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東京地方裁判所 平成10年(ワ)26998号 判決

原告 五洋建設株式会社

右代表者代表取締役 水野廉平

右訴訟代理人弁護士 小島将利

同 浦田数利

同 伊関正孝

右訴訟復代理人弁護士 塩澤彰也

被告 ダイア建設株式会社

右代表者代表取締役 下津寛徳

右訴訟代理人弁護士 片山英二

同 林康司

同 服部誠

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一請求

被告は原告に対し、一八億六九八〇万円及びこれに対する平成一〇年一一月二七日から支払済みまで年六分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、原告が、被告及び三和開発工業株式会社との間で分譲マンション建設事業に関する協定書を作成し、これに基づいて三和開発工業株式会社の金融機関からの借入債務を保証したところ、被告の事業継続拒否によって、右保証の履行を余儀なくされたとして、被告に対し、債務不履行に基づく損害賠償を求める事案である。

一  争いのない事実等(認定事実には証拠を掲示する。)

1  当事者等

原告は、土木・建設の請負等を業とする株式会社であり、被告は宅地建物取引等を業とする株式会社である。また、三和開発工業株式会社(以下「三和開発」という。)はマンションの建設・販売等を業とする株式会社である。

2  協定書作成に至る経緯

平成二年ころ、三和開発は被告に対し、三和開発が広島県廿日市市城内地区にある土地を買収し、建設会社に特命発注をする代わりに、建設会社が右買収に伴う三和開発の金融機関からの借入債務について連帯保証をした上で、右土地上に仮称「ダイアパレス廿日市マンション」なる分譲マンション(以下「本件マンション」という。)を建設して完成させ、被告が本件マンションと右土地(以下、両者をあわせて「本件物件」という。)とをまとめて三和開発から買い取るという内容の事業(以下「本件事業」という。)を持ちかけ、本件マンションの建設を担当する業者として、原告の紹介を求めた。被告は、右土地の立地条件が良好であったことから、本件事業への参画に興味を示し、原告に対し、三和開発が原告と共同して本件事業を推進したいと申し出ている旨伝えた。被告から本件事業の話を聞いた原告は、直ちに検討した結果、本件事業に参画することを決定し、その旨被告に伝えた。

そして、同年四月二四日、原告、被告、三和開発の三者は、本件事業に関して協定書(以下「本件協定書」という。甲一)を作成し、これに記名押印した。

右協定書の一条には、三和開発が、本件事業の事業主となり、原告が本件事業にかかる工事を施工し、三和開発は被告に完成した土地付き建物を売却する旨が、三条には、三和開発が金融機関から借り受ける融資額は、一七億円を限度とし、これにつき原告が連帯保証する旨及び三和開発と被告との間の売買契約締結については、平成三年一一月末日を目途とする旨が、五条には、被告が、本件物件を三和開発から一七億五〇〇〇万円を限度として買い取ることを確約し、万一契約時点において原価の修正が生じた場合には、国土利用計画法(以下「国土法」という。)上の不勧告価格の範囲内の金額でこれを買い取るものとする旨が、六条には、本件事業の設計・監理については、三和開発から業務委託を受けたひろしま建築事務所が被告の指示に従って行うものとする旨が、九条には、業務遂行における各論については、それぞれ相手方の立場を十二分に尊重し、信義誠実の原則に基づいて本件事業を円滑に遂行するものとする旨が、それぞれ記載されている。(甲一、一一ないし一三、乙六、証人田中健三、同濱根睦巳)

3  本件協定書の変更

三和開発は、別紙図面<1>記載の土地の買収を進めたが、当時の市場状況から土地の価格が高騰したため、当初予定の買収が困難となった。そこで、話合いの結果、平成三年一一月二八日付け合意書(以下「第一合意書」という。甲二)が原告、被告及び三和開発の三者間で作成され、それぞれが記名押印した。

