東京地方裁判所 平成10年(ワ)25507号 判決
原告 大川惠三
原告 大川ウメ
右訴訟代理人弁護士 大貫憲介
同 山口元一
被告 株式会社東山商事
右代表者代表取締役 渡里克己
右訴訟代理人弁護士 下平坦
被告 関鍵
主文
一 被告株式会社東山商事は、原告大川惠三に対し金四二八万円、原告大川ウメに対し金四一二万円及びこれらに対するいずれも平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告関鍵は、原告大川惠三に対し金二二万八六六七円、原告大川ウメに対して金九万八〇〇〇円及びこれらに対するいずれも平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
三 原告らのその余の請求をいずれも棄却する。
四 訴訟費用は二〇分し、その三を原告の負担、その一六を被告株式会社東山商事の負担、その一を被告らの連帯負担とする。
五 この判決の第一項、第二項は、仮に執行することができる。
事実及び理由
第一原告の請求
一 被告株式会社東山商事は、原告大川惠三に対し金五四〇万円、原告大川ウメに対して金四六〇万円及びこれらに対するいずれも平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
二 被告関鍵は、原告大川惠三に対し金七〇万円、原告大川ウメに対し金三〇万円及びこれらに対するいずれも平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。
第二事案の概要
一 本件は、原告らが、原告ら共有の別紙物件目録記載の建物(以下「本件建物」という。)について、被告らが不法に占有し、また、被告株式会社東山商事(以下「被告会社」という。)が、本件建物内にあった原告ら共有の家財等を不法に廃棄したとして、被告会社に対しては、不法廃棄した家財等の損害八〇〇万円と賃料相当損害金(一ヶ月当たり五〇万円の四ケ月分)二〇〇万円について、被告関鍵(以下「被告関」という。)に対しては賃料相当損害金の内金一〇〇万円について、それぞれ原告らの共有持分(本件建物について原告大川惠三(以下「原告惠三」という。)一〇分の七、原告大川ウメ(以下「原告ウメ」という。)一〇分の三、家財等について原告ら各二分の一)に応じた損害の賠償と、これらに対する平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求めた事案である(なお、被告らに対する建物明渡しの請求については、いずれも認諾により終了している。)。
二 争いのない事実等
1 原告らは、本件建物を、原告大川惠三(以下「原告惠三」という。)の持分一〇分の七、原告大川ウメ(以下「原告ウメ」という。)の持分一〇分の三の割合で共有していた(甲第一号証)。
2 被告会社は、少なくとも平成九年四月二八日から、被告関は、同年六月一〇日から、それぞれ本件建物を占有していたが、平成九年九月一七日に明渡断行の仮処分が執行され、債権者の利用を許す執行官保管とされた。
三 争点
1 被告らの占有は権原に基づくものか、及び賃料相当損害金の額。
(被告らの主張)
原告らは、大輝リースこと川口善也(以下「川口」という。)との間で、本件建物についての賃貸借契約を締結し、被告会社は、川口の承認のもとに本件建物に入居したにすぎず、被告関は、被告会社から賃料月額一〇万円で賃借して本件建物に入居したにすぎない。
(原告らの主張)
原告らは、川口との間で賃貸借契約を締結したことはなく、被告らは、競売妨害目的で本件建物に侵入したものであり、原告らが賃貸借契約に基づいて引き渡したこともない。
本件建物の賃料相当損害金の額は月額五〇万円である。
2 被告会社が原告ら所有の家財等を処分したか、また、被告会社にはその処分権限があったか、及び家財等の損害額。
(原告らの主張)
被告会社は、原告ら共有の別紙一覧表記載の家財等を権限なくして廃棄した。右家財等の購入価額は別紙一覧表記載のとおり、合計一〇九七万五〇〇〇円であるから、右廃棄による損害は少なくとも八〇〇万円を下回ることはない。
(被告会社の主張)
被告会社は原告らの家財等を廃棄したことはなく、廃棄していたとしても、原告らは家財等について川口に処分を委ねており、被告会社は川口の承認のもとに廃棄したにすぎない。
