東京地方裁判所 平成10年(ワ)23176号 判決
原告 甲野春子
被告 リンサクライ株式会社
右代表者代表取締役 福井健一
被告 ドクターサクライコスメディック株式会社
右代表者代表取締役 福井健一
右二名訴訟代理人弁護士 辻佳宏
同 辻希
被告 株式会社西武百貨店
右代表者代表取締役 米谷浩
右訴訟代理人弁護士 原後山治
同 三宅弘
同 近藤卓史
同 長沢美智子
同 高英毅
同 杉山真一
主文
一 原告の請求をいずれも棄却する。
二 訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第一請求
被告らは、原告に対し、連帯して金六六〇万一六八四円及びこれに対する平成七年七月六日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
本件は、被告株式会社西武百貨店(以下「被告西武」という)渋谷店において、被告ドクターサクライコスメディック株式会社(以下「被告ドクターサクライ」という。)が製造し、被告リンサクライ株式会社(以下「被告リンサクライ」といい、被告ドクターサクライと合せて「被告リンサクライら」という。)が発売している化粧品を購入した原告が、右化粧品を使用したことにより、その顔面などに接触性皮膚炎を生じたので、右化粧品に指示・警告上の欠陥が存在したなどと主張して、被告リンサクライらに対しては、製造物責任法又は不法行為による損害賠償請求権に基づき、被告西武に対しては、不法行為又は債務不履行による損害賠償請求権に基づき、いずれも治療費等六六〇万一六八四円及び右化粧品使用後である平成七年七月六日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
一 前提事実
1 原告の職業等
原告は、昭和三三年一〇月六日生まれの女性であるが、平成七年ころ、高崎市に在住し、東京都中央区日本橋三丁目二番六号所在の画廊ギャラリー白百合(以下「ギャラリー白百合」という。)において、企画室長として画家や美術評論家等との対外的な交流や営業に従事していた(甲一五、原告本人)。
2 化粧品の購入
原告は、平成七年七月初めころ、被告西武渋谷店において、製造元被告ドクターサクライ、発売元被告リンサクライの化粧品アクアファンデーション(以下「本件化粧品」という。)を購入した(甲一五、二〇の一四、一五、乙四の一、二、原告本人)。
3 聖路加国際病院での診断
原告は、平成八年一月一二日、使用する化粧品を本件化粧品などに変更した平成七年七月ころから、顔面に紅斑、掻痒が現れ、挫瘡の悪化があった(以下「本件皮膚障害」という。)として、聖路加国際病院皮膚科において診察を受けた。原告を診察した同科の石原佐知子医師(以下「石原医師」という。)は、接触性皮膚炎の疑いがあるとして、本件化粧品を含む化粧品類の使用を中止させたところ、紅斑、掻痒は軽快した。石原医師は、同月一六日、本件化粧品、本件化粧品の改良品と称する化粧品(同月一五日に被告西武渋谷店婦人雑貨部化粧品係長北條輝善(以下「北條」という。)から原告に渡されたもので、以下「本件改良品」という。)及び白色ワセリンを用いて、原告の上腕にてパッチテストを実施したところ、同月一八日、本件化粧品と本件改良品について、陽性反応が出た。同月二四日、今度は、別紙記載の原告が使用している化粧品、シャンプー、石けんなどと一般の化粧品に含まれることの多い化粧品成分三〇品目を用いて、原告の背中でパッチテスト(以下同月一六日に実施したパッチテストと合せて「本件パッチテスト」という。)を実施したが、いずれも陰性であった。同月二五日、石原医師は、本件皮膚障害が接触性皮膚炎で、本件化粧品が顔面の皮疹の増悪因子の一つであると診断した。(甲一の一、三、四、甲一五)
4 本件化粧品の外箱及び容器の記載
原告が購入した本件化粧品の外箱及び容器には、「お肌に合わないときはご使用をおやめ下さい」との文言(以下「本件注意文言」という。)が記載され、また、外箱には、「ニキビ・脂性肌・敏感肌の方に お肌に負担のないノンオイルタイプ」との文言(以下「本件ノンオイル文言」という。)が記載されていた(甲二〇の一四、一五、乙四の一、二、原告本人)。
5 パンフレット
(一)(1) 原告が本件化粧品を購入した際、被告リンサクライは、同社の商品を紹介するパンフレット(以下「本件総合パンフレット」という。)を発行していたが、右パンフレット中の本件化粧品が載っているぺージには、本件化粧品を紹介する際の見出しとして、「敏感なお肌の方でも安心です」との文言(以下「本件敏感肌文言」という。)の記載があった(甲二の二、乙一)。
(2) 原告は、平成八年三月一一日、東京都衛生局薬務部薬事衛生課医薬品審査係中村宛に、本件化粧品の成分表及び本件総合パンフレットとともに、本件化粧品について「パンフレットにノンオイルと表示してあり、対面販売員もノンオイルと説明したのに、実際には成分の一つにホホバ油を使用している」、「パンフレットに本件敏感肌文言があり、対面販売員及び本社営業員からも同様の説明があって、その旨信用し、使い続けたが、強度の接触性皮膚炎を発症した」旨の手紙(以下「本件手紙」という。)を差し出した(甲二の二)。
(3) 右手紙を受け取った東京都衛生局薬務部薬事衛生課監視指導係は、同月一九日及び同月二五日、被告リンサクライを呼んで、本件総合パンフレットの不適事項の改善を指示した。同年五月二四日には、被告リンサクライが改定案を持参して東京都庁に来たが、右係はさらに指摘事項について訂正するように指示し、同年六月二四日、被告リンサクライは、右指摘事項について改正した案を持参して東京都庁に行った。(甲二の一)
(4) 平成九年四月三日、東京都衛生局薬務部薬事衛生課監視指導係から原告に対し、被告リンサクライにより改訂された本件総合パンフレット(以下「本件総合パンフレット改訂版」という。)が届けられた。右パンフレットでは、本件敏感肌文言が「皮膚呼吸を妨げないメイクです」という表現に変えられたほか多数の変更箇所があり、裏表紙に本件総合パンフレットにはなかった左記の注意書き(以下「本件注意書き」という。)が記載されていた。(甲三の七、八、乙一)
記
・化粧品がお肌に合わないとき即ち次のような場合には、使用を中止してください。そのまま化粧品類の使用を続けますと、症状を悪化させることがありますので、皮膚科専門医等にご相談されることをおすすめします。
(1) 使用中、赤味、はれ、かゆみ、刺激等の異常があらわれた場合
(2) 使用したお肌に、直射日光があたって上記のような異常があらわれた場合
・傷やはれもの、しっしん等、異常のある部位にはお使いにならないでください。
・目に入った場合、すぐに洗い流して下さい。
・保管及び取扱い上の注意
(1) いつも清潔な手指で製品をお使いください。
(2) 使用後は必ずしっかり蓋をしめてください。
(3) いったん手に取った化粧品は容器にもどさないでください。
(4) 乳幼児の手の届かないところに保管してください。
(5) 極端に高温又は低温の場所、直射日光の当たる場所には保管しないでください。
(6) 開封後、長時間放置してからの再使用はおやめください。
(二) 被告リンサクライは、同社の商品のコンセプトを説明するパンフレット(以下「本件会社説明パンフレット」という。)を発行していたが、右パンフレットには、「recipe by Linn Sakurai」との見出しのもと、同社の創始者である桜井麟医学博士(以下「桜井博士」という。)について、「リンサクライの創始者、桜井麟医学博士は、一九四〇年皮フ科、整形外科の診療所を開設後、美容整形の分野に進出。その高い評価は国内外に知られ、マリリンモンローをはじめ多くの国際スターや社交界の人々の治療を手がけ、一九六一年、米国美容整形外科学会の名誉会員に選ばれました。そして一九七〇年、桜井麟医学博士の美容理念に基づき、現在の化粧水、その他の自然化粧品の開発に成功し、リンサクライ化粧品を発売しました。」との記載(以下「本件医師開発説明」という。)及び桜井博士の肖像写真がある(甲三の一)。
6 日本化粧品工業連合会の「化粧品の使用上の注意事項の表示自主基準」
(一) 昭和五二年一二月二二日に改正された日本化粧品工業連合会が定める「化粧品の使用上の注意事項の表示自主基準」(以下「本件自主基準」という。)では、本件化粧品のような皮膚に適用する化粧品について、左記のような注意事項を表示するものとされ、右基準は昭和五三年一月五日薬発第二号をもって厚生省薬務局長から、これに添って指導するよう各都道府県知事宛に通知された(甲一八の二、甲二○の一三の<1>)。
記
(1) 容器又は外箱に表示する注意事項(以下「本件第一注意事項」という。)
お肌に合わないときは、ご使用をおやめください。
(2) 添附文書等に表示する注意事項(以下「本件第二注意事項」という。)
<1> 化粧品がお肌に合わないとき、即ち次のような場合には、使用を中止してください。そのまま化粧品類の使用を続けますと、症状を悪化させることがありますので、皮膚科専門医等にご相談されることをおすすめします。
i 使用中、赤味、はれ、かゆみ、刺激等の異常があらわれた場合
ii 使用したお肌に、直射日光があたって上記のような異常があらわれた場合
<2> 傷やはれもの、しっしん等、異常のある部位にはお使いにならないでください。
<3> 爪に異常のあるときは、お使いにならないでください。
<4>i 目に入ったときは、直ちに洗い流してください。
ii 目の周囲を避けてお使いください。
iii 直射日光のあたるお肌につけますと、まれにかぶれたり、シミになることがありますので、ご注意ください。
(3) 本件第一注意事項を表示することがスペース的に困難な製品については、容器又は外箱への表示を省略して差し支えないが、この場合には、特に本件第二注意事項の表示を徹底する。
