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東京地方裁判所 平成10年(ワ)26007号 判決 2000年11月06日

原告

小宮山ルミ子

被告

市川圭

ほか二名

主文

一  被告市川圭は、原告に対し、金一五〇六万〇五九七円及びこれに対する平成一〇年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告のその余の請求をいずれも棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用及び被告市川圭に生じた費用をいずれも三分し、その一を被告市川圭の負担とし、その二並びに被告市川孝治及び被告市川ふみ子に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、原告勝訴の部分に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは、原告に対し、各自金四二七一万円及びこれに対する平成一〇年一一月一九日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、河川敷でモトクロスをした一六歳の少年が、モトクロスバイクを運転して河川敷を帰宅する途中、散歩をしていた女性にバイクを衝突させて負傷させた交通事故について、その女性が、モトクロスバイクを運転していた者及びその両親に対し、いずれも民法七〇九条に基づき、損害賠償金の支払を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

次の交通事故(以下「本件事故」という。)が発生した。

(一) 発生日時 平成七年一一月一九日午後六時ころ

(二) 事故現場 東京都世田谷区喜多見二丁目四番先の多摩川河川敷

(三) 加害車両 被告市川圭(以下「被告圭」という。)が運転していた軽二輪車(モトクロスバイク、以下「本件バイク」という。)

(四) 被害者 原告

(五) 事故態様 被告圭は、事故現場において、本件バイクを運転し、犬を連れて散歩していた原告に衝突した。

2  被告らの身上関係

被告市川孝治(以下「被告孝治」という。)及び被告市川ふみ子(以下「被告ふみ子」という。)は、本件事故当時、被告圭の父母であった。

3  既払金

被告らは、原告に対し、二一二万九七八六円を支払った(但し、このうち、損害のてん補となる金額については争いがある。)。

二  争点

1  被告圭の責任原因及び過失相殺

(一) 原告の主張

事故現場は、警視庁の白バイ訓練コースであり、一般の車両の進入は全面的に禁止されている。被告圭は、その場所において本件バイクを無免許及び無灯火で運転し、数台のモトクロスバイクとともに横並びになって走行し、原告に正面から衝突した。

したがって、被告圭には過失があり、他方、原告には、一般車両の進入が全面的に禁止されている場所で、無灯火のバイクが走行してくることは予見できないし、その義務もなかった。したがって、過失相殺は認められない。

(二) 被告らの主張

原告は、立入禁止規制がなされている白バイ訓練コースに立ち入るべきではなかった上、被告圭らがバイク三台で走行し、その走行音は相当に大きかったから、その接近を事前に認識し、危険回避行動を取るべきであった。また、犬を散歩させるときは綱でつなぐなどして犬の行動を制御できるようにして自らも安全に歩行できるようにしておくべきであった。さらに、夕刻の薄暗い時間に散歩するのであるから、懐中電灯を所持したり、明るい衣服を着用したりして、他者から視認しやすいようにすべきであった。

ところが、原告は、それを怠り、暗い衣服を着用して、懐中電灯を所持することなく立入禁止規制がなされている白バイ訓練コースに立ち入った上、犬を離したまま散歩し、犬の動向に気をとられて周囲の安全確認を怠ったため、本件バイクが接近しているのに何らの危険回避行動を取らなかった過失がある。そして、その過失割合は三割を下らない。

2  被告孝治及び被告ふみ子の責任原因

(一) 原告の主張

被告孝治及び被告ふみ子は、未成年である被告圭に対し、モトクロスバイクを運転することを容認したから、被告圭の過失により本件事故が発生した以上、監督義務違反として過失がある。

また、仮に、モトクロスバイクを運転することを容認したことで当然に監督義務違反が認められないとしても、被告孝治及び被告ふみ子は、被告圭が、本件事故当時一六歳の少年であり、被告孝治らと同居していたにもかかわらず、夜間、無免許及び無灯火で自宅からバイクで乗り出して行くのを知りながらこれを黙認し、また、平素からそのような行動を放任していたから、被告孝治及び被告ふみ子には、被告圭の監督義務違反としての過失がある。