第三裁判所の判断
一 甲第一、第六ないし第八号証、原告惠三本人尋問の結果、弁論の全趣旨によれば以下の事実が認められる。
1 原告惠三は、大正一二年生まれで、葬儀関係の贈答品の販売等を目的とする株式会社富士屋(以下「富士屋」という。)の元代表取締役である。同人は、本件建物一階を富士屋の本社事務所として利用していたほか、その二、三階部分を自宅として、妻である原告ウメ及び娘である石本時子夫婦及びその子供とともに住居として使用していた。
2 富士屋は、平成九年三月当時、資金繰りが悪化し、同月一七日にも、当日の手形決済資金を確保するため、「大輝リース」こと川口善也から一〇〇万円の借入をし、その際、原告惠三は、内容の確認をする暇もない状態で多数の書類に自分や原告ウメの署名をし、印鑑証明書も交付していた。
3 富士屋は、同年四月一四日に不渡りを出し、本件建物に債権者が殺到したため、翌一五日には営業を停止して事実上倒産した。この一両日中、原告惠三は、本件建物の本社事務所から出られない状態となっていたが、四月一六日には債権者らが一旦引き上げたため、身の安全のため、家族らとともに本件建物を離れて親戚方に身を寄せていた。
4 同年五月二日、本件建物に不審な人物が入り込んでいるとの近隣住民からの通報があったため、同月一〇日、原告訴訟代理人大貫憲介が本件建物を訪れると、玄関ドアに、原告宅を管理している旨の被告会社名義の張り紙がされ、鍵も取り替えられていた。
その際、本件建物には、被告の当時の代表者である高山節や現代表者渡里克己ら数名の男がいて、原告らの洋服などをゴミ袋に詰めていた。男らは、賃借権により自分たちが管理している旨、今日明日中に全部の物を捨てようと思っていたが、原告らが来れば渡してやる旨話し、また、原告らの長女夫婦が居住していた近くのマンションについても、いずれ被告会社の管理下に入るからとして荷物を持ち出すように指示した。
原告訴訟代理人らが、その帰りに右のマンションを確認した際には格別の異常はなかったのに、翌一一日午前一時過ぎころには、右のマンションの鍵が取り替えられ、立ち入りを禁ずる旨の被告会社名義の張り紙がされていた。
同月二四日、原告らの娘婿石本昭久が、自宅である本件建物に赴き、荷物を確認すると、殆どのものがなくなっており、僅かに、屋上物置にあったアルバム等や一階部分のゴミ袋に入れられていた子供の古服等を持ち出すことができたに過ぎず、その際に、受領書にサインを求められた。高山節は、同月二七日、原告訴訟代理人の電話による問い合わせに対し、石本が書面にサインをしたとして室内のものを全部廃棄した旨の回答をした。
5 本件建物については、平成九年四月二五日付で、原告らを賃貸人、川口を賃借人とする賃貸借契約書が作成され(乙第一号証の一、二)、右契約書によれば、期間三年、賃料月額五万円、敷金二〇〇万円、三年分の賃料の前払とされているほか、賃借権の譲渡転貸や増改築が自由にできることとされている(以下「本件賃貸借」という。)。また、同年六月一〇日付で、被告会社を賃貸人、被告関を賃借人とし、期間三年、賃料月額一〇万円とする賃貸借契約書が作成されている。
6 本件建物については、根抵当権者である中央信用金庫の申立てにより平成九年一二月一〇日に競売開始決定がされ、これを原因として同日付で差押えの登記がされている。
二 争点1について
1 原告惠三本人尋問の結果によれば、原告惠三は、同人及び原告ウメ名義で本件建物に関する賃貸借契約書(前掲乙第一号証の一、二)に署名したことが認められる(甲第七号証の記載のうちこれに反する部分は採用できない)が、前記認定の事実を考慮すれば、右の賃貸借契約書は、手形決済資金の捻出を迫られた原告惠三が、その融資を受けるにあたり、書面の内容を十分に確認することもできないような状況で署名させられたものであると認められるほか、前記認定のとおり、その内容も、期間が三年で、三年分の賃料が前払とされ、賃料が五万円であるのに敷金が二〇〇万円とされたり、更に、賃借権の譲渡転貸が自由に認められるものであるなど、通常の賃貸借としては不自然なものであるうえ、被告会社は、富士屋の倒産直後の平成九年四月二八日には原告らの留守の間に本件建物に入り