商品に本件第二注意事項を記載した文書を添附することが困難な場合は、本件第二注意事項を記載した文書、パンフレット等を販売時に購入者に手渡すような方策を講じる。容器又は外箱に本件第二注意事項を表示したものについては、添附文書等への本件第二注意事項の表示を省略してもよい。本件第一、第二注意事項以外に、さらに詳しく注意事項を追加補足することは差し支えない。
(二) 昭和五三年二月二四日付日本化粧品工業連合会「化粧品の使用上の注意事項の表示自主基準の解釈通知(一号)」では、容器又は外箱に本件第二注意事項を表示して添附文書等への本件第二注意事項の表示を省略する場合、表示面積の関係上、多少の字句を短縮をすることはやむを得ないが、その場合においても、本件第一、第二注意事項の趣旨を伝えるため、本件化粧品のような皮膚に適用する化粧品については、左記のような表示例と同様か、これより詳しい表示をしなければならないとされている(甲二〇の一三の<2>)。
記
(1) 傷、はれもの、湿疹等、異常のある時は、使わないで下さい。
(2) 使用中、又は使用後日光にあたって、赤味、はれ、かゆみ、刺激等の異常が現われた時は、使用を中止し、皮膚科専門医等へご相談をおすすめします。そのまま化粧品類の使用を続けますと悪化することが あります。
(三) 平成七年三月八日付日本化粧品工業連合会「化粧品の使用上の注意事項の表示自主基準の解釈」では、注意事項の表示事例として左記のように記載されている(甲二〇の一三の<2>)。
記
(1) 添付文書のある場合の表示
容器又は外箱に本件第一注意事項、添付文書に本件第二注意事項の表示を基本とする。どうしても止むを得ない場合は、各企業が自己責任においてその製品特性、過去の苦情内容、件数等を勘案して「禁止表現」のみとすることも可とする。
(2) 本件化粧品のような皮膚に適用する化粧品で外箱のある場合の表示例
外箱又は直接容器に次のような表示をする。なお、表示面積の狭いものは直接容器に本件第一注意事項を表示することでよい。
〔事例一〕 本件第二注意事項
〔事例二〕<1> 傷、はれもの、湿疹等、異常のある時は使わないで下さい。
<2> 使用中、又は使用後日光にあたって、赤味、はれ、かゆみ、刺激等の異常が現われた時は、使用を中止し、皮膚科専門医等へご相談をおすすめします。そのまま化粧品類の使用を続けますと悪化することがあります。
〔事例三〕<1> 傷、湿疹等肌に異常のある時は使用しないこと。
<2> 使用中、赤味、はれ、かゆみ、刺激等の異常が出たら、使用を中止し、皮膚科専門医等へ相談すること。そのまま使用を続けると症状が悪化することがある。
7 本件化粧品又は本件化粧品を含む被告リンサクライらの化粧品に関する苦情・相談
(一) 本件化粧品は、昭和六二年三月から発売が開始され、これまでに約六万二〇〇〇本が販売されているが、被告リンサクライが把握している本件化粧品に関する苦情は、原告の件を含めて四件(被告リンサクライら代表者は、三件と供述するが、平成九年一二月一〇日付の商品トラブル報告書(乙三の二)に記載されている件を含めれば四件である。)であった。原告の件を除く右苦情の内容は次のとおりである。(乙三の一、二、被告リンサクライら代表者)
(1) 被告西武高知店で本件化粧品を購入した顧客が、平成八年五月三〇日、かゆみが出たとして苦情を申し出てきたので、被告リンサクライは顧客からの返品に応じた。
(2) 東武百貨店池袋店で本件化粧品を購入した顧客が、平成九年一二月一〇日、肌に合わないとして本件化粧品を同店に返品し、被告リンサクライはこれに応じた。
(3) 自らがアレルギー体質であることを店頭で申告している顧客が、それでも本件化粧品を購入したいとのことであったので、被告リンサクライの販売員から一度テストしてから使用して欲しいという説明をしたうえで販売した。ただ、その際、右顧客は、使用してみて問題があった場合には返品をさせてもらいたいと申し出ており、被告リンサクライもそれを了承していた。その後、右顧客から、皮膚に発疹が出たということで、返品の申し出があったので、被告リンサクライは返品、返金に応じた。
(二) 被告西武において各店舗の「お客様相談室」で管理している「相談カード」で判明する限りでは、被告西武渋谷店については、昭和五八年三月から、同所沢店については平成五年三月から、同有楽町店、同宇都宮店及び同高知店については平成七年三月から、同池袋店については平成八年三月から、それぞれ平成一一年七月六日までの間に取り扱った被告リンサクライらの化粧品に関する苦情は、被告渋谷店における原告の件のみであった(丙一)。
(三) 平成元年四月一日以降、全国の消費生活センター及び国民生活センターが受け付け、平成一一年五月二七日までに全国消費生活情報ネットワークシステムに入力された相談データをもとに、コンピューターで集計した結果によると、被告リンサクライらの化粧品に関する相談の件数は、平成五年度に一件、平成七年度に一件、平成八年度に一件、合計三件であり、その相談内容の分類別及び相談内容中のキーワード別の件数は、次のとおりであり、本件化粧品の相談と分かるものはなかった(甲一九)。
(1) 相談内容分類別件数(ただし、延べ件数)
安全・衛生 二件
品質・機能・役務品質 二件
契約・解約 二件
接客対応 二件
(2) 相談内容中のキーワード別件数(ただし、延べ件数)
皮膚障害 三件
クレーム処理 二件
解約 二件
拡大損害 一件
強引 一件
紹介販売 一件
表示 一件
補償 一件
二 争点
1 本件皮膚障害は、本件化粧品の使用によって生じたものか。
(原告の主張)
(一) 本件化粧品使用後の経過
原告は、本件化粧品を購入して使用したところ、非常なかゆみと痛みを生じ、顔一面赤く爛れてしまったので、平成七年七月五日、栃木県小山市所在の苅部医院において、同医院の苅部知郎医師(以下「苅部医師」という。)の診察を受けた。苅部医師は、原告に、左手を同医師の方へ差し出し、指と指を大きく開いて制止するように指示し、次に右手も同様にするように指示した。原告がそのとおりにすると、苅部医師は、微妙ながら指がふるえることを指摘した。そして、苅部医師は、原告の手首の脈をとるようにし、脈の流れを静かに指の腹で感じ取るようにした。その後、苅部医師は、原告の血圧を測定し、顔面の状態を観察してから、原告に対し、アトピー性皮膚炎である旨告げた。
苅部医院での初診時、原告は、苅部医師に対し、本件化粧品が本件皮膚障害の原因ではないかと尋ねたところ、同医師がその可能性を否定したので、後述するように本件化粧品の安全性を信頼していたこともあって、その後も、一週間のうち一日から二日程度、本件化粧品を使用し続けた。
同年一二月九日朝、原告が本件化粧品を使用した直後、顔面が赤く丘状にふくれ、かゆみが広がっていったので、原告は、本件化粧品が本件皮膚障害の原因であることを確信した。
そして、本件パッチテストの結果、本件化粧品及び本件改良品のみ陽性反応を示したのであるから、本件化粧品を使用したことにより、本件皮膚障害が発生したことは明らかである。
(二) 苅部医院の原告の診療録(以下「本件診療録」という。)について
本件診療録には、苅部医院での初診時、原告が苅部医師に対し、一五年前より顔面の発疹や痒疹のために高崎病院や東京女子医大の皮膚科に通っていたこと、二、三年間は、東京の上目黒の皮膚科にアトピー性皮膚炎、真菌症で治療を受けていたことが記載され、苅部医師も同様の証言をしているが、原告が本件皮膚障害が発生する以前に長年皮膚障害に悩んだということはなく、それは国立高崎病院や東京女子医科大学病院への調査嘱託に対し、右病院らがいずれも原告の受診歴を否定していることからも明らかである。
苅部医師は、被告リンサクライら代理人と結託して本件診療録をねつ造したとしか考えられない。
(被告リンサクライらの反論)
本件パッチテストの結果からは、原告が本件化粧品に対して陽性反応を示したことが分かるだけで、本件皮膚障害の原因が生活上接触する他の物質による場合やアトピー性皮膚炎によるものである可能性もあり、本件皮膚障害が本件化粧品の使用によって生じたとまで認定し得るものではない。
本件診療録によれば、苅部医院での初診時、原告は、一五年前から顔面の発疹や痒疹のために高崎病院や東京女子医大の皮膚科に行っていたこと、最近二、三年は上目黒の皮膚科でアトピー性皮膚炎と真菌症の混合の症状として軟膏を処方されていることを述べているし、自ら問診票(以下「本件問診票」という。)にアトピー性皮膚炎であること及びアレルギーがあることを記載しており、原告が長年皮膚の症状に悩んでおり、本件化粧品と関係なく、皮膚の状態は相当悪かったことが窺われ、本件化粧品を使用してから皮膚障害が発生したとは考えられない。
原告は、苅部医師が本件診療録をねつ造したものと主張するが、虚偽の事実を証言したり、診療録をねつ造するなどの医師にとって命取りになりかねない重大な違法行為を苅部医師があえて行う利益は全くない。
また、本件皮膚障害は、本件化粧品を使用した顔面だけではなく、広く上半身に及ぶものであるとのことであるが、顔面にだけ塗布した化粧品によって上半身に接触性皮膚炎が生ずるとは考えにくいから、本件皮膚障害は、本件化粧品以外の生活要因によるアレルギーである可能性の方が高い。
2 本件化粧品の指示・警告上の欠陥の有無、被告リンサクライらの不法行為責任の成否
(原告の主張)
(一) 原告が本件化粧品を購入したときの状況
