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東京地方裁判所 平成10年(ワ)23600号 判決

原告 小澤敬三

右訴訟代理人弁護士 吉沢寛

被告 山下弘子

被告 大根田信雄

被告 大根田秀雄

右三名訴訟代理人弁護士 高瀬靖生

佐藤雅彦

被告 三井不動産販売株式会社

右代表者代表取締役 清水隆雄

被告 神奈川東リハウス株式会社

右代表者代表取締役 高田哲臣

右両名訴訟代理人弁護士 伊藤茂昭

田中宏明

井手慶祐

町田行人

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

一  被告山下弘子、被告大根田信雄及び被告大根田秀雄は、原告に対し、連帯して、金四〇二〇万円及びこれに対する平成一〇年八月二一日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  被告三井不動産販売株式会社及び被告神奈川東リハウス株式会社は、原告に対し、連帯して、金三七三七万六二二六円及びこれに対する平成一〇年八月二一日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

一  事案の要旨

原告は、被告三井不動産販売株式会社及び被告神奈川東リハウス株式会社(以下、それぞれ、「被告三井」、「被告リハウス」といい、一括して「被告三井ら」ということがある。)の仲介のもとに、被告山下弘子、被告大根田信雄及び被告大根田秀雄(以下、一括して「被告山下ら」ということがある。)が共有する土地及び同土地上の建物を購入した。

原告は、右土地は、建築基準法上要求される二メートル以上の接道幅を満たさない土地であるところ、売主である被告山下らに対しては、右接道幅を物理的に確保するべき債務の不履行があるので、前記売買契約を解除すると主張して、右契約解除に基づく損害賠償ないし原状回復請求として、既払の売買代金三三五〇万円及び約定損害金六七〇万円(売買代金の二〇%相当額)の合計四〇二〇万円の連帯支払を求めるとともに、被告三井らに対しては、仲介契約において、同様、右土地の接道幅を二メートル以上確保する債務の不履行があると主張し、損害賠償請求として、売買代金、仲介手数料等相当額合計三七三七万六二二六円の連帯支払を求めている。

本件の争点は、被告らが、原告らに対し、右の接道幅を物理的に確保する義務を負担したと認めることができるかについての認定問題である。

二  争いのない事実及び証拠上明らかに認められる事実

1  被告山下らは、平成二年三月六日、千葉県市川市市川町三丁目九三番七の宅地二〇二・九〇平方メートル(以下「本件土地」という。)及び同土地上の木造一部二階建瓦葺建物(公簿上・木造瓦葺平屋建居宅・床面積五七・八五平方メートル、増築後の床面積合計八八・四二平方メートル、以下「本件建物」という。)の共有持分権各三分の一ずつを相続により取得した。

本件土地は、別紙図面表示のとおり、その一部である細長い通路状の部分(長さ一八メートル余り)が東側公路と接している袋地状の土地であり、北側は、上西和昌及び上西代子(以下「上西ら」といい、上西和昌を「上西」という。)の所有土地(市川町三丁目九三番五、同番八、以下「上西土地」という。)と、東側は、仁井田町子(以下「仁井田」という。)の所有土地(同番四、同番六、以下「仁井田土地」という。)と、それぞれ接している。

本件土地の右通路状の部分は、九三番四と同番八に挾まれた部分であって、東側公路との接道幅は、〇・九七メートルである。上西らは、九三番八の土地の南側の右通路状の土地に接する部分を通路用地として提供しており、これらが合体して本件土地の東側通路に通じる通路をなしている(以下「本件通路」という。)。

本件通路の幅員は、東側公路に接する部分(接道幅)で一・八一メートル、西側奥の部分で二・〇三メートルであり、本件通路の北側は、上西らが設置したブロック塀で仕切られた上西ら所有地に接している。

2  被告山下らは、本件土地及び本件建物を処分することを企図し、平成七年六月二〇日頃、被告三井の関連会社である被告リハウスとの間で、本件土地及び本件建物の売却に関する専任媒介契約を締結し、被告リハウスにおいては、鷺沼店長である大豆生田隆(宅地建物取引主任者の資格を有する。以下「大豆生田」という。)が担当となった。

3  大豆生田は、当初、本件土地の買取を隣接地所有者である仁井田に働きかけたが、仁井田側の希望購入価額が被告山下らの希望価額と比べて低額で、交渉がはかばかしく進展しなかったので、一般的に購入者を募ることとした。

