定されているものであり、破産者の債権者や株主との関係においても、破産財団の管理処分権は破産管財人が専有するところ、破産財団に属する権利を行使する債権者代位訴訟の原告は、債務者の破産により代位行使している当該権利に対する管理処分権を喪失して当該訴訟にかかる当事者適格を喪失すると解するのが相当である。

次に、原告が当事者適格を喪失した後に破産管財人が訴訟を受継することが認められるべきか、訴訟は当然に終了するかが問題となる。この点、前述のとおり破産管財人は債権者代位訴訟の訴訟物の処分権者であり当該訴訟を継続させるかどうかの判断は、その時点における当該訴訟の状況等を考慮した上での破産管財人の判断に委ねるのが相当なこと、破産管財人が新訴を提起するよりも破産管財人の受継を認める方が訴訟経済に資するといえる面もあることから、債権者代位訴訟において、債務者が破産した場合には、民事訴訟法125条1項、破産法86条1項の準用により中断し、破産管財人においてこれを受継できると解することが相当である。

右に述べたところは、債権者代位訴訟とその性質を同じくする株主代表訴訟にも当てはまるものであるところであり、したがって、株主代表訴訟の訴訟追行中において、会社が破産した場合、当該損害賠償請求権は破産財団に属する権利であるから、会社の破産によって訴訟は中断し、破産管財人においてこれを受継することができると解すべきである。

二  被告白井の破産法86条1項の準用についての主張は前記説示に照らせば採用できない。

また、被告白井は、株主代表訴訟に会社が参加した場合で株主と会社が異なる訴訟活動をしていた場合を例に挙げて、破産管財人による受継が不合理と主張するが、複数の訴訟関係人の地位を単一の訴訟関係人が承継することも民事訴訟法の予定するところであり、破産管財人が株主代表訴訟における原告株主と会社の双方の地位を承継することは、双方の主張に相違があったとしても何ら支障がなく、さらには、株主代表訴訟は、破産者である会社以外の者が提起した訴訟であり、原告株主が会社のために最善の訴訟追行を行う保障がないことを考慮すると、同訴訟については、会社が破産した場合でも破産管財人が受継を強制されず、当該訴訟における原告である株主の地位を承継することが不利な場合は、破産管財人は受継を行わず別訴訟を提起することも許されると解することが相当であるから、同被告の主張は失当である。

三  よって、主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 菅原雄二 裁判官 中山顕裕 裁判官 松山昇平)

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