原告が本件化粧品を購入した際、被告西武渋谷店の被告リンサクライ化粧品売場の陳列棚には被告リンサクライの化粧品は皮膚科医が作ったものだから安全である旨の表示(以下「本件安全表示」という。)があったうえ、右売場の女性販売員が、原告に対し、「被告リンサクライのファンデーションは敏感肌用ですから、敏感肌の方でも安心してお使いいただけます。医師が作った化粧品なので安心です。」と本件化粧品を薦めてきた(以下右「医師が作った化粧品なので安心です。」との説明部分を「本件安心説明」という。)。さらに、原告は、右売場に店頭販売用として置いてあった本件総合パンフレット中の本件敏感肌文言を見て、さらに、右販売員から手渡された本件会社説明パンフレット中の本件医師開発説明を見たので、敏感な肌に使用しても安心であると確信して本件化粧品を購入した。
(二) 本件注意文言について
本件化粧品の外箱及び容器には本件注意文言が記載されているが、本件注意文言の、「お肌に合わないとき」とは、製品の手触り、匂い、付け心地などの使用感から、「個人の嗜好を満足させない」という意味にも解することができ、原告も、本件化粧品を購入した際、本件化粧品の安全性の高さを過大に信じていたためもあって、右文言をそのように理解していた。これは、「合わない」という言葉の意味が、製品の使用感からくる個人の嗜好についての判断を意味するのか、製品を使用したことによる皮膚障害の発生の有無についての判断を意味するのかが曖昧であることに起因するものであり、誤解を防ぐためには本件注意書きのような記載をすべきであった。現に、被告リンサクライは、東京都の指導を受けて、本件総合パンフレットに本件注意書きを載せるようになったのであり、本件自主基準によれば、本件注意文言の他に製品の使用及び取扱い上の注意書きを添附文書又は容器、外箱のいずれかに記載すべきであった。したがって、本件注意文言は、本件化粧品の使用及び取扱い上の注意とはいえないから、被告リンサクライらは薬事法六二条、五二条に違反している。
(三) 本件敏感肌文言、本件安全表示、本件安心説明等について
本件総合パンフレットの本件敏感肌文言及び本件化粧品の外箱の本件ノンオイル文言は、本件化粧品の安全性について誇大な表示をすることにより消費者に過大な信頼を持たせるものであるから、薬事法六二条、五四条に違反するものである。このことは、東京都の行政指導により、被告リンサクライが本件総合パンフレットから本件敏感肌文言を削除したことからも明らかである。
また、本件安全表示、本件安心説明及び本件医師開発説明は、消費者に対し、本件化粧品が医薬品と同様に、医師により、同時代の皮膚医学の研究成果を基にこれを臨床医学的に検証し、人の皮膚に対する安全性を確認された結果、製造されたものとの印象を与えるものであり、消費者を欺く誇大広告に他ならず、薬事法六六条に違反する。
(四) 本件化粧品の指示・警告上の欠陥及び被告リンサクライらの不法行為責任
製造業者は、製品の設計・製造・出荷にあたり、その安全性の確保につき高度の注意義務を負うものであるところ、化粧品は、一般的に皮膚障害を発症させる危険性の高い製品(皮膚障害を発症させ得る化学物質を含んでおり、また、微生物による汚染も生じ得る。)であり、皮膚障害が発生することは予見し得るのであるから、一般人が化粧品を使用する際、化粧品による被害が発生する危険性を事前に認識でき、最大限これを回避する方法及び緊急措置を理解し、対応できるような明確な表示をすべき義務が化粧品メーカーにはあるというべきである。そして、被告リンサクライらには、同社の製品に適切な指示・警告を製品本体、包装及び製品パンフレットなどに記載すべき注意義務があり、従業員、販売員も同様に適切な指示・警告をすべきものであった。
しかるに、被告リンサクライらは、本件化粧品によって皮膚障害が発生する危険性について何ら情報を伝えず、本件化粧品の容器、外箱、パンフレット等に指示・警告を表示することもなく、かえって、本件敏感肌文言、本件ノンオイル文言、本件安全表示、本件安心説明及び本件医師開発説明により、本件化粧品の安全性の高さを強調、誇示し、最高度の安全性を保証することによって、原告が本件化粧品を購入し、使用するにあたり、本件化粧品の安全性を過大に信頼させた。したがって、被告リンサクライらは、製造業者として安全性確保義務を怠っているから、不法行為責任(共同不法行為)を負うとともに、本件化粧品は通常有すべき安全性を欠いているから、製造物責任法上の責任をも負う。
(被告リンサクライらの反論)
(一) 原告が本件化粧品を購入した際、被告西武渋谷店の被告リンサクライ化粧品売場の陳列棚に本件安全表示があり、女性販売員が本件安心説明をし、本件医師開発説明の記載された本件会社説明パンフレットを手渡したとの原告の主張はいずれも否認する。
被告リンサクライは、原告が本件化粧品を購入した平成七年よりも前に、医師を前面に押し出すような印象を持たれかねない本件医師開発説明を念のため止めることとし、本件会社説明パンフレットよりもグレードアップした総合パンフレット(本件総合パンフレットと同様のもの)の発行と併せて、本件会社説明パンフレットを化粧品販売の現場から自主的に回収した。被告リンサクライは、直営店四店と被告西武の一部に自社の販売員を置いており、被告西武渋谷店も自社の販売員を置いている店舗であったところ(原告に本件化粧品を薦めた販売員は、上岡という被告リンサクライの従業員であった。)、被告西武渋谷店で本件会社説明パンフレットの回収が及んでいないということはあり得ないから、被告西武渋谷店に本件会社説明パンフレットがあることは考えられないし、本件医師開発説明と同じく医師を前面に出すような印象を持たれかねない本件安全表示がなされたり、本件安心説明がなされることはあり得ない。
本件会社説明パンフレットが原告の手元にあるのは、原告からの苦情を受けた北條が原告のところに説明のため持参した資料の中に過去の資料である本件会社説明パンフレットがあったためにすぎない。
また、本件総合パンフレットについては、原告の強硬な苦情申立てに苦慮した東京都から好ましくない表現であるという指摘を数か所受け、より好ましい表現に変えたものにすぎず、その記載内容が薬事法上違反していたということはない。
(二)(1) 製造物責任法における指示・警告とは、製造物が構造上有する潜在的な危険を回避するために必要な説明のことであり、その欠陥とは、危険回避のために必要な情報に誤りがあったり、伝えるべき情報を伝えていないこと(不作為による義務違反)であるところ、本件敏感肌文言、本件ノンオイル文言、本件安全表示、本件安心説明及び本件医師開発説明は、いずれも危険回避のための必要な情報にはあたらないから、製造物責任法上の指示・警告上の欠陥にはあたらない。
(2) 化粧品について製造者が予想する危険は、まず、ある程度頻度の高い拒絶反応であるが、これについては厚生省が省令でアレルギー因子となりうる物質(アレルゲン)を約百個指定し、これに該当する成分(以下「指定成分」という。)は表示を義務付けられており(アレルギーを自覚している者は、医師などの指示により、自分が避けるべきアレルゲンを認識していることを前提に、消費者の商品選択を助けるために表示する。)、本件化粧品でもその表示を行っており、本件化粧品ではパラペン(パラオキシ安息香酸エステル)が該当するのでこれが外箱に表示してある。
これに対し、指定成分ではない何かに反応する使用者の未知の危険に対しては予想ができないので、具体的に警告することは不可能であるが、「何か」があり得るという可能性はあるので、薬事法上、化粧品には、外箱か本体に「ご使用になってお肌に合わないときは使用を中止して下さい」との表示をすることが義務付けられている。
そもそも、化粧品は、人体に対する作用が緩和なものであるうえ、さまざまな手段により高度の安全性が確保されており、この点において、医薬品とは異なり、予想できる危険は排除してあるという前提から、事前の危険排除策としては指定成分の表示くらいしかあり得ない。本件注意文言は、いったん使用することを前提としているが、稀な特異体質の消費者についてはこの段階で危険を回避してもらうしか方法がない。
したがって、本件化粧品では外箱と容器に本件注意文言が記載されているから、指示・警告義務を果たしており、その結果、本件化粧品は通常期待される安全性を有している。
(3) なお、被告ドクターサクライは製造者であり、被告リンサクライは販売者であるところ、本件敏感肌文言、本件ノンオイル文言、本件安全表示、本件安心説明及び本件医師開発説明は被告リンサクライの責任範囲である。
3 被告西武の不法行為責任又は債務不履行責任の成否
(原告の主張)
被告西武は、被告リンサクライの化粧品の販売に関し、被告リンサクライらと共同で販売員の教育、管理を行うことによって販売促進の方策を追求していたものであり、本件化粧品に添付書がなく、その容器及び外箱に使用上及び取扱い上の注意書きを具体的に記載した指示・警告を欠き、薬事法に抵触する販売方法であることを認識しながら、本件化粧品を原告に販売するにあたり、売場に本件安全表示をし、本件敏感肌文言のある本件総合パンフレットを使用し、販売員により本件安心説明を行っていた。
したがって、被告西武は、被告リンサクライらと共同して、本件化粧品の安全性を確保するという販売者としての注意義務を懈怠しており、故意の不法行為責任を負うものであるし、本件化粧品を原告に販売したことにより、民法上の債務不履行責任を負うものである。
(被告西武の反論)
(一) 本件化粧品に欠陥が存在しないことについては、被告リンサクライらの主張を援用する。
(二) 被告西武渋谷店における被告西武と被告リンサクライとの契約関係は、被告リンサクライが被告西武渋谷店の一階の特定の区画に出店して商品を販売し(店頭で販売に従事しているのは、被告リンサクライから派遣された従業員であって、被告西武の従業員ではない。)、現実に被告リンサクライが顧客に商品を売るのと同時に被告西武が被告リンサクライから商品を買い、被告西武が顧客に商品を売ったことにするというものである(このような取引を「消化仕入」又は「売上仕入」という。)。原告に本件化粧品を現実に売り渡したのも被告リンサクライの従業員である。