右合意書においては、一項で、本件事業の対象となる土地の範囲を別紙図面<2>記載のとおりに拡大することが確認され、五項で、被告と三和開発は本件協定書で取り決められた売買契約締結期限を都合により平成五年一一月末日まで延伸することを原告に要請し、原告はこれを承諾し、七項で、被告は、右延伸に伴って発生する利息等を考慮して国土法上の不勧告価格の範囲内の金額で本件物件を買い取ることを確認し、九項で、平成五年一一月末日までの間は、各当事者が協議の上この合意を解除して他に転用ができることを確認し、一〇項で、五項による延伸に伴う配慮として、被告が原告に対し、別途建築工事を適正単価で発注することが、それぞれ記載されている。(甲二、一一ないし一三、乙六、証人田中健三、同濱根睦巳)

4  第一合意書作成後の経過等

その後、事業の進展に応じて土地の買取原価や融資枠の変更の必要を生じたため、原告と三和開発は、協議の上、本件事業の対象となる土地を別紙図面<3>記載のとおりに変更し、土地の買取価格や融資額についても増額することを合意した上で、平成五年二月二六日付け合意書(甲三)を作成して、それぞれ記名押印したが、被告は右合意書に対する記名押印を拒否した。

そこで、同年一〇月二二日付けで、三和開発及び原告は、第一合意書に基づき、本件事業の対象となる土地の買取りを求める内容証明郵便を被告に送付して、土地の買取りの確約を求めたが、被告はこれに応じなかった。また、このころ、三和開発と被告は、本件事業の対象となる土地の一部のみを被告に転売し、残りの土地については他の業者に転売することを検討したが、結局のところ、この話も立ち消えになった。

そして、被告は、平成六年三月一八日、三和開発との間で、別紙図面<4>記載の土地について、承諾書(以下「本件承諾書」という。甲五)を取り交わした。この承諾書には、三和開発と被告とで協議をした上で売買代金、支払方法、支払時期を決定すること、右土地についての売買契約の締結は、用途地域が変更されて、三〇〇パーセントの容積率が充足され、建築確認が得られることを条件とすること、本件承諾書は、将来締結される予定の売買契約の交渉を円滑なものにするために発行するものであることなどが記載されている。なお、同日付けで、被告と三和開発との間で合意書(以下「第二合意書」という。乙二)が作成されているが、その内容は、被告によるマンション分譲事業の採算がとれることを売買契約締結の条件として付加するほかは、本件承諾書の内容と同一である。なお、右用途地域については、平成四年六月の都市計画法及び建築基準法の一部を改正する法律により、施行後三年以内に都市計画決定を行い、見直される予定となっていたが、本件承諾書及び第二合意書について原告が特に異論を唱えるということはなかった。(甲三ないし五、一一、一三、一四、乙一、二、六、証人田中健三、同濱根睦巳、弁論の全趣旨)

5  本件事業の終了

ところが、三和開発は、その後、被告に対し、本件協定書を合意解除すること、第一合意書による延伸に伴う利息等の額を三億円とし、被告がこれを三和開発に支払うこと、国土法上の不勧告通知を受けることと土地の容積率が前記のとおりに変更されることを条件として、被告が三二億円で買い受けること、被告が、三和開発に対し、無利息で七億円を融資し、後にこれを売買代金に充当することなどが記載された協定合意書案を示し、これに同意することを求めた。これに対して被告は、右協定合意書案の内容が国土法に違反しており、被告によるマンション分譲事業についての採算がとれることを条件とした第二合意書にも反していると判断し、平成六年九月一六日付け内容証明郵便で、三和開発に対し、右協定合意書案に同意することはできない旨回答した。