したがって、被告孝治及び被告ふみ子は、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

(二) 被告孝治及び被告ふみ子の主張

未成年者であっても、モトクロスを運転することは認められているのであるから、モトクロスを全面的に禁止しなければならない注意義務はなく、これを容認していたからといって直ちに被告孝治及び被告ふみ子の注意義務違反は認められない。

また、被告圭は、夜間自宅から、無免許及び無灯火で自宅からバイクで乗り出して行くことはこれまでになかったし、本件事故当日もそのようなことはなかった。したがって、被告孝治及び被告ふみ子がそうした行動を放任したことはありえず、この点でも注意義務違反は認められない。

その他、原告は、被告孝治及び被告ふみ子の注意義務違反の内容を具体的に特定できていないから、被告孝治及び被告ふみ子は、原告に生じた損害を賠償する責任を負わない。

3  原告の損害(当事者の主張は、後記の判断中に記載したとおりである。)

第三争点に対する判断

一  被告圭の責任原因及び原告の過失相殺(争点1)

1  本件事故の態様

(一) 争いのない事実及び証拠(甲三、八、九、一五、乙六、原告本人[一部]、被告圭本人)によれば、次の事実が認められる。

(1) 事故現場は、多摩川の北沿いに狛江方面(西方向)と多摩堤通り方面(東方向)の東西に拡がる河川敷であり、警視庁白バイ訓練所の練習コース(以下「本件白バイ練習コース」という。)でもある。この練習コースのうち、最も南の多摩川に接する部分は短い雑草が密生しており、その北に幅員四・三メートルのアスファルト舖装部分(以下「本件舖装部分」という。)が存在する。さらに、その北側には幅員七・七メートルにわたって短い雑草が密生しており、その北側は幅員一二・二メートルのアスファルト舖装部分となっていて、見通しを妨げるものはない。事故現場から数百メートル多摩堤通り方面寄りには、南北に東名高速道路が走っており、これよりもさらに東方向の多摩川下流にモトクロスの愛好者が練習をしている場所(以下「本件モトクロス練習場所」という。)がある。

本件白バイ練習コースは、立入り禁止規制がなされているが、昼間は、スポーツ、ラジコン遊び、犬の散歩、自転車の練習などをする者がおり、バイクが進入することもあった。

(2) 被告圭は、二輪車の運転免許を有していなかったが、平成七年一一月一九日にモトクロス練習場所においてモトクロスの練習をした後、友人二人が運転するバイクとともに、本件バイクを運転して帰宅することにした。被告圭らは、早く帰宅するため、多摩川の河川敷を通行し、同日午後六時ころ、本件白バイ練習コースにさしかかった。付近はすでに暗くなっており、東名高速道路等の灯りがある程度であった。他方、原告は、三匹の犬を連れて本件白バイ練習コースを散歩させており、このうちの一匹については紐をはずしていた。原告は、上下黒の衣服を着用しており、懐中電灯を所持していなかった。

被告圭は、友人らの中で先頭で走行し、本件舗装部分に入った。本件バイクは、競技用のモトクロスバイクで計器類もライトも装備していなかったので、本件舗装部分の端に存在する白線を頼りに時速四〇キロメートルほどで走行した。そして、右前方から吠えて近寄ってくる犬を発見するや否や、前方に現れた原告に本件バイクを衝突させた。

(二) この認定事実に対し、原告は、本人尋問において、概ね次のとおり供述する。

本件バイクよりも先に、ライトを点灯させた四、五台のバイクが広がって走行してきて原告の左右を通過して行った。犬の紐は持っており、犬は、バイクの音に関心を示さずに草の勾いを夢中で嗅いでいた。通過したバイク以外の音を認識したことはなく、シルエットらしきものを見たのが最後で、その後は病院で気がついた。