本件化粧品を販売した当時、被告リンサクライの化粧品売場に本件安全表示は存在しなかったし、また被告リンサクライの化粧品について、事故が頻発しているという事情もない状況において、本件化粧品の流通過程に関与したにすぎない被告西武に、被告リンサクライの従業員による顧客に対する個々具体的な販売行為についての危険まで予見し、これを回避する注意義務は存在しない。
したがって、被告西武に不法行為責任及び債務不履行責任が成立することはない。
4 原告の被った損害
(原告の主張)
原告は、次のとおり、本件化粧品による皮膚障害により、合計六六〇万一六八四円の損害を被った。
(一) 治療費等
(1) 病院治療費及び通院交通費 三六万〇四二○円
(2) 温泉治療費及び交通費 七九万一二六五円
原告は苅部医師に温泉治療を勧められたのであり、石原医師も本件皮膚障害の治療に温泉治療が必要であることを認めているから、右温泉治療費及び交通費は損害に含まれる。
(二) 慰謝料 四九三万五〇〇〇円
(三) 逸失利益 五一万四九九九円
原告は、本件皮膚障害により、ギャラリー白百合における業務に支障が生じ、平成九年一二月末日をもって解雇された。したがって、平成一○年一月から同年六月までの六か月分の得べかりし給与を逸失利益として請求する。
(被告リンサクライらの反論)
(一) 原告の主張は争う。
(二) 温泉治療費について
一般に温泉の効用は明らかでなく、有効な治療としての必要性が認められない。本件においては医師の指示がなく、かつ、症状の推移、治癒の経過も不明であり、治療としての効果、有益性は全く不明である。
(三) 過失相殺
化粧品は、いかに低刺激のものにするよう努めても、万人に対して絶対に安全であるということはありえないうえ、何に反応する人がいるのかは予想もできないことであるから、化粧品を一、二回使って肌に合わないときに使用をやめてもらうことが唯一の回避策であり、これは周知の事実である。特に敏感肌を自認する消費者やアレルギーがあるかもしれないと心配する消費者は、顔一面に化粧品を塗る前に二の腕の内側など目立たないが反応は敏感な部分に試し塗りをしてみて様子を見るという使い方をするものである。
しかるに、原告は、本件化粧品の使用直後に異常を感じているのだから、本件化粧品が自分に合わないという判断を行うのが当然であり、これを超えて使用継続したというのは無謀使用としかいいようがなく、原告に重大な過失があることは明らかである。
(被告西武の反論)
原告の主張は争う。
第三判断
一 争点1(本件皮膚障害は本件化粧品の使用によって生じたものか)について
1 事実経過
前記第二の一で認定した事実、甲一号証の二から四まで、二号証の二、三の一から七まで、一五号証、二〇号証の一、二、六、一〇、乙一、五号証、六号証の一、二、九号証、一一号証、証人苅部に対する書面尋問の結果、原告本人尋問及び被告リンサクライら代表者尋問の各結果並びに弁論の全趣旨によれば、原告が聖路加国際病院で診察を受けるまでの事実経過として、次の事実が認められる。
(一) 本件化粧品使用以前の状況
原告は、昭和五五年ころから、顔面の紅班、掻痒疹の症状が出ることがあり、皮膚科の診療を受けていた。苅部医院で診察を受ける前の二、三年は、東京の上目黒にある皮膚科でアトピー性皮膚炎及び真菌症(真菌の感染によって引き起こされる皮膚疾患)と診断され、抗真菌剤や軟膏などの処方を受けていた。
(二) 本件化粧品購入時の状況
原告は、平成七年七月初めころ、ファンデーションを求めて被告西武渋谷店一階の化粧品売場に行き、被告リンサクライ化粧品売場の陳列棚に並べられた本件化粧品の見本品を眺めていると、被告リンサクライの従業員で同売場の販売員であった上岡が近づいてきて、「リンサクライのファンデーションは敏感肌用ですから、敏感肌の方でも安心してお使いいただけます。」と説明して、本件化粧品を薦めてきた。原告が、右売場の棚に店頭販売用として置いてあった本件総合パンフレットを手に取って見ようとすると、上岡が本件化粧品を紹介するページを開いて、再び説明をした。原告が右ぺージを見ると、本件化粧品について、本件敏感肌文言が記載され、「ノンオイル水性ファンデーション」との記載もあった。
そこで、原告は、本件化粧品であれば、敏感な肌に使用しても安全であると考え、本件化粧品を購入した。なお、原告は、本件化粧品を購入してから、遅くともその使用を始めるまでには、外箱には本件注意文言が記載されていることに気付いていた。
(三) 苅部医院での診療
(1) 原告は、購入後、直ちに本件化粧品を毎日使い始めたが、そのうち、原告の顔面に赤疹が出てきて、かゆくなってきた。赤疹は原告の顔中に広がっていき、次第にただれとなっていった。
(2) そこで、原告は、平成七年七月五日、知人に紹介された栃木県小山市所在の苅部医院において診察を受けた。
原告は、苅部医院の受付で、本件問診票に、現在の主な症状として、「かゆみ、いたみ」と記載し、「アレルギーはありますか」の問いに対し、「ある」に○印をつけ、「今までに大きな病気にかかった事、又は現在治療中の病気がありましたら書いてください」との問いに対し、「しんきんしょう、アトピー性皮膚炎」との記載をして、これを提出した。
そして、原告は、まず、柴徳郎医師の問診を受け、顔面の紅斑と痛み及びかゆみの症状を訴えた。続いて、原告は、苅部医師の問診を受け、右(一)記載のこれまでの診療経過を述べるとともに、心窩部の痛みや、いらいらし、よく眠れず、立ちくらみが続いているとの症状を訴えた。
苅部医師は、原告の主訴や原告の甲状腺が軽度に腫大していることなどから、起立性低血圧症、自立神経失調症、うつ状態、胃炎、肝臓、、膵臓の疾患等を疑い、検尿、採血をし、生化学検査、甲状腺機能などの検査を施行した。
苅部医師は、原告の症状について、肉眼的所見からアトピー性皮膚炎、じん麻疹と、立ちくらみやいらいらが強いことから、起立性低血圧症、自律神経失調症と、原告の主訴からうつ状態、不眠と診断(その他に胃炎との診断もあるが、これがいかなる根拠によるものかは明らかでない。)し、トリルダン(アレルギー性疾患の治療薬)、ツムラ消風散(慢性の皮膚病治療薬)、コンベック(皮膚消炎鎮痛剤)、リズミック(低血圧性の薬)、グランダキシン(自律神経調整剤)、レスタス(精神安定剤)を処方した。
さらに、同月六日に生化学検査の結果として、硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)の数値が高い異常値を示しており、初診時に採血していた血液で同月一一日に施行した生化学検査でも、チモール混濁試験(TTT)の数値が高い異常値を示していることから、苅部医師は、原告を慢性肝炎と診断した。
(3) 同月一一日の診察で、原告は、苅部医師に対し、顔面の状態があまり改善されていないこと、いらいらがあり、立ちくらみ、不眠、頭痛が続いていることを訴えた。苅部医師は、原告に生化学検査の結果を伝えて慢性肝炎であることを説明し、また、血液検査の結果、白血球の種類の中で好酸球(EOSINO)の数値が一三パーセントと高値であったことから、アレルギー性の炎症が起こっていることを説明した。そして、苅部医師は、原告に対し、トリルダン、ツムラ消風散、リズミック、グランダキシン、レスリン(うつ病、うつ状態の治療薬)、レスタスを処方した。
(4) 同月二五日の診察で、原告は、苅部医師に対し、目のかゆみを訴えた。苅部医師は、原告に対し、トリルダン、ツムラ消風散、リズミック、ジヒデルゴット(起立性低血圧症、偏頭痛の治療薬)、レスリン、レスタス、ベナパスタ(抗ヒスタミン作用の外用薬で、アレルギー性疾患の治療薬)、インタール点眼薬(アレルギー性疾患の治療薬)を処方した。
(5) 同年八月八日の診察では、原告はかなり明るい状態になってきていたが、顔面の皮膚症状は改善されないでいた。苅部医師は、原告に対し、アイピーディ(アレルギー性疾患の治療薬)、ツムラ消風散、リズミック、ジヒデルゴット、グランダキシン、レスリン、レスタス、インタール点眼薬、ベナパスタを処方した。
(6) 同月二二日の診察で、苅部医師は、原告に対し、アイピーディー、ツムラ消風散、リズミック、ジヒデルゴルト、グランダキシン、レスリン、レスタス、インタール点眼薬を処方した。
(7) 同年九月五日の診察で、原告が、苅部医師に対し、便秘のため肛門が裂けて痛いと訴えたので、苅部医師は、便秘、裂肛と診断した。苅部医師は、原告に対し、アイピーディー、ツムラ消風散、リズミック、ジヒデルゴット、グランダキシン、レスリン、レスタス、コンベック、フォルセニッド(便秘の治療薬)、ボラザG(痔の治療薬)を処方した。
(8) 同月一九日の診察では、顔面の皮膚症状はやや増悪してきており、血圧がやや低かったので、苅部医師は自律神経失調症がまだ改善されていないと判断した。苅部医師は、原告に対し、アイピーディー、ツムラ消風散、リズミック、ジヒデルゴルト、グランダキシン、レスリン、レスタス、フォルセニッドを処方した。
(9) 原告は、右診察の後、一週間ほどは、苅部医院で処方されていた薬を服用していたが、その後は服用を止めていた。
(四) 再度の本件化粧品の使用
(1) 原告は、苅部医院を初めて訪れた同年七月五日から、しばらくの間、顔の症状がひどかったので、ギャラリー白百合に行くことを止め(自宅にて展覧会の案内状の考案や画廊の雑誌広告のデザインなどを行っていた。)、化粧もしなかった。
そして、原告は、同年八月下旬から同年九月にかけたころ、再び、週に二日程度、ギャラリー白百合に行くようになったので、化粧をするようになり、再び苅部医院で処方された薬を服用しながら、本件化粧品を使用し始めた。その後の原告の顔の皮膚症状は、赤疹が出ていたものの、薬を服用していたため、症状は緩和された状態で一進一退の経過をたどった。原告は、当時、対外的な営業に従事していたので、自分の顔の皮膚症状を目立たなくしようとして、何度も化粧直しをしていた。