原告は、平成一〇年二月以降、住宅情報誌によって、本件土地建物が売りに出ていることを知り、現地を検分した上、大豆生田から説明を受け、結局、同月二六日、被告三井及び被告リハウスとの間で媒介契約を結んだ上、両名を仲介人として、被告山下らから本件土地及び建物を代金合計三三五〇万円で買い受ける旨の契約を締結し(以下「本件売買契約」という。)、同日、被告山下らに対し、手付金として三三五万円、被告三井らに対し、仲介手数料の半額として、五五万九一二五円を支払った。

4  原告は、株式会社ルー卜建築設計事務所(代表者・一級建築士奥田林)に委任して、平成一〇年四月六日、市川市の建築主事宛、本件土地の接道幅を二メートル(内訳は、原告所有部分の幅員〇・九八メートル、上西らからの借地部分の幅員一・〇二メートル)として、自己を建築主とする新築建物(木造二階建居宅、延べ面積一四四・〇八平方メートル)に関する建築確認申請を行い、同建築主事は、同月二三日付で、原告に対して確認通知書を交付した。

5  原告は、平成一〇年四月二七日、新築建物の工事請負契約の手付金として、請負人に一〇〇万円を支払い、更に、同年五月六日から、本件建物の撤去工事を行い(同月一四日頃撤去工事終了)、右撤去工事費用として一〇〇万円を支払った。

更に、原告は、同月一九日、被告山下らに対し、本件売買代金残額三〇一五万円及び同日から同年一二月三一日までの固定資産税として三万七九三六円を支払い、被告三井及び被告リハウスに対しても、仲介手数料の残額として五五万九一二五円を支払い、同日、被告山下らから、本件土地の所有権移転登記を受け、また、自ら本件建物の滅失登記手続も行い、手続を委任した司法書士に対し、本件建物の滅失登記費用及び本件土地の所有権移転登記手続費用として、合計七二万〇〇四〇円を支払った(原告と被告山下らとの間では、本件建物は原告の負担によって取壊し及び滅失登記を行うことが了解されていた。)。

6  原告は、平成一〇年八月七日付の内容証明郵便で、被告山下ら各人に対し、本件売買契約において、被告山下らは、本件土地の接道幅二メートルを確保すると確約したのに、現状ではその確保がないとして、右義務の履行を催告し、右履行が七日以内にされない場合には、本件売買契約を解除する旨の意思表示をし(以下「本件解除」という。)、右意思表示は、同月一三日までに、被告山下らに到達した。

三  当事者の主張

1  原告

(一) 被告らの債務不履行(接道幅二メートル確保義務違反)

(1)  原告らが本件土地を購入した動機は、本件土地上に新たに建物を建築することであったところ、建築基準法四三条一項は、建築物の敷地は、道路に二メートル以上接しなければならないと定めているのであるから、被告山下らは、本件売買契約の売主として、被告三井らは、本件売買契約の仲介人として、いずれも、原告に対し、隣地所有者から必要な土地を通路用地として借受ける等の方法により、本件通路の接道幅を物理的に二メートル以上とする債務を負担していたものというべきである。

本件売買契約締結の際、被告三井らが原告ら及び被告山下らに交付した重要事項説明書(以下「本件説明書」という。)には、「隣地の地番93番5、93番8の敷地を含め接道幅を2メートルとし、増改築、再建築は可能との見解を得ています。尚、93番5、93番8所有者より、本件についての承諾を得ています。」と明示されているが、右にいう隣地所有者の「承諾」とは、隣地所有者が必要な土地を通路用地として現実に提供すること、すなわち、本件通路の接道幅を物理的に二メー卜ル確保することについてのものと解すべきである。

(2)  この点、被告らは、本件通路の接道幅を物理的に二メートル以上確保する義務を負担していることを否認し、被告らの義務は、本件土地上に建築する建物について、建築確認を取得することであると主張する。

しかし、たとえ、建築確認がされ、一度は、本件土地上に建物を建築することが可能であっても、その後の改築や再建築ができない恐れがあるし、接道幅の確保につき協力を約した隣地所有者の上西らが、所有土地を第三者に売却した場合には、右の協力義務の拘束力が第三者に承継されない可能性もあるから、原告らとしては、そのような危険を冒してまで、本件土地に建物の建築をすることはできない。

そして、原告が、市川市役所建築指導課に最終的に確認したところ、同課からは、たとえ、既に建築確認がされていたとしても、現時点においては、本件土地上に建物を建築することは許されないとの回答を得ているから、本件土地上に建物を建てることは、現実的にも不可能である。