こうして、本件事業はとん挫することとなり、三和開発は、住銀ファイナンス株式会社(以下「住銀ファイナンス」という。)から借り受けた地上げ資金三〇億六九八〇万円を返済できなかったため、平成七年六月一四日、原告が住銀ファイナンスに対して同額を代位弁済した。そして、原告は、右同日、本件事業の対象となる土地の一部である別紙図面<5>記載の土地を、三和開発に対する求償債権の弁済の一部に代えて取得した。(甲六ないし八、乙三ないし六、証人濱根睦巳)

三  争点

1  被告は、本件協定書に基づいて、三和開発に対し、建築予定建物の設計及び建築確認申請の内容等について指示し、本件物件を三和開発から買い取るべき義務(以下「本件買取義務」という。)を負うか。

(原告の主張)

本件事業は、いわゆる地上げ等先行投資の極めて多い事業であり、被告による本件物件の買取りが確実でない限り進行が不可能である。原告、被告及び三和開発は、この点を十分認識し、被告が本件物件を買い取ることを前提として本件協定書を作成したのであって、被告は、本件協定書に基づいて本件買取義務を負うというべきである。なお、売買の対象となる本件物件は、建物については分譲マンション計画概要(甲一〇)によって、土地については多少の変動はあるものの大枠については本件協定書において特定された土地と同一であるから、それぞれ特定されているということができる。また、本件協定書が作成された後に第一合意書等が作成されているが、被告が右土地建物を三和開発から買い取ることに合意しているという本件事業の本質的部分を変化させるものではない。そして、被告は本件買取義務に違反して、原告に損害を与えたものである。

(被告の主張)

被告は、原告と三和開発とが本件マンションを完成させた後に本件物件をまとめて買い取ることを検討し、三和開発と本件物件を買い受けることについて協議する義務を負うという限度で、本件事業に関与しているにすぎない。このことは、本件協定書において、建物の売買代金は何ら触れられておらず、土地についても価格の上限のみが定められ、具体的な価格決定については協議が必要とされていることからも明らかである。そして、第一合意書は、本件協定書の合意を再確認し、具体的な条件について変更を加えただけのものであって、本件協定書の本来的性質を変化させるものではなく、かつ、本件マンションは、その着工すら行われていないから、被告の本件買取義務は、本件事業を通じ、いかなる時点においても発生していないというべきである。

2  被告は、信義則上、本件買取義務を負うか。

(原告の主張)

本件事業は、原告、三和開発及び被告の三社が一体となって推進することを大前提としており、本件協定書にも三社が信義誠実の原則に従って本件事業を円滑に遂行すべきことが定められていて、被告は本件事業に主体的な立場でかかわっているのであるから、被告は、信義則上本件買取義務を負うというべきである。

(被告の主張)

被告は、原告と三和開発とで本件マンションを完成させた後に本件物件をまとめて買い取ることを検討し、三和開発と本件物件を買い取ることについて協議する義務を負うという限度で、本件事業に関与しているにすぎないから、信義則によっても、本件買取義務を負うということはない。

第三当裁判所の判断

一  まず、争点1について判断する。

1  原告は、本件協定書に基づいて被告には本件買取義務がある旨主張し、これに沿う田中健三、三浦達彦及び藤井尚彦の各陳述(甲一一ないし一三)及び証人田中健三の供述がある。

2  しかしながら、前記争いのない事実等によれば、本件協定書五条では、被告が本件物件を買い取ることを確約する旨が定められているものの、同書一条では「完成した土地付き建物」が被告に売却される旨記載されており、本件協定書作成時においては、建物自体が存在しないことはもちろん、予定される建物の具体的な建築概要・価格等についても何ら確定していない上、本件事業の対象となる土地についても買取金額の上限が定められているだけであるし、本件協定書記載の土地の範囲はその後数回にわたって変更されているのである。また、本件協定書の本質的部分に変更を加えるものでない第一合意書七項においても、被告が三和開発から本件物件を買い取ることを確認する旨が定められているものの、別途協議が予定されており、売買の対象となる土地及び建物が特定されているとはいい難い。