(2) 同年一二月九日朝、原告が、ギャラリー白百合の地下の事務所で、本件化粧品を使用すると、間もなく顔面にかゆみを感じ、それから三〇分もするとかゆみとともに赤い丘疹が顔に広がり始めた。そこで、原告が、石けんで洗顔をすると、次第にかゆみがとれ、顔の赤みも広がらなくなって減っていった。
原告は、このとき、本件化粧品が自分の皮膚障害の原因であると考え、その日の午後に、自分の顔の状態を写真で撮影した。
2(一) 本件安全表示、本件安心説明及び本件会社説明パンフレットの有無
右lの認定事実のうち、本件化粧品購入時の状況の部分について、原告は、被告リンサクライの売場の陳列棚に本件安全表示及び本件医師開発説明の記載された本件会社説明パンフレットがあり、上岡が本件安心説明をした旨供述し、原告作成の陳述書(甲一五)にも同様の記載部分がある。
(二) これに対し、被告リンサクライら代表者は、平成五年に、被告リンサクライの直営店三店舗と販売員を被告リンサクライから派遣している六店舗から本件総合パンフレットをすべて回収しているうえ、店長会議の中で、被告リンサクライから派遣されている販売員に対して、医者、医師が特定の商品を推薦して保証するようなことを言って商品を販売してはならないという注意、指導をしていたから、被告リンサクライから販売員を派遣していた被告西武渋谷店において、本件安全表示や本件会社説明パンフレットがあったり、販売員が本件安心説明をすることはなく、本件会社説明パンフレットは北條が原告に渡したものである旨供述し、被告リンサクライら代表者作成の陳述書(乙九)にも同様の記載がある。
(三) この点について、甲八号証の六、七、一三、一四、二〇号証の一七、一八によれば、最近でも被告リンサクライらの化粧品が医師の作ったものであるとの説明のもとに売られている店舗があることが認められるから、原告が本件化粧品を購入した当時も、そのような説明がなされていた可能性はある。
しかし、真実、原告が本件会社説明パンフレットや本件安全表示などを信用して本件化粧品を購入したのであれば、それらの点も直ちに問題として指摘しているはずであるのに、甲二号証の二及び乙一号証によれば、原告は、本件手紙において、本件総合パンフレットの本件敏感肌文言及び「無鉱物油」、「無合成色素」の記載並びに販売員の本件敏感肌文言と同内容の説明及びノンオイルの説明を問題とするとともに本件総合パンフレットを同封しているが、本件会社説明パンフレットの中の本件医師開発説明、本件安全表示及び本件安心説明については全く触れておらず、本件会社説明パンフレットも同封していなかったことが認められる。
(四) 右(三)の事実から考えると、右(一)記載の原告の供述部分の信用性は低く、被告リンサクライら代表者が供述するとおり、東京都の職員である中村が、平成九年の正月に町田駅前の販売店にあった「リンサクライの化粧品は皮膚科医がつくったものですから安全です」との表示について、被告リンサクライを改善指導した旨原告に報告した(甲二の二)のをきっかけにして、原告が北條から受けとっていた本件会社説明パンフレットの本件医師開発説明を新たに問題にし始め、本件安全表示や本件安心説明があったとの主張もし始めたものと推認される。
(五) したがって、本件安全表示及び本件会社説明パンフレットが存在し、本件安心説明がなされたと認めることはできないし、仮に本件安全表示や本件会社説明パンフレットが存在していたとしても、それが原告の本件化粧品の購入の動機の一部となったとは認められない。
3(一) 原告の既往症の有無
右1の認定事実のうち、苅部医院での診察の部分について、原告は、<1>子供のころのあせも、思春期のころのにきび以外に皮膚に関して障害が生じたことがなく、本件診療録に記載されている「一五年前から顔面の紅潮や掻痒の症状が出て、高崎病院や東京女子医大で診療を受けたことがある、最近の二、三年は、東京の上目黒の皮膚科の診察を受けた」というような趣旨のことは苅部医師に話したことはない、<2>苅部医院での初診時に苅部医師に本件皮膚障害の原因は本件化粧品ではないかと尋ねたが、苅部医師はその可能性はないと否定したと供述し、原告本人作成の陳述書(甲一五)にも同様の記載部分がある。
(二) 原告の右供述のうち、高崎病院や東京女子医大で診療を受けたことはない旨の供述については、国立高崎病院及び東京女子医科大学病院に対する各調査嘱託の結果(甲二〇の三、四と同一)によれば、右供述どおり、原告は国立高崎病院及び東京女子医科大学病院で診療を受けたことはないことが認められる。しかし、右事実が認められるからといって、本件診療録の内容が信用できないものと解することはできない。前記l、(三)で認定したとおり、本件診療録には、各診察日における原告の症状、症状についての訴え、医師の診断と投薬等の処方が詳細に記載されており、医師が作成する診療録として、不自然なところはなく、本件全証拠によるも、苅部医師が本件診療録に虚偽記載をする動機は何ら認められない。また、原告は、本件問診票の回答を原告が記載したことについてはこれを認めている(原告本人)が、前記l、(三)、(2) で認定したとおり、「アレルギーはありますか」との問いに対して、「ある」に○印をつけ、「今までに大きな病気にかかった事、又は現在治療中の病気がありましたら書いてください」との問いに対して、「しんきんしょう、アトピー性皮膚炎」と記載しているのであるから、本件診療録の原告のそれまでの皮膚障害についての記載は、診療を受けた病院の中に高崎病院や東京女子医大があるとの部分を除けば、本件問診票の原告の回答にも合致するものである。したがって、右病院名は、原告が告げた病院名が正確なものでなかったために、苅部医師が著名な右病院と誤解して記載したか、原告自身が勘違い等の理由で右病院名を告げたかのいずれかであったものと推認され、右病院名が本件診療録に記載されている事実は、本件診療録の他の記載内容の信用性を失わせるものとは解されない。
(三) したがって、原告は、自ら本件問診票に記載し、また、本件診療録に記載されているように、苅部医院で診療を受ける前に長年にわたってアトピー性皮膚炎及び真菌症の症状を有し、いくつかの病院で診療を受けた経験を有していたものと認められる。苅部医院は、原告の居住していた群馬県高崎市ではなく、栃木県小山市に所在するが、原告が平成七年七月初めに本件皮膚障害が発生してから、遠方にあるにもかかわらず知人から紹介された苅部医院で診療を受けようと考えたのは、原告がそれまでも皮膚障害に悩まされていたことがあるためと考えられる。
4 苅部医院に対する本件化粧品使用の告知の有無
(一) 原告は、苅部医院での初診時、苅部医師に対し、本件化粧品が本件皮膚障害の原因ではないかと尋ねたところ、同医師がその可能性を否定した旨主張し、供述する(甲一五、原告本人)。
(二) しかし、本件診療録には、そのような記載は存在せず、苅部医師は、書面尋問に対し、化粧品が原因である可能性について同医師が答えたことはないと回答している。
(三) 先に判示したとおり、本件診療録には、各診察日における原告の症状、症状についての訴え、医師の診断と投薬等の処方が詳細に記載されており、仮に原告が苅部医師に対して本件化粧品が本件皮膚障害の原因ではないかと尋ねたのであれば、苅部医師は、本件化粧品がどのようなものであるのか、いつからどのように使用しているのかを尋ね、その問答の要点を本件診療録に記載しているはずであり、本件診療録に本件化粧品の使用についての記載が存しないのは、原告が本件化粧品の使用について苅部医師に告げていなかったためと考えられる。
(四) 第二の一、3で認定したとおり、本件パッチテストにおいては、本件化粧品以外の化粧品では陽性反応は出ておらず、原告は、過去において、化粧品によって皮膚障害が発生したという経験を有していなかった(原告本人)。したがって、原告は、苅部医院で診療を受ける際には、本件皮膚障害について、アトピー性皮膚炎及び真菌症の症状の悪化と思い、アトピー性皮膚炎及び真菌症の症状があることを本件問診票に記載し、苅部医師にも説明したものであり、本件化粧品の使用が本件皮膚障害の原因とは考えていなかったので、これを苅部医師に告げることはなかったものと考えられる。先に判示したとおり、原告は、平成七年七月に本件皮膚障害が発生してから、同年一二月九日まで、皮膚障害は治癒しないのに本件化粧品の使用を継続しており(ギャラリー白百合に出勤しなかった平成七年七月五日から同年八月下旬ころまでの期間を除く)、この事実も、原告が本件皮膚障害をアトピー性皮膚炎及び真菌症の症状の悪化と思い込んでいたことによるものと推認される。
(五) したがって、原告が苅部医師に対し、本件化粧品が本件皮膚障害の原因ではないかと尋ねたところ、同医師がその可能性を否定したので本件化粧品を使い続けた旨の原告の主張は採用できない。
5 本件皮膚障害と本件化粧品の使用との間の因果関係の有無
(一) これまで認定してきた事実、すなわち、<1>原告は、平成七年七月初めに本件化粧品を購入し、同月五日には、本件皮膚障害が発生したとして、遠方にあるにもかかわず、知人から紹介を受けた苅部医院を訪れていること、<2>原告は、本件皮膚障害発生後、二か月近くにわたって欠勤していること、 <3>本件化粧品を使用している間は、顔面の皮膚障害が持続していたが、本件化粧品の使用を止めると右皮膚障害の症状は軽快したこと、<4>本件パッチテストでは、本件化粧品だけが陽性を示し、その結果を踏まえて石原医師は、原告の顔面の皮膚障害について接触性皮膚炎と診断し、本件化粧品が顔面の皮疹の増悪因子の一つと判定していること、以上の事実によれば、本件皮膚障害(顔面の皮膚障害)の原因の全てが本件化粧品の使用によるものとはいえないとしても(後記(二)で判示するとおり、アトピー性皮膚炎や真菌症の症状も混在している可能性は否定できない。)、少なくとも、本件化粧品の使用は、顔面の皮疹の症状を発生させ、増悪させる因子の一つとして働いたものと認められる。