しかし、原告は、他方で、犬の紐は、一匹について離していたと供述している上(原告本人調書三頁)、原告の供述内容によれば、夜間、数台のバイクが接近してきているのに、待避行動などの対応をまったく考えることなく、草の勾いを嗅ぐ犬の紐を持ったままそこに佇立していたことになるが、これは不自然であり直ちには採用できない。

2  被告圭の責任原因及び原告の過失相殺

被告圭は、運転免許を有して前方を注視して運転する注意義務があるのに、これを怠り、運転免許を有さず、夜間にライトの装備されていない本件バイクを運転した上、立入り禁止区域である本件白バイ練習コースに進入し、路面の白線を見て走行し、かつ、吠えた犬に気をとられたことなどから原告の発見が遅れ、本件事故を発生させた重大な過失がある。

したがって、被告圭は、民法七〇九条に基づき、原告に生じた損害を賠償する責任がある。

しかしながら、原告も、立入り禁止区域である本件白バイ練習コースに進入し、本件バイクが接近してくることは、走行音や他のバイクのライトなどで十分認識することができたと思われるのに、離していた犬に気をとられたのか、幅員の広い河川敷であるにもかかわらず、本件バイクが走行してくる直前に、その進路上に出たのであるから、夜間、立入り禁止区域内で散歩をした点や、接近してくるバイクに対する対応について過失がなかったとはいえない。

なお、被告らは、原告が懐中電灯を所持していなかったとか、明るい服を着用していなかったことをもって、原告にも過失があった旨の主張をするが、本件白バイ練習コースは、立入禁止区域であったのであるから、昼間、人やバイクがいるとしても、夜間にバイクが通行することなどを想定して懐中電灯や明るい服で存在を認識できるようにする注意義務まではないというべきであるから、これをもって過失相殺をするのは相当でない。

これらの過失の内容と、本件事故の発生状況、事故現場の状況などの事情を総合すると、原告の過失割合は一五パーセントとするのが相当である。

二  被告孝治及び被告ふみ子の責任原因(争点2)

証拠(乙六、七、被告圭本人、被告孝治本人)によれば、被告孝治らは、当初、被告圭がモトクロスを行うことに反対をしていたが、被告圭や一緒にモトクロスをする予定の社会人らから話を聞いた上、絶対に一般道では乗らないこと、ガソリン代やヘルメットなどの費用は小遣いでまかなうことなどを条件に、モトクロスを行うことを許可したこと、被告孝治は、モトクロスを趣味としている同僚からも話を聞くなどし、次第にこれに対する偏見や不安は解消されていったことが認められる。

ところで、両親には、未成年の子にモトクロスバイクを運転させていけない注意義務があるわけではないから、右のとおり、絶対に一般道では乗らないことなどを条件にモトクロスを行うことを許可している以上、当時未成年であった被告圭にモトクロスバイクを運転させた一事をもって、被告孝治及び被告ふみ子に注意義務違反を認めることはできない。

また、被告圭は、昭和五四年一月二七日生まれで本件事故当時一六歳であり、その当時、両親の被告孝治及び被告ふみ子と同居していたが(乙六、七、被告圭本人、被告孝治本人)、被告圭が、平素から、夜間に無灯火及び無免許でバイクで乗り出して行くとか、本件事故当日、無灯火及び無免許で自宅からバイクで乗り出して行ったと認めるに足りる証拠はなく、したがって、被告孝治及び被告ふみ子がこれを黙認したと認めるにも足りない。

その他、原告は、親の過失についての立証責任が被害者にあるというのは過去のもので、少なくとも現在では認められず、事故が発生すれば、それが不可抗力であったり、被害者側に過失があったりしたのでない限り、監督義務者である親の過失も当然に認められなければならないなどと主張し、右以上に具体的な主張をしない。

したがって、被告孝治及び被告ふみ子は、民法七〇九条に基づく賠償責任を負わない。

三  原告の損害額(争点3)