込んで鍵を取り替え、右の契約書を理由に本件建物の管理を主張していたこと、また、甲第九、第一〇号証によれば、被告会社は、少なくない競落物件を占有したうえ、競落人に対して「素人は手を出すな」などと言って明渡しを難航させていたことが認められ、以上の事実からすると、本件賃貸借は、執行妨害など、本来の賃貸借とは異なる目的に利用するために締結された濫用的なものであり、また、被告会社の占有の開始が本件賃貸借に基づくものということもできないから、被告会社の占有を適法なものということはできず、また、これを前提とする被告関の賃借権も原告らに対しては効力を主張しえないものというべきである。
2 そして、被告らが作成した前記賃貸借契約書によれば、本件建物の賃料は少なくとも月額一〇万円を下回ることはないものと認めることができ(ただし、それ以上の価額であることを認めるに足りる十分な証拠はない。)、被告会社は原告主張の四ケ月の間、被告関は三ケ月と八日の間被告会社と共同して、それぞれ本件建物を占有していたことは争いがないから、原告らの共有持分に応じたこの間の損害は、被告会社に対する四〇万円について、原告惠三が二八万円、原告ウメが一二万円、被告関に対する三二万六六六七円について、原告惠三が二二万八六六七円、原告ウメが九万八〇〇〇円となる(円未満四捨五入)。
三 争点2について
1 甲第五号証及び原告惠三本人尋問の結果によれば、本件建物内には別紙一覧表記載の家財等があり、その購入価額は合計一〇九七万五〇〇〇円であったとされ、右供述等は必ずしも直接的ないし客観的裏付けのあるものとは言い難いものの、前記認定のとおり、原告らは、本件建物を離れるまで、本件建物の二、三階を原告夫婦及びその娘夫婦と子供一人の合計五名の住居として使用しており、そのような家族が通常の家庭生活を営むに必要な家財等があったものと推認できること、また、甲第一六号証によれば、損害保険会社が家財道具の盗難保険等に適用する基準として、世帯主五〇歳以上の世帯で夫婦のほか大人二人、一八歳未満の子供一人の合計五人家族の家財道具について、貴金属等を除き、再調達価格が一八二〇万円、時価にして一四二〇万円程度として評価していることが認められ、前記の原告惠三本人の供述等による原告らの所有した家財の価額が右の金額内であることをも考慮すると、原告らは、少なくとも原告ら主張の八〇〇万円を下回らない時価額の家財等を所有していたものと認めるのが相当である。
2 そして、前記一に認定のような、富士屋倒産後の本件建物の状況及び被告会社関係者の言動に弁論の全趣旨を総合考慮すると、原告らが所有していた家財等については被告会社代表者の指示に基づき被告会社関係者がこれを処分したものと認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
3 もっとも、原告惠三本人尋問の結果によれば、原告惠三は、同人及び原告ウメ名義で、本件賃貸借に付随するものとして、本件建物内に残置する動産類一切を譲渡する旨の記載のある念書(乙第一号証の五、六)に署名したことが認められるが、右の念書の前提とされている本件賃貸借は、前示のとおり、本来の賃貸借を目的としたものではなく、その効力を認めることができないうえ、被告会社の本件建物の占有は、原告らの留守の間にその意思に基づかずに開始されたことは前記認定のとおりであるから、右の書面の存在をもって被告会社がした原告らの家財等の廃棄を正当化することはできないというべきである。
四 以上によれば、原告らの請求は、家財等の廃棄による損害八〇〇万円及び賃料相当損害金(被告会社につき四〇万円、被告関につき三二万六六六七円)についての原告らの共有持分に応じた損害額並びにこれらに対する平成九年九月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があり、その余については理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 齋藤憲次)
物件目録
所在 墨田区向島五丁目二一番地二
家屋番号 二一番二の一二
種類 居宅倉庫
構造 鉄骨造陸屋根三階建
床面積 一階 六三・四五平方メートル
二階 七二・一五平方メートル
三階 七二・一五平方メートル