(二) 被告リンサクライらは、<1>本件皮膚障害は、アトピー性皮膚炎による可能性がある、<2>原告は顔面だけでなく上半身にも皮膚障害が及んでいるとして甲一号証の二を提出しているが、顔面にだけ塗布した化粧品によって上半身に接触性皮膚炎が生じるとは考えにくいと主張し、確かに、原告の既往症や苅部医師の診断、石原医師の判定から考えて、本件皮膚障害(顔面の皮膚障害)には、アトピー性皮膚炎や真菌症の症状も混在している可能性は否定できないし、上半身の皮膚障害は、平成七年一二月九日に撮影された写真では、首にはほとんど症状が見られないのに対し、本件化粧品の使用を中止した後である平成八年六月九日に撮影された写真では、首に多数の赤疹が見られることからしても、本件化粧品の使用とは関係のないアトピー性皮膚炎等の症状であることが推認されるが、右(一)で判示した限度で、本件化粧品の使用と本件皮膚障害(顔面の皮膚障害)との間に因果関係があることは否定できない。
二 争点2(本件化粧品の指示・警告上の欠陥の有無、被告リンサクライらの不法行為責任の成否)について
1 指示・警告上の欠陥の意義
(一) 製造物責任法は、「欠陥」とは、当該製造物の特性、その通常予見される使用形態、その製造業者等が当該製造物を引き渡した時期その他の当該製造物に係る事情(以下「考慮すべき諸事情」という。)を考慮して、当該製造物が通常有すべき安全性を欠いていることをいう旨規定している(同法二条二項)。したがって、本件化粧品についても、「通常有すべき」程度の安全性を欠くものであったか否かが問題となる。
(二) ところで、製造物によっては、医薬品のように、製造業者等がこれを設計・製造するに当たり、その安全性につき、いかに配慮しても、当該製造物に本質的に期待される有用性ないし効用との関係で、完全には危険性を除去して当該製造物を製造することが不可能又は著しく困難なものが存在する。そのような製造物については、設計ないし製造における観点からみると、製造物自体において通常有すべき安全性を欠いているとはただちにはいえないものの、そのまま販売して消費者の使用に供するのはふさわしくなく、製造業者等としては、消費者が右製造物を使用する際にその危険性が現実化するのを防止するために必要と考えられる適正な使用方法等に関して、適切な指示ないし警告をする義務を負っているものと解され、右のような指示ないし警告が全く行われていないか、行われていても不適切である場合は、設計上又は製造上欠陥があるとはいえなくても、当該製造物は通常有すべき安全性を欠いているものと評価するのが相当であり、このことを、原告が本件において「指示・警告上の欠陥」と主張しているものと解される(以下右のような意味で「指示・警告上の欠陥」という文言を用いる。)。
(三) なお、仮に、当該製造物に通常要求される指示・警告がなされていたとしても、他方で製造物の安全性について宣伝がなされている場合には、消費者に対して過度の信頼を与え、指示・警告の効果を弱めることになる可能性があるので、指示・警告の適否を判断する際には、右宣伝の有無、内容も総合考慮されなければならない。
2 製造物としての化粧品の性質、薬事法上の規制等
(一) 薬事法上、化粧品とは、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つために、身体に塗擦、散布その他これらに類する方法で使用することが目的とされている物で、人体に対する作用が緩和なものとされている(同法二条三項)。本件化粧品がファンデーションであり、右薬事法上の化粧品に該当することは当事者間に争いがない。なお、ファンデーションとは、(1) 皮膚を保護する、乾燥を防ぐ、(2) 日やけを防ぐ、(3) 日やけによるシミ、ソバカスを防ぐ効能を有するものとされている(薬事法施行通知第一の3、昭和四七年二月一四日薬発第一三〇号、昭和五五年一〇月九日薬発第一三四一号参照)。
(二) 化粧品に対する薬事法関係の規制についてみると、同法六一条四号は、厚生大臣の指定する成分を含有する化粧品にあっては、化粧品の容器又は被包にその名称を表示することを義務付け、これを受けて、厚生大臣は百種類の成分を指定している(昭和五五年九月二六日厚生省告示第一六七号)。同法六二条において化粧品に準用されている五二条一号は、化粧品の容器又は被包に用法、容量その他使用及び取扱い上の必要な注意を記載することを義務付け、同じく同法六二条において化粧品に準用されている五四条一号は、化粧品に関しては虚偽又は誤解を招く恐れのある事項をその化粧品又はその容器若しくは被包に記載することを禁止している。同法六六条一項は、化粧品の名称、製造方法、効能、効果又は性能に関して、明示的であると暗示的であるとを問わず、虚偽又は誇大な記事を広告し、記述し、又は流布することを禁止している。
(三) 化粧品と皮膚障害との関係について見ると、第一の一、6で認定した事実、甲一一号証の二、一三号証の二、六、八、一〇、一九、一八号証の一一、二〇号証の二一、二四、甲二一号証の二、乙二号証の一から一五まで及び乙九号証によれば、<1>化粧品使用の歴史は古く、使用された化粧品の種類は時代によって消長があるものの、需要は成長の一途をたどる一方で、化粧品による皮膚適用に関する障害事例の報告は跡を絶たないこと、<2>化粧品は、概ね基材原料として油脂類、保湿剤、溶剤、界面活性剤、粉体、高分子材料等、添加成分として防腐殺菌剤、色素、香料等により構成されているところ、個々の化学物質の種類によっては、刺激性あるいはアレルギー性接触皮膚炎の原因として指摘されたり(基材原料)、感作性や光過敏症例が認められたり(添加成分)しており、化粧品の安全性に関する研究も進められていること、<3>同時に、化粧品による皮膚障害は、使用頻度及び使用量に依存するところが大きいため、製品の安全性については、技術面に配慮するだけでは完全に達成することはできず、使用方法の誤りによる皮膚障害を防ぐためには、使用方法に関する正確な情報を消費者に提供することも重要な課題であるとされていること、<4>日本化粧品工業連合会でも、本件自主基準(昭和五二年一二月二二日に改正されたもの)において、本件第一、第二注意事項を表示すべきものと定め、昭和五三年及び平成七年には、本件自主基準について、詳しい解釈通知を出したこと、<5>近年、生活環境が変化する中で、肌の悩みを抱える成人が増加し、一九九〇年代になると、一九八〇年代の初期に比べて、自分の肌が敏感であると感じる者が大幅に増えてきたこと、<6>過去数十年、各種アレルギー疾患は一貫して増加していて、たとえば、アトピー性皮膚炎についてみれば、平成八年時点で二、三十年前に比べて約三倍に増えていること、<7>このため、敏感な肌にも向くような化粧品の需要が多くなっており、そのような状況下で、各化粧品会社は、ここ十数年来自然派をうたう、いわゆる自然化粧品のほか、皮膚科医等の専門家と提携するなどして、「敏感肌向け」をうたった化粧品を競って開発し、小売店でも店頭で積極的に敏感肌向け化粧品を販売し、一九九〇年代後半に入ってからは、毎年一〇パーセント前後敏感肌向け化粧品の売上を伸ばしていること、<8>その結果、現在では、各化粧品会社において、「敏感肌」、「低刺激」等の言葉が製品自体やカタログ等で頻繁に使用されるようになっていること、以上の事実が認められる。
(四) 以上によれば、化粧品は、人の身体を清潔にし、美化し、魅力を増し、容貌を変え、または皮膚若しくは毛髪をすこやかに保つという効用があり、近年その需要は増大しているが、その成分上、アレルギー反応による皮膚障害等の被害を発生させる危険性を内在したものであって、その使用による被害を防止するためには、適切な指示・警告が必要となる製造物であると認められる。そして、薬事法上指定成分の表示が義務付けられているのは、消費者がその表示を見て、医師からの情報等をもとに、アレルギー反応による皮膚障害を起こすおそれのある製品の使用を自ら避けることができるようにするためのものと解される。
3 本件化粧品についての指示・警告上の欠陥の有無
(一) 本件化粧品に内在する危険性とその認識
右2で認定した事実、乙九号証、被告リンサクライら代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、<1>化粧品は、様々な化学物質を含んでいて、もともとアレルギー反応を引き起こす危険性を内在しているものであり、しかも、どのような物質であっても、人によって、ごくまれにはアレルギー反応を引き起こす原因となり得るものであるから、少なくとも現時点において、誰一人アレルギー反応を引き起こすことのない成分の化粧品を作ることは不可能であること、<2>薬事法が指定成分の表示を義務づけているのも、アレルギー反応を引き起こす可能性のある物質が化粧品の成分の中に含まれることは避けられず、医師の診断等によって、特定の物質がアレルギー反応の原因であることが分かっている消費者は、成分表示によって、その物質が含まれている化粧品を購入することを避けることができるからであること、<3>近時、アトピー性皮膚炎等のアレルギー疾患が増加しており、「敏感肌向け」等として、アレルギー反応を引き起こす可能性の高い物質をできるだけ減らした化粧品も増えているが、そのような化粧品でも、消費者の中にはアレルギー反応を引き起こす可能性がある者がいることは否定できないこと、<4>被告リンサクライらは、過去において皮膚障害を起こした原因と考えられる化学物質をできるだけ取り除くか、低減させるという基本的な設計理念に立って、「無香料、無タール系色素、無鉱物油、刺激性物質低減、界面活性剤低減」という自社基準を満たす化粧品(過去において皮膚障害の原因となることが多かった香料を取り除き、防腐剤(パラベン)についても、なるべく少ない含有量で防腐効力のあるものにするなどの処方をした化粧品。)を敏感肌向け化粧品として製造販売しており、本件化粧品も、その一環として右基準を満たすものとして製造販売しているものであるが、被告リンサクライらは、本件化粧品についても、消費者によっては、原告のようにアレルギー反応を引き起こす危険性があることは認識していたこと、以上の事実が認められる。