1  治療費(原告主張額〇円) 一〇四万四九三〇円

原告は、本件事故により、左視束管骨折、左上腕骨開放骨折等の傷害を負い、秀島病院、原田眼科、東京医科大学病院、相馬歯科医院に入通院し、治療費(自己負担分)として、一〇四万四九三〇円を負担した(甲四、五、乙一、弁論の全趣旨)。

原告は、治療費の請求をしていないが、過失相殺をする関係上、損害総額を明らかにする必要があるので、ここに掲げる(原告が請求していない損害費目に関しては、以下同じである。)。

2  交通費(原告主張額〇円) 一一万五九九〇円

原告が負担した交通費のうち、八万五九九〇円については被告らもこれを認めている。そのほかに、原告は、母が山梨県甲府市から何度も訪問に来た際の交通費一七万九一七〇円を負担しているようである(乙一。乙三によると七回分で八万六三一〇円であるから、合計十数回分であると推測できる。)。

たしかに、原告の負傷内容に照らせば、原告の母が見舞いや身辺の世話のために甲府市から訪問することは、ある程度必要なことであるが、十数回も東京と甲府を往復しなければならないと認めるに足りる証拠はない。したがって、公共交通機関を利用する程度として一回あたり往復一万円とし、三回分として三万円の限度で相当因果関係を認める。

したがって、交通費としては、合計一一万五九九〇円となる。

3  入院雑費(原告主張額六万〇〇〇〇円) 六万〇〇〇〇円

原告は、平成七年一一月から同年一二月にかけてと、平成八年八月に合計五三日間の入院治療を受けた(甲四、五、乙二)。

この入院期間からすると、入院雑費としては一日あたり一三〇〇円とするのが相当であるから、少なくとも、原告が主張する六万円を認めることができる。

4  休業損害(原告主張額三六〇万〇〇〇〇円) 二五八万三〇一三円

原告は、家事労働は年間三六〇万円と評価することができ、一年間(いつからいつまでかは明らかでないが、事故発生日から一年間の趣旨であると理解できる。)はまったく家事を行うことができなかったと主張する。

証拠(甲四、五、一〇、原告本人)によれば、原告は、本件事故当時、夫と二人で生活していた主婦であり、平成七年一二月二五日に東京医科大学病院整形外科を退院し、この時点では、まだ左腕にギブスをはめていたこと、その後、平成八年一月初めの診察でギブスをはずし、同年二月末からクラシックバレエに、同年三月にはエアロビクスにそれぞれ復帰し、同月から筋力トレーニングを始めてリハビリを継続したこと、同年八月六日からは再入院して抜釘手術を受け、同月中に退院したこと、原告は、平成七年一二月二五日に退院した後、平成八年一一月一二日までに実日数にして一二日間東京医科大学病院整形外科に通院したこと、その間、同病院眼科にも何日かは通院したことが認められる。

この認定事実によれば、原告が主張する事故発生日から一年間(三六六日)のうち、原告は、本件事故発生日である平成七年一一月一九日から平成八年一月末日までの七四日間と、再び入院した同年八月六日から退院後の同月三一日までの二六日間の合計一〇〇日間は一〇〇パーセント、その余の二六六日間は平均して七〇パーセントの限度で労働能力の制限を受けたと認められ、それ以上の制限を受けたとは認めるに足りない。

これに対し、被告らは、休業の必要性があったのはせいぜい八か月にとどまると主張するが、右に照らして採用できない。

そして、原告の主婦としての家事労働は、平成七年賃金センサス第一巻第一表の企業規模計・女子労働者学歴計の平均賃金である年間三二九万四二〇〇円(当裁判所に顕著な事実)と評価するのが相当であるから、これらを前提に原告の休業損害を算定すると、二五八万三〇一三円(一円未満切り捨て。以下同じ)となる。

(計算式)

3,294,200×(100+266×0.7)/365=2,583,013

5  逸失利益(原告主張額二六八四万〇〇〇〇円) 七九二万〇〇四八円

(一) 後遺障害の程度について

(1) 原告の主張

原告には、後遺障害として、左目の視力低下、額部の骨性陥凹、上腕部の醜状痕がそれぞれ残存し、これらは、自賠法施行令二条別表を前提にした場合、それぞれ順に八・五級、一〇級、一四級に相当し、併合七級の程度と評価すべきであると主張する。