(二) 被告山下らに対する請求

本件売買契約においては、当事者のいずれかが契約上の義務を履行しない場合には、売買代金の二〇パーセント相当額六七〇万円を違約金とし、被告山下らが違約した場合は、原告らに対し、受領済みの売買代金額に右違約金相当額を付加して支払う旨の約定がある。

したがって、原告らは、被告山下らの債務不履行による損害賠償ないし本件解除による原状回復として、被告山下らに対して、次の金員及びこれに対する本件解除の効果発生の翌日から支払済みまで民法所定年五分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(1)  売買代金相当額 三三五〇万円

(2)  違約金(売買代金の二〇パーセント) 六七〇万円

合計 四〇二〇万円

(三) 被告三井らに対する請求

本件売買によって原告に生じた損害は、次のとおりであり、被告三井らは、原告に対し、前記債務不履行に基づき、右損害の全額を賠償すべき義務があるから、原告らは、被告三井らの債務不履行による損害賠償として、被告三井らに対して、次の金員及びこれに対する本件解除の効果発生の翌日から支払済みまで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の連帯支払を求める。

(1)  売買代金相当額 三三五〇万円

(2)  仲介手数料 一一一万八二五〇円

(3)  平成一〇年度固定資産税都市計画税分担金(一部)

三万七九三六円

(4)  登記費用(所有権移転登記、建物滅失登記)

七二万〇〇四〇円

(5)  本件建物解体費用 一〇〇万円

(6)  新築予定建物の工事請負契約の手付金 一〇〇万円

合計 三七三七万六二二六円

2  被告ら

被告らが、原告に対し、本件売買契約の売主ないし仲介人として、本件通路につき、接道幅二メートル以上を物理的に確保する義務を負担していることは否認する。

被告らは、原告との間で、本件通路の現実の接道幅が二メートル未満であって、そのままでは建築基準法に定める接道義務の要件を満たしていないため、隣地所有者の承諾を得る方法でしか建築物の建築ができないことを確認するとともに、万一、平成一〇年六月一五日までに新築予定建物の建築確認が得られない場合には、原告及び被告山下らは、本件売買契約を無条件で解約することができる旨の合意をした。

被告らの売主ないし仲介人としての義務は、右の点に限定されているのであって、本件にあっては、被告らは、右の義務を履行し、現実に建築確認を得たことは前記のとおりである。

したがって、被告らには、原告主張の債務不履行はない。

第三当裁判所の判断

一  前記事実関係のほか、証拠(甲二号証ないし七号証、一〇号証の一、二、一六号証、一八号証の一、二、一九号証、乙一号証、丙一号証、三号証ないし五号証、証人大豆生田隆、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、更に、次の事実が認められる。

1  本件売買契約成立前の状況

(一) 被告リハウスの大豆生田は、前記のとおり、被告山下らから本件土地及び本件建物の売却の仲介の依頼を受けた後、市川市役所建築指導課を訪れ、本件通路の接道幅が建築基準法に定められた要件を満たしていないことについての相談をした。これに応対した同課の担当者は、大豆生田に対し、隣地の所有者から書類上の承諾を得れば、本件通路の現況の形状を変えずに建物の建替えが可能である旨の説明を行った。

(二) その後、大豆生田の提案により、平成七年七月、被告山下らと上西らは、本件通路について、それぞれの所有部分の確認のため、共同で測量を実施したところ、前記のとおり、本件通路部分の接道幅は、被告山下ら所有部分のみでは〇・九七メートルであり、上西ら所有部分と合わせても一・八一メートルであることが明らかになった。

そこで、大豆生田は、被告三井のリハウス契約課の担当者と相談の上、「私有地の道路使用及び通路承諾書」と題する書面(甲七号証、以下「本件承諾書」という。)を作成し、平成八年三月四日、これにつき、上西らの署名押印を受けた。

本件承諾書は、被告山下らが本件土地を第三者に売却するについて、上西両名が被告山下らに対し、本件通路との関連で、上西土地に関して次の事項を確約し、後日の証とするために差し入れる趣旨で作成されたものである。

(1)  被告山下らが、将来、上西土地のうち共用通路部分を掘削したうえ水道管、ガス管、あるいは下水道管の設置することを承諾し、被告山下らから要請があるときは、直ちに当該設置に係る手続に協力する。