(二) 本件化粧品に内在する危険性の程度
化粧品が先に判示したような効用を有する反面、少なくとも現時点においては、本来的にアレルギー反応を引き起こす危険性を内在しているものである以上、化粧品を使用した消費者の中にアレルギー反応による皮膚障害を発生する者がいたとしても、それだけでその化粧品が通常有すべき安全性を欠いているということはできないものというべきであり、本件化粧品についても、原告に皮膚障害が発生したというだけで本件化粧品が通常有すべき安全性を欠いているということはできない。
もっとも、多数の消費者にアレルギー反応を引き起こすような化粧品は、化粧品として流通に置くことに問題があるというべきであり、通常有すべき安全性を欠いている疑いが強いといわなければならないが、本件化粧品は、第二の一、7で認定したとおり、昭和六二年三月から発売され、これまでに約六万二〇〇〇本が販売されているが、被告リンサクライが把握している本件化粧品に対する苦情件数は、原告の件を含めて四件であり(原告の件を除き、その苦情の内容からは、本件化粧品の使用により、特に重大な被害が発生したことは窺われない。)、被告西武の把握している苦情件数は、原告の件だけである。右苦情件数の把握は本件訴訟の当事者によってなされているものであるから、その信用性が減殺されるとしても、同じく第二の一、7で認定したとおり、全国の消費生活センター及び国民生活センターが平成元年四月一日以降平成一一年五月二七日までに受け付けた本件化粧品を含む被告リンサクライらの化粧品に関する相談件数は、合計三件であったのであるから、皮膚障害が発生しても被告リンサクライらや被告西武に苦情を述べたり、消費生活センターや国民生活センターに相談するようなことはしない消費者も存在する可能性があることを考慮しても、原告のように本件化粧品によってアレルギー反応を引き起こした消費者は、本件化粧品の販売数に比してごく少数であると推認され、少なくとも多数の消費者に皮膚障害を発生させるような成分が本件化粧品に含まれているとは認められないから、原告にアレルギー反応を引き起こしたとしても、本件化粧品自体が通常有すべき安全性を欠いていたということはできない。
(三) 本件化粧品の指示・警告及び安全性についての宣伝の内容
(1) 甲二〇号証の一五、乙四号証の一、二及び被告リンサクライら代表者尋問の結果によれば、本件化粧品の外箱及び容器には、薬事法上表示を義務づけられた指定成分として、防腐剤であるパラベン(パラオキシ安息香酸エステル)が表示されており、被告リンサクライは薬事法上の成分表示義務を尽くしていることが認められる。
(2) 原告が本件化粧品を購入したとき、本件化粧品の外箱及び容器には、「お肌に合わないときはご使用をおやめ下さい」という本件注意文言が記載されており、右文言は、昭和五二年一二月二二日に改正された本件自主基準の第一注意事項に従ったものであること及び原告は、遅くとも本件化粧品の使用を始めるまでには、本件化粧品の外箱に本件注意文言が記載されていることに気付いていたことは、第二の一、4、6、第三の一、1、(二)で認定したとおりである。
(3) 一方、本件化粧品の外箱には、本件ノンオイル文言が記載され、原告が販売員である上岡から示された本件総合パンフレットには、本件敏感肌文言が記載され、上岡は、口頭でも、本件敏感肌文言と同様の説明をしており、原告は、本件敏感肌文言や上岡の説明から、本件化粧品は、敏感な肌に使用しても安全であると考えて本件化粧品を購入したものであることは、第二の一、4、5及び第三の一、1、(二)で認定したとおりである。なお、原告は、本件化粧品を購入した際、本件安全表示及び本件会社説明パンフレットが存在し、上岡が本件安心説明をした旨主張するが、これが認められないことは、第三の一、2で認定したとおりである。
(四) 指示・警告上の欠陥の有無
(1) 右(二)で判示したとおり、原告のように本件化粧品に対してアレルギー反応を引き起こした消費者はごく少数であると考えられるので、まず、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある化粧品の指示・警告として、本件注意文言が十分なものであったかどうかが問題となるが、本件ノンオイル文言(「…敏感肌の方にお肌に負担のないノンオイルタイプ」という部分で、本件敏感肌文言と同趣旨のもの。)や本件敏感肌文言は、本件化粧品の安全性を強調するものということができるから、本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言を信用する消費者に対しても本件注意文言が有効な指示・警告となることが期待できるかどうかが次に問題となる。
なお、原告は、本件手紙で、本件ノンオイル文言の「ノンオイルタイプ」という部分について、本件化粧品にはホホバ油が使用されていることを問題としている(第二の一、5)が、被告リンサクライらは、ホホバ油は化学的には油脂ではなく、ロウ類であるから、本件ノンオイル文言に抵触しないと考えていたことが認められる(甲二の一、二)し、本件パッチテストの結果及び弁論の全趣旨によれば、ホホバ油によって本件皮膚障害が引き起こされたとは認められないから、原告が問題としている点は、指示・警告上の欠陥の判断には影響しない。
(2) 指示・警告としての本件注意文言の相当性
被告リンサクライは、本件化粧品の外箱及び容器の最下部に、本件注意文言を、いずれも枠囲いを施して注記しており(甲二〇の一五、乙四の一、二)、本件注意文言を素直に読めば、本件化粧品は、何人にとっても皮膚障害等のトラブルを全く起こさないような、絶対安全なものではなく、何らかの皮膚障害を引き起こすなど、肌に合わないこともあり得ることを伝えるとともに、そのようなときには本件化粧品の使用を中止するよう、使用方法についても指示しているものと解することができ、右のような注意文言自体から通常読みとれる内容に加えて、本件注意文言の記載の態様も斟酌すると、被告リンサクライは、本件化粧品の外箱及び容器において、本件化粧品につき予想される危険の存在とその場合の対処方法について、消費者の目につきやすい態様で、端的に記載することにより注意を喚起していたものと評価することができる。そして、本件化粧品の成分のどれかに対して原告のようにアレルギー反応を引き起こす消費者がいたとしても、そのアレルギー反応の出現は、本件化粧品を使用して初めて判明することであるから、本件注意文言のように、本件化粧品が「肌に合わない」場合、すなわち、皮膚に何らかの障害を発生させる場合があり得ることを警告するとともに、その場合は、使用を中止するように指示することは、まれに消費者にアレルギー反応を引き起こす可能性のある本件化粧品の指示・警告としては、適切なものであったというべきである。
この点、原告は、本件注意文言の「お肌に合わないとき」という表現につき、製品の手触り、匂い、付け心地などの使用感から個人の嗜好を満足させない場合を意味するものと解した旨供述する(原告本人)が、本件注意文言を通常人が素直に読んだ場合に読みとれる解釈は、右のとおりであり、本件注意文言を、単なる嗜好の問題を取り上げたものと解することはできない。また、本件注意文言は、昭和五二年一二月二二日に改正された本件自主基準の第一注意事項に従ったものであり、長期間にわたり、様々な化粧品の外箱や容器に記載され、原告も本件化粧品以外の化粧品でも何度も目にしていたものと推認されるので、原告が本件化粧品を購入するまで、「お肌に合わないとき」という表現を、単に個人の嗜好の問題を記載したものと解していたとは信じがたい。
また、原告は、本件注意文言では使用及び取扱い上の注意とはいえず、本件注意書きを記載すべきであったから、被告リンサクライらは薬事法六二条、五二条に違反していると主張しており、本件自主基準では、本件注意書きとほぼ同じ内容の本件第二注意事項を原則として添付文書に表示するものとしている(第二の一、6)ほか、東京都衛生局薬務部薬事衛生課監視指導係の指摘により改訂された本件総合パンフレット改訂版には、本件注意書きが記載され(第二の一、5、(一)、(3) 、(4) )、現在の本件化粧品の外箱には本件注意書きが記載されている(甲一四の一)。本件第二注意事項は、化粧品が肌に合わない場合を具体的に記載したものであり、消費者にとって本件第一注意事項よりも丁寧で分かりやすいものであるからこそ、本件自主基準で原則として添付文書に記載するものとされているものであり、被告リンサクライが原告の本件手紙を契機として東京都衛生局薬務部薬事衛生課監視指導係の指摘を受けるまで、本件第二注意事項の内容を記載した添付文書を付さず、本件化粧品の容器や外箱にも本件第二注意事項の内容を記載しなかったことは、非難されてしかるべきものというべきである。
しかし、右(二)で認定した本件化粧品に内在する危険性の程度を考慮すると、本件化粧品については、本件注意文言をもって、薬事法六二条、五二条に定める使用及び取扱い上の注意と認めることができるし、本件注意書きの内容は、本件注意文言の内容と実質的に異なるものではなく、本件注意書きが記載されていなかったからといって、本件化粧品の指示・警告として欠けるところがあったということもできない。また、第三の一、lで認定した本件の事実経過に照らすと、原告が本件化粧品を購入する際、外箱に本件注意書きが記載されていたら原告は本件化粧品を購入しなかったであろうと認めることもできない。