(2) 認定事実

証拠(甲四、五、原告本人)及び弁論の全趣旨によれば、原告(昭和二五年三月八日生)は、左視束管骨折により左視神経萎縮が認められ、右の裸眼視力が一・五であるのに対し、左は裸眼視力及び矯正視力のいずれにおいても〇・〇四となり、視野に暗点が生じる状態で平成一〇年七月七日ころに症状が固定したこと(甲第四号証によれば、事故発生日が症状固定日とされており、明らかな記載ミスと思われるが、遅くとも、この作成日である平成一〇年七月七日ころには症状が固定したものと推認できる。)、この視力低下により、包丁が早く使えないとか、目が疲れやすいなどの不便があること、また、左視束管骨折の手術により、左額部付近に骨性陥凹が残存したこと、さらに、左上腕部に、長さ一・五センチメートル×幅〇・七センチメートルの軽度膨隆、長さ八センチメートル、二・五センチメートル、三センチメートルのいずれも平坦な線状痕が残存したこと、原告の夫は、平成九年三月九日に死亡し、原告は、同年四月から原告の夫が代表取締役であった家田ラボシステム株式会社の取締役に就任し、年間五〇〇万円の役員報酬を得ていたこと、家田ラボシステム株式会社は、平成一〇年一二月一〇日、同一グループの家田化学株式会社に合併され、原告は、それ以降、この会社の二年契約の参事として年間四八〇万円の収入を得ていること、勤務内容は、銀行振込をしたり、請求書のチェックをすることなどであるが、タイムカードは免除され、毎日勤務しているわけではないことが認められる。

(3) 後遺障害の評価

右の認定事実によれば、左目の事故前の視力は明らかでないが、右目の視力が一・五であることに加え、本件事故前に両眼の視力に大きな差異が存在して矯正をしていたなどの事情は認められないことからすると、右目の視力とそれほど大きな差異はない程度であったと推認できる(その意味で、一・〇前後はあったとの原告の陳述書[甲一〇]の内容は概ね信用できる)。したがって、左目の視力低下は、本件事故による後遺障害と認められ、この視力は矯正ができず、かつ、それが〇・〇六を下回っていることに照らすと、原告の視野の暗点の程度が不明であるにしても、原告のこの後遺障害は、自賠法施行令二条別表(以下「等級表」という。)の後遺障害等級第九級二号に該当するというべきである。

他方、骨性陥凹は、醜状痕というほどのものとはいえず、左上腕部の醜状痕は、いずれも線状痕で、ひとつは軽度の膨隆があるが、それ以外は、いずれも平坦な傷痕であるから、いずれも等級表に該当するほどのものとまではいえない。

(二) 労働能力喪失率について

原告は、五六パーセントの労働能力を失ったと主張する。

ところで、右の(一)(2)で認定した事実によれば、原告は、本件事故に遭わなかったとしても、原告の夫の死亡により、平成九年四月以降は家田ラボシステム株式会社及び家田化学株式会社に勤務し、前者では年間五〇〇万円、後者では年間四八〇万円の収入を得ることができたものと推認でき、それ以上の収入を得ることができたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、当面は後遺障害に基づく減収は存在しないといえる。しかし、右の(一)(2)で認定した労働実態は、本件事故に遭わなかったとした場合に可能であると推測される労働内容と比較すれば、低下しているというべきであって、それにもかかわらず、実質的には労務の対価以上の報酬が支給されているのは、原告が勤務することになった経過に照らすと、原告の夫の家田ラボシステム株式会社での地位を考慮し、寡婦である原告への生活保証の趣旨も含まれているものと評価できる。そして、参事の契約期間を考慮すれば、それがいつまで更新されるかは明らかでなく、退職した際には、再就職を含めた就労に制約があることが当然に予想できる。