(2)  将来、被告山下らが本件土地において建物を再建築する際は、建築確認の許可が得られる範囲で上西土地の一部を道路使用及び通行使用に供することを承諾する旨の書面等を被告山下ら又は被告山下らの指定する第三者に提出する。

(3)  前二項の協力の対価は無償とする。

(4)  被告山下らから本件土地の譲渡を受けた第三者に対しても本件承諾書の各条項を確約することとし、以後も同様とする。

(5)  上西らが、上西土地に関する権利を第三者に譲渡した場合、その譲受人に対し、本書各条項を承継させることとし、以後も同様とさせる。

(三) 大豆生田は、上西らから本件承諾書を得た後、市川市建築指導課の担当者に右書面を見せたところ、同課員は、現況の接道幅(間口)を物理的に変更せずに、本件土地上に建物を建てることが可能であることを確認した。

(四) 大豆生田は、本件土地の売出し希望価格を四〇〇〇万円台として販売活動を継続していたところ、平成九年九月頃、仁井田から、三三〇〇万円であれば購入するとの意向が示され、被告山下らも右金額を承諾したので、仁井田との間で、売買契約が成立する間際にまで至った。しかし、仁井田は、結局、大豆生田に対し、資金繰の都合で本件土地の購入を断念すると回答し、仁井田に対する売買の話は、結局、実を結ばなかった。

そこで、大豆生田は、被告山下らの承諾を得て、本件土地の売出し希望価格を三四〇〇万円に下げて販売活動を継続した。

2  本件売買契約成立の経緯

(一) 原告の妻は、平成一〇年二月上旬、住宅情報誌をみて、本件土地について被告リハウス鷺沼店に電話で問合わせを行った。

大豆生田は、これに対し、パンフレット(甲一八号証の一、二、以下「本件パンフレット」という。)をファックスで送付した。

本件パンフレットは、土地価格を三四〇〇万円と表示し、そこに表示された図面は、本件土地及び本件通路(上西土地に相当する部分に斜線を施し、「斜線部分は、隣地所有者の専用道路部分です。現況、本物件専用道路部分と合わせ2メートルの幅員があり、お互いに協力しあい利用しています。」との説明が付されている。)を図示し、「間口現況約一・八メートル、本物件間口約〇・九七メートル」と記入され、備考欄には、「当該土地は、接道幅が2メートル未満のため建築確認が取れませんが、隣地所有者の承諾を取ることにより再建築することができます(市川市役所にて確認)」「尚、隣地所有者より承諾書取得済!」との記載がされていた。

(二) 原告とその妻は、同月一七日、大豆生田の案内で本件土地を視察し、大豆生田から説明を受けた。

大豆生田は、原告らに対し、本件パンフレットに基づき、本件土地自体の間口は〇・九七メートルであり、隣地の上西土地からの提供部分と合わせて本件土地の接道幅は一・八一メートルしかなく、建築基準法で定める二メートル以上の接道義務を満たしていないこと、しかし、市川市役所の見解では、上西らから不足分を建築確認申請書の添付書面上二メートルとすることの承諾を得た上で、建築確認を申請することによって、建物の建替えが可能であるということを説明した。

原告らは、大豆生田の説明と現地の見分により、本件通路の接道幅は、現状で一・八一メートルしかなく、これを二メートルにするためには、北側の上西土地に設置されたブロック塀を撤去しなければならないことを認識したが、大豆生田の前記説明の趣旨を諒承し、同人に対し、本件土地が気に入った旨を述べ、現状のままで本件土地を購入することを前提に売主と価額交渉をするように依頼をした。

(三) 大豆生田は、同月二一日、原告に対して、本件土地の購入申込書とその案内文書(丙三号証、以下「本件案内書」という。)を送付した。

本件案内書には、本件土地の売買価格が三五〇〇万円とした場合の建物建設費用を合算した総費用の概算額等、契約の手順等、本件土地のデメリットとしては、接道幅が二メートル未満であること、南側の建物が近いこと、車が入らないこと等があるが、それに勝るメリットとして、価格の安さ、住環境、坪数、利便性等があるとして、本件土地の購入を勧める記載のほか、「宅地の売買において、建築関連法規、行政指導等により、買主が予定していた建物の建築が認められないことを想定し、買主の保護を図る場合に利用する特約です」という解説を付加して、「1 買主は、本物件に別添図面内容による建物(以下「予定建築物」という。)を建築することを目的として本契約を締結したため、本契約締結後直ちに予定建築物の建築確認申請手続を行うものとし、同確認が得られない場合、平成10年 月 日までであれば買主は本契約を無条件にて解除することができます。2 前項により本契約が解除された場合、売主は買主に受領済の金員を無利息にてすみやかに返還しなければなりません。」、という買主の解除権を認める特約を入れて契約する旨の説明がされている。