(3) 本件ノンオイル文言及び本件敏感肌文言の本件注意文言の指示・警告としての相当性に対する影響
ア 敏感肌の一般的な意味
本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言に記載された敏感肌という表現が、近年、化粧品業界で多用されるようになったことは、先に認定したとおりであるが、甲二〇号証の二六、乙二号証の一から一五まで、九号証、被告リンサクライら代表者尋問の結果及び弁論の全趣旨によれば、敏感肌という言葉には公的な定義はなく、各化粧品会社ごとに独自の基準を設け、肌タイプの表現の一つとして広く用いている言葉であることが認められ、最近の各化粧品会社のパンフレットでは、<1>本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言と同じく、敏感肌(過敏肌という表現もある)とはどういうものかということについて特別な説明はなく、端的に敏感肌という文言を使用しているもの(乙二の三、四、八、一〇、一三、一五)、<2>敏感肌(過敏肌という表現もある)とは別にアトピー肌あるいはアレルギーの起きやすい肌という記載があり、敏感肌はアトピー肌やアレルギーの起きやすい肌とは異なるものと考えていることが記載から分かるもの(乙二、六、七)、<3>敏感肌の中にはアレルギー肌やアトピー肌が含まれることを明示しているもの(乙二の一)、<4>アトピーの学術研究グループと共同で開発したとの記載及びアトピー体質の方への使用テスト済みとの記載があるので、敏感肌にはアトピー体質の肌も含まれるものと考えていることが記載から分かるもの(乙二の一一、一二)など、多様な用いられ方をしている。
イ 本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言の敏感肌の意味
先に認定したとおり、本件化粧品は、敏感肌という表現が化粧品業界で使用されるようになった時期としては、比較的初期である昭和六二年三月に発売されたもので、被告リンサクライらの代表者である福井健一は、被告リンサクライらが使用している敏感肌とは、化粧品を使用したときに「ひりつき」を非常に早く感じるというように、反応が早い肌を意味するものであって、アトピー性皮膚炎やアレルギー体質といった疾患を持つ人の肌は含まれないものと理解していると供述している(被告リンサクライら代表者)。そして、甲二〇号証の一五、乙一号証、四号証の二によれば、本件ノンオイル文言においても、本件敏感肌文言においても、敏感肌についての説明はないが、本件ノンオイル文言では、ニキビ肌、脂性肌と並べて敏感肌が記載されていることや、第二の一、7、(一)、(3) で認定したとおり、アレルギー体質の顧客は店頭でその旨申告していることなどから考えると、通常は、右各文言にいう敏感肌とは、刺激に敏感で、肌荒れを起こしやすい肌のことを指すものと理解され、アトピー性皮膚炎等のアレルギー性の疾患を有する肌まで含んでいるものとは理解されないものと考えられる。
ウ 原告の敏感肌についての認識
第三の一、4、(四)で認定したとおり、原告は、本件化粧品を購入するまで、化粧品によって皮膚障害を発症したことはなかったが、アトピー性皮膚炎や真菌症に悩まされていたため、敏感肌用とされていた本件化粧品を購入したものと考えられるが、原告は、本件手紙の中でも、本件手紙を差し出す前の被告リンサクライの本社営業員との交渉においても、自分がアトピー性皮膚炎等の既往症があることを明らかにしておらず(甲二の二、弁論の全趣旨)、また、本件訴訟においてもアトピー性皮膚炎や真菌症の既往症があったことを否定しており、本件化粧品購入時に、本件化粧品がアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を有する者向けのものかどうかを販売員である上岡に確認したとは考えられず、原告は、その点は明確にしないまま、本件敏感肌文言や本件ノンオイル文言、本件敏感肌文言と同趣旨の上岡の説明から、本件化粧品は皮膚に対する刺激が少なく、皮膚障害を引き起こしにくいものと思い、本件化粧品を購入したものと考えられる。したがって、原告は、本件化粧品購入時において、本件化粧品がアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を有する者向けのものであるとまでは考えていなかったものと推認される。
エ 原告は、本件ノンオイル文言及び本件敏感肌文言は、本件化粧品の安全性について誇大な表示をすることにより、消費者に過大な信頼を持たせるものであるから、薬事法六二条、五四条に違反し、このことは、東京都の行政指導により被告リンサクライが本件総合パンフレットから本件敏感文言を削除したことからも明らかである旨主張し、被告リンサクライが、本件総合パンフレット改訂版で、本件敏感肌文言を「皮膚呼吸を妨げないメイクです」という表現に変えたことは、第二のー、5、(一)、(4) で認定したとおりであるが、右ア、イ、ウで判示したところによれば、本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言が、薬事法にいう、虚偽又は誤解を招く恐れのある事項や虚偽又は誇大な記事に該当すると認めることはできず、東京都の行政指導が本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言が薬事法に反するという趣旨であったと認めることもできない。
もっとも、右アで認定したとおり、最近では、敏感肌という言葉は、多様な用いられ方をしており、被告リンサクライらの代表者の供述と異なり、アトピー肌を含めて敏感肌という言葉を使用している化粧品会社も存在するので、消費者に誤解を生みやすくなっていることは事実であり、右ウで判示したとおり、本件化粧品については、原告が本件敏感肌文言や本件ノンオイル文言の敏感肌をアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患を有する肌を含むものと誤解をしたとは認められないが、確実に消費者の誤解を避けるためには、敏感肌という言葉を使用する際には、アトピー性皮膚炎等を有する肌も含むのか否か等について、十分にその意味を説明する必要があるものというべきである。
オ 以上のとおり、本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言は、本件化粧品の安全性を強調するものではあるが、皮膚疾患がある場合についてまで安全であることを表現したものとは解されないし、本件注意文言は、本件化粧品が絶対に安全なものではなく、何らかの皮膚障害を引き起こすなど、肌に合わないこともあり得ることを警告しているものであるから、本件ノンオイル文言や本件敏感肌文言があったとしても、本件注意文言が本件化粧品の指示・警告として不十分であったと認めることはできない。
カ なお、第三の一、4、(四)で認定したとおり、原告は、本件皮膚障害は、アトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の悪化と思い込んでいたために長期間にわたって本件化粧品を使用し続け、その間本件皮膚障害に悩まされ続けたものと判断されるが、このようにもともと皮膚障害があり、あるいは皮膚障害の既往症がある場合は、発生、あるいは悪化した皮膚障害の原因を化粧品によるものと気付かないこともあり得るものと考えられ、そのような場合は、本件注意文言や本件注意書きのように何らかの皮膚障害が発生したら使用をやめることを指示する指示・警告は有効に働かない可能性もある。その意味では、アレルギー肌やアトピー肌を含めて敏感肌と表現している敏感肌用化粧品などでは、すでにパンフレットへの記載例がある(甲八の一九の一一)ように、「アレルギー体質の方、皮膚の弱い方はご使用前に上腕部内側などに塗布して、必ず使用テストを行って下さい。」というような指示・警告があることが望ましいものと考えられる。もっとも、本件においては、原告はそもそもアトピー性皮膚炎等の皮膚疾患の既往症があることを否定しているので、このような指示・警告の必要性は争点になっていないし、本件化粧品は、敏感肌にアレルギー肌やアトピー肌を含めるものではなかったのであるから、このような指示・警告まで必要であったということはできない。
(4) 以上のとおりであるから、本件化粧品について、指示・警告上の欠陥を認めることはできず、原告の被告リンサクライらに対する製造物責任法に基づく損害賠償請求はその余の点について判断するまでもなく理由がない。
4 被告リンサクライらの不法行為責任の成否
右3で判示したとおり、本件化粧品自体が通常有すべき安全性を欠いていたと認めることも、本件化粧品の指示・警告に欠陥があったと認めることもできないので、原告の本件皮膚障害について被告リンサクライらに故意・過失は認められず、原告の被告リンサクライらに対する不法行為による損害賠償請求も、その余の点について判断するまでもなく理由がない。
三 争点3(被告西武の不法行為責任又は債務不履行責任の成否)について
右二で判示したとおり、本件化粧品自体が通常有すべき安全性を欠いていたと認めることも、本件化粧品の指示・警告に欠陥があったと認めることもできないので、本件化粧品を販売した被告西武に不法行為責任又は債務不履行責任が成立する余地はない。したがって、原告の被告西武に対する損害賠償請求は理由がない。
四 よって、原告の本件請求はいずれも理由がないので、これを棄却することとし、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 福田剛久 裁判官 徳岡由美子 裁判官 一場康宏)
別紙<省略>