なお、この点に関して、原告は、建築予定の分譲マンションについては、分譲マンション計画概要(甲一〇)において内容が具体的に明らかであり、売買の対象としても特定されている旨主張するが、土地の買取代金の点で右計画概要と本件協定書との間には大きな隔たりがあることや右計画概要においては実質利益率が極めて低く設定されていること(証人濱根睦巳)にかんがみれば、右計画概要は単なる計画案ないしは青写真にすぎず、これによって本件マンションが売買対象として特定されていたとは到底いえない。

3  さらに、前記争いのない事実等によれば、第一合意書作成後、被告と三和開発との間で、本件事業の対象となる土地の一部のみを売買の対象とすることが検討されたこと、その後被告と三和開発は、将来締結される予定の売買契約の交渉を円滑なものにするために作成した本件承諾書においても、売買代金、支払方法、支払時期については別途協議とされていたのである。

4  しかも、証人濱根睦巳によれば、本件事業が企画された平成二年当時は、建設業者が不動産の地上げ・開発案件に積極的に参画する状況にあったこと、このような事業においては、分譲業者は、地上げが完了し、建物が完成した段階でこれらを買い取ることが通常であって、開発リスクを負うことはないのに対し、地上げ業者及び建設業者が負う開発リスクは大きいが、成功した場合に得る利益もまた巨額であること、このような場合には、地上げ業者と分譲業者との間の売買契約が成立する以前でも、売買の基本的条件の概略についての合意に達した段階で、未調整の条件については更に交渉を継続した上で正式に売買契約を締結するという趣旨で、分譲業者が地上げ業者や建築業者に対して、買付証明的な書類を交付することが一般的によく行われていたことが認められるところ、本件においても前記争いのない事実及び証拠(甲一、二、七)によれば、原告は三和開発から本件事業に関する工事を受注することが予定されている上、原告は三和開発に対する求償債権を保全するために本件事業の対象となる土地に抵当権を設定したり、停止条件付代物弁済契約を締結したことが認められるのである。

5  以上の各事実を総合すれば、本件事業の基本的な枠組みは、原告及び三和開発が本件事業を推進して開発リスクを負担し、被告は、本件マンションの完成後に本件物件を買い取る交渉を他の業者より優先的に行う限度で関与するということであり、その結果、本件協定書においては、売買契約の本質的要素たる目的物や代金額について、何ら具体的に確定せず、むしろ、本件協定書の段階では本件物件の売買契約を締結するにつき未調整の条件を多分に残しており、本件協定書作成後に被告と三和開発との間で売買契約の細目についての交渉・協議を重ね、その上で正式な売買契約の締結に至ることが予定されていたというべきである。

そうすると、本件協定書に基づいて被告が負っている義務は、原告と三和開発との間で本件マンションを完成させた後に本件物件をまとめて買い取ることを検討し、三和開発と本件物件を買い受けることについて協議するというものであるにすぎないのであって、右認定に反する前記陳述及び供述はいずれも採用できず、他に被告が本件買取義務を負うことを認めるに足る証拠はない。

したがって、争点1に関する原告の主張は理由がない。

二  次に、争点2について判断する。

原告は、信義則上、被告が本件買取義務を負うと主張する。しかしながら、既に判示したとおり、被告は、三和開発と原告の手で本件物件を完全な形に仕上げてから、三和開発との間で本件物件の売買に関する協議を行う立場にあるにすぎないのであるから、信義則によっても、被告が本件買取義務を負担すると解することは困難であるといわざるを得ず、他に被告が信義則上、本件買取義務を負担することを認めるに足る的確な証拠はない。

したがって、信義則を根拠に、被告が本件買取義務を負担するという原告の主張は理由がない。

三  そうすると、その余について判断するまでもなく、原告の請求には理由がないからこれを棄却することとし、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 都築弘 裁判官 土田昭彦 裁判官 福渡裕貴)

別紙<省略>

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