原告は、本件案内書を受領後、大豆生田と電話で打ち合せた上、本件土地の購入を決め、購入申込書を大豆生田に送付した。その際、原告は、大豆生田に対して売買代金の値下げ交渉を要請し、大豆生田は、被告山下らと折衝して、売買代金を三三五〇万円とすることの承諾を得た(この価額は、接道幅につき本件土地のような問題を抱えていない同等の土地のそれと比較すると、相当低価額であった。)。

(四) 大豆生田は、同月二三日、市川市役所建築指導課を訪れ、本件承諾書を示し、本件承諾書によって、接道幅が二メートル未満の現況のままで本件土地に建物を建築することが可能であるかについて、売買契約締結前における最終的な確認をしたところ、同課の担当者は、これを肯定する回答をした。

また、その前後、大豆生田は、上西と電話で連絡を取り、本件土地の売却が決定したことを告げたが、これに対して、上西から本件承諾書の効力を否定する趣旨の発言はなかった。

大豆生田は、同月二四日、本契約に先だって、原告宅において原告と面談し、前記の本件説明書、本件承諾書及び前記の解除特約を記載した覚書の素案を示しながら、本件売買契約書の特約という形式で売主と買主との間で覚書を締結すること、建物の解体と滅失登記に係る費用は原告の負担とすること、本件土地の接道幅が現況で二メートル未満であり、建築基準法に定める要件を満たしていないこと、建替えに当たっては、隣地の協力を得る形でしかできないこと、建物に関しては瑕疵担保責任を免責する約定をすることについて事前の説明を行った。更に、建築確認を申請する場合には、本件承諾書を添付する必要があることについても付加説明した。

(五) 平成一〇年二月二六日にされた本件売買契約及び仲介(媒介)契約の締結の経緯は、次のとおりである。

(1)  本件売買契約の契約書(甲四号証)は、三井リハウスの定型の契約書であり、売買の目的物として本件土地及び本件建物、売買代金額として三三五〇万円(手付金三三五万円は契約締結時支払、残代金三〇一五万円は平成一〇年六月三〇日まで支払)とし、売主として被告山下ら、買主として原告、仲介(媒介)人として被告三井及び同リハウスの各代表者ないし代理人及び大豆生田の各署名押印があるが、特約として「別紙覚書による。」との記載がある。

(2)  本件契約書にある別紙覚書とは、被告山下ら(売主)と原告(買主)との間で作成された「覚書」と題する書面(乙一号証、以下「本件覚書」という。)であり、その内容は、要旨次のとおりである。

「第1条 買主または買主の指定する第三者が、本件土地及び建物の引渡し後、本件建物を解体撤去し滅失登記を行う場合、売主は買主または買主の指定する第三者に対し、売主名義による滅失登記申請手続に必要な書類を交付し、同申請手続に協力する。ただし、滅失登記手続に要する費用はすべて買主の負担とする。

第2条1 買主は本件土地の敷地の接道幅が2メートル未満であり、建築基準法に定める接道を満たしていないため、隣地所有者の協力を得る方法でしか、建築物の建築ができないことを確認するとともに、万一、平成一〇年六月一五日までに新築予定建物の建築確認が得られない場合は、売主・買主は原契約を無条件にて解約することができる。