このような事情と、後遺障害の程度を総合すると、現時点において、収入の減少が見られないことを考慮しても、原告には、二〇パーセントの労働能力の喪失を認めるのが相当である。

これに対し、被告らは、原告は、賃金センサスによる平均賃金の約一・五倍もの所得を得ているのであるから、逸失利益は認められないと主張するが、右に照らして採用できない。

(三) 逸失利益の算定について

原告は、本件事故に遭わなければ、六七歳までは対価を得ることができる労働をすることができたと認めるのが相当であり、本件事故当時の家事労働の評価額に加え、症状固定時の役員報酬額(但し、就労の経過に照らすと、その全額を労務の対価と評価することはできない。)を考慮すると、原告は、少なくとも、症状固定時である四八歳から六〇歳までの一二年間は、平成一〇年賃金センサス第一巻第一表の企業規模計・女子労働者学歴計の平均賃金である年間三四一万七九〇〇円(当裁判所に顕著な事実)の収入を、六一歳から六七歳までの七年間は、右と同様の賃金センサスの女子労働者六〇歳から六四歳の平均賃金である年間二八八万八四〇〇円(当裁判所に顕著な事実)の収入をそれぞれ得ることができたと認めるのが相当である。したがって、ライプニッツ方式仁より年五分の割合による中間利息を控除し(一二年間の係数は八・八六三二であり、その後の七年間の係数は、一九年の係数である一二・〇八五三から一二年の係数を差し引いた三・二二二一である。)、原告の逸失利益を算定すると、七九二万〇〇四八円となる。

(計算式)

3,417,900×0.2×8.8632+2,888,400×0.2×3.2221=7,920,048

6  その他の諸費用

(一) ペットホテル代等(原告主張額〇円) 認められない

原告は、平成七年一一月二〇日から同年一二月三〇日までと平成八年八月に、飼っていた犬及び猫をペットショップに預け、そのホテル代等として、六九万一九〇〇円を負担した(乙一、三)。

しかし、その中には、本件事故といかなる関係にあるか不明であるトリミング代金や治療費も含まれており(乙一、四、五)、また、夫と同居していた原告が、それでも、飼犬らをペット用のホテルに預けざるを得なかった事情は、本件全証拠によっても明らかでない。

したがって、ペットホテル代等については、本件事故と相当因果関係を認めるに足りない。

(二) かつら代(原告主張額〇円) 認められない

原告は、手術の際に髪の毛を剃毛したため、平成七年一二月の入院中にかつらを購入し、その代金として一五万七七九六円を負担した(甲一〇、乙一)。

原告がかつらを購入した心情は理解できないではないが、被害者といえども損害を拡大させない注意義務はあるのであって、自宅にいるときは、髪が短くても特に問題はなく、外出の際には帽子等により隠すことも可能であるから、髪がある程度の長さまで伸びる間のために一五万円以上ものかつらを購入するのは、本件事故と相当因果関係がないというべきである。

7  慰謝料(原告主張額一二二一万円) 八五〇万〇〇〇〇円

本件事故の態様、原告の負傷内容、入通院の経過、後遺障害の内容及び程度(等級表に該当するとまではいえないものも含む)等の一切の事情を総合すれば、慰謝料としては、八五〇万円(傷害分一五〇万円、後遺障害分七〇〇万円)を相当と認める。

8  過失相殺及び損害のてん補

1ないし5、7の損害総額二〇二二万三九八一円から、原告の過失割合である一五パーセントに相当する金額を控除すると、一七一九万〇三八三円となる。

この金額から、被告らが、原告に対して支払った二一二万九七八六円を差し引くと、一五〇六万〇五九七円となる。

第四結論

以上によれば、原告の被告圭に対する請求は、不法行為に基づく損害金として一五〇六万〇五九七円と、これに対する不法行為の日以降の日である平成一〇年一一月一九日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を求める限度で理由があり、被告孝治及び被告ふみ子に対する請求は、いずれも理由がない。

(裁判官 山崎秀尚)

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