同条2 前項の場合、売主は遅滞なく受領済金員全額を無利息にて買主に返還しなければならない。

第3条 原契約一二条の定めにかかわらず、売主は本物件の隠れたる瑕疵について、一切の担保責任を負わないものとし、買主はこれを確認した。」

(3)  同日付で、原告は被告三井及び被告リハウスに対し、本件土地の売買の媒介を委託する旨の一般媒介契約書が作成された。

(4)  被告三井らが、原告及び被告山下らに交付し、各署名押印を得た重要事項説明書(甲六号証、「本件説明書」)は、次のとおりである。

本件説明書の「敷地と道路との関係」欄には、本件土地の概略図を示し、本件通路自体の接道幅(間口)は、約〇・九七メートル、現況上西氏通路と合わせて間口約一・八一メートルとした上で、「<1> 対象不動産は敷地の接道幅が2メートル未満であり建築基準法に定める接道義務をみたしていない為、建築物の建築はできません。また現在ある建築物については増改築、再建築はできません。ただし、隣地の地番93番5、93番8の敷地を含め接道幅を2メートルとし、増改築、再建築は可能との見解を得ています。(平成9年2月21日市川市役所建築指導課確認。)尚93番5、93番8所有者より、本件についての承諾を得ています。(詳しくは、別添私有地の道路使用及び通行承諾書を参照下さい。<2> 対象不動産東側の道路は建築基準法第42条2項に定める道路であり、道路中心線から水平距離2メートル後退した線が道路境界線とみなされます。この結果、道路とみなされる部分(セットバック部分)は建物の敷地として算入することはできません。尚、道路中心線は特定行政庁の指導にもとづき決定されます。現在は道路中心線が確定しておらず、現況の道路の中心線とみなして算出したセットバック面積は約0・2平方メートルですが、増減する場合があります。」と記載してある。

(5)  大豆生田は、同日、原告に対し、本件説明書に基づき、敷地と道路の関係につき再度説明し、また、予定建築物の建築確認が期日までに取得できないときは、本件売買契約は白紙解約になる旨も併せて解説し、原告は、これらを理解した上、上西らの本件承諾書を含むこれらの書類を受領した。

3  建築確認通知及びその後の経緯

(一) ルート建築設計事務所が原告を代理して、前記のとおり、平成一〇年四月六日、本件通路の接道幅を上西土地からの借地部分を含め二・〇メートルとして建築確認申請を行ったが、同事務所は、右申請に際し、本件承諾書を添付しなかった。申請書添付の図面によると、右二・〇メートルの内側に上西土地のCB塀(コンクリートブロック塀)が設置されていることが図示されている。そして、市川市の担当建築主事が、同月二三日、確認通知書を交付したことは前記のとおりである。

(二) 本件建物の撤去、売買残代金等の支払及び本件土地の所有権移転登記が終了した後の頃、仁井田は、市川市役所に対し、本件通路の接道幅が二メートル未満であるにもかかわらず、原告に対して建築確認通知をしたことについて抗議し、平成一〇年五月二二日、同市役所の担当者を現地に呼び、本件通路の現況の接道幅についての確認をさせた。

(三) 原告は、同市役所の担当者から呼び出しを受けたため、同月二五日、設計担当者及び建築工事施工担当者と共に同市役所を訪れた。

その際、同市役所の担当者は、原告らに対し、本件通路が二メートルあることを示す鋲を上西らの敷地内に打つか、上西らから承諾書のようなものをとれないかと述べ、それまでの間、新築建物の建築を事実上中断することを勧告した。これに対し、原告及び設計担当者らは、同市役所の担当者に対し、本件承諾書の存在を格別説明しなかった。

原告は、市川市役所からの右勧告を受け、千葉県木更津市にある上西の自宅を訪問し、敷地内に右の鋲を打つか、又は承諾書を交付することを要請したが、上西は、鋲を打つことは拒否し、承諾書については既に被告山下らに交付済みの本件承諾書で十分であると応対した。

(四) 原告は、平成一〇年六月二六日、大豆生田に対し、電話で、それまでの経過及び市川市役所の右対応等について説明し、本件土地上に建物を建てるため、関係者と折衝することを依頼した。これに対し、大豆生田のとった行動は、次のとおりである。

(1)  同日、直ちに上西に電話をし、事情を問い質したところ、上西は、敷地内に鋲を打つまでの協力はできないが、本件承諾書の効力は認めている旨回答した。

(2)  そこで、仁井田にも電話をし、仁井田の抗議の意図について確認をしたところ、仁井田の夫は、仁井田としては、格別原告を困らせる意図はないが、建築基準法の要件を満たさない土地に建築確認を与えた市役所の対応を問題としているだけであると応じた。

(3)  同年七月一日、市川市役所建築指導課の担当者を訪ね、本件承諾書のコピーを示した上、既に、同課の担当者から、本件承諾書によって建物を建築することは可能であるとの見解を得ていることを説明した。これに対し、右担当者は、原告と上西との間で借地契約を締結することが望ましいとしたが、本件承諾書によっても、本件土地上に新たに建物を建築することは可能である旨確認した。

(4)  同月九日、上西宅を訪問したところ、上西は、原告と借地契約を結ぶことはできないが、本件承諾書の効力は今後も認める旨述べた。

(5)  同月一五日、市川市役所を再度訪れ、担当者に上西の右発言を伝えた。これを受けて、建築指導課の担当者は、建物の建築工事を再開するよう述べた。

(五) 大豆生田は、同日、原告と会い、以上の経緯を説明して、市川市役所建築指導課の担当者から、本件土地の建物建築工事の再開が可能であるとの見解を得たことを報告したが、その際、原告の質問に対し、今回は、既に建築確認を得ている以上、建物を建築することは可能であるが、次回以降において、再建築ないし改築が可能であるかについてまでは、同課担当者からの確認は得ていないと回答した。

これに対し、原告は、今回はともかく、将来の建替えについて不安があるので、本件売買契約を解約したいとの趣旨を述べた。

(六) 原告は、翌一六日、市川市役所を訪問し、将来の再築可能性につき質問をしたところ、建築指導課の担当者は、今回、建築工事を再開することは可能であるが、将来の建替えについてまでは、現段階では保証できないとの回答を示した。

(七) 原告は、同月二七日、大豆生田と会い、再度、本件売買契約を解約したい旨を伝えた。大豆生田は、被告山下らに対して原告の右意向を伝えたが、被告山下らは、これには応じられないという見解であった。そこで、大豆生田は、原告に対し、その旨を伝えるとともに、被告三井らにも法的責任はないという見解を示した。そこで、原告は、前記のとおり、被告山下らに対し、本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。

二  以上の事実関係に基づき、被告らの債務不履行の主張について判断する。

1  原告は、原告らが建物建築目的で本件土地を購入したという動機からみて、被告山下らは、本件売買契約の売主として、被告三井らは、本件売買契約の仲介人として、いずれも、原告に対し、隣地所有者から必要な土地を通路用地として借受ける等の方法により、本件通路の接道幅を、物理的に建築基準法四三条の要求する二メートル以上とする債務を負担していたのであり、前記本件説明書にいう隣地所有者の「承諾」とは、隣地所有者が必要な土地を通路用地として現実に提供すること、すなわち、本件通路の接道幅を物理的に二メートル確保することについてのものと解すべきである、と主張する。

2  しかしながら、本件売買契約においては、本件通路の接道幅の問題が最大の懸案事項であったことは、前記事実関係からみて明白というべきである。

そして、原告は、当初の問合せの段階から本件売買契約を締結するまでの間に、大豆生田から、本件パンフレットに基づいて現地説明、本件案内書による電話説明、本件説明書及び本件覚書に基づく事前説明を経て、契約当日におけるこれらによる最終説明により、本件通路の接道幅と本件承諾書を用いての本件土地における建物建築の可能性につき、繰り返し説明を受けていたものである。

これら本件パンフレット、本件案内書、本件覚書及び本件説明書には、いずれも、本件通路の現況の接道幅が上西土地からの提供分を含めて約一・八一メートルしかなく、建築基準法四三条一項が定める二メートル以上の接道義務の要件を満たしていないこと、そのため、隣地所有者の協力を得る方法でしか、建築物の建築ができないことが明記されており、この場合における建物の建築を可能とする方法として、隣地所有者である上西らから本件承諾書を取得してあり、これにより建物の建築が可能である旨市役所当局の確認を得ているというものであり(本件説明書には、本件承諾書が引用してあり、大豆生田は、本件承諾書を建築確認申請に添付する必要があることを説明していた。)、また、本件覚書は、一定期日までに建築確認が得られないときは、原告に対し本件売買契約無条件解除権を認めることを趣旨とするものである。

更に、本件承諾書の文言は、上西らは、建築確認の許可が得られる範囲でその所有土地の一部を道路使用及び通行使用に供することを承諾する旨の書面等を無償で提出するというものであって、本件承諾書及びその他の前記各書面には、本件通路の接道幅の現況を変更して、物理的に二メートル以上に拡げることについては、何らの記載もなく、また、本件通路の上西土地部分は、上西宅のブロック塀によって区切られており、物理的に接道幅を二メートルまで拡げるとすれば、右のブロック塀を取り壊すか、移動させたうえ、原告において当該部分を購入するか、借地する必要があり、原告もこの状況を認識していたにもかかわらず、本件売買契約締結に至る過程においては、そのようなことが話題とされることは、全くなかった。

また、大豆生田は、本件売買契約に先立ち、何回も市川市建築指導課を訪問し、本件承諾書を添付書類とすることによって、本件土地における建物建築につき建築確認を得ることができることを確認していた。

原告は、依頼した設計担当者らの意向に従い、大豆生田の説明に従わず、本件承諾書を添付せずに、上西から不足部分を借地して接道幅を確保する図面を添付して建築確認申請を行い、首尾よく、建築確認を得たものであるが、市川市の建築主事は、前記の建築指導課職員の事前指導や右添附図面の内容からみて、本件通路の現況が前記のとおりであることを認識しながら、右建築確認を与えたものと推認される。

原告は、建築確認を得た後に被告らに対し、売買代金及び仲介報酬の残額を支払った。

以上の諸点を総合すると、原告、被告山下ら及び被告三井らとの間では、本件通路の現況が上西土地の一部を含めても二メートルに満たず、建築基準法四三条所定の接道幅の要件を満たしていないことをお互いに了解の上、本件土地上に建物を建築するための建築確認を得るためには、隣地所有者である上西が作成した本件承諾書を添附する方法をとること、それにもかかわらず、所定の日までに建築確認が得られない場合には、原告は本件売買契約を無条件で解除することができることが共通の合意事項とされたものと認めるのが相当であって、それ以上に、被告らが、本件通路の接道幅を物理的に二メートル以上確保する義務を負担することまでが合意されたと認めることはできないものというべきである。前記の説示に照らすと、原告の本件土地購入の動機を考慮に入れても、本件説明書にいう隣地所有者の「承諾」の意味を原告主張のように解することは相当でない。

そうすると、接道幅二メートル確保義務違反を理由として、被告らに債務不履行責任があるとする原告の主張は、その前提を欠くから、採用することができない。

3  なお、原告は、市川市役所建築指導課に最終的に確認したところ、同課からは、たとえ、既に建築確認がされていたとしても、現時点においては、本件土地上に建物を建築することは許されないとの回答を得ているから、本件土地上に建物を建てることは、現実的に不可能であるから、被告らには、本件売買契約ないし本件媒介契約の債務不履行があるとの主張をする。

しかし、平成一〇年四月二三日付で建築確認がされた後、平成一〇年七月の時点において、大豆生田及び原告の各別の照会に対し、同課の担当者が、本件土地の建物建築工事を行うことについて肯定的な回答をしたことは前記認定のとおりであって、現時点において、本件土地上に建物を建築することが不可能になったことを認めるに足りる的確な証拠は存在しない(仮に、原告が主張するように、その後、同課の方針が変更されたとすると、それは、本件売買契約の解消を願う原告の働きかけによるものと推認するほかないから、本件土地の現況について十分認識を有しながら本件売買契約を締結したという前記認定の事実関係のもとにおいては、原告が右のような主張をすることは信義則に照らし許されないものと解するのが相当である。)から、右主張も、その前提を欠く。

4  更に、原告は、たとえ、建築確認がされ、一度は、本件土地上に建物を建築することが可能であっても、その後の改築や再建築ができない恐れがあるし、接道幅の確保につき協力を約した隣地所有者の上西らが、所有土地を第三者に売却した場合には、右の協力義務の拘束力が第三者に承継されない可能性もあるから、原告らとしては、そのような危険を冒してまで、本件土地に建物の建築をすることはできず、この点においても、被告らには債務不履行があると主張する。

しかし、前記認定のとおり、大豆生田は、原告に対し、本件通路は、物理的には、建築基準法四三条所定の要件を満たしていないが、上西の本件承諾書により建築確認を得ることができる旨を繰り返し説明し、原告も、これを理解した上、本件売買契約及び本件媒介契約を締結し、建築確認を得たことを確認した上で、売買代金等を全て決済したものである。そして、原告は、平成一〇年七月の時点の前においては、将来の改築や再度の建替えの際に建築確認が得られない恐れがあることについて、とりたてて問題としていなかったし、本件土地の価格は、本件の接道幅の難点があるために周辺の土地価格に比べて低く設定されていることを認識していたのである。

これらの事実を総合すると、本件売買契約及び媒介契約締結に際して、原告と被告らとの間で、将来の改築や再建築の際に、建築確認が得られない恐れがないことを保証する趣旨が、契約の内容とされていたと認めることは困難というべきである。また、前記の事実関係によると、上西らは本件承諾書に基づく義務の趣旨を上西土地の承継者にも承継させる義務を負担していることは明らかである。

そうすると、この点について被告らに債務不履行があるという原告の主張も失当である。

第四結論

以上の次第で、原告の請求は、理由がないので棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 田中壮太 裁判官 土谷裕子 裁判官 栩木純一は、転補につき署名押印することができない。裁判長裁判官 田中